説明

水性二重発色インキ組成物

【課題】筆跡の輪郭線を濃色に形成するために、染料として濃色のものを用いた場合にも、中心線を形成するパール顔料が染料によって有害な影響を受けることなく、むしろ、良好に発色して、強い真珠光沢をもつ中心線を形成すると共に、このような中心線と明瞭に区別される輪郭線を形成することができる水性二重発色インキ組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、
(a)白地と黒地との間での発色色差ΔE* が30〜80の範囲にあり、白地におけるL* が80以上であるパール顔料、
(b)水、
(c)分岐した疎水性基を有するアルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機溶剤及び
(d)水溶性染料を含む水性二重発色インキ組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙のような浸透性の多孔質基材上に筆記したとき、真珠光沢を有する中心線とそれを囲む輪郭線とからなる二重に発色した筆跡、即ち、縁取りを有する筆跡を与える水性二重発色インキ組成物に関する。更に、本発明は、そのような水性二重発色インキ組成物からなる筆記具用インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物と、そのような水性二重発色インキ組成物を用いる筆記具、特に、水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性二重発色インキ組成物は、例えば、アルミニウム粉のような金属粉顔料と水溶性染料と水と浸透性有機溶剤とを含んでなり(特許文献1から3参照)、上記浸透性有機溶媒を浸透させ、又は吸収し得る紙のような多孔質基材上に上記インキ組成物を用いて筆記すれば、上記金属粉顔料はそれらが接触した基材にその場で直ちに捕捉されて、筆記したとおりに金属光沢を有する中心線を形成し、その中心線の周囲に上記染料が上記浸透性有機溶媒と共に基材中を浸透拡散し、いわば、中心線から染み出して、前記中心線を囲むように帯状の輪郭線を形成し、かくして、二重に発色した筆跡、即ち、縁取りを有する筆跡を与える。このような二重発色インキ組成物は、マーキングペン、サインペン、水性ボールペン等のためのインキ組成物として用いられている。
【0003】
このような従来の二重発色インキ組成物においては、筆跡の中心線が染料の発色によって影響を受けることなく、顔料によって形成されると共に、輪郭線が中心線から明瞭に区別されるように、顔料として隠蔽力の強い金属粉顔料が用いられている。従って、このような二重発色インキ組成物によれば、筆跡の中心線は、用いた染料によらずに、上記金属粉顔料が本来、有する色を呈するが、光沢が不足する点は否めない。そこで、最近、顔料として、金属粉顔料と共に、又は金属粉顔料に代えて、パール顔料を用いてなる水性二重発色インキ組成物が提案されている(特許文献4参照)。
【0004】
しかし、従来、パール顔料を用いる二重発色インキ組成物においては、パール顔料が金属粉顔料に比べれば、隠蔽性に乏しいので、筆跡の中心線は、用いた染料の色の影響を受けて、明瞭な二重発色の効果が得られ難い問題がある。勿論、従来においても、例えば、淡色の染料を用いて、輪郭線を淡色に形成する場合であれば、パール顔料が隠蔽性に劣るとはいえ、筆跡の中心線は、ほぼ、パール顔料が本来、有する色を呈し、輪郭線も淡色ながら、一応、形成される。しかし、反対に、筆跡の輪郭線を濃色に形成するために、染料として濃色のもの、例えば、黒色、紺色、褐色、濃緑色等を用いる場合には、従来のパール顔料を用いる二重発色インキ組成物においては、輪郭線はそのような染料によって明瞭に濃色で形成されるが、中心線は、濃色の染料の影響を受けるので、中心線の真珠光沢と濃色の輪郭線とが視覚的に明瞭に区別され難くなって、明瞭な二重発色の効果が得られ難い問題がある。即ち、濃色の染料が中心線を形成するパール顔料の発色に有害な影響をもたらして、中心線がパール顔料によって明瞭に形成されない。
【特許文献1】特開昭60−231777号公報
【特許文献2】特開昭61−123684号公報
【特許文献3】特開2000−129188号公報
【特許文献4】特開2007−031558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の水性二重発色インキ組成物における上述した問題を解決するためになされたものであって、筆跡の輪郭線を濃色に形成するために、染料として濃色のものを用いた場合にも、中心線を形成するパール顔料が染料によって有害な影響を受けることなく、むしろ、良好に発色して、強い真珠光沢をもつ中心線を形成すると共に、このような中心線と明瞭に区別される輪郭線を形成することができる水性二重発色インキ組成物を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、上述したような水性二重発色インキ組成物からなる筆記具用インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物を提供することを目的とし、更に、上述したような水性二重発色インキ組成物を用いる筆記具、特に、水性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
(a)白地と黒地との間での発色色差ΔE* が30〜80の範囲にあり、白地におけるL* が80以上であるパール顔料、
(b)水、
(c)分岐した疎水性基を有するアルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機溶剤及び
(d)水溶性染料を含む水性二重発色インキ組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性二重発色インキ組成物によれば、染料として濃色のものを用いた場合であっても、有色で強い真珠光沢を有する中心線と、これと明瞭に区別される輪郭線とからなる筆跡を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、
(a)白地と黒地との間での発色色差ΔE* が30〜80の範囲にあり、白地におけるL* が80以上であるパール顔料、
(b)水、
(c)分岐した疎水性基を有するアルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機溶剤及び
(d)水溶性染料を含む。
【0010】
本発明による水性二重発色インキ組成物において用いるパール顔料は、白地と黒地との間での発色色差ΔE* が30〜80の範囲にあり、白地におけるL* が80以上であるという性質を有するものであることが必要である。このような色特性を有するパール顔料は、白地における発足が非常に小さいという特徴を有する。
【0011】
CIE(国際照明委員会)が定めた表色系の1つにL*** 表色系が知られている。この表色系においては、L* はその色の明度を示し、値が大きい程、白いことを意味し、小さい程、黒いことを示す。完全な白色のL* は100である。a* とb* とは色相と彩度を表す色度を示す。即ち、L*** 表色系によれば、1つの色は1つの座標 (L*, a*, *)で表され、そこで、第1の色(L1*, a1*, 1*) と第2の色(L2*, a2*, 2*) との間の色差ΔEは、その2つの色の間の距離、即ち、次式(1)
ΔE= ((L1*−L2*)2 +(a1*−a2*)2 +(b1*−b2*)2 )1/2 …(1)
で表される。
【0012】
本発明においては、上述したような色特性を有する限り、魚鱗箔、塩基性炭酸塩、オキシ塩化ビスマス等のようなパール顔料も用いることができるが、好ましくは、天然マイカや合成マイカの表面を酸化チタンや酸化鉄のような金属酸化物で被覆したものが用いられる。
【0013】
更に、本発明において用いるパール顔料は、その平均粒子径が5〜60μmの範囲にあることが好ましい。パール顔料の平均粒子径が5μmよりも小さいときは、真珠光沢が弱まる。また、パール顔料の平均粒子径の上限は、本発明による二重発色インキ組成物の用途にもよるが、例えば、ボールペン用のインキ組成物とする場合には、通常、60μmである。パール顔料の平均粒子径が60μmを超えるときは、インキの吐出が悪くなる。
【0014】
本発明によれば、前述した色特性を有するパール顔料として、例えば、Iriodin 201(粒子径5〜25μm、パール色)、221(同5〜25μm、パール色)、231(同5〜25μm、パール色)等を挙げることができる。本発明によれば、前述した色特性を有するパール顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明によれば、パール顔料は、インキ組成物において、4〜20重量%の範囲、好ましくは、5〜15重量%の範囲で用いられる。インキ組成物において、パール顔料の含有量が20重量%を超えるときは、インキ組成物中の固形分濃度が高くなり、インキ組成物の粘度や流動性等に悪影響を与えることがある。しかし、4重量%よりも少ないときは、形成される筆跡において、筆跡の中心線の発色が弱くなって、目的とする二重発色の効果が得られなくなるおそれがある。
【0016】
前述したように、染料として濃色の染料を用いるとき、上記色特性を有するパール顔料を用いることによって、従来、知られている二重発色インキ組成物におけるように、中心線の部分において染料による発色を顔料にて隠蔽するのではなく、むしろ、中心線の部分において染料による発色を利用して、パール顔料による中心線に発色性のよい強い有彩色を与えると共に、上記濃色の染料にて濃色で明瞭で且つ中心線に対して視覚的に明確に区別される輪郭線を有する筆跡を与える水性二重発色インキ組成物を得ることができる。
【0017】
本発明による二重発色インキ組成物において、水溶性有機溶剤は、インキ組成物中の染料を基材中を拡散浸透させて、中心線の周囲に輪郭線を形成させる機能を有する。本発明においては、そのような水溶性有機溶剤として、分岐した疎水性基を有するアルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種が用いられる。ここに、「分岐した疎水性基を有する」構造とは、鎖状化合物において疎水性基が主鎖に側鎖として結合している構造を意味する。疎水性基は、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、好ましくは、メチル基又はエチル基等である。疎水性基は、分子中に1つ又は2つ以上有していてもよく、また、2つ以上有する場合は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0018】
上記の水溶性有機溶剤のうち、分岐した疎水性基を有するアルコール類としては、炭素原子数4〜6の脂肪族飽和アルコールが好ましく用いられる。このようなアルコールとして、例えば、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール)、イソペンタノール、s−ペンタノール、t−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−エチルブタノール、4−メチル−2−ペンタノール等を挙げることができる。
【0019】
分岐した疎水性基を有するグリコール類及びグリコールエーテル類としては、例えば,1,3−オクチレングリコール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)誘導体、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。
【0020】
本発明によれば、上述した種々の有機溶剤のなかでも、特に、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル又はヘキシレングリコールが好ましく用いられる。
【0021】
本発明による二重発色インキ組成物は、上記水溶性有機溶剤を、通常、1〜50重量%、好ましくは、5〜30重量%の範囲で含む。インキ組成物において、溶性有機溶剤の含有量が50重量%を超える場合は、水溶性樹脂の溶解性が低下して、インキ組成物中に析出するおそれがある。他方、水溶性有機溶剤の含有量が1重量%よりも少ないときは、筆記したときに、染料が基材中を十分に浸透拡散せず、明瞭な縁取りを有する筆跡を得ることが困難となる。また、水に対して、水溶性有機溶剤の量が多い程、幅の大きい輪郭線が形成されるが、同時に、インキ組成物の安定性が悪くなる。そこで、本発明においてにおいては、水/水溶性有機溶剤重量比は、1.5〜4の範囲とするのが好ましい。
【0022】
本発明において、水溶性染料は、主として、筆跡の輪郭線を形成する着色剤であって、通常、アントラキノン系染料、ジフェニルメタン系染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料、アクリジン系染料、1:1型金属錯塩染料、1:2型金属錯塩染料及び銅フタロシアニン系染料から選ばれる少なくとも1種が用いられる。なかでも、本発明においては、ジフェニルメタン系染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料、アクリジン系染料及び金属錯塩染料の少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0023】
アントラキノン系染料としては、アントラキノン骨格を有するものであればよく、アントラキノン誘導体やアントロン誘導体等を含む。従って、アントラキノン系染料の具体例として、例えば、C.I.Acid Blue 27、C.I.Acid Blue 43、C.I.Acid Green 25、C.I.Basic Violet 25、C.I.Basic Blue 60、C.I.Mordant Red 11、C.I.Acid Red 83、C.I.Direct Green 28、C.I.Mordant Blue 48等を挙げることができる。
【0024】
ジフェニルメタン系染料の具体例として、例えば、 C.I.Basic Yellow 2、C.I.Basic Yellow 3、C.I.Basic Yellow 37等を挙げることができる。トリフェニルメタン系染料の具体例としては、例えば、C.I.Acid Bluue 90、C.I.Acid Blue 104、C.I.Acid Gren 16、C.I.Acid Violet 49、C.I.Acid Red 9、C.I.Basic Blue 7、C.I.Acid Violet 1、C.I.Acid Red 289、C.I.Direct Blue 41、C.I.Mordant Blue 1、C.I.Mordant Violet 1等を挙げることができる。
【0025】
キサンテン系染料の具体例としては、例えば、C.I.Acid Yellow 73、C.I.Acid Yellow 74、C.I.Acid Red 52、C.I.Acid Violet 30、C.I.Basic Red 1、C.I.Basic Violet 10、C.I.Mordant Red 27、C.I.Mordant Violet 25等を挙げることができる。アクリジン系染料の具体例としては 例えば、C.I.Basic Yellow 6、C.I.Basic Yellow 7、C.I.Basic Orange 14、C.I.Basic Orange 15等を挙げることができる。
【0026】
金属錯塩染料は、通常の金属錯塩染料のほか、金属を含有する染料及び金属と配位結合し得る染料を含むものとする。金属と配位結合し得る染料としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を有するアゾ系染料等を挙げることができる。このようなアゾ系染料としては、例えば、C.I.Mordant Red 30、C.I.Mordant Yellow 3、C.I.Mordant Green 15、C.I.Mordant Blue 13等を挙げることができる。
【0027】
本発明によれば、これらの金属錯塩染料のなかでも、特に銅フタロシアニン系染料、1:1型金属錯塩染料又は1:2型金属錯塩染料が好ましく用いられる。具体的には、銅フタロシアニン系染料の具体例としては、 例えば、C.I.Direct Blue 86等を、1:1型金属錯塩染料の具体例としては、例えば、C.I.Acid Yellow 54、C.I.Acid Orange 74、C.I.Acid Red 186、C.I.Acid Violet 56等を、1:2型金属錯塩染料の具体例としては、例えば、 C.I.Acid Yellow 59、C.I.Acid Black 60、C.I.Acid Red 296、C.I.Acid Blue 167等をそれぞれ挙げることができる。
【0028】
本発明において、インキ組成物中の水溶性染料の含有量は、水溶性染料の種類等に応じて適宜に定められるが、通常、0.05〜5重量%の範囲であり、好ましくは、0.1〜3重量%の範囲である。インキ組成物における水溶性染料の含有量が5重量%よりも多いときは、得られるインキ組成物の粘度や流動性に悪影響を与えることがある。反対に、インキ組成物中の水溶性染料の割合が0.05重量%よりも少ないときは、得られるインキ組成物が所望の輪郭線を有する筆跡を与えることが困難である。
【0029】
本発明による二重発色インキ組成物は、必要に応じて、縁取りを有する筆跡の基材への定着性を高めるために水溶性定着剤を含有していてもよく、また、特に、低温下における長期間にわたる保存安定性を有せしめるために尿素やその誘導体を含有していてもよい。
【0030】
水溶性定着剤としては、加工でんぷんが好ましく用いられる。加工でんぷんとは、馬鈴薯でんぷん、とうもろこしでんぷん、タピオカでんぷん、小麦でんぷん等の原料でんぷんに官能基を付与した誘導体や、原料でんぷんの分解物や原料でんぷんを熱等による物理的処理を施したものをいう。
【0031】
でんぷんの有する無水グルコ−ス残基に官能基を付与したでんぷん誘導体としては、例えば、ヒドロキシプロピルでんぷん(ペノンJE−66,パイオスターチK5等)、カルボキシメチルでんぷん(キプロガムF−500,キプロガムM−800A等)、カチオンでんぷん(エキセルDH、ペトロサイズJ等)に代表されるエーテル化でんぷん、酢酸でんぷん(ZP−2、Z−100等)、オクテニルコハク酸でんぷん(ナチュラルニスク、オクティエ等)、リン酸でんぷん(ブリバイン)に代表されるエステル化でんぷん、リン酸ジでんぷん(セレックス、GFM等)、グリセロールジでんぷん(ロンガムCE−3,レオタックML等)に代表される架橋でんぷん、グラフト化でんぷん(ペトロサイズL−2B、ペトロコートC−8等)等を挙げることができる。
【0032】
でんぷんの分解物としては、白色デキストリン(赤玉デキストリンMF−30、No.4−C等)、黄色デキストリン(赤玉デキストリンNo.102S、ND−S等)、ブリティッシュガム(赤玉ブリティッシュガムNo.69、APA等)に代表される焙焼デキストリン、マルトデキストリンと総称される酵素変性デキストリン(アミコールSQ、ペノンPKW等)、酸分解でんぷん、酸化でんぷん等を挙げることができる。上記例示した加工でんぷんはすべて、日澱化学(株)から得られる。でんぷん誘導体の他の例として、未変性アルファ化でんぷんや変性アルファ化でんぷんを挙げることができる。これらのでんぷん誘導体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明においては、これらの加工でんぷんのなかでも、その水溶液の粘度が低いものが好ましく、特に、エーテル化でんぷん又は酵素変性デキストリンが好ましく用いられる。市販品としては、例えば、上述したペノンJE−66、ペノンPKW、アミコールSQ(いずれも、日澱化学(株)製)等を挙げることができる。
【0034】
特に、本発明によれば、上述した加工でんぷんのなかでも、アミロペクチン骨格含有率が90%以上であるものが好ましく用いられる。このような加工でんぷんは、アミロース含有量が少ないので、老化が起こり難く、特に、得られるインキ組成物にすぐれた低温保存安定性を与える。更に、本発明によれば、このような加工でんぷんのなかでも、エーテル化度が3〜10%の範囲にあるエーテル化でんぷんが好ましく用いられる。エーテル化でんぷんにおけるエーテル化度は、グルコース残基の水酸基を置換している官能基の合計分子量のでんぷんの分子鎖一本あたりの分子量に対する割合を表す。このようなエーテル化でんぷんは、水と多量の水溶性有機溶剤が混在する系において、高い溶解安定性を有する。なかでも、ヒドロキシプロピル化でんぷんが好ましく用いられる。ヒドロキシプロピル化度が10%を超えるヒドロキシプロピル化でんぷんは、低温安定性にすぐれるインキ組成物を与えるが、しかし、そのようなインキ組成物は、50℃を超えるような高温での安定性が悪化する。ヒドロキシプロピル化度が3%よりも少ないヒドロキシプロピル化でんぷんは、上記効果が殆ど得られない。
【0035】
本発明による水性二重発色インキ組成物において、上記水溶性定着剤の含有量は、その種類のほか、用いる顔料の含有量等に応じて適宜に定められるが、通常、0.5〜15重量%の範囲であり、好ましくは、1〜10重量%の範囲である。インキ組成物における水溶性定着剤の含有量が15重量%を超えるときは、得られるインキ組成物の粘度が高くなりすぎて、筆記が困難になるおそれがある。しかし、インキ組成物における水溶性定着剤の含有量が0.5重量%よりも少ないときは、顔料を定着させる効果が得られなくなることがある。
【0036】
加工でんぷんは、水への溶解性にすぐれるものの、水溶性有機溶剤への溶解性はそれ程、よくないか、又は水溶性有機溶剤に殆ど溶解しない。従って、このような加工でんぷんを定着性として含むインキ組成物にて基材上に筆記するとき、加工でんぷんは、染料を含む水溶性有機溶剤が基材中に浸透拡散して、中心線の周囲に輪郭線を形成する水溶性有機溶剤の作用に殆ど影響を及ぼすことなく、主として基材上に顔料と共に残って、定着剤としての効果をよく発揮する。他方、前述したように、染料を含む水溶性有機溶剤が基材中に浸透拡散する作用に加工でんぷんは殆ど影響を与えないので、水溶性有機溶剤は染料と共に明瞭な輪郭線を形成する。
【0037】
これに対して、水溶性有機溶剤への溶解性にすぐれる水溶性定着剤を用いた場合には、水溶性有機溶剤にその水溶性定着剤が多く溶解することによって粘度が高くなり、それ故に、染料の基材中への拡散浸透が抑制される結果、輪郭線の形成が阻害されるものとみられる。
【0038】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、その用途に応じて、粘度を適当に調節するために、水溶性増粘剤を含有させることができる。例えば、本発明による水性二重発色インキ組成物を水性ボールペン用インキ組成物として用いる場合であれば、増粘剤を配合して、その粘度を後述する範囲に調節することが好ましい。本発明においては、そのような水溶性増粘剤として、多糖類ガム質が好ましく用いられる。本発明によれば、そのような多糖類ガム質のなかでも、ラムザンガム、キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、プルラン、ザンサンガム、グァーガム、ローカストビーンガム及びペクチンから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。本発明においては、多糖類ガム質は、天然品のみならず、その加工品又は誘導体を含むものとする。しかし、上記多糖類ガム質以外にも、本発明によれば、ペクチンのようなコロイド性の多糖類、カゼインやゼラチン等のようなタンパク質や、ポリアクリル酸ナトリウム等のような合成水溶性樹脂も、水溶性増粘剤として用いることができる。
【0039】
インキ組成物中における上記増粘剤の含有量は、得られるインキ組成物の用途や要求特性に応じて適宜に定められるが、例えば、水性ボールペン用インキ組成物とするときは、その粘度は、通常、0.05〜0.5重量%の範囲であり、好ましくは、0.1〜0.3重量%の範囲である。増粘剤の含有量が余りに多いときは、得られるインキ組成物の粘度が高すぎて、ペン先からのインキ組成物の流出が悪くなり、筆記性に劣ることとなる。しかし、増粘剤の含有量が余りに少ないときは、得られるインキ組成物の粘度が低すぎて、インキ組成物中において、顔料が分散安定性に劣ることとなって、ペン先にて詰まりやすくなる。
【0040】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、特に、低温下の長期間にわたる保存安定性を有するように、尿素やその誘導体を含有していてもよい。尿素誘導体としては、メチル尿素、ジメチル尿素、テトラメチル尿素、エチル尿素、テトラエチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ジヒドロキシエチル尿素、エチレン尿素、ジメチロール尿素、スルホニル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、尿素のエチレンオキサイド付加物等を挙げることができる。なかでも、本発明によれば、尿素又はジメチル尿素が好ましく用いられる。
【0041】
本発明によれば、このような尿素又は尿素誘導体は、前記水溶性定着剤の種類や水溶性有機溶剤の使用量等に応じて適宜に定められるが、通常、インキ組成物において、2〜20重量%の範囲であり、好ましくは、5〜15重量%重量%の範囲である。インキ組成物におけるこれら尿素又は尿素誘導体の含有量が20重量%を超えるときは、得られるインキ組成物において、相対的に水分量が不足するので、インキ組成物の粘度が高くなりすぎるおそれがあるほか、ボールペン用インキ組成物として用いる場合等において、筆跡が著しく乾燥し難くなるおそれがある。他方、インキ組成物における尿素又は尿素誘導体の含有量が2重量%よりも少ないときは、得られるインキ組成物が低温下における長期保存安定性が不十分か、又は長期保存安定性がなく、インキの成分、特に、定着剤である加工でんぷんが分離することがある。
【0042】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、例えば、ボールペン用インキ組成物として用いる場合に、キャップを外してボールペンを放置しても、ペン先が乾燥しないように、また、書き始めたときに、インキ組成物がペン先から円滑に流出して筆跡が掠れないように、必要に応じて、多価アルコール又はその誘導体からなる湿潤剤を含有することができる。上記多価アルコール又はその誘導体としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。なけでも、エチレングリコール又はグリセリンが好ましく用いられる。このような湿潤剤は、インキ組成物に基づいて、通常、10重量%以下の範囲で、好ましくは、好ましくは、3〜8重量%の範囲で用いられる。
【0043】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、本来、それが有する効果を妨げない範囲内で、その他の添加剤を含有することができる。そのような添加剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルカリ金属塩、ジカルボン酸アミド、リン酸エステル、N−オレイルサルコシン塩等のような潤滑剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトレート等のような防錆剤、ベンゾイソチアゾリン系、ペンタクロロフェノール系、クレゾール等のような防腐剤や防黴剤等を挙げることができる。これら以外にも、更に、種々の分散剤、界面活性剤、増粘剤等を挙げることができる。
【0044】
本発明による水性二重発色インキ組成物を水性ボールペン用として用いるときは、ELD型粘度計3°(R14)コーン 0.5rpm(20℃)で測定した粘度が2000〜10000mPa・sの範囲にあることが好ましい。上記範囲の粘度を有せしめることによって、水性ボールペン用インキ組成物としてすぐれた経時安定性と筆記性を得ることができる。本発明による水性二重発色インキ組成物に上記範囲の粘度を有せしめるには、主として、前述した水溶性増粘剤をインキ組成物に適切な量にて配合するほか、インキ組成物における水の量を調節すればよい。
【0045】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、その製造方法において、特に限定されるものではない。インキ組成物の製造において、従来から知られている分散、脱泡、濾過等の方法を用いて製造することができる。一例として、水、水溶性染料及び顔料を混合、攪拌した後、これに定着剤と、必要に応じて、増粘剤を配合し、次いで、水溶性有機溶剤と、必要に応じて、種々の添加剤を配合し、均一に混合することによって得ることができる。各工程において、混合や攪拌は、例えば、デゾルバー、ミキサー、ニーダー等、これまで知られている一般的な攪拌装置を用いればよい。
【0046】
本発明による水性二重発色インキ組成物は、マーカーやサインペン等の種々の筆記具のためのインキ組成物として用いることができるが、特に、前述したように、ボールペン用インキ組成物として好適に用いることができる。また、本発明による筆記具は、用いるインキ組成物が上述した水性二重発色インキ組成物である点を除けば、従来、知られているマーカー、サインペン、水性ボールペン等の筆記具と同じである。
【0047】
従って、例えば、本発明による水性ボールペンは、例えば、インキ収容管も、従来、知られている材料を用いて、従来と同じものをそのまま製作すればよい。従って、インキ収容管は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂製パイプからなるものでもよく、また、金属製パイプからなるものであってもよい。
【0048】
また、ボールペンチップも、その構造や素材については、これまでに知られている水性ボールペン用のものと同じものが用いられるが、しかし、本発明によれば、ボール直径とボールハウス内径との差が0.03mm以上、好ましくは、0.03〜0.07mmの範囲にあるボールペンチップを用いることが好ましい。上記差はボールとボールハウス内面との距離が最も近くなる箇所における距離に相当する。従来の通常のボールペンのボールペンチップにおけるボール直径とボールハウス内径との差は、通常、0.01〜0.02mm程度であるが、本発明によるボールペンにおいては、上述したように、0.03mm以上という大きい差を設けることによって、本発明による水性二重発色インキ組成物による望ましい二重発色効果を一層、確実に得ることができる。上記インキ収容管やボールペンチップを含め、種々の部品を用いて、ボールペンを組み立てるに際しては、従来から知られている通常の方法によればよい。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
実施例1〜6及び比較例1〜3
第1表及び第2表に示す成分(表中、その割合を重量%で示す。)をそれぞれ、デスパーを用いて、常温で2時間攪拌して、水性二重発色インキ組成物をそれぞれ調製した。第1表及び第2表に示す各成分は以下のとおりである。
【0051】
用いたパール顔料については、白地と黒地との間での発色色差ΔE* と白地におけるL* を示す。それぞれのパール顔料をニトロセルロースラッカー(日本ペイント(株)製2210クリヤー)中に10重量%濃度に分散させ、白地と黒字にそれぞれ20μmワイヤーバーで塗布し、ミノルタ(株)製色差色度計CR−30を用いて、上記白地と黒地との間での発色色差ΔE* と白地におけるL* を測定した。白地と黒地はそれぞれ、日本テストパネル(株)製隠蔽率試験紙を用いた。
【0052】
実施例において用いたパール顔料は、それら自体では、白色乃至乳白色のパール色を有し、白地に塗布したときも、ほぼ同様に白色乃至微淡黄色を有する。Iriodin 323は、それ自体では金色を有し、123はそれ自体では銀色を有する。白地に塗布したときも同じく、それぞれ金色と銀色を呈する。
【0053】
パール顔料1:Iriodin 201(ΔE*=36.4、L*=90.6)
パール顔料2:Iriodin 221(ΔE*=56.8、L*=90.6)
パール顔料3:Iriodin 231(ΔE*=34.8、L*=90.6)
パール顔料4:Iriodin 323(ΔE*=16.7、L*=71.7)
パール顔料5:Iriodin 123(ΔE*=17.9、L*=91.8)
染料水溶液:黒色染料(BONJET BLACK 256−L(オリエント化学工業(株)製、13重量%水溶液)
水溶性有機溶剤1:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
水溶性有機溶剤2:エチレングリコール
定着剤:変性デキストリン(日澱化学(株)製ペノンPKW)
防腐剤:アーチケミカルズ(株)製プロクセルXL−2
防黴剤:武田薬品工業(株)製コートサイドH
【0054】
各実施例及び比較例で調製したそれぞれのインキ組成物について、ELD型粘度計3°(R14)コーン 0.5rpm(20℃)で測定した粘度を第1表及び第2表に示す。
【0055】
次に、セラミックスからなるボールを備えたステンレスボールペンチップを一端に取り付けたポリプロピレン製インキ収容管に各実施例及び比較例で調製したそれぞれのインキ組成物を充填した後、シリコーンオイルをゲル化してなるインキ逆流防止体を充填して、ボールペンレフィールを作製した。次に、ボールペン本体にボールペンレフィールを取り付け、キャップを装着した後、遠心分離機により管中の空気を除去し、最後に尾栓を装着してボールペンを得た。
【0056】
上記ボールペンをそれぞれ用いてケント紙上に7cm/秒の速さで筆跡として直線を描き、その筆跡の二重発色性、特に、筆跡における中心線の発色性を観察した。結果を第1表及び第2表に示すように、実施例による二重発色インキ組成物はすべて、その筆跡における中心線は、パール顔料が染料の発色の影響を受けて、第1表及び第2表中に示す明瞭な発色を示し、黒色の輪郭線から明瞭に区別できるものであった。これに対して、比較例による二重発色インキ組成物はすべて、パール顔料が染料の発色の影響を受けて、濁った発色の中心線を形成し、しかも、この中心線は黒色の輪郭線との境界が不明瞭となり、曖昧なものであった。
【0057】
パール顔料は、雲母の表面を酸化チタンや酸化鉄のような金属酸化物の薄層で被覆した鱗片状の粒子である。そこで、パール顔料を含む塗膜を下地上に塗布して塗膜を形成すれば、このような顔料粒子の表面に入射した可視光は、一部は表面の金属酸化物層で反射され、一部は内部の雲母層で反射され、また、一部は下地層で反射され、かくして、反射光が複雑に混じり合ってパール色を呈する。この実施例においては、下地が濃色であるので、顔料粒子の表面から顔料内に入射した可視光は、その下地によって特定の色が吸収されて、下地での反射光の色が影響を受け、更に、パール顔料の厚みによっても、上記種々の反射光の色が影響を受けるので、かくして、筆跡の中心線は、パール顔料の厚みと下地の色によって、第1表及び第2表に示す色を有する。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)白地と黒地との間での発色色差ΔE* が30〜80の範囲にあり、白地におけるL* が80以上であるパール顔料、
(b)水、
(c)分岐した疎水性基を有するアルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機溶剤及び
(d)水溶性染料を含む水性二重発色インキ組成物。
【請求項2】
パール顔料が雲母に金属酸化物を被覆してなるものである請求項1に記載の水性二重発色インキ組成物。
【請求項3】
水溶性有機溶剤が、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びヘキシレングリコールから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水性二重発色インキ組成物。

【公開番号】特開2008−303346(P2008−303346A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153677(P2007−153677)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】