説明

水性一液型耐汚染性付与塗料用樹脂組成物および該塗料用樹脂組成物から得られる塗膜

【課題】 得られる塗膜が、塗装初期から優れた耐汚染性を有し、なお且つ、その塗料が一液型として使用できる水性塗料を提供すること。
【解決手段】 オルガノシリケート化合物またはその部分加水分解縮合物(以下オルガノシリケート化合物という)、ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物を水性塗料に添加することにより、塗装初期から充分な耐汚染性を有し、しかも一液型として使用可能な塗料となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型でありながら充分な耐汚染性を発現する水性一液型耐汚染性付与塗料用樹脂組成物および該塗料用樹脂組成物から得られる塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料の分野においても、公害対策あるいは省資源の観点より、有機溶剤を使用するものから、水溶性あるいは水分散樹脂への転換が試みられている。しかし、水性塗料は溶剤系塗料に比べ、塗膜性能が劣る傾向にあった。このような状況下、水性塗料においても溶剤系塗料と同等の塗膜物性が要求され、特に耐汚染性といった高度な性能付与が要求されている。
【0003】
塗料への耐汚染性付与方法としては、塗料中にオルガノシリケートを配合する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
この方法により、形成した塗膜の親水性が向上し、油性の汚染物質の付着防止に効果があり、また付着した汚染物質を降雨等の水滴で洗い流すことが可能である。しかしながら、上記方法を水性塗料に適用した場合、オルガノシリケートの水性塗料への混和性が悪く、表面光沢が低下するという問題があった。
これに対して、オルガノシリケートの水性塗料への混和性を改良する方法として、オルガノシリケートと乳化剤の混合物を添加する方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
この方法により、水性塗料との混和性は改善され、表面光沢の極端な低下は解決された。しかしながらこれらの方法では、オルガノシリケート成分が徐々に加水分解、縮合反応を起こし、その性能を維持できなくなるという問題があった。つまり、配合物を長期に保存するなど一液型として使用した場合には、耐汚染性の発現が失われてしまうこととなる。
【0006】
本願は、一液型の水系塗料でありながら、塗装初期から優れた耐汚染性を有する塗膜が得られ、なお且つ、一液型として使用するに値する期間、その性能を維持することができることを特徴としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO1994/06870号公報
【特許文献2】特開平10−17850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、得られる塗膜が、塗装初期から優れた耐汚染性を有し、なお且つ、その塗料が一液型として使用できる水性塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
オルガノシリケート化合物またはその部分加水分解縮合物(以下オルガノシリケート化合物という)、ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物を水性塗料に添加することにより、塗装初期から充分な耐汚染性を有し、しかも一液型として使用可能な塗料となることを見出した。
【0010】
すなわち本願は、
(I).
(A)合成樹脂エマルジョン
(B)一般式(1)で示されるオルガノシリケート化合物またはその部分加水分解縮合物:
Si(−OR)4 (1)
(式中、Rは同じかまたは異なり、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基であり、少なくとも一つが炭素数1〜4のアルキル基である)
(C)ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物を含有する水性一液型耐汚染性付与塗料用樹脂組成物、
(II).
(A)成分100重量部に対して、(B)成分が0.1〜100重量部、(C)成分が0.01〜100重量部、さらに(D)有機錫化合物成分が0〜20重量部配合されてなることを特徴とする(I)に記載の塗料用樹脂組成物、
(III).
(C)成分中の加水分解性シリル基が炭素数1〜4のアルコキシシリル基を少なくとも一つ有することを特徴とする(I)または(II)に記載の塗料用樹脂組成物、
(IV).
(B)成分のアルキル基の少なくとも1つが、炭素数2以上のアルキル基を含むことを特徴とする(I)〜(III)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(V).
(B)成分が乳化物の状態で配合されてなることを特徴とする(I)〜(IV)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(VI).
(C)成分中のポリエーテル変性シリコーンオイル部分のHLB(Hydrophile Lipophile Balance)が10以上18以下であることを特徴とする(I)〜(V)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(VII).
(D)成分が一般式(2)で示される含硫黄有機錫化合物
(R1)(R2)Sn(S−R3)(S−R4) (2)
(式中、R1、R2は同じかまたは異なり炭素数1〜8の直鎖あるいは分岐したアルキル基、R3、R4は直鎖あるいは分岐した炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基から選ばれる炭化水素基である)であることを特徴とする(II)〜(VI)のいずれかに記載の耐汚染性付与組成物、
(VIII).
(D)成分が乳化物の状態で配合されてなることを特徴とする(II)〜(VII)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(IX).
(A)成分がアクリル樹脂エマルジョンであることを特徴とする(I)〜(VIII)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(X).
(A)成分が、アルコキシシリル基含有重合体のエマルジョンであることを特徴とする(I)〜(IX)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(XI).
(A)成分がポリオキシアルキレン基含有重合体のエマルジョンであることを特徴とする(I)〜(X)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物、
(XII).
(I)〜(XI)のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物を塗布して得られる塗膜、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐汚染性付与組成物は、低コスト・簡易な操作で製造できる。また、本発明の水性一液型耐汚染性付与塗料用樹脂組成物は、塗装初期から優れた耐汚染性が付与された塗膜を形成する。さらに、一液型として使用するに値する期間、その性能を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
(合成樹脂エマルジョン(A))
本発明に使用可能な合成樹脂のエマルジョン(A)としては、公知の各種合成樹脂エマルジョンが挙げられ、アクリル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、ふっ素樹脂エマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アルキド樹脂エマルジョン、メラミン樹脂エマルジョンなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらは単独で使用しても2種以上を併用しても良い。これらの中でコスト、樹脂設計の自由度の高さなどからアクリル樹脂エマルジョンが有利である。
アクリル樹脂エマルジョンとしては、アクリル系単量体、及びアクリル系単量体と共重合可能な単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
【0013】
使用可能な上記単量体、としては、特に限定はないが、具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボニルメタクリレートなどの(メタ)アクリレート系単量体; スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有ビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシスチレン、アロニクス5700(東亜合成(株)製)、placcelFA−1、placcelFA−4、placcelFM−1、placcelFM−4(以上、ダイセル化学(株)製)、HE−10、HE−20、HP−10、HP−20(以上、(株)日本触媒製)、ブレンマーPEPシリーズ、ブレンマーNKH−5050、ブレンマーGLM(以上日油(株)製)、水酸基含有ビニル系変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマーなどの水酸基含有ビニル系単量体;東亜合成(株)製のマクロモノマーであるAS−6、AN−6、AA−6、AB−6、AK−5などの化合物、ビニルメチルエーテル、プロピレン、ブタジエン等が挙げられる。本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタアクリレートを表すこととする。
【0014】
更に、エマルジョンの安定性を向上させることが可能な親水性を有するビニル系単量体も使用可能である。使用可能な親水性基を有するビニル系単量体としては、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−スルホエチルメタクリレートナトリウム、2−スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体が挙げられる。
【0015】
ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体に限定はないが、ポリオキアルキレン鎖を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましい。
【0016】
ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体の具体例としては、日油(株)製ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、AE−90、AE−200、AE−350、PP−500、PP−800、PP−1000、AP−400、AP−550、AP−800、700PEP−350B、10PEP−550B、55PET−400、30PET−800、55PET−800、30PPT−800、50PPT−800、70PPT−800、PME−100、PME−200、PME−400、PME−1000、PME−4000、AME−400、50POEP−800B、50AOEP−800B、AEP、AET、APT、PLE、ALE、PSE、ASE、PKE、AKE、PNE、ANE、PNP、ANP、PNEP−600、共栄社化学(株)製ライトエステル130MA、041MA、MTG、ライトアクリレートEC−A、MTG−A、130A、DPM−A、P−200A、NP−4EA、NP−8EA、EHDG−A、日本乳化剤(株)製MA−30、MA−50、MA−100、MA−150、RMA−1120、RMA−564、RMA−568、RMA−506、MPG130−MA、Antox MS−60、MPG−130MA、RMA−150M、RMA−300M、RMA−450M、RA−1020、RA−1120、RA−1820、新中村化学工業(株)製NK−ESTER M−20G、M−40G、M−90G、M−230G、AMP−10G、AMP−20G、AMP−60G、AM−90G、LA、三洋化成(株)製エレミノールRS−30などがあげられる。このような単量体を用いれば、耐水性や塗膜強度を向上させることができる。ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体は、全単量体100重量部中に0.5〜20重量部用いて共重合されることが好ましい。0.5重量部未満では耐水性付与効果が低く、20重量部を越えると消泡性が低下するため好ましくない。
【0017】
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどの重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体を使用することも可能である。この場合、生成した粒子内部に架橋を有する構造となり、形成した塗膜の耐水性が向上する。
【0018】
また、トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレートなどのふっ素含有ビニル系単量体を使用することにより高度な撥水・撥油性を有するふっ素含有アクリル系樹脂エマルジョンも作製可能である。
【0019】
また、上記単量体にカルボニル基含有ビニル系単量体を共重合し、ヒドラジンおよび/またはヒドラジド基を含有する化合物を配合した架橋型アクリル樹脂エマルションも作製可能である。このような架橋型アクリル樹脂エマルジョンから得られた塗膜の耐水性は、非常に良好である。
【0020】
さらに、上記単量体と加水分解性シリル基を有する単量体を共重合することにより、加水分解性シリル基を含有するアクリル樹脂のエマルジョンが作製可能である。加水分解性シリル基を含有する単量体としては、取扱いの容易さ、価格の点および反応副生成物が生じにくい点から、アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーが好ましい。
【0021】
アルコシキシシリル基含有ビニル系モノマーの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよいし、また2種以上を併用しても良い。
【0022】
水性塗料にした場合の貯蔵安定性の点からγ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシランが特に好ましい。
加水分解性シリル基含有単量体は、全単量体100重量部中に0.1〜50重量部用いて共重合されることが好ましい。0.1重量部未満では耐水性、耐久性が低下し、50重量部を越えるとエマルジョンが不安定となり、0.5〜20重量部がより好ましい。
【0023】
上記のように得られたアルコキシシリル基含有アクリル系エマルジョンは、特に本発明の有機錫化合物(D)が混合された場合、架橋反応が進行し、耐水性・耐候性が良好な塗膜となる。
【0024】
本発明に使用できるアクリル樹脂エマルジョンは、通常の方法を採用することで得ることができるが、エマルジョンの粒子径および安定性を考慮すると乳化重合法が好ましい。
【0025】
前記乳化重合法には特に限定がなく、たとえばバッチ重合法、モノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法などの各種乳化重合法の中から適宜選択して採用することができるが、本発明においては、特に製造時のエマルジョンの安定性を確保する上で、モノマー滴下重合法および乳化モノマー滴下重合法が好ましい。
【0026】
乳化重合に際しては、通常用いられるイオン性または非イオン性の界面活性剤を用いることができる。
【0027】
イオン性界面活性剤としては、たとえばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアリルエーテルサルフェート、オクチルフェノキシエトキシエチルスルホネート、ポリオキシエチレントリデシルエーテルサルフェートなどのポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤;ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、イソオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩;イミダゾリンラウレート、アンモニウムハイドロオキサイドなどのアンモニウム塩などが代表例として挙げられるが、これらの中では、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0028】
また、非イオン性界面活性剤としては、たとえばポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレン類;L−77、L−720、L−5410、L−7602、L−7607(以上、ユニオンカーバイド社製)などのシリコーンを含む非イオン系の界面活性剤などが代表例として挙げられる。
【0029】
本発明においては、界面活性剤として1分子中に重合性二重結合を有する反応性界面活性剤を用いることが耐水性、耐候性の点で好ましい。また、特に分子内にポリオキシアルキレン基を有する反応性界面活性剤を用いた場合には、機械的安定性を向上させることができる。
【0030】
かかる反応性界面活性剤の具体例としては、例えば、(株)ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、SR−10、SR−20、SR−1025、NE−10、NE−20、NE−30、NE−40、SE−10N、日本乳化剤(株)製Antox−MS−60、RMA−1120、RMA−564、RMA−568、RMA−506、第一工業製薬(株)製アクアロンKH−05、KH−10、RN−20、RN−30、RN−50、RN−2025、HS−10、HS−20、HS−1025、BC05、BC10、BC0515、BC1025、三洋化成工業(株)製エレミノールJS−2、エレミノールRS−30、花王(株)製ラテムルS−180、S−180A、PD−104、PD−420、PD−430などが挙げられる。なかでも、環境への配慮から、非アルキルフェノール系のものが好ましい。
【0031】
前記界面活性剤は、単独または2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、単量体全量100重量部に対して10重量部以下、好ましくは0.5〜8重量部である。
【0032】
乳化重合に用いる水性媒体としては、水を必須成分として含有していればよく、他の有機溶剤を含有していても構わない。他の有機溶剤としては、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤およびケトン系溶剤などのうち水溶性の溶剤が挙げられるが、エマルジョンの安定性や環境の観点から有機溶剤は含有しない方が好ましい。
【0033】
重合開始剤としては、特に限定はないが、重合をより安定に行なうために、重合開始剤としてレドックス系を用いることが好ましい。また、重合中の混合液の安定性を保持し、重合を安定に行なうためには、温度は70℃以下、好ましくは40〜65℃であり、pHは5〜9に調整することが好ましい。
【0034】
前記レドックス系に用いる開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられ、これらに組み合わせる還元剤としては、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、Bruggolite FF−6(BruggamannChemicalUS製)、二酸化チオ尿素、L−アスコルビン酸などがあげられる。特に、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物とロンガリット、Bruggolite FF−6または二酸化チオ尿素との組み合わせが好ましい。
【0035】
なお、還元剤は、環境への配慮からホルムアルデヒド発生のないBruggolite FF−6、二酸化チオ尿素が特に好ましい。
【0036】
前記重合開始剤の使用量は、単量体全量100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。かかる重合開始剤の使用量が0.01重量部未満である場合には、重合が進行しにくくなることがあり、10重量部を超える場合には、生成する重合体の分子量が低下する傾向がある。
【0037】
また、重合開始剤の触媒活性を安定的に付与するために、硫酸鉄などの2価の鉄イオンを含む化合物とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート化剤を用いてもよい。かかるキレート化剤の使用量は、単量体全量100重量部に対して0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.5重量部である。
【0038】
重合体の分子量を調節するために連鎖移動剤の添加も可能である。連鎖移動剤としては公知のもの、例えば、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプタン系化合物、クロロホルム、四塩化炭素等の有機ハロゲン化物、スルフィドベンゼン、イソプロピルベンゼン、塩化第二鉄等が挙げられる。
【0039】
アクリル樹脂エマルジョン中の樹脂固形分濃度は、20〜70重量%が好ましく、さらに好ましくは30〜60重量%となるように調整する。かかる樹脂固形分濃度が70重量%を超える場合には、系の濃度が著しく上昇するため、重合反応に伴なう発熱を除去することが困難になったり、重合器からの取り出しに長時間を要するようになる傾向がある。また、樹脂固形分濃度が20重量%未満である場合には、重合操作の面では何ら問題は生じないものの、1回の重合操作によって生じる樹脂量が少なく、経済面で不利となる。
【0040】
なお、本発明に用いられるアクリル樹脂エマルジョンは、平均粒子径が0.02〜1.0μm程度が好ましい。平均粒子径は、重合初期に仕込む乳化剤の量で調整することが可能である。
【0041】
これらアクリル樹脂エマルションは、各社より市販されており、例えば、大日本インキ化学工業(株)製ボンコート、ウォーターゾール、(株)日本触媒製アクリセット、ユーダブル、昭和高分子(株)製ポリゾール、日本エヌエスシー(株)製ヨドゾール、カネビノール、旭化成工業(株)製ポリトロン、ポリデュレックス、中央理化工業(株)製リカボンド、日本アクリル(株)製プライマル、BASFディスパージョン(株)製アクロナール、クラリアントポリマー(株)製モビニール、(株)カネカ製カネカゼムラック、カネビラック等があげられる。
【0042】
ウレタン樹脂エマルジョンとしては、ウレタン樹脂を水中に分散したものであり、ウレタン樹脂に親水基を付与し自己分散型にしたものと、疎水性のウレタン樹脂を乳化剤等で強制的に乳化したものがあり、何れも使用可能である。
【0043】
これらは各社から市販されており、例えば、第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス90、107M、110、126、130、150、150HS、160、300、361、370、410、420、460、460S、500、600、E−2000、E−2500、E−4000、E−4500、E−4700、R−5000、エラストロンBN−08、BN−11、BN−50D、Avecia KK製NeoRez R−960、R−972、R−9637、R−9679、AX−311、R−966、R−967、R−9603、R−600、R−9320、R−9617、R−9621、NeoPac R−9000、R−9699、三井武田ケミカル(株)製タケラックW−615、W−6010、W−6020、W−6061、W−511、W−405、W−7004、W−605、W−512A6、W−635、W−635C、WS−7000、WS−5000、WS−5070X、WS−4000、XW−75−X35、(株)ADEKA製アデカボンタイターHUX−290H、HUX−290K、HUK−290N、HUX−395D、HUX−394、HUX−232、HUX−240、HUX−320、HUX−350、HUX−380、HUX−381、HUX−388、HUX−380A、HUX−386、HUX−401、HUX−750、HUX−670、HUX−680、HUX−575、HUX−580、などがあげられる。
【0044】
ウレタン樹脂エマルジョンは単独系でも他の樹脂系エマルジョンとの混合系でも使用できる。特にアクリル樹脂エマルジョンとの混合系が塗料設計の容易さやコストの点で有用である。
【0045】
ふっ素樹脂エマルジョンとしては、フルオロオレフィン重合体および/またはフルオロオレフィンと共重合可能な単量体との共重合体を水中に分散させたものが使用できる。
【0046】
フルオロオレフィンとしては、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどがあげられる。
【0047】
フルオロオレフィンと共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、ブチルビニルエステル、オクチルビニルエステル、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル(ジャパンエポキシレジン(株)製ベオバ10、ベオバ9、ベオバ11)などのビニルエステル類、スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物、エチルアリルエーテルなどのアリルエーテル類やブチルアリルエステルなどのアリル化合物、(メタ)アクリル酸エステル類などがあげられる。
【0048】
これらは、各社から市販されており、例えば、旭硝子(株)製ルミフロン、ダイキン工業(株)製ゼッフル、セントラル硝子(株)製セフラルコート、大日本インキ化学工業(株)製フルオネートなどがあげられる。
【0049】
上記の合成樹脂エマルジョンのなかでは、有機錫化合物(D)が混合された場合、架橋反応が進行し、耐水性・耐候性が良好な塗膜が得られるため、アルコキシシリル基含有アクリル系エマルジョンが最もよい。
【0050】
(オルガノシリケート化合物(B))
本発明で使用可能なオルガノシリケート化合物(B)としては、加水分解性ケイ素基を含有する化合物であり、下記一般式(1)として示される化合物又はその部分分解縮合物である。
Si(−OR14 (1)
(式中R1は同じか又は異なり炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基であり、少なくとも一つが炭素数1〜4のアルキル基である)
【0051】
具体的化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン及びそれらの部分加水分解・縮合物が例示できる。
【0052】
炭素数5以上のアルキル基のみで構成されている場合には、加水分解速度が極めて遅く、目的とする親水性すなわち耐汚染性が得られないことから、炭素数1〜4のアルキル基を有するものが好ましく、中でも、エチルシリケート45、エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート(株)製)、シリケート45、シリケート40(以上、多摩化学工業(株)製)が好ましい。上記化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用しても良い。
【0053】
また、同一分子中に異なったアルコキシシリル基を含有するオルガノシリケートも使用可能である。例えば、メチルエチルシリケート、メチルプロピルシリケート、メチルブチルシリケート、エチルプロピルシリケート、プロピルブチルシリケートなどである。これら置換基の比率が0〜100%の間で任意に変更可能である。また、これらのシリケートの部分加水分解・縮合物も使用可能であると記述したが、縮合度は1〜20程度が好ましい。更に好ましい縮合度の範囲は、3〜15である。
【0054】
上記オルガノシリケート化合物ではアルコキシシリル基の炭素数は1〜4の化合物を例示しているが、炭素数が少なくなるほど反応性が向上することは一般的に知られている。水性塗料へ添加した場合、炭素数が小さいオルガノシリケート、例えば、メチルシリケートを用いた場合、反応性が高く、貯蔵安定性を充分に確保できない傾向にある。このため、用いるオルガノシリケート化合物のアルキル基の少なくとも一つの炭素数が2以上であることが好ましい。
【0055】
オルガノシリケート化合物(B)の使用量は、合成樹脂エマルジョン(A)100重量部に対し、0.1〜100重量部、好ましくは3〜20重量部となる量である。0.1重量部未満では得られる塗膜の耐汚染性が十分ではない傾向にあり、100重量部を越えると塗膜外観やクラックなどの問題が発生する傾向にある。
【0056】
(オルガノシリケート化合物(B)の乳化物)
本発明に係るオルガノシリケート化合物(B)の乳化物は、オルガノシリケート化合物(B)を、界面活性剤を用いて水性媒体中に乳化して得る。この乳化剤としては、通常用いられるアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤が例示できる。中でも、本発明においては、アルカリ金属塩であるアニオン系界面活性剤を必須の成分として用いるとより安定性が向上するため好ましい。
【0057】
アニオン系界面活性剤としては、たとえばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルサルフェートなどのポリオキシエチレンアリールエーテルサルフェート、ポリオキシエチレントリデシルエーテルサルフェートなどのポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートなどのポリオキシエチレン鎖を有する硫酸エステル;ラウリルサルフェートなどの硫酸エステル;ラウリルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸などのスルホン酸;ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸などのアルキルスルホコハク酸;アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステルなどおよびそれらの塩があげられる。
【0058】
アニオン系界面活性剤の中和カチオン種は、種々選択できるが、本発明においてはアルカリ金属、好ましくはナトリウムまたはカリウムイオンを用いた界面活性剤が用いられる。この中和カチオン種の選択により、オルガノシリケート化合物の乳化物の安定性を向上させることができる。
【0059】
上記のアニオン系界面活性剤の中で、アルキルスルホコハク酸系界面活性剤を用いた場合、乳化安定性が向上し、組成物の貯蔵安定性および得られる塗膜の外観の双方を向上させることから好ましい。アルキルスルホコハク酸系界面活性剤の具体例としては、日本乳化剤(株)製ニューコール290、291、293、第一工業製薬(株)製ネオコールSW−C、YSK、P、花王(株)製ペレックスCS、OT−Pがあげられる。
【0060】
また、アルキルスルホコハク酸系界面活性剤にポリオキシエチレン鎖を有する硫酸エステル系界面活性剤を併用した場合、乳化安定性がさらに向上し、好ましい。
【0061】
ノニオン系界面活性剤としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルなどのポリオキシエチレン鎖を有するもの;ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの水酸基を有するもの;信越化学工業(株)製KF−351、KF−352、KF−353、KF−354、KF−355、KF−615、KF−618、KF−945、KF−907、X−22−6008、X−22−811、X−22−812、東レ・ダウコーニング社製SH3748、SH3749、SH3771、SH8400、SF8410、SF8700などの片末端および/または両末端および/または側鎖をポリアルキレンオキシドで変性したポリオルガノシロキサンであるシリコーン系界面活性剤;アセチレングリコール系界面活性剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルアミド共重合体などの水溶性高分子系などがあげられる。
【0062】
これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、オルガノシリケート化合物(B)100重量部に対して0.05〜100重量部、好ましくは、0.1〜50重量部である。0.05重量部未満では安定な乳化物が得られず、貯蔵安定性も低下する。100重量部を越えると得られる塗膜の外観や耐水性などが低下する傾向にある。
【0063】
オルガノシリケート化合物(B)の乳化物に用いる水性媒体としては、水を必須成分として含有していればよく、他の有機溶剤含有していても構わない。他の有機溶剤としては、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤およびケトン系溶剤などのうち水溶性の溶剤が挙げられるが、乳化物の安定性や環境の観点から有機溶剤は含有しない方が好ましい。
【0064】
オルガノシリケート化合物(B)の乳化物は、pHを6〜10に保つのが好ましい。この範囲外では、シリコン化合物の加水分解が起こりやすくなる。pH6以下では、加水分解が促進されるため、それに続く縮合反応も徐々に進行し、貯蔵安定性を保持できなくなる傾向がある。また、pH10を超えると乳化物が不安定になるだけでなく作業上の問題も生じる。
【0065】
pHの調整、維持の方法あるいは順序については、特に限定しないが、乳化物作製時点から行うことが好ましい。pHの調整に用いる酸、塩基、pHの維持に用いる緩衝剤は、一般に使用されるものであれば、特に限定されないが、塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;アンモニア、有機アミン類など、緩衝剤としては、たとえば炭酸水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウムなどの炭酸塩、リン酸塩またはカルボン酸塩があげられる。これらのpH調整剤、緩衝剤において、アルカリ金属を含むものが好ましく、炭酸水素ナトリウムの使用がより好ましい。
【0066】
乳化液中のオルガノシリケート化合物の固形分濃度は、5〜60重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。固形分濃度が60重量%を超える場合には、乳化液の粘度が上昇、乳化安定性を損なう等の問題が生じる可能性があり、5重量%未満の場合には、得られる塗膜の膜厚が薄くなるなど、塗装作業性、塗膜性能低下の点で不利となる。
【0067】
オルガノシリケート化合物の乳化物の作製は、上記の各成分と水性媒体を一般的な乳化方法により乳化することによる。乳化方法としては、オルガノシリケート化合物と界面活性剤を混合、これに水をゆっくりと添加し、油中水型乳化物から水中油型乳化物に相反転させる、いわゆる転相乳化法;各成分を混合後、また予備乳化後にディスパー、高圧ホモジナイザーなどで機械的に微分散する方法などがあげられる。
【0068】
(ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物(C))
本発明では、ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端を加水分解性シリル基で変性して使用する。ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端を加水分解性シリル基で変性する方法としては、アミノ基や水酸基含有ポリエーテル変性シリコーンオイルとイソシアネートシラン類を反応させ変性する方法やエポキシ基含有ポリエーテル変性シリコーンオイルとアミノシラン類を反応させ変性する方法などが挙げられる。
【0069】
中でも、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーンオイルとイソシアネートシラン類を反応させ変性する方法が、加水分解性シリル基で変性したのちの安定性を良好に保たせることができるため好ましい。
【0070】
ポリエーテル変性シリコーンオイルとしては、HLBが10以上18以下のものが好ましい。HLBが10より小さい場合には、親水性が低い為、耐汚染性の発現が不十分である場合があり好ましくない。またHLBが18より大きい場合には、耐水性が低下する場合があり好ましくない。
【0071】
HLB値は、実験的に決定する方法もあるが、グリフィンの式(HLB=20×親水部の式量の総和/分子量)などにより算出する法が簡便である。
【0072】
アミノ基含有ポリエーテル変性シリコーンオイルの具体例としては、側鎖および/または末端にポリオキシアルキレン基を有し、且つ一分子中に一つ以上のアミノ基を有するシリコーンオイルが挙げられ、東レ・ダウコーニング(株)製のBY16−893、FZ−3789、BY16−878、BY16−891などが市販されている。
【0073】
水酸基および/またはアミノ基を含有するポリエーテル変性シリコーンオイルの具体例としては、側鎖および/または末端にポリオキシアルキレン基を有し、且つ一分子中に一つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルが挙げられ、東レ・ダウコーニング(株)製のSF8427、SF8428、FZ−2161、FZ−2162、SH3773M、L−7604などが市販されている。
【0074】
イソシアネートシランとしては、一分子中にイソシアネート基とアルコキシシリル基を有する化合物であればよく、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のA−1310やY−5187などが市販されている。
【0075】
エポキシ基含有ポリエーテル変性シリコーンオイルの具体例としては、側鎖および/または末端にポリオキシアルキレン基を有し、且つ一分子中に一つ以上のエポキシ基を有するシリコーンオイルが挙げられ、東レ・ダウコーニング(株)製のSF8421などが市販されている。
【0076】
アミノシランとしては、一分子中にアミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物であればよく、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のA−1100やA−1120、東レ・ダウコーニング(株)製のZ−6011やZ−6023などが市販されている。
【0077】
これらのポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物(C)の使用量は、合成樹脂エマルジョン(A)100重量部に対して、0.01〜100重量部用いられるのが好ましい。0.01重量部以下では、目的とする耐汚染性が不十分となる場合があり好ましくない。また100重量部を超えると、塗膜の耐水性が低下する場合があり好ましくない。
【0078】
(有機錫化合物(D))
本発明では、初期の耐汚染性を向上させる目的で、有機錫化合物(D)を配合することができる。有機錫化合物(D)としては、たとえばジオクチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケ−トとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジステアレ−ト、ジブチル錫ジアセチルアセトナ−ト、ジブチル錫ビス(エチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(ブチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(オレイルマレ−ト)、スタナスオクトエ−ト、ステアリン酸錫、ジ−n−ブチル錫ラルレ−トオキサイドがある。また、分子内にS原子有する錫化合物としては、ジブチル錫ビスイソノニル−3―メルカプトプロピオネ−ト、ジオクチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、オクチルブチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−トなどが挙げられる。
【0079】
なかでも、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3−メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジブチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジオクチル錫ビスドデシルメルカプチドなどが安定性がよく、更に、水中での安定性および貯蔵後の塗料を用いても接触角が低下するという点から、一般式(2)で示される含硫黄有機錫化合物
(R1)(R2)Sn(S−R3)(S−R4) (2)
(式中、R1、R2は同じかまたは異なり炭素数1〜8の直鎖あるいは分岐したアルキル基、R3、R4は直鎖あるいは分岐した炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基から選ばれる炭化水素基である)であることが好ましく、具体的にはジブチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジオクチル錫ビスドデシルメルカプチドなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
(D)成分は合成樹脂エマルジョン(A)100重量部に対し、0〜20重量部配合することができ、好ましくは15重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。配合量が20重量部を超えると(D)の存在量が多くなり、塗膜の耐候性が低下する場合があり好ましくない。
【0081】
(有機錫化合物(D)の乳化物)
本発明に係る有機錫化合物(D)の乳化物は、有機錫化合物(D)を、界面活性剤を用いて水性媒体中に乳化して得る。この乳化剤としては、通常用いられるアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤が例示できる。これらの界面活性剤に特に制限はないが、アニオン系界面活性剤とノニオン界面活性剤を組み合わせた場合、より安定性がよくなるので好ましい。
【0082】
各界面活性剤の具体例としては、前記オルガノシリケート化合物(B)の乳化物で挙げた界面活性剤が例示できる。
【0083】
これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、有機錫化合物(D)100重量部に対して10〜300重量部、好ましくは、30〜200重量部である。30重量部未満では安定な乳化物が得られず、200重量部を越えると得られる塗膜の外観や耐水性の低下などが低下する傾向にある。
【0084】
本発明に使用できる合成樹脂のエマルジョンに、必要に応じて、通常塗料に用いられる顔料(二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリンなどの白色顔料、カーボン、ベンガラ、シアニンブルーなどの有色系顔料)が使用できる。二酸化チタンは顔料のなかでも最も使用量が多く重要である。アルミナ、ジルコニアにより表面処理された二酸化チタンを用いることにより光沢、耐候性が向上する。また、造膜助剤、コロイダルシリカ、可塑剤、溶剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの通常の塗料用成分として使用される添加剤を配合することもできる。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0086】
(アクリル系樹脂エマルジョンの製造例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、初期仕込みとして脱イオン水41.7重量部、ネオコールP(第一工業製薬(株)製:有効成分75%)0.08重量部、5%炭酸水素ナトリウム水溶液0.25重量部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。昇温後、7%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液0.5重量部、20%Bruggolite FF−6水溶液0.27重量部、0.10%硫酸第一鉄・7水和物と0.40%エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの混合水溶液0.35部を添加し、1段目として表1の(Em−1)コア部に示すモノマー混合物50重量部にネオコールP 1.0重量部、アデカリアソープER−20((株)ADEKA製:有効成分75%)0.8重量部および脱イオン水20.0重量部を加え乳化したモノマー乳化液を260分かけて等速追加した。その間、7%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液0.55重量部および2.5%Bruggolite FF−6水溶液0.43重量部を3回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1時間後重合を行った。
【0087】
さらに、7%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液0.15重量部、2.5%Bruggolite FF−6水溶液0.55重量部および0.10%硫酸第一鉄・7水和物と0.40%エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの混合水溶液0.35部を添加し、2段目として表1(Em−1)のシェル部に示すモノマー混合物50重量部にネオコールP 1.0重量部、アデカリアソープER−20 0.2重量部および脱イオン水20.0重量部を加え乳化したモノマー乳化液を200分かけて等速追加した。その間、7%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液0.6重量部および2.5%Bruggolite FF−6水溶液0.85重量部を4回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1.5時間後重合を行った。得られたエマルジョンに5%炭酸水素ナトリウム水溶液5.5部を添加後、脱イオン水で固形分50%に調整しアクリル系樹脂エマルジョン(Em−1)を得た。
【0088】
(アクリル系樹脂エマルジョンの製造例2)
製造例1のコア部、シェル部の各モノマーを表1の(Em−2)に変更する以外は、製造例1と同様にして、初期仕込み界面活性剤、モノマー乳化用界面活性剤を有効成分が同じ重量となるように表1に示す界面活性剤に変更し、使用する脱イオン水量を調整して樹脂固形分が50重量%のアクリル系樹脂エマルジョン(Em−2)を得た。
【0089】
【表1】

【0090】
メタクリレート100:ポリオキシエチレン鎖含有親水性ビニル系単量体(日本乳化剤(株)製)
ブレンマーPE200:ポリオキシエチレン鎖含有親水性ビニル系単量体(日油(株)製)
【0091】
(塗料の作成)
合成した樹脂エマルジョンを用い、表2の顔料ペーストを用いて、表3に示す配合処方(重量部)で塗料を作製した(AS−1および2)。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
(オルガノシリケート乳化物の製造方法:製造例1〜3)
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗を備えた容器に、表4に示すオルガノシリケート化合物30重量部とネオコールSW−C(第一工業製薬(株)製:有効成分70%、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩)10重量部、ハイテノールXJ−630S(第一工業製薬(株)製:有効成分30%、ポリオキシアルキレンデシルエーテル硫酸エステルナトリウム塩)5重量部を混合し、攪拌しながら、脱イオン水を55重量部を滴下して、有効固形分濃度30%のオルガノシリケート化合物の乳化物(B−1)を得た。目視にて分離・沈降がないことを確認した。
【0095】
同様にして、有効固形分濃度30%のオルガノシリケート化合物の乳化物(B−2および3)を得た。
【0096】
【表4】

【0097】
シリケート40: エチルシリケート部分加水分解縮合物(シリカ残量比率40%)(多摩化学工業(株)製)
シリケート45: エチルシリケート部分加水分解縮合物(シリカ残量比率45%)(多摩化学工業(株)製)
ノイゲンGIS320:トリイソステアリン酸PEG−20グリセリン(有効成分100%)(第一工業製薬(株)製)
【0098】
(ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物の製造方法:製造例1〜3)
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗を備えた容器に表5に示すように、ポリエーテル変性シリコーンオイルおよびトルエンを秤量し混合した。次いで攪拌しながら、イソシアネートシランを滴下し、その後60℃で3時間反応を促進させた。その後、IRにて2270cm-1付近のピーク(NCO由来)が消失していることを確認した。さらに、エバポレーターでトルエンを脱揮し、有効固形分濃度100%の加水分解性シリル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(C−1)を得た。
【0099】
同様にして、有効固形分濃度100%の(C−2およびC−3)を得た。
【0100】
【表5】

【0101】
FZ2161:末端OHポリエーテル変性シリコーンオイル(当量850 HLB13)
(東レ・ダウコーニング(株)製)
FZ2162:末端OHポリエーテル変性シリコーンオイル(当量750 HLB14)
(東レ・ダウコーニング(株)製)
【0102】
(有機錫化合物の乳化物製造方法:製造例1〜2)
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗を備えた容器に表6に示すように、有機錫化合物を秤量し、次いで界面活性剤成分を添加、混合した。攪拌しながら、脱イオン水を滴下して、有効固形分濃度10%の有機錫化合物の乳化物(D−1)を得た。目視にて分離・沈降がないことを確認した。
【0103】
同様にして、有効固形分濃度15%の有機錫化合物の乳化物(D−2)を得た。
【0104】
【表6】

【0105】
(物性評価)
・塗膜作製
表7に示す各成分を順次配合し、1000rpmにて5分間攪拌し、一液型耐汚染性付与塗料用組成物を作成した。作成3時間後および密閉状態で40℃にて1ヶ月保存した後の一液塗料をそれぞれ6ミルのアプリケーターでガラス板に塗装し、7日間室温で養生した。その後、水に14日間浸漬、室温乾燥後に塗膜の水接触角を測定した。結果を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
・塗膜の水接触角の測定
協和界面科学(株)製接触角測定機CA−S150を使用し、純水の接触角を測定した。値が低いほど表面親水性が高く、耐汚染性に優れることを示し、70°以下であれば実際の屋外暴露試験での耐汚染性の効果が顕著となる傾向がある。特に水浸漬後の値は、降雨後の状態を想定しており、この値が低いことは、表面親水性の耐久性、持続性が高く、長期にわたる耐汚染性の効果が顕著となる傾向がある。
【0108】
実施例1〜5は、一液型水性塗料組成物を40℃、1ヶ月貯蔵した後の白エナメル塗膜で水浸漬後の水接触角が65°〜70°であり、実際の屋外曝露試験において、耐汚染性の効果が得られると考えられる表面親水性の値を、貯蔵後においても満足するものであった。
【0109】
これに対して比較例1では、初期および貯蔵後の接触角はそれぞれ74°、78°と親水性の発現が遅く耐汚染性を期待できるものではなかった。また比較例2では、初期の接触角は51°と良好なものの、貯蔵後は水接触角が85°へ上がり、充分な親水性を発現するに至らなかった。加水分解性シリル基を含有しないポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した比較例3では、初期の接触角は67°まで低下したが、貯蔵後は82°となり比較例2と同様に、充分な親水性を発現するには至らなかった。
【0110】
以上のように本発明の一液型水性塗料組成物は、良好な表面親水性およびその貯蔵安定性を有していることが確認され、耐汚染性に優れた塗膜を与える一液型水性塗料組成物として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の耐汚染性が付与された水性塗料は、例えば建築内外装用、アルミニウム、ステンレスなどの金属直塗用、スレート、コンクリート、瓦、モルタル、石膏ボード、石綿スレート、アスベストボード、プレキャストコンクリート、軽量気泡コンクリート、硅酸カルシウム板、タイル、レンガなどの窯業系直塗用、ガラス用、天然大理石、御影石等の石材用の塗料あるいは上面処理剤として用いられる。
【0112】
また、直塗用だけでなく、水系あるいは溶剤系プライマー上、アクリルゴム上、複層仕上塗材のトップコート、可とう形改修用仕上塗材のトップコート、コンクリート等の無機系基材に水系あるいは溶剤系浸透性吸水防止材上の塗装にも用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)合成樹脂エマルジョン
(B)一般式(1)で示されるオルガノシリケート化合物またはその部分加水分解縮合物:
Si(−OR)4 (1)
(式中、Rは同じかまたは異なり、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基であり、少なくとも一つが炭素数1〜4のアルキル基である)
(C)ポリエーテル変性シリコーンオイルの側鎖および/または末端に加水分解性シリル基を有する化合物
を含有する水性一液型耐汚染性付与塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分100重量部に対して、(B)成分が0.1〜100重量部、(C)成分が0.01〜100重量部、さらに(D)有機錫化合物成分が0〜20重量部配合されてなることを特徴とする請求項1に記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分中の加水分解性シリル基が炭素数1〜4のアルコキシシリル基を少なくとも一つ有することを特徴とする請求項1または2に記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分のアルキル基の少なくとも1つが、炭素数2以上のアルキル基を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分が乳化物の状態で配合されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分中のポリエーテル変性シリコーンオイル部分のHLB(Hydrophile Lipophile Balance)が10以上18以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項7】
(D)成分が一般式(2)で示される含硫黄有機錫化合物
(R1)(R2)Sn(S−R3)(S−R4) (2)
(式中、R1、R2は同じかまたは異なり炭素数1〜8の直鎖あるいは分岐したアルキル基、R3、R4は直鎖あるいは分岐した炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基から選ばれる炭化水素基である)であることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の耐汚染性付与組成物。
【請求項8】
(D)成分が乳化物の状態で配合されてなることを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項9】
(A)成分がアクリル樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項10】
(A)成分が、アルコキシシリル基含有重合体のエマルジョンであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項11】
(A)成分がポリオキシアルキレン基含有重合体のエマルジョンであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の塗料用樹脂組成物を塗布して得られる塗膜。

【公開番号】特開2010−209171(P2010−209171A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54945(P2009−54945)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】