説明

水性固体過酸化ジアシル懸濁液

範囲1〜10マイクロメートルのd50を有する35〜45重量%の固体過酸化ジアシル粒子と0.05〜1重量%の分散剤と1重量%以下の有機溶剤とを含む水性懸濁液。この濃縮過酸化物懸濁液は、少量の分散剤しか含まず、低い揮発性有機分含有率を有し、それにもかかわらず、何ヶ月にもわたって安定であり、粘度が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性過酸化ジアシル懸濁液に関し、及びハイポリマー、すなわち1000g/molより高い分子量を有するポリマーの、特に(発泡性)ポリスチレンの生産におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固体過酸化ジアシルが、ハイポリマーの生産における適する開始剤であることは公知である。特に、過酸化ジベンゾイル(BPO)が、スチレン系樹脂の重合、例えば(発泡性)ポリスチレンを形成するためのスチレンの乳化重合において開始剤として適することは公知である。このプロセスは、水性懸濁液状態で行われ、その反応混合物に水性懸濁液として開始剤が添加される。そのようなスチレン重合プロセスの例は、開始剤が反応混合物にある期間、好ましくは少なくとも0.5時間、さらに好ましくは1.0時間にわたって連続的に又は半連続的に投入される、国際公開第2004/089999号に開示されているものである。
【0003】
このプロセスについては、適する方法で反応器に過酸化物を投入するために、微細懸濁過酸化物の注型可能流体(pourable fluid)、すなわち800mPa.s以下の粘度及び10マイクロメートルより小さい粒子を有する過酸化物懸濁液の使用が不可欠である。より高い粘度は、強力なポンプを必要とするであろうし、輸送パイプを詰まらせる場合もある。より粗い粒子は、バルブの摩耗及び目詰まりを増進する。
【0004】
しかし、低粘度懸濁液は、一般に粗粒からなり、高い不均質性、すなわち相分離を有する。しかし、投入精度のために、一切の不均質性の不在は不可欠である。従って、市場で動作するために、すなわち運搬、緩衝在庫及び取扱いに必要な時間をカバーするために、過酸化物懸濁液は、少なくとも2ヶ月間、いずれの不均質性も有することは許されない。言い換えると、相分離が不在の期間と定義する懸濁液の保存寿命は、少なくとも2ヶ月でなければならない。
【0005】
比較的安定した低粘度懸濁液を提供するために、一般には分散剤が数重量%の濃度で懸濁液に添加される。残念なことに、分散剤は、スチレン重合中に形成される(発泡性)ポリスチレン懸濁液の安定性に悪影響を及ぼす傾向があり、形成されるポリスチレン粒子のサイズに不利な影響を及ぼすこともある。従って、(発泡性)ポリスチレン生産に使用されるBPO懸濁液中の分散剤の量を出来る限り少なくする必要がある。
【0006】
欧州特許第0263619号は、この問題を考究し、少量の分散剤に加えて結晶性セルロースを含むBPO懸濁液を開示した。しかし、この文献に開示されている高濃度BPO懸濁液(すなわち、35重量%より多くのBPOを含有)は、あまりにも高い粘度を有し、有機溶剤(エチレングリコール)を含有し、及び/又は2ヶ月よりはるかに短い不十分な保存寿命を有する。
【0007】
特開平07−330715は、分散剤が少なく、粘度が低い、40重量%水性BPO懸濁液を開示している。しかし、これらの懸濁液の保存寿命は、粒子の使用には短すぎる。下の実施例において示すように、粗粒を用いて泡懸濁液が得られ、これは数日後に分離を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/089999号
【特許文献2】欧州特許第0263619号
【特許文献3】特開平07−330715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、35〜45重量%の固体過酸化ジアシルを含む水性懸濁液であって、少量の分散剤(1重量%以下)しか含まず、低い揮発性有機分含有率(VOC)を有し、それにもかかわらず何ヶ月にもわたって安定であり、粘度が低い懸濁液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
範囲1〜10マイクロメートルのd50粒径を有する35〜45重量%の固体過酸化ジアシル粒子と、
0.05〜1重量%の分散剤と、
1重量%以下の有機溶剤と
を含む水性懸濁液に関する、本発明によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水性懸濁液は、35〜45重量%、好ましくは38〜42重量%の固体過酸化ジアシル粒子を含む。前記過酸化ジアシル粒子は、範囲1〜10マクロメートルのd50を有し、これは、懸濁液中の過酸化粒子の総量の50容量%が、範囲1〜10マイクロメートル(μm)の粒径を有するという意味である。好ましくは、d50は、1〜7マイクロメートルの範囲、さらに好ましくは、範囲2〜6マイクロメートルである。d50は、静的光散乱技術を用いるMalvern Mastersizerを利用することによって決定される。d90/d50比によって表されるような粒径分布は、好ましくは6より小さく、さらに好ましくは5より小さく、及び最も好ましくは4より小さい。
【0012】
適する固体過酸化ジアシルの例は、過酸化ジベンゾイル(BPO)及び過酸化ジデカノイルである。最も好ましくは、固体過酸化ジアシルは、過酸化ジクロロベンゾイルなどの置換過酸化ジベンゾイルを含む、過酸化ジベンゾイルである。最も好ましくは、過酸化ジアシルは、BPOとも呼ばれる、非置換過酸化ジベンゾイル、すなわちPh−C(O)−O−O−C(O)−Ph、である。
【0013】
本発明の懸濁液は、0.05〜1重量%、好ましくは0.07〜0.8重量%、及び最も好ましくは0.1〜0.6重量%の分散剤を含む。より少ない量は、不安定な懸濁液を生じさせる結果となり;より多い量は、重合反応及び他の用途において分散剤が及ぼす悪影響、懸濁液のCOD(化学的酸素要求量)の増大にかんがみて、並びに経済的理由のため、望ましくない。
適する分散剤としては、すべての吸着性高分子及び非高分子分散剤、イオン性及び非イオン性分散剤、並びにそれらの混合物が挙げられる。分散剤は、好ましくは、水溶性又は水分散性である。水不溶性分散剤は、取り扱いが難しいので、あまり好ましくない。分散剤は、好ましくは、前記過酸化物懸濁液を利用することとなるプロセスにおいて使用される材料の1つである。さらに好ましくは、分散剤は、スチレン又はそれらの混合物の重合において利用される材料である。最も好ましくは、分散剤は、完全又は部分加水分解ポリビニルアセテート及びそれらのコポリマー(例えば、完全又は部分加水分解エチレンビニルアセタートコポリマー)、ポリビニルピロリドン、アルキル又はアリールスルホナート、アルキル又はアリールベンゼンスルホナート(例えば、ベンゼンスルホン酸ナトリウム)、アルキル又はアリールスルファート、及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0014】
本発明の懸濁液は、1重量%より多くの有機溶剤を含有しない。好ましくは、それは、0.5重量%未満、さらに好ましくは0.1重量%未満の有機溶剤を含有し、及び最も好ましくは有機溶剤を含有しない。水性過酸化物懸濁液中に通常存在する溶剤の例は、極性有機溶剤、例えば、エチレングリコール、グリセロール、並びに低級アルコール及びそれらのエーテル、例えばポリエチレングリコール、並びに非極性有機溶剤、例えば、エステル(例えば、リン酸トリメチル、マレイン酸ジブチル、又はアジピン酸ジイソデシル)、エーテル、炭化水素、並びにそれらの誘導体である。
【0015】
本発明の懸濁液の揮発性有機分含有率(VOC)は、好ましくは、15g/l以下、さらに好ましくは10g/l以下、及び最も好ましくは6g/l以下である。VOCは、101.3kPaの標準大気圧で測定して、250℃以下の初期沸点を有するすべての化合物の濃度を指す。
【0016】
水、固体過酸化ジアシル、及び分散剤に加えて、本発明の水性懸濁液は、少量の添加剤、例えば増粘剤又は沈降防止剤及びpH緩衝液を含有することがある。沈降防止剤は、懸濁液中での沈降プロセスを遅延する又は遅らせることができる化合物である。有機及び無機沈降防止剤の両方が適する。適する有機沈降防止剤は、一般に、事実上、高分子のものである。適する高分子沈降防止剤の例は、カルボン酸のホモ、コ及びターポリマー、機能化セルロース、例えばセルロースエーテル及びエステル、カルボキシメチルセルロース、機能化カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、グアーガム、ローカスト・ビーン・ガム(locus bean gum)、ゲランガム、ペクチン、カラゲナン(carragenan)ガム、寒天、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、機能化ポリスチレン(SMAポリマー)、アルファメチルスチレンポリマレイン酸、機能化EHEC、及び機能化及び/又はハロゲン化ポリオレフィンである。適する無機沈降防止剤は、空間構造、例えば板様構造又は針様構造を形成する固体である。適する無機沈降防止剤の例は、ベントナイト、ヘクトライト、シリカ、カオリナイト、モンモリロナイト、及びアタパルジャイトである。
【0017】
好ましくは、沈降防止剤は、懸濁液を剪断減粘性にする。さらに好ましくは、沈降防止剤は、流体のチキソトロピーを生じさせる。さらに好ましくは、沈降防止剤は、流体に降伏点を示させる。沈降防止剤は、好ましくは、本発明の水性懸濁液中に0〜1重量%、さらに好ましくは0.1〜0.8重量%、及び最も好ましくは0.2〜0.6重量%の量で存在する。
【0018】
適するpH緩衝剤の例は、酢酸ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、及び重炭酸ナトリウムである。pH緩衝液は、好ましくは、本発明の水性懸濁液中に0〜0.5重量%、さらに好ましくは0〜0.4重量%、及び最も好ましくは0.1〜0.3重量%の量で存在する。
【0019】
本発明の水性懸濁液の粘度は、Erichsen Disc Viscometerタイプ332/1により範囲0〜1500mPa.s、22±3℃で測定して、好ましくは800mPa.s未満、さらに好ましくは600mPa.s未満、及び最も好ましくは400mPa.s未満である。
【0020】
本発明の懸濁液の安全性は、保存寿命、すなわち懸濁液の調製と、それ自体が水のクリーミング又は過酸化物の沈降により表出される、相分離の最初の痕跡(初発分離(incipient separation))との間の経過時間によって定義される。この分離は、視覚的に及びプローブを利用して判定される。保存寿命は、好ましくは少なくとも2ヶ月、さらに好ましくは少なくとも2.5か月、及び最も好ましくは少なくとも3ヶ月である。
【0021】
加えて、前記懸濁液は、金属イオン封鎖剤、フィラーなども含有することがある。しかし、これは推奨されない。これらの材料は、前記懸濁液の特性を変化させることがあるからである。さらに、前記懸濁液は、好ましくは、ポリリン酸アルカリ金属塩を含有しない。
【0022】
本発明の水性懸濁液は、過酸化ジアシル粉末と水と分散剤と任意の他の成分との混合物の従来の粉砕又は高剪断分散装置における粉砕によって調製することができる。そのような装置の例は、ローター/スターターユニット、例えばUltra Turrax(登録商標)、コロイドミル、パールミル、ボールミル、ディスパックス(dispax)、超音波ミルなどである。
【0023】
本発明の水性分散液は、水性過酸化ジアシル懸濁液を使用することができるすべてのプロセスに使用することができる。これは、懸濁重合などの様々な重合反応を含む。これは、(発泡性)ポリスチレンを形成するためのスチレンの、ポリ(ビニルアセタート)を形成するためのビニルアセタートの、ポリ(メタ)アクリラートを形成するための(メタ)アクリル系モノマーの、及びコポリマーを形成するための2つ又はそれ以上の(不飽和)モノマーの懸濁重合を含む。
本発明の懸濁液は、BPO懸濁液が連続的に又は半連続的に投入されることとなるプロセスに本質的に適する。
【0024】
実施例
寿命測定
直径7.5cmを有する500ml PEボトルに400mgの懸濁液を投入し、室温(21〜23℃)で保存した。毎日、プローブを使用して相分離、すなわち水の上層と過酸化物の下層の形成についてその懸濁液を目視検査した。保存寿命は、懸濁液の調製時点と分離の最初の痕跡、すなわち初発分離の観察時点の間に経過する時間である。
【0025】
粘度
Erichsen Disc Viscometer タイプ332/1を利用した(範囲0〜1500mPa.s)。懸濁液(200g)をすずカップ(直径7.3cm及び高さ7.5cm)に投入した。Erichsenディスクをその懸濁液に適当な測定深度まで浸漬し、それによってカップの「揺動」を防止した。浸漬直後に最初の読取りを行い、1分混合した後、二回目の読取りを行った。
【0026】
BPO粒径測定
分散ユニット タイプQSpecを具備するMaster Sizer タイプSを使用して、BPO粒径を判定した。
【0027】
比較例1
特開平07−330715の実施例5を次のように再研究した:BPO(Akzo Nobelによって供給されているPerkadox(登録商標)L W75、75%活性)を、前記特許出願に提供されている説明に従って、ジエチルヘキシルスルホスクシナート、多糖類としてのRhodigel 80、脱塩(demi)水中のNaOHの24%溶液、及びdemi水と、前記特許出願中で述べられている量で混合した。この先行技術実施例の説明に従って、その混合物を単に攪拌した;粉砕しなかった。20分の攪拌の後に得られた混合物は、多量の空気を含有した:密度は0.8kg/lに降下し、500ml PE容器内に389gしか入れられなかった。得られた懸濁液は、約180マイクロメートルのd50を有するBPO粒子を含有した。その保存寿命は4日未満であった。
【0028】
実施例2〜5
Ultra Turraxを利用してのすべての材料を混合し、その後、ビートミルでのこの混合物を粉砕することにより、本発明の40重量%水性BPO懸濁液を調製した。粘度を測定する前にその懸濁液を脱気した。
【0029】
次の材料を使用した:
Gohsenol(登録商標)KP08:日本合成化学株式会社(Nippon Gohsei)により供給されている部分鹸化ポリビニルアセタート
Luvitec(登録商標)K30:Basfにより供給されている低粘度ポリビニルピロリドン
Luvitec(登録商標)K90:Basfにより供給されている高粘度ポリビニルピロリドン
Nacconol(登録商標)90G:Stepanにより供給されているドデシルベンゼンスルホナートのナトリウム塩
Rhodigel(登録商標)80:Grindstedにより供給されているキサンタンガム
BPO:Akzo Nobelにより供給されているPerkadox(登録商標)L W75、75%活性
NaAc.3HO:JT Bakerにより供給されている酢酸ナトリウム・三水和物
【0030】
その懸濁液の組成並びにそれらの粘度及び保存寿命を表1に列挙する。結果は、1重量%未満の分散剤を使用して低粘度の安定した懸濁液を得ることができることを示している。
【表1】

【0031】
比較例6
1.5±0.4%の分散剤(ノニルフェノールエトキシラート(5))及び残部の水を含有するジ−tert−ブチルシクロヘキシルペルオキシジカルボナート(Perkadox(登録商標)16、ex−Akzo Nobel)の40重量%水性懸濁液を調製した。
過酸化物粒子は、約6マイクロメートルのd50を有した。
保存寿命測定は、少なくとも1.0重量%の分散剤が、少なくとも2ヶ月の保存寿命を得るために必要とされることを示した。これは、すべての固体過酸化物を1重量%未満の分散剤で水性懸濁液に配合できるとは限らないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
範囲1〜10マイクロメートルのd50粒径を有する35〜45重量%の固体過酸化ジアシル粒子と、
0.05〜1重量%の分散剤と、
1重量%以下の有機溶剤と
を含む水性懸濁液。
【請求項2】
範囲1〜10マイクロメートルのd50を有する35〜45重量%の固体過酸化ジアシル粒子と、0.05〜1重量%の分散剤と、0〜1重量%の有機溶剤と、0〜1重量%の沈降防止剤と、0〜0.5重量%のpH緩衝剤と、残部の水とからなる、請求項1に記載の水性懸濁液。
【請求項3】
前記固体過酸化ジアシルが、置換又は非置換過酸化ジベンゾイルである、請求項1又は2に記載の水性懸濁液。
【請求項4】
22±3℃で測定して、800mPa.sまたはそれ以下の粘度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項5】
少なくとも2ヶ月の保存寿命を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項6】
15g/l又はそれ以下の揮発性有機分含有率(VOC)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項7】
前記分散剤が、完全又は部分加水分解ポリビニルアセタート及びそれらのコポリマー、ポリビニルピロリドン、アルキル又はアリールスルホナート、アルキル又はアリールベンゼンスルホナート、アルキル又はアリールスルファート、並びにそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項8】
ハイポリマーの生産における請求項1から7のいずれか一項に記載の水性懸濁液の使用。
【請求項9】
前記ハイポリマーが、ポリスチレンである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の水性懸濁液が反応器に投入される、ハイポリマーの生産プロセス。
【請求項11】
前記ハイポリマーが、ポリスチレンである、請求項10に記載のプロセス。

【公表番号】特表2012−522857(P2012−522857A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502654(P2012−502654)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054261
【国際公開番号】WO2010/112534
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(509131443)アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ (26)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
【住所又は居所原語表記】Stationsstraat 77, 3811 MH Amersfoort, Netherlands
【Fターム(参考)】