説明

水性分散液の製造法

【課題】水性分散液の製造法、さらに詳細には、少なくとも2つのポリマー成分を有する水性分散液の製造法が提供される。
【解決手段】本発明は、(i)少なくとも1種の高分子量ポリマー成分を形成し;(ii)式I:A−B(I)(式中、Aは低水溶性を示す連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の少なくとも1種の低分子量ポリマー成分を形成することを含み、低分子量ポリマー成分が疎水性空隙を有する高分子有機化合物の存在下で形成される、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性分散液の製造法、さらに詳細には、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
当該分野においてラテックスと称されるポリマーの水性分散液は、一般に、例えば接着剤配合物、バインダー配合物およびコーティング配合物の成分として有用であることが知られている。その1またはそれ以上の性質、例えばTg、混和性、接着性、粘着性、融合性、引っ張り強度、引張伸び、弾性率およびポリマー流動性を変更するためには、成分、典型的には低分子量ポリマー物質をかかる配合物に含めることが望ましいことが多い。しかしながら、このような低分子量ポリマー物質をラテックス中に均一に分散させることは困難である場合が多い。さらに、このような低分子量ポリマー物質をラテックス中に均一に分散させることは困難であるので、所望の特性をラテックスに付与するためにはしばしば過剰の低分子量ポリマー物質を配合する必要がある。
【0003】
接着剤配合物において低分子量成分を粘着剤として含有するラテックスを提供するための一方法がMakatiらにより米国特許第5236991号において開示されている。Makatiらは、少なくとも2つのポリマー相、約−70℃〜約−5℃のTgを有するポリマーを含む第一ポリマー相(接着相)、および5000未満の数平均分子量および約−15℃〜約+50℃のTgを有する第一ポリマー相と適合性のポリマーを含む第二ポリマー相(粘着剤相)を有する乳化重合により製造される現場で粘着性付与された構造のラテックスを製造する方法を開示し、前記第一ポリマー相は、約95%〜50%のラテックスを含み、第二ポリマー相は、約5%〜50%のラテックスを含み、このようなパーセンテージは乾燥重量基準で測定される。
【特許文献1】米国特許第5236991号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それにもかかわらず、低分子量ポリマー成分をその中に均一に分散させる従来の問題点を克服するラテックス配合物の別の製造法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様において、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造するための方法であって:
(i)少なくとも1種の高分子量ポリマー成分を形成し;さらに
(ii)式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の少なくとも1種の低分子量ポリマー成分を形成することを含み、低分子量ポリマー成分が疎水性空隙を有する高分子有機化合物の存在下で形成される方法が提供される。
【0006】
本発明のもう一つの態様において、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法であって:
(i)少なくとも1種の第一モノマーを重合させて、高分子量ポリマー成分を形成し;さらに
(ii)(a)少なくとも1種の第二モノマー;
(b)疎水性空隙を有する少なくとも1種の高分子有機化合物;および
(c)低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分;
を(i)の生成物に添加し、
ここで(a)、(b)および(c)は相互作用して、式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の低分子量ポリマー成分を形成することを含み;
少なくとも1種の第一モノマーおよび少なくとも1種の第二モノマーが同一であっても異なっていてもよい、方法が提供される。
【0007】
本発明のもう一つの態様において、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法であって:
(i)(a)少なくとも1種の第一モノマー;
(b)疎水性空隙を有する少なくとも1種の高分子有機化合物;および
(c)低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分
を組み合わせ、ここで(a)、(b)および(c)は相互作用して、式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の低分子量ポリマー成分を形成し;
(ii)少なくとも1種の第二モノマーを(i)の生成物に添加し;さらに
(iii)少なくとも1種の第二モノマーを重合させて高分子量ポリマー成分を形成すること;を含み、少なくとも1種の第一モノマーおよび少なくとも1種の第二モノマーが同一であっても異なっていてもよい、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書に規定される全ての範囲は両端を含み、組み合わせ可能である。
【0009】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、「水溶性」なる用語は、水中に完全に溶解する物質を意味する。
【0010】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、用語「低い水溶性を有する」とは、25〜50℃で150ミリモル/リットル以下の水溶性を示す物質を意味する。
【0011】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、用語「非常に低い水溶性を有する」とは、25〜50℃で50ミリモル/リットル以下の水溶性を示す物質を意味する。
【0012】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、用語「極めて低い水溶性を有する」とは、25〜50℃で0.1ミリモル/リットル以下の水溶性を示す物質を意味する。
【0013】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、用語「高い水溶性を有する」とは、25〜50℃で200ミリモル/リットルより高い水溶性を示す物質を意味する。
【0014】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、「(メタ)アクリレート」なる用語は、メタクリレートおよびアクリレートの両方を包含する。
【0015】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、「(メタ)アクリル」なる用語は、メタクリルおよびアクリルの両方を包含する。
【0016】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、「(メタ)アクリルアミド」なる用語は、メタクリルアミドおよびアクリルアミドの両方を包含する。
【0017】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、「水性系」なる用語は、連続相として水中で形成され、供給されるポリマーであって、ポリマーを形成するため、または前記ポリマーを保存し、供給するために有機溶媒が必要でないか、または多量の界面活性剤が必要でないポリマーを意味する。
【0018】
いくつかの態様において、低分子量成分は、高分子量成分内に形成される。例えば、水性分散液はコア物質として低分子量成分を有する、コア/シェル形態を示しうる。あるいは、低分子量成分を高分子量成分によりカプセル化することができる。
【0019】
いくつかの態様において、連鎖移動剤は、メルカプタン、ポリメルカプタン、チオエステル、ハロゲン化化合物およびその組み合わせから選択することができる。
【0020】
いくつかの態様において、連鎖移動剤成分は、置換(C16〜C24)アルキルメルカプタン、非置換(C16〜C24)アルキルメルカプタン、官能化(C16〜C24)アルキルメルカプタン、置換フェニルメルカプタン、非置換フェニルメルカプタン、官能化フェニルメルカプタン、置換(C14〜C24)アルキルメルカプトプロピオネート、非置換(C14〜C24)アルキルメルカプトプロピオネート、官能化(C14〜C24)アルキルメルカプトプロピオネートおよびその組み合わせから選択することができる。
【0021】
いくつかの態様において、連鎖移動剤成分はn−ドデシルメルカプタンでありうる。
【0022】
いくつかの態様において、0.5〜20モル%(モノマーのモル基準)の少なくとも1種の連鎖移動剤成分を添加して、低分子量ポリマー成分を形成することができ;あるいは1〜10モル%(モノマーのモル基準)の少なくとも1種の連鎖移動剤成分を添加して、低分子量ポリマー成分を形成することができ;あるいは1〜5モル%(モノマーのモル基準)の少なくとも1種の連鎖移動剤成分を添加して、低分子量ポリマー成分を形成することができ;あるいは5モル%未満(モノマーのモル基準)の少なくとも1種の連鎖移動剤成分を添加して、低分子量ポリマー成分を形成することができ;あるいは4重量%未満(モノマーのモル基準)の少なくとも1種の連鎖移動剤成分を添加して、低分子量ポリマー成分を形成することができる。
【0023】
いくつかの態様において、連鎖移動剤成分は、低い水溶性を示しうるか、あるいは連鎖移動剤成分は極めて低い水溶性を示しうるか、あるいは連鎖移動剤成分は25〜50℃で0.01ミリモル/リットル未満の水溶性を示しうるか、あるいは連鎖移動剤成分は25〜50℃で0.002ミリモル/リットル未満の水溶性を示しうるか、あるいは連鎖移動剤成分は25〜50℃で0.0001ミリモル/リットル未満の水溶性を示しうる。
【0024】
いくつかの態様において、高分子量ポリマー成分および低分子量ポリマー成分は異なるTgを示しうる。いくつかの態様において、水性分散液中で混合された場合の高分子量ポリマー成分により示されるTgと低分子量ポリマー成分により示されるTgの差は、これらのポリマー成分により別々に示されるTgにおける差よりも小さい場合がある。Tgにおける差の減少は、次の式による減少(%)として表されうる:
【0025】
【数1】

【0026】
(式中、TgHMWcは、高分子量ポリマー成分が水性分散液中で低分子量ポリマー成分と混合された場合に高分子量ポリマー成分により示されるTgであり、TgLMWcは、低分子量ポリマー成分が水性分散液中で高分子量ポリマー成分と混合された場合に低分子量ポリマー成分により示されるTgであり、TgHMWiは低分子量ポリマー成分の不在下で高分子量ポリマー成分により示されるTgであり、TgLMWiは高分子量ポリマー成分の不在下で低分子量ポリマー成分により示されるTgである)。いくつかの態様において、Tgにおける差の減少(%)は少なくとも25%であるか、または少なくとも50%であるか、または少なくとも70%であるか、または少なくとも80%であるか、または少なくとも90%であるか、または少なくとも95%である。
【0027】
いくつかの態様において、高分子量成分および低分子量成分は、水性分散液中で混合された場合に単一のTgを示し得る。
【0028】
本発明に関する使用に好適な疎水性空隙を有する高分子有機化合物には、例えば、シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体、疎水性空隙を有する環状オリゴ糖、カリキサレン、キャビタンドおよびその組み合わせが含まれる。
【0029】
いくつかの態様において、疎水性空隙を有する高分子有機化合物は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンおよびその組み合わせから選択することができる。
【0030】
いくつかの態様において、疎水性空隙を有する高分子有機化合物は、α−シクロデキストリンのメチル誘導体、β−シクロデキストリンのメチル誘導体、γ−シクロデキストリンのメチル誘導体、α−シクロデキストリンのトリアセチルヒドロキシプロピル誘導体、β−シクロデキストリンのトリアセチルヒドロキシプロピル誘導体、γ−シクロデキストリンのトリアセチルヒドロキシプロピル誘導体、α−シクロデキストリンのヒドロキシエチル誘導体、β−シクロデキストリンのヒドロキシエチル誘導体、γ−シクロデキストリンのヒドロキシエチル誘導体、およびその組み合わせから選択することができる。
【0031】
いくつかの態様において、疎水性空隙を有する高分子有機化合物は、シクロイヌロヘキソース、シクロイヌロヘプトース、シクロイヌロオクトースおよびその組み合わせから選択することができる。
【0032】
いくつかの態様において、疎水性空隙を有する高分子有機化合物はメチル−β−シクロデキストリンである。
【0033】
いくつかの態様において、高分子量ポリマー成分はモノマー由来である。
【0034】
いくつかの態様において、低分子量ポリマー成分のポリマー鎖Bはモノマー由来である。
【0035】
本発明に関する使用に好適なモノマーとしては、例えば、α,β−エチレン性不飽和モノマー(例えば、第一アルケン);スチレン;アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン;ビニルトルエン;C〜C30カルボン酸のビニルエステル(例えば、ビニル2−エチルヘキサノエート、ビニルネオデカノエート);塩化ビニル;塩化ビニリデン;N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド(例えば、オクチルアクリルアミドおよびマレイン酸アミド);C〜C30アルキル基を有するビニルアルキルエーテル;C〜C30アルキル基を有するアリールエーテル(例えば、ステアリルビニルエーテル);(メタ)アクリル酸のC〜C30アルキル基エステル(例えば、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート);(メタ)アクリル酸の不飽和ビニルエステル;多官能性モノマー(例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート);コレステロールから誘導されるモノマー;エチレン;酢酸ビニル;界面活性剤モノマー(例えば、C1827−(エチレンオキシド)20メタクリレートおよびC1225−(エチレンオキシド)23メタクリレート;酸性官能基を含有するα,β−モノエチレン性不飽和モノマー(例えば、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリルオキシプロピオン酸、(メタ)アクリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、マレイン酸または無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、モノアルキルマレエート、モノアルキルフマレート、モノアルキルイタコネート);酸置換(メタ)アクリレート;スルホエチルメタクリレート;酸置換(メタ)アクリルアミド(例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロピルスルホン酸);塩基性置換(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ターシャリー−ブチルアミノエチルメタクリレート);塩基性置換(メタ)アクリルアミド(例えば、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド);アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド;置換(メタ)アクリルアミド(例えば、ジアセトンアクリルアミド);(メタ)アクロレイン;およびメチルアクリレートが挙げられる。
【0036】
いくつかの態様において、高分子量ポリマー成分は、ラウリルアクリレート(LA);ラウリルメタクリレート(LMA);ブチルアクリレート(BA);エチルアクリレート(EA);2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA);メチルメタクリレート(MMA);メタクリル酸(MAA);アクリル酸(AA);アクリルアミド(AM);酢酸ビニル(VA);C1827−(エチレンオキシド)20メタクリレート;C1225−(エチレンオキシド)23メタクリレート);ヒドロキシエチルアクリレート(HEA);ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびn−ビニルピロリドン(NVP)から選択される1以上のモノマーから誘導することができる。
【0037】
いくつかの態様において、低分子量ポリマー成分のポリマー鎖Bは、ラウリルアクリレート(LA);ラウリルメタクリレート(LMA);ブチルアクリレート(BA);エチルアクリレート(EA);2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA);メチルメタクリレート(MMA);メタクリル酸(MAA);アクリル酸(AA);アクリルアミド(AM);酢酸ビニル(VA);C1827−(エチレンオキシド)20メタクリレート;C1225−(エチレンオキシド)23メタクリレート);ヒドロキシエチルアクリレート(HEA);ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびn−ビニルピロリドン(NVP)から選択される1以上のモノマーから誘導することができる。
【0038】
いくつかの態様において、高分子量ポリマー成分は、少なくとも50000;あるいは少なくとも100000の数平均分子量を示しうる。
【0039】
いくつかの態様において、低分子量ポリマー成分は、10000以下;あるいは6000未満;3000未満;あるいは1000〜4000の範囲の数平均分子量を示しうる。
【0040】
いくつかの態様において、ポリマー鎖Bは、100以下、あるいは60未満、あるいは40未満の重合度を示しうる。
【0041】
いくつかの態様において、疎水性空隙を有する高分子有機化合物の連鎖移動剤成分に対するモル比は5:1〜1:5000;あるいは1:1〜1:5000;あるいは1:1〜1:1000;あるいは1:2〜1:1000;あるいは1:1〜1:500である。
【0042】
いくつかの態様において、本発明のポリマー成分は、当該分野において周知の通常のフリーラジカル水性溶液または乳化重合を用いて製造することができる。重合は、バッチ、半連続または連続反応として行うことができる。重合は、逐次重合の一部として行うことができる。
【0043】
いくつかの態様において、フリーラジカル開始剤は、本発明のポリマー成分を製造するために用いることができる。本発明に関する使用に好適なフリーラジカル開始剤は、例えば、過酸化水素、tert−ブチルヒドロパーオキシド、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸リチウムおよび過硫酸アンモニウムを包含する。
【0044】
いくつかの態様において、還元剤は、本発明のポリマー成分を製造するために用いることができる。本発明に関する使用に好適な還元剤は、例えば、亜硫酸水素塩(例えば、アルカリ金属メタ重亜流酸塩、ヒドロ亜硫酸塩および次亜硫酸塩)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートおよび還元糖(例えば、アスコルビン酸)を包含する。
【0045】
いくつかの態様において、レドックス系を形成するために、還元剤を開始剤と組み合わせて用いることができる。例えば、0.01重量%〜2重量%(モノマーの重量基準)の開始剤を0.01重量%〜2重量%の還元剤との組み合わせにおいて用いてレドックス系を形成することができる。
【0046】
いくつかの態様において、遷移金属触媒、例えば鉄塩を本発明のポリマー成分の製造において用いることができる。
【0047】
いくつかの態様において、本発明のポリマー成分の製造において用いられる重合温度は、(i)水性乳化重合または溶液重合に関しては10℃〜120℃;(ii)過硫酸塩系については60℃〜90℃;または(iii)レドックス系については20℃〜70℃でありうる。
【0048】
エマルジョンポリマーを含むいくつかの態様において、モノマーエマルジョンまたはポリマーエマルジョンの製造のために、乳化剤または分散剤を用いることができる。かかる乳化剤または分散剤は、アニオン性、カチオン性または非イオン性であってもよい。いくつかの態様において、乳化剤および分散剤の混合物を用いることができる。
【0049】
好適な非イオン性乳化剤としては、例えば、エトキシル化オクチルフェノール、エトキシル化ノニルフェノール、エトキシル化脂肪族アルコールおよびその組み合わせが挙げられうる。
【0050】
好適なアニオン性乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、ノニルフェノールの硫酸化誘導体、ノニルフェノールのエトキシル化誘導体、オクチルフェノール、脂肪族アルコール、エステル化スルホスクシネートおよびその組み合わせが挙げられうる。
【0051】
好適なカチオン性乳化剤としては、例えば、ラウリルピリジニウムクロリド、セチルジメチルアミンアセテート、C〜C18アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドおよびその組み合わせが挙げられうる。
【0052】
いくつかの態様において、使用される乳化剤の量は、0.1重量%〜10重量%(全モノマー基準)でありうる。
【0053】
いくつかの態様において、本発明の方法により製造される水性分散液は、例えば、接着剤配合物、建築用コーティング、路面塗料、工業用コーティング、フロアポリッシュ、自動車用コーティング、プラスチック用コーティング、インクジェットインク、皮革用コーティング、皮革処理剤、木材仕上げ剤およびセメント系コーティングにおいて有効に用いることができる。
【0054】
いくつかの態様において、本発明の方法により製造される水性分散液は、建築用コーティング配合物中に有効に配合することができる。驚くべきことに、このような水性分散液を建築用コーティング組成物中に配合すると、乾燥フィルム特製、例えば、耐久性、機械的強度、ブロック耐性および吸塵耐性に悪影響を及ぼすことなく周囲フィルム形成を促進するために必要な通常の造膜助剤の量を減らすことができることが見いだされた。
【実施例】
【0055】
本発明のいくつかの態様を以下の実施例において詳細に記載する。
【0056】
次の実施例は、5000mLの四口丸底フラスコを反応容器として使用して行った。対象のフラスコには、窒素ガスパージ出口を有する水冷式還流凝縮器、IR Tow TCアダプターTCA/1型温度調節器に取り付けられた熱電対、Fisher Maxima(商標)デジタル撹拌モーターにより制御されたパドルを備えたガラス製スターラーならびに1/4インチ配管が取り付けられたQG−50FMIポンプにより制御されたモノマーおよび開始剤フィードラインが取り付けられていた。120V Variacタイプ3PN1010型(Staco Energy Productsから入手)またはタイプ3PN16C型(Superior Electric Company)のいずれかに連結された加熱マントルを用いて反応容器の内容物を加熱した。使用した反応物質はすべて、Metler PC8000はかりを用いて秤量した。
【0057】
(実施例1)
メチル−β−シクロデキストリンの配合
【0058】
脱イオン水(400g)、炭酸ナトリウム(5g)およびアニオン性界面活性剤(18.8g)を反応容器に室温で添加した。反応容器の内容物を次いで窒素パージ下で撹拌しながら85℃に加熱した。過硫酸アンモニウム溶液(25gの脱イオン水中5g)を次いで反応容器に連続して撹拌しながら添加した。過硫酸アンモニウムの添加の2分後、ラテックスポリマーシード組成物(137.6g)を反応容器に連続して撹拌しながら5分かけて添加した。2つのモノマーエマルジョン1および2(それぞれME1およびME2)を表1にしたがって別の容器中で製造した。
【0059】
【表1】

【0060】
ラテックスポリマーシード組成物を装填した後、反応温度を83℃〜85℃に維持しつつ、連続して撹拌しながらME1を反応容器に60分かけて添加した。過硫酸アンモニウム開始剤溶液(100gの脱イオン水中1g)をME1添加と同時に反応容器に供給した。ME1供給の最後に、メチル−β−シクロデキストリン(50.8%溶液を30g)を反応容器に添加した。次いで、83℃〜85℃の反応温度を維持しつつ、連続して撹拌しながら60分かけてME2を反応容器に添加した。さらなる過硫酸アンモニウム開始剤溶液(100gの脱イオン水中1gの過硫酸アンモニウム)をME2添加とともに反応容器に添加した。ME2添加後、反応容器内容物をレドックス開始剤でチェイスし、中和した。
【0061】
(実施例2)
メチル−β−シクロデキストリンなし
メチル−β−シクロデキストリン添加を省略する以外は、実施例1を繰り返した。
【0062】
(実施例3)
生成物の特徴
実施例1および実施例2の2つの生成物を特徴付け、固形分(重量%)、粒子サイズおよび分子量(どちらの実施例の生成物についても二峰性分布)を決定した。通常の重量測定技術を用いて固形分(重量%)を測定した。粒子サイズ分析は、Matec CHDF2000粒子サイズ分析器を用いて行った。分子量は、580〜7500000の範囲のピーク平均分子量を有するPolymer Laboratories(PS−1)から入手したポリスチレン標準を用いたSECにより測定した。Mark−Houwink定数を変換に適用した。これらの分析の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2において示されるように、SECの結果から、実施例2と比較して、実施例1の生成物については異なる分布が示されることがわかった。実施例2の生成物のSEC測定から、低分子量ポリマー成分について検出可能なレベルは示されなかったことがわかる。1000未満にピークが検出されたが、このピークは未反応オクチルデシルメルカプタンと一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1種の高分子量ポリマー成分を形成し;さらに
(ii)式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)
の少なくとも1種の低分子量ポリマー成分を形成することを含み、
ここで、低分子量ポリマー成分は疎水性空隙を有する高分子有機化合物の存在下で形成される、少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法。
【請求項2】
低分子量成分が高分子成分内で形成される請求項1記載の方法。
【請求項3】
連鎖移動剤成分が、メルカプタン、ポリメルカプタン、チオエステルおよびハロゲン化化合物およびその組み合わせからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項4】
連鎖移動剤成分が、非常に低い水溶性を有する連鎖移動剤からなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
連鎖移動剤成分がn−ドデシルメルカプタンである請求項1記載の方法。
【請求項6】
連鎖移動剤成分が、置換、非置換および官能化(C16〜C24)アルキルメルカプタン;置換、非置換および官能化フェニルメルカプタン;ならびに置換、非置換および官能化(C14〜C24)アルキルメルカプトプロピオネートから選択される請求項1記載の方法。
【請求項7】
ポリマー鎖Bが100以下の重合度を示す請求項1記載の方法。
【請求項8】
高分子量ポリマー成分のTgと低分子量ポリマー成分のTgの差が、別々にポリマー成分によって示されるTgについての差よりも小さい請求項1記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法であって:
(i)少なくとも1種の第一モノマーを重合させて、高分子量ポリマー成分を形成し;さらに
(ii)(a)少なくとも1種の第二モノマー;
(b)疎水性空隙を有する少なくとも1種の高分子有機化合物;および
(c)低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分;
を(i)の生成物に添加し、
ここで(a)、(b)および(c)は相互作用して、式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の低分子量ポリマー成分を形成すること;を含み、
少なくとも1種の第一モノマーおよび少なくとも1種の第二モノマーが同一であっても異なっていてもよい、方法。
【請求項10】
少なくとも2種のポリマー成分を有する水性分散液を製造する方法であって:
(i)(a)少なくとも1種の第一モノマー;
(b)疎水性空隙を有する少なくとも1種の高分子有機化合物;および
(c)低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分
を組み合わせ、ここで(a)、(b)および(c)は相互作用して、式I:
A−B (I)
(式中、Aは低水溶性を示す少なくとも1種の連鎖移動剤成分から誘導され、Bはポリマー鎖である)の低分子量ポリマー成分を形成し;
(ii)少なくとも1種の第二モノマーを(i)の生成物に添加し;さらに
(iii)少なくとも1種の第二モノマーを重合させて高分子量ポリマー成分を形成すること;を含み、
少なくとも1種の第一モノマーおよび少なくとも1種の第二モノマーが同一であっても異なっていてもよい、方法。

【公開番号】特開2006−225662(P2006−225662A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−39102(P2006−39102)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】