説明

水性エマルジョン

【課題】 固形分濃度が高濃度であるにも関わらず低粘度であり、沈降安定性のみならず機械的安定性、耐皮張り性に優れる水性エマルジョンを提供すること。
【解決手段】 エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体(A)を分散質とし、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有する、重合度300以上、けん化度が70モル%以上であるPVA(B)を分散剤とし、重量比(B)/(A)が1/100〜3/100である固形分濃度が55重量%以上、エマルジョン粘度が2000mPa・s以下、かつ平均粒子径が1〜2μmである水性エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形分濃度が高濃度であるにも関わらず低粘度であり、沈降安定性に優れ、機械的安定性、耐皮張り性に優れる水性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニルアルコール系重合体(PVA)を分散剤とする水性エマルジョンは、接着剤,塗料など多様な用途に使用されている。これらの水性エマルジョンは、PVAを分散剤とすることで、安定性が極めてよく、無機物との混和性に優れ、高粘度となり得るなどの性質を備えていることから、賞用されるに至ったものである。
通常、PVAを分散剤とする水性エマルジョンでは、各種界面活性剤(乳化剤)を用いたエマルジョンに比べて固形分濃度が低いことは良く知られているところである。これは別の観点から言えば低固形分濃度でありながらエマルジョン粘度が高いことを意味しており、PVAを分散剤とした水性エマルジョンの特徴の一つとされてきた点である。
これら水性エマルジョンを接着剤などに用いる場合などにおいては、当然のことながら水性エマルジョン中に含まれる水の蒸発などによる除去が接着剤処理でのセッティングスピードに影響を与え、水性エマルジョン中の水分が少ないこと、すなわち固形分濃度が高いことが、セッティングスピードの向上という点において極めて重要なこととなる。接着剤以外の用途においても水性エマルジョン中の水分を出来るだけ少なくすることは最終製品の製造工程における省エネルギー化の必要性が高まっている昨今にあってますます重要な課題となっており、これに応える意味においてもエマルジョンの高固形分濃度化に関する技術開発が待たれるところである。
しかしながら、通常、PVAを分散剤とした場合においては、水性エマルジョンの固形分濃度を高めようと種々努力してみてもエマルジョンの粘度が高くなり過ぎる為、固形分濃度40〜50%程度のものしか得られない。
また、PVAの重合度を20〜300の低重合度とすることで、高固形分濃度のエマルジョンを得る方法(特許文献1)もあるが、この方法は重合中の安定性および、水性エマルジョンを乾燥して得られる皮膜の強度の点において不十分であった。
また、ビニルエステル系単位を有する重合体(A)を分散質とし、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するPVA(B)を分散剤とする水性エマルジョン(特許文献2〜3)も知られているが、ここには固形分濃度を55%以上で、粘度が2000mPa・s以下の水性エマルジョンについて開示されていない。
【特許文献1】特開昭58−111811号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−220484号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−346182号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、これらの従来技術の欠点を解消したものであり、固形分濃度が高濃度であるにも関わらず低粘度であり、沈降安定性に優れ、機械的安定性、耐皮張り性に優れる水性エマルジョンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は、エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体(A)を分散質とし、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有する、重合度300以上、けん化度が70モル%以上であるビニルアルコール系重合体(B)を分散剤とし、重量比(B)/(A)が1/100〜3/100であり、固形分濃度が55重量%以上、エマルジョン粘度が2000mPa・s以下、かつ平均粒子径が1〜2μmである水性エマルジョンによって達成される。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、固形分濃度が高濃度であるにも関わらず低粘度であるため、接着剤等のセッテイングスピードが早く、作業性に優れ、さらにまた沈降安定性に優れ、機械的安定性、耐皮張り性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を構成する水性エマルジョンの分散剤として用いられる1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するPVA(A)の製造方法としては特に制限はなく、公知の方法が使用可能である。一例として、1,2−グリコール結合量が上記の範囲内の値になるようにビニレンカーボネートをビニルエステルと共重合する方法、ビニルエステルの重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃として加圧下に重合する方法などが挙げられる。後者の方法においては、重合温度は95〜190℃であることが好ましく、100〜180℃であることが特に好ましい。また加圧条件としては、重合系が沸点以下になるように選択することが重要であり、好適には0.2MPa以上、さらに好適には0.3MPa以上である。また上限は5MPa以下が好適であり、さらに3MPa以下がより好適である。上記の重合はラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの方法でも行うことができるが、溶液重合、とくにメタノールを溶媒とする溶液重合法が好適である。このようにして得られたビニルエステル重合体を通常の方法によりけん化することにより高1,2−グリコール結合含有PVAが得られる。PVAの1,2−グリコール結合の含有量は1.9モル%以上であることが好適であり、より好ましくは1.95モル%以上、さらに好ましくは2.0モル%以上、最適には2.1モル%以上である。1,2−グリコール結合の含有量が1.9モル%未満の場合、得られる水性エマルジョンの機械的安定性が低下し、さらには重合安定性も低下する懸念が生じる。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで、1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
【0007】
ここで、ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、一般に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0008】
また、該分散剤は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、 N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、エチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
【0009】
本発明の水性エマルジョンの分散剤として用いられる1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するPVAのけん化度は、70モル%以上、好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。けん化度が70モル%未満の場合には、PVA本来の性質である水溶性が低下する懸念が生じる。該PVAの重合度は、300以上であり、通常300〜8000の範囲のものが用いられ、300〜3000がより好ましく用いられる。重合度が300以下の場合には、PVAの保護コロイドとしての特徴が発揮されず、8000を越える場合には、該PVAの工業的な製造に問題がある。
【0010】
本発明の水性エマルジョンには、本発明の目的を損なわない範囲で、従来公知のアニオン性、ノニオン性またはカチオン性の界面活性剤およびヒドロキシエチルセルロース、さらには1,2−グリコール結合量が1.7モル%より少ないPVAを併用することもできる。
【0011】
本発明の水性エマルジョンにおける分散質であるエチレン性不飽和単量体の重合体は、各種のものがあるが、この重合体の原料であるエチレン性不飽和単量体の好ましい例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルまたはこれらの四級化物、さらにはアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸またはこれらのナトリウム塩、カリウム塩などのスチレン系単量体、その他N−ビニルピロリドンなど、さらにはブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられ、これらは単独または二種以上混合して用いられる。
上記エチレン性不飽和単量体の重合体としては、ビニルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、スチレンおよびジエン系単量体から選ばれる単量体の(共)重合体が好ましく、特にビニルエステル系(共)重合体、たとえばビニルエステル系重合体、エチレンとビニルエステルとの共重合体、ビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が好適である。
【0012】
本発明の水性エマルジョンの分散剤として用いる1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有する、けん化度が70モル%以上であるPVAの使用量については、上記エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体を分散質(A)とPVA(B)の重量比(B)/(A)が1/100〜3/100の範囲であることが重要である。該使用量が3/100を越える場合には、後述する比較例6〜8から明らかなように得られるエマルジョンの平均粒子径が1μ以下となり高粘度となり、高固形分濃度とすることができない。1/100未満の場合には重合安定性が低下する恐れがあり、エマルジョンの平均粒子が大きく機械的安定性が低下する。また、本発明の水性エマルジョンの平均粒子径は1〜2μmであることも重要であり、この条件を満足することによって本発明の目的とする水性エマルジョンを得ることができる。
【0013】
本発明においては、固形分濃度が55重量%以上で、かつ粘度が2000mPa・s以下であることが極めて重要である。濃度が55重量%を下回る場合は接着剤等のセッテイングスピードを向上させることができないし、また高濃度であっても粘度が2000mPa・sを越える場合は、水性エマルジョンの作業性が悪くなる。このように、高濃度で、かつ低粘度の水性エマルジョンが得られ、それによって接着剤等のセッテイングスピードが向上し、さらに作業性に優れた水性エマルジョンが得られ、さらに沈降安定性、機械的安定性、耐皮張り性に優れた水性エマルジョンが得られたことの工業的価値は極めて大きい。
固形分濃度の上限値については65重量%以下であることが好適であり、また、粘度の下限値については500mPa・s以上であることが好適である。なお、固形分濃度とは水と分散質と分散剤の合計量に対する分散質と分散剤との合計量の重量%を表す。
【0014】
本発明の水性エマルジョンの製法としては、例えば1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有する、重合度300以上、けん化度が70モル%以上であるPVAを分散剤として特定量用い、エチレン性不飽和単量体を一時又は連続的に添加し、アゾ系重合開始剤、過酸化水素、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム等の過酸化物系重合開始剤等の重合開始剤を添加し、乳化重合する方法が挙げられる。前記重合開始剤は還元剤と併用し、レドックス系で用いられる場合もある。その場合、通常、過酸化水素は酒石酸、酒石酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどと共に用いられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどとに用いられる。
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限り、「重量%」および「重量部」を意味する。また、得られた水性エマルジョンの平均粒子径、固形分濃度、粘度の測定、沈降安定性、機械的安定性、耐皮張り性の評価は以下のようにして行った。
【0016】
(平均粒子径)
水性エマルジョンを0.2%の濃度に希釈し、動的光散乱法により平均粒子径の測定を行った(大塚電子(株)製;レーザーデータ電位系ELS−8000)
【0017】
(固形分濃度)
水性エマルジョン約3gをアルミ皿にとり、精秤後、105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させた。その後の乾燥物の重量を測定し、重量比から固形分濃度を算出した。
(粘度)
B型粘度計により、30℃,20rpmの粘度を測定した。
(沈降安定性)
水性エマルジョンを、直径22mmの試験管へ150mmの高さまで充填し密栓し、これを20℃の雰囲気下で4週間静置後、液面上部10mm,下部10mmの位置よりエマルジョンをスポイドにて採取し、固形分濃度を測定し、上部固形分濃度/下部固形分濃度の比にて、沈降安定性を評価した。
(機械的安定性)
水性エマルジョンを、マロン式機械的安定性測定機を用い、20℃、荷重0.5kg/cm、1000rpmの条件で10分間試験を行った後、60メッシュ(ASTM式標準フルイ)ステンレス製金網を用いてろ過し、エマルジョンの固形分重量に対するろ過残渣重量の割合(%)を測定した。ろ過残渣重量の割合が少ないほど機械的安定性が優れていることを示す。
なお、固形分濃度およびろ過残渣重量の測定は次のとおりである。
*ろ過残渣重量の測定法
ろ過残渣を105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させ、乾燥物の重量をろ過残渣重量とした。
(耐皮張り性)
20℃、65%RH雰囲気下で、ガラス板上に水性エマルジョンを幅約50mm、長さ約150mm程度で1mm厚に塗布し、一定時間毎に千枚通しの針先でガラス板の表面が露出する深度で幅50mmを約1秒かけて完全に横断させて軌跡をつけ、部分的に微小な皮張りが完全に軌跡周辺に認められるまでの時間を測定した。
【0018】
次に、以下の実施例、比較例において用いたビニルアルコール系重合体(PVA−1〜PVA−6)の内容は次のとおりである。
【0019】
PVA−1
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2940g、メタノール60g および酒石酸0.088gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2, 2' −アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)をメタノールに溶解した濃度0.2g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を120℃に昇温した。このときの反応槽圧力は0.5MPaであった。次いで、上記の開始剤溶液2.5mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を120℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて10.0ml/hrでV−40を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は0.5MPaであった。3時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は24%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で3.72g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.008)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約2分でゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。得られたPVA(PVA−1)のけん化度は88モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化して、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJISK6726に準じて測定したところ1700であった。該精製PVAの1, 2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めたところ、2.2モル%であった。
【0020】
PVA−2
PVA−1の製法において、アルカリ溶液の添加量を11.6gに変えた以外は同様にしてPVA−2を得た。これをPVA−1と同様に測定した結果、平均重合度は1700、けん化度98モル%、1, 2−グリコール結合量は2.2モル%であった。
【0021】
PVA−3
攪拌機、窒素導入口、開始剤導入口を備えた入口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル2850g、メタノール150gおよび酒石酸0.086gを仕込み、室温下に窒素ガスによるバブリングをしながら反応槽圧力を2.0MPaまで昇圧して10分間放置した後、放圧するという操作を3回繰り返して系中を窒素置換した。開始剤として2, 2' −アゾビス(N- ブチル−2−メチルプロピオンアミド)をメタノールに溶解した濃度0.1g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。次いで上記の重合槽内温を150℃に昇温し、エチレンを導入し、反応槽圧力を20MPaとした。次いで、上記の開始剤溶液15.0mlを注入し重合を開始した。重合中は重合温度を150℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて15.8ml/hrで2, 2' −アゾビス(N- ブチル−2−メチルプロピオンアミド)を連続添加して重合を実施した。重合中の反応槽圧力は20MPaであった。4時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は35%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が25%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液400g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、40℃で4.65g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比(MR)0.01)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約3分でゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−3)を得た。得られたPVA(PVA−3)のけん化度は88モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールによるソックスレー洗浄を3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJISK6726に準じて測定したところ1000であった。該精製PVAの1, 2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOLGX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、2.5モル%であった。また、エチレン単位の含有量は4.0モル%であった。
【0022】
PVA−4
PVA−3の製法において、重合温度を制御してPVA−4を得た。これをPVA−3と同様に測定した結果、平均重合度は1000、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量は1.6モル%であった。また、エチレン単位の含有量は4.0モル%であった。
【0023】
PVA−5
(株)クラレ製 商品名:PVA−217(ケン化度88モル%、平均重合度1700、1,2−グリコール結合1.6モル%)
【0024】
PVA−6
(株)クラレ製 商品名:PVA−117(ケン化度98モル%、平均重合度1700、1,2−グリコール結合1.6モル%)
【実施例1】
【0025】
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水320g、PVA−1(重合度1700、鹸化度88mol%、1, 2−グリコール結合量2.2モル%)10gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、140rpmで撹拌しながら酢酸ビニル48gを仕込み、60℃に昇温した後、過酸化水素/酒石酸のレドックス開始剤系の存在下で重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル432gを3時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度59.1%、粘度1400mPa・s、平均粒子径1.7μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンが得られた。
【実施例2】
【0026】
実施例1においてPVA−1に変えてPVA−2(重合度1700、けん化度98モル%、1, 2−グリコール結合量2.2モル%)を用いた他は実施例1と同様にして、固形分60.0%、粘度1100mPa・s、平均粒子径1.8μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【実施例3】
【0027】
実施例1においてPVA−1に変えてPVA−3(重合度1000、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量2.5モル%、エチレン含有量4.0モル%)を用いた他は実施例1と同様にして重合を行い、固形分59.8%、粘度1300mPa・s、平均粒子径1.6μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【実施例4】
【0028】
実施例1においてPVA−1の使用量を13gに変えた以外は実施例1と同様にして重合を行い、固形分59.8%、粘度1850mPa・s、平均粒子径1.3μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【実施例5】
【0029】
実施例1においてPVA−1の使用量を6gに変えた以外は実施例1と同様にして重合を行い、固形分59.2%、粘度1000mPa・s、平均粒子径1.9μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【実施例6】
【0030】
8.5gのPVA−1をイオン交換水255gに加熱溶解し、それを窒素吹込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ後、酢酸ビニル368gを仕込み、次いでエチレンを45kg/cmまで昇圧した(エチレンの共重合量は74gに相当)。温度を60℃まで昇温後、過酸化水素/ロンガリット系レドックス開始剤で重合を開始した。2時間後、残存酢酸ビニル濃度が0.6%となったところで重合を終了し、固形分63.4%、粘度1900mPa・s、平均粒子径1.9μmのポリ(エチレンー酢酸ビニル)共重合体エマルジョンを得た。
【0031】
比較例1
実施例1においてPVA−1の使用量をPVA−5(重合度1700、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量1.6モル%)に変えた以外は実施例1と同様に重合を行ったが、安定性不足の為、ブロック化した。
【0032】
比較例2
実施例1においてPVA−1をPVA−6(重合度1700、けん化度98モル%、1, 2−グリコール結合量1.6モル%)に変えた以外は実施例1と同様に重合を行ったが、安定性不足の為、ブロック化した。
【0033】
比較例3
実施例1においてPVA−1をPVA−4(重合度1700、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量1.6モル%、エチレン含有量4.0モル%)に変えた以外は実施例1と同様に重合を行ったが、安定性不足の為、ブロック化した。
【0034】
比較例4
実施例1においてPVA−1の使用量を4.3gに変えた以外は実施例1と同様に重合を行ったが、安定性不足の為、ブロック化した。
【0035】
比較例5
実施例6においてPVA−1をPVA−5(重合度1700、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量1.6モル%)に変えた以外は実施例6と同様にして重合を行い、固形分62.3%、粘度2500mPa・s、平均粒子径3.0μmのポリ(エチレンー酢酸ビニル)共重合体エマルジョンを得た。
【0036】
比較例6
実施例6においてPVA−1に変えてPVA−2(重合度1700、けん化度98モル%、1, 2−グリコール結合量2.2モル%)を27g用いたこと、並びにイオン交換水および酢酸ビニルをそれぞれ345gおよび280g用いたこと以外は実施例6と同様にして重合を行い、固形分50.1%、粘度20000mPa・s、平均粒子径径0.5μmのポリ(エチレンー酢酸ビニル)共重合体エマルジョンを得た。
【0037】
比較例7
実施例6において、PVA−1を15g、イオン交換水を315.5g、酢酸ビニルを315g用いた以外は実施例6と同様にして重合を行い、固形分54.4%、粘度3400mPa・s、平均粒子径径0.8μmのポリ(エチレンー酢酸ビニル)共重合体エマルジョンを得た。
【0038】
比較例8
実施例1において用いたPVA−1の使用量を16gに変えた以外は実施例1と同様にして重合を行い、固形分58.5%、粘度10000mPs・s、平均粒子径0.9μmのポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【0039】
比較例9
比較例5においてPVA−1をPVA−5(重合度1700、けん化度88モル%、1, 2−グリコール結合量1.6モル%)に変えた以外は比較例5と同様にして重合反応を行ったが、安定性不足の為、ブロック化した。
【0040】
実験結果を表1にまとめて示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の水性エマルジョンは、固形分濃度が高濃度であるにも関わらず低粘度であり、沈降安定性のみならず機械的安定性、耐皮張り性に優れるため、接着剤、塗料、各種バインダー、混和剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体(A)を分散質とし、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有する、重合度300以上、けん化度が70モル%以上であるビニルアルコール系重合体(B)を分散剤とし、重量比(B)/(A)が1/100〜3/100であり、固形分濃度が55重量%以上、エマルジョン粘度が2000mPa・s以下、かつ平均粒子径が1〜2μmである水性エマルジョン。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体(A)が、ビニルエステル系(共)重合体である請求項1記載の水性エマルジョン。

【公開番号】特開2006−249168(P2006−249168A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65142(P2005−65142)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】