説明

水性ヒートシールニス組成物

【課題】ヒートシール部が直接ヒートシールバーへ接触したときにヒートシールバーに融着することなく塗工面同士を接着させることができる水性ヒートシールニス組成物を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度10〜70℃の水性樹脂、及び水性媒体を含有する水性ヒートシールニス組成物において、さらに分子内の総炭素数が12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤を水性ヒートシールニス組成物の全固形分中に、3〜25質量%含有させてなることを特徴とする水性ヒートシールニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシールにより製罐・製袋される包装用フィルムやシートに利用され、ヒートシール部に塗工された時に、ヒートシールバーへの融着が生じにくい水性ヒートシールニス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品包装等の包装分野では、ポリオレフィンやポリエステル等のプラスチックフィルム、アルミ箔等の金属箔、紙等の基材にヒートシールニス組成物を塗工しヒートシール層を設けた包装材料が広く利用されている。
【0003】
包装材料にヒートシール層を形成する方法としては、例えば、基材に、溶剤型のヒートシールニス組成物を塗工し、溶剤を乾燥させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、環境問題に対する関心が高まり、それを背景にした有機溶剤の排出規制の強化等から、ヒートシールニス組成物は、従来の溶剤型のものから水性型への移行が進んでいる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
これらの水性ヒートシールニス組成物を塗工した包装材料を使用して包装袋を形成する場合、ヒートシール層同士をずれないようにあわせた後、熱圧着させることにより包装袋を形成させている。
【0006】
しかし、近年、ヒートシール層をずらし熱圧着させ、包装袋を形成させることも行われるようになっている。この場合、ヒートシール層が直接ヒートシールバーに接触することになり、従来の水性ヒートシールニス組成物を塗工したときは、ヒートシールバーにヒートシール層が融着する問題を有するものであった。
【特許文献1】特開2005−002199号公報
【特許文献2】特開2006−282968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、ヒートシール部が直接ヒートシールバーへ接触したときに、ヒートシールバーに融着することなく塗工面同士を接着させることができる水性ヒートシールニス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ガラス転移温度10〜70℃の水性樹脂、水性媒体を含有する水性ヒートシールニス組成物中に、分子内の総炭素数が12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤を特定量含有させることにより、上記課題を実現することを見いだし、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)ガラス転移温度10〜70℃の水性樹脂、及び水性媒体を含有する水性ヒートシールニス組成物において、さらに分子内の総炭素数が12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤を水性ヒートシールニス組成物の全固形分中に、3〜25質量%含有させてなることを特徴とする水性ヒートシールニス組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(2)上記水性樹脂が、水分散性樹脂である水性ヒートシールニス組成物に関する。
以下、本発明の水性ヒートシールニス組成物について説明する。
【0011】
<水性樹脂>
本発明の水性ヒートシールニス組成物を構成する水性樹脂としては、ガラス転移温度が10〜70℃のものが挙げられる。
【0012】
水性樹脂のガラス転移温度が10℃未満の場合は、水性ヒートシール組成物を塗工した基材は、巻き取られロールとされるが、この際に、ヒートシール層とその上に重なった基材がブロッキングを起こす問題が発生し、一方、ガラス転移温度が70℃を超える場合は、水性樹脂の成膜性が低下し、ヒートシール性が劣るため好ましくない。上記ガラス転移温度は、20〜65℃であることが好ましい。
本明細書において、水性樹脂のガラス転移温度(Tg)とは、水性樹脂を構成する重合体のTg(例えば、エマルジョン中に分散している重合体のTg)を意味する。なお、上記ガラス転移温度は、下記Woodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。但し、ガラス転移温度は絶対温度で計算する)。
【0013】
上記水性樹脂として、例えばガラス転移温度が上記範囲内にある水溶性樹脂、水分散系樹脂が使用できる。これらのなかでも水性ヒートシールニス組成物の扱い易さ等を考慮すると、水分散型樹脂が好ましく、具体的には、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−アクリル−マレイン酸樹脂エマルジョン等のアクリル系エマルジョン、アイオノマー系エマルジョン等が挙げられる。
【0014】
上記アクリル系エマルジョン構成する単量体としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ヘキシル、2−ヘプチル、2−エチルヘキシル、2−エチルブチル、ドデシル、ラウリル、ステアリル等のアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ−2−エチルヘキシル、マレイン酸モノラウリル等の炭素数8〜13の脂肪族炭化水素基を有するマレイン酸モノエステル化合物、マレイン酸モノミリスチル、マレイン酸モノセチル、マレイン酸モノステアリル、マレイン酸モノオレイル、マレイン酸モノエイコシル等の炭素数14〜20の脂肪族炭化水素基を有するマレイン酸モノエステル化合物、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸ジエステル化合物、クロトン酸とそのエステル化合物、イタコン酸とそのエステル化合物、シラコン酸とそのエステル化合物等のカルボキシル基を有する単量体等が挙げられる。
上記アクリル系エマルジョンの合成は、従来から公知の方法で行われる。合成方法の具体例としては、ラジカル重合開始剤と上記単量体から適宜選択された単量体の混合物を、通常の乳化剤或いは高分子乳化剤を加えた水中に滴下して、通常40〜120℃の温度下で重合を行う重合方法等が挙げられるが、合成方法は特に限定されるものではない。
【0015】
上記アイオノマー系エマルジョンを構成するアイオノマー系樹脂としては特に限定されず、エチレン、プロピレン等のオレフインにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有する単量体を共重合した後、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等の金属イオンを結合させたもの等を挙げることができる。
【0016】
上記水性樹脂のなかでも、アクリル系エマルジョンを使用することが好ましい。
【0017】
上記水性樹脂の使用量は、水性ヒートシールニス組成物中に固形分で1〜40質量%であることが好ましい。水性樹脂の使用量が1質量%未満である場合は、1回の塗工で形成できるヒートシール層の膜厚が薄く、何回も塗工が必要となることがあり、一方、使用量が40質量%を超える場合は、水性ヒートシールニス組成物の流動性が低下する傾向がみられるので好ましくない。上記水性樹脂の使用量は、10〜40質量%であることがより好ましい。
【0018】
<酸アミド型アニオン界面活性剤>
本発明の水性ヒートシールニス組成物を構成する酸アミド型アニオン界面活性剤としては、分子内の総炭素数12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤が使用できる。上記水性ヒートシールニス組成物は、分子内の総炭素数が上記範囲内にある酸アミド型アニオン界面活性剤を含有させることにより、ヒートシール時におけるヒートシールバーへの融着を防ぐことができる。
【0019】
上記分子内の総炭素数12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤としては、下記式で表されるサルコシン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、Rは炭素数8〜21の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。
【0022】
上記分子内の総炭素数12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤の好ましい具体例としては、ラウロイルサルコシン、オレオイルサルコシン、ミリストイルサルコシン、パルミトイルサルコシン、ステアロイルサルコシン等が挙げられる。上記酸アミド型アニオン界面活性剤は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩として使用してよい。上記酸アミド型アニオン界面活性剤における分子内の総炭素数は、15〜21であることが特に好ましい。これにより、上記効果を良好に得ることができる。
【0023】
上記酸アミド型アニオン界面活性剤の使用量は、水性ヒートシールニス組成物の全固形分の0.3〜25質量%である。酸アミド型アニオン界面活性剤の使用量が0.3質量%未満では、ヒートシール部のヒートシーラーへの融着が生じ易くなり、一方、使用量が25質量%を超える場合は、得られるヒートシール部が酸アミド型アニオン界面活性剤によりべたつきが生じ、ヒートシール部同士の接着性が低下する傾向がみられるので好ましくない。
本明細書において、全固形分とは、上述の水性樹脂、酸アミド型アニオン界面活性剤、及び、後述の必要に応じ添加する成分等、水性媒体以外の各成分の合計を意味する。
【0024】
<水性媒体>
また、本発明の水性ヒートシールニス組成物を構成する水性媒体としては、作業者や作業環境への安全性の点から、すべてが水であることが好ましいが、必要に応じて、親水性の有機溶剤を使用することも可能である。
【0025】
親水性の有機溶剤の具体例としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノ又はジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0026】
なお、親水性の有機溶剤を使用する場合、有機溶剤の使用量は水性媒体の40質量%以下であることが好ましい。
【0027】
<必要に応じ加えることができる他の成分>
上記水性ヒートシールニス組成物は、更に他の成分として、必要に応じて、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等を1種又は2種以上加えることができる。
【0028】
<水性ヒートシールニス組成物の製造方法>
上記構成材料を使用して水性ヒートシールニス組成物を製造する方法としては、例えば、水性溶媒に水性樹脂、酸アミド型アニオン界面活性剤、その他の添加剤を加え攪拌装置で攪拌することにより得ることができる。
【0029】
本発明の水性ヒートシールニス組成物は、例えば、紙、プラスチックフィルム、金属箔等の基材に各種塗工手段を用いて塗工することができる。
上記基材として使用することができるプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレン〔PE〕、ポリプロピレン〔PP〕等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが挙げられる。
上記塗工手段としては、グラビアコーター、ロットコーター、エアナイフ等、従来公知の手段を特に制限なく用いることができる。
【0030】
本発明の水性ヒートシールニス組成物は、塗布量(乾燥後)は、好ましくは3〜30g/m、より好ましくは8〜15g/mである。
塗布量が3g/mより少ないと、良好なヒートシール性を得ることが困難となることがあり、一方、30g/mを超えると塗工が難しくなり、乾燥に時間がかかるようになることがあるので好ましくない。
上記水性ヒートシールニス組成物は、一般に100〜200℃の温度でヒートシールすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の水性ヒートシールニス組成物は、上述の構成によりなるものであるので、ヒートシール部が直接ヒートシールバーに接触してもヒートシールバーに融着することなく塗工面同士を接着させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0033】
実施例1〜6、比較例1〜2
水性樹脂、酸アミド型アニオン界面活性剤及び消泡剤(サーフィノール104P、エアプロダクツ社製)を、表1に示した種類及び配合量(質量%)で水に加え、混合することにより水性ヒートシールニス組成物を得た。なお、該表に示したように水性樹脂は、エマルジョンの形態で配合した。
【0034】
(ヒートシール試験)
基材としてPPC用紙を用い、紙上に実施例1〜6、比較例1〜2の水性ヒートシールニス組成物を、0.15メアバーを用いて塗工量が乾燥後3〜5g/mとなるよう塗布した。これを120℃の熱風にて1分間乾燥した後、40℃の温度で1日間エージングした。各水性ヒートシールニスが塗布されたPPC用紙は、次いで耐熱性試験機HG−100((株)東洋精機製作所製)を用い140℃/1秒/実圧2kgf、150℃/1秒/実圧2kgf、160℃/1秒/実圧2kgf、170℃/1秒/実圧2kgf、180℃/1秒/実圧2kgfで、塗工面がヒートシールバーに当たる条件でヒートシールバーに塗工物が融着するかどうか、塗工面同士が当たる条件で塗工面同士が接着するかどうかについて、以下の方法により確認した。
【0035】
評価結果
ヒートシールバーへの塗工物の融着性:ヒートシールバーを目視して確認した。
A:塗工物が融着しなかったもの
B:塗工物が融着したもの
【0036】
塗工面同士の接着性:塗工面同士が、接着したか、接着していないかで判断した。
A:接着したもの
B:接着しなかったもの
【0037】
得られた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上より、各実施例の水性ヒートシールニス組成物は、ヒートシールバーに融着することなく塗工面同士を接着させることができるが、酸アミド型アニオン界面活性剤を含有しない組成物(比較例1)ではヒートシール時にヒートシールバーに塗工物が融着し、酸アミド型アニオン界面活性剤の含有量が全固形分の25質量%を超える組成物(比較例2)では塗工面同士を接着させにくいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水性ヒートシールニス組成物は、ヒートシール部が直接ヒートシールバーに接触する条件で熱圧着をする包装用フィルムやシートにも好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度10〜70℃の水性樹脂、及び水性媒体を含有する水性ヒートシールニス組成物において、
さらに分子内の総炭素数が12〜25の酸アミド型アニオン界面活性剤を水性ヒートシールニス組成物の全固形分中に、3〜25質量%含有させてなること
を特徴とする水性ヒートシールニス組成物。
【請求項2】
水性樹脂が、水分散性樹脂である請求項1記載の水性ヒートシールニス組成物。

【公開番号】特開2008−285563(P2008−285563A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130903(P2007−130903)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】