説明

水性路面標識ペイント

【課題】水媒介の路面標識ペイントおよびそれを用いた路面標識の黄色化を減少または防止する方法。
【解決手段】鉄イオンをキレート化することが可能であり、実質的に無色の錯体を生成させるキレート化剤を含有する水性路面標識ペイント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性路面標識ペイント(water-borne road marking paints)(以後、時々、「トラフィックペイント」と称する)に関し、特に、路面上にペイントを適用した後にときどき生じる黄変の問題に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの研究は、水媒体のトラフィックペイントが、ペイントの適用後、できるだけ長く白色でありかつ汚れのない状態でとどまるのを確保することに充てられてきた。しかし、新しく適用されたトラフィックペイントのきれいな白色表面の部分が、汚れた黄色または褐色に変り、時々、路面上において路面標識の長い距離に沿って変っているのが観察された。そのような汚染の現象は「黄変(yellowing)」として知られている。一般にペイントの視認性には大きな影響はないが、黄変は美的な理由から望ましくなく、また特に、トラフィックペイントの使用者が、ペイントを適用した数日以内に黄色に変るペイントは、品質の悪いペイントであると思っているので、望ましくない。
【0003】
この現象の発現が明らかにランダムであり、ペイントの適用後すぐ生じるかまたは全く生じないことについての説明は未だなされていない。2つの機会に、道路の同じ場所に適用された同一のペイントは、ある時には黄色に変り、そして次の時には変らない。問題の理解がこのように欠除している結果として、その解決策は今までのところ見出されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、この現象の原因を明確にし、その結果として、その解決法を見いだした。本発明者は、黄変はペイント配合物の中の物質と鉄が反応することによって、ペイントの内部に、本質的にさびであるものを生じるのが原因であり、それによって黄変が生じると考えている。適用されたトラフィックペイントの近傍に、明らかな鉄源は存在していない。しかし、それは乗り物に由来するかもしれないし、またはペイントが適用された道路表面の例えばアスファルトのようなある種の成分に由来するかもしれないと考えられる。鉄はペイントが完全に乾燥していないで、それ故水の浸透をまだ受け入れ易い時に、適用後の最初の24〜48時間において高湿度であるかまたは降雨があるならば、ペイントに浸透することが可能である。この方法においてペイント層に導入されると、その時、水は、ペイントのある種の成分と反応し、ペイントを汚染しそして黄変の原因となる黄色または褐色の「さび」を生成すると考えられる。しかし、もし降雨が特にはげしければ、鉄および「さび」は洗い出され、それによって黄色は除かれる。それについて確証はないが、しかし前記の明らかなランダム現象を説明することができるであろう。
【0005】
ヨーロッパ特許第A−34383I号には、外部からのさびの汚れ、すなわち、表面上にしたたりまたは落下する外部の源からのさび、から表面を保護するためのトップコート用ペイントが開示されている。このペイントには、さびの中の鉄と反応して無色の錯体を生成することが可能なキレート化剤が含まれている。英国特許第2172599A号には、キレート化剤としてポリホスホネート塩顔料が含まれている類似のペイントが開示されている。しかし、これらの文献のいずれにも、またそのような抗さび汚れ性ペイント(anti-rust staining paint)についての従来文献のいずれにも、トラフィックペイントの有する前記の問題は述べられていない。従来技術においては、前述の黄変の問題は説明されていないし、またさびによる汚れとの関連も示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鉄イオンをキレート化することが可能であり、実質的に無色の錯体を生成させるキレート化剤を含有する水性路面標識ペイントを提供する。更に、本発明はその一態様として、水性路面標識ペイントの中に、鉄イオンをキレート化して実質的に無色の錯体を生成させるキレート化剤を混合することを含む、水性路面標識ペイントの路面上に新しく適用された路面標識の黄変を減少させまたは防止する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書中において用いられる用語について、以下に説明する:
用語「GPC重量平均分子量」は、1976年にローム アンド ハース カンパニーによって出版された「Characterization of Polymers」の第4頁、第1章に記載されている、標準試料としてポリメチルメタクリレートを使用するゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定された重量平均分子量である。GPC重量平均分子量は、理論上の重量平均分子量を計算することによって見積ることができる。連鎖移動剤を含有するシステムにおいては、理論重量平均分子量は、単に、重合の間に用いられた連鎖移動剤の全モル量によって割った重合性単量体の全重量のグラム数である。連鎖移動剤を含まない乳化重合体系の分子量の見積りは、より複雑である。より粗い見積りは、重合性単量体の全重量のグラム数を、効率ファクター(efficiency factor)(過硫酸塩で開始された系においては、本発明者は約0.5のファクターを使用した)と開始剤のモル量の積で割ることによって得ることができる。理論的な分子量計算についての更なる情報は、1981年にジョン ウィリー アンド サンズ、N.Y.,N.Y.によって出版されたジョージ オディアンによる「重合の原理」第2版("Principles of Polymerization", 2nd edition, by George Odian published by John Wiley and Sons, N.Y., N.Y. in 1981)および1982年にアカデミック プレス、N.Y.,N.Y.によって出版されイルジャ ピルマによって編集された「乳化重合」("Emulsion Polymerization", edited by Irja Pirma published by Academic Press, N.Y., N.Y. in 1982)の中に見出すことができる。
【0008】
用語「分散された重合体」は、水性媒質中においてコロイド的に分散され安定化された重合体の粒子を意味する。
【0009】
用語「溶解された重合体」は、水性媒質中に溶解された水溶性重合体を意味する。溶解された重合体は、その結果として、ムーニー式(Mooney equation)〔1/lnηrel=1/BC−K/2.5〕のセルフ−クロウディング定数(K)〔self-crowding constant(K)〕が0であることを特徴とする重合体溶液を生じる。これと比べると、分散された重合体は、1.9に等しい(K)を有する。ムーニー式の詳細は、1973年にプレナム プレスによって出版され、そしてゴルドンおよびプランによって編集された、「ノンポリューティング コーティングス アンド コーティング プロセス」中のブレンドレイ等による「水に分散されたアクリル重合体および水溶性アクリル重合体の物理的特性」("Physical Characterization of Water Dispersed and Soluble Acrylic Polymers" by Brendley et al., in "Nonpolluting Coatings and Coating Process" published by Plenum Press, 1973 and edited by Gordon and Prane)と題する項に開示されている。
【0010】
用語「重合体固形分」は、その乾燥状態における重合体を意味する。
【0011】
用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを包含する。
【0012】
用語「キレート化剤」は、1個より多くの配位原子によって、金属例えば鉄と相互作用し合う化合物を意味する。
【0013】
用語「顔料分散剤」は、ペイント組成物中の顔料粒子の分散を改良するために使用される物質を意味する。顔料分散剤は、ペイント組成物中の顔料粒子の表面上に吸着され、その上の陰電荷を増加すると考えられる。その結果、顔料粒子間のクーロン反発力が増加し、それにより、ペイント組成物中の顔料粒子の分散が改良される、と考えられる。
【0014】
本発明の水性路面標識ペイントは、水性媒質中に分散された、または溶解された1種以上の重合体を含有している。そのような重合体は、当業界においてよく知られている。
【0015】
好ましくは、分散されまたは溶解された重合体は、水性媒質中において、アルキル(メタ)アクリレート単量体例えば(C〜C20)アルキル(メタ)アクリレート単量体の少なくとも1種を共重合することによって乳化重合される。本明細書で使用される、用語「(C〜C20)アルキル」は、1つの基につき1〜20個の炭素原子を有するアルキル置換基を示している。適当な(C〜C20)アルキル(メタ)アクリレート単量体には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートのようなアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体、例えば、酢酸ビニル、ビニルプロピオネート、ビニルネオノナノエート(vinyl neononanoate)、ビニルネオデカノエート(vinyl neodecanoate)、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルピバレート(vinyl pivalate)、ビニルバーサテート(vinyl versatate)、またはそれらの混合物のようなビニルエステル単量体、が包含される。適当なビニル単量体には、例えば、ハロゲン化ビニル、好ましくは塩化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、好ましくは塩化ビニリデン、またはそれらの種々の混合物、が包含される。適当なビニル芳香族単量体には、例えば、1種以上の重合性ビニル芳香族化合物、およびそれらの混合物が包含され、また、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、p−メチルスチレンおよびビニルキシレンのようなアルキル置換スチレン、ハロゲン化スチレン、例えばクロロスチレン、ブロモスチレンおよびジクロロスチレン、ベンゼン核上に1種以上の非反応性置換基を有する他のスチレン、ビニルナフタレン、またはそれらの種々の混合物、が包含される。適当な中性の単量体には、例えば、1種以上の単量体、例えばアクリロニトリル、アクリルアミド、アルキル置換アクリルアミドの単量体、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体、例えばアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの異性体、またはそれらの種々な混合物、が包含される。
【0016】
所望により、分散され、または溶解された重合体は、更に、酸官能基を含有する単量体を、0.5〜20.0%、好ましくは5〜15%の範囲において含有する。全ての%は、重合体の固形分の全重量に基づいた%である。
【0017】
酸官能基は、単量体混合物の中に、1種以上の、モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、アコニット酸、アトロパ酸(atropic acid)、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸の半エステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸の半アミド、およびそれらの種々な混合物、を含有させることにより得られる。他の適当な単量体には、1種以上の、モノメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノブチルフマレート、アクリルアミド、プロパンスルホネート、ビニルスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリロキシエチルホスフェート(MOP)、およびホスホエチル(メタ)アクリレート、が包含される。モノエチレン性不飽和カルボン酸を含有する単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの混合物は更に好ましい。
【0018】
好ましくは、トラフィックペイントには、更に、1種以上の単量体から重合された多官能性アミン、例えば、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、オキサゾリジノエチルメタクリレート、およびジメチルアミノエチルメタクリレート、が含有される。そのような組成物は、1994年11月14日に出願され、特許出願番号第08/340,461号を有し、発明の名称が「貯蔵安定性のある速硬性水性塗料(SHELF STABLE FAST-CURE AQUEOUS COATING)」である、通例のように譲渡された米国特許出願(この特許出願は特許になっている)に記載されている。所望により、アミン変性された、分散または溶解された重合体、またはアミン変性された、分散され、または溶解された重合体と多官能性アミンとのブレンド、またはそれらの組み合わせ、または好ましくは等割合の上記ブレンドとアミン変性ラテックスバインダーを含有することができる。前記ブレンドは、ブレンドの固体の全重量に基づいて0〜20%、好ましくは0.5〜10%、および更に好ましくは2〜5%の多官能性アミンを含有する。
【0019】
重合方法は、典型的には、公知のフリーラジカル開始剤、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸アルカリを、典型的には、全単量体の重量に基づいて0.05〜3.0重量%の量で用いることによって開始される。適当な還元体、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウムおよびイソスコアビック酸(isoscorbic acid)と組み合わされた前記と同じ開始剤を使用するレドックス系を、同じような量で使用してもよい。
【0020】
連鎖移動剤を、所望のGPCによる重量平均分子量を提供するのに有効な量において使用してもよい。生成される重合体の分子量を調節する目的のための、適当な連鎖移動剤には、既知のハロ−有機化合物、例えば、四臭化炭素およびジブロモジクロロメタン;硫黄−含有化合物、エタンチオール、ブタンチオールのようなアルキルチオール類、tert−ブチルおよびエチル メルカプトアセテート、同様に芳香族チオール類が包含される−;または重合中にフリーラジカルによって容易に引き抜きされる水素原子を有する種々な他の有機化合物、が包含される。なお、さらなる適当な連鎖移動剤または成分には、ブチル メルカプトプロピオネート;イソオクチルメルカプト プロピオネート;ブロモホルム;ブモロトリクロロエタン;四塩化炭素;アルキル メルカプタン、例えば、1−ドデカンチオール、ターシャリー−ドデシル メルカプタン、オクチル メルカプタン、テトラデシル メルカプタン、およびヘキサデシル メルカプタン;アルキル チオグリコレート、例えば、ブチル チオグリコレート、イソオクチル チオグリコレート、およびドデシル チオグリコレート;チオエステル; またはそれらの組み合わせ物、が包含されるが、しかしこれらに限定はされない。メルカプタン類は好ましいものである。
【0021】
重合体粒子の分散が利用されるときは、重合体の粒子サイズは、乳化重合プロセスの間に添加された従来の界面活性剤の量によって調節される。従来の界面活性剤には、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、またはそれらの組み合わせ物、が包含される。典型的なアニオン系乳化剤には、脂肪ロジン(fatty rosin)の塩およびナフテン酸の塩、ナフタレンスルホン酸およびホルムアルデヒドの低分子量の縮合生成物、および適当な親水性−親油性バランスのカルボン酸ポリマーまたはコポリマー、アルキル硫酸アルカリ塩またはアルキル硫酸アンモニウム、アルキルスルホン酸、アルキルホスホン酸、脂肪酸、およびオキシエチル化アルキルフェノールスルフェートおよびオキシエチル化アルキルフェノールホスフェートが包含される。典型的なノニオン系乳化剤には、アルキルフェノール エトキシレート、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチル化されたアルキルアルコール、アミンポリグリコール縮合物、変性ポリエトキシ付加物、長鎖カルボン酸エステル、改質末端アルキルアリールエーテル、およびアルキルポリエーテルアルコールが包含される。界面活性剤の典型的な量は、全単量体の全重量に基づいて、0.1〜6重量%である。
【0022】
所望により、分散された重合体には、種々の幾何学的構造の2つ以上の相を有する多段重合体粒子、例えば、コア/シェル粒子またはコア/シース粒子、コアーを不完全にカプセル化しているシェル相を有するコア/シェル粒子、複数のコアーを有するコア/シェル粒子、および相互侵入編目粒子が包含される。これらの場合の全てにおいて、粒子の表面積の過半は少なくとも1つの外部相によって占められ、そして重合体粒子の内部は少なくとも1つの内部相によって占められている。多段重合体粒子の外部相は、粒子の全重量に基づいて5〜95重量%である。また、しばしば、多段重合体粒子の各段が、異なったTgを有することが望ましい。所望により、これら多段重合体粒子の各段は、異なったGPC数平均分子量を有することができ、例えば米国特許第4,916,171号に記載されたような多段重合体粒子組成物であることができる。
【0023】
分散された重合体の多段重合体粒子は、従来の乳化重合法によって造ることができ、この方法においては、組成が異なる少なくとも2つの段が、逐次的に重合される方法で造られる。そのような方法においては、結果的に、通常、少なくとも2種の重合体組成物が生成される。多段重合体粒子の各段には、前述した連鎖移動剤および界面活性剤と同じ連鎖移動剤および界面活性剤を含むことができる。そのような多段重合体粒子を製造するために使用される乳化重合技術は、当業界においてよく知られており、例えば、米国特許第4,325,856号、同第4,654,397号、同第4,814,373号および同第4,916,171号に記載されている。
【0024】
本発明者は、水性トラフィックペイントの中にキレート化剤を混合することにより、鉄が路面上に散乱され、ペイント表面と反応して黄変の原因となる「さび」化合物を生成することを実質的に減少させまたは防止することを見いだした。その結果として、適用されたトラフィックペイントの表面は、種々の交通条件下で、実質的に白色を存続させている。本発明者が、鉄の影響に擬製するために硫酸第一鉄溶液を使用して行った試験により、この解決手段の有効性が確認された。トラフィックペイントには、キレート化剤が、0.1〜5%の範囲において、好ましくは1〜3%の範囲において、含有されている。なお、全ての%は、重合体の固形分の全重量に基づいた重量%である。
【0025】
本発明に使用するために適したキレート化剤には、アミノカルボン酸、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエタノールグリシン、エタノールジグリシン、エチレンジアミン二コハク酸、イミノ二酢酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;ホスホノカルボン酸、例えば、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;ホスホン酸およびアミノホスホン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン ペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレン ジアミン テトラ(メチレンホスホン酸);トリポリリン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;ピロリン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;ヘキサメタリン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;有機酸、例えば、フマル酸、クエン酸、シュウ酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;ジケトン誘導体、例えば、2,4−ペンタンジオンのZn2+塩;ヒドロキサム酸(hydroxamic acid);ホスフェートイオンを解離することが可能なガラス、および顔料のポリホスホネート塩、例えばヨーロッパ特許第0343831A1号に記載されているもの;および前記キレート化剤の種々な組み合わせ物、が包含される。
【0026】
好ましくキレート化剤には、ホスホン酸アンモニウムおよびホスホン酸アルカリ金属塩またはホスホン酸(1個以上のPO(OH)を有する化合物)およびエチレンジアミン四酢酸が包含される。特に好ましいものは、アミノ−トリス−メチレン ホスホン酸(モンサント ケミカル社より、商標名「DEQUEST(登録商標)2000」として販売されている)である。
【0027】
本発明のトラフィックペイントは、更に、通常の白色顔料、好ましくは二酸化チタンを、組成物の全重量に基づいて5〜20%、好ましくは6〜16%の範囲で含有することができる。本発明のトラフィックペイントに使用するために適した白色顔料には、商標名「TiPure(登録商標)」二酸化チタン白色顔料として、イー.アイ.デュポン社)より供給されたものが包含される。商標名「TITAN(商標) TR92 Titanium dioxide」として二酸化チタン白色顔料を供給している他の供給者には、チオキサイド、クリーブランド、英国(Tioxide, Cleveland, United Kingdom)がある。
【0028】
所望により、トラフィックペイントは、トラフィックペイント標識の黄変を更に防ぎまたは減少させるために、重合体の固形分の全重量に基づいて0.25%〜3%のキレート化剤とともに0.25%〜2%の顔料分散剤を含有させることができる。適当な顔料分散剤のある種のものには、カルボン酸重合体、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩が包含される。適当なカルボン酸重合体としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、(メタ)アクリル酸およびマレイン酸の共重合体が包含され、典型的には、それらは4000〜10000の範囲の重量平均分子量を有している。他の適当な顔料用界面活性剤としては、(メタ)アクリル酸および極性化合物の共重合体、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、および非極性化合物、例えば、ブチルメタクリレート;および無水マレイン酸とジイソブチレンとの反応生成物、が包含される。ポリメタクリル酸、およびそれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩が好ましい。
【0029】
本発明の水性トラフィックペイントは、典型的には、充填剤、例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、および時には、固体ガラスビーズ、造膜助剤、および凍結防止用溶剤を含有させる。所望により、本発明の水性トラフィックペイントは、添加剤、例えば、界面活性剤、殺生物剤および増粘剤を含有する。
【0030】
また、本発明は、路面上に新しく適用された水性路面標識ペイントの路面標識の黄変を減少させ、または防止する方法を提供する。この方法は、水性路面標識用ペイントの中に、鉄イオンをキレート化することが可能なキレート化剤を混合して、実質的に無色の錯体を生成させることを含む。更にこの方法は、前記水性路面標識用ペイントの中に、新しく適用された前記の路面標識の黄変を更に減少させまたは防止するための顔料分散剤を混合することを包含している。本発明の方法は、トラフィックペイントの中にキレート化剤を混合すること、またはトラフィックペイントの路面標識が、従来の適用手段、例えばモビール噴霧装置によって路面に適用された後、キレート化剤を適用することを意図している。その後、キレート化剤を路面標識がまだ湿潤状態にある間に、路面標識の上面に、例えば噴霧のような公知手段によって適用することができる。所望により、向上した視認性を有する反射路面標識を造るために、トラフィックペイントがまだ湿っている間に、路面標識の上面に、ガラスビーズを適用してもよい。ガラスビーズとキレート化剤を混合した後に、反射性ガラスビーズとキレート化剤との混合物を湿っている路面標識の上面に適用することが更に意図されている。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例1〜5は、次の配合物に基づいている:
【表1】

【0032】
上記の諸成分を、滑らかになるまで20分間混合し、次いで、次の諸成分を添加して実施例1〜5の調製物を完成させた:
【表2】

【0033】
上記の表1および2に記載された成分を以下に列挙した:
(1)は、ローム アンド ハース カンパニーによって供給されたPRIMAL(登録商標)E−2706(50%)ポリマーエマルションである。
(2)は、ローム アンド ハース カンパニーによって供給された顔料分散剤であるOROTAN(登録商標)901(30%)である。
(3)は、水45gと28%アンモニア溶液15gとを混合し、次いで、DEQUEST(登録商標)2000(50%濃度)40gを加え、pH9.5にすることによって配合されたキレート化剤である。中和することができなかったのでアンモニアは最後に加えなかった。
(4)は、ドリュ アメロイド ネダーランド B.V.(Drew Ameroid Nederland B.V., Triathlonstrasse 33,3078 HX Rotterdam, The Netherlands)によって供給されたDREW(商標)TG4250非シリコーン消泡剤である。
(5)は、チオキサイド社によって供給されたTITAN(商標)TR92二酸化チタン白色顔料である。
(6)は、オムヤ、プルエス−スツアウファーAG(Omya, Pluess-Stauffer AG, CH-4665 Offringen, Switzerland)によって供給されたDURCAL(商標)5充填剤である。
(7)は、オムヤ、プルエス−スツアウファーAGによって供給されたDURCAL(商標)10充填剤である。
(8)は、エタノールである。
(9)は、イーストマン ケミカル カンパニーによって供給されたTEXANOL(登録商標)造膜助剤である。
(10)は、配合物のpHを9.5に調節するのに使用されたアンモニアである。
【0034】
実施例1〜5のサンプルは、1日間平衡にさせた。
【0035】
380マイクロメーターの厚さを有するように実施例1〜3の塗料をガラス表面に適用し、そして1時間乾燥させ、その点において、トラフィック標識上の鉄による黄変の影響を擬製するために、FeSO 溶液(FeSO・7HOの3g、水1997g、25%硫酸6滴)の10滴を塗料表面に適用した。次いで乾燥後、塗料を目視で黄変について測定した。その結果を次の表3に示した:
【表3】

【0036】
上記の表に示された結果によれば、キレート化剤を含有する組成物(実施例3)をトラッキングペイントに利用した際には、キレート化剤を含有しない組成物(実施例1)と比較して、有意な黄変は観察されなかった。しかし、組成物が、キレート化剤だけでなく顔料分散剤も含有するときは(実施例2)、実施例3と比較してさらに塗料の黄変を減少させることが観察された。
【0037】
また、テストトラックス(test tracks)として知られている路面標識剤を造り、ASTM D713−90に従って適用した。湿潤状態において450ミクロメーターの厚さを有する実施例4および5の路面標識剤を、交通の流れの方向を横切って、すなわち、交通の流れ方向に直角に、シーエムシー、コモ、イタリー(CMC, Como, Italy)によって供給された、後退型自走式のストリップマシンNo.LT20(a walk behind, self-propelled striping machine Model No. LT20)によって、ビチューメンアスファルト(bituminous asphalt)路面上に、スプレー塗布した。交通の流れに横切る方向においてテストトラックスを適用する理由は、ホイールトラックエリア(wheel track area)として定義される、特に乗り物のタイヤが極めてしばしば通過する場所において、テストトラックス上を通過する乗り物の数を増加させることによって、テストトラックスの崩壊を促進することである。テストトラックスの黄変は、路面にそれらを適用後106日経過してから、ミノルタカメラ によって供給されている携帯用の三刺激測色計(portable tristimulus colorimeter)を用いて観察された。色差の測定は、ASTM E−1347「三刺激(フィルター)測色計による色および色差の測定(Color and Color-Difference Measurement by Tristimulus(Filter)Colorimetry)」に記載されている。b値は、CIELAB色差においてASTM E−284「外観の標準術語(Standard Terminology of Appearance)」に記載されている。色差は、CIE 1976 Lのカラースケール(color scale)を使用して計算される。bスケールが正の時は黄色味があり、そして負の時は青色味がある。bの対立するカラースケールは、また「色彩技術の原理、第2版(Principles of Color Technology, 2nd Edition)」、フレッド ダブリュ ビルメヤー、ジュニア、ジョン ウィリー アンド サンズ(Fred W Billmeyer, Jr., John Wiley & Sons)、1981、に記載されている。b値は、観察された黄変の程度の尺度である。より高いb値は、路面上に適用されたトラフィック標識剤の外観がより黄色になったことを示している。3のb値は、新しく塗装された白色表面を表わしている。b値が8またはそれ以下であることは、トラフィック標識の黄変が許容できる程度であることを表わしている。次の表4は、実施例4および5から造られた路面標識剤のb値を表わしている。
【表4】

【0038】
上記表4から、キレート化剤を含有しているトラフィックペイント組成物(実施例5)からの路面標識は、キレート化剤を含有していないトラフィックペイント組成物(実施例4)からの路面標識と比較して、トラフィック条件に長期間暴露した後に許容できる程度の黄変化の結果を与えることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオンをキレート化することが可能であり、実質的に無色の錯体を生成させるキレート化剤を、水性路面標識ペイントに混合することを含む、路面上に新たに適用される場合に、ペイントの黄変を減少させまたは防止する方法。
【請求項2】
鉄イオンをキレート化することが可能なキレート化剤が、ホスホン酸塩またはホスホン酸(1以上のPO(OH)基を有する化合物)、EDTAまたはポリマー性カルボン酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
鉄イオンをキレート化することが可能なキレート化剤が、アミノ−トリス−メチレンホスホン酸である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
路面上にペイントを適用することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2008−121021(P2008−121021A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2665(P2008−2665)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【分割の表示】特願平8−184280の分割
【原出願日】平成8年6月26日(1996.6.26)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】