説明

水性腐食に対して抵抗性であるタンタルを基礎とする合金

タンタル又はタンタル合金であって純粋な又は実質的に純粋なタンタル及びタンタル合金を形成すべくRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びReからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含有し、水性腐食に対して抵抗性のあるタンタル又はタンタル合金。本発明は、このタンタル合金の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2007年4月27日付けで出願された米国仮出願第60/914,474号に対する利益を主張し、前記出願を全ての有用な目的のためにこの全体において参照により組み込む。
【0002】
技術分野
本発明は、水性腐食、特に酸からの腐食に対して抵抗性であり、かつ、水素脆化に対して抵抗性であるタンタル又はタンタルを基礎とする合金に関する。このタンタル又はタンタルを基礎とする合金は、純粋なタンタル及びTa−3W(「NRC76」と呼ぶ)に比較して水素吸収に対してより優れた抵抗性(及び引き続く水素脆化)を有する。
【0003】
背景技術
純粋なタンタル又はタンタル合金は、100ppmよりも大きい水素濃度で顕著に水素脆化するようになる。化学プロセス工業(CPI)においては、純粋なタンタルは、図2及び3に示される条件下で、加熱HCl及び加熱H2SO4に曝した場合に、水素を吸収し、脆化する。Ta−3Wは、純粋なタンタルに比較して水素吸収に対するより良好な抵抗性を実証する。CPIにおいてタンタル及びタンタル合金が使用されると極めて熱くかつ濃縮された酸を含むようになり、水素脆化は、腐食のための壁圧の損失よりはむしろ、圧倒的な欠陥機構である。
【0004】
米国特許第4,784, 830号は、合金の酸化抵抗性が、窒素の制御された添加及び維持により改善されることができることを開示する。言い換えると、考慮される種類の合金の微細構造、特に粒度は、窒素のマイクロ合金化添加を通じて高められた温度で延長された期間にわたり制御されるか又は比較的構造的に安定にされることができることが見出されている。付加的に、かつ、最も有利には、本願明細書で示されるように、延長された使用期間の探求においてはケイ素対タンタルの特殊な比が観察されるべきである。
【0005】
米国特許第3,592,639号は、タングステン1.5〜3.5%を含有する三元Ta−W合金に関する。ニオブ0.05〜0.5質量%もこの合金中に存在することができる。モリブテンは、合金中でのより小さい粒度を促進するために最高で0.5%(5000ppm未満)に限定される。
【0006】
米国特許第4,062,679号は、100万につきコロンビウム300部未満、100万につき鉄、クロム及びニッケルを組み合わせて200部未満、100万につきタングステン50部未満、100万につきモリブデン10部未満、100万につきクロム30部未満、100万につきカルシウム20部未満を含有する実質的に純粋なタンタルの錬鉄タンタル生成物を請求し、この改良品は、前記生成物の組成において100万につきケイ素約50〜約700部の挿入を含み、これにより前記生成物は、酸素含有環境中で高められた温度に曝された場合に、脆化に対する抵抗性において改善されている。
【0007】
発明の要約
本発明は、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びReからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を、純粋な又は実質的に純粋なタンタル又はタンタル合金と一緒にマイクロ合金化(microalloying)することによる水素脆化抵抗性を改善する方法に関する。
【0008】
本発明の有利な一実施態様は、NRC76に対する白金の添加である。化学的プロセス工業は、この方法装置においてより高温の操作温度を可能にする新規のタンタル合金を探求している。
【0009】
本発明の主題は、水性腐食及び水素脆化に対してより抵抗性である改善されたタンタル合金を提供することである。
【0010】
純粋な又は実質的に純粋なタンタル又はタンタル合金及びタンタル合金を形成すべくRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びReからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含有し、水性腐食に対して抵抗性のある、タンタル合金。
【0011】
金属元素は、タンタル中の金属の溶解限度までの量において存在することができる。
【0012】
図面の簡単な説明
図1は、モリブデンの添加を説明し、というのは、タンタル及びタングステンの両者において、モリブデンは同じ結晶構造、類似の格子定数、及び、完全な固体溶解度を有するからである。
【0013】
図2は、純粋なタンタルが、熱いHClに対して曝された場合に、水素を吸収し、かつ、脆化する、化学的プロセス工業のための条件を説明する。
【0014】
図3は、純粋なタンタルが、熱いH2SO4に対して曝された場合に、水素を吸収し、かつ、脆化する、化学的プロセス工業のための条件を説明する。
【0015】
図4は、塩酸中の短期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【0016】
図5は、塩酸中の長期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【0017】
図6は、硫酸中の長期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【0018】
発明の詳細な説明
本願明細書で使用される場合には、単数形「a」及び「the」との用語は同義に使用され、かつ、「1種又はそれ以上の」との用語と相互に交換可能に使用される。従って、例えば、本願明細書又は添付される特許請求の範囲中で「金属」との言及は、1種の金属又は1種より多い金属を意味する。更に、全ての数値は、他に特に記載がなければ、「約」との用語により変更されることを理解されるべきである。
【0019】
水性腐食に対して抵抗性のあるタンタル又はタンタルを基礎とする合金は、より有利には、酸からの腐食及び水素脆化に対して抵抗性がある。この出発タンタルは、純粋な又は実質的に純粋なタンタルである。実質的に純粋なタンタルは、非タンタル成分約11質量%までを有するタンタル合金である。
【0020】
タンタル又はタンタルを基礎とする合金は有利には、真空溶解プロセスを使用して製造される。真空アーク再溶解(VAR)、電子線溶解(EBM)又はプラズマアーク溶解(PAM)は、真空溶解の方法であり、合金化のために使用されることもできる。実際の合金を処方するためには、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、モリブデン、タングステン及びルテニウム(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びRe)からなる群から選択される少なくとも1種の元素が、上記した真空溶解プロセスの1つを用いて、純粋なタンタル材料又は実質的に純粋なタンタル材料又はタンタル合金に添加される。タンタル合金は有利には、白金、モリブデン又はレニウム又はこれらの混合物を有するタングステンを含有する。VAR、EBM又はPAM全てが使用できるが有利な技術がVARであることに留意されたい。
【0021】
本発明の選択的な実施態様は、腐食及び水素脆化抵抗性を改善する、上記した元素の他の元素を添加することを含むことができる。この付加的な元素は、イットリウム、金、セリウム、プラセオジウム、ネオジム、及び、トリウムを含むことができる。
【0022】
前記金属のそれぞれは、有利には合金の10000ppm未満、有利には合金の全量の5000ppm未満、より有利には合金の全量の2000ppm未満である。この金属は有利には、少なくとも50ppm、有利には少なくとも100ppm、有利には少なくとも150ppm、有利には少なくとも200ppm、有利には少なくとも250ppmの量で添加される。
【0023】
少なくとも89%のタンタルを含有するタンタル合金の例は、約3%のタングステンを含有するTa−3W(タンタル−タングステン)約3%のタングステンを含有するTa−3W−Pt(タンタル−タングステン及び白金合金)、約3%のタングステンを含有するタンタルTa−3W−Mo(タンタル−タングステン及びモリブデン合金)、及び、約3%のタングステンを含有するTa−3W−Re合金(タンタル−タングステン及びレニウム合金)を含むがこれらに限定されない。このTa−3W−Pt、Ta−3W−Mo及びTa−3W−Reは、Ta−3W合金を製造するために使用されるのと類似の様式で処方かつ製造される。この合金は有利には、他の金属をTa−3W(タンタル−タングステン)合金とをマイクロ合金化することにより製造される。
【0024】
白金の添加は、最も有利な一実施態様であり、というのは、白金は遊離電子の多くの数を有し、この電子は、Ta25酸化物層中の孔を塞ぐために付加的な酸素原子を理論的に引き込み、かつ/又は、低い水素過電圧の部位を提供し、これによりTa25酸化物層を安定化するからである。
【0025】
他の有利な実施態様は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム(「白金族金属」、PGMとして公知である)の添加の使用であり、これによっても、少ない水素過電圧の部位が提供され、これによりTa25酸化物層が安定化される。
【0026】
また別の有利な実施態様は、モリブデンの添加の使用であり、というのは、タンタル及びタングステンの両者において、モリブデンは同じ結晶構造、類似の格子定数、及び、完全な固体溶解度を有するからである。これは第I表及び図1中に示されている。
【0027】
第I表−耐火元素のための結晶構造及び格子定数
【表1】

【0028】
別の有利な実施態様は、レニウムの添加の使用であり、というのは、レニウムは、タンタル及びタングステンと同じ結晶構造及び類似の格子定数を有するからである。
【0029】
VAR又はPAMを使用して処方されるタンタルインゴットは次いで、プレート、シート、及び管状製品を純粋なタンタル又はTa−3W合金から同じ製品を製造するために使用されるのと同じ様式で製造するために使用される。
【0030】
Ta−3W−Mo、Ta−3W−Re又はTa−3W−Pt合金を使用して製造されたプレート、シート及び管状製品は、純粋なタンタル又はTa−3W合金からのものと同じ様式で使用される。
【0031】
新規合金の利点は、純粋なTa−3Wに対する優れた腐食及び水素脆化抵抗性であろう。白金の添加は、有利な一実施態様であり、というのは、白金は遊離電子の多くの数を有し、この電子は、付加的な酸素原子を理論的に引き込み、Ta25酸化物層中の孔をふさぐのに役立ち、かつ/又は、低い水素加電圧の部位を提供し、これによりTa25酸化物層を安定化するからである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、モリブデンの添加を説明し、というのは、タンタル及びタングステンの両者において、モリブデンは同じ結晶構造、類似の格子定数、及び、完全な固体溶解度を有するからである。
【図2】図2は、純粋なタンタルが、熱いHClに対して曝された場合に、水素を吸収し、かつ、脆化する、化学的プロセス工業のための条件を説明する。
【図3】図3は、純粋なタンタルが、熱いH2SO4に対して曝された場合に、水素を吸収し、かつ、脆化する、化学的プロセス工業のための条件を説明する。
【図4】図4は、塩酸中の短期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【図5】図5は、塩酸中の長期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【図6】図6は、硫酸中の長期間の腐食試験後の腐食速度及び水素富化についての結果を説明する。
【0033】
レーザー付加製造(laser additive manufacturing)(LAM)又は典型的な真空アーク再溶解(vacuum arc remeltiing)(VAR)技術のいずれかを用いて試料が製造された。最初の技術においては、タンタル、タングステン及び白金粉末を、所望の組成において一緒にブレンドし、次いで不活性条件下で使用して溶解かつレーザーを使用して圧縮する。この試料においては最終的なタンタル合金は、500ppmの白金と一緒にタングステン2.8質量%を含有した。後者の技術においては、タンタル及び白金粉末を一緒に所望の組成においてブレンドし、粉末リーチ(powder leech)中でプレス処理し、NRC76バーの側で溶接した(この組立体を、本願明細書では「電極」と呼ぶ)。この電極を次いで慣用の真空アーク再溶解(VAR)技術を使用して溶解した。この試料においては、この最終的なタンタル合金は、10000ppmまでの白金と一緒に、タングステン2.8質量%を含有した。
【0034】
塩酸及び硫酸中での腐食試験を、4ヶ月まで実施した。白金改変した合金は、NRC76よりも常に低い速度の腐食速度を有し、かつ、水素富化は殆ど生じなかった。
【0035】
図4は、塩酸中での短期間の腐食試験についての結果を示す。白金含有合金は、NRC76合金に比較して顕著により少ない腐食速度を有する。この腐植速度は、NRC76について、白金濃度が約1000ppmを超える場合に年間約16マイル(mpy)から4mpy未満に減少される。更に、試験後の水素濃度は、白金濃度が約1000ppm〜10000ppmである場合に、291ppmから4ppm未満に減少した。
【0036】
図5は、塩酸中での長期間の腐食試験についての結果を示す。白金含有合金は、白金濃度が1000ppmを超える場合に、NRC76合金よりも3倍より低い腐食速度を有した。更に、試験後の水素濃度は、白金濃度が約1000ppmより大であった場合に、756ppmから10ppm未満に減少した。
【0037】
図6は、硫酸中での長期間の腐食試験についての結果を示す。合金を含有する白金は、NRC76合金に比較して顕著により少ない腐食速度を有する。腐食速度は、白金濃度が約1500ppmを超える場合には、NRC76については年間約9.2マイル(mpy)から4mpy未満に減少した。更に、試験後の水素濃度は、白金濃度が約1000ppmより大であった場合に、9ppmから2ppm未満に減少した。
【0038】
上で説明された全ての文献は、全ての有用な目的のために全体において参照により組み込まれる。
【0039】
本発明を具現化するある特定の構造が示されかつ説明されているにもかかわらず、当業者にはこの部分の様々な改変及び再配置が本発明の概念の根底をなす精神及び範囲から逸脱することなく可能であり、かつ、本発明の精神及び範囲が本願明細書で示されかつ説明された特定の形態に限定されないことが明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋な又は実質的に純粋なタンタル又はタンタル合金及びタンタル合金を形成するためのRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びReからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含有し、水性腐食に対して抵抗性のある、タンタル合金。
【請求項2】
タンタル合金が、Ta−3Wである、請求項1記載のタンタル合金。
【請求項3】
金属元素が白金である、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項4】
金属元素がルテニウム又はロジウム又はパラジウム又はオスミウム又はイリジウムである、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項5】
金属元素がモリブテン又はレニウムである、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項6】
金属元素が、合金中10000ppm未満の量で存在する、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項7】
金属元素が、合金中5000ppm未満の量で存在する、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項8】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項2記載のタンタル合金。
【請求項9】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項3記載のタンタル合金。
【請求項10】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項4記載のタンタル合金。
【請求項11】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項4記載のタンタル合金。
【請求項12】
純粋な又は実質的に純粋なタンタル及びRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Mo、W及びReからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素をマイクロ合金化することを含む、水性腐食に対して抵抗性である請求項1記載のタンタル合金の製造方法。
【請求項13】
タンタル合金が、Ta−3Wである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
金属元素が白金である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
金属元素がルテニウム又はロジウム又はパラジウム又はオスミウム又はイリジウムである、請求項12記載の方法。
【請求項16】
金属元素がモリブテン又はレニウムである、請求項12記載の方法。
【請求項17】
金属元素が、合金中10000ppm未満の量で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項18】
金属元素が、合金中5000ppm未満の量で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項19】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項20】
金属元素が、合金中2000ppm未満の量で存在する、請求項13記載の方法。
【請求項21】
金属元素が、合金中少なくとも150ppmの量で存在する、請求項13記載の方法。
【請求項22】
合金をレーザー付加製造(LAM)、真空アーク再溶解(VAR)、電子線溶解(EBM)又はプラズマアーク溶解(PAM)を用いて製造する、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−525177(P2010−525177A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506493(P2010−506493)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/061436
【国際公開番号】WO2008/134439
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(503153986)ハー ツェー シュタルク インコーポレイテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck, Inc.
【住所又は居所原語表記】45 Industrial Place, Newton, MA 02461, USA
【Fターム(参考)】