説明

水性一液型コーティング剤および塗装物

【課題】各種基材、とりわけプラスチック基材用に有用な付着性と耐溶剤性の両方に優れる水性一液型コーティング剤と、この水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有する塗装物を提供しようとすること。
【解決手段】連鎖移動剤の存在下に、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)、芳香族基含有ビニル系単量体(b)、酸基含有ビニル系単量体(c)およびその他のビニル系単量体(d)を乳化重合し、塩基性化合物で中和してなるビニル系共重合体(X)の水分散体を含有する水性一液型コーティング剤およびこの水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有する塗装物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性一液型コーティング剤および塗装物に関するものである。さらに詳細には、本発明は、連鎖移動剤の存在下に、環状脂肪族基含有ビニル系単量体と、芳香族基含有ビニル系単量体と、酸基含有ビニル系単量体を含有するビニル系単量体類を乳化重合した後、中和してなる水性一液型コーティング剤、および、この水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有する塗装物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来これまでにも、ハイドロゾル、マイクロ・ディスパージョンまたはコロイダル・ディスパージョンと呼ばれる部類の、いわゆる水性樹脂微粒子分散液に関する研究が為されている。
【0003】
このような水性樹脂微粒子分散体を製造するために、一般的な乳化重合により、耐久性に優れる水性一液型塗料用樹脂微粒子分散体を得るには、合成する樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くする必要がある。ガラス転移温度(Tg)を高くすると、分子量が高くなり造膜性に乏しくなるため、プラスチック基材に対する付着性が低くなるという場合が多い。また、使用される不飽和単量体成分の種類により、樹脂自体の溶剤に対する親和性が高く、耐溶剤性についても不良となるため、プラスチック基材に用いる水性一液型水性塗料用として充分に満足できる性能を有するものは得られていないというのが、実情である。
【0004】
このような欠点の解消を目的として開発された水性一液型塗料用樹脂組成物としては、例えば、連鎖移動剤の存在下に、酸基含有重合性不飽和単量体を必須の単量体成分とする重合性不飽和単量体の混合物を乳化重合せしめて得られる、従来のものよりも低い分子量の重合体エマルジョンに、塩基性化合物および有機溶剤を加えることによって微粒子化された水性樹脂微粒子分散液を、必須の成分として、含有する塗料用水性樹脂組成物が知られており(例えば、特許文献1参照。)、プラスチック基材に対する付着性の低下を防止しつつ、耐溶剤性を向上させている。
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載されている塗料用水性樹脂組成物は、耐溶剤性が向上しているが、十分ではなく、耐溶剤性の更に良好な塗料用水性樹脂組成物の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−291271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、各種基材、とりわけプラスチック基材用に有用な付着性と耐溶剤性の両方に優れる水性一液型コーティング剤と、この水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有する塗装物を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、連鎖移動剤の存在下に、酸基含有ビニル系単量体と共に、環状脂肪族基含有ビニル系単量体と芳香族基含有ビニル系単量体をも必須の単量体成分とするビニル系単量体類を乳化重合し、塩基性化合物で中和して得られるビニル系共重合体(X)の水分散体を含有する水性一液型コーティング剤は、プラスチック基材に対する付着性の低下を防止しつつ、耐溶剤性が格段に向上しており、各種基材、とりわけプラスチック基材用として付着性と耐溶剤性の両方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、鎖移動剤の存在下に、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)、芳香族基含有ビニル系単量体(b)、酸基含有ビニル系単量体(c)およびその他のビニル系単量体(d)を乳化重合し、塩基性化合物で中和してなるビニル系共重合体(X)の水分散体を含有することを特徴とする水性一液型コーティング剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有することを特徴とする水性塗料を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性一液型コーティング剤は、基材付着性、とりわけプラスチック基材に対する付着性に優れ、なおかつ耐溶剤性に優れた極めて実用性の高いコーティング剤であり、プラスチック基材に塗装し、乾燥させることにより、付着性と耐溶剤性に優れた塗膜を有する塗装物が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる連鎖移動剤は、乳化重合反応を通して得られるビニル系共重合体(X)の分子量を水性一液型コーティング剤用として適切な範囲に調整することを目的として使用するものであり、例えば、エチルメルカプタン、2−プロピルメルカプタン、1−ブチルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、1−ペンチルメルカプタン、1−ヘキシルメルカプタン、1−オクチルメルカプタン、1−ドデシルメルカプタン、2−ナフチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリセリン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオサリチル酸等のメルカプタン類;α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー、メチルメタクリレートダイマー等の化合物などが挙げられる。
【0013】
この連鎖移動剤の使用量としては、各種プラスチック基材に対する付着性および塗膜強度に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、乳化重合で得られるビニル系共重合体(X)のゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000〜150,000となる量であることが好ましく、なかでも重量平均分子量が10,000〜70,000となる量であることがより好ましい。ビニル系共重合体(X)の重量平均分子量をこのような範囲内とするための連鎖移動剤の具体的な使用量としては、例えば、乳化重合に用いる環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)、芳香族基含有ビニル系単量体(b)、酸基含有ビニル系単量体(c)およびその他のビニル系単量体(d)の合計100重量部に対して、0.3〜3.0重量部の範囲が好ましく、0.4〜1.0重量部の範囲がより好ましい。
【0014】
前記環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)としては、シクロヘキシル基、イソボルニル基等の環状脂肪族基を有するビニル系単量体であればよく、例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでも耐溶剤性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートが好ましい。
【0015】
前記環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)の使用量としては、粘度が高くなりすぎることがなく、適当な粘度で塗料化することが容易で、付着性および耐溶剤性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、5〜45重量部の範囲が好ましく、5〜30重量部の範囲がより好ましい。
【0016】
前記芳香族基含有ビニル系単量体(b)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロロスチレン、クロルメチルスチレン等が挙げられ、なかでもスチレンが好ましい。
【0017】
前記芳香族基含有ビニル系単量体(b)の使用量としては、塗料配合時に増粘しにくく貯蔵安定性が良好で、各種プラスチック基材に対する付着性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、10〜50重量部の範囲が好ましく、15〜30重量部の範囲がより好ましい。
【0018】
前記酸基含有ビニル系単量体(c)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のモノカルボン酸ないしはジカルボン酸などが挙げられ、なかでも(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0019】
前記酸基含有ビニル系単量体(c)の使用量としては、各種プラスチック基材に対する付着性と耐溶剤性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、1〜5重量部の範囲が好ましく、1〜3重量部の範囲がより好ましい。
【0020】
前記その他のビニル系単量体(d)としては、前記ビニル系単量体(a)〜(c)以外の共重合可能な各種のビニル系単量体がいずれも使用できるが、なかでも各種プラスチック基材に対する耐温水付着性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、カルボニル基含有ビニル系単量体(d1)を含有するものであることが好ましい。
【0021】
前記カルボニル基含有ビニル系単量体(d1)としては、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ダイアセトンアクリレート、アセトニトリルアクリレート等が挙げられる。
【0022】
前記カルボニル基含有ビニル系単量体(d1)の使用量としては、各種プラスチック基材に対する付着性、耐溶剤性に優れ、耐温水付着性が良好な水性一液型コーティング剤が得られることから、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、1〜5重量部の範囲が好ましく、1〜2重量部の範囲がより好ましい。
【0023】
前記その他のビニル系単量体(d)のうちのカルボニル基含有ビニル系単量体(d1)以外のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。
【0024】
本発明の水性一液型コーティング剤に用いる水分散体は、前記連鎖移動剤および前記ビニル系単量体(a)〜(d)を必須の原料成分として、水中で、乳化剤の存在下に、乳化重合法を駆使するということによって、得ることができる。この乳化重合の際に用いる前記ビニル系単量体(a)〜(d)としては、耐溶剤性に優れる水性一液型コーティング剤が得られることから、重合により得られるビニル系共重合体(X)のガラス転移温度(Tg)が60〜110℃、好ましくは90〜110℃となるように組み合わせで用いることが好ましい。
【0025】
本発明において、ビニル系共重合体(X)のガラス転移温度(Tg)は、一般的に良く知られている下記に示すフォックスの式で計算される値である。その計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)を下記に示す。下記にホモポリマーのガラス転移温度(Tg)の記載のないものは、一般的に文献に記載されている値を用いることができる。また、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査式熱量測定法や動的粘弾性測定法を用いて測定することによって求めることもできる。
【0026】
〔フォックスの式〕
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
Tg:重合体のガラス転移温度(絶対温度)
Wn:単量体nの重量分率
Tgn:単量体nのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)
【0027】
〔ホモポリマーのTg〕
アクリル酸(AA)のホモポリマー:86.6℃
メタクリル酸(MAA)のホモポリマー:143.5℃
ブチルアクリレート(BA)のホモポリマー:−45.4℃
メチルメタクリレート(MMA)のホモポリマー:104.2℃
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)のホモポリマー:66℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)のホモポリマー:−55.3℃
グリシジルメタクリレート(GMA)のホモポリマー:46.3℃
スチレン(St)のホモポリマー:100.0℃
ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)のホモポリマー:77℃
【0028】
前記乳化重合法としては、例えば、乳化剤を溶解した水中に、連鎖移動剤および前記ビニル系単量体(a)〜(d)の混合物の一部を、初期に仕込んでおき、さらにラジカル開始剤と残りの混合物を同時に滴下して行う方法、乳化剤を溶解した水中に、連鎖移動剤および前記ビニル系単量体(a)〜(d)の混合物と水とを乳化剤により乳化したものと、ラジカル開始剤とを滴下して、重合反応を行うという方法などの種々の手法が適用しうる。
【0029】
前記したような乳化重合を行うに当たって用いられる乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、アルキルフェニルポリオ岸エチレンサルフェートナトリウム塩、アンモニウム塩などの種々のアニオン乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの種々のノニオン乳化剤、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、さらには、「アデカリアソープNE−10」〔旭電化(株)製の反応性乳化剤〕、「アクアロンKH−1025」〔第一工業製薬(株)製の反応性乳化剤〕、「エレミノールJS−2」〔三洋化成工業(株)製反応性乳化剤〕などのような反応性乳化剤等の使用も可能である。
【0030】
これら乳化剤の使用量としては、貯蔵安定性と耐温水付着性の良好な水性一液型コーティング剤が得られることから、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲が好ましく、0.2〜3重量部の範囲がより好ましい
【0031】
また、前記重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物などが挙げられる。
【0032】
さらに、前記重合開始剤としては、これらの過硫酸塩または過酸化物などと、鉄イオンなどの金属イオン、ピロ亜硫酸ソーダなどの還元剤とを組み合わせて用いるという、いわゆるレドックス系開始剤も用いることができる。
【0033】
次に、以上のように乳化重合した後に加えられるべき塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどの各種有機アミン類などが挙げられる。
【0034】
前記塩基性化合物の使用量としては、得られるビニル系共重合体(X)の水分散体の中和後のpHが8.5〜10.0となる範囲であることが好ましく、pHが9.0〜9.5となる範囲であることがより好ましい。
【0035】
こうした塩基性化合物の添加による中和によって、300nm以下の平均粒子径を有する得られるビニル系共重合体(X)の水分散体とすることが好ましく、80〜200nmの平均粒子径を有する得られるビニル系共重合体(X)の水分散体とすることがより好ましい。なお、本発明において、ビニル系共重合体(X)の水分散体の平均粒子径は、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分析計 UPA150 Model 9340」により測定した値である。
【0036】
かくして得られるビニル系共重合体(X)の水分散体は、そのまま水性一液型コーティング剤として、あるいは、顔料等の着色剤、その他の各種添加剤等を配合した形の水性一液型コーティング剤として利用することができ、特にプラスティック基材用として好適である。
【0037】
水性一液型コーティング剤用としての主たる用途のうちでも特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、各種自動車用諸部品類または家電製品類などのような、種々のプラスチック素材類ないしはプラスチック製品類などに利用し、適用されるものではあるが、決して叙上のもののみに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を参考例、実施例および比較例を挙げて、一層具体的に説明する。なお、以下において、特に断りのない限り、「部」および「%」は、すべて重量基準である。
【0039】
実施例1
温度計、撹拌機、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水73部および「ニューコール707SF」〔日本乳化剤(株)製のアニオン乳化剤;有効成分=30%〕0.5部を仕込んで、80℃にまで昇温した後、シクロヘキシルメタクリレート10部、スチレン20部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部、ドデシルメルカプタン0.8部、「アクアロンKH−1025」〔第一工業製薬(株)製のアニオン乳化剤;有効成分25%〕10部およびイオン交換水15部を混合してなるビニル系単量体の水性分散体と、過硫酸カリウム0.07部をイオン交換水13部に溶解したものとを、同時に、3時間かけて滴下した。
【0040】
その後も、同温度で30分間反応させた後、12.5%の濃度のアンモニア水1部を加え、同温度でさらに30分間反応させた後、過硫酸カリウム0.03部をイオン交換水3部に溶解したものを加え、同温度でさらに1時間半の攪拌を続けることによって、乳化重合反応を終了させた。引き続き、室温にまで冷却し、イオン交換水40部を加え、200メッシュ濾布で濾過することによって、ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)を得た。
【0041】
ここで得られたビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)は、不揮発分45%で、pHが9.2で、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分析計 UPA150 Model 9340」により測定した平均粒子径(以下、同様。)が135nmであった。また、ビニル系共重合体(X1)のガラス転移温度(Tg)は99.8℃であった。
【0042】
得られたビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)40g、ブチルセロソルブ7.2g、ブチルカルビトール7.2g、および、BYK−346(ビッグケミー社製分散剤)0.4gとサーフィノール104BC(エアプロダクツ社製表面調整剤)0.4の混合物0.8gを配合して水性一液型コーティング剤(1)を調製した。
【0043】
得られた水性一液型コーティング剤(1)を、ポリスチレン基材(PS基材)、ポリカーボネート基材(PC基材)、および、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)基材のそれぞれに、スプレーガンを用いて乾燥膜厚が15μmとなるように塗装し、乾燥機にて60℃で、30分間加熱乾燥した後、室温(25℃)にて3日間乾燥して、試験板を得た。得られた試験板を用いて、以下のように付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0044】
[試験方法]
(付着性試験)
各試験板の塗膜表面にカッターにて1mm角で10×10個の切れ目を入れ、セロファンテープによる剥離試験を行い、残存する目数を下記評価基準で評価した。
評価基準 ◎:100個
○:85〜99個
△:65〜84個
×:35〜64個
××:34個以下
【0045】
(耐温水付着性試験)
各試験板を40℃の温水に24時間浸漬した後、取り出して常温にて1時間乾燥した。その後、付着性試験と同じくセロファンテープによる剥離試験を行い、残存する目数を下記評価基準で評価した。
評価基準 ◎:100個
○:85〜99個
△:65〜84個
×:35〜64個
××:34個以下
【0046】
(耐溶剤性試験)
ABS基材からなる試験板を大平理化学工業製「RUBBING TESTER」にセットし、99.5%のエタノールを十分に浸み込ませたフェルトを用いて荷重500gの条件で試験板の塗膜表面を擦り、基材表面が露出するまでに要する往復回数を計測した。
【0047】
実施例2
ダイアセトンアクリルアミド1部およびメチルメタクリレート68部の代わりに、メチルメタクリレート69部を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニル系共重合体(X2)の水分散体(B)を得た。
【0048】
ここで得られたビニル系共重合体(X2)の水分散体(B)は、不揮発分45%で、pHが9.1で、平均粒子径が125nmであった。また、ビニル系共重合体(X2)のガラス転移温度(Tg)は100.1℃であった。
【0049】
ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)の代わりに、得られたビニル系共重合体(X2)の水分散体(B)を用いた以外は実施例1と同様にして水性一液型コーティング剤(2)を調製した後、さらに実施例1と同様にして試験板を得、付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0050】
実施例3
シクロヘキシルメタクリレート10部、スチレン20部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部およびドデシルメルカプタン0.8部の代わりに、シクロヘキシルメタクリレート45部、スチレン20部、メタクリル酸3部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート31部およびドデシルメルカプタン1.0部を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニル系共重合体(X3)の水分散体(C)を得た。
【0051】
ここで得られたビニル系共重合体(X3)の水分散体(C)は、不揮発分45%で、pHが9.4で、平均粒子径が130nmであった。また、ビニル系共重合体(X3)のガラス転移温度(Tg)は86.2℃であった。
【0052】
ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)の代わりに、得られたビニル系共重合体(X3)の水分散体(C)を用いた以外は実施例1と同様にして水性一液型コーティング剤(3)を調製した後、さらに実施例1と同様にして試験板を得、付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0053】
実施例4
シクロヘキシルメタクリレート10部、スチレン20部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部およびドデシルメルカプタン0.8部の代わりに、シクロヘキシルメタクリレートの15部、スチレンの40部、メタクリル酸の2部、ダイアセトンアクリルアミドの2部、メチルメタクリレートの41部およびドデシルメルカプタンの0.9部を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニル系共重合体(X4)の水分散体(D)を得た。
【0054】
ここで得られたビニル系共重合体(X4)の水分散体(D)は、不揮発分45%で、pHが9.2で、平均粒子径が140nmであった。また、ビニル系共重合体(X4)のガラス転移温度(Tg)は96.7℃であった。
【0055】
ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)の代わりに、得られたビニル系共重合体(X4)の水分散体(D)を用いた以外は実施例1と同様にして水性一液型コーティング剤(4)を調製した後、さらに実施例1と同様にして試験板を得、付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0056】
比較例1
シクロヘキシルメタクリレート10部、スチレン20部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部およびドデシルメルカプタン0.8部の代わりに、スチレン30部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部およびドデシルメルカプタンの0.8部を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニル系共重合体(x1)の水分散体(E)を得た。
【0057】
ここで得られたビニル系共重合体(x1)の水分散体(E)は、不揮発分45%で、pHが9.0で、平均粒子径が138nmであった。また、ビニル系共重合体(x1)のガラス転移温度(Tg)は103.5℃であった。
【0058】
ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)の代わりに、得られたビニル系共重合体(x1)の水分散体(E)を用いた以外は実施例1と同様にして水性一液型コーティング剤(5)を調製した後、さらに実施例1と同様にして試験板を得、付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0059】
比較例2
シクロヘキシルメタクリレート10部、スチレン20部、メタクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート68部およびドデシルメルカプタン0.8部の代わりに、スチレン65部、メタクリル酸3部、ダイアセトンアクリルアミド1部、メチルメタクリレート31部およびドデシルメルカプタン1.0部を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニル系共重合体(x2)の水分散体(F)を得た。
【0060】
ここで得られたビニル系共重合体(x2)の水分散体(F)は、不揮発分45%で、pHが9.2で、平均粒子径が141nmであった。また、ビニル系共重合体(x2)のガラス転移温度(Tg)は102.5℃であった。
【0061】
ビニル系共重合体(X1)の水分散体(A)の代わりに、得られたビニル系共重合体(x2)の水分散体(F)を用いた以外は実施例1と同様にして水性一液型コーティング剤(6)を調製した後、さらに実施例1と同様にして試験板を得、付着性、耐温水付着性および耐溶剤性の試験を行った。第1表に結果を示す。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連鎖移動剤の存在下に、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)、芳香族基含有ビニル系単量体(b)、酸基含有ビニル系単量体(c)およびその他のビニル系単量体(d)を乳化重合し、塩基性化合物で中和してなるビニル系共重合体(X)の水分散体を含有することを特徴とする水性一液型コーティング剤。
【請求項2】
前記ビニル系共重合体(X)の水分散体が、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)を5〜45重量部、かつ、芳香族基含有ビニル系単量体(b)を10〜50重量部用いて得られるビニル系共重合体の水分散体である請求項1に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項3】
前記ビニル系共重合体(X)の水分散体が、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、連鎖移動剤を0.3〜3.0重量部、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)を5〜45重量部、芳香族基含有ビニル系単量体(b)を10〜50重量部、酸基含有ビニル系単量体(c)を1.0〜5.0重量部、その他のビニル系単量体(c)を5〜84重量部用いて得られるビニル系共重合体の水分散体である請求項1に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項4】
前記ビニル系共重合体(X)の水分散体が、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)と芳香族基含有ビニル系単量体(b)を合計で15〜75重量部用いて得られるビニル系共重合体の水分散体である請求項1、2または3に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項5】
前記環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)が、炭素原子数5〜7の環状脂肪族基を含有するビニル系単量体であり、かつ、芳香族基含有ビニル系単量体(b)がスチレン系単量体である請求項1、2または3に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項6】
前記ビニル系共重合体(X)の水分散体が、前記ビニル系単量体(a)〜(d)の合計100重量部に対して、連鎖移動剤を0.4〜1.0重量部、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)を5〜30重量部、芳香族基含有ビニル系単量体(b)を20〜40重量部、酸基含有ビニル系単量体(c)を1.0〜3.0重量部、その他のビニル系単量体(d)を27〜74重量部、かつ、環状脂肪族基含有ビニル系単量体(a)と芳香族基含有ビニル系単量体(b)を合計で15〜55重量部用いて得られるビニル系共重合体の水分散体である請求項1、2または3に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項7】
前記ビニル系共重合体(X)が、重量平均分子量10,000〜150,000、ガラス転移温度60〜110℃のビニル系共重合体である請求項1、2または3に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項8】
前記ビニル系共重合体(X)の水分散体と共に水性化可能なヒドラジド化合物(Y)を含有し、かつ、前記ビニル系共重合体(X)の水分散体が、その他のビニル系単量体(d)としてカルボニル基含有ビニル系単量体(d1)を含有するものを用いて得られるビニル系共重合体の水分散体である請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項9】
前記水性化可能なヒドラジド化合物(Y)が、ヒドラジンである請求項7に記載の水性一液型コーティング剤。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性一液型コーティング剤をプラスチック基材に塗装し、乾燥させてなる塗膜を有することを特徴とする塗装物。

【公開番号】特開2008−248155(P2008−248155A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92955(P2007−92955)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】