説明

水性低屈折率樹脂、組成物及び接着剤

【課題】 本発明は、低屈折率であって、水媒体にて塗布することが可能であり、さらにその硬化物が透明性、ガラス、PVA、TAC、PETに対する密着性に優れた、主に光学用物品向けの水性低屈折率樹脂及び水性低屈折率樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体である水性低屈折率樹脂及び水性低屈折率樹脂組成物であり、ポリビニルアルコール類としてメルカプト変性ポリビニルアルコールが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体である水性低屈折率樹脂、その組成物、さらにはその樹脂を含有するガラス、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセテートセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)に対する密着性がバランスよく良好な接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路等の光学関連部材では、屈折率を調整した接着剤が重要な役割を担っている。
【0003】
光学関連部材における接着剤としては、一般に光損失を抑える等の観点から低い屈折率が要求される。また、基材としてガラス基板、PVAフィルム、PETフィルム、TACフィルム等の比較的に高極性のものから、ノルボルネン系樹脂フィルムのような低極性フィルム等、極性が大きく異なる基材に対し高い密着性を併せ持つ必要がある。
【0004】
このため、低屈折率を有する接着剤としては、低屈折率を有する活性エネルギー線硬化型接着剤が活発に検討されており、特定のフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を用いる方法(例えば、特許文献1、2参照)、シランカップリング剤を用いる方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。しかし、フッ素系ビニルモノマーを用いる方法では、フッ素化合物の表面自由エネルギーが低いために基板との密着性が不十分であった。また、シランカップリング剤を用いる方法ではシランカップリング剤の官能基数が少なく、硬化不足により基板との密着性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−194031号公報
【特許文献2】特開2006−257190号公報
【特許文献3】特開2004−168840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低屈折率で、かつ低極性から高極性の基材に対しバランスよく優れた密着性を示す水性低屈折率樹脂、組成物及び接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合することにより、低屈折率であって、水媒体にて塗布することが可能であり、さらにその硬化物が透明性に優れ、ガラス、ポリビニルアルコールフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、PETフィルム、ノルボルネン系フィルムに対しバランスよく優れた密着性を示す、主に光学用物品の表面反射防止膜ならびに接着剤として有用な樹脂組成物が得られることを見出し、本研究を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体である水性低屈折率樹脂、
(2)前記ポリビニルアルコール類がメルカプト変性ポリビニルアルコールである前記(1)の水性低屈折率樹脂、
(3)前記フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物に含まれるフッ素原子数が3以上9以下である前記(1)又は(2)の水性低屈折率樹脂組成物、
(4)前記の水性低屈折率樹脂とカップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物を含有する前記(1)〜(3)のいずれかの水性樹脂組成物。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかの水性低屈折率樹脂を含有する接着剤
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂、樹脂組成物、及び接着剤は低屈折率で、極性材料から非極性材料まで幅広い基材間同士を接着するのに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[水性低屈折率樹脂]
本発明の水性低屈折率樹脂は、ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体を含有するものである。
【0011】
前記グラフト共重合体のポリビニルアルコール類とフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物の使用量の質量比は20〜80:80〜20であることが好ましい。このような質量比にすることで高極性から低極性の幅広い基材に対し良好な接着性を示すことができる。
【0012】
ポリビニルアルコール類とは、−(CHCH(OH))−の繰り返し単位を主要構造単位、好ましくは過半数以上の構造単位として有するポリマーであり、先の構造単位以外の構造を有していてもよく、ポリビニルアルコールの水酸基の一部を他の官能基に置換したものや前記の繰り返し単位を構成しない単量体を一部重合したものであるいわゆる変性ポリビニルアルコールも、−(CHCH(OH))−の繰り返し単位を主要構造単位として有している限りにおいてポリビニルアルコール類に該当する。
【0013】
本発明に用いられるポリビニルアルコール類の繰り返し構造単位となる重合度は100以上であることが好ましく、100以上10000以下がさらに好ましく、100以上5000以下がより好ましい。ポリビニルアルコール類の重合度が前記範囲にあると、水性エマルション塗料の保存安定性に優れ、かつ当該塗料から得た塗膜の強度および塗装作業性に優れる。ポリビニルアルコール類の具体例としては、株式会社クラレ製「クラレポバール(登録商標)」シリーズや「Mポリマー」シリーズ、日本合成化学工業株式会社製「ゴーセノール(登録商標)」シリーズや「ゴーセラン(登録商標)」シリーズ、電気化学工業株式会社製「デンカポバール(登録商標)」や「デンカサイズ」シリーズ、日本酢ビ・ポバール株式会社製「J−ポバール(登録商標)」シリーズや「JMR(登録商標)」シリーズを挙げることができる。
【0014】
一般にポリビニルアルコール(PVA)は、−(CHCH(OH))−の繰り返し構造単位をえるためにポリ酢酸ビニル(PAc)、チオール基を含有するモノマーと酢酸ビニルとの共重合体(以下「SH−ポリビニルアルコール共重合体」と略することがある)、並びにチオール酢酸及びチオールプロピオン酸等のチオール酸の存在下でビニルエステルモノマーの重合体(以下「SH末端ポリビニルアルコール」と略することがある)等のポリビニルエステルを加水分解して得られる。加水分解の程度を調整すると、一部にポリ酢酸ビニル構造を有するポリビニルアルコール、すなわちビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体(PVA−PAc)が得られる。また、酢酸ビニルと他のモノマーの共重合体(PAc−X)を加水分解すれば、ビニルアルコールと他のモノマーの共重合体(PVA−X)、またはビニルアルコール、酢酸ビニル、および他のモノマーの共重合体(PVA−PAc−X)が得られる。これらの中でもメルカプト変性ポリビニルアルコールが好ましく、メルカプト変性ポリビニルアルコールはメルカプト基を有するポリビニルアルコールであればよく、例えば、「SH−ポリビニルアルコール共重合体」、「SH末端ポリビニルアルコール」を挙げることができる。
【0015】
フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物
本発明に用いられるフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物に含まれるフッ素原子数は3以上9以下であることが好ましい。フッ素原子数が2以下では得られる共重合体の屈折率が高い場合が多く、フッ素原子数が10以上ではポリビニルアルコール部分とフッ素ポリマー部分の相溶性が乏しいために乾燥皮膜が白濁し基材との密着性が低下する場合がある。
【0016】
フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をポリビニルアルコール類にグラフト重合させた「グラフト共重合型」を得る方法には公知の方法が用いられる。その例には、ポリビニルアルコールのα水素を引き抜いてラジカルを発生させて、フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合させる方法(「水素引き抜き法」ともいう)や、連鎖移動反応を利用してフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を重合させる方法(「連鎖移動法」ともいう)が含まれる。
【0018】
水素引き抜き法の例には、セリウム(IV)イオン;過酸化水素と金属塩;過硫酸塩と亜硫酸塩;過硫酸塩と銀イオン;あるいは過硫酸塩の存在下で、ポリビニルアルコール類とフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を反応させる方法が含まれる。
【0019】
連鎖移動法の例には、SH−ポリビニルアルコール共重合体を準備し、当該共重合体とフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を、ラジカル重合開始剤存在下で反応させ、チオール基を連鎖移動末端として利用する方法が含まれる。チオール基を有するモノマーの例には、チオール酸エステル基を有するビニルモノマーが含まれる。前記共重合体は、チオール酸エステル基を有するビニルモノマーと酢酸ビニル等のビニルエステルモノマーを共重合した後、加水分解することにより得ることができる。
【0020】
また、SH末端ポリビニルアルコールを準備して、当該ポリマーとフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をラジカル重合開始剤存在下で反応させ、チオール基を連鎖移動末端として利用すると、「グラフト共重合型」の「分子内にフッ素原子を有するポリビニルアルコール類」が得られる。
【0021】
前記グラフト共重合体やブロック共重合体の合成においては、フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を重合する際に、本発明の効果を妨げない程度で他のモノマーを併用してもよい。他のモノマーの例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の鎖状構造のメタクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル等の環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン等を挙げることができる。
【0022】
本発明の低屈折率樹脂は、その硬化物の屈折率が通常1.33〜1.53であり、好ましくは1.36〜1.48であるものをいう。屈折率の測定は、例えばアッベ屈折率計を用いて測定できる。
【0023】
本発明の低屈折率樹脂は、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路等の光学関連部材などに用いることができる。
【0024】
[水性低屈折率樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体の他に、カップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物、酸化防止剤などからなる。カップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物を含有する組成物とすることにより、接着性、耐水性、耐溶剤性をさらに向上させることができる。
【0025】
カップリング剤
カップリング剤とは、分子内に加水分解によってM−OH構造(Mは(半)金属原子)を与える複数の加水分解性基を有する有機金属化合物からなる剤であって、ガラス、金属等の無機材料と接着剤、塗料等の有機材料間、もしくは異種の有機材料複合系において、その界面で互いの親和性を改善し、化学的に両者を結合させる、あるいは有機高分子間において架橋反応を生じることで材料の強度、耐久性、耐候性を向上させる機能を有する剤をいう。カップリング剤の例には、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤が含まれる。
【0026】
シラン系カップリング剤(「シランカップリング剤」ともいう)とは、分子内に、加水分解でシラノール基(Si−OH)を与えるアルコキシ基等と、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基やアルキル基等の有機基を有する化合物をいう。
【0027】
シラン系カップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等の分子内にエポキシ基を含有するエポキシ系シランカップリング剤、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、アミノメチルトリプロポキシシラン、アミノメチルトリブトキシシラン、アミノメチルトリフェノキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノエチルトリプロポキシシラン、アミノエチルトリブトキシシラン、アミノエチルトリフェノキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、3−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノフェニルトリエトキシシラン、3−アミノフェニルトリプロポキシシラン及び3−アミノフェニルトリブトキシシラン等の分子内にアミノ基を含有するアミン系シランカップリング剤、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリプロポキシシラン、メルカプトメチルトリブトキシシラン、メルカプトメチルトリフェノキシシラン等の分子内にメルカプト基を含有するメルカプト系シランカップリング剤、ビス−1,2−(トリエトキシシリル)エタン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)アミン及びビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等の双官能系シランカップリング剤を挙げることができる。
【0028】
チタン系カップリング剤としては、一般式Ti(OR)で表されるチタンアルコキシド、Ti(OR)(X)で表されるチタンキレート、Ti(OR(OCORで表されるチタンアシレートを挙げることができる。ここで、R、R、Rはアルキル基または水素原子、m+n=4、XはO配位キレートである。また、チタン系カップリング剤は、味の素ファインテクノ(株)より市販されている窒素、リン、硫黄といったヘテロ原子を含有するチタネート系カップリング剤であってもよい。
【0029】
チタン系カップリング剤の具体例としては、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトネート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、ポリヒドロキシチタンステアレート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートを挙げることができる。
【0030】
ジルコニウム系カップリング剤としては、一般式Zr(OR)4、で表されるジルコニウムアルコキシド、Zr(OR)(X)で表されるジルコニウムキレート、Zr(OR(OCORで表されるジルコニウムアシレートを挙げることができる。ここで、R、R、Rはアルキル基又は水素、m+n=4、XはO配位キレートである。安定性の面からジルコニウム系カップリング剤としては、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレートが好ましい。ジルコニウム系カップリング剤の具体例としては、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレートを挙げることができる。
【0031】
アルミニウム系カップリング剤としては、一般式Al(OR)で表されるアルミニウムアルコキシド、Al(OR(OCORで表されるアルミニウムアシレート、あるいは下記一般式(2)で表されるアルミニウムキレートを挙げることができる。ここで、R、R、R、R、R、Rはアルキル基又は水素、m+n=3、記号「←」は配位結合を表す。
【化1】

【0032】
アルミニウム系カップリング剤の具体例として、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジブトキシドモノ(エチルアセトアセテート)、アルミニウム(9−オクタデセニルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、ジイソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテート、アルミニウムオキサイドオクチレートトリマー、アルミニウムオキサイドステアレートトリマーを挙げることができる。
【0033】
本発明に用いられるカップリング剤は、エポキシ基を含むものが好ましい。エポキシ基を含むカップリング剤はポリビニルアルコール部分の耐水化、及び極性基材、非極性基材との密着性をより向上させることができるからである。中でも、入手が容易であること等から、エポキシ基を含むシランカップリング剤がより好ましい。
【0034】
多官能性エポキシ化合物
本発明に用いられる多官能性エポキシ化合物としてはエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、N,N,N‘,N’−テトラグリシジル―m−キシリレンジアミン等を挙げることができる。
【0035】
本発明の水性低屈折率樹脂組成物における、カップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物の配合量は、グラフト共重合体100質量部に対し、1〜20質量部であることが好ましい。カップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物の配合量が1質量部未満であると、十分な耐水性が得られにくく、20質量部より多くなると組成物の保存安定性が低下し、貯蔵時にゲル化し易くなる。
【0036】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]メタン等のフェノール系、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオナート等の硫黄系、トリスノニルフェニルホスファイト等のリン系の酸化防止剤を挙げることができる。
【0037】
酸化防止剤の配合量は、グラフト共重合体100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが好ましい。酸化防止剤の配合量が0.01質量部未満であると、十分な酸化防止効果が得られにくく、5質量部より多くなると経済的に好ましくない。
【0038】
本発明の低屈折率樹脂組成物は、その硬化物の屈折率が通常1.33〜1.53であり、好ましくは1.36〜1.48であるものをいう。屈折率の測定は、例えばアッベ屈折率計を用いて測定できる。
【0039】
本発明の低屈折率樹脂組成物は、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路等の光学関連部材などに用いることができる。
【0040】
接着剤
本発明の接着剤は、少なくとも前記樹脂を含有していればよく、本発明の樹脂のみを用いた接着剤であってもよく、前記に記載した樹脂組成物であってもよい。
【0041】
本発明の接着剤は低屈折率の樹脂組成物を含むため、光学関連部材に適用することが好ましい。本発明の接着剤の硬化物の屈折率は通常1.33〜1.53であり、好ましくは1.36〜1.48である。屈折率の測定は、例えばアッベ屈折率計を用いて測定できる。
【0042】
本発明の接着剤は、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路等の光学関連部材などに使用できる。
【0043】
本発明の接着剤が適用できる基材としては、ガラス、金属、ポリビニルアルコールフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリノルボルネンフィルム等のあらゆる基材の接着剤に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0045】
また、平均粒子径及び屈折率の測定、並びに保存安定性、耐水性、耐溶剤性及び密着性試験は、下記の方法により実施した。
【0046】
[平均粒子径]
大塚電子株式会社製の濃厚系粒径アナライザー(FPAR−1000)を用い、JIS Z 8826:2005に準拠して平均粒子径を測定した。
【0047】
[屈折率]
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させ、この混合溶液をテフロン(登録商標)上に塗布した後で、150℃の乾燥機で乾燥し、硬化塗膜を得た。得られた硬化塗膜をアッベ屈折率計を用い、JIS K 7142:2008に準拠して屈折率を測定した。
【0048】
[保存安定性]
40℃条件で3か月間保存し、保存前後での樹脂の外観の変化を目視で観察した。
○:変化なし
×:沈澱あり
【0049】
[耐水性および耐溶剤性]
ガラス板上にバーコーダーを用いて本接着剤を塗布し、150℃にて30分間乾燥し硬化膜を製膜した。得られた硬化膜を室温で1時間放置後、水、メタノール、トルエンおよびアセトンに24時間浸漬し、それぞれの硬化膜の状態を目視より観察した。
○:変化なし
△:ほとんど膨潤がない(実用レベル)
×:膨潤が認められる
【0050】
[密着性]
ガラス板、ステンレス板、ポリビニルアルコールフィルム、トリアセチルセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムにバーコーダーを用いて本接着剤を塗布し、150℃にて30分間乾燥し硬化膜を製膜した。硬化膜の密着性を、セロテープ(登録商標)を用いた剥離試験により調べた。
○:剥離しない
△:ほとんど剥離しない(実用レベル)
×:かなり剥離する
【0051】
(実施例1 樹脂(A))
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M115)18.33gとイオン交換水208.28gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート18.33gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.29gと水酸化ナトリウム0.09gをイオン交換水39.67gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、半透明の樹脂(A)を得た。得られた樹脂(A)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂(A)のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0052】
(実施例2 樹脂組成物(B))
実施例1で得られた樹脂(A)294.51gに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3.49gを加え、樹脂組成物(B)を得た。得られた樹脂組成物(B)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(B)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0053】
(実施例3 樹脂組成物(C))
実施例1で得られた樹脂(A)285.57gにエチレングリコールジグリシジルエーテル2.43gを加え、樹脂組成物(C)を得た。得られた樹脂組成物(C)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(C)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0054】
(実施例4 樹脂(D))
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M115)18.30gとイオン交換水180.51gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート12.20gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.29gと水酸化ナトリウム0.09gをイオン交換水34.38gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌した。室温まで降温し、エチレングリコールジグリシジルエーテル1.22gを加え、半透明の樹脂(D)を得た。得られた樹脂(D)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂(D)のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0055】
(実施例5 樹脂(E))
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M205)13.51gとイオン交換水226.55gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート26.23gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.43gと水酸化ナトリウム0.13gをイオン交換水43.15gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、半透明の樹脂(E)を得た。得られた樹脂(E)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂(E)のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0056】
(実施例6 樹脂組成物(F))
実施例5と同様に合成した樹脂(E)319.81gに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.19gを加え、樹脂組成物(F)を得た。得られた樹脂組成物(F)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(F)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0057】
(実施例7 樹脂組成物(G))
実施例5と同様に合成した樹脂(E)306.43gにエチレングリコールジグリシジルエーテル4.57gを加え、樹脂組成物(G)を得た。得られた樹脂組成物(G)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(G)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0058】
(実施例8 樹脂組成物(H))
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M205)9.62gとイオン交換水195.12gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート22.44gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.31gと水酸化ナトリウム0.09gをイオン交換水37.17gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌した。室温まで降温し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.24gを加え、樹脂組成物(H)を得た。得られた樹脂組成物(H)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(H)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0059】
(実施例9 樹脂組成物(I))
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M205)16.27gとイオン交換水195.85gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート14.64gとメタクリル酸1.63gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.52gと水酸化ナトリウム0.16gをイオン交換水37.31gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌した。室温まで降温し、エチレングリコールジグリシジルエーテル1.66gを加え、半透明の樹脂組成物(I)を得た。得られた樹脂組成物(I)の物性を表1に示す。また、得られた樹脂組成物(I)を接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0060】
(比較例1)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M115)37.21gとイオン交換水193.33gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させ、透明な樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、得られた樹脂のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0061】
(比較例2)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M205)37.50gとイオン交換水193.33gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させ、透明な樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、得られた樹脂のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0062】
(比較例3)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにPVA(クラレ品、製品名:117)11.51gとイオン交換水130.00gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。40℃に降温し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート12.00gを混合し、9.5%硫酸0.80gを加え、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.49gを0.25%硝酸32.67gに溶解させた混合溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、30%水酸化ナトリウム0.17gを加え、半透明の樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、得られた樹脂のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0063】
(比較例4)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにPVA(クラレ品、製品名:205)11.60gとイオン交換水110.00gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。40℃に降温し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート12.00gを混合し、9.5%硫酸1.00gを加え、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.40gを0.25%硝酸26.67gに溶解させた混合溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、30%水酸化ナトリウム0.10gを加え、半透明の樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、得られた樹脂のみを接着剤として評価を行った結果を表2及び3に示す。
【0064】
(比較例5)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M115)11.08gとイオン交換水116.00gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート11.25gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.17gと水酸化ナトリウム0.17gをイオン交換水21.58gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、透明な樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、塗膜ができなかったため、接着剤として評価は行わなかった。
【0065】
(比較例6)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた四口フラスコにメルカプト基を有するPVA(クラレ品、製品名:M205)10.90gとイオン交換水116.00gを入れ、90℃に昇温しPVAを溶解させた。60℃に降温し、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート11.25gを混合し、70℃において過硫酸カリウム0.35gと水酸化ナトリウム0.34gをイオン交換水21.58gに溶解させた水溶液を滴下し、引き続き4時間攪拌し、半透明な樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。また、塗膜ができなかったため、接着剤として評価は行わなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の樹脂及び樹脂組成物は、低屈折率で、かつ低極性から高極性の基材に対し優れた密着性を示し、光学関連部材用の接着剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール類にフッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物をグラフト重合して得られる共重合体である水性低屈折率樹脂。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール類がメルカプト変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の水性低屈折率樹脂。
【請求項3】
前記フッ素原子含有(メタ)アクリレート化合物を構成するフッ素原子数が3以上9以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性低屈折率樹脂。
【請求項4】
前記の水性低屈折率樹脂とカップリング剤及び/又は多官能性エポキシ化合物を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性低屈折率樹脂を含有する接着剤。

【公開番号】特開2011−162637(P2011−162637A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26034(P2010−26034)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】