説明

水性分散液組成物および接着剤

【課題】 耐水性および放置安定性に優れる水性分散液組成物、並びに、該水性分散液組成物を用いた、保存安定性、初期接着性、接着強度、耐水性等に優れた接着剤を提供すること。
【解決手段】 (A)(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とする水性分散液と、(B)多価イソシアネート化合物からなる水性分散液組成物、および該水性分散液組成物を含む接着剤によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散液組成物および接着剤に関し、詳しくは、特定のエチレン単位を含むビニルアルコール系重合体とカルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、特定の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とする水性分散液と、多価イソシアネート化合物からなる水性分散液組成物に関する。本発明の水性分散液組成物は、耐水性および放置安定性に優れるので、保存安定性、初期接着性、接着強度、耐水性等に優れた接着剤として好適である。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)は、エチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用保護コロイドとして広く用いられており、これを保護コロイドとして用いて乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは、紙用、木工用、プラスチック用などの各種接着剤、含浸紙用、不織製品用などの各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工、繊維加工などの分野で広く用いられているが、耐水性や耐熱水性が低いという問題があった。
【0003】
このようなことから、これまで、PVA系重合体を分散剤とするエマルジョンの耐水性、耐熱水性を改善する手法が種々試みられてきた。例えば、(1)PVAを保護コロイドとして含有する水性エマルジョンに、グリオキザールなどの脂肪族アルデヒドを添加した接着剤などの用途に使用される高粘度化エマルジョンの製造方法(特許文献1)、(2)PVA、キトサンなどのアミノ化合物またはその塩および架橋剤を有効成分として含有する接着剤(特許文献2)、(3)PVAに、イソシアネート化合物を分散させた接着剤に、塩化カルシウムなどの吸湿性の化合物を添加した接着剤の改質法(特許文献3)、(4)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度95モル%以上の変性PVAを分散剤とし、エチレン性不飽和単量体を分散質とする水性エマルジョンを主成分とする木工用接着剤(特許文献4)、(5)カルボキシル基変性PVA存在下にエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョン、およびポリアミドとエポキシ基含有化合物との反応物からなるエマルジョン組成物(特許文献5)、(6)分子内にα−オレフィン単位を1〜20モル%含有し、けん化度95モル%以上のPVA系重合体とカルボキシル基を有するPVA系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体などを分散質とする水性エマルジョン、およびエポキシ化合物、アミノ基含有水性樹脂、アルミニウム化合物およびチタン化合物から選ばれる耐水化剤からなる水性エマルジョン組成物(特許文献6)、(7)PVA系重合体の存在下、酢酸ビニルとアクリル酸エステルなどの水にほとんど溶解しないモノマーとの乳化共重合により得られたエマルジョンの主剤にイソシアネート系化合物を配合した耐水性接着剤組成物(特許文献7)、(8)エチレン単位含有量1〜24モル%の変性PVAを水性エマルジョンに配合し、さらに多価イソシアネート化合物を配合した木材用接着剤(特許文献8)などが開示されている。
【特許文献1】特開昭55−94937号公報
【特許文献2】特開平3−45678号公報
【特許文献3】特公昭57−16150号公報
【特許文献4】特許第3466316号公報
【特許文献5】特許第3311086号公報
【特許文献6】特開2001−40231公報
【特許文献7】特開平3−33178号公報
【特許文献8】特許第3474303号公報
【0004】
しかしながら、上記した(1)、(2)、(4)、(5)および(6)に開示された接着剤においては、耐水性の改善は認められるものの、まだ不十分であった。また、(3)および(7)に開示された接着剤は耐水性のレベルがさらに改善されたが、さらなる耐水性の改善要求は依然としてあり、また、ポットライフが短く作業性に問題があった。一方、(8)に開示された接着剤は、耐水接着力が一段と改善され、同時にポットライフ、初期接着性も改善されたものの、接着する対象の拡大とともに、場合によっては現在の接着性能レベルをさらに向上する必要も生じてきている。
【0005】
構造用接着剤としてはさらに高度な耐久性が要求されること、また個々の用途でも初期接着性の一層の向上が要求される場合がある。したがって、高度な耐水性、ポットライフ、および初期接着性をバランスよく発現する水性分散液組成物および接着剤は、依然として実在しないといっても過言ではなく、その技術の進歩が強く望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来の技術における問題点を解消し、耐水性および放置安定性に優れる水性分散液組成物、並びに、該水性分散液組成物を用いた、保存安定性、初期接着性、接着強度、耐水性等に優れた接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる水性分散液組成物および接着剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、(A)(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とする水性分散液と(B)多価イソシアネート化合物からなる水性分散液組成物である。また、本発明のもう一つの発明は、このような水性分散液組成物を含む接着剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性分散液組成物は、高い耐水性および放置安定性を有するので、保存安定性、初期接着性、接着強度、耐水性等に優れた高性能な接着剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水性分散液組成物を構成する水性分散液(A)は、(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とするものである。
【0010】
本発明で用いる(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体は、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、経済的な点から酢酸ビニルが好ましい。
【0011】
本発明で用いる(a)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体のエチレン単位の含有量は1〜10モル%であることが必要であり、好ましくは2〜8モル%である。エチレン単位の含有量が1モル%未満の場合、得られる水性分散液(A)の耐水性が十分でなく、水性分散液組成物の耐水性も不十分になる。一方、エチレン単位の含有量が10モル%を越える場合、ビニルアルコール系重合体の水溶性が低下するために、安定な水性分散液が得られない。
【0012】
また、(a)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0013】
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体をエチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物も用いることができる。しかし、得られる水性分散液組成物の耐水性という点で、ビニルエステルとエチレンのみを共重合し、それをけん化することにより得られるPVA系重合体が好ましい。
【0014】
本発明で用いる(a)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は、90.0〜99.5モル%であることが必要であり、より好ましくは91.0モル%〜99.5モル%、さらに好ましくは92.0〜99.5モル%である。けん化度が90.0モル%未満の場合、得られる水性分散液(A)の耐水性が十分でなく、水性分散液組成物の耐水性も不十分になる。一方、99.5モル%を超える場合、ビニルアルコール系重合体の特に低温における水溶液の粘度安定性が低下するため、放置安定性に優れる水性分散液(A)が得られない。
【0015】
また、該ビニルアルコール系重合体の重合度は、100〜4000の範囲が好ましく、200〜3000がより好ましい。この範囲を外れると、該重合体の工業的な製造に問題がある上、本発明の水性分散液組成物の安定性や耐水性が問題になることがある。
【0016】
本発明で用いる(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体は、各種の方法により得られるが、代表的には特公昭60−31844号公報などに記載のように、ビニルエステルとカルボキシル基を有する不飽和単量体との共重合体をけん化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、経済的な点から酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
カルボキシル基含有量は特に制限されないが、通常0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜8モル%、より好ましくは0.5〜5モル%である。ここでカルボキシル基を有する不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などが例示されるが、このうちジカルボン酸およびそのハーフエステルあるいは無水物が好適である。
【0018】
本発明で用いる(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体単位を含有することができる。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0019】
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、カルボキシル基を有するエチレン性単量体と共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物も用いることができる。
【0020】
また、(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体のその他の例としては、末端にチオール基を有するビニルアルコール系重合体の水溶液中でアクリル酸等のカルボン酸を有する不飽和単量体を、従来公知の開始剤によりラジカル重合して得られるビニルアルコール系重合体とカルボン酸を有する重合体のブロックポリマーや、ビニルアルコール系重合体に従来公知の方法でカルボン酸を有するアルデヒド化合物をアセタール付加させたものなどを挙げることができる。しかし、得られる水性分散液組成物の耐水性という点で、ビニルエステルとカルボキシル基を有する不飽和単量体(けん化によりカルボキシル基を生成する単量体単位を含む)のみを共重合し、それをけん化することにより得られるPVA系重合体が好ましい。
【0021】
本発明で用いる(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は、その水溶性および得られる水性分散液(A)の安定性の観点から70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましい。
【0022】
また、ビニルアルコール系重合体の重合度は、100〜4000の範囲が好ましく、200〜3000がより好ましい。この範囲を外れると、該重合体の工業的な製造に問題がある上、本発明の水性分散液組成物の安定性や耐水性が問題になる場合がある。
【0023】
本発明の水性分散液組成物を構成する水性分散液の分散質は、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子である。ここで重合体微粒子を構成するエチレン性不飽和単量体単位およびジエン系単量体単位としては各種のものがを使用することができるが、具体的には、エチレン、プロピレン、イソブテン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩のアクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロライド、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンスルホン酸およびそのナトリウム、カリウム塩等のスチレン系単量体類、N−ビニルピロリドン等のその他の単量体を例示することができる。またジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
【0024】
さらに、クロトン酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、ケイ皮酸などのカルボキシル基を含有する不飽和単量体、ビニルトリメトキシシランやメタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン基を有する不飽和単量体、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を有する不飽和単量体、ビニルオキサゾリンや2−プロペニル2−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有する不飽和単量体、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレートなどのその他架橋性基を有する不飽和単量体なども本発明の性能を損なわない範囲で使用することができる。上記不飽和単量体の中でも、ビニルエステル系単量体、エチレンとビニルエステル系単量体およびビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステル系単量体の併用が好適であり、工業的な観点から、ビニルエステル系単量体単位としては酢酸ビニルが特に好ましい。
【0025】
本発明を構成する水性分散液(A)は、(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とするものであり、各種の方法によって得ることができる。代表的には、(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体の存在下、水性媒体中で(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体を乳化重合することにより得られる。
【0026】
上記の(a)、(b)および(c)を用いた乳化重合は、特に制限はなく、従来公知の乳化重合の条件(温度、圧力、攪拌速度等)、単量体の添加方法(初期一括添加、連続添加、単量体プレ乳化液添加等)で、従来公知の開始剤、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、2、2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、イソプロピルベンゼンパーオキサイド等が単独あるいは重亜硫酸ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、硫酸第一鉄等の還元剤と併用したレドックス系を用いて行うことができる。水性媒体としては、水、水に可溶な有機溶剤などが用いられるが、通常は水が用いられる。
【0027】
また、該乳化重合に際し、(a)又は(b)のビニルアルコール系重合体いずれかを分散剤として、(c)の重合体微粒子を構成する単量体を用いて乳化重合を開始し、重合途中あるいは重合終了後に残りの(a)あるいは(b)の水溶液を後添加する手法等も採用できる。しかし、(a)および(b)は、乳化重合中にその水性媒体中に存在させておく方が、PVA系重合体の重合体粒子へのグラフト反応が起こりやすく、強度や耐水性に優れる水性分散液組成物を得るという観点では好ましい。
【0028】
本発明で用いる(A)水性分散液中の分散質である(c)重合体微粒子の平均粒子径は、0.1〜3μmが好ましく、0.3〜1.5μmがより好ましい。平均粒子径が0.1μmよりも小さい場合には、本発明の水性分散液組成物を接着剤として使用した場合に初期接着力が顕著に低下することがある。また、平均粒子径は3μmよりも大きい場合、接着強度や耐水性の低下が起こることがある。
【0029】
また、上記乳化重合に際し、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のアニオン性、カチオン性、両性、非イオン性分子界面活性剤やヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子(保護コロイド)を(a)および(b)と併用して用いることも可能である。
【0030】
本発明の水性分散液組成物を構成する(A)水性分散液は、前述したように、(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とするが、分散剤を構成する(a)エチレン単位を有する特定のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤の比率は、固形分重量比で(a)/(b)=90/10〜10/90であることが好ましく、(a)/(b)=85/15〜20/80がより好ましく、(a)/(b)=80/20〜30/70がさらに好ましい。(a)/(b)=90/10〜10/90の範囲外では、水性分散液組成物の耐水性と保存安定性が低下することがある。
【0031】
また、(c)の分散質を構成する重合体微粒子と分散剤の比率は、固形分重量比で〔(a)+(b)〕/(c)=2/98〜20/80であることが好ましく、より好ましくは〔(a)+(b)〕/(c)=2.5/97.5〜15/85である。〔(a)+(b)〕/(c)=2/98よりも(c)の比率が高くなると、水性分散液(A)の安定性が低下することがあり、また、〔(a)+(b)〕/(c)=20/80よりも(c)の比率が低くなると、水性分散液(A)の粘度が極めて高くなり、安定性が低下することがある。
【0032】
本発明の水性分散液組成物は、(A)(a)エチレン単位を有する特定のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とする水性分散液と、(B)多価イソシアネート化合物からなる水性分散液組成物である。
【0033】
(B)多価イソシアネート化合物としては、分子に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、水素化TDI、トリメチロールプロパン−TDIアダクト(例えばバイエル社製,商品名:DesmodurL)、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビスジフェニルイソシアネート(MDI)、水素化MDI、重合MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があげられる。その他、ポリオールに過剰のポリイソシアネートで予めポリマー化した末端基がイソシアネート基を持つプレポリマーを用いてもよい。
【0034】
本発明の水性分散液組成物における(B)多価イソシアネート化合物の含有量は、上記の(A)水性分散液との固形分重量比で、(B)/(A)=1/100〜100/100であることが好ましく、(B)/(A)=3/100〜90/100がより好ましく、(B)/(A)=5/100〜80/100がさらに好ましい。(B)/(A)=1/100よりも(B)の比率が少ない場合、水性分散液組成物の接着強度、耐水性が低くなり、また、(B)/(A)=100/100よりも(B)が多い場合、水性分散液組成物の安定性、ポットライフが顕著に悪化することがある。
【0035】
本発明の水性分散液組成物は、有機系あるいは無機系の充填剤(フィラー)を配合した組成物の形態で使用されることがあり、その場合にも本発明が目的とする効果を発現する。ここで、充填剤(フィラー)としては、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、木粉、小麦粉、酸化チタン、メラミン樹脂などの各種ポリマー粉体が挙げられる。また、本発明の水性分散液組成物と充填剤(フィラー)の配合割合は特に制限はなく、用途、目的によって各種設定することができる。
【0036】
本発明の水分散液組成物は、必要に応じて、その乾燥性、セット性、粘度、造膜性などを調製するために、トルエン、パークレン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの各種有機溶剤、フタル酸ジブチルなどの各種可塑剤、グリコールエーテル類などの各種造膜助剤、エステルでんぷん、変性でんぷん、酸化でんぷん、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、無水マレイン酸/イソブテン共重合体、無水マレイン酸/スチレン共重合体、無水マレイン酸/メチルビニルエーテル共重合体、各種ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、尿素−ホルマリン樹脂、尿素−メラミン−ホルマリン樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、ノニオン、アニオンおよびカチオン性の各種界面活性剤、消泡剤、分散剤、凍結防止剤、防腐剤、防錆剤などの各種添加剤を含有するものでも良い。
【0037】
本発明の水性分散液組成物を含む組成物は、木材、無機物、プラスチックなどの基材に対する接着剤や塗料、紙加工、繊維加工等の各種コーティング剤として好適に使用することができ、木材(木質材料)の接着剤として特に好適に用いられる。接着剤として使用する場合の塗布量は各種の状況に応じて適宜選定すればよい。塗布方法としては、ハケによる塗工、ロールによる塗工などが挙げられる。接着剤を塗布した後の乾燥は、室温から200℃での加熱乾燥でも良いが、本発明の接着剤は室温乾燥する場合であっても十分な接着力が発現する。本発明の接着剤の特徴は、保存安定性が高く、初期接着性、接着強度および耐水性が極めて高いレベルでバランスよく発現することである。
【0038】
接着剤を塗布した後の乾燥時間は、状況に応じて決めればよいが、一般的には30分間から5時間程度が好ましい。接着剤の乾燥は圧締した状態で行うのが好ましい。圧締時の圧力としては、5〜20kg/cmの範囲で選択され、硬い木材が被着体である場合には圧締の圧力は高い方が好ましく、柔い木材が被着体である場合には木材が破壊しない程度の高い圧力が好ましい。
【0039】
本発明の接着剤は、特に木材や木質材料に対して好適に使用されるが、その場合、木材や木質材料の種類としては特に制限はなく、一例としては、カバ、ツガ、杉、ラワン、ケヤキ、ペルポック、ゴム、オークなどの木材や、合板、MDF、パーティクルボード、LVLなどの木質材料が挙げられる。これら木材および木質材料は本発明の接着剤を用いて接着・加工されることにより、高い耐久性を持った木質製品(各種集成材、家具等)となる。以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0040】
(A)水性分散液製造例1:
PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1750)1.92部とPVA−2(無水マレイン酸単位1.0モル%、けん化度98.1モル%、重合度1750)1.92部をイオン交換水80部に加熱溶解し、それを窒素吹込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ。希硫酸でpH4.0に調整後、酢酸ビニル80部を仕込み、次いで、エチレンを42kg/cm2 Gまで昇圧した(エチレンの仕込量は20部に相当する)。温度を60℃まで昇温後、過酸化水素−ロンガリット系レドックス開始剤で重合を開始した。2時間後、残存酢酸ビニル濃度が0.7%となったところで重合を終了し、固形分濃度54.6%、平均粒子径1.1μmの安定な酢酸ビニル−エチレン共重合体水性分散液(水性分散液−1)を得た。
【0041】
(A)水性分散液製造例2〜16:
表1に示すように、分散剤として使用するPVAの種類、分散質に対する量を変える以外は、水性分散液製造例1と同様にして酢酸ビニル−エチレン共重合体水性分散液を製造した。水性分散液の安定性を状態から評価した。
【0042】
水性分散体の評価: ○ 良好
△ やや不安定であるが使用可能
× 不安定であり使用不可(組成物としての評価不可)
【0043】
(A)水性分散液製造例17:
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水110g、PVA−7(エチレン単位の含量8.3モル%、鹸化度99.3モル%、重合度900)5.6部およびPVA−2(無水マレイン酸単位の含量2.0モル%、鹸化度97.8モル%、重合度1700)5.6部を仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら酢酸ビニル9.9部とアクリル酸0.1部を仕込み、60℃に昇温した後、過酸化水素/酒石酸系のレドックス開始剤により重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル89.1部とアクリル酸0.9部を混合したものを3時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度48.7%、平均粒子径0.7μmの安定な酢酸ビニル−アクリル酸共重合体水性分散液(水性分散液−17)が得られた。
【0044】
(A)水性分散液製造例18−20:
表1に示すように、分散剤として使用するPVAの種類、分散質に対する量を変える以外は、水性分散液製造例17と同様にして酢酸ビニル−アクリル酸共重合体水性分散液を製造した。
【0045】
(A)水性分散液製造例21:
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水120部、PVA−4(エチレン単位の含量2.1モル%、重合度500、けん化度91.3mol%)4.5部およびPVA−10(イタコン酸単位4.2モル%、鹸化度95.4モル%、重合度600)3.0部を仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら酢酸ビニル7部、n−ブチルアクリレート3部を仕込み、60℃に昇温した後、2%過硫酸カリウム水溶液10gを添加し重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニ63部、n−ブチルアクリレート26部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を混合したものを4時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度46.0%の酢酸ビニル−ブチルアクリレート−2−エチルヘキシルアクリレート共重合体水性分散液(水性分散液―21)が得られた。
【0046】
(A)水性分散液製造例22:
PVA−4(エチレン単位の含量2.1モル%、重合度500、けん化度91.3mol%)5.6部およびPVA−10(イタコン酸単位4.2モル%、鹸化度95.4モル%、重合度600)5.6部、非イオン性界面活性剤(ノニポール200:三洋化成製)1.0部をイオン交換水120部中で加熱溶解し、それを窒素吹込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ。希硫酸でpH4.0に調整した後、スチレン30部と2部を仕込み、次いで耐圧計量器よりブタジエン68部を仕込み、70℃に昇温後、2%過硫酸カリウム水溶液0.5部を圧入して重合を開始した。内圧は4.8kg/cm Gから重合の進行とともに低下し、15時間後に0.4kg/cm Gに低下したところで重合を終了した。得られたエマルジョンをアンモニア水でpH6.0とし、固形分濃度46.7%、平均粒子径0.3μmの安定なスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体水性分散液(水性分散液−22)が得られた。
【0047】
実施例1
(A)水性分散液製造例1で得られた水性分散液−1と(B)ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名:ミリオネートMR−100)を、固形分重量比で(B)/(A)=25/100の割合で混合し、水性分散液組成物を調製した。これを用いて、以下の条件により試験を行った。結果を表2に示す。
【0048】
〔試験条件〕
1.(B)多価イソシアネート配合前の分散液放置安定性:密閉容器に入れ、5℃および40℃の恒温槽中で2週間放置した。放置前後の状態を観察した。
○:変化なし
△:増粘あるいは沈降が僅かに認められる
×:ゲル化あるいは沈降物の流動性なし
【0049】
2.(B)多価イソシアネート配合後の状態観察:容器に入れ、20℃の恒温槽中で放置し状態を観察した。
○:増粘は激しくない。
△:増粘激しい。
×:増粘が極めて激しい。
【0050】
3.接着試験:上記組成物を用いて、以下の条件で接着試験を行った。
被着材:カバ/カバ(マサ目)含水量8%
塗布量:250g/m(両面塗布)
堆積時間:1分
圧締条件:20℃、24時間、圧力10kg/cm(常態強度、煮沸繰返し試験片のみ)
【0051】
JISK−6852による圧縮剪断接着強度を測定
常態強度:20℃、7日間養生後そのままの状態で測定
煮沸繰返強度:20℃で7日間養生後、試験片を煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸漬してから、室温の水中に冷めるまで浸し、濡れたままの状態で試験に供した。
【0052】
初期接着強度:貼りあわせ後、20℃で10kg/cmの圧力で10分間圧締し、直ちに圧縮剪断接着強度を測定。
【0053】
実施例2〜15、比較例1〜7
(A)水性分散液製造例2〜22で製造した各種水性分散液を用い、実施例1と同様に(B)ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名:ミリオネートMR−100)を、固形分重量比で(B)/(A)=25/100の割合で混合し、水性分散液組成物を調製した。これを用い、実施例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【0054】
実施例16〜19、比較例8
実施例1において、(B)ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名:ミリオネートMR−100)の配合割合を変える以外は実施例1と同様に水性分散液組成物を調製した。これを用い、実施例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【0055】
実施例20
ポリビニルアルコール PVA−11(重合度1750、けん化度88.2モル%、無変性)の15%水溶液35部と炭酸カルシウム65部を混合し、それに水性分散液―1を100部(水分散体としての重量)加え(A)水性分散液を調製した。それに、(B)ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名:ミリオネートMR−100)を、固形分重量比で(B)/(A)=15/100の割合で混合し、水性分散液組成物を調製した。これを用い、実施例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の水性分散液組成物は、高い耐水性および放置安定性を有するので、保存安定性、初期接着性、接着強度、耐水性等に優れた高性能な接着剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位からなる重合体微粒子を分散質とする水性分散液と、(B)多価イソシアネート化合物からなる水性分散液組成物。
【請求項2】
該水性分散液(A)が、固形分重量比で(a)/(b)=90/10〜10/90かつ〔(a)+(b)〕/(c)=2/98〜20/80である請求項1記載の水性分散液組成物。
【請求項3】
該水性分散液組成物が、固形分重量比で(B)/(A)=1/100〜100/100である請求項1又は2記載の水性分散液組成物。
【請求項4】
さらに有機系又は無機系の充填剤を配合した請求項1〜3いずれかに記載の水性分散液組成物。
【請求項5】
該水性分散液(A)が、(a)エチレン単位を1〜10モル%含有し、鹸化度が90.0〜99.5モル%のビニルアルコール系重合体と(b)カルボキシル基を有するビニルアルコール系重合体の存在下、水性媒体中で(c)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体を乳化重合することにより得た水性分散液である請求項1〜4いずれかに記載の水性分散液組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の水性分散液組成物を含む接着剤。


【公開番号】特開2008−156484(P2008−156484A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347337(P2006−347337)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】