説明

水性被覆剤

【課題】 造膜助剤、凍結防止剤などの揮発性有機化合物を使用しなくても低温造膜性に優れ、且つ耐ブロッキング性に優れ、更に低温安定性に優れる水性被覆剤を提供すること。
【解決手段】 ガラス転移温度が80〜120℃、好ましくは90〜105℃のビニル重合体(A)及びガラス転移温度が−20〜20℃、好ましくは−10〜10℃のビニル重合体(B)が水性媒体中に分散してなり、かつ、ガラス転移温度が40〜130℃で、酸価が70〜250mgKOH/g、好ましくはガラス転移温度が90〜120℃で、酸価が70〜150mgKOH/gのビニル重合体又はそのアルカリ中和物(C)が前記水性媒体中に溶解してなり、好ましくは260℃以下の沸点を有する揮発性有機化合物(D)の含有率が0もしくは1重量%以下である水性被覆剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系基材、有機系基材、金属基材等の各種基材に適用可能な水性被覆剤に関し、造膜助剤、凍結防止剤等を添加しなくても低温での造膜性、低温安定性が良好で、かつ耐ブロッキング性に優れる水性被覆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護、労働衛生上の観点より各種被覆剤において溶剤系から水系への移行が進められている。建築塗料分野においては以前から水性被覆剤であるエマルジョン塗料が主流であるが、最近、建築資材、副資材等に含まれる極微量の揮発性有機化合物に起因する健康障害が問題となっており、これらの削除または減量が急務となっている。
【0003】
エマルジョン塗料は溶剤系塗料と比べると揮発性有機化合物の含有量は遙かに少ない。しかし、現状のエマルジョン塗料中には造膜助剤、凍結防止剤等として揮発性有機化合物が塗料中に数重量パーセント、多い場合には十数重量%含まれているのが現実である。
【0004】
かかる状況下、健康障害の観点から、これら揮発性有機化合物が低減された、または含まないエマルジョン塗料が望まれている。この要求を満足するためには造膜助剤非含有でも冬場に造膜する、即ち低温造膜性を有し、且つ凍結防止剤を用いなくても低温安定性(凍結融解安定性)を有するエマルジョンの開発が不可欠である。造膜助剤非含有で且つ低温で造膜させるためにはエマルジョン樹脂を軟質化、即ち最低造膜温度が0℃以下のエマルジョン樹脂を用いることにより達成することはできる。しかし、エマルジョン樹脂を軟質化すると耐ブロッキング性が悪くなり、その結果としてエマルジョン塗料としたときに汚染性が悪くなる。また、この手法では低温安定性の改善効果は期待できない。
【0005】
そこで耐ブロッキング性を保持しつつ造膜助剤非含有で低温造膜性を有し、且つ凍結防止剤非含有でも低温安定性を有するエマルジョン樹脂の開発が急務であり、盛んに検討がなされており、例えば、35〜120℃のガラス転移温度を有する最内層、−65〜0℃のガラス転移温度を有する中間層、35〜120℃のガラス転移温度を有し、かつ4〜80mgKOH/gの酸価を有する最外層から構成される多層構造エマルジョンポリマーを用いることにより低温造膜性と耐ブロッキング性を両立することができることが、報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
前記特許文献1は確かに高ガラス転移温度成分で耐ブロッキング性を付与し、且つ低ガラス転移温度成分で低温造膜性を付与できることから、耐ブロッキング性/低温造膜性のバランスは改善されているが、未だ充分ではない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−059623公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、造膜助剤、凍結防止剤などの揮発性有機化合物を使用しなくても低温造膜性に優れ、且つ耐ブロッキング性に優れ、更に低温安定性に優れる水性被覆剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ガラス転移温度80〜120℃という高ガラス転移温度のビニル重合体とガラス転移温度−20〜20℃という低ガラス転移温度のビニル重合体(B)がいずれもが分散している水性分散体中に、ガラス転移温度が40〜130℃で、酸価が70〜250mgKOH/gのビニル重合体又はそのアルカリ中和物を溶解させてなる水性被覆剤は、造膜助剤、凍結防止剤などの沸点260℃以下の揮発性有機化合物の含有量が1重量%以下であっても、低温造膜性に優れ、かつ耐ブロッキング性に優れ、更に低温安定性も優れることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ガラス転移温度が80〜120℃のビニル重合体(A)及びガラス転移温度が−20〜20℃のビニル重合体(B)が水性媒体中に分散してなり、かつ、ガラス転移温度が40〜130℃で、酸価が70〜250mgKOH/gのビニル重合体又はそのアルカリ中和物(C)が前記水性媒体中に溶解してなることを特徴とする水性被覆剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性被覆剤は、造膜助剤、凍結防止剤等の揮発性有機化合物の含有量を1重量%以下の少量とした場合や、全く含有しない場合であっても、低温造膜性を有し、かつ耐ブロックング性が良好で、更には低温安定性も優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明の詳細について述べる。
本発明で用いるビニル重合体(A)は、ガラス転移温度が80〜120℃のビニル重合体であって、乳化剤の存在下又は非存在下で水性媒体中に分散可能なものであれば良く、例えば、この条件に合致するようにビニル単量体(a)を単独もしくは組み合わせで適宜選択して合成することで得られる。このようなビニル重合体(A)のなかでも、耐ブロッキング性と低温造膜性のバランスのより優れる水性被覆剤が得られることから、ガラス転移温度が90〜105℃のビニル重合体が好ましい。
【0013】
前記ビニル重合体(A)の合成に用いるビニル単量体(a)としては、各種のビニル単量体を用いることができ、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸のエステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体類;ビニルピロリドンの如き複素環式ビニル単量体類;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン等のジエン類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等の不飽和カルボン酸のアミド類;グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有ビニル単量体;2−ヒドロキシルエチルメタクリレート、2−ヒドロキシルエチルアクリレート等の水酸基含有ビニル単量体;ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有ビニル単量体;N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸の置換アミド;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物;ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートの如き1分子中に2個以上の不飽和結合を有するビニル単量体などが挙げられる。
【0014】
このようなビニル単量体(a)を用いて得られるビニル重合体(A)の中でも、メタクリル酸メチル及び/又はスチレンを主要な単量体成分とした共重合体、例えば、メタクリル酸メチル及び/又はスチレンを合成に用いる全ビニル単量体の80重量%以上となる割合で用いて得られるビニル共重合体が、耐ブロッキング性と低温造膜性のバランスに優れる水性被覆剤が得られることから、好ましい。
【0015】
本発明で用いるビニル重合体(B)は、ガラス転移温度が−20〜20℃のビニル重合体であって、乳化剤の存在下又は非存在下で水性媒体中に分散可能なものであれば良く、例えば、この条件に合致するように前記ビニル単量体(a)を単独もしくは組み合わせで適宜選択して合成することで得られる。このようなビニル重合体(B)のなかでも、耐ブロッキング性と低温造膜性のバランスのより優れる水性被覆剤が得られることから、ガラス転移温度が−10〜10℃のビニル重合体が好ましい。
【0016】
このようなビニル単量体(a)を用いて得られるビニル重合体(B)の中でも、耐水性等の耐久性に優れる水性被覆剤が得られることから、カルボキシル基と反応性を有する官能基を有するビニル単量体を、合成に用いるビニル単量体成分の一部としてとして使用してなるアクリル重合体であることが好ましい。前記カルボキシル基と反応性を有する官能基を有するビニル単量体としては、カルボキシル基と反応性を有するものであれば良く、特に制限はないが、耐久性により優れる水性被覆剤が得られることから、グリシジル基を有するビニル単量体が好ましい。グリシジル基を有するエチレン性不飽和単量体の使用量としてはアクリル重合体(B)の合成に用いるビニル単量体の全量100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、なかでも低温造膜性を低下させることなく耐水性を始めとする耐久性を向上させることができることから、0.2〜3重量部の範囲であることがより好ましい。
【0017】
更に、本発明で用いるビニル重合体又はそのアルカリ中和物(C)は、ガラス転移温度が40〜130℃で、酸価が70〜250mgKOH/gの範囲のビニル重合体又はそのアルカリ中和物であって、かつ、水溶性のものであれば良く、例えば、この条件に合致するように前記ビニル単量体(a)を単独もしくは組み合わせで適宜選択して合成することで得られるが、アルカリ中和前の酸価が70〜250mgKOH/gであることが必須条件であることから、カルボキシル基含有ビニル単量体は必須成分であり、なかでもカルボキシル基含有ビニル単量体としてアクリル酸及び/又はメタクリル酸を用いて得られるものが好ましい。このようなアルカリ中和前のビニル重合体のなかでも、耐ブロッキング性と低温造膜性のバランスのより優れる水性被覆剤が得られることから、ガラス転移温度が90〜120℃のビニル重合体が好ましく、また、耐水性のより優れる水性被覆剤が得られることから、酸価が70〜150mgKOH/gの範囲のビニル重合体が好ましい。
【0018】
なお、前記アクリル重合体のアルカリ中和物を得るのに用いるアルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア(水)、ジメチルエタノールアミン、2−アミノ2−メチル1−プロパノール、ジエタノールアミン等の水溶性有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ物質等が挙げられ、なかでも耐水性に優れ、VOC量の低減が容易で耐水性に優れる水性被覆剤が得られることからアンモニア水が好ましい。
【0019】
前記アクリル重合体(A)とアクリル重合体(B)の重合方法は、特に制限はなく、最終的に水性媒体中に分散できるものであればかまわない。具体的には、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを挙げることができるが、溶剤成分を全く含まない製造方法であり、かつ簡便であることから、懸濁重合、乳化重合が好ましく、更に塗膜物性に優れる水性被覆剤が得られることから乳化重合がより好ましい。
【0020】
乳化重合の一例を挙げると、ビニル単量体の全量100重量部に対して、ラジカル重合開始剤0.01〜10重量部と、水性媒体50〜10,000重量部を使用して乳化剤の存在下、0〜100℃で重合することができる。また、ラジカル重合開始剤と還元剤を併用するレドックス重合にても行うことができ、この場合の還元剤の使用量はビニル単量体の全量100重量部に対して0.01〜10重量部である。この際、鉄イオンや銅イオン等の多価金属塩イオンを生成する化合物を促進剤として併用することも可能である。
【0021】
ビニル単量体を乳化重合するにおいて一般的には乳化剤を用いるが、ここで使用する乳化剤に特に制約は無く、一般的に乳化重合反応において用いられるものであれば如何なるものでも用いることができる。一例を挙げるとすると、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等のアニオン乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤等を挙げることができる。
【0022】
また、ビニルスルホン酸塩類、アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸塩類、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸塩類、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸塩類等のアニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンメタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などの反応性乳化剤も用いることができる。勿論、これらの乳化剤を複数種用いることも可能である。
【0023】
勿論乳化剤の種類については上記構造に制約されるものではなく、如何なるものでも用いることができ、一般的に市販されているものを用いることができる。
【0024】
また、最近乳化剤を用いずに乳化重合する方法、即ちソープフリー重合が頻繁に行われているが、この方法で重合された水性分散体を使用することもできる。
【0025】
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル及びその塩酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。また、これらラジカル開始剤と併用可能な還元剤としては、例えば、ナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、L−アスコルビン酸等が挙げられる。さらに、メルカプタン類、アルコール系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤、芳香族系有機溶剤等を分子量調整剤として併用することも可能である。但し、揮発性有機溶剤はできるだけ含まないことが環境保護、労働衛生の観点から好ましい。
【0026】
アクリル重合体(A)とアクリル重合体(B)は、それぞれ別々に製造されたものをブレンドしたものでもかまわないが、低温造膜性の観点からアクリル重合体(A)の存在下でアクリル重合体(B)を乳化重合したものであるほうが好ましい。この場合、アクリル重合体(A)とアクリル重合体(B)を連続的に製造したものであってもかまわない。
【0027】
アクリル重合体又はそのアルカリ中和物(C)の製造方法は、特に制約はないが、例えば、有機溶剤中で溶液重合した後に脱溶剤する方法、無溶剤で重合する方法、懸濁重合で行う方法、連鎖移動剤存在下で乳化重合する方法、水溶液重合する方法等を挙げることができ、また必要に応じて、加圧下で重合したものであってもかまわない。なお、アクリル重合体のアルカリ中和物は、通常製造後のアクリル重合体にアルカリ性化合物を接触させて得られるが、中和されたカルボキシル基を有するビニル単量体を用いて重合したものであっても良い。
【0028】
本発明において、アクリル樹脂のガラス転移温度は、一般的に良く知られている下記に示すフォックスの式で計算される値である。その計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)を下記に示す。下記にホモポリマーのガラス転移温度(Tg)の記載のないものは、一般的に文献に記載されている値を用いることができる。また、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査式熱量測定法や動的粘弾性測定法を用いて測定することによって求めることもできる。
【0029】
〔フォックスの式〕
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
Tg:重合体のガラス転移温度(絶対温度)
Wn:単量体nの重量分率
Tgn:単量体nのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)
【0030】
〔ホモポリマーのTg〕
アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)のホモポリマー:−55.3℃
アクリル酸ブチル(BA)のホモポリマー:−45.4℃
メタクリル酸メチル(MMA)のホモポリマー:104.2℃
スチレン(St)のホモポリマー:100.0℃
メタクリル酸(MAA)のホモポリマー:143.5℃
アクリル酸(AA)のホモポリマー:86.6℃
メタクリル酸グリシジル(GMA)のホモポリマー:46.3℃
【0031】
また、本発明の水性被覆剤は、必要に応じて、顔料、充填剤、骨材、分散剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を配合することも可能である。また、本発明の水性被覆剤には、必要に応じて260℃以下の沸点を有する揮発性有機化合物(D)、例えば造膜助剤や凍結防止剤を添加することも可能であるが、その含有量は水性被覆剤全量中における含有率が1重量%以下となる範囲内であることが好ましい。
【0032】
前記260℃以下の沸点を有する揮発性有機化合物(D)としては、例えば、2,2−トリメチル1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2−トリメチル1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール等のグリコールエーテル系やグリコールエステル系等の造膜助剤;エチレングルコール、プロピレングリコール等の凍結防止剤などが挙げられる。
【0033】
また、ビニル重合体(B)にカルボキシル基と反応性を有する官能基を有するエチレン性不飽和単量体を用いた場合、例えばメタクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有不飽和単量体を単量体成分の一部として使用した場合、カルボキシル基とビニル重合体(B)中に導入した官能基、例えばグリシジル基との反応を促進させるべく、促進剤を用いることも有効な手段と成る。
【0034】
常乾型建築用塗料の場合、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの顔料類を分散剤等を用いて微分散した顔料ペーストを水性被覆剤でレットダウンし、必要に応じて増粘剤、防腐剤等を添加することにより常乾型建築塗料用被覆剤を得ることができる。
【0035】
もちろん本発明は上記常乾型建築塗料用被覆剤に限定されるものではなく、各種基材に対する被覆剤に用いることができ、また常乾に限定されるものではなく、強制乾燥下でも用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに制限されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」はいずれも重量基準である。
【0037】
製造例1〔ビニル重合体(A)の製造例〕
メタクリル酸メチル(以下、MMAと略す。)294部及びメタクリル酸(以下、MAAと略す。)6部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF〔日本乳化剤(株)製アニオン乳化剤、有効成分30%〕30部及びレオコールTD−90〔ライオン(株)製ノニオン乳化剤〕1.5部をイオン交換水60部に溶解せしめた乳化剤水溶液中に分散させることによりモノマーエマルジョンを作製した。また、過硫酸アンモニウム1.2部をイオン交換水24部に溶解させ、開始剤水溶液を作製した。
【0038】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器に、イオン交換水245部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョン及び開始剤水溶液を反応容器中にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、重合を行った。滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.3部を添加し、更に2時間撹拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45.0%となるように調整した後に取り出し、ガラス転移温度(Tg)105℃のビニル重合体(A1)の水性分散体(平均粒子径0.20μm/光散乱型粒度分布測定器で測定、以下同様。)を得た。
【0039】
製造例2〔ビニル重合体(B)の製造例〕
アクリル酸2−エチルヘキシル(以下、2EHAと略す。)161部、スチレン(以下、Stと略す。)90部、MMA46部及びアクリル酸(以下、AAと略す。)3部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF 22.5部およびレオコールTD−90 1.5部をイオン交換水60部に溶解せしめた乳化剤水溶液中に分散させることによりモノマーエマルジョンを作製した。また、過硫酸アンモニウム1.2部をイオン交換水24部に溶解させ、開始剤水溶液を作製した。
【0040】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にイオン交換水245部仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョン及び開始剤水溶液を反応容器中にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、重合を行った。滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.3部を添加し、更に2時間撹拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45.0%となるように調整した後に取り出し、ガラス転移温度(Tg)−3℃のビニル重合体(B1)の水性分散体(平均粒子径0.21μm)を得た。
【0041】
製造例3(同上)
2EHA160.5部、St90部、MMA45部、メタクリル酸グリシジル(以下、GMAと略す。)1.5部及びAA3部からなるモノマー混合物を用いた以外は製造例2と同様にして、ガラス転移温度(Tg)−3℃のビニル重合体(B2)の水性分散体(平均粒子径0.21μm)を得た。
【0042】
製造例4〔ビニル重合体(A)と(B)の製造例〕
2EHA160.5部、St90部、MMA45部、GMA1.5部及びAA3部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF 20.4部をイオン交換水60部に溶解せしめた乳化剤水溶液中に分散させることによりモノマーエマルジョンを作製した。また、過硫酸アンモニウム1.2部をイオン交換水24部に溶解させ、開始剤水溶液を作製した。
【0043】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にニューコール707SF2.1重量部、レオコールTD−90 1.5重量部及びイオン交換水245部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。乳化剤が溶解していることを確認した後にMMA30部及び開始剤水溶液の内の20%(5.04部)を加えた。30分間80℃で保持して、ビニル重合体(A2)を製造した後に、モノマーエマルジョン及び残りの開始剤水溶液(20.16部)を反応容器中にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、重合を行った。滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.3部を添加し、更に2時間撹拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45.0%となるように調整した後に取り出し、ガラス転移温度(Tg)104℃のビニル重合体(A2)及びガラス転移温度(Tg)−3℃のビニル重合体(B3)の水性分散体(平均粒子径0.16μm)を得た。
【0044】
製造例5〔ビニル重合体(C)の製造例〕
St60部、MMA210部及びAA30部からなるモノマー混合物を作製し、一方でP−ブチルO〔日本油脂(株)製ラジカル重合開始剤〕3部をイソプロパノール(以下、IPAと略す。)60部に溶解し、開始剤溶液を作製した。
【0045】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器に、IPA240部を仕込み、窒素ガスを挿入しつつ80℃に昇温した。昇温後、モノマー混合物及び開始剤水溶液を反応容器中にそれぞれ4時間かけて滴下投入した。滴下終了後、更に4時間80℃で保持した後、IPAを除去することによりガラス転移温度(Tg)102℃、酸価77mgKOH/gのビニル重合体(C1)を得た。
【0046】
比較製造例1
アクリル酸ブチル(以下、BAと略す。)2.4部及びSt27.6部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF 1.05部をイオン交換水6部に溶解せしめた乳化剤水溶液中に分散させることによりモノマーエマルジョン1を作製した。また、BA134.4部、MMA18.9部、St54.6部及びAA2.1部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF 15.75部及びレオコールTD−90 1.05部をイオン交換水42部に溶解せしめた乳化剤水溶液中に分散させることによりモノマーエマルジョン2を作製した。また、St6部、MMA39部、BA12.6部及びAA2.4部からなるモノマー混合物を、ニューコール707SF 4.5部及びレオコールTD−90 0.3部をイオン交換水12部に溶解せしめた乳化剤水溶液に分散させることによりモノマーエマルジョン3を作製した。また、過硫酸アンモニウム1.2部をイオン交換水24部に溶解させ、開始剤水溶液を得た。
【0047】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にイオン交換水240部を仕込み、窒素ガスを挿入しつつ80℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョン1及び開始剤水溶液の内の10%(2.52部)を反応容器内にそれぞれ30分間かけて滴下投入した。滴下終了後、80℃で30分間攪拌しながら保持した後にモノマーエマルジョン2及び開始剤水溶液の内の60%(15.12部)を反応容器内にそれぞれ2時間かけて投入した。滴下終了後、80℃で30分間攪拌しながら保持した後にモノマーエマルジョン3及び残りの開始剤水溶液(7.56部)を反応容器内にそれぞれ1時間かけて滴下投入した。滴下終了後、1時間攪拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45.0%となるように調整した後に取り出し、ガラス転移温度(Tg)82℃のビニル重合体(a)、ガラス転移温度(Tg)−8℃のビニル重合体(b)及びガラス転移温度(Tg)58℃で酸価=31mgKOH/gのビニル重合体(c)の水性分散体(平均粒子径0.21μm)を得た。
【0048】
実施例1
製造例1で製造したビニル重合体(A1)の水性分散体100部と製造例2で製造したビニル重合体(B1)の水性分散体800部の攪拌下に、14%アンモニア水7部を添加した後、製造例5で製造したビニル重合体(C1)40部加え、50℃に昇温して3時間攪拌を続け、ビニル重合体(C1)が溶解していることを確認した後に室温迄冷却し、不揮発分を45.0%に、pHを8.5に調整し、取り出して、本発明の水性被覆剤(1)を得た。
【0049】
得られた水性被覆剤(1)を用い、以下に示す方法で耐ブロッキング性、低温造膜性、低温安定性及び耐水性について評価を行なった。結果を第1表に示す。
【0050】
・耐ブロッキング性:水性被覆剤をガラス板に3ミルアプリケーターで塗布し、23℃で48時間乾燥させた後にカーボン紙を乗せ、その上に500gの重りを3分間乗せた後、塗膜への転写度を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:殆ど塗膜に転写されていない(転写度20%未満:目視判定)。
△:塗膜にやや転写されている(転写度20%以上70%未満:目視判定)。
×:カーボン紙を剥離するとき抵抗が大きく、また塗膜に多く転写されている(転写度70%以上:目視判定)。
【0051】
・低温造膜性:5℃雰囲気下で、水性被覆剤をフレキシブル板に3ミルアプリケーターで塗布し、5℃雰囲気下で24時間乾燥させた後に造膜性を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:造膜している。
△:一部にややクラックが観察される。
×:全面にクラックが観察される。
【0052】
・低温安定性:水性被覆剤を50ccガラス瓶に50g入れ、密栓した後に−5℃で16時間放置し、次いで23℃で8時間放置するサイクルを3サイクル行った後の状態を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:凝集物が殆ど生成していない。
△:凝集物が少し生成している。
×:大量に凝集物が生成している。
【0053】
・耐水性:水性被覆剤をガラス板に3ミルアプリケーターで塗布し、23℃で48時間乾燥させた後に23℃の水道水に8時間没水し、白化の程度を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:殆ど白化していないか、若干白化している状態。
△:著しく白化している状態。
×:著しく白化し、更に塗膜状態が変形または崩壊している状態。
【0054】
実施例2及び3
ビニル重合体(A1)の水性分散体とビニル重合体(B1)の水性分散体の代わりに、第1表に示すビニル樹脂の水性分散体をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、本発明の水性被覆剤(2)及び(3)を得、実施例1と同様にして耐ブロッキング性、低温造膜性、低温安定性及び耐水性について評価を行なった。結果を第1表に示す。
【0055】
比較例1〜3
ビニル重合体(A1)の水性分散体とビニル重合体(B1)の水性分散体の代わりに第1表に示すビニル樹脂の水性分散体をそれぞれ用い、さらに14%アンモニア水とビニル重合体(C1)の使用を省略した以外は実施例1と同様にして、比較用の水性被覆剤(1′)〜(3′)を得、実施例1と同様にして耐ブロッキング性、低温造膜性、低温安定性及び耐水性について評価を行なった。結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
試験例1〜3及び比較試験例1〜3(水性塗料としての評価試験)
下記第2表に示す組成で原料を配合し、オートホモミキサー〔特殊機化(株)製モデルSL〕に投入し、5,000rpm、30分間の条件で混合分散させることにより顔料ペーストを作製した。次いで、得られた顔料ペーストと実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた水性被覆剤と、増粘剤と、消泡剤を、第3表に示す組成で配合し、オートホモミキサー〔特殊機化(株)製モデルSL〕に投入し、2,000rpm、5分間の条件で混合分散させることにより、VOC量がゼロの水性塗料(1)〜(3)及び比較用の水性塗料(1′)〜(3′)を作製した。
【0058】
【表2】

【0059】
第2表の脚注
*1)オロタンSG−1:ローム&ハース(株)製顔料分散剤
*2)エマルゲンA−60:花王(株)製ノニオン乳化剤
*3)酸化チタン JR−600A:テイカ製酸化チタン
*4)SNデフォーマー373:サンノプコ(株)製消泡剤
【0060】
【表3】

【0061】
第3表の脚注
*5)3%セロサイズQP−4400H:ダウケミカル社製増粘剤
*6)15%アデカノールUH−438:旭電化工業(株)製増粘剤
*7)BYK−028:BYK社製消泡剤
【0062】
得られた水性塗料(1)〜(3)及び比較用の水性塗料(1′)〜(3′)を用い、以下に示す方法で塗料粘度、光沢、耐ブロッキング性、低温造膜性、低温安定性及び耐水性について評価を行なった。結果を第4表に示す。
【0063】
・塗料粘度:ストマー粘度計により23℃で水性塗料の粘度を測定した。
・光沢:水性塗料をガラス板に6ミルアプリケーターで塗布し、23℃で3日間乾燥後に60度光沢を測定した。
【0064】
・耐ブロッキング性:水性塗料をガラス板に6ミルアプリケーターで塗布し、23℃で3日間乾燥後、塗膜上にカーボン紙を乗せ、その上に500gの重りを3分間乗せた後、カーボン紙の塗膜への転写度合いを下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:殆ど転写されていない。(転写度20%未満:目視判定)。
△:やや転写されている。(転写度20%以上70%未満:目視判定)。
×:多量に転写されている(転写度70%以上:目視判定)。
【0065】
低温造膜性:5℃雰囲気下で、水性塗料をフレキシブル板に6ミルアプリケーターで塗布し、5℃雰囲気下で24時間乾燥させた後に造膜性を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:造膜している。
△:一部にややクラックが観察される。
×:全面にクラックが観察される。
【0066】
低温安定性:水性塗料を50ccガラス瓶に50g入れ、密栓した後に−5℃で16時間放置し、次いで23℃で8時間放置するサイクルを3サイクル行った後の状態を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:問題なし。
△:やや増粘。
×:ゲル化。
【0067】
耐水性:水性塗料をフレキシブル板に刷毛塗り(2回塗り)し、23℃で7日乾燥させた後に23℃の水中に7日間没水し、乾燥させた後の状態を目視にて下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:殆ど状態変化無し。
△:ややツヤビケしている。
×:完全にツヤビケしている。
【0068】
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が80〜120℃のビニル重合体(A)及びガラス転移温度が−20〜20℃のビニル重合体(B)が水性媒体中に分散してなり、かつ、ガラス転移温度が40〜130℃で、酸価が70〜250mgKOH/gのビニル重合体又はそのアルカリ中和物(C)が前記水性媒体中に溶解してなることを特徴とする水性被覆剤。
【請求項2】
260℃以下の沸点を有する揮発性有機化合物(D)の含有率が0もしくは1重量%以下である請求項1に記載の水性被覆剤。
【請求項3】
前記ビニル重合体(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対する、前記ビニル重合体(A)の割合が5〜25重量%であり、前記ビニル重合体(B)の割合が55〜92重量%であり、かつ、前記ビニル重合体(C)の割合が3〜20重量%である請求項2に記載の水性被覆剤。
【請求項4】
前記ビニル重合体(B)がカルボキシル基と反応しうる官能基を有するものである請求項1、2又は3に記載の水性被覆剤。
【請求項5】
カルボキシル基と反応しうる官能基がグリシジル基である請求項4に記載の水性被覆剤。
【請求項6】
260℃以下の沸点を有する揮発性有機化合物(D)が造膜助剤及び/又は凍結防止剤である請求項2に記載の水性被覆剤。


【公開番号】特開2007−91916(P2007−91916A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284095(P2005−284095)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】