説明

水性塗料組成物

【課題】電着塗装における前処理工程と電着塗装工程を同一の電着塗装浴中で電圧を変えるのみで達成する方法において、電着により析出する樹脂の析出性をコントロールすること。
【解決手段】(A)希土類金属化合物、(B)アミノ基を有する基体樹脂および(C)硬化剤を含有し、該アミノ基を有する基体樹脂(B)は、該樹脂に含まれる全アミン価が50〜120(KOH換算mg数/1g樹脂固形分)であり、かつ第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50であることを特徴とする水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物に関する。特に、本発明は金属素材、とりわけ未処理冷延鋼板に施される電着塗装前の前処理(下地処理)工程と、電着塗装工程とを一つの工程で行うことができる水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体は、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板等の金属素材を成形し、この金属成形物を被塗物として塗装し、次いで組み立て等を行うことにより製造される。このような金属成形物は一般に、電着塗膜に対する密着性等を付与するために、電着塗装前にリン酸亜鉛化成処理等の防錆処理が行われている。
【0003】
カチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装は、耐食性、つきまわり性に優れており、均一な塗膜を形成させることができるため、自動車車体、部品用プライマーを中心に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、従来のカチオン電着塗料組成物においては、被塗物にリン酸亜鉛などの前処理がなされている素材に対しては、電着塗装により十分な耐食性を発現させることができるものの、被塗物の前処理(化成処理など)が不十分である場合は、耐食性確保が困難であるという問題があった。
【0005】
特開平8−53637号公報(特許文献1)には、カチオン基を有する親水性フィルム形成性樹脂および硬化剤を、中和剤を含む水性媒体中に分散してなる陰極電着塗料組成物において、塗料固形分を基準にして、アルミニウム塩、カルシウム塩および亜鉛塩より選ばれた少なくとも1種のリンモリブデン酸塩を0.1〜20重量%、およびセリウム化合物を金属として0.01〜2.0重量%含むことを特徴とする陰極電着塗料組成物が記載されている。これにより、表面未処理冷延鋼板に対する耐食性を改良可能することができると記載されている。
【0006】
特開平8−53638号公報(特許文献2)には、カチオン基を有する親水性フィルム形成性樹脂および硬化剤を、中和剤を含む水性媒体中に分散してなる陰極電着塗料組成物において、塗料固形分を基準にして、銅化合物およびセリウム化合物を金属として合計0.01〜2.0重量%含み、金属として銅/セリウム重量比が1/20〜20/1であることを特徴とする陰極電着塗料組成物が記載されている。これも同様に、表面未処理冷延鋼板に対する耐食性を改良可能することができると記載されている。
【0007】
しかしながら、上記電着塗料組成物を用いる塗装はいずれも、印加電圧100〜450V条件の一段階電着塗装による一段階電着塗装が行われている。このような電解、電着条件においては、セリウムあるいはセリウム―銅による皮膜形成が不充分となる。そのため、これらの発明による耐食性の改良レベルは、何れも、従来のリン酸塩による従来化成処理に匹敵する下地密着性を発現し、かつ電着塗装後における耐食性を発現する程には至っていない。
【0008】
現状としては、前処理工程および電着塗装工程において、それぞれ別個の溶液である化成処理液およびカチオン電着塗料組成物は、それぞれの液中に含まれる成分を安定に溶解あるいは分散するpHの領域が異なる。そのため、これらの工程を組み合わせることは容易ではなかった。さらに、電着塗装においては、化成処理剤が少量でも混入するとによって、塗装効率、防食性能および仕上がり外観等に悪影響が生じる。そのため、被塗物を前処理した後、電着塗装を行う前に、被塗物を念入りに水洗する必要がある。このため、前処理および電着塗装は、より長大な塗装工程設備を必要としていた。
【0009】
本発明者らは、既に、金属素材、とりわけ未処理冷延鋼板に施される電着塗装前の前処理(下地処理)工程と、電着塗装工程との統合を実現しうる水性塗料組成物を提案してきた。
【0010】
特開2000−63710号公報(特許文献3)には、電着塗装に適する水性塗料組成物が開示されており、その中で希土類金属化合物が、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、及びサマリウム(Sm)からなる群より選択される化合物が開示されている。この組成物を特許文献3の方法に適用しても、現行の前処理、電着塗装よりなる2段工程と比較して、同等の性能を有する複層塗膜を得る目的に対しては、必ずしも充分ではなかった。
【特許文献1】特開平8−53637号公報
【特許文献2】特開平8−53638号公報
【特許文献3】特開2000−63710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の現状に鑑み、本発明者等が提案している電着塗装における前処理工程と電着塗装工程を同一の電着塗装浴中で電圧を変えるのみで達成する方法を更に検討し、電着により析出する樹脂の析出性をコントロールすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、電着により析出する樹脂の析出性のコントロールを、樹脂のアミン価の制御により達成できることを見出した。
即ち、本発明は、希土類金属化合物(A)、アミノ基を有する基体樹脂(B)および硬化剤(C)を含有し、該アミノ基を有する基体樹脂(B)は、該樹脂に含まれる全アミン価が50〜120(KOH換算mg数/1g樹脂固形分)であり、かつ第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50であることを特徴とする水性塗料組成物を提供する。
【0013】
また上記希土類金属化合物(A)は、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)あるいはプラセオジウム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む化合物であることを特徴とする水性塗料組成物である。
より好ましくは、上記希土類金属化合物(A)は、イッテルビウム(Yb)化合物であることを特徴とする水性塗料組成物である。
【0014】
ここで、上記希土類金属化合物(A)は、塗料固形分に対して、希土類金属に換算して0.05〜10重量%含まれていることが好ましい。
さらに、亜鉛(Zn)化合物(D)を含んでいると一層好ましく、希土類金属化合物(A)と、亜鉛(Zn)化合物(D)との該塗料組成物に対する配合重量比は、1:20〜20:1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アミノ基を有する基体樹脂(B)のアミン価(全アミン価と第1級アミノ基に基づくアミン価)を所定範囲に調製することにより、基体樹脂の析出性または電着性を制御し、希土類金属化合物による電解生成物の析出が低電圧下で優先して起こり、低電圧下で耐食性の高い希土類金属の析出膜が形成される。その後、電圧を上げると、アミノ基を有する基体樹脂(B)の析出が起こり、これにより主に樹脂から成る電着塗膜が形成される結果、希土類金属の析出被膜と樹脂の析出被膜との複層塗膜が形成され、極めて耐食性の高い電着塗装被膜が形成される。
【0016】
本発明の水性塗料組成物を用いると、少なくとも2段階の印加電圧にて通電することによって、陰極電解処理(前処理工程)及び電着塗装工程を実用的に区分かつ連続的に実施し、かつ効率的に統合する複層塗膜形成方法を行う上で最適の水性塗料組成物を提供する。これにより、従来の化成処理などの前処理、そして電着塗装からなる塗装工程を、大幅に短縮することができるばかりか、従来の工程である化成処理および電着工程により得られる塗膜と比較して同等の優れた塗膜密着性および耐食性(塩水噴霧、塩水浸漬、および乾湿サイクル腐食試験などに対する性能が優れる)である複層塗膜を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の水性塗料組成物について詳述する。
成分(A)
本発明の水性塗料組成物に含まれる希土類金属化合物(A)は、イッテルビウム(Yb)化合物、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)化合物、あるいはプラセオジム(Pr)化合物であり、他の希土類金属であるセリウム(Ce)と比較して、前処理工程での電解析出性が高く、上記複層塗膜形成方法によって、より耐食性能の良い被膜を得ることができることを見出した。
【0018】
イッテルビウム(Yb)化合物は、これら希土類金属化合物の中で最も電解析出性が高く、上記水性塗料組成物に含まれることによって、最も下地密着性に優れた前処理皮膜を得ることができる。
【0019】
上記希土類金属化合物(A)としては、水溶性であるか又は水分散性である化合物を使用することができる。なかでも、水に対する溶解度が1g/dm以上である水可溶性化合物を用いる場合は、少量の使用で高い耐食効果が得られるため、好ましい。
【0020】
好ましい希土類金属化合物(A)としては、例えば、蟻酸イッテルビウム、蟻酸イットリウム、蟻酸ネオジム、蟻酸プラセオジウム、酢酸イッテルビウム、酢酸イットリウム、酢酸ネオジム、酢酸プラセオジム、乳酸イッテルビウム、乳酸イットリウム、乳酸ネオジム、乳酸プラセオジム等の有機酸塩;硝酸イッテルビウム、硝酸イットリウム、硝酸ネオジム、硝酸プラセオジム、アミド硫酸イッテルビウム、アミド硫酸イットリウム、アミド硫酸ネオジム、アミド硫酸プラセオジム等の無機酸塩又は無機化合物等を挙げることができる。これらの中で、イッテルビウム(Yb)化合物がより好ましい。
【0021】
これらを用いることにより、従来の「リン酸亜鉛皮膜と同等、又はそれ以上の優れた防食性を有する化成皮膜を得ることができる。
【0022】
成分(B)
本発明の水性塗料組成物に用いられるアミノ基を有する基体樹脂(B)は、樹脂骨格中のオキシラン環に対して有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂である。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を第1級アミン、第2級アミンあるいは第3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【化1】

[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]
で示されるオキサゾリドン環含有するエポキシ樹脂をカチオン変性エポキシ樹脂として用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0023】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
【0024】
また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のエポキシ環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0025】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類としては、先述したように第1級、第2級または第3級アミン酸塩を挙げることができるが、これらの内で第2級モノアミン化合物が付加反応を制御する上で好ましく用いられる。この第2級モノアミン化合物は、主に樹脂中に存在するエポキシ基の一部と付加反応し、本発明の樹脂に第3級アミノ基を導入するものである。第3級アミノ基は、たとえば、有機又は無機酸と中和することによって親水性基を成し、樹脂を水中に分散させるために必要な構成要素である。
【0026】
この際に一分子中に少なくとも1個の1級水酸基を有する、少なくとも1種類の第2級アミンを含んでいることが好ましい。これは本発明の水性樹脂が水性塗料塗膜を形成する場合、例えば、塗料組成物中に別途存在するブロックイソシアネートに代表される架橋剤と相互に架橋反応する樹脂構成要素となるからである。一分子中に少なくとも1個の1級水酸基を有する第2級アミンの例としては、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、4−(メチルアミノ)ブタノール、4−(エチルアミノ)ブタノール、ジエタノールアミン、ジブタノールアミン等を挙げることができる。
【0027】
第2級モノアミンはその他に、一分子中に炭素数2〜18の範囲のアルキル基を有するジアルキルアミンを含んでいてもよい。その例としては、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、メチルブチルアミン、N−エチル−1,2−ジメチルプロピルアミン、N−メチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、ジn−オクチルアミン、ジ2−エチルヘキシルアミン、N−メチルヘキシルアミン、N−メチルラウリルアミン、N−エチル−イソ−アミルアミン、ジステアリルアミン等を挙げることができる。
【0028】
それ以外の第2級モノアミンとしては、ジフェニルアミン、ジベンジルアミンあるいはアミノエチルエタノールアミン・メチルイソブチルケチミン、ジエチレントリアミン・メチルイソブチルジケチミンの様なケチミンブロック第1級アミノ基含有第2級アミンも必用に応じて使用することができる。これらは樹脂へ導入後、合成樹脂から水性塗料を調製するために、水性媒体中に溶解もしくは分散する際に、容易に加水分解し、必要量の第1級アミノ基を生成することができる。
これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0029】
また、樹脂に導入するカチオン性官能基の付与方法として、これら2級モノアミンの付加反応とは別にトリエチルアミン酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酸塩などの第3級アミン酸塩の所定量を反応させ、樹脂骨格に第4級アンモニウム塩基を必要に応じて一部導入してもかまわない。
さらに、合成樹脂の分子量調整のための鎖長延長剤として、第1級アミンを一部導入してもかまわない。
【0030】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は好ましくは数平均分子量1,500〜5,000、より好ましくは1,600〜3,000の範囲を有する。数平均分子量が1,500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。反対に5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱・硬化時のフロー性が悪く塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
【0031】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価(KOH換算mg/g樹脂固形分)が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0032】
また上記カチオン変性エポキシ樹脂は、全アミン価(KOH換算mg/g樹脂固形分)が50〜120の範囲となるように分子設計することが好ましい。この場合の全アミン価とは、上記樹脂中における第1級から第3級アミンまでのアミン価の総量を意味する。アミン価が50未満では前記酸中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に120を超えると、硬化後塗膜中に過剰のアミノ基が残存する結果、耐水性が低下することがある。全アミン価は、好ましくは60〜100(KOH換算mg/g樹脂固形分)、より好ましくは70〜105(KOH換算mg/g樹脂固形分)である。
【0033】
さらにカチオン変性エポキシ樹脂は、第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50(KOH換算mg/g樹脂固形分)であることが好ましい。本発明においては、このようにカチオン変性エポキシ樹脂中の第1級アミノ基に基づくアミン価を15〜50の範囲で調整し、電着塗装工程におけるカチオン変性エポキシ樹脂からの電着性を制御することで、前記前処理工程における選択的な希土類金属化合物からの電解生成物析出が可能になることを見出した。そのことによって、目的とする高耐食性を有する複層塗膜形成が可能になった。アミン価が上記範囲外になると、急激に性能が低下する傾向にある。
【0034】
合成樹脂中における第1級アミノ基に基づくアミン価の調整としては、前記ケチミンブロック第1級アミノ基含有第2級アミンの樹脂への付加量を調整することによって容易になしえる。
【0035】
第1級アミノ基に基づくアミン価が15未満では、析出性が高くなりすぎる結果、前記前処理工程において樹脂の析出がイッテルビウム(Yb)の析出と重なる恐れがある。そのことによって複層塗膜の耐食性能が不十分になる。反対に50を超えると、析出性が低下しすぎる結果、電着塗装効率(クーロン効率)やつきまわり性の低下と同時に塗膜のガスピン肌発生など不良も招く恐れがある。
【0036】
上記のように本発明の水性塗料組成物における、前処理電解時に高い析出性を有する上記希土類金属化合物と、上記樹脂アミン価により析出制御されたカチオン変性エポキシ樹脂の組み合わせによって、最も理想的な工程統合を実現し、目的とする現行工程同等以上の高い耐食性を有する複層塗膜を形成することが可能になった。
【0037】
成分(C)
本発明における硬化剤(C)としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、その中でも電着樹脂の硬化剤として好適なブロックポリイソシアネートが推奨される。
【0038】
上記ブロックポリイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックポリイソシアネートを得ることができる。
【0039】
上記封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類とシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール;パラーt−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。とくにオキシム類およびラクタム類の封止剤は低温で解離するため、後工程にて中塗り塗膜と同時焼付けを行う際に、樹脂硬化性の観点からみて好適である。
【0040】
上記ブロックポリイソシアネートは封止剤の単独あるいは複数種の使用によってあらかじめブロック化しておくことが望まれる。ブロック化率については、前記の各樹脂成分と変性反応する目的がなければ、塗料の貯蔵安定性確保のためにも100%にしておくことが好ましい。
【0041】
上記ブロックポリイソシアネートの前記アミノ基を有する基体樹脂(B)に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や中塗り塗装適合性を考慮すると固形分量として、15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、中塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックポリイソシアネートは、塗膜物性、硬化度および硬化温度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
アミノ基を有する基体樹脂(B)は、該樹脂中のアミノ基を適当量の塩酸、硝酸、次亜リン酸等の無機酸、または蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルションとして水中に乳化分散させることによって調製される。また乳化分散する際には、通常、硬化剤(C)をコアとし、(B)アミノ基を含む基体樹脂をシェル(殻)として含むエマルション粒子を形成させる。
【0043】
該エマルション粒子の平均粒子径は、0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤が過量となり、一定電気量あたりの電着塗着効率が低下する。また平均粒子径0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、電着塗料の貯蔵安定性が低くなるので好ましくない。
【0044】
成分(D)
本発明の複層塗膜形成方法に用いられる水性塗料組成物は、希土類金属化合物(A)に加えてさらに亜鉛化合物(D)を含有していてもよい。さらに亜鉛化合物(D)が含まれることによって、前処理工程における電解反応生成物として、アルカリ難溶性の希土類金属―亜鉛の複合化合物を形成することができる。このため、複層塗膜のより高い密着性および電着塗装後の防錆性を発現することができる。
【0045】
希土類金属化合物(A)と併用する目的の亜鉛化合物(D)としては、例えば蟻酸亜鉛、酢酸亜鉛などのカルボン酸塩、硝酸亜鉛あるいは硫酸亜鉛などの無機酸塩に代表される水溶性塩が挙げられる。さらに、塗料組成物中で亜鉛イオンを生じる酸化亜鉛と縮合リン酸亜鉛との複合化合物、および(ポリ)リン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛などを用いることもできる。これらの亜鉛化合物は、一般に顔料(水分散性化合物)として用いることができるものである。
【0046】
上述のように希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)は、いずれも水溶性もしくは水分散性化合物であるのが好ましい。
【0047】
(A)希土類化合物に加えて亜鉛化合物(D)を使用する場合は、希土類金属の重量:亜鉛の重量比が1:20〜20:1で配合されていることが好ましい。
希土類金属の重量:亜鉛の重量の比が上記範囲を超える場合は、複合化合物の形成による密着性および耐食性の向上効果が低下する恐れがある。なお、上記重量比は、希土類金属化合物(A)、及び亜鉛化合物(D)それぞれに含まれる金属量を算出し、各成分の金属量の重量比を示したものである。
【0048】
本発明に用いられる水性塗料組成物は、水性塗料組成物中に含まれる希土類金属化合物(A)の量が、塗料固形分に対して、希土類金属に換算して合計0.05〜10重量%である。
【0049】
水性塗料組成物がさらに亜鉛化合物(D)を含む場合は、これらの金属は、塗料固形分に対して、金属量に換算して、合計0.05〜10重量%含むことが好ましい。金属換算量が0.05重量%未満では、十分な下地防錆に基づく耐食性が得られない場合がある。また、金属換算量が10重量%を超えると、水性塗料組成物成分の分散安定性や電着塗膜の平滑性および耐水性が低下する場合がある。(A)希土類金属の金属換算量、希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の金属換算量は、より好ましくは0.08〜8重量%であり、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
【0050】
上記希土類金属化合物(A)、希土類金属化合物(A)、あるいは希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の、水性塗料組成物への導入は、特に制限されるものではなく、通常の顔料分散法と同様にして行うことができる。例えば、分散用樹脂中に予め希土類金属化合物(A)、そして必要に応じた亜鉛化合物(D)を分散させて分散ペーストを作製し、この分散ペーストを水性塗料組成物へ配合することができる。また、希土類金属化合物(A)、亜鉛化合物(D)として、水溶性希土類金属化合物、水溶性亜鉛化合物を用いる場合には、塗料用樹脂エマルジョン作製後にそのまま加えてもよい。なお、顔料分散用樹脂としては、カチオン電着塗料用の一般的なもの(エポキシ系スルホニウム塩型樹脂、エポキシ系4級アンモニウム塩型樹脂、エポキシ系3級アミン型樹脂、アクリル系4級アンモニウム塩型樹脂など)が用いることができる。
【0051】
顔料など
本発明の塗装方法において用いられる水性塗料組成物においては、必ずしも必要成分ではないが、目的に応じて、さらに顔料を配合してもよい。但しここでいう顔料には、希土類金属化合物(A)及び亜鉛化合物(D)は含まれない。顔料としては、通常塗料に使用されるものならばとくに制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、珪酸アルミ(クレー)、タルク、炭酸カルシウム、また無機コロイド(シリカゾル、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルなど)等の体質顔料、リン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、(ポリ)リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)やモリブデン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛など)、等の重金属フリー型防錆顔料が挙げられる。
【0052】
さらにビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤も合わせて使用できる。これら無機コロイドおよびシランカップリング剤を併用すると、下地塗膜密着性の向上などに作用し、結果として耐食性が向上する効果がもたらされる利点がある。
【0053】
これらの中でも、本発明の水性塗料組成物に使用する顔料としてとくに重要なものは、二酸化チタン、カーボンブラック、珪酸アルミ(クレー)、シリカ、リンモリブデン酸アルミ、ポリリン酸亜鉛である。とくに二酸化チタン、カーボンブラックは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。
なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数種を使用するのが一般的である。
【0054】
前記水性塗料組成物中に含有される前記顔料(P)および樹脂固形分(V)の合計重量(P+V)に対する前記顔料の重量比{P/(P+V)}(以後、PWCと称する)が、5〜30重量%の範囲にあることが好ましい。但し、ここでいう顔料には、希土類金属化合物(A)、(D)銅化合物および(E)亜鉛化合物は含まないものと定義する。
上記重量比が5重量%未満では、顔料不足により塗膜に対する水、酸素などの腐食要因の遮断性が過度に低下し、実用レベルでの耐候性や耐食性を発現できないことがある。
【0055】
ただし、そのような不都合を生じない場合は、顔料濃度を極力ゼロとし、クリア、もしくはクリアに近い水性塗料組成物を調製して、本発明に用いてもよい。
また、上記重量比が30重量%を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがあるので注意を要する。
【0056】
上記樹脂固形分(V)は、水性塗料の主樹脂である前記アミノ基を有する基体樹脂(B)、および硬化剤(C)の他、顔料分散樹脂をも含めた電着塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0057】
水性塗料組成物
上記水性塗料組成物は、全固形分濃度が5〜40重量%、好ましくは、10〜25重量%の範囲となるように調整する。全固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を用いる。
【0058】
また水性塗料組成物のpHは、5〜7であるのが好ましく、5.5〜6.5であるのがさらに好ましい。pHが5未満であると、電着塗装効率や膜外観が低下することがある。また7を超えると、塗料組成物中の希土類金属イオンや銅イオン、基体樹脂エマルションの安定性が低下する傾向がある。pHが高い場合は、硝酸、硫酸などの無機酸、あるいは蟻酸、酢酸などの有機酸を用いてpHを下げることができる。pHが低い場合は、アミンなどの有機塩基、あるいはアンモニア、水酸化ナトリウムなどの無機塩基を用いてpHを上げることができる。これらの無機酸、有機酸、無機塩基および有機塩基を必要に応じた量で用いることによりpHを調整することができる。使用する酸および塩基の種類は、特に制限されるものではない。
【0059】
本発明に用いる水性塗料組成物は、塗料伝導度は1,500〜4,000μS/cmであるのが好ましい。塗料伝導度が1,500μS/cm未満では、前処理工程により得られる効果が不充分になり、また前処理皮膜や電着塗膜のつきまわり性が不足する恐れがある。また4,000μS/cmを超えると、前処理皮膜や電着塗膜の外観不良を招く恐れがあるので好ましくない。なお、本明細書において「前処理皮膜」とは、希土類金属化合物(A)の電解生成物、希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の電解生成物が、被塗物上に析出することにより得られる被膜をいう。
【0060】
水性塗料組成物の塗料電導度は、市販の導電率計を使用して測定することができる。導電率計として、例えば東亜電波工業株式会社製 CM−305などが挙げられる。
さらに塗料組成物中には少量の添加剤を導入しても良い。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化触媒(ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエートあるいはジオクチル錫ジベンゾエートなどの有機スズ化合物)などを挙げることができる。
【0061】
複層塗膜形成方法
本発明の水性塗料組成物に被塗物を浸漬させて、以下の複層塗膜形成方法により塗装が行われる。
上記複層塗膜形成方法とは、
上記水性塗料組成物中において、被塗物を陰極として、50V未満の電圧を印加する前処理工程、および
上記水性塗料組成物中において、被塗物を陰極として50〜450Vの電圧を印加する、電着工程、を包含する。
被塗物として、未処理の金属素材、例えば冷延鋼板、高強度鋼、高張力鋼、鋳鉄、亜鉛及び亜鉛めっき鋼、アルミニウム及びアルミニウム合金等が挙げられる。これらの中でも、本発明の方法によって特に優れた耐食効果を得ることができる素材は、冷延鋼板である。
【0062】
上記方法により調製された本発明の水性塗料組成物に、被塗物を陰極として浸漬する。そして前処理工程において、50V未満の電圧を印加して、被塗物に対して陰極電解を行うことによって、主に希土類金属化合物(A)の電解反応生成物、希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の電解反応生成物を、極めて優先的に析出させることが可能であることが見いだされた。
【0063】
印加電圧が50V以上であると、上記複合金属水酸化物の析出よりも、むしろ塗料ビヒクルであるアミノ基を有する基体樹脂(B)および硬化剤(C)の析出が顕著化するので、前処理皮膜形成の目的に反するために好ましくない。
【0064】
希土類金属化合物(A)の電解反応生成物、希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の電解反応生成物の選択的析出を可能とする前処理工程の印加電圧として、好ましい範囲は1〜40V、より好ましい範囲は1〜20Vである。
【0065】
前処理工程では、水性塗料組成物を含む浴槽の浴温を15〜35℃に調整した上で行うのが好ましい。前処理工程に続いて行われる電着塗装において通常用いられる浴温と同程度の温度で前処理工程を行うのが、前処理工程後に連続して行われる電着塗装工程との関係上好ましいからである。
【0066】
前処理における通電時間は、通常10〜300秒、好ましくは30〜180秒である。
処理時間が短すぎる場合は皮膜生成しないか、生成しても厚みが不足することとなり、耐食性が劣る恐れがある。また通電時間が長すぎる場合は、時として無光沢のヤケあるいはコゲと呼ばれる外観不良が発生する。また、過剰の処理時間は生産性を極端に低下させる恐れがあり好ましくない。
【0067】
前処理における、希土類金属化合物(A)、あるいは希土類金属化合物(A)および亜鉛化合物(D)の電解反応生成物の析出量を、5mg/m以上にすることによって、特異的に高い防錆皮膜を形成することができる。好ましい析出量は、10〜1,000mg/mである。
【0068】
5mg/m未満においては、形成皮膜による下地密着性が低下するために、必要な防錆性が発現しない。逆に、1,000mg/mを超えると、皮膜の表面平滑性が損なわれるので、電着塗膜形成後の外観が低下する場合があるので好ましくない。
【0069】
本発明の前処理工程によって、電解生成物が析出する機構は以下のように考えられる。前処理工程における上記電解条件によって、陰極の金属表面では溶存酸素や水素イオン、水等の浴中化学種が還元を受け、水酸化物イオン(OH)が生成する。この被処理金属表面で生成した水酸化物イオンが、まず該金属表面近傍の希土類金属イオンと反応することで、希土類金属の水酸化物の沈殿が生成し、皮膜として金属表面に析出する。
【0070】
この際に水酸化物イオンと反応し易い希土類金属イオンとしては、イッテルビウム(Yb)イオン、イットリウム(Y)イオン、ネオジム(Nd)イオン及びプラセオジム(Pr)であり、これらはセリウム(Ce)よりもより反応性が高く、該当金属の水酸化物を容易に形成する傾向にある。これらの中でもイッテルビウム(Yb)が最も反応性が高いことを見出した。
【0071】
こうして析出した電解生成物である、希土類金属の水酸化物からなる皮膜は、下地の基材および電着塗膜との密着性に特に優れており、電着塗装後の焼付け乾燥過程において、少なくとも一部が、希土類の水酸化物より脱水生成した酸化物からなる被膜に変化し、高い耐食性を示すようになると考えられる。
【0072】
また、水性塗料組成物中に亜鉛化合物(D)を含めることによって、電解反応生成物として、アルカリ難溶性の希土類金属―亜鉛の複合化合物を析出させることができる。こうして得られる複合化合物は、得られる複層塗膜のより高い密着性および電着塗装後の耐食性を発現することができる。
【0073】
しかも本発明の前処理工程の上記電解条件においては、主に上記前処理錆皮膜が優先的に形成し、アミノ基を有する基体樹脂(B)および硬化剤(C)の析出による電着塗膜の形成は抑制される傾向にあるので、極めて好都合である。
【0074】
本発明の電着塗装工程では、印加電圧を50〜450V、好ましくは100〜400Vまで昇圧することで、塗料ビヒクルである(B)カチオン基を有する基体樹脂および硬化剤(C)、そして必要に応じた顔料を、優先的に析出させることができる。印加電圧が50V未満では、上記電着塗料のビヒクル成分の析出性が不足する恐れがある。また印加電圧が450Vを超えると、上記ビヒクル成分が適正量を超えて析出する結果、実用に耐えない膜外観を呈する恐れがあるので好ましくない。
【0075】
通電時間は30〜300秒、好ましくは30〜180秒である。処理時間が30秒より短い場合は、電着塗膜が生成しないか、生成しても厚みが不足しているために耐食性が劣る恐れがある。また過剰の処理時間は生産性を極端に低下させる恐れがあり好ましくない。
【0076】
こうして得られる未硬化複層塗膜を、120〜200℃、好ましくは140〜180℃にて硬化反応を行うことによって、高い架橋度の電着硬化塗膜を得ることができる。ただし、200℃を超えると、塗膜が過度に堅く、かつ脆くなり、一方120℃未満では硬化が充分でなく、耐溶剤性や膜強度等の膜物性が低くなる恐れがあり好ましくない。
【実施例】
【0077】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0078】
製造例1(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けて、分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0079】
さらにメチルイソブチルケトン644部、2−エチルヘキサン酸413部、ビスフェノールA341部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が840になるまで反応させた後、系内の温度が90℃になるまで冷却した。
【0080】
ついでN−メチルエタノールアミン148部、ジ(2−エチルヘキシル)アミン386部、及びジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)205部の混合物を添加し120℃で1時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン223部で希釈し、固形分80重量%の水性塗料用樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1,840、全アミン価70、第1級アミノ基の基づくアミン価15、及び水酸基価は160であった。
【0081】
製造例2(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けて、分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0082】
さらにメチルイソブチルケトン644部、2−エチルヘキサン酸413部、ビスフェノールA341部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が840になるまで反応させた後、系内の温度が90℃になるまで冷却した。
【0083】
ついでN−メチルエタノールアミン148部、ジ(2−エチルヘキシル)アミン234部、及びジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)430部の混合物を添加し120℃で1時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン283部で希釈し、固形分80重量%の水性塗料用樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1,860、全アミン価88、第1級アミノ基の基づくアミン価32、及び水酸基価は161であった。
【0084】
製造例3(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けて、分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0085】
さらにメチルイソブチルケトン644部、2−エチルヘキサン酸413部、ビスフェノールA341部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が840になるまで反応させた後、系内の温度が90℃になるまで冷却した。
ついでN−メチルエタノールアミン148部、ジ(2−エチルヘキシル)アミン39部及びジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)664部の混合物を添加し120℃で1時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン214部で希釈し、固形分80重量%の水性塗料用樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1,880、全アミン価104、第1級アミノ基の基づくアミン価50、及び水酸基価は162であった。
【0086】
比較製造例1(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計及び滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92g、メチルイソブチルケトン95g及びジブチルチンジラウレート0.5gを加え、これを攪拌しながらメタノール21gを更に滴下した。反応は室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後に、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル57gを滴下ロートより滴下し、更にビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体42gを加えた。反応は、主に60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルを測定しながらイソシアネート基が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365gを加え、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0gを加え、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA87gを反応容器に加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後冷却し、ジエタノールアミン11g、N−メチルエタノールアミン24g、及びアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物(79重量%メチルイソブチルケトン溶液)25gを加え、110℃で2時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトンで不揮発分80重量%になるまで希釈し、オキサゾリドン環を含有する基体樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は1750、全アミン価56、第1級アミノ基に基づくアミン価10、水酸基価160であった。
【0087】
比較製造例2(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けて、分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0088】
さらにメチルイソブチルケトン634部、2−エチルヘキサン酸413部、ビスフェノールA341部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が840になるまで反応させた後、系内の温度が90℃になるまで冷却した。
ついでN−メチルエタノールアミン148部、及びジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)729部の混合物を添加し120℃で1時間反応させて、固形分80重量%の水性塗料用樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1,890、全アミン価109、第1級アミノ基の基づくアミン価55、及び水酸基価は164であった。
【0089】
比較製造例3(アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けて、分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0090】
さらにメチルイソブチルケトン522部、2−エチルヘキサン酸300部、ビスフェノールA230部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が500になるまで反応させた後、系内の温度が90℃になるまで冷却した。
【0091】
ついでN−メチルエタノールアミン148部、ジ(2−エチルヘキシル)アミン622部、及びジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)700部の混合物を添加し120℃で1時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン252部で希釈し、固形分80重量%の水性塗料用樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1,900、全アミン価130、第1級アミノ基の基づくアミン価48、及び水酸基価は152であった。
【0092】
製造例4(ブロックポリイソシアネート硬化剤の製造)
攪拌機、窒素導入管、冷却管及び温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n−ブタノール43部で希釈することによって固形分70%の目的のブロックポリイソシアネートを得た。
【0093】
製造例5〜7(製造例1〜3の水性塗料用樹脂による樹脂エマルションの製造)
製造例1、2及び3で得られた、各水性塗料用樹脂1,250部中へ、上記製造例4で製造したブロックポリイソシアネート硬化剤357部、酢酸20部を加えた後、イオン交換水で不揮発分32%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン変性エポキシ樹脂を主体とする各水性エマルション(以下、E1、E2及びE3と記す)を得た。
【0094】
比較製造例4〜6(比較製造例1〜3の水性塗料用樹脂による樹脂エマルションの製造)
比較製造例1、2及び3で得られた各水性塗料用樹脂1,250部中へ、上記製造例4で製造したブロックポリイソシアネート硬化剤357部、酢酸20部を加えた後、イオン交換水で不揮発分32%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン変性エポキシ樹脂を主体とする水性エマルション(以下、E4、E5及びE6と記す)を得た。
E1〜E6の水性塗料用樹脂ワニスの解りやすいように、表1にまとめると次のようになる。
【0095】
【表1】

【0096】
実施例及び比較例(水性塗料組成物の調製)
製造例5〜7及び比較製造例4〜6で得られた各種カチオン樹脂エマルション(E1〜E6)及び脱イオン水を使用してクリア塗料組成物(固形分濃度は全て20%)を調製した。各塗料中には硬化促進剤としてジブチル錫オキシドの乳化エマルションペーストを錫量にして塗料固形分量の1.5%になるように配合した。
【0097】
希土類金属化合物、あるいは希土類金属化合物と亜鉛化合物は、酢酸塩または硝酸塩などは水溶性であるので、水性塗料組成物へ直接加えて、表1に示す金属としての添加量(重量%)に調節することによって各水性塗料組成物を調製した。以上の各種材料の組み合わせは下記表2〜5に示した。
【0098】
(複層塗膜の調製及び耐食試験)
実施例および比較例における各水性塗料組成物の調製においては、表2〜5に示すように、各希土類金属化合物を金属量に換算して0.5重量%含めた。また、亜鉛化合物を併用する場合(実施例7〜10、比較例7〜10)は、希土類金属化合物を金属量にして0.3重量%に変更した上で、さらに亜鉛化合物を金属量に換算して0.2重量%を含めた。こうして得られた水性塗料組成物を浴槽に注ぎ、陰極として表面未処理冷延鋼板を浸漬した。次いで、すべての実施例と比較例において、印加電圧を2段階にて昇圧することによって、前処理工程(印加電圧5V、通電時間60秒)及び電着塗装工程(印加電圧180V、通電時間150秒)を連続的に実施した。電着塗装工程における電着塗膜の乾燥膜厚が20μmになるように塗装した後、170×20分で硬化し、塗膜評価を行った。表2〜5に、実施例及び比較例の各水性塗料組成物から調製した複層塗膜の耐食試験結果を示した。
【0099】
【表2】

(注)各成分配合:表中の数値は金属量に換算した重量である。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

(注)各成分配合:表中の数値は金属量に換算した重量である。
【0102】
【表5】

【0103】
表2〜5の評価試験の手順について以下に示す。
耐食試験
・塩水噴霧試験:ナイフにて素地に達するクロスカットを入れた塗板を、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を行った。試験時間960時間において、下記項目について評価した。
・ブリスター評価:試験後の評価板片面全体における塗面のブリスター状態(個数)にて評価した。
◎;非常に少ない
○;少ない
△;やや多い
×;多い
・剥離評価:試験後の評価板を水洗、乾燥した後テープを剥離し、カット部からの片側最大剥離幅にて評価した(mm)。
◎:2mm未満
○:2〜3mm未満
△:3〜6mm未満
×:6mm以上
【0104】
塗料電導度の測定
実施例及び比較例によって得られた水性塗料組成物200mlを含む電着浴において、25℃で、導電率計(東亜電波工業株式会社製 CM−305)を用いて電導度を測定した。
【0105】
少なくとも希土類金属化合物(A)、アミノ基を有する基体樹脂(B)および硬化剤(C)からなり、上記アミノ基を有する基体樹脂(B)は、該樹脂に含まれる全アミン価が50〜120(KOH換算mg数/1g樹脂固形分)であり、かつ第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50であることを特徴とする水性塗料組成物。
【0106】
表2〜5から明らかなように、本発明の全アミン価が50〜120(KOH換算mg数/1g樹脂固形分)であり、かつ第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50であることを特徴とするアミノ基を有する基体樹脂をバインダーとして用いた水性塗料組成物により得られる複層塗膜は、アミン価が上記適正範囲に無いアミン変性エポキシ樹脂を用いた水性塗料組成物により得られる複層塗膜と比較して、優れた耐食性を有することが確認された。
【0107】
また、希土類金属化合物の種類では、イッテルビウム(Yb)化合物と亜鉛(Zn)化合物の組み合わせが最も良い耐食性を有することが確認された(実施例7)。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の水性塗料組成物は、同一の水性塗料組成物を用いて、少なくとも2段階の印加電圧にて通電することによって、陰極電解処理(前処理工程)及び電着塗装工程を実用的に区分かつ連続的に実施することができる、複層塗膜形成方法により、前処理工程および電着塗装工程を効率的に統合しつつ、かつ従来よりも優れた塗膜密着性および耐食性を有する複層塗膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属化合物(A)、アミノ基を有する基体樹脂(B)および硬化剤(C)を含有し、該アミノ基を有する基体樹脂(B)は、該樹脂に含まれる全アミン価が50〜120(KOH換算mg数/1g樹脂固形分)であり、かつ第1級アミノ基に基づくアミン価が15〜50であることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記希土類金属化合物(A)が、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)あるいはプラセオジウム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む化合物である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記希土類金属化合物(A)が、イッテルビウム(Yb)化合物である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記希土類金属化合物(A)が、塗料固形分に対して、希土類金属に換算して0.05〜10重量%含まれる請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
さらに亜鉛(Zn)化合物(D)を含むことを請求項1〜4いずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
希土類金属化合物(A)と亜鉛(Zn)化合物(D)の配合重量比(A/D)が、1:20〜20:1である請求項5記載の水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−314690(P2007−314690A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146756(P2006−146756)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】