説明

水性硬化型防汚塗料組成物、防汚性塗膜、水中構造物及び水中摩擦低減方法

【課題】 防汚塗料としての優れた機能を発揮し、水中における摩擦抵抗を低減し、かつ環境への負荷を軽減した水性硬化型防汚塗料組成物、それにより得られる防汚性塗膜及びそれを有する水中構造物を提供する。
【解決手段】 硬化性を有する水性バインダー成分、有機高分子粒子及び防汚剤を配合し、得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものである水性硬化型防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性硬化型防汚塗料組成物、防汚性塗膜、水中構造物及び水中摩擦低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、漁網、その他の水中構造物には、フジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物が付着しやすく、それによって、船舶等では効率のよい運行が妨げられ燃料の浪費を招く等の問題があり、また漁網等では目詰まりが起こったり、耐用年数が短くなる等の問題が生じる。これら水中構造物に対する生物の付着を防止するために、水中構造物の表面に防汚性塗膜を形成することが行われている。このような防汚性塗膜の形成に使用される防汚塗料としては、非硬化型樹脂を含有する溶剤系の塗料組成物が知られている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0003】
近年、多くの塗料分野において有機溶剤の使用量の低減が求められており、各種水性塗料が開発、使用されてきている。しかし、防汚塗料組成物においては、水性化の試みは少なかった。それは以下の理由によるものである。すなわち、水性塗料では水を媒体とするため、それに含まれるバインダーは溶剤型塗料に含まれるものに比べて親水性が高く、そのままでは塗膜が水に溶解してしまうという問題を有する。一方、その問題を解決するため、塗膜を硬化させれば耐水性は確保できるが、今度は硬化した膜から防汚剤が溶出できなくなるので、塗膜が防汚性を有しなくなるという別の問題点が発生する。このように、防汚塗料を水性化することは、技術的にかなり困難であった。
【0004】
特許文献5、6には、2価の金属を含有する樹脂と水と塩基性化合物とを含有する組成物が記載されている。しかし、このような樹脂は非硬化型であり、得られる塗膜の耐水性が充分ではなかった。
【0005】
一方、船舶等のように液体との摩擦が生じる箇所にコーティングを施す場合、航行燃費低減や省エネルギー化等の点から、塗膜によって液体との摩擦抵抗を低減させることも望まれている。
このような摩擦抵抗の低減を目的とした塗料組成物は、特許文献7、8、9、10、11及び12等に開示されている。これらには、アクリル樹脂、ポリオキシエチレン鎖含有重合体、アリルアミン樹脂、キチン、キトサン等のポリマーを塗料中の樹脂バインダーとして用いた塗料用樹脂組成物が開示されている。
しかし、これらは塗膜に添加する樹脂粒子によって、摩擦抵抗の低減を行うものではない。
【0006】
特許文献13及び14には、無機微粒子を配合した防汚塗料組成物によって塗膜を形成することにより、摩擦抵抗が低い塗膜を得ることができる旨が記載されている。しかし、これらは、低速で運行する船においては若干の摩擦抵抗機能を有するが、高速で運行する船においては充分な摩擦抵抗機能を得ることができず、効果が充分ではない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−52803号公報
【特許文献2】特開平11−172159公報
【特許文献3】特開2000−109729号公報
【特許文献4】特開2003−277680号公報
【特許文献5】特開2002−371166号公報
【特許文献6】特開2003−49123号公報
【特許文献7】特開平11−29725号公報
【特許文献8】特開平11−29747号公報
【特許文献9】特開2001−98007号公報
【特許文献10】特開平11−256077号公報
【特許文献11】特開平10−259347号公報
【特許文献12】特開2003−277691号公報
【特許文献13】特開平5−86309号公報
【特許文献14】特開平5−112741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の現状に鑑み、防汚塗料としての優れた機能を発揮し、水中における摩擦抵抗を低減し、かつ環境への負荷を軽減した水性硬化型防汚塗料組成物、それにより得られる防汚性塗膜及びそれを有する水中構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、硬化性を有する水性バインダー成分、有機高分子粒子及び防汚剤を配合し、得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものであることを特徴とする水性硬化型防汚塗料組成物である。
【0010】
上記硬化性は、水又は空気により制御されるものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分の硬化したものは、水により分解するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系及びアルコキシシリル縮合系のうち少なくとも一種の硬化系を有することが好ましい。
上記水性バインダー成分は、エマルション樹脂及び硬化剤からなり、上記エマルション樹脂は、前記硬化剤が有する官能基と反応しうる基を有するものであることが好ましい。
【0011】
上記水性バインダー成分の硬化したものは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有することが好ましい。
上記水性バインダー成分は、酸化重合により硬化するものであることが好ましい。
上記酸化重合は、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂及びドライヤーからなるものであることが好ましい。
上記エマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体の共重合体であることが好ましい。
上記水性バインダー成分が、付加反応により硬化するものであることが好ましい。
上記防汚剤は、酸価が10〜300mgKOH/gであり、数平均分子量が1000〜20000である水溶性分散樹脂と前記防汚剤とを配合する防汚剤ペーストとして配合されることが好ましい。
上記防汚剤ペーストにおける水溶性分散樹脂と防汚剤との固形分質量比が1/99〜50/50であることが好ましい。
【0012】
上記有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上であり、粒径0.05〜100μmであることが好ましい。
上記有機高分子粒子は、天然由来高分子であることが好ましい。
上記有機高分子粒子は、カチオン性基を有するものであることが好ましい。
【0013】
上記有機高分子粒子は、粒径0.05〜100μmであり、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種からなる有機高分子粒子であることが好ましい。
上記有機高分子粒子は、合成高分子であることが好ましい。
上記有機高分子粒子は、アクリル系樹脂粒子であることが好ましい。
【0014】
上記有機高分子粒子は、デンプン、プルラン、アラビアノリ、κ−カラギーナン、ゼラチン、セルロース、キトサン及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の親水性樹脂と、アクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子であることが好ましい。
上記有機高分子粒子の配合量は、塗料固形分に対して0.01〜15質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明は、上述の水性硬化型防汚塗料組成物により得られることを特徴とする防汚性塗膜でもある。
本発明は、上記防汚性塗膜を有することを特徴とする水中構造物でもある。
本発明は、被塗物表面に、上記防汚性塗膜を形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、塗料の水性化を図りつつ、防汚塗料として要求される性能を発揮する塗膜を形成することができるものである。また、本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、水中において摩擦低減機能を有する塗膜を容易に形成することができるものでもある。例えば、本発明の水性硬化型防汚塗料組成物を船舶に使用して、水との低摩擦性の塗膜を形成した場合に、航行燃費を低減することができる。従って、本発明の上記防汚塗料組成物は、水性でありかつ省エネルギー化を図ることができるものであるため、環境への負荷を低減することができ、かつ所望の防汚性機能を有するものである。
【0017】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、硬化性を有する水性バインダー成分、有機高分子粒子及び防汚剤を配合するものである。
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物に含まれる水性バインダー成分は、硬化性を有するものであれば特に限定されず、水溶性樹脂を溶解した溶液、水分散性樹脂を分散させたエマルション樹脂、乳化剤等によって樹脂を強制的に分散させた分散樹脂からなるものであってよい。耐水性、防汚性能等の各種性能という観点から、水分散性樹脂を分散させたエマルション樹脂からなることが特に好ましい。
【0018】
上記エマルション樹脂は、水に分散・乳化するための官能基及び硬化官能基を含有するものである。上記水に分散・乳化するための官能基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基やアミノ基等の塩基性基を挙げることができる。上記水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、これらの酸性基は、エマルション樹脂の酸価として、300mgKOH/g以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは1〜20mgKOH/gである。上記酸性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。塩基性基の場合にも、酸性基と同様にして設定することができる。更に、ポリエチレンオキサイドユニットを付加して水に分散・乳化することもできる。
【0019】
上記水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、上記エマルション樹脂に塩基を、上記水に分散・乳化するための官能基が塩基性基である場合、上記エマルション樹脂に酸を加えて中和することにより、水に分散・乳化することができる。
【0020】
上記水性バインダー成分の硬化性は、塗料の使用形態を考慮すると、常温で硬化するものが好ましい。常温で硬化するものは通常、塗布後、自然乾燥または80℃程度の強制乾燥によって、硬化反応が進行するものであり、当業者によく知られている。
【0021】
本発明において、上記常温硬化性は、水又は空気により制御されるものであることが好ましい。ここで水又は空気により制御されるというのは、乾燥によって水が除去されることによって硬化反応が進行する、又は、乾燥によって空気中の酸素と接触することによって硬化反応が進行する等の状態を指すものである。
【0022】
また、上記水性バインダー成分については、そのものが硬化したものが、水により分解する性質を有していることが好ましい。このような性質を有していることで、上記水性バインダー成分を配合した塗料から得られる塗膜が水中に浸漬されることにより分解されるので、自己研磨性を発現することができる。
上記水により分解する性質を有する硬化系としては、脱水縮合反応を例示することができる。すなわち、この場合、上記水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化することになる。
上記脱水縮合反応は、水を発生する平衡反応であることから、乾燥によって水が除去されることによって硬化反応が進行するものである。更に、脱水縮合反応で硬化した塗膜を水中に浸漬した場合、多量の水が存在することにより、硬化反応の逆反応である分解が進行する。
【0023】
また、上記水性バインダー成分については、そのものが硬化したものが、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有していてもよい。この場合、防汚剤の共存下で得られた硬化膜から、防汚剤が溶出しやすくなるため好ましい。これは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造は他の硬化系により得られる架橋構造に比べて、緩やかな網目状になっているためであると考えられる。なお、上記長鎖炭化水素基同士が架橋した構造とは、長鎖炭化水素基の不飽和結合と別の長鎖炭化水素基の不飽和結合とが直接的又は間接的に結合したものである。上記間接的な結合の例として、下記の酸化重合反応における酸素原子が介在した結合を挙げることができる。
【0024】
上記長鎖炭化水素基同士が架橋した構造が得られる硬化系としては、酸化重合反応を例示することができる。
上記酸化重合反応とは、不飽和結合に酸素が吸収されることにより、重合が進行していく反応であり、ドライヤーを併用することによって速乾性に優れるという特徴を有する。なお、ウレタン硬化系等の上述した特徴を有しない水性バインダー成分を使用する場合、長期の防汚性に劣るおそれがある。
【0025】
上記水性バインダー成分が脱水縮合により硬化する場合、その硬化系として、例えば、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系、アルコキシシリル縮合系等を挙げることができる。これらは、公知の硬化系であり、公知の樹脂及び硬化剤の組み合わせを使用することができる。
【0026】
上記水性バインダー成分がカルボニル/ヒドラジド系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、カルボニル含有樹脂と硬化剤としてヒドラジド化合物からなることが好ましい。
【0027】
上記カルボニル含有樹脂としては少なくとも1のアルド基及び/又はケト基を有する樹脂であれば特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(アルキッド樹脂を含む)、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、それらの変性体/複合体等を挙げることができる。なかでも、耐水性、塗膜物性等の点からアクリル樹脂が好ましい。
【0028】
カルボニル含有樹脂がカルボニル含有アクリル樹脂である場合、アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られるエマルション樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
上記アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等を挙げることができる。
【0030】
上記アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体は、得られた樹脂中におけるアルド基及び/又はケト基が0.005〜20mmol/(樹脂固形分1g)となる割合で使用することが好ましい。0.005mmol以下であると、硬化反応性が不充分になるため耐水性が充分に得られないおそれがあり、20mmolを超えると、かえって他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0031】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は上述の範囲となる酸価を有することが好ましく、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を所望量含有する単量体組成物を重合することによって得られる。上記カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸の半エステル化物等を挙げることができる。
【0032】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、アミン等の塩基により中和されていることが好ましい。その中和率は、300%以下であることが好ましく、10〜100%であることがより好ましい。
【0033】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、数平均分子量が3000以上であることが好ましい。上記数平均分子量が3000未満であると、耐水性が低下するおそれがあるため好ましくない。上記数平均分子量は、10000以上であることがより好ましい。上記数平均分子量は、連鎖移動剤を使用したり、重合開始剤量、重合温度等を調整して樹脂の重合を行うことにより適宜目的とする範囲に調整することができる。
【0034】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、上記単量体の他にその他の単量体を使用することができる。上記その他の単量体としては、エチレン性の不飽和単量体を挙げることができ、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル〔以後単に(メタ)アクリル酸エステルのように表すことがある。〕、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等がある。さらに種々の官能性単量体、例えば、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン、(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0035】
上記アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等を挙げることができる。
【0036】
上記カルボニル含有樹脂は、上述のようにエマルション樹脂であることが好ましい。エマルション樹脂を得るための手段としては、従来公知の乳化重合が好ましい。その理由は、導入する官能基量の制御が容易であり、この方法で得られる樹脂の分子量が比較的高いため、硬化反応による高分子量化の効果が大きく、耐水性の向上及び高固形分化への対応も可能になるためである。上記従来公知の乳化重合としては、具体的には、上記単量体組成物を、例えば、水、又は、必要に応じてアルコール等のような有機溶剤を含む水性媒体中で反応性乳化剤を用いて予め乳化しておき、これを加熱攪拌下、重合開始剤とともに滴下する方法等を挙げることができる。
【0037】
上記反応性乳化剤は、α,β−エチレン性不飽和結合を有する界面活性剤であり、アニオン型、カチオン型、ノニオン型、両性イオン型という4種のタイプに分類される。上記反応性乳化剤として市販品されているものの中でアニオン型の例として、エレミノールJSシリーズ(三洋化成工業社製)、ラテムルS、ASKシリーズ(花王社製)、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE、SRシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等が挙げられる。また、カチオン型の例として、ラテムルKシリーズ(花王社製)が、さらに、ノニオン型の例として、アクアロンシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープNE、ERシリーズ(旭電化社製)等が挙げられる。
【0038】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系の油性化合物、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)等の水性化合物、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等のレドックス系の油性過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水性過酸化物等を挙げることができる。
【0039】
上記カルボニル含有樹脂がエマルション樹脂である場合、例えば、平均粒径が50〜600nmのものを挙げることができる。上記平均粒径が上記範囲外であると、分散性が低下し、水性硬化型防汚塗料組成物の安定性が不充分となる等のおそれがある。
【0040】
上記水性バインダー成分が上記カルボニル/ヒドラジド系の硬化系を有する場合、硬化剤としてヒドラジド化合物を含有する。上記ヒドラジド化合物としては特に限定されず、ヒドラジド基又はセミカルバジド基を複数有する化合物を使用することができる。
【0041】
上記分子中にヒドラジド基を複数有する化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、グルタン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド等の炭酸ポリヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジド、4、4’−オキシベンゼンスルホニルヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマーヒドラジド等を挙げることができる。上記化合物としては、なかでも、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0042】
上記分子中にセミカルバジド基を複数有する化合物としては特に限定されず、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1′,1′−テトラメチル−4,4′−(メチレン−ジ−P−フェニレン)ジセミカルバジド、ビュレットリートリ(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)等のセミカルバジド類を挙げることができる。これらの化合物は、単独であっても、又は、2種類以上を併用して使用してもよい。
【0043】
上記カルボニル含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。上記モル比が上記範囲外であると、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0044】
上記水性バインダー成分がアセトアセトキシ/アミン系の硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、アセトアセトキシ基含有樹脂、及び、硬化剤としてのアミン化合物からなるものであることが好ましい。上記アセトアセトキシ基含有樹脂としては特に限定されないが、上記カルボニル含有樹脂と同様にアクリル樹脂であることが好ましい。上記アセトアセトキシ基含有アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られる樹脂を挙げることができる。
【0045】
上記アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アセトアセトキシ基を有するアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類が挙げられる。具体的には、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0046】
上記アセトアセトキシ基含有樹脂は、上記カルボニル含有樹脂と同様にエマルション樹脂であることが好ましい。重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル含有樹脂と同様の方法により得ることができる。
【0047】
上記アミン化合物としては特に限定されず、例えば、2−メチルペンタメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、フェニレンジアミン、ピペラジン、2,6−ジアミノトルエン、ジエチルトルエンジアミン、N,N−ビス(2−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン等のジアミン基又はポリアミン基を有する化合物を挙げることができる。
【0048】
上記アセトアセトキシ基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。上記モル比が上記範囲外であると、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0049】
上記水性バインダー成分がアルコキシシリル縮合系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分はアルコキシシリル基含有樹脂からなるものである。上記アルコキシシリル基としては特に限定されず、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロピオキシシリル基、ブトキシシリル基等を挙げることができる。なお、Si原子は4価であるため、上記アルコキシシリル基は、ジアルキルモノアルコキシシリル基、モノアルキルジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基等といった官能基を構成する単位要素であると見なすことができる。なお、本明細書におけるアルコキシシリル基とは、Si原子とそれに結合した1個のアルコキシル基とを意味する。よって、例えば、トリアルコキシシリル基は、アルコキシシリル基を3個有していることになる。
【0050】
上記アルコキシシリル基含有樹脂としては特に限定されず、例えば、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られる樹脂を挙げることができる。上記アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレン等を挙げることができる。
【0051】
上記アルコキシシリル基含有樹脂は、上記カルボニル含有樹脂と同様にエマルション樹脂であることが好ましい。上記不飽和モノマー混合物の重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル含有樹脂と同様の方法により得ることができる。
【0052】
上記水性バインダー成分がアルコキシシリル縮合系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、更に、酸及び/又は塩基を含有することが好ましい。
上記酸及び塩基としては特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の酸基を有する樹脂、アミノ基等の塩基性基を有する樹脂を挙げることができる。上記酸基を有する樹脂としては、触媒活性が強いことからリン酸基又はスルホン酸基を有する樹脂が好ましく、官能基導入の容易さからリン酸基を有する樹脂が特に好ましい。上記アミノ基としては、2個のアルキル基が窒素原子に結合した3級のものが好ましく、上記アルキル基は同一でも異なっていてもよいが、炭素数1〜8のものが特に好ましい。このようなアミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジオクチルアミノ基等を挙げることができる。上記酸基又は塩基性基を有する樹脂としては特に限定されず、例えば、少なくとも1の酸基又は塩基性基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の重合によって得られるものを挙げることができる。
【0053】
上記アルコキシシリル含有樹脂に含まれるアルコキシシリル基量と上記酸及び/又は塩基とのモル比は、1/10〜1/0.01の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.01を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10未満であると、未反応の酸及び/又は塩基の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0054】
上記脱水縮合重合による硬化系の中で、硬化反応の逆反応の進行による自己研磨性が良好であることからカルボニル/ヒドラジド系が好ましく、その中でも硬化反応性に優れることから、カルボニル/セミカルバジド化合物の組み合わせが特に好ましい。
【0055】
上記水性バインダーが酸化重合による硬化系を有する場合、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものであることが好ましい。高級不飽和脂肪酸由来基における不飽和結合が酸化重合することによって、先に述べた、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造が得られるためである。
【0056】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂として、例えば、アルキッド樹脂を挙げることができるが、アクリル型のエマルション樹脂であることが好ましい。このような高級不飽和脂肪酸由来基を有するアクリルエマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得ることができる。
【0057】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、高級不飽和脂肪酸とグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体との反応によって得られるもの等を挙げることができる。上記高級不飽和脂肪酸としては特に限定されず、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等を挙げることができる。更に、亜麻仁油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米糠油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、綿実油脂肪酸、トール脂肪酸等の非共役二重結合を有する乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸等を挙げることもできる。なお、桐油脂肪酸等の共役二重結合を有する脂肪酸を一部併用することができる。
上記高級不飽和脂肪酸の炭化水素部分の平均炭素数は、13〜23であることが好ましい。
【0058】
上記グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0059】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体のヨウ素価は、60〜180であることが好ましく、70〜150であることがより好ましい。
【0060】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂の重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル含有樹脂と同様の方法により得ることができる。また、上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂のヨウ素価は、5〜100であることが好ましい。上記ヨウ素価が100を超えると、塗膜表面の乾燥が早過ぎるため、充分な効果が得られない。
【0061】
上記水性バインダー成分は、酸化重合反応による硬化系を有する場合、更にドライヤーを配合することが好ましい。上記ドライヤーは、上記高級不飽和脂肪酸由来基の不飽和結合を架橋させるための働きをするものである。上記ドライヤーとしては、通常、塗料用として慣用されているものであれば特に限定されないが、なかでもコバルト、バナジウム、マンガン、セリウム、鉛、鉄、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、セリウム、ニッケル、及び、スズ等のナフテン酸塩、オクチル酸塩、樹脂酸塩等を挙げることができる。上記ドライヤーの配合量は、通常、樹脂固形分100質量部に対して0.005〜5質量部である。
【0062】
上記水性バインダー成分はまた、付加反応により常温硬化するものであることが好ましい。このような硬化系としては、特に限定されず、例えば、ウレタン/ウレア系、マイケル付加系、カルボジイミド/カルボキシル系等を挙げることができる。
【0063】
上記ウレタン/ウレア系としては特に限定されず、例えば、硬化剤としてのポリイソシアネート化合物と、水酸基及び/又はアミノ基含有樹脂からなる水性バインダー成分を挙げることができる。上記水酸基及び/又はアミノ基含有樹脂として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ当業者によく知られたものを使用することができる。
【0064】
上記ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,5−若しくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートNBDI)等の脂肪族若しくは脂環族ジイソシアネート化合物;又はこれらジイソシアネート化合物の二量体,三量体及びトリメチロールプロパン付加物等のポリイソシアネート化合物を挙げることができる。これらは反応性を制御するため、一部又は全部が活性水素化合物でブロックされたものであってもよい。上記ブロック剤としては特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノール等の脂肪族アルコール;フェノール、ニトロフェノール、エチルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトオキシム等のオキシム類;ε−カプロラクタム等のラクタム類等を挙げることができる。
【0065】
上記水酸基及び/又はアミノ基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記ポリイソシアネート化合物に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10未満であると、未反応のポリイソシアネート化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0066】
上記カルボジイミド/カルボキシル系としては特に限定されず、例えば、硬化官能基としてカルボキシル基を含有するカルボキシル基含有樹脂、及び、硬化剤としてポリカルボジイミド化合物からなる水性バインダー成分を挙げることができる。
【0067】
上記カルボキシル基含有樹脂としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有アルキド樹脂及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。上記カルボキシル基含有樹脂がアクリル樹脂である場合、アクリル酸やメタクリル酸といったカルボキシル基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られるエマルション樹脂を使用することが好ましい。
【0068】
上記ポリカルボジイミド化合物としては、日清紡績社製のV−02等の市販されているものが使用できる。また、先に挙げたポリイソシアネート化合物をカルボジイミド化触媒として知られているホスホレンオキシドを用いてカルボジイミド化して、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得、これを用いて親水化させたものを使用することができる。
【0069】
上記カルボキシル基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記ポリカルボジイミド化合物に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。上記モル比が上記範囲外であると、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0070】
上記マイケル付加系としては特に限定されず、例えば、活性メチレン基及び/又は活性メチン基を有する化合物と、α,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物とからなる水性バインダー成分を挙げることができる。
【0071】
上記活性メチレン基及び/又は活性メチン基を有する化合物としては、例えば、アセト酢酸、マロン酸、シアノ酢酸、及び、これらの誘導体を挙げることができる。上記誘導体としては特に限定されず、例えば、ポリオールと、上述の化合物との反応生成物を挙げることができる。
【0072】
上記α,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物としては特に限定されず、例えば、1分子当たり2個以上のメタクリレート基及び/又はアクリレート基を有するもの、例えば、カルボニル基に関してα、β炭素間に二重結合があるメタクリレート基及び/又はアクリレート基を2個以上有するもの等を挙げることができる。具体的には、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができ、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキシルジメタノールジ(メタ)アクリレート、4,4’−イソプロピリデンジシクロヘキサノールジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5,2,1,0〕デカンジ(メタ)アクリレート、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)シアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等;アクリルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、エポキシポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタンポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂及びシリコーンポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂等を挙げることができる。
【0073】
上記活性メチレン基及び/又は活性メチン基を有する化合物に含まれる硬化官能基量と上記α,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物に含まれる不飽和結合とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10未満であると、未反応のα,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0074】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、有機高分子粒子を配合するものである。本発明の上記塗料組成物は、上記有機高分子粒子を添加剤として添加することにより、容易に低摩擦塗膜を形成することができるという優れた性質を有するものである。上記水性バインダー成分のみで使用した場合、充分な低摩擦性能を得ることができない。これに対して、上記有機高分子粒子を併用することにより、上記水性バインダー成分の機能を維持したままで、塗膜の水中における摩擦を低減することができるものである。
【0075】
上記有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上であり、粒径0.05〜100μmであることが好ましい。すなわち、高分子の化学構造に関わらず、上記性質を満足する有機高分子粒子を使用すると、所望の物性を得ることができる。
【0076】
なお、ここで溶解度及び吸水量の基準として使用したのは、ASTM D1141−98に規定された人工海水である。本発明の塗料組成物によって形成された塗膜は、主として海水中で使用されるものであることから、上記溶解度及び吸水量は、純水ではなく海水を基準として判断することが必要とされる。
【0077】
本発明における上記有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下のものであることが好ましい。上記溶解度が15g/Lを超えると、充分な低摩擦性能を発揮できないおそれがある。好ましくは、上記溶解度は、12g/L以下である。なお、上記溶解度は、有機高分子粒子を室温で減圧下乾燥後、秤量し、ASTM D1141−98に従い調製した人工海水への溶解度を測定した値である。
【0078】
上記有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上であることが好ましい。上記吸水量が、0.01質量%未満であると、海水との親和性が低いために充分な効果が得られず、摩擦の低減が抑制される。本発明で使用する有機高分子粒子は、水と接触したときに膨潤し、かつ水に対して溶解しないという性質を有するものであることから、好適に低摩擦性能を発揮することができるものである。好ましくは、上記吸水量は、0.1質量%以上である。
【0079】
なお、本発明における吸水量は、室温で真空下(減圧下)乾燥した有機高分子粒子1gを精秤し、ASTM D1141−98に従い調製した50gの人工海水中に添加した後、23℃で5時間攪拌し、その後濾別し、残渣を水洗し、秤量して求めた値である。
【0080】
更に、上記有機高分子粒子は、粒径が下限0.05μm、上限100μmの範囲内であることが好ましい。上記粒径が0.05μm未満であると、充分な摩擦低減効果を得ることができない。上記粒径が100μmを超えると、塗膜の表面状態が悪化するという問題が生じるおそれがある。上記下限は、0.1μmが好ましく、上記上限は、40μmが好ましい。更に好ましくは、1〜30μmである。なお、上記粒径は、下記の条件で測定したものであり、下記装置のマニュアルに記載の分布基準を体積と設定したときに出力される、粒径の平均値のことを指す。
装置名、メーカー:SALD−2200、島津製作所社製
測定用の分散媒:脱イオン水
【0081】
上記有機高分子粒子は、天然由来高分子であっても合成高分子であってもよい。上記有機高分子粒子は、適度な親水性官能基量を有し、必要に応じて架橋鎖を有するものであることが好ましい。上記親水性官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ポリオキシエチレン基等を挙げることができる。親水基を有することによって、高い吸水量を得ることができるが、親水性が高くなりすぎて、海水への溶解度が高くなりすぎる場合がある。親水性が高くなりすぎた場合には、疎水基を導入したり、架橋したりすることにより、人工海水への溶解度を調節することができる。
【0082】
本発明の有機高分子粒子として使用することができる天然由来高分子としては、例えば、キチン、キトサン、アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キタンサンガム、ジェランガム、セルロース、キシロース、デンプン、プルラン、ペクチン、ローストビーンガム、デキストラン、カードラン等の多糖類;ケラチン、コラーゲン、絹、γ−ポリグルタミン酸(以下、γ−PGAと記す)等のタンパク質:核酸等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらの天然由来高分子に対して加水分解、架橋反応等を行うことによって、親水化(例えばヒドロアルキル化)、ポリエチレングリコール化、疎水化(例えばアルキル化)、グラフト化、3次元化した半合成高分子等の誘導体化合物もこれらに含まれる。
【0083】
上記天然由来高分子は、カチオン性基を有することが好ましい。カチオン性基を有することによって、塗膜の海水中での摩擦低減効果がより得られやすくなる。上記カチオン性基としては特に限定されず、例えば、アミノ基、アミド基、ピリジン基等を挙げることができる。元来カチオン性基が存在する天然高分子を使用してもよいし、カチオン性基が存在しない高分子の場合は、当該高分子を誘導体化してカチオン性基を導入してもよい。
【0084】
上記有機高分子粒子としては、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の有機高分子粒子であることがより好ましい。
【0085】
上記キチンは、多糖類であり、この脱アセチル化物がキトサンである。上記脱アセチル化は、完全脱アセチル化であっても、部分脱アセチル化であってもよい。必要に応じてポリオキシエチレン、アルデヒド基含有化合物等によって、修飾又は架橋したものであってもよい。
【0086】
上記絹粉砕物とは、蚕が産生するまゆ糸である絹を粉砕して粒子化したものである。本発明においては、絹の主成分として含まれる天然由来高分子であるフィブロイン、セリシンが上述した作用を有すると推測される。
【0087】
本発明で使用する絹粉砕物は、天然の絹をそのまま粉砕したものであっても、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0088】
γ−PGAは、下記一般式(1);
【0089】
【化1】

【0090】
で表される高分子である。身近なものとしては、納豆菌が産生する粘りの主成分であり、高分子吸収体材料、生分解性材料、医療用材料、食品添加物、化粧品材料として注目を集めている高分子である。本発明において使用するγ−PGA粒子は、上記菌類が産生した天然由来のものを乾燥し、粒子化したものである。上記γ−PGA粒子は、必要に応じて雑成分の除去、加水分解、精製、分級等を行い粒子化したものであってもよい。
【0091】
本発明における上記有機高分子粒子としては、合成高分子を使用することもできる。上記合成高分子としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミン系樹脂、変性ポリビニルアルコール系樹脂等を挙げることができる。これらは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の親水性基を有する親水性樹脂であることが好ましく、必要に応じて一部架橋構造を有するものであっても良い。公知の方法によって、親水性/疎水性及び架橋比率を調整することにより、有機高分子粒子を得ることができる。
【0092】
上記合成高分子としては、特に、アクリル系樹脂粒子を好適に使用することができる。上記アクリル系樹脂粒子としては、例えば、アクリル系単量体と所望により架橋性単量体とからなる単量体組成物の乳化重合等によって得られたものであるアクリル系樹脂粒子を挙げることができる。
【0093】
上記アクリル系樹脂粒子は、例えば、アクリル系単量体と架橋性単量体とからなる単量体組成物を乳化重合することによって得ることができる。
上記アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アルリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
【0094】
上記乳化重合においては、その他のエチレン性不飽和単量体を使用してもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等を挙げることができる。上記アクリル系単量体及びエチレン性不飽和単量体は、単独で使用するものであっても、二種類以上を併用して使用するものであってもよい。
【0095】
上記架橋性単量体としては特に限定されず、例えば、分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体等を挙げることができる。
【0096】
上記アクリル系樹脂粒子の製造に使用することができる分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリメタクリレート等の多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物等を挙げることができる。
【0097】
上記単量体組成物において上記架橋性単量体は、単量体組成物全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。上記質量比が上記範囲外であると、所望のアクリル系樹脂粒子が得られないおそれがある。上記質量比は、より好ましくは、5〜70質量%である。
上記単量体組成物の重合方法としては特に限定されず、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の方法により行うことができる。
【0098】
上記有機高分子粒子は、2種以上の高分子からなる複合樹脂粒子であってもよい。ここでいう2種以上の高分子からなる複合樹脂粒子とは、上述したような各種天然由来高分子、合成高分子のうちの2種以上を粒子化したものであって、複合化の具体的手段としては特に限定されず、混合、グラフト化、コアシェル化、IPN(相互網目侵入構造)化、表面処理化等の任意の手法を挙げることができる。
【0099】
上記2種以上の高分子としては、特に限定されず、例えば、上述したような上記天然由来高分子及び上記合成高分子を挙げることができる。なかでも、デンプン、プルラン、アラビアノリ、κ−カラギーナン、ゼラチン、セルロース、キトサン及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の親水性樹脂と、アクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子であることが好ましい。このような組合せであると、アクリル系樹脂の組成によって、粒子の物性を所望によって変化させつつ、親水性を得ることができる点で好ましい。上記親水性樹脂及びアクリル系樹脂は、それぞれ単独では本発明の目的を達成することができないものを組み合わせることによって使用するものであってもよい。上記親水性樹脂としては、キトサン、キトサン誘導体、ポリビニルアルコールから選択される少なくとも1の樹脂を使用することが好ましい。
【0100】
上記親水性樹脂とアクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子は、例えば、上記親水性樹脂存在下で、アクリル系樹脂の原料単量体を、乳化重合又は懸濁重合させることによって得ることができる。重合時に使用する乳化剤としては、公知の乳化剤を使用することができるが、耐水性の観点から、反応性乳化剤が好ましい。上記反応性乳化剤としては、上述したものを挙げることができる。
【0101】
上記反応性乳化剤の添加量としては、15質量%以下であることが好ましい。15質量%を超えると、複合樹脂粒子を配合した塗料から得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0102】
上記複合樹脂粒子の合成において、アクリル系樹脂の原料である単量体組成物と親水性樹脂との混合比は、質量比(固形分)で40/60〜97/3であることが好ましい。
【0103】
本発明の塗料組成物における上記有機高分子粒子の配合量は、塗料中の全固形分に対して、下限0.01質量%、上限15質量%の範囲内であることが好ましい。上記配合量が0.01質量%未満であると、所望の効果が得られず好ましくない。上記配合量が15質量%を超えると、配合量に見合った水中摩擦低減効果が得られない場合がある。上記下限は、0.1質量%がより好ましく、上記上限は、12質量%がより好ましい。
なお、本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、上記有機高分子粒子を一種又は二種以上配合してもよい。
【0104】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、更に防汚剤を配合するものである。上記防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0105】
上記防汚剤としては特に限定されず、例えば、亜酸化銅、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルカーバーメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバーメート、ロダン銅、4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N′−ジメチル−N′−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩及び銅塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン塩、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、ラウリルアミン−トリフェニルボロン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらは組み合わせて使用することが、その機能を充分に発現させる点から好ましい。
【0106】
上記水性硬化型防汚塗料組成物において、上記防汚剤の配合量は、塗料固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%が好ましい。0.1質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。下限1質量%、上限60質量%であることがより好ましい。
【0107】
上記防汚剤は、水溶性分散樹脂と防汚剤とからなる防汚剤ペーストとして配合してもよい。このような防汚剤ペーストとすることにより、水中での防汚剤の放出が容易となり、優れた防汚性を得ることができる。ウレタン硬化系等の上述した特徴を有しない水性バインダー成分を使用する場合、上記防汚剤ペーストを使用することが好ましい。
【0108】
上記水溶性分散樹脂としては特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等公知の分散樹脂を使用することができるが、酸価が10〜300mgKOH/g、数平均分子量が1000〜20000の範囲内であることが好ましい。
【0109】
上記酸価が10mgKOH/g未満であると、水溶性が低下して安定性が損なわれることがある。一方、酸価が300mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高くなりすぎて、塗膜の耐水性が低下することがある。上記上限は、100mgKOH/gであることがより好ましい。
【0110】
上記数平均分子量が1000未満の場合、分子量が低すぎて充分に防汚剤を分散させることができないおそれがある。また、数平均分子量が20000を超える場合は、水溶性が確保できなくなったり、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になるおそれがある。上記下限は、5000であることがより好ましく、上記上限は、15000であることがより好ましい。
【0111】
上記水溶性分散樹脂としては、種々のものが存在するが、顔料分散剤として市販されているものを用いることができる。具体的な商品名としては、ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース41090(以上、アビシア社製)、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192(以上、ビックケミー社製)、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、EFKAケミカル社製)、フローレンG−700、フローレンTG−720、フローレン−730W、フローレン740W、フローレン−745W(以上、共栄社化学社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社製)等を挙げることができる。
【0112】
上記防汚剤ペーストにおいて上記水溶性分散樹脂と上記防汚剤の混合比は、固形分で1:99〜50:50の範囲内であることが好ましい。上記混合比が範囲外であると、防汚剤ペーストの分散粘度が高くなりすぎたり、防汚剤の分散性が低下したりして安定性が不充分となるおそれがある。
【0113】
また、上記防汚剤ペーストは、上述の成分以外に、後述する顔料、可塑剤等の慣用の添加剤を添加することができる。
上記防汚剤ペーストが顔料を含む場合は、顔料の配合率は50質量%以下であることが好ましい。
上記防汚剤ペーストは、例えば、上記水溶性分散樹脂と上記防汚剤とをサンドグラインダーミル等の顔料分散機を用いて混合する方法により得ることができる。
【0114】
上記防汚剤ペーストは、水性防汚塗料組成物における防汚剤の配合量が、塗料固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%の範囲内となるように配合することが好ましい。上記配合量が0.1質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。下限1質量%、上限60質量%であることがより好ましい。
【0115】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、上述の成分以外に、可塑剤、顔料等の慣用の添加剤を添加することができる。
上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルスズラウリレート、ジブチルスズラウリレート等の有機スズ系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
上記顔料としては、例えば、沈降性バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト等の体質顔料;酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化スズ、カーボンブラック、黒鉛、ベンガラ、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドン等の着色顔料等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0117】
上記のほか、その他の添加剤としては特に限定されず、例えば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳等;水結合剤、タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤等を挙げることができる。
【0118】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、水性バインダー成分、防汚剤、及び有機高分子粒子に、可塑剤、塗膜消耗調整剤、顔料等の慣用の添加剤を添加し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。また、防汚剤を防汚剤ペーストとして使用する場合、防汚剤と水溶性分散樹脂、更に、顔料、可塑剤、その他の添加剤を予めサンドグラインダーミル等を用いて混合した後、これらを水性バインダー成分及び有機高分子粒子と混合することにより上記塗料組成物を調製することができる。
【0119】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、不揮発分量が10〜90質量%であることが好ましい。上記不揮発分量が10質量%未満であると、厚膜化が困難となる場合がある。上記不揮発分量が90質量%を超えると、塗装時の粘度調整が困難となるおそれがある。
【0120】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、PWCが50〜90質量%であることが好ましい。上記PWCが50質量%未満であると、常温乾燥性が低下するおそれがある。一方、上記PWCが90質量%を超えると、造膜が困難になるおそれがある。
【0121】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、常法に従って被塗物の表面に塗布した後、常温下で水を揮散除去することによって乾燥塗膜を形成することができるものである。このようにして得られる塗膜は、水中構造物の汚染を抑制する効果を有するものである。上記水性硬化型防汚塗料組成物を塗布することにより得られる防汚性塗膜も本発明の1つであり、上記防汚性塗膜を有する水中構造物も本発明の一つである。
【0122】
上記防汚性塗膜は、例えば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装等の従来公知の方法により上記水性硬化型防汚塗料組成物を塗布することによって形成することができる。上記防汚性塗膜の乾燥膜厚は、下限30μm、上限500μmの範囲内であることが好ましい。上記乾燥膜厚が上記範囲内であると、耐水性と防汚性のバランスが良好であるため好ましい。
【0123】
上記防汚性塗膜における樹脂固形分と防汚剤との質量比は、特に限定されないが、1:7〜1:1であることが防汚効果の点から好ましい。また、硬化反応の逆反応の進行による自己研磨性を有する場合、上記防汚性塗膜に含まれる硬化官能基量は、樹脂固形分に対して0.00015〜8mmol/gの範囲内であることが耐水性及び防汚性の点から好ましい。なお、上記硬化官能基量は、塗料配合から計算されうるものである。
【0124】
このような防汚性塗膜を被塗物表面に形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法も本発明の一つである。上記被塗物は、必要に応じて前処理を行ったものでもよい。上記被塗物としては特に限定されず、優れた低摩擦性能を示す塗膜を形成することから、水中構造物であることが好ましい。
上記水中構造物としては特に限定されず、例えば、船舶、配管材料、漁網等を挙げることができる。
【0125】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、10〜30ノット程度の速度で走行する船舶に塗布した場合にも、良好な低摩擦性能を付与することができる点で、従来の塗料組成物よりも優れたものである。上記塗料組成物を塗布することによって、従来からの防汚塗料を塗布するのに対して2〜3%以上の摩擦抵抗を低減することができる。このように、本発明の上記塗料組成物は、特に船底塗料として航行燃費低減に著しく寄与することができる。
【0126】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、耐水性に優れ、かつ良好な防汚効果を有する。また、低摩擦性を有するため、航行燃費低減等の省エネルギー化に寄与することができるものである。
【発明の効果】
【0127】
本発明により、耐水性に優れ、良好な防汚効果を有し、かつ低摩擦性効果を有する塗膜を形成することができる水性硬化型防汚塗料組成物を得ることができた。上記水性硬化型防汚塗料組成物により得られる防汚性塗膜は、上述の効果を有するため、幅広く水中構造物に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0128】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0129】
製造例1
カルボニル含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部、メタクリル酸メチル30部、アクリル酸エチル20部、アクリル酸n−ブチル30部、スチレン9部、メタクリル酸1部からなるモノマー混合物を、イオン交換水60部とアクアロンHS−10(第一工業製薬社製アニオン系反応性乳化剤)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、モノマー混合物のプレエマルションを得た。また、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水17部に溶解させ、開始剤水溶液を得た。
【0130】
滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水70部にアクアロンHS−10を2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。次に、得られたプレエマルションと開始剤水溶液とを別個の滴下ロートから3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、同温度でさらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部とジメチルエタノールアミン1部とからなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られたカルボニル含有エマルション樹脂は、固形分40質量%、平均粒径が90nmであった。
【0131】
製造例2
アセトアセトキシ基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をアセトアセトキシエチルメタクリレート10部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてアセトアセトキシ基含有エマルション樹脂を得た。得られたアセトアセトキシ基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒径が90nmであった。
【0132】
製造例3
アルコキシシリル基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をKBM−503(信越化学社製メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)10部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてアルコキシシリル基含有エマルション樹脂を得た。得られたアルコキシシリル基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒径が90nmであった。
【0133】
製造例4
高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をグリシジルメタクリレートの大豆油脂肪酸付加体10部に変更したこと以外は製造例1と同様にして高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂を得た。得られた高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒径が90nmであった。
【0134】
製造例5
防汚剤ペーストの製造
脱イオン水20部に対し、亜酸化銅40部、ジンクピリチオン5部、亜鉛華5部、ベンガラ5部、タルク5部を加え、更に、顔料分散剤としてのBYK−190(ビックケミー社製)20部及び消泡剤としてBYK−019(ビックケミー社製)を加え、サンドグラインダーミルで分散することにより、固形分76.5質量%、PWC92%、粒度20μmの防汚剤ペーストを得た。
【0135】
製造例6
有機高分子粒子Aの製造方法
冷却管、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘプタン500gを加え80℃に加熱した。この溶液にメタクリル酸メチル30g、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=9)20g、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル25g、エチレングリコールジメタクリレート10g、VPE−0601(和光純薬株式会社製)7gを加え、7時間反応させ固形分濃度18%の有機高分子粒子分散液Aを得た。この分散液を遠心分離し、有機高分子粒子Aを得た。得られた有機高分子粒子Aの粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置(「SALD−2200」、商品名、島津製作所社製)にて測定すると、1.8μmであった。
【0136】
製造例7
有機高分子粒子Bの製造方法
γ−ポリグルタミン酸をジェット粉砕機で粉砕し、粒径4μmの有機高分子粒子Bを得た。
【0137】
製造例8、9
有機高分子粒子C及びDの製造方法
キチン(大日精化社製:キチンP)、及び、キトサン(甲陽ケミカル社製:SK−10)をそれぞれジェット粉砕機で粉砕し、粒径7μmのキチンからなる有機高分子粒子C、及び、粒径8μmのキトサンからなる有機高分子粒子Dをそれぞれ得た。
【0138】
製造例10
有機高分子粒子Eの製造方法
キトサン(「ダイキトサンVL」、NV100%、大日精化工業社製)7.0g、イオン交換水57.7g、アクリル酸5.3gを攪拌機で混合することでキトサン水溶液を得た。このキトサン水溶液70.0g、ER−20(旭電化社製ノニオン系反応性乳化剤)30.0gとイオン交換水162.6gからなる水溶液に、メタクリル酸メチル28.8g、メタクリル酸シクロヘキシル10.1g、アクリル酸2−エチルヘキシル40.6g、エチレングリコールジメタクリレート10.0gとパーロイルL(日本油脂社製過酸化物系ラジカル開始剤)4.0gの混合液を加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、懸濁液(懸濁粒径10μm)を得た。
滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、ヒドロキノン0.2g、ER−20(旭電化社製ノニオン系反応性乳化剤)9.0g、上記キトサン水溶液70.0gとイオン交換水262.2gを仕込み、窒素雰囲気下で70℃に昇温した。次に、得られた懸濁液356.1gを一括添加し、同温度で4時間反応を継続した後、重合反応終了と判断し、冷却して有機高分子粒子Eの分散液(固形分20質量%)を得た。この分散液から水分を除去して、有機高分子粒子Eのみを得ることもできた。上記有機高分子粒子Eの粒径は、15μmであった。
【0139】
製造例11
有機高分子粒子Fの製造方法
ポリエチレンオキサイド(PEO)(「PEO−1」、NV100%、住友精化社製)7.0g、イオン交換水57.7gを攪拌機で混合することでPEO水溶液を得た。このPEO水溶液64.7g、ER−20 30.0gとイオン交換水162.6gからなる水溶液に、メタクリル酸メチル42.1g、メタクリル酸n−ブチル21.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル26.4g、エチレングリコールジメタクリレート10.0gとパーロイルL(日本油脂社製過酸化物系ラジカル開始剤)4.0gの混合液を加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、懸濁液(懸濁粒径34μm)を得た。
滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、ヒドロキノン0.2g、ER−20(前出)9.0g、上記と同様のPEO水溶液64.7gとイオン交換水262.2gを仕込み、窒素雰囲気下で70℃に昇温した。次に、得られた懸濁液361.3gを一括添加し、同温度で4時間反応を継続した後、重合反応終了と判断し、冷却して有機高分子粒子Fの分散液(固形分20質量%)を得た。この分散液から水分を除去して、有機高分子粒子Fのみを得ることもできた。上記有機高分子粒子Fの粒径は、40μmであった。
【0140】
得られた有機高分子粒子A〜Fについて、以下の方法で人工海水への溶解度及び吸水量を測定した。
(溶解度及び吸水量)
室温で真空下(減圧下)乾燥した有機高分子粒子1gを精秤し、ASTM D1141−98に従い調製した50gの人工海水中に添加した後、23℃で5時間攪拌した。その後濾別し、残渣を水洗し、秤量して吸水量を求めた。
次に、室温で減圧下乾燥後、秤量し、海水への溶解度を求めた。結果を表1に示す。
【0141】
実施例1〜9、比較例1
表1に示した配合成分と、防汚剤ペーストと有機高分子粒子を順次加えて、これらをディスパーで分散することにより、水性硬化型防汚塗料組成物を得た。次に、得られた防汚塗料組成物を25℃におけるストーマー粘度計での粘度が90KUとなるようにイオン交換水にて粘度調整した。なお、表1の配合量の単位は、すべて「g」である。有機高分子粒子E及びFについては、各有機高分子粒子分散液を添加した。
【0142】
この防汚塗料組成物を、サンドペーパー(粒度240)で目荒らししたFRP板(100×300×3mm、ゲルコート処理あり)に、乾燥膜厚が400μmとなるように刷毛で塗装を行った。塗装後、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に1日放置することにより試験塗板を得た。
【0143】
得られた各試験塗板について、以下の基準により耐水性、及び、防汚性を評価した。
(耐水性及び防汚性)
試験塗板を岡山県玉野市・日本ペイントマリン株式会社臨海研究所において海中筏から水深1mに垂下浸漬し、6ヶ月後の塗膜の表面状態を目視にて観察した。結果を表1に示す。
耐水性に関しては以下の基準で評価した。
○:異常なし
△:わずかにフクレが見られる
×:全面にフクレが見られる
【0144】
防汚性については以下の基準で評価した。
◎:付着生物なし
〇:除去容易なスライムのみ付着
△:試験板面積の10%未満に動植物付着
×:試験板面積の10%以上50%未満に動植物付着あり
××:試験板面積の50%以上に動植物付着あり
【0145】
得られた水性硬化型防汚塗料組成物について、以下の方法で摩擦抵抗試験を評価した。
(摩擦抵抗試験)
直径10cm、高さ10cmの塩ビ製円筒ドラムに得られた塗料を塗布し、海水中で回転させ(Re:2500000及び4000000、速度換算で約15ノット及び約25ノット)、トルクメーターにより摩擦抵抗を測定した。バフ処理によって鏡面仕上げした平滑な塩ビ製円筒ドラムの摩擦抵抗を標準として測定し、それぞれの摩擦抵抗の増減を表1に示した。海水浸漬直後、及び、1ヶ月浸漬後の摩擦抵抗を評価した。
【0146】
【表1】

【0147】
表1により、実施例により得られた塗料によって形成された塗膜は、優れた低摩擦性能を示し、その効果は長時間維持されることが分かった。また、耐塗膜表面の状態も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、優れた耐水性及び防汚性を有し、水性でありかつ水中において低摩擦性能を有することによって環境への負荷を減らすことができる塗膜を形成することができる。従って、本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、幅広く水中構造物に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性を有する水性バインダー成分、有機高分子粒子及び防汚剤を配合し、
得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものであることを特徴とする水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項2】
硬化性は、水又は空気により制御されるものである請求項1記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項3】
水性バインダー成分の硬化したものは、水により分解するものである請求項1又は2記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項4】
水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化するものである請求項3記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項5】
水性バインダー成分は、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系及びアルコキシシリル縮合系のうち少なくとも一種の硬化系を有する請求項3又は4記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項6】
水性バインダー成分は、エマルション樹脂及び硬化剤からなり、前記エマルション樹脂は、前記硬化剤が有する官能基と反応しうる基を有するものである請求項3、4又は5記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項7】
水性バインダー成分の硬化したものは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有する請求項1又は2記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項8】
水性バインダー成分は、酸化重合により硬化するものである請求項7記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項9】
酸化重合は、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものである請求項8記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項10】
水性バインダー成分は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂及びドライヤーからなる請求項9記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項11】
エマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体の共重合体である請求項10記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項12】
水性バインダー成分は、付加反応により硬化するものである請求項1又は2記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項13】
防汚剤は、酸価が10〜300mgKOH/gであり、数平均分子量が1000〜20000である水溶性分散樹脂と前記防汚剤とを配合する防汚剤ペーストとして配合される請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項14】
防汚剤ペーストにおける水溶性分散樹脂と防汚剤との固形分質量比が1/99〜50/50である請求項13記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項15】
有機高分子粒子は、ASTM D1141−98に規定された人工海水への23℃での溶解度が15g/L以下であり、ASTM D1141−98に規定された人工海水の吸水量が0.01質量%以上であり、粒径0.05〜100μmである請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項16】
有機高分子粒子は、天然由来高分子である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項17】
有機高分子粒子は、カチオン性基を有する請求項16記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項18】
有機高分子粒子は、粒径0.05〜100μmであり、キチン、キトサン、γ−PGA、絹粉砕物及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種からなる有機高分子粒子である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項19】
有機高分子粒子は、合成高分子である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項20】
有機高分子粒子は、アクリル系樹脂粒子である請求項19記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項21】
有機高分子粒子は、デンプン、プルラン、アラビアノリ、κ−カラギーナン、ゼラチン、セルロース、キトサン及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の親水性樹脂と、アクリル系樹脂とからなる複合樹脂粒子である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項22】
有機高分子粒子の配合量は、塗料固形分に対して0.01〜15質量%である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項23】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22記載の水性硬化型防汚塗料組成物により得られることを特徴とする防汚性塗膜。
【請求項24】
請求項23記載の防汚性塗膜を有することを特徴とする水中構造物。
【請求項25】
被塗物表面に、請求項24記載の塗膜を形成させる工程からなることを特徴とする水中摩擦低減方法。

【公開番号】特開2007−169449(P2007−169449A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368799(P2005−368799)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】