説明

水性塗料組成物、有機無機複合塗膜及びその製造方法

【課題】耐水性、透明性、及び耐磨耗性などの諸物性を高いレベルで同時に備える有機無機複合塗膜とその製造方法、及びそれを与えることができる保存安定性が良好な水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式[I]


〔Rはアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRはアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物と、酸触媒とを含有する水性塗料組成物、及びこれを用いて得られる有機無機複合塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分と無機成分とを含有する水性塗料組成物、及びこれを用いて得られる有機無機複合塗膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング材料、成形材料などの分野では、柔軟性・成形加工性などの取扱い性と、硬さ・耐熱性・耐候性等の耐用性とを同時に実現する必要性が高まっている。このような、通常では同時に達成しにくい諸特性を同時に発揮し得る材料として、有機ポリマーと無機ポリマーとの有機無機複合体が知られている。この有機無機複合体は、有機ポリマーの特徴である柔軟性や成形加工性等と、無機ポリマーの特徴である硬さ、耐熱性、耐候性等とを同時に発揮し得ると考えられており、従来、有機ポリマーを無機ポリマーであるシリコーン樹脂により変性したシリコーン変性樹脂について種々の検討がなされてきた。ところが、このようなシリコーン変性樹脂は、シリコーンの含有率を高めることが困難であり、このため、耐熱性や硬度といったシリコーンによる特性を十分に発揮させうるものではなく、また、利用可能なシリコーン樹脂の種類に制約があり、価格も高いものであった。
【0003】
そこで、上述のようなシリコーン変性樹脂に代わるものとして、アルコキシシランの加水分解縮合反応によるゾル−ゲル法を利用する方法がある。具体的には、有機ポリマーの存在下でアルコキシシランの加水分解と重縮合とを同時に進行させ、これにより有機ポリマーと無機ポリマーとを複合化する方法である。
【0004】
このような方法としては、例えば、ポリウレタンと加水分解性アルコキシシランとを含有するアルコールゾル溶液を基材に塗布し、乾燥することによって、有機無機複合塗膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、塗装後、乾燥する際に、空気中の水分等によって該アルコキシシランがシリカ微粒子となりながら、粒子表面のシラノール基とポリウレタンとが水素結合やエステル結合を形成することによって複合化することによるものであり、ポリウレタンのマトリクス中にシリカ微粒子が均一に分散した塗膜が得られる。しかしこの方法では、有機溶媒であるアルコールを使用していることから、環境への負荷が大きいといった問題点があり、また空気中の水分を利用する点から、使用環境(温度・湿度)によって得られる複合体(塗膜)の性能にブレが生じる可能性があり、実用上問題がある。
【0005】
また、水酸基及び/又はアミノ基を有するポリウレタンと加水分解性アルコキシシランとを含有する組成物を用いることにより、ポリウレタンの有する柔軟性を保持した耐熱性に優れる有機無機複合体である塗膜が得られることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。これは、ポリウレタン中のハードセグメントドメインにシリカを複合させることによって、ソフトセグメントが有する柔軟性を損なわないで塗膜全体としての耐熱性を向上させようとしたものであるが、その構造上、均一塗膜でないことが明らかであり、シリカ成分を多く含有させると相分離が発生しやすく、耐摩耗性に優れた複合体(塗膜)を得ることはできなかった。
【0006】
更に、水酸基を有する有機化合物の水混和物とポリアルコキシシランと触媒とを含む組成物を用いることによって、透明均一で硬質かつ耐水性を有する有機無機複合塗膜を得ることができることも報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、該組成物は保存中にもポリアルコキシシランの加水分解と縮合反応が進行し続けるために保存安定性が悪く、また、得られる塗膜は鉛筆硬度(2H〜6H程度)を満たすレベルでの硬さでしかなく、有機無機複合塗膜として要求される耐摩耗性に値する塗膜ではない。更に、アミノプラスト樹脂等の硬化剤を併用しなければ、90℃1時間の耐熱水性試験において白化が起こりやすいことが示されているが、該硬化剤を用いることによって塗料用組成物の保存安定性は更に悪くなる。即ち、塗料用組成物として、保存安定性と得られる塗膜の十分な性能とを兼備するものでなく、更なる改良が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平6−136321号公報
【特許文献2】特開2001−64346号公報
【特許文献3】特開平8−319457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐水性、透明性、及び耐磨耗性などの諸物性を高いレベルで同時に備える有機無機複合塗膜とその製造方法、及びそれを与えることができる保存安定性が良好な水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、特定構造を有するカチオン性ポリウレタン樹脂の存在下で、金属アルコキシドのゾル−ゲル反応を行うことによって、ナノスケールで有機成分と無機成分との複合化を達成することができ、且つ該複合体からなる塗膜は上記性能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式[I]
【0011】
【化1】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする水性塗料組成物を提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、金属酸化物からなるマトリクス中に、下記一般式[I]
【0013】
【化2】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂の粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合塗膜、及び簡便な方法で該有機無機複合塗膜を製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保存安定性が良好な有機成分と無機成分とを含有する水性塗料組成物を提供することができる。該水性塗料組成物を用いて得られる塗膜は、高い耐磨耗性、耐水性と透明性とをバランス良く有する有機無機複合塗膜であって、その製造方法も簡便である。該塗膜は、自動車用、建材用、木工用、プラスチックハードコート用等の各種の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水性塗料組成物は、下記一般式[I]
【0016】
【化3】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする。
【0017】
自然界での珪藻類、スポンジ類生き物(いわゆる、バイオシリカ)の多くは、シリカと有機物質との複合膜で自分たちの細胞を保護していることが最近の研究から知られている。特に、バイオシリカの複合膜では、シリカがカチオン性ポリマーまたはカチオン性タンパク質と複合されることにより、その膜の機能が発現されることが示唆された(W.E.G.Muller Ed.,Silicon Biomineralizattion:Biology−Biotechnology−Molecular Biology−Biotechnology,2003,Springer)。カチオン性ポリマー又はカチオン性タンパク質の働きについて未だに完全解明されてないが、基本的に、シリカ縮合化における触媒効果、シリカゾル形成とゾル融合における空間次元の誘導(即ち、一定形状のハイブリッド膜を形成すること)、ナノレベルハイブリッド構造形成におけるポリマーとシリカとの接着効果などを有すると考えられている。
【0018】
有機無機複合塗膜創製において、バイオシリカの仕組みを理解した上での設計思想は極めて重要であると考えられる。特に、バイオシリカに複合される多くのカチオン性タンパク質は、親水表面を持っていても、実は水中不溶である特徴を有する。本発明者らは、この点に着目し、それをカチオン性の表面を持つ樹脂粒子と同類化することを考案した。即ち、本発明では、カチオン性ポリマーとして特定の構造を有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体を用いることにより、該カチオン性ポリウレタン樹脂の存在下で金属アルコキシド又はその縮合物(B)の酸触媒(C)によるゾル−ゲル反応を行うことで、有機成分であるカチオン性ポリウレタン樹脂からなる微粒子と、無機成分である金属アルコキシド又はその縮合物から得られる金属酸化物のマトリックスとを、高度に複合化させ得ることを見出したことに基づくものである。
【0019】
本発明の水性塗料組成物において、金属アルコキシド又はその縮合物(B)の初期加水分解は酸触媒(C)によって促進されるが、その後の縮合反応は前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)により抑制され、系全体は、金属ゾル表面のヒドロキシ基と、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)水性分散体の樹脂微粒子表面のカチオンとのイオン的な相互作用に支配される。その結果、ゾルの成長は一定の大きさで止まり、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)水性分散体の微粒子表面にアニオンゾルが濃縮され、安定性が良好な水性分散液を得ることができる。この水性分散液を塗装することにより、金属酸化物を連続相とするゲル化膜が形成され、その連続相中に、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる樹脂微粒子が凝集されずに粒子一個一個が均一に分散し複合化された、ナノオーダーの繰り返し構造を有する塗膜を得ることができる。このようにして得られた塗膜では、有機成分と無機成分の複合効果が最大限に発現され、耐摩耗性・耐水性などの塗膜物性が大きく向上する。このような構造およびその構造由来の効果は、アニオン性樹脂水性分散体やノニオン性樹脂水性分散体を用いることでは得られないものである。
【0020】
以下、本発明で用いる材料について詳述する。
[カチオン性ポリウレタン樹脂(A)]
本発明のカチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、前記一般式[I]で表される構造単位を有し、水性媒体中で安定に分散した水性分散体を形成するものである。前記水性媒体としては、水を主成分とする均一溶媒系であれば特に限定はされない。このような溶媒系としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールといったアルコール系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系や、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブといったエーテル系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系が挙げられる。この中で最も好適な水性媒体としては、イソプロパノール/水の混合溶媒系である。また、このような水溶性の有機溶媒を添加する量としては、水性塗料組成物全体中に含まれる水の量に対して、50質量%以下にすることが好ましい。
【0021】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は水性媒体中で分散するものであり、その分散した樹脂粒子の平均粒子径としては、得られる複合塗膜の耐磨耗性と透明性を兼備する点から、0.005μm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4μmである。
【0022】
前記一般式[I]中のカチオン性の官能基の含有量としては、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性媒体中で溶解することがなく、安定な分散体を形成できる範囲であれば、特に限定されるものではない。従って、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の分子量・分岐度等の前記一般式[I]以外の構造等によって、好ましいカチオン性官能基の含有量が異なるものであるが、通常、該カチオン性ポリウレタン樹脂(A)固形分中に、カチオン当量として0.01〜1当量/kg含有していれば水性分散体とすることができ、特にカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性媒体中への分散性と得られる塗膜の耐水性とのバランスに優れる点から、0.02〜0.8当量/kg含有していることが好ましく、0.03〜0.6当量/kg含有していることが特に好ましい。
【0023】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値で求められる数平均分子量(Mn)としては、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性媒体中で溶解せずに安定な分散体を形成できる範囲であれば特に限定されるものではなく、通常1,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲である。
【0024】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、種々の化合物を使用して製造することができるが、工業的に入手容易でかつ安価な原料を用いる製造方法としては、下記一般式[IV]で示される1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とを反応させて得られる3級アミノ基含有ポリオール(a)を、後述するポリイソシアネート(g)と反応させる方法が最も有用である。
【0025】
【化4】

(式[IV]中、Rは、脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖である。)
【0026】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、ポリウレタン樹脂に水分散性を付与するための3級アミノ基の中和塩や4級アミノ基なるカチオン性基を、ポリウレタン樹脂骨格の側鎖に導入するために用いる化合物である。
【0027】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、その分子内に含有する3級アミノ基を、酸による中和、あるいは4級化剤による4級化によってカチオン性基を発生させるための前駆体である。
【0028】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、例えば、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とを、エポキシ基1当量に対してNH基1当量となるように配合し、無触媒で、常温下又は加熱下で開環付加反応させることにより容易に得られる。
【0029】
前記一般式[IV]で示される1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)としては、下記の化合物を、単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。
【0030】
前記Rが、脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖であるものを得る場合の原料としては、例えばエタンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,3−ジグリシジルエーテル、ブタンジオール−1,4−ジグリシジルエーテル、ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、3−メチル−ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール−ジグリシジルエーテル、ヘキサンジオール−1,6−ジグリシジルエーテル、ポリブタジエングリコール−ジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオール−1,4−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン(水素添加ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、水素添加ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(水素添加ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0031】
また、Rが2価フェノール類の残基であるものを得る場合の原料としては、例えばレゾルシノール−ジグリシジルエーテル、ハイドロキノン−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3−3’−ジメチルジフェニルプロパンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジベンゾフェノンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−tertブチルフェニル)−2,2−プロパンのジグリシジルエーテル、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0032】
また、Rがポリオキシアルキレン鎖であるものを得る場合の原料としては、例えばジエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、更にオキシアルキレンの繰り返し単位数が3〜60のポリオキシアルキレングリコール−ジグリシジルエーテル、例えば、ポリオキシエチレングリコール−ジグリシジルエーテル及びポリオキシプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテル、ポリオキシテトラエチレングリコール−ジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0033】
これらの中でも、カチオン性ポリウレタン樹脂の水分散性をより向上させることができることから、上記一般式[IV]のRが、ポリオキシアルキレン鎖となるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、特に、ポリオキシエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はポリオキシプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテルを用いることが好適である。
【0034】
前記一般式[IV]のRがポリオキシアルキレン鎖となるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテルを用いる場合の該化合物のエポキシ当量としては、本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)水性分散体の種々の機械的特性や熱特性等の物性への影響を最小限に抑制し、カチオン性ポリウレタン樹脂水性分散体中のカチオン濃度の設計を広範囲に行える点で、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下、特に好ましくは300g/当量以下である。
【0035】
前述の方法において、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)との開環付加反応により3級アミノ基含有ポリオール(a)を製造するには、2級アミン(a−2)が必要である。
【0036】
前記2級アミン(a−2)としては、種々の化合物を使用できるが、反応制御の容易さの点で、分岐状又は直鎖状の脂肪族2級アミンが好ましい。
【0037】
前記2級アミン(a−2)として使用することができるものとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−n−ペプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジイソオクチルアミン、ジノニルアミン、ジイソノニルアミン、ジ−n−デシルアミン、ジ−n−ウンデシルアミン、ジ−n−ドデシルアミン、ジ−n−ペンタデシルアミン、ジ−n−オクタデシルアミン、ジ−n−ノナデシルアミン、ジ−n−エイコシルアミンなどが挙げられる。
【0038】
これらの中で、3級アミノ基含有ポリオール(a)を製造する際に揮発し難いこと、あるいは、含有する3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、又は4級化剤で4級化する際に立体障害を軽減できること、などの理由から、炭素数2〜18の範囲の脂肪族2級アミンが好ましく、炭素数3〜8の範囲の脂肪族2級アミンがより好ましい。
【0039】
3級アミノ基含有ポリオール(a)が有する3級アミノ基の一部又は全てを、酸で中和、又は4級化剤で4級化することにより、3級アミノ基含有ポリオール(a)とポリイソシアネート(g)とを反応させて得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に水分散性を付与することができる。
【0040】
上記の3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硼酸、亜リン酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。これらの酸は単独使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
また、前記3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類などを使用することができる。これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明において、3級アミノ基の中和又は4級化に使用する酸や4級化剤の量は、特に制限はないが、本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の優れた分散安定性を発現させるために、3級アミノ基1当量に対して、0.1〜3当量の範囲であることがこのましく、0.3〜2.0当量の範囲であることがより好ましい。
【0043】
本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)が、従来の手法により得られるカチオン性ポリウレタン樹脂と、樹脂中に存在するカチオン濃度を同一にして比較した場合、より優れた自己水分散性を有し、得られるカチオン性ポリウレタン樹脂は水性媒体への良好な分散安定性を有する。
【0044】
この様な効果を発現できる機構としては、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合同士は、水素結合などにより擬結晶構造をとることは周知であり、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の側鎖に存在する3級アミノ基の中和塩、又は4級アミノ基は、例えば従来の手法のような3級アミノ基の中和塩、又は4級アミノ基がポリウレタン樹脂骨格の主鎖に存在する場合と比較して、立体障害の影響を受け難く、自由度が大きいため、水分散に重要な水分子との会合構造を容易に取れるためと推測される。
【0045】
3級アミノ基含有ポリオール(a)を得るための、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)との反応方法について以下に説明する。
前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)が有するエポキシ基と2級アミン(a−2)が有するNH基との反応比率[NH基/エポキシ基]は、好ましくは当量比で0.5/1〜1.1/1の範囲であり、より好ましくは当量比で0.9/1〜1/1の範囲である。
【0046】
これらの反応は無溶剤条件下にて行うこともできるが、反応制御を容易にする目的で、あるいは粘度低下による撹拌負荷の低減や均一に反応させる目的で、有機溶剤を使用し行うこともできる。
【0047】
前記有機溶剤としては、反応を阻害しない有機溶剤であればよく、例えばケトン類、エーテル類、酢酸エステル類、炭化水素類、塩素化炭化水素類、アミド類及びニトリル類などを使用することができる。
【0048】
前記ケトン類としては、例えばアセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を使用することができる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を使用することができる。
【0049】
前記酢酸エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等が例示できる。炭化水素類としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を使用することができる。塩素化炭化水素類としては、例えば四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等を使用することができる。アミド類としては、例えばジメチルホルムアミド、ニトリル類としては、例えばN−メチルピロリドン、アセトニトリル等を使用することができる。
【0050】
前記した有機溶剤のうち、低沸点を有する有機溶剤を使用する場合は、揮発による飛散を防止するために、密閉系により加圧反応をすることが好ましい。
【0051】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とは、反応容器中に一括供給し反応させてもよく、また、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)の何れか一方を反応容器に仕込み、他方を滴下することにより反応させてもよい。
【0052】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)との反応は、反応性が高いため通常は触媒を必要としない。しかし、2級アミン(a−2)の窒素原子が有する脂肪族などの置換基が大きく、前記化合物(a−1)との反応が、立体障害により遅くなる場合には、フェノール、酢酸、水、アルコール類などに代表されるプロトン供与性物質を触媒として使用してもよい。
【0053】
また、反応温度は、好ましくは室温〜160℃の範囲であり、より好ましくは60〜120℃の範囲である。また、反応時間は、特に限定しないが、通常30分〜14時間の範囲である。また、反応終点は、赤外分光法(IR法)にて、エポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークの消失によって確認できる。また、常法によりアミン当量(g/当量)と水酸基当量(g/当量)を求めることができる。
【0054】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記3級アミノ基含有ポリオール(a)の他に、目的、用途に応じて一般にポリウレタンの合成に利用される種々のポリオール(f)を用いることができる。
【0055】
その中でも、好ましくは数平均分子量200〜10,000の範囲、より好ましくは数平均分子量300〜5,000の範囲のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリチオエーテルポリオール、及びポリブタジエンポリオール等の各種ポリオールが挙げられ、これらを単独使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記ポリオールの中でも、工業的に入手が容易なポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールについて下記に代表的化合物を例示する。
【0057】
前記ポリエステルポリオールとしては、低分子量ポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるものを使用することができる。
【0058】
前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール(数平均分子量300〜6000の範囲)、ポリプロピレングリコール(数平均分子量300〜6000の範囲)、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(数平均分子量300〜6000の範囲);ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリストール、ソルビトール等を使用することができる。
【0059】
前記ポリエステルポリオールを製造する際に使用できるポリカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、及びこれらのポリカルボン酸の無水物あるいはエステル形成誘導体等を使用することができる。
【0060】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル、及びこれらの共重合ポリエステル等を使用することもできる。
【0061】
また、ポリエーテルポリオールとしては、例えば、後述する活性水素原子を少なくとも2個有する化合物を開始剤として使用し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等の化合物の1種以上を付加重合することによって得られるものを使用することができる。
【0062】
前記活性水素原子を少なくとも2個有する化合物としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール;アクニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3−プロパントリチオール等を使用することができる。
【0063】
また、ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のようなジオール類と、ジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネート或いはエチレンカーボネート等によって代表されるような環式カーボネートとの反応生成物などが挙げられる。
【0064】
なかでも、得られる塗膜の劣化を防止し、長期にわたって安定な塗膜を保持するためには、ポリオールとして高耐久性のポリオールを使用することが好ましいことから、ポリカーボネートポリオールを使用することにより、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に、ポリカーボネートポリオールに由来する構造単位を導入することが好ましい。
【0065】
本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に使用することができるポリイソシアネート(g)としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等の、水性ポリウレタン樹脂の製造において用いられる種々の有機ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0066】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−及び1,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアネート、1−エチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−ジメチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−ジメチル−4,6−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジメチル−2,5−フェニレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、メタ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1−メチル−3,5−ジエチルベンゼンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、1,3,5−トリエチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、1−メチル−ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、ナフタレン−2,7−ジイソシアネート、1,1’−ジナフチル−2,2’−ジイソシアネート、ビフェニル−2,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート等を使用することができる。
【0067】
また、脂環式ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロペンチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等及びこれらの3量体等を使用することができる。
【0068】
比較的安価なこと、原料を入手しやすいことから、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適である。
【0069】
また、前記同様、得られる塗膜の耐熱変色、耐光変色による塗膜の劣化を防止するために、ポリイソシアネートとして、一般に無黄変型といわれる脂環式ポリイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートを使用することにより、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)にかかる脂環式ポリイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートに由来する構造単位を導入することが好ましい。
【0070】
また、前記ポリイソシアネート(g)としては、原料を入手しやすさを考慮すると、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを使用することが特に好ましい。
【0071】
更に、得られる塗膜の耐水性をより向上させる目的で、シラノール基を含有する構造単位を前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に導入することが好ましい。シラノール基を含有する構造単位を導入すると、有機成分であるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子と、金属アルコキシド(B)により形成される無機の金属酸化物マトリクスとの間に架橋構造が形成されるため、より強固な有機無機ハイブリッドの塗膜を得ることができる。
【0072】
シラノール基を含有する構造単位としては、下記一般式[II]で表される構造単位を例示できる。
【0073】
【化5】

(式[II]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2である。)
【0074】
前記一般式[II]で表される構造単位をカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に導入するために用いる化合物としては、下記一般式[III]で示される化合物(h)であることが好ましい。
【0075】
【化6】

(式[III]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2であり、Yは活性水素基を少なくとも1個以上含有する有機残基である。)
【0076】
前記一般式[III]で示される化合物(h)としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N,N−ジ−2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトフェニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0077】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、種々の機械的特性や熱特性等の物性を有するポリウレタン樹脂の設計を行う目的で、ポリアミンを鎖伸長剤として使用してもよい。
【0078】
前記鎖伸長剤として使用可能なポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン等の1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を含有するジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、モノメチルヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のセミカルバジド類を使用することができる。更に、水も鎖伸長剤として使用することができる。
【0079】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記ポリアミンの他に、ポリウレタン樹脂の種々の機械的特性や熱特性等の物性を調整する目的で、その他の活性水素原子含有の鎖伸長剤を使用することもできる。
【0080】
前記その他の活性水素含有の鎖伸長剤として使用することができるものは、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水が挙げられ、本発明のカチオン性ポリウレタン樹脂水分散体の保存安定性を低下させない範囲内においてこれらを単独もしくは併用しても構わない。
【0081】
本発明で使用するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する方法としては、例えば、次のような方法を例示できる。これら方法によればカチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子が水性媒体中に均一に分散した水性分散体を得ることができる。
【0082】
〔方法1〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0083】
〔方法2〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した後、ポリアミンを用いて鎖伸長することによりポリウレタン樹脂を製造し、前記ポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0084】
〔方法3〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0085】
〔方法4〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)とを、一括又は分割してこれらを仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水系媒体中にホモジナイザー等の機械を用いて強制的に乳化させて水溶化又は水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0086】
〔方法5〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)とポリアミンとを、一括して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水溶化又は水分散せしめる方法。
【0087】
〔方法6〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0088】
〔方法7〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した後、ポリアミンを用いて鎖伸長することによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0089】
〔方法8〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0090】
〔方法9〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)とを、一括又は分割してこれらを仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水系媒体中にホモジナイザー等の機械を用いて強制的に乳化させて水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0091】
〔方法10〕ポリオール(f)とポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)とポリアミンとを、一括して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0092】
尚、上記〔方法1〕〜〔方法10〕の製造方法において、乳化剤を必要に応じて用いてもよい。
【0093】
本発明で使用可能な乳化剤としては、特に限定しないが、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水分散体の優れた保存安定性を維持する観点から、基本的にノニオン性又はカチオン性であることが好ましい。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤等を使用することが好ましい。なお、前記カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体への乳化剤の混和安定性が保たれる範囲内であれば、アニオン性又は両性の乳化剤を併用しても構わない。
【0094】
前記方法によりカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、該樹脂の水分散性を助ける助剤として、親水基となりうる基を有する化合物(以下、親水基含有化合物という。)を使用してもよい。
【0095】
かかる親水基含有化合物としては、アニオン性基含有化合物、カチオン性基含有化合物、両性基含有化合物、又はノニオン性基含有化合物を用いることができるが、カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体の優れた保存安定性を維持する観点から、ノニオン性基含有化合物が好ましい。
【0096】
前記ノニオン性基含有化合物としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、及びエチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物を使用することができる。
【0097】
例えば、エチレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30質量%以上含有し、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素原子を含有する数平均分子量300〜20,000のポリオキシエチレングリコール又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそれらのモノアルキルエーテル等のノニオン基含有化合物又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオールなどの化合物を使用することが可能である。
【0098】
次に、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際の、原料仕込み比率(当量比)について詳細に述べる。
【0099】
前記ポリオール(f)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と、ポリイソシアネート(g)とを反応させる場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基の当量比〔(g)が有するイソシアネート基の当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量〕を、0.9/1〜1.1/1の範囲に調整することが好ましい。
【0100】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に、鎖伸長剤として、たとえばポリアミンを使用する場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基の当量比〔(g)のイソシアネートの当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量+ポリアミンが有するアミノ基の当量〕を、0.9/1〜1.1/1の範囲に調整することが好ましい。
【0101】
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、ウレタンプレポリマーを製造した後に、ポリアミンを用いて鎖伸長反応させることにより製造してもよい。かかる場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基との当量比〔(g)が有するイソシアネート基の当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量〕を、1.1/1〜3/1の範囲に調整することが好ましく、1.2/1〜2/1の範囲に調整することがより好ましい。この場合、ポリアミンで鎖伸長する際のポリアミンが有するアミノ基と過剰のイソシアネート基との当量比は、好ましくは1.1/1〜0.9/1の範囲である。
【0102】
また、前記ポリオール(f)と3級アミノ基含有ポリオール(a)と化合物(h)と、ポリイソシアネート(g)とを反応させる場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基の当量比〔(g)が有するイソシアネート基の当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量+(h)が有する活性水素基の当量〕を、0.9/1〜1.1/1の範囲に調整することが好ましい。
【0103】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に、鎖伸長剤として、たとえばポリアミンを使用する場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基の当量比〔(g)が有するイソシアネート基の当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量+(h)が有する活性水素基の当量+ポリアミンが有する活性水素基の当量〕を、0.9/1〜1.1/1の範囲に調整することが好ましい。
【0104】
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、ウレタンプレポリマーを製造した後に、ポリアミンを用いて鎖伸長反応させることにより製造してもよい。かかる場合、イソシアネート基と活性水素原子含有基との当量比〔(g)が有するイソシアネート基の当量〕/〔(f)が有する水酸基の当量+(a)が有する水酸基の当量+(h)が有する活性水素基の当量〕が、1.1/1〜3/1の範囲であることが好ましく、1.2/1〜2/1の範囲であることがより好ましい。この場合、ポリアミンで鎖伸長する際のポリアミンが有するアミノ基と過剰のイソシアネート基との当量比は、好ましくは1.1/1〜0.9/1の範囲である。
【0105】
かかる反応において、反応温度は、好ましくは20〜120℃の範囲であり、より好ましくは30〜100℃の範囲である。
【0106】
また、3級アミノ基含有ポリオール(a)は、優れた保存安定性を発現させることを目的として、最終的に得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に対して、好ましくは0.005〜1.5当量/kgの範囲であり、より好ましくは0.03〜1.0当量/kgであり、さらにより好ましくは0.15〜0.5当量/kgの範囲である。
【0107】
また、化合物(h)は、金属アルコキシド(B)とより強固な有機無機ハイブリッドの塗膜を形成させることを目的として、最終的に得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に対して、好ましくは0.1〜20質量%の範囲であり、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。
【0108】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、無溶剤条件下で製造することもできるが、反応制御を容易にする目的で、又は粘度低下による撹拌負荷の低減や均一に反応させる目的で、有機溶剤下で製造することも可能である。
前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等の塩素化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等を使用することができる。
【0109】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、無触媒下で製造することも可能であるが、種々の触媒、例えば、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジフタレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート等の錫化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物、その他、3級アミン類、4級アンモニウム塩等を使用してもよい。
【0110】
上記のようにして得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(a)の水分散体中に含まれる有機溶剤は、必要により、反応の途中又は反応終了後に、例えば減圧蒸留などの方法により除去することが好ましい。
【0111】
〔金属アルコキシド(B)〕
本発明で用いる金属アルコキシド又はその縮合物(B)中の金属としては、珪素、チタン、アルミニウムを好ましい例として挙げることができる。
【0112】
珪素アルコキシド又はその縮合物としては、一般的にゾル−ゲル反応で用いられるアルコキシシランであれば、特に限定されるものではない。例示するならば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランまたはこれらの部分縮合物等が挙げられる。
【0113】
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタンイソプロポキシド、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどが挙げられ、アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシドなどが挙げられる。
【0114】
これらの中でも、工業的入手のしやすさから、珪素アルコキシド又はその縮合物を用いるのが好適である。その中でも最も好適なのは、テトラメトキシシラン及びその縮合物である。また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中のカチオン性官能基と反応する官能基を有するアルコキシシランを併用することにより、塗膜の架橋をさらに緻密にすることができ、耐水性等の塗膜物性をより向上させることもできる。この場合に最も好適なのは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0115】
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比が、(A)/(B1)で表される質量比で10/90〜70/30の範囲であることが好ましく、20/80〜70/30であることがより好ましく、30/70〜70/30であるのがさらに好ましい。金属アルコキシドの加水分解反応式は以下の通りである。
【0116】
【化7】

〔式中、Rは有機基であり、Rはアルキル基であり、Xは(m+n)価の金属原子である。〕
【0117】
従って、完全加水分解縮合後の金属アルコキシドの質量(B1)は、(仕込み量)/(加水分解反応前の金属アルコキシドの式量)×(加水分解反応後の金属アルコキシドの式量)で計算することができる。
【0118】
〔酸触媒(C)〕
本発明で用いる酸触媒(C)としては、各種の酸触媒を用いることができる。例示するならば、塩酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸、リン酸といった無機酸や、酢酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、パラトルエンスルホン酸、などといった有機酸を用いることができる。また、これらの酸は単独、もしくは2種以上を併用してもよい。これらの中でも、目的とするpHの範囲への調整が容易であり、得られる水性塗料組成物の保存安定性が良好で、且つ得られる有機無機複合塗膜の耐水性に優れる点から、マレイン酸を用いることが好ましい。
【0119】
また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体に酸触媒(C)を加えた後の液のpHとしては、酸による機械の腐食等の問題が起こりにくく、且つ、得られる水性塗料組成物の保存安定性が良好である点から、通常1.0〜4.0の範囲で、好ましくは1.0〜3.0の範囲で、さらに好ましくは2.0〜3.0の範囲である。この範囲にpHを調整することが耐摩耗性と耐水性とに優れる有機無機複合塗膜を得るために重要であり、酸触媒(C)を徐々に滴下しながら、pHの調整を行うことが好ましい。
【0120】
〔水性塗料組成物〕
本発明の水性塗料組成物の調整方法としては、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体と、酸触媒(C)とを混合し均一化した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を混合するのが最も好適である。また、金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解により生成するアルコールは、残存したまま本発明の水性塗料組成物としても良く、また、種々の方法、例えば減圧下で放置又は加温することにより、該アルコールを除去したのち、水性塗料組成物としても良い。
【0121】
本発明の水性塗料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、各種の増粘剤、濡れ剤、チキソ剤などの添加剤、あるいはフィラー等を加えても良い。更に、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中の官能基と反応するような架橋剤、例えば、ポリエポキシ化合物や、ジアルデヒド化合物、ジカルボン酸化合物といった架橋剤を併用しても良い。
【0122】
また、本発明の水性塗料組成物は、クリアー塗料組成物として用いることもできるが、各種顔料分散体、染料などを混入して、着色塗料用組成物としても用いることができる。
【0123】
本発明の水性塗料組成物の不揮発分としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上、50質量%以下であることが、保存安定性が良好である点から好ましい。
【0124】
本発明の水性塗料組成物の機材への塗工方法に関しては、特に限定されるものではないが、例を挙げるならば、エアースプレー法、フローコーター法、ロールコーター法などの各種の塗工方法で塗装することができる。
【0125】
本発明の水性塗料組成物の塗装対象は、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム及びその他の金属、ABS、ポリカーボネート、PMMA、PET、ポリスチレンといったプラスチック類、ガラス、木材、セメント及びその他の基板、あるいは、粒状体、繊維状体のものの表面に皮膜を形成する目的で用いることができる。
【0126】
さらに、基材への密着性向上、基材の着色、基材の保護などを目的として、各種プライマー、シール剤、アンダーコート等を前記各種基材に塗装したのち、本発明の水性塗料組成物を塗装することもできる。
【0127】
また、塗装後の乾燥条件としては特に限定されるものではないが、20℃〜250℃の間で乾燥させることが好ましく、60℃〜200℃の間で乾燥させることがさらに好ましい。
【0128】
本発明の有機無機複合塗膜は、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の粒子が分散していることを特徴とする。
【0129】
前記金属酸化物(B’)は、前述の金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解・縮合反応によって得られるものであり、該複合塗膜中では、マトリクスを形成している。これは、前述のようにカチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性分散体中で形成する微粒子の表面を取り囲むように金属ゲルが濃縮されているため、水性媒体が揮発した後は、近接する微粒子の該表面の金属ゲルが架橋することによって形成されるものである。したがって、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の微粒子同士は凝縮することがなく、有機無機複合塗膜中で分散していることになる。これは、添付した図面(電子顕微鏡写真)によって明らかである。
【0130】
本発明の有機無機複合塗膜の製造方法は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水分散体に酸触媒(C)を添加した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を加えて得られる水性塗料組成物を基板上に塗布し、乾燥することで、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子が、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に分散している複合塗膜を作製することを特徴とする。該製造方法は、特別な装置を必要とせず、また、空気中の水分等を利用しない点から、環境依存性がなく、したがって応用範囲に制限されることがないため、工業的に簡便で有用なものである。
【実施例】
【0131】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0132】
(合成例1)カチオン性ウレタン樹脂(A−1)の水分散体の調製
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量)590部を仕込んだ後、フラスコ内を窒素置換した。次いで、前記フラスコ内の温度が70℃になるまでオイルバスを用いて加熱した後、滴下装置を使用してジ−n−ブチルアミン378部を30分間で滴下し、滴下終了後、90℃で10時間反応させた。反応終了後、赤外分光光度計(FT/IR−460Plus、日本分光株式会社製)を用いて、反応生成物のエポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークが消失していることを確認し、3級アミノ基含有ポリオール(アミン当量339g/当量、水酸基当量339g/当量)を得た。
【0133】
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコ内で、ニッポラン980R〔日本ポリウレタン工業株式会社製ポリカーボネートポリオール、分子量2000〕500部と、ネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール/テレフタル酸/アジピン酸からなるポリエステルポリオール(分子量2000)500部とを、酢酸エチル558部に溶解した。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート236部とオクチル酸第一錫0.2部を加え、75℃で2時間反応させた後、前記3級アミノ基含有ポリオール66.2部を添加し、4時間反応させることにより、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液に酢酸エチル478部とイソプロピルアルコール918部とを加えて均一混合した後、80%水和ヒドラジン17部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。次いで氷酢酸11.7部を添加して中和した後、イオン交換水3610部を滴下することにより水分散化を行い、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%で、pH4.2、粒子径0.2μm(大塚電子株式会社製粒径アナライザーFPAR−1000により測定。)、カチオン当量0.15当量/kgのカチオン性ポリウレタン樹脂(A−1)の水分散体を得た。
【0134】
(合成例2)カチオン性ポリウレタン樹脂(A−2)の水分散体の調製
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコ内で、ニッポラン980R 1000部を、酢酸エチル600部に溶解した。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート262部とオクチル酸第一錫0.2部を加え、75℃で2時間反応させた後、前記3級アミノ基含有ポリオール95部を添加し4時間反応させた後、60℃に冷却し、Z−6011〔東レダウコーニング社製γ―アミノプロピルトリエトキシシラン〕44部を添加して、更に1時間反応させることにより、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液に酢酸エチル515部とイソプロピルアルコール986部とを加えて均一混合した後、80%水和ヒドラジン15部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。次いで氷酢酸16.8部を添加して中和した後、イオン交換水3800部を滴下することにより水分散化を行い、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%で、pH4.1、粒子径0.15μm、カチオン当量0.2当量/kgのカチオン性ウレタン樹脂(A−2)の水分散体を得た。
【0135】
(合成例3)カチオン性ポリウレタン樹脂(A−3)の水分散体の調製
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコ内で、ニッポラン980R 640部を、メチルエチルケトン390部に溶解した。次いで、イソホロンジイソシアネート133部とオクチル酸第一錫0.2部を加え、75℃で2時間反応させた後、前記3級アミノ基含有ポリオールを122部を添加し4時間反応させた後、60℃に冷却し、Z−6011 22部を添加して、1時間反応させることにより、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にジメチル硫酸45部を加えて更に60℃で2時間反応させて4級化した後、イオン交換水2080部を滴下することにより水分散化を行い、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%で、pH6.5、粒子径0.05μm、カチオン当量0.39当量/kgのカチオン性ポリウレタン樹脂粒子(A−3)の水分散体を得た。
【0136】
(比較合成例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器に116部のヘキサメチレンジアミンを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら50℃に保ち、210部のプロピレンカーボネートを約一時間かけてゆっくりと滴下した。反応容器を90〜100℃に保ちながら20時間反応させたところ、白色ワックス状の軟固体である、ヘキサメチレンジアミンのビスヒドロキシカルバメート(以下、A’−1と称す)を得た。酸滴定の結果、アミン含量は0.1%以下であった。
【0137】
[塗料組成物]
(実施例1)
合成例1で得られたカチオン性ウレタン樹脂(A−1)の水分散体20部、イオン交換水5部、2−プロパノール(以下、IPAと称す)8部を撹拌混合した後、10%マレイン酸水溶液7部を徐々に滴下した。このときの混合液のPHは1.6であった。引き続き、撹拌しながらテトラメトキシシラン縮合物(メチルシリケート51:多摩化学工業株式会社製品。以下、MS−51と称す。)14.4部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GPTMSと称す。)4.3部からなる混合液を徐々に加えて、一時間攪拌し、水性塗料組成物(1)を得た。
【0138】
(実施例2〜15)
実施例1と同様に、表1〜2の配合で水性塗料組成物を調整し、水性塗料組成物(2)〜(15)を得た。
【0139】
(比較例1)
比較合成例1で合成した、水酸基含有ポリマーA’−1を15部、イオン交換水を15部、メタノール5部を混合した溶液に、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと称す。)20部、硬化剤として、メラミン樹脂サイメル303(サイテック株式会社製)0.5部を加えて均一溶液を作成した。この溶液に、触媒として0.3部の濃塩酸を加えて、約30℃で一時間加熱し、比較用の水性塗料組成物(1’)を得た。
【0140】
(水性塗料組成物の安定性評価方法)
実施例1〜15、及び比較例1で得られた水性塗料組成物を23℃で保管したときの塗液状態を目視で観察し、ゲル化が起こるまでの日数を記載した。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
【表3】

【0144】
表1〜2の脚注
(A)/(B1):カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比
MTMS:メチルトリメトキシシラン
【0145】
表3の脚注
(A’)/(B1):(A’−1)の質量と金属アルコキシド(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比
TEOS:テトラエトキシシラン
【0146】
[塗膜]
(実施例16〜30)
実施例1〜15で得た水性塗料組成物(1)〜(15)を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜1〜塗膜15)を得た。
【0147】
(比較例2)
比較例1で得た水性塗料組成物を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの比較有機無機複合塗膜(比較塗膜1’)を得た。
【0148】
(実施例31〜33)
実施例2、10、及び13で得た水性塗料組成物(2)、(10)、及び(13)をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、80℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜16〜塗膜18)を得た。
【0149】
(実施例34〜36)
実施例2、10、及び13で得た水性塗料組成物(2)、(10)、及び(13)をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、23℃で24時間乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜19〜塗膜21)を得た。
【0150】
得られた塗膜1〜21及び比較塗膜1’の物性測定結果を表4〜8に示す。なお、塗膜の評価は以下の手法により行った。
【0151】
(耐磨耗性)
学振式磨耗試験機(大栄科学精器製作所製品、RT−200)にて評価を行った。磨耗体:スチールウール(日本スチールウール株式会社製、商品名ボンスター、品番No.0000)、荷重:500g、往復回数:250回。表の数字は、試験前後の塗膜の濁度の差を数値化したものであり、数字が少ないほど耐磨耗性が良好であることを示す。
【0152】
(耐水性)
40℃温水中に塗膜を浸漬し、塗膜の表面状態変化の有無を目視で判定した。
◎:2週間浸漬後、変化なし。
○:一週間浸漬後、変化なし。
×:一週間浸漬後、塗膜の白化または割れが発生した。
【0153】
(塗膜状態)
塗膜の状態を目視で評価した。
○:塗膜が透明。
×:塗膜に割れを生じた。
【0154】
【表4】

【0155】
【表5】

【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
【表8】

【0159】
実施例28で得られた有機無機複合塗膜13の断面を透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、日本電子株式会社製)にて観測を行い、得られた画像を図1に示した。これより、塗膜中にカチオン性樹脂の微粒子が均一に分散している様子を確認することができる。その他の実施例で得られた塗膜についても、同様にカチオン性樹脂の微粒子が分散していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】実施例28によって得られた有機無機複合塗膜13の断面構造の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]
【化1】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が、脂環式ポリイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートに由来する構造単位を有する樹脂である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が、更に下記一般式(II)
【化2】

〔式(II)中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、Rはハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2である。〕
で表される構造単位を含有する請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が、下記一般式[III]
【化3】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる一価の有機残基を、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシルオキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2であり、Yは活性水素基を少なくとも1個以上含有する有機基である。)
で表される化合物とイソシアネート化合物とを反応させて得られる構造単位を有する樹脂である請求項3記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体における該カチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子の平均粒子径が0.01〜0.4μmの範囲である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記金属アルコキシド又はその縮合物(B)が、珪素アルコキシド又はその縮合物である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比が、(A)/(B1)で表される質量比で10/90〜70/30の範囲である請求項1〜6の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、下記一般式[I]
【化4】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合塗膜。
【請求項9】
下記一般式[I]
【化5】

〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体に酸触媒(C)を添加した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を加えて得られる水性塗料組成物を基板上に塗布し、乾燥することで、該カチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子が、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に分散している複合塗膜を作製することを特徴とする有機無機複合塗膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197683(P2007−197683A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336900(P2006−336900)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】