説明

水性塗料組成物

【課題】ポリエステル樹脂をバインダーとし、物性に優れた塗膜を形成することが出来る貯蔵性の良い水性塗料組成物を得ること。
【解決手段】分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つ数平均分子量1000〜20,000のポリエステル樹脂(A)をバインダーとして用いることにより水分散性にすぐれ、貯蔵性が良く、かつ塗膜強度や塗膜耐水性に優れ、単独塗膜として利用可能な塗膜を形成しうる水性塗料組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つポリエステル樹脂をバインダーとして含むことを特徴とする水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境保護の観点から大気中への揮発性有機化合物(VOC)の放出の少ない水性塗料の需要が高まっている。塗料には様々な構造の有機樹脂がバインダーとして用いられているが、中でもポリエステル樹脂は比較的安価でしかも可撓性や密着性などの物性に優れているため多用されている代表的な樹脂である。しかし酸とグリコールの縮合により生じるエステル結合により主鎖が構成されているので、酸性雰囲気下(一般的にはpH4以下)やアルカリ性雰囲気下(一般にpH10以上)で加水分解が起こりやすいという欠点があり、水性塗料のバインダーとして用いた場合貯蔵性に劣る場合が多く見られた。
【0003】
ポリエステル樹脂を水性塗料に用いる代表的な方法としては酸価20mgKOH/g以上の比較的高酸価のポリエステル樹脂を有機アミンを用いて中和して水分散液として用いる方法や、逆に比較的酸価の低いポリエステル樹脂を大量の界面活性剤をもちいて強制的に水分散体とする方法がある。
【0004】
しかし前者の場合は高酸価のポリエステル樹脂はフリーのカルボン酸が多く存在しエステル交換や加水分解が起こりやすい為か、貯蔵中の低分子量化、塗料の低粘度化がしばしば起こる。また後者の場合は界面活性剤により強制的に乳化しているため高分子量のポリエステル樹脂ほど乳化状態の安定性、即ち貯蔵性が劣る。それを補うために大量の界面活性剤を用いると塗膜とした時の耐水性が損なわれる。一方界面活性剤が比較的少量で済むような低分子量のポリエステル樹脂を用いると分子量の影響が大きい塗膜物性、例えば耐スリキズ性や耐衝撃性が損なわれる。
【0005】
カルボン酸以外の官能基を用いてポリエステル樹脂を水分散する試みとしてスルホン酸を利用することが考えられる。
【0006】
従来からスルホン酸基をもつポリエステル樹脂は広く知られているが、それは主にはポリエステル繊維の染色性を改善する用途であった。たとえば特許文献1では極少量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したPET繊維は分散染料、カチオン染料のいずれに対しても良好な染色性、堅牢性を示し、力学物性に優れ、かつソフトな風合いをもつポリエステル繊維となることが開示されている。
【0007】
しかしながら水性塗料のバインダーにスルホン酸基をもつポリエステル樹脂を利用することは一般的ではなかった。
【0008】
例えば特許文献2では5−ナトリウムスルホイソフタル酸を少量共重合した水溶性もしくは水分散性ポリエステル樹脂とコロイダルシリカの混合された水溶液もしくは水分散液中において、親水性のラジカル重合性ビニルモノマーと他の共重合可能なビニルモノマーを重合して得られるコーティング組成物が開示されているがこれは主として紙、フィルム素材へインクジェット印刷適性を付与する為の塗工剤として用いるものである。この材料は水性塗料として用いた場合は形成される塗膜の強度が低く実用性に乏しい。
【0009】
特許文献3には水溶性または水分散性有機結合剤としてスルホテレフタル酸およびスルホイソフタル酸から選択されたカルボン酸のスルホ誘導体から誘導されたコポリエステルと、任意でメラミンホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、イソシアナート、アジリデン、カルボジイミド、尿素ホルムアルデヒド、フェノール樹脂、シラノールおよび酸から選択された少なくとも1種の架橋剤を組み合わせたガスバリヤ性塗工剤が開示されている。これは無機層状鉱物を含有することを必須とする塗工剤でありPET等のポリマー素材表面に塗工することにより非常に高いガスバリヤ性を示すがリサイクル性を損なわないような水溶性材料であり、塗膜強度や塗膜耐水性を必要とする場合は第2の別種の塗膜をオーバーコートする必要があるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−269820公報
【特許文献2】特開平9−165552号公報
【特許文献3】特表2002−537148公報 このように従来公知のスルホン酸含有ポリエステルを用いた水性塗料組成物は強度、物性に不足があり単独塗膜として利用可能な塗膜を形成しうる水性塗料組成物を得ることは極めて困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はポリエステル樹脂をバインダーとし、物性に優れた塗膜を形成することが出来る貯蔵性の良い水性塗料組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つ数平均分子量1000〜20,000のポリエステル樹脂(A)をバインダーとして用いることにより水分散性にすぐれ、貯蔵性が良く、かつ塗膜強度や塗膜耐水性に優れ、単独塗膜として利用可能な塗膜を形成しうる水性塗料組成物を見出し本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして、本発明は以下に示す項よりなる。
1.分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つ数平均分子量1000〜20,000のポリエステル樹脂(A)をバインダーとして含むことを特徴とする水性塗料組成物。
2.ポリエステル樹脂(A)の組成が、酸成分は(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸:1〜5モル%、(イ)脂肪族ジカルボン酸もしくは脂環族ジカルボン酸:24〜49モル%、(ウ)テレフタル酸:0〜5モル%(エ)テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸:0〜25モル%からなり、かつポリオール成分は、(オ)分子内にカルボキシル基を1つ含んでいても良い炭素4以上の脂肪族もしくは脂環式ジオール:35〜60モル%、(カ)炭素数が3以下の脂肪族ジオール:0〜15モル%、(キ)それ以外の3価以上のポリオール:0〜25モル%、からなることを特徴とする項1に記載の水性塗料組成物。
3.(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸が5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩であることを特徴とする項1または2に記載の水性塗料組成物。
4.ポリエステル樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以下であることを特徴とする項1〜3のうち1項に記載の水性塗料組成物。
5.更にポリエステル樹脂(A)と反応しうる架橋剤(B)を含む項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
6.液pHが6〜8の範囲内である項1〜5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
7.項1〜6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装されてなる物品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、貯蔵性、塗膜物性に優れる水性塗料組成物が提供される。特に、本発明の水性塗料組成物は従来ポリエステル樹脂を水分散する際に用いられていた有機アミンを殆んど使用していないので環境汚染性が極めて小さく、また形成される塗膜が実用性が高いだけでなく研究過程で明らかになったことであるが形成される塗膜が親水性を示し耐汚染性にも優れている。本発明による塗料・塗膜は屋外用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について更に詳しく説明する。
ポリエステル樹脂
本発明に用いられるポリエステル樹脂はジカルボン酸とポリオールの重縮合により製造されるものであり、公知の製造方法で製造することができる。
【0016】
本発明に用いられるポリエステル樹脂は酸原料としてジカルボン酸以外に少量のモノカルボン酸や三価以上のポリカルボン酸を併用することができるが、酸原料としてはジカルボン酸のみを用いることが塗料として用いたとき得られる塗膜物性の面から好ましい。モノカルボン酸を併用した場合低分子量のポリエステルオリゴマーが副生して塗膜が脆くなることがある。三価以上のポリカルボン酸を併用した場合製造時にゲル化することがあり、また得られた樹脂の酸価が高くなってしまい貯蔵性が劣ることがある。
【0017】
本発明に用いられるポリエステル樹脂は原料としてジオール以外に少量のモノアルコールや三価以上のポリオールを併用することができるが、モノアルコールを併用した場合には低分子量のポリエステルオリゴマーが副生して塗膜が脆くなることがある。三価以上のポリオールを多量に併用した場合は製造時にゲル化することがある。但し得られた樹脂の酸価を低くおさえることが容易であり貯蔵性の問題は生じにくい。
【0018】
本発明に用いるポリエステル樹脂の原料のうちジカルボン酸成分として、以下に示す(ア)〜(エ)を使うことができる。
(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸:例えばスルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、5[[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等の金属塩があげられる。中でも特に好ましいのは5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩である。
(イ)脂肪族ジカルボン酸:例えばアジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ピメリン酸、アゼライン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等のジカルボン酸及びその酸無水物があげられる。
(イ)脂環族ジカルボン酸:例えばヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のジカルボン酸及びその酸無水物があげられる。
(ウ)テレフタル酸。
(エ)テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸:例えばイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸等のジカルボン酸及びその酸無水物があげられる。
【0019】
また原料のカルボン酸の一部又は全部をその低級アルキルエステルに替えても同等のポリエステル樹脂を得ることが出来る。
【0020】
本発明に用いるポリエステル樹脂の原料のうちポリオール成分として、以下に示す(オ)〜(キ)を使うことができる。
(オ)分子内にカルボキシル基を1つ含んでいても良い炭素4以上の脂肪族もしくは脂環式ジオール:例えばジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどの脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環族ジオール;ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などのカルボキシル基を1つ含むジオールがあげられる。
(カ)炭素数が3以下の脂肪族ジオール:例えばエチレングリコール、、プロピレングリコールなどがあげられる
(キ)それ以外の3価以上のポリオール:グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどがあげられる。中でも製造時にゲル化する危険性がより少ない3価のポリオールが好ましい。
【0021】
本発明に用いられるポリエステル樹脂は上述(ア)〜(キ)の原料を用いて製造されるが、その中でも(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸の使用が必須である。分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸の使用量はポリエステル樹脂の製造に用いたモノマーの合計を基準として1〜5モル%の範囲にあることが好ましい。1モル%より少ないと樹脂が十分な水分散性を示さないことがあり、5モル%を越えると樹脂の親水性が高いため塗料に用いた際の硬化塗膜の耐水性が不十分となる場合がある。
【0022】
(ア)以外の(イ)〜(エ)の酸モノマーの配合割合は水性塗料の使用目的に応じて適宜選択することが出来るが、溶解性、可とう性と耐水性のバランスをとる観点から(イ)24〜49モル%、(ウ)0〜5モル%、(エ)0〜25モル%がバランスの取れた好ましい範囲となる。
【0023】
(オ)〜(キ)のポリオール成分についても樹脂の物性が溶解性、可とう性と耐水性のバランスに影響するとの観点から軟質で溶解性の高い成分となる(オ)分子内にカルボキシル基を1つ含んでいても良い炭素数4以上の脂肪族もしくは脂環式ジオールは35〜40モル%、やや硬質で物性調整の役割のある(カ)炭素数が3以下の脂肪族ジオールは0〜15モル%、分子量調整の役割及び架橋官能基導入の役割のある(キ)3価以上のポリオールが0〜25モル%である配合がバランスの取れた好ましい範囲となる。なお(キ)が0モル%の場合でもポリエステル樹脂の末端にはヒドロキシ基またはカルボキシル基が存在するので架橋性はある。
【0024】
本発明に用いるポリエステル樹脂は数平均分子量が1000〜20,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量が1000よりも少ないと塗膜としたときに脆い塗膜となってしまう場合がある。一方数平均分子量が20,000を超えた場合は樹脂の絡み合いのためか水分散性が不足して水性塗料の安定性、貯蔵性が不足する場合がある。
【0025】
ここで本明細書において数平均分子量(及び重量平均分子量)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」及び「TSKgel G−2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
【0026】
本発明に用いるポリエステル樹脂は酸価が低くとも水分散性を示すことが特徴であり、酸価が10(mgKOH/g)以下である事が好ましい。酸価が10を越えるとそのままでは水分散後の分散液が不安定で樹脂が分離沈降してしまうことがある。これを防止するには酸価に応じて相当量の有機アミンで中和すればよいが、有機アミンはVOCとなるので好ましくない。なお、ここでポリエステル樹脂の酸価とは樹脂1gが含有するプロトン酸を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量をmgで表した時の数値であり、測定はJIS K−2501−2003に基づいて行う事が出来る。
【0027】
本発明に用いるポリエステル樹脂の製造には公知の方法、例えば溶融法や溶剤還流脱水法などの方法を用いることが出来る。また製造時に反応促進の目的でエステル化触媒(原料がカルボン酸の場合)やエステル交換触媒(原料がカルボン酸低級エステルの場合)を用いることも出来る。それら触媒の例として、ジブチルスズオキサイド、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸カルシウム、酢酸鉛、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネートなどを挙げることが出来る。
【0028】
本発明に用いるポリエステル樹脂はそのまま水に投入し撹拌することで水分散体とすることが出来る。このときポリエステル樹脂を分散した水分散液は中性〜弱酸性になる場合が多い。そしてその水分散液はそのままでも安定なものであるが少量の塩基を加えて液pHを調整することが出来る。
【0029】
このpH調整はポリエステル樹脂の分散直後に行っても良く、また必要に応じて架橋剤(および顔料、添加剤等)を加えた水性塗料組成物としてからpH調整を行っても良いが、最終的に水性塗料組成物としての液pHが6〜8の範囲に入っていることが好ましい。液pHがこの範囲を外れるとポリエステル樹脂と架橋剤の反応を促進して、塗料の貯蔵性が劣る場合がある。
【0030】
架橋剤
本発明のポリエステル樹脂を水性塗料組成物として用いるに際し架橋剤を加えることが出来る。本発明のポリエステル樹脂が架橋性官能基として水酸基持つ場合、架橋剤は水酸基と反応し得る官能基を持つ化合物であれば特に制限されるものではなく、例えば以下に挙げるメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物等を1種もしくは2種以上を組み合わせて好適に使用することが出来る。
【0031】
メラミン樹脂:メラミン樹脂としては、具体的には、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−メチロールメラミン及びそれらのアルコールによるアルキルエーテル化物(アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる)ならびにそれらの縮合物等を挙げることができる。
【0032】
メラミン樹脂の具体例としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル303、サイメル323、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル380、サイメル385、サイメル212、サイメル251、サイメル254、マイコート776;モンサント社製のレジミン735、レジミン740、レジミン741、レジミン745、レジミン746、レジミン747;住友化学社製のスミマールM55、スミマールM30W、スミマールM50W;三井化学社製のユーバン20SB等のユーバンシリーズ等(以上いずれも商品名)を挙げることができる。
【0033】
中でも特に好ましいメラミン樹脂としてメチル/ブチル(混合)エーテル化メラミン樹脂を挙げることができる。このようなメラミン樹脂の具体例としては、日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル212、サイメル251、マイコート776等(以上商品名)を挙げることができる。
【0034】
また、メラミン樹脂を架橋剤として使用する場合は、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの酸とアミンとの塩を触媒として使用することができる。
【0035】
以上に述べたメラミン樹脂はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
ポリイソシアネート化合物:1分子中に少なくとも2個の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物であって、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(もしくは−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(もしくは1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)等の芳香族ジイソシアネート化合物及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等の1分子中に少なくとも3個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
ブロックポリイソシアネート化合物:上記に例示されるようなポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした化合物である。ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応させることにより、遊離のイソシアネート基を一時的に封鎖する化合物であり、ブロックポリイソシアネート化合物は、通常、例えば、100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱することにより、ブロック剤が離脱して遊離のイソシアネート基が再生し、ブロックポリイソシアネート化合物は水酸基と反応することができるようになる。かかるブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチル等のフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタム等のラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコール等の脂肪族アルコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール等のエーテル系;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチル等のグリコール酸エステル系;乳酸;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル系;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール系;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール等のメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミド等の酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミド等のイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン等アミン系;イミダゾール、2−エチルイミダゾール等のイミダゾール系;3,5−ジメチルピラゾール等のピラゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素等の尿素系;N−フェニルカルバミン酸フェニル等のカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミン等のイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリ等の亜硫酸塩系等のものを挙げることができる。これらのブロック剤はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
また、ポリイソシアネート化合物及びブロックポリイソシアネート化合物を架橋剤として使用する場合は、有機スズ化合物等のウレタン化反応促進用触媒を使用することができる。
【0039】
本発明の水性塗料組成物は、付着性、耐久性に優れた塗膜となり、例えばPCM塗料や建材用塗料など屋外用塗料分野で好適に用いることができる。
【0040】
本発明の水性塗料組成物は分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つポリエステル樹脂と架橋剤以外にセルロースアセテートブチレート、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を少量併用してもよい。又、必要に応じて、水以外の溶剤、顔料、硬化触媒、紫外線吸収剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の添加剤等を配合せしめることができる。
【0041】
水以外の溶剤は造膜助剤として塗膜の平滑性を改良する効果を供するものであり、キシレン、オクタン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、n−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶剤、コスモ石油社製の商品名スワゾール310、スワゾール1000、スワゾール1500等の芳香族石油系溶剤等を挙げることができる。該溶剤は1種又は2種以上混合して使用できる。
【0042】
塗料中に含有してもよい顔料としては、例えば有機顔料(例えばキナクリドン等のキナクリドン系、ピグメントレッド等のアゾ系、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系等)、無機顔料(例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、バリタ、クレー、シリカ等)、炭素系顔料(カーボンブラック)、メタリック粉末(例えばアルミニウム、雲母状酸化鉄、ステンレススチール等)、防錆顔料(例えば、ベンガラ、ストロンチゥームクロメート等)が使用できる。
【0043】
塗料を塗装する基材は特に制限はないが例えば、アルミニウム板、鉄鋼板等の金属板、鉄鋼板の表面に亜鉛、クロム、スズ、アルミニウム等をメッキしたメッキ鋼板、これらの鋼板の表面をクロム酸、リン酸鉄、リン酸亜鉛で化成処理した処理鋼板等の各種金属素材やポリプロピレン、ABS、FRP等のポリマー成型体、石膏ボードなどの無機建材に適用できる。また素材表面に予め下地塗料が塗装してあっても良い。
【0044】
塗料を塗布する手段としては、例えば、ロールコーティング、スプレー塗装、刷毛塗り、吹き付け塗り、それ自体既知の任意の方法を用いることができる。塗装膜厚は硬化塗膜で通常1〜50ミクロン程度が適しているが、必ずしもこの範囲になくとも良い。
【0045】
塗膜は目的に応じて常温乾燥〜焼付け硬化まで適宜選ぶことが出来るが、例えばPCM鋼板の場合は一般に、約150〜約280℃、好ましくは約180℃〜約260℃の温度で、約20〜600秒間、好ましくは約30〜300秒間焼付け硬化が行われる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0047】
ポリエステル樹脂(A)の製造
製造例1
温度計、攪拌機、加熱装置及び精留塔を具備した反応装置に、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩182部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール434部、1,6−ヘキサンジオール959部、とりメチロールプロパン363部、アジピン酸396部、テレフタル酸225部、ヘキサヒドロ無水フタル酸835部及びモノブチル錫オキサイド0.7部を仕込んだ。次いで、内容物を160℃から220℃まで3時間かけて徐々に昇温し、精留塔を通して生成した縮合水を留去した。220℃で90分間反応を続けた後、精留塔を水分離器と置換し、230℃まで昇温した。内容物にトルエン約165部を加え、水分離器にもトルエンを入れて、水とトルエンを共沸させて縮合水を除去した。トルエン添加の1時間後から酸価の測定を開始し、酸価が5.0未満になったことを確認して加熱を停止し、トルエンを減圧除去した後、冷却し、ブチルセロソルブ660部を加えた。その後撹拌しながら脱イオン水を加え、水分散を行い、1%ジメチルエタノールアミン水溶液を加えpH調整を行い、酸価5.0、水酸基価120、数平均分子量6000のポリエステル樹脂の水分散液1を得た。得られた水分散液のpHは6.8、固形分含量は50.0質量%であった。
製造例2〜14
表1、2に示した原料を用いる以外は製造例1と同様にして実施例2〜9及び比較例1〜4のポリエステル樹脂水分散液を得た。各々の樹脂の酸価、水酸基価、分子量およびpH調整後の水分散液のpHも表中に記入した。なお水分散液の固形分含量は49.0質量%〜51.0質量%であった(表中には記載しなかった)。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
実施例1
製造例1で得たポリエステル水分散液140.0部に「サイメル370」(三井サイテック社製、88%水溶性メラミン樹脂溶液)34.1部を加え、よく混合して実施例1の水性塗料組成物を作成した。
【0051】
実施例2〜10、比較例1〜4
実施例1と同様の手順でポリエステル水分散液と架橋剤を表3に示した配合で混合して実施例2〜10及び比較例1〜4の水性塗料組成物を作成した。
【0052】
性能試験1
貯蔵性:実施例及び比較例で得た水性塗料組成物を内容積225mLの広口マヨネーズ瓶に180g入れて密栓して40℃恒温室中に1ヶ月貯蔵し、貯蔵後の状態を評価した。この貯蔵性の評価結果は表3下部に示す。
【0053】
◎:内容液は均一で初期と同一または殆んど変わらない粘度である。
○:内容物はやや増粘しているが十分な流動性がある。
△:内容液が明らかに増粘しており流動性に乏しい、または2層に分離している。
×:内容液が著しく増粘しており殆んど流動しない、もしくはゲル化している。
【0054】
【表3】

【0055】
性能試験2
試験板の作成
ミガキ軟鋼板(幅50mm×長さ100mm×厚さ0.8mm)に実施例1〜10、比較例1〜4の水性塗料組成物を乾燥塗膜の厚さが0.02±0.002mmとなるようにエアスプレー塗装し、室温で10分間セッティングした後熱風乾燥機にて140℃×25分間焼き付けることにより試験塗板1〜14を得た。
【0056】
各試験塗板について下記試験方法に従って試験を行った。得られた結果を表4に示す。
【0057】
試験方法
塗膜外観:塗装板を目視にて評価した。
○:塗膜表面が平滑でツヤがあり、焼付けによる変色が認められない。
△:塗膜表面が平滑でツヤもあるが、焼付けにより軽度な熱黄変が認められる。
×:塗膜表面が不均一でツヤが無い、または焼付けによる著しい黄変が認められる。
【0058】
耐衝撃性:JIS K5600−5−3−6(1999)デュポン式耐衝撃性試験に準じて、落錘重量500g、撃芯の先端直径1/2インチ、落錘高さ50cmの条件にて塗装板の塗面に衝撃を与えた。ついで塗面の衝撃を加えた部分にセロハン粘着テープを貼着させ瞬時にテープを剥がしたときの塗膜の剥がれ状態を評価した。
◎:塗面に塗膜の剥がれが認められない。
○:塗面に塗膜の剥がれがわずかに認められる。
×:塗面に塗膜の剥がれがかなり認められる。
【0059】
耐水性:各試験板を40℃の脱イオン水に48時間浸漬後の外観及び付着性を調べた。付着性は、素地に達するようにカッターナイフで×印状のクロスカットを入れ、そのクロスカット部に粘着セロハンテープを貼着し、それを急激に剥がした後のハガレを評価した。
【0060】
○:全く異常が認められない。
△:フクレ、ブリスター発生等の外観異常は認められないが、ハガレが認められる。
【0061】
×:フクレ、ブリスター発生等の外観異常及びハガレがともに認められる。
【0062】
耐候性:各試験板の光沢を、JIS H 8602 5.12(1992)に準拠(水スプレー時間12分間、ブラックパネル温度60℃)し、カーボンアーク灯式促進耐候性試験機サンシャインウェザオメーターを使用して測定して、暴露試験前の光沢に対する光沢保持率が80%を割る時間を測定した。さらに塗膜表面を目視により観察した。
◎:1,500時間を越えても光沢保持率が80%以上であり、かつ塗膜表面にワレが生じない。
○:光沢保持率が80%を割る時間又は塗膜表面にワレが生じる時間が1,000時間以上、かつ1,500時間未満。
△:光沢保持率が80%を割る時間又は塗膜表面にワレが生じる時間が500時間以上、かつ1,000時間未満。
×:光沢保持率が80%を割る時間又は塗膜表面にワレが生じる時間が500時間未満。
【0063】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つ数平均分子量1000〜20,000のポリエステル樹脂(A)をバインダーとして含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)の組成が、酸成分は(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸:1〜5モル%、(イ)脂肪族ジカルボン酸もしくは脂環族ジカルボン酸:24〜49モル%、(ウ)テレフタル酸:0〜5モル%(エ)テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸:0〜25モル%からなり、かつポリオール成分は、(オ)分子内にカルボキシル基を1つ含んでいても良い炭素4以上の脂肪族もしくは脂環式ジオール:35〜60モル%、(カ)炭素数が3以下の脂肪族ジオール:0〜15モル%、(キ)それ以外の3価以上のポリオール:0〜25モル%、からなることを特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
(ア)分子内にアルカリ金属塩となっているスルホン酸基を持つジカルボン酸が5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜3のうち1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
更にポリエステル樹脂(A)と反応しうる架橋剤(B)を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
液pHが6〜8の範囲内である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装されてなる物品。

【公開番号】特開2012−12422(P2012−12422A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147031(P2010−147031)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】