説明

水性顔料分散液およびそれを用いたインク組成物

【課題】微粒子顔料の分散安定性と耐熱性に優れた水性顔料分散液を提供する。またピエゾ方式だけでなく高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても長期に渡り安定なインクの吐出を実現でき、さらに、光学濃度が高くて光沢感のあるインク組成物を提供する。
【解決手段】(A)アントラキノン系顔料、(B)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、該水性顔料分散液を含有するインク組成物を水で希釈して(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、吸収スペクトルのピークのうち、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度と、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度との比が1.01以上である水性顔料分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性と耐熱性に優れる水性顔料分散液およびそれを用いたインク組成物に関する。特にピエゾ方式のインクジェットプリンターやサーマル方式のインクジェットプリンターに使用されるインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンター用インクや筆記具用インクに利用される着色剤として、染料のかわりに堅牢性に優れる顔料の利用が検討されている。インクジェットインクの吐出方式には、電圧をかけることで圧電素子を変形させインクを押し出すピエゾ方式と加熱による発泡の際に生じる圧力によりインクをとばすサーマル方式とがある。一般にインクジェット用インクでは溶媒として水が使用されるが、顔料は染料と異なり水に不溶なため、顔料を使用するインクジェット用インクでは顔料が微粒子の状態で水中に安定に分散していることが重要である。特に、サーマル方式では、インクが吐出時に瞬間的に400〜500℃の高温にさらされるため、高温での耐熱性と顔料の分散安定性が要求される。
【0003】
水中で顔料微粒子を安定に分散する方法としては、高分子分散剤を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、高分子分散剤を顔料粒子表面に吸着させる必要がある。このため、比較的極性が大きいカーボンブラックなどの無機顔料の分散安定化には有効であるが、粒子表面の極性が小さい有機顔料の分散安定化にはそれほど有効な方法でない。
【0004】
また、有機顔料スルホン酸誘導体を用いることにより有機顔料を水中に安定に分散させる方法が提案されている(特許文献2〜6参照)。これらの方法では、有機顔料スルホン酸誘導体が有機顔料表面に強く吸着し、スルホン酸誘導体の静電反発力により顔料の凝集が抑制される。しかし、ピエゾ、サーマルいずれの吐出方式においても、インクジェットノズルからの良好な吐出安定性、耐目詰まり性、インクの保存安定性などを得るためには、限外濾過膜、半透膜、逆浸透膜などを用いる煩雑な精製工程が必要である。
【0005】
また、有機顔料スルホン酸誘導体およびアミノ基を有する側鎖と親水性側鎖と疎水性側鎖を含有する高分子分散剤を用いることにより、有機顔料を水中に安定に分散させる方法が提案されている(特許文献7参照)。この方法では、有機顔料スルホン酸誘導体が有機顔料表面に強く吸着し、粒子表面の極性を増大させることで、アミノ基を有する高分子分散剤を粒子表面に吸着させ分散安定化している。しかし、この方法では有機顔料スルホン酸誘導体の合成条件が最適化されていないため、水性顔料分散液中の顔料の粒径が大きくなり、顔料インク組成物から得られる印刷物の光沢度と光学濃度が低下するという問題がある。
【0006】
一方、ピエゾ方式のインクジェット用インクとして、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックにレッド及びブルーを加え6色インクセットとするため、アントラキノン系顔料をインクジェット用インクに用いた技術がある(特許文献8参照)。ここでは、レッドインクの着色剤としてペリレン系顔料、アントラキノン系顔料等を用い、ブルーインクの着色剤としてジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料等を用い、分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体を用いることで顔料粒子を水中に分散安定化している。またインク中の顔料濃度を2wt%まで低減させることで、印刷物の色再現範囲を広げるともに印刷物の光沢度を向上させている。しかし、この方法ではいずれも微細な顔料粒子を均一に分散させることが困難であり、さらにろ過により粗大粒子を除去する必要がある。またインク中の顔料濃度を増大させると、印刷物の光沢度が低下するという問題がある。
【特許文献1】特開平5−179183号公報(第4頁)
【特許文献2】特開2002−121419号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2002−121460号公報(第3頁)
【特許文献4】特開2002−285067号公報(第2頁)
【特許文献5】特開2002−309122号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2002−241638号公報(第1頁)
【特許文献7】特開2005−2186号公報(第2頁)
【特許文献8】国際公開第02/100959パンフレット(第1〜3頁、第31〜34頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微粒子化した有機顔料の分散安定性および耐熱性が両立した水性顔料分散液を提供することを目的とし、さらにピエゾ方式だけでなく高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても、長期間にわたり安定なインクの吐出を実現でき、さらに、光学濃度が高くて光沢のある印刷物を得ることができるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、(A)アントラキノン系顔料、(B)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、該水性顔料分散液を含有するインク組成物を水で希釈して(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの吸収スペクトルのピークにおいて、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度に対する、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度が1.01倍以上である水性顔料分散液である。
【0009】
(2)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体と水の混合液の400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が560nm以下となる(B)顔料誘導体を用いる上記(1)記載の水性顔料分散液である。
【0010】
(3)25℃における水性顔料分散液の表面張力が60mN/m以下である上記(1)または(2)記載の水性顔料分散液である。
【0011】
また本発明の別の態様は、(4)上記(1)〜(3)記載の水性顔料分散液を含有するインク組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アントラキノン系顔料の微粒子状態での分散安定性が優れ、さらに高温での耐熱性に優れる水性顔料分散液を供給することができる。また本発明の水性顔料分散液を用いて製造されるインク組成物は耐熱性に優れるため、ピエゾ方式だけでなく、高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても安定な吐出を実現できる。さらに、インク中に含まれる顔料濃度を増大させても、印刷した状態において光学濃度が高く、また微細化された状態で顔料粒子が存在するため光沢がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は(A)アントラキノン系顔料、(B)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、該水性顔料分散液を含有するインク組成物を水で希釈して(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、吸収スペクトルのピークのうち、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度に対して、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度が1.01倍以上であることが必要である。
【0014】
本発明では、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度と、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度との比は次のようにして求める。波長500〜550nmにおける最大のピークを決定し、そのピーク値(吸光度)を読みとる。これを吸光度[1]とする。次に、波長550〜600nmにおける最大のピークを決定し、そのピーク値(吸光度)を読みとる。これを吸光度[2]とする。吸光度[1]/吸光度[2]より吸光度比を算出する。本発明におけると、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度に対する、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度(以下、吸光度比)は1.01倍以上であり、好ましくは1.02倍以上である。吸光度比が1.01より小さいと顔料分散液の分散安定性が低下し、吸光度比が1.02より小さいと顔料分散液の耐熱性が低下する場合がある。
【0015】
本発明は、アントラキノン系顔料誘導体のスルホン化度合いによって上記の吸光度比が変化し、ひいては水性顔料分散液の分散安定性が大きく変化することに着眼してなしたものである。水性顔料分散液の分散安定性を向上させるためには、添加するアントラキノン系顔料誘導体のスルホン化の度合いを最適化し、と、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度に対する波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度を1.01以上にする必要がある。
【0016】
吸光度比は、顔料分散液に含有される(B)顔料誘導体を合成する時の反応条件(反応温度、反応液濃度、反応時間など)によって制御することが可能である。例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などの濃度や混合比などを適切に調節し、反応温度0〜150℃、反応時間1〜24時間の範囲において適宜反応条件を変更することにより、吸光度比を1.01以上とすることができる。
【0017】
ただし、吸光度比は水性顔料分散液の表面張力の影響も受ける。例えば、水性顔料分散液中の溶液成分である(C)水と(D)水溶性有機溶媒の混合比を制御して、表面張力を適切な値にしないと、顔料の算術平均粒径が増大し吸光度比が1.01より小さくなる場合がある。水と水溶性有機溶媒との混合比を重量比で、水:水溶性有機溶媒=94〜50:6〜50、好ましくは90〜60:10〜40とすることで、水性顔料分散液の吸光度比を1.01以上とすることができる。
【0018】
本発明における吸収スペクトルのピーク吸光度の比は例えば次のような試料を作製し、測定する。顔料分散液を(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体の各々の含有量を合わせた濃度が顔料分散液総量に対し、10ppmとなるようイオン交換水で希釈する。次いで、紫外可視分光光度計(例えば(株)島津製作所製MultiSpec−1500等)を用いて、得られた溶液の吸収スペクトルの測定を行う。測定によって得られた吸収スペクトルを用い、上記に示した算出方法に基づき、吸光度比を算出する。
【0019】
本発明で用いる(A)アントラキノン系顔料は、顔料の主成分が一般式(1)で表されるアントラキノン骨格を有する化合物である。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(1)のR、Rは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン(塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、アミノ基、アミド基、アルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いる(A)アントラキノン系顔料の具体的な例としては、青色顔料PB21、PB60、赤色顔料PR83、PR123、PR168、PR177、PR179、PR190、PR194、黄色顔料PY23、PY24、PY99、PY108、PY123、PY147、PY193、紫色顔料PV5:1、PV29、橙色顔料PO43、PO51などが挙げられる。顔料の着色力が高く、色調にも優れることから、特にPR177の使用が好ましい。
【0023】
本発明における(B)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体とは、(b−1)用いる(A)アントラキノン系顔料と同じ顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(b−2)用いる(A)アントラキノン系顔料が有する化学構造の一部と同一の化学構造を有する顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体の2種類を指し、それぞれ(b−1)と(b−2)を単独でも、あるいは混合して用いても良い。例えば、(A)の有機顔料にアントラキノン系顔料PR177を用いる場合、(b−1)としてPR177にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、もしくは(b−2)として、PR177と一部の化学構造が同一である顔料PR168にスルホン酸基が導入された顔料誘導体をそれぞれ単独か、あるいは(b−1)と(b−2)を組み合わせて用いられる。これらの顔料と顔料誘導体は分子間力により強く結合し、微粒子表面を負帯電させる。顔料と顔料誘導体との結合力をより大きくするためには、顔料とその顔料自体にスルホン酸基が導入された顔料誘導体を組み合わせることがさらに好ましい。なお、以下につづく説明において、(B)については、2種類をまとめて「スルホン酸基が導入された顔料誘導体」という。
【0024】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体は、1分子中に1〜4個のスルホン酸基が導入された化合物の混合物である。スルホン酸基が導入された顔料誘導体の1分子あたりの平均スルホン酸基導入数は、好ましくは1.1個以上、より好ましくは1.4個以上である。平均スルホン酸基導入数が1.1個より少ないと、顔料粒子間の静電反発力が弱くなり分散状態が不安定化する場合がある。また、平均スルホン酸基導入数が1.4個より少ないと、水性顔料分散液の耐熱性が低下する場合がある。また、顔料誘導体の1分子あたりの平均スルホン酸基導入数は、好ましくは4個以下である。スルホン酸の導入数が4個より多いと、スルホン酸基が導入された顔料誘導体の水への溶解性が高すぎて分散不安定化する場合がある。
【0025】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体の吸収スペクトルは、スルホン酸基が導入された顔料誘導体をイオン交換水と混合して、最大吸光度が3(通常の紫外可視分光光度計の検知限界)を越えない濃度の混合液を作製し、この混合液の状態で測定する。本発明で用いるスルホン酸基が導入された顔料誘導体は、その混合液の波長400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が560nm以下であることが好ましい。吸収スペクトルの最大吸収波長が560nmより長波長側にある場合、顔料の凝集がおこりやすくなる。顔料の凝集をより少なくするためには吸収スペクトルの最大吸収波長を520nm以下にすることがさらに好ましい。
【0026】
また、スルホン酸基が導入された顔料誘導体の吸収スペクトルの最大吸収波長は、(B)顔料誘導体を合成する時の反応条件(反応温度、反応液濃度、反応時間など)によって制御することが可能である。例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などの濃度や混合比などを適切に調節し、反応温度0〜150℃、反応時間1〜24時間の範囲において適宜反応条件を変更することにより、吸収スペクトルの最大吸収波長を560nm以下とすることができる。
【0027】
本発明における顔料誘導体の吸収スペクトルの最大吸収波長の測定方法は例えば次のような方法により行う。顔料誘導体をイオン交換水に投入し、次いでボールミル、ビーズミル、超音波を印加するなどの方法により、顔料誘導体とイオン交換水の混合液を作製する。最も好ましい方法としては超音波を適当な時間印加することによって顔料誘導体とイオン交換水の混合液を作製する。次いで、紫外可視分光光度計(例えば(株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて混合液の吸収スペクトルの測定を行う。波長400〜800nmの範囲において、最大の吸光度を示す吸収スペクトルのピークの波長を最大吸収波長とする。
【0028】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体は、例えば次のような方法により合成される。前記の有機顔料を濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などに投入してスルホン化反応を行う。得られた反応液を水で希釈し、場合により金属アルカリ水溶液またはアミンまたはその水溶液で中和する。このようにして得られた懸濁液をろ過した後に水系の洗浄液で洗浄し、乾燥する。
【0029】
上記の合成過程で中和を行う場合、金属アルカリ水溶液もしくはアミンまたはその水溶液を用いるが、好ましくはアミンまたはその水溶液を用いるほうが良い。インク組成物として金属アルカリを含有していると、基材にインク滴を付着させて溶媒を揮発させた後も金属アルカリ成分が基材に残留する。この場合、基材が再び水に濡れると、残留した金属アルカリ成分が着色した部分の親水性を高め、滲みを生じやすくするおそれがある。一方、アミンは揮発しやすいため、このような滲みが発生するおそれが小さい。
【0030】
中和に用いるアミン水溶液としてはアンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶液を用いることができる。本発明では特にこれらに限定されずに種々のアミン水溶液を使用することができるが、アンモニアの使用がその揮発のしやすさから好ましい。
【0031】
本発明において、(A)アントラキノン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体との混合比は、重量比でアントラキノン系顔料:スルホン酸基が導入された顔料誘導体=50〜99:50〜1、好ましくは60〜97:40〜3、より好ましくは70〜95:30〜5で混合される。顔料誘導体の量が少なすぎれば顔料分散安定化効果が発揮されず、逆に顔料化誘導体の量が多すぎれば、色調が好ましくないほど変化する可能性が生じる。
【0032】
本発明において、(A)アントラキノン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体の固形分の顔料分散液全体に対する濃度は4〜20重量%、好ましくは8〜16重量%である。濃度が低すぎると分散液の生産効率が低く製造コストがかさむ。一方、濃度が高すぎると分散状態を安定化することが困難となる。
【0033】
本発明において、水性顔料分散液の25℃での表面張力は好ましくは60mN/m以下、より好ましくは50mN/m以下である。表面張力が60mN/mより大きいと顔料および顔料誘導体の水への濡れ性が悪いために粗大粒子が残りやすい。また、表面張力が50mN/mより大きいと分散機の分散エネルギーを均一に顔料粒子に伝達するのが難しくなり、顔料粒径の均一な顔料分散液を得ることが困難となる。一方、水性顔料分散液の25℃での表面張力は25mN/m以上であることが好ましい。水性顔料分散液の表面張力が小さすぎると、インク組成物の表面張力も小さくなるために、インクの紙への浸透性が高くなり滲みの原因となる場合がある。
【0034】
本発明の水性顔料分散液の表面張力を調整する方法としては、水溶性有機溶媒、界面活性剤、高分子分散剤等を添加する方法等が挙げられるが、顔料分散液中の顔料の保存安定性および顔料分散液の耐熱性を考慮すると水溶性有機溶媒を添加することが好ましい。
【0035】
本発明で用いる(D)水溶性有機溶媒は、その比誘電率が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であることが望まれる。用いる水溶性有機溶媒の非誘電率が小さすぎると、水性顔料分散液の比誘電率も小さくなるために、顔料粒子間の静電反発力が弱くなり、分散安定性が低下する。
【0036】
上記の範囲を満たす水溶性有機溶媒の例としては、エーテル類、アルコール類、エーテルアルコール類、エステル類、ケトン類、酸類、アミン類、酸アミド類などの種々のものを使用することができ、例えばジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等を使用することができる。
【0037】
本発明の水性顔料分散液において、(A)アントラキノン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体を合わせた固形分の濃度が4重量%のときの硫酸イオン濃度は、50ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。硫酸イオン濃度が50ppmより高いと顔料分散液の分散状態が不安定化し、硫酸イオン濃度が20ppmより高いと顔料分散液の耐熱性が悪くなる場合がある。また硫酸イオン濃度の下限は、好ましくは0.1ppmである。例えば、透析により硫酸イオン濃度を0.1ppmより小さくしようとすると、透析を繰り返す回数が非常に増大し、透析膜の目詰まりが起きる可能性が大きくなる。
【0038】
本発明の水性顔料分散液は、固形分濃度に比例して硫酸イオン濃度が増大する。そのため水性顔料分散液の固形分が4重量%より少ない場合は、換算して硫酸イオン濃度を算出することができる。例えば、水性顔料分散液の固形分濃度が1重量%の場合は、測定により得られた値を4倍することで、4重量%における硫酸イオン濃度を算出することができる。
【0039】
水性顔料分散液の固形分が4重量%より多い場合は、水性顔料分散液をイオン交換水で希釈することで固形分の濃度を4重量%とし、硫酸イオン濃度を測定する。
【0040】
本発明において、水性顔料分散液のpHは1.5〜6.5、好ましくは2〜6の酸性領域にある。顔料分子中に導入されたスルホン酸基が多いほど顔料誘導体は水に溶解しやすいが、分散液を酸性状態にすることによって、2個以上のスルホン酸基が導入された誘導体を水へ不溶化することができる。これにより、分子に2個以上のスルホン酸基を有する顔料誘導体も1個のみ有する顔料誘導体と同様に水に溶解せずに顔料粒子表面に吸着し、顔料粒子の分散安定化に寄与することが可能となる。一方、酸性が強すぎると水性顔料分散液を希釈して製造するインク組成物を適正なpH範囲におさめることが困難となる。
【0041】
なお、水性顔料分散液中の硫酸イオン濃度を低下させるためには、原料となる(A)アントラキノン系顔料、(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒のそれぞれに含まれる硫酸イオン濃度が低いことが好ましい。
【0042】
本発明で用いる(C)水としては、例えばイオン交換水や蒸留水などの硫酸イオンを含有しないものを使用することができる。
【0043】
本発明で用いる(A)アントラキノン系顔料は、例えばイオン交換水や蒸留水などで洗浄することで十分に硫酸イオンを洗浄したものを用いることが好ましい。通常有機顔料は水との親和性が低いために、公知の水洗ろ過などの方法で容易に硫酸イオンを除去することが可能である。
【0044】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体中には、通常スルホン化反応後に反応液から硫酸イオンが大量に残留する。顔料誘導体中から硫酸イオンを除去するためには、透析あるいはイオン交換を行う手法が挙げられる。特に透析は顔料誘導体と水と硫酸イオンからなるスラリーから、透析膜を通して水と硫酸イオンを取り除き、取り除いた量と同量のイオン交換水を添加することでスラリーの粘度を増加させることなく効果的に硫酸イオンを除去することが可能である。効率よく硫酸イオンを除去するためには、透析有効面積が大きい中空糸膜を用いることが好ましい。中空糸膜の材質としては、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどを使用することができる。
【0045】
本発明の水性顔料分散液を得るための顔料分散機としては、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、3本ロールミル、アトライターなどを用いる方法が好ましく採用される。メディアを使用する分散では、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、ガラスビーズなどを用いることができる。
【0046】
本発明の水性顔料分散液の分散安定性は、顔料分散液のCasson降伏値を測定することにより評価することができる。Casson降伏値が小さいほど、粒子分散液中での粒子の凝集が少ない。本発明においては、顔料分散液のCasson降伏値は好ましくは1×10−2Pa以下、より好ましくは1×10−3Paである。
【0047】
本発明の水性顔料分散液の耐熱性は、例えば次のような方法により評価することができる。65℃で30日間処理し、処理前後の粘度の変化率を測定する。処理前後の粘度の変化率が小さいほど耐熱性が良好と考えられ、粘度変化率は好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下である。
【0048】
本発明の水性顔料分散液中の顔料は、その算術平均径が好ましくは1〜150nm、より好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmの範囲にあることが望まれる。顔料の算術平均径が150nmより大きいと、インクジェットノズルで目詰まりを引き起こす可能性が高くなる。また、顔料の算術平均径が100nmより大きいと印刷物の光沢度が低下する場合がある。顔料の算術平均径が50nmより大きいと水性顔料分散液の耐熱性が低下する場合がある。算術平均径が小さいと、耐熱性の高い水性顔料分散液および顔料インクが得られ、また光学濃度が高く光沢のある印刷物が得られるため好ましいが、算術平均径が小さすぎると、粒子の比表面積が大きくなりすぎ、インク組成物中の顔料が凝集しやすくなる傾向がある。
【0049】
次に、本発明の水性顔料分散液を用いたインク組成物について説明する。上記のように、得られた水性顔料分散液を水で希釈し、以下に示すような添加物を加えることによってインク組成物が得られる。
【0050】
本発明では、(A)アントラキノン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体とからなる着色固形分がインク組成物全体量に対し、1〜16重量%、好ましくは2〜8重量%含有されていることが好ましい。インク組成物中に当該固形分が少なすぎると印刷物の着色力が小さくなり良好な描画ができなくなる。一方、当該固形分が多すぎると印刷物の着色力は大きくなるものの光沢が著しく低下する。
【0051】
本発明のインク組成物中には、基材への定着性を向上させるために高分子を含有しても良い。高分子としては、水に溶解する水溶性高分子と水に溶解しない水分散性高分子を含有することができ、アクリル系高分子、酢酸ビニル系高分子、ポリエステル系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリフェノール系高分子などを使用することができる。これらの高分子をインク組成物中に含有させる場合には、通常インク組成物全体量に対し、0.1〜10重量%含有される。量が少なすぎれば、基材への定着性を向上させる効果が得られない。一方、量が多すぎれば、インク組成物の粘度を好ましくないほど増大させたり、顔料の凝集を引き起こしたりすることがある。
【0052】
本発明のインク組成物には、インク組成物のインクジェットノズル部分での乾燥の防止や、基材への塗れ性や浸透性を改善する目的で、水溶性の有機溶媒を含有させることができる。このような目的で使用される有機溶媒の例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、γ−ブチロラクトンやN−メチル−2−ピロリドン、ジメチエルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒のほか、アセチレングリコール類、アセチレンアルコール類、アルキレングリコール類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶媒の量は、インクの全溶媒中に対し、通常50重量%以下に抑えられる。50重量%を越えて水溶性有機溶媒を含有させた場合、顔料の分散状態が不安定化するおそれがある。
【0053】
本発明のインク組成物には、カビや細菌の混入を防止する目的で防腐剤を添加することができる。ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩などを好適に用いることができる。これらは通常、インク組成物中に0.05〜1重量%含有される。これらの添加量が少なければカビや細菌の混入防止効果が発揮されず、添加量が多すぎれば顔料の分散状態の不安定化を引き起こす可能性が生じる。
【0054】
本発明のインク組成物のpHは5〜10、好ましくは6〜9の範囲にあることが望ましい。この範囲にあれば人体に接触しても安全上問題が少ない。インク組成物のpHはアンモニア、有機アミンなどのpH調整剤やリン酸などの緩衝液を用いて適宜調整することができる。
【0055】
本発明のインク組成物には、表面張力の調整や基材への浸透性の改善のためにアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤を添加することができ、泡の発生を防止するために消泡剤を添加することもできる。
【0056】
本発明のインク組成物をインクジェットプリンター用に用いる場合には、インク組成物の粘度が10mPa・s以下、好ましくは5mPa・s以下であることが望ましい。粘度が大きいと適当なサイズのインク滴を発生させてそれをとばすことが困難になる。
【0057】
本発明のインク組成物から得られる印刷物の光学濃度は、例えば光学濃度計により測定することができる。印刷物の光学濃度は、1.8以上、好ましくは2以上であることが望まれる。光学濃度が小さすぎると印刷物の着色力が小さくなり良好な印刷物を得ることが困難となる。
【0058】
本発明のインク組成物から得られる印刷物の光沢度は、例えば光沢計により測定することができる。測定角度45°における光沢度は、45以上、好ましくは60以上であることが望まれる。光沢度が小さすぎると表面がなめらかで光沢のある印刷物を得ることが困難となる。
【0059】
本発明のインク組成物は耐熱性に優れるため、ピエゾ方式のインクジェットプリンターだけでなく、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいても長期間にわたり安定したインクの吐出が実現できる。このインク組成物を用いて基材に描画した画像は対オゾン性に優れ退色しにくい。また、微細化された状態で顔料粒子が存在するため、表面がなめらかで光沢のある印刷物を得ることが可能である。本発明のインク組成物はインクジェットプリンターなどのカラー印刷を行う分野で、インクジェット用インク組成物として利用できる。
【0060】
本発明の水系顔料分散液はインクジェットプリンター用の顔料インクへ適用できるほか、液晶ディスプレイ用カラーフィルターの画素膜形成などにも応用が可能である。
【実施例】
【0061】
以下、好ましい実施態様を用いて本発明を詳しく説明するが、本発明の効力は用いた実施態様によってなんら制限されるものではない。実施例中の顔料誘導体、顔料分散液およびインク組成物の評価は以下の方法で行った。
【0062】
<測定方法>
A.顔料分散液の吸光度比
顔料分散液を(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体の固形分濃度が合わせて10ppmになるようイオン交換水で希釈し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて得られた溶液の吸収スペクトルの測定を室温にて行った。波長400〜800nmの範囲に発現した吸収スペクトルのピークのうち、波長500〜550nmにおいて最大のピークを有するピークを決定し、その吸光度を読みとり、これを吸光度[1]とした。次に、波長400〜800nmの範囲に発現した吸収スペクトルのピークのうち、波長550〜600nmにおいて最大のピークを有するピークを決定し、その吸光度を読みとり、これを吸光度[2]とした。得られた値より、吸光度[1]/吸光度[2](吸光度比)を算出した。
【0063】
B.顔料誘導体の吸収スペクトル
顔料誘導体をイオン交換水に投入して超音波を印可することにより混合液を作製し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて吸収スペクトルの測定を行った。測定の結果、400〜800nmにおいて吸光度の値が最も大きいピークが位置する波長を最大吸収波長とした。
【0064】
C.顔料分散液の表面張力
表面張力測定器(A−06、(株)山本鍍金試験器製)を用いて、白金リングとしてA−06−P01を用いて、25℃での顔料分散液の表面張力を輪環法により測定した。
【0065】
25℃に温度調整した顔料分散液をシャーレに浸し、シャーレを表面張力測定器のステージに設置した。次に、ステージをゆっくりと引き上げることで顔料分散液の液面と白金リングとを接触させた。白金リングをゆっくりと垂直に引き上げ、白金リングを顔料分散液の液面から引き離すのに必要な力を測定し、表面張力を求めた。
【0066】
D.顔料誘導体の平均スルホン酸基導入数
m−ニトロベンジルアルコールをマトリックスとして用い、高速原子衝撃イオン化法質量分析装置(日本電子(株)製JMS−SX102A)を使用して顔料誘導体の負イオン測定を行った。測定はイオン化により生成したイオンの質量(m)と電荷(z)の比(m/z)で10〜2000の範囲で行い、得られたm/zの強度から顔料誘導体のスルホン酸基導入数を求めた。また、スペクトルの強度比から1分子あたりの平均スルホン酸基導入数を算出した。
【0067】
E.顔料分散液の粘度
円錐平板型粘度計(東機産業(株)製RE100L)を用いて、25℃での顔料分散液の粘度を測定した。
【0068】
F.顔料分散液の降伏値
円錐平板型粘度計(東機産業(株)製RE100L)を用い、異なるずり速度での粘度を3点測定し、Cassonの式を用いることにより求めた。得られた降伏値より顔料分散液の保存安定性を評価した。
【0069】
G.顔料分散液の耐熱性
顔料分散液を65℃で30日間の加熱処理を行い、加熱処理前後の粘度を比較することで顔料分散液の耐熱性の指標とした。
【0070】
H.顔料分散液中の顔料粒子の粒子径
顔料分散液を(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体の固形分の濃度が合わせて0.1重量%となるようイオン交換水で希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製LB−500)を用いて顔料粒子の算術平均径を求めた。
【0071】
I.インク組成物を用いた印刷時のインクかすれ評価
インク組成物をサーマル方式インクジェットプリンター(キヤノン(株)製“ピクサス”(商品名)550i)のインクカートリッジに詰めて3台並べてインクジェットノズルから5時間連続普通紙(キヤノン(株)製“ホワイトリサイクルペーパー”(商品名)EW−500)に印字を行い、次の評価を行った。5時間後に3台とも全てにインクかすれがなかった場合を◎、5時間後に1台以上インクかすれがあるが、インクジェットノズルのクリーニングによりかすれが改善された場合を○、5時間後に1台以上インクかすれがあり、クリーニングしてもかすれが改善されなかった場合を×とした。
【0072】
インク組成物をピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製“カラリオ”(商品名)PX−G920)のインクカートリッジに詰めて3台並べてインクジェットノズルから5時間連続普通紙(キヤノン(株)製、“ホワイトリサイクルペーパー”(商品名)EW−500)に印字を行い、次の評価を行った。5時間後に3台とも全てにインクかすれがなかった場合を◎、5時間後に1台以上インクかすれがあるが、インクジェットノズルのクリーニングによりかすれが改善された場合を○、5時間後に1台以上インクかすれがあり、クリーニングしてもかすれが改善されなかった場合を×とした。
【0073】
J.印刷物に塗布、印刷したときのインク組成物から得られる印画の光学濃度評価
インク組成物をサーマル方式インクジェットプリンター(キヤノン(株)製“ピクサス”(商品名)550i)のインクカートリッジにつめて、記録媒体(キヤノン(株)製“スーパーフォトペーパー”(商品名)SP−101)に印字し、5cm×5cmのベタ画像を得た。
【0074】
インク組成物をピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製“カラリオ” (商品名)PX−G920)のインクカートリッジに詰めて、記録媒体(セイコーエプソン(株)製、(商品名)フォト光沢紙顔料専用)に印字し、5cm×5cmのベタ画像を得た。得られたベタ画像部分の光学濃度を、光学濃度計(GRETAG社製、SPECTROEYE)を用い、光源D50、視野角2度で測定した。
【0075】
K.印刷物に塗布、印刷したときのインク組成物から得られる印画の光沢度評価
得られたベタ画像部分の光沢度を、光沢度計((株)村上色彩技術研究所製、GM−3D)を用い、測定角度45度で測定した。
【0076】
実施例1
PR177(チバスペシャルティケミカルズ社製“クロモフタール”(商品名)レッドA2B)60gを攪拌しながら90℃に加熱した発煙硫酸(28重量%SO)780g中に投入した。3時間攪拌した後、氷1500g上に加えた。30分間放置後、生じた懸濁液を濾過し、得られた生成物を300mlの純水で洗浄した。純水2000ml中へ前記生成物を投入し、アンモニア水溶液で中和(pHが7以上になるまでアンモニア水溶液を添加)し、濾過を行った。得られたウェット結晶を純水で洗浄した後、80℃で乾燥した。乾燥して得られたものを純水による洗浄、濾過、乾燥という操作を10回繰り返して、65gのPR177スルホン酸基含有誘導体RS−Aを得た。上記に示した方法により、RS−Aの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は486nmであった。
【0077】
次に、RS−Aとイオン交換水を混合し、硫酸イオンを含むスラリーを作製した。作製したスラリーはPMMA透析モジュール(東レ(株)製“フィルトライザー”(商品名)B3−20A)を用いて透析を行い、PR177誘導体透析物RS−Adを得た。
【0078】
96gのPR177と24gのRS−Adを180gのトリエチレングリコールモノブチルエーテルとともにイオン交換水700gと混合しホモディスパーで攪拌してスラリーを作製した。スラリーを入れたビーカーを循環式ビーズミル分散機(ウイリー・エ・バッコーフェン社製“ダイノーミル”KDL−A)とチューブでつなぎ、メディアとして直径0.3mmのジルコニアビーズを使用して、1600rpm、3時間の分散処理を行い、水性顔料分散液1(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=80:20(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液1の吸収スペクトルを測定し、得られたチャートを図1に示す。吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.039であった。上記した方法により水性顔料分散液1の表面張力を測定したところ46mN/mであった。
【0079】
実施例2
反応温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、66gのPR177スルホン化誘導体RS−Bを得た。上記に示した方法により、RS−Bの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は492nmであった。
【0080】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、誘導体透析物RS−Bdを得た。PR177とRS−Bdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液2(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=80:20(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液2の吸収スペクトルを測定したところ吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.032であった。上記に示した方法により、水性顔料分散液2の表面張力を測定したところ46mN/mであった。
【0081】
実施例3
反応温度を70℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、66gのPR177スルホン化誘導体RS−Cを得た。上記に示した方法により、RS−Cの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は533nmであった。
【0082】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、誘導体透析物RS−Cdを得た。PR177とRS−Cdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液3(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=80:20(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液3の吸収スペクトルを測定したところ吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.017であった。上記に示した方法により、水性顔料分散液3の表面張力を測定したところ46mN/mであった。
【0083】
実施例4
反応温度を60℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、66gのPR177スルホン化誘導体RS−Dを得た。上記に示した方法により、RS−Dの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は558nmであった。
【0084】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、誘導体透析物RS−Ddを得た。PR177とRS−Ddを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液4(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=80:20(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液4の吸収スペクトルを測定したところ吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.011であった。上記に示した方法により、水性顔料分散液4の表面張力を測定したところ46mN/mであった。
【0085】
比較例1
反応温度を50℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、66gのPR177スルホン化誘導体RS−Eを得た。上記に示した方法により、RS−Eの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は565nmであった。
【0086】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、誘導体透析物RS−Edを得た。PR177とRS−Edを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液5(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=80:20(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液5の吸収スペクトルを測定し、得られたチャートを図2に示す。吸収スペクトルのピーク吸光度の比は0.992であった。上記した方法により水性顔料分散液5の表面張力を測定したところ46mN/mであった。
【0087】
実施例5
実施例1で得たPR177スルホン化誘導体透析物RS−Adを24gと、96gのPR177を360gのトリエチレングリコールモノブチルエーテルとともにイオン交換水520gと混合しホモディスパーで攪拌してスラリーを作製した後、実施例1と同様の分散処理を行い、水性顔料分散液6(固形分濃度:12重量%、水:水溶性有機溶媒=59:41(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液6の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.023であった。上記した方法により、水性顔料分散液6の表面張力を測定したところ45mN/mであった。
【0088】
実施例6
実施例1で得たPR177スルホン化誘導体透析物RS−Adを24gと、96gのPR177を70gのトリエチレングリコールモノブチルエーテルとともにイオン交換水810gと混合しホモディスパーで攪拌してスラリーを作製した後、実施例1と同様の分散処理を行い、水性顔料分散液7(固形分濃度:12wt%、水:水溶性有機溶媒=92:8(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液7の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.013であった。上記した方法により、水性顔料分散液7の表面張力を測定したところ58mN/mであった。
【0089】
実施例7
実施例1で得たPR177スルホン化誘導体透析物RS−Adを24gと、96gのPR177を50gのトリエチレングリコールモノブチルエーテルとともにイオン交換水830gと混合しホモディスパーで攪拌してスラリーを作製した後、実施例1と同様の分散処理を行い、水性顔料分散液8(固形分濃度:12wt%、水:水溶性有機溶媒=94:6(重量比))を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液8の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.011であった。上記した方法により、水性顔料分散液8の表面張力を測定したところ61mN/mであった。
【0090】
実施例1〜7、比較例1で得られた水性顔料分散液の評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
実施例8
実施例1で得られた41.7gの水性顔料分散液1にイオン交換水43.3g、グリセリン12g、エチレングリコール2.8g、トリエタノールアミン0.2gを加えインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
実施例9〜14、比較例2
実施例2〜7、比較例1で得られた各水性顔料分散液を用いて、実施例8と同様の方法でインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示す。
【0095】
比較例3
インクカートリッジ(セイコーエプソン(株)製、(商品名)ICR33)中からレッドインク組成物を抜き取り、イオン交換水で1000倍に希釈した。上記に示した方法により希釈したレッドインク組成物の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は0.967であった。ICR33をピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製“カラリオ” (商品名)PX−G920)に設置して、上記に示した方法によりレッドインク組成物の評価を行った。吐出安定性は◎、光学濃度は1.52、光沢度は56.3であった。次に、ICR33中から抜き取ったインク組成物をサーマル方式インクジェットプリンター(キヤノン(株)製“ピクサス”(商品名)550i)のインクカートリッジ(キヤノン(株)製、(商品名)BCI−3eM)に詰めて、上記に示した方法によりインクの吐出を試みたが、インクは吐出しなかった。550iのノズノのクリーニングを5回繰り返した後、インクの吐出を再度試みたがインクは吐出しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1で得られた水性顔料分散液1の波長400〜800nmの範囲における吸収スペクトルを示したチャート図
【図2】比較例1で得られた水性顔料分散液5の波長400〜800nmの範囲における吸収スペクトルを示したチャート図
【符号の説明】
【0097】
1 波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度
2 波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アントラキノン系顔料、(B)アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、該水性顔料分散液を含有するインク組成物を水で希釈して(A)アントラキノン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの吸収スペクトルのピークにおいて、波長550〜600nmにおける最大のピークの吸光度に対する、波長500〜550nmにおける最大のピークの吸光度が1.01倍以上である水性顔料分散液。
【請求項2】
アントラキノン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体と水の混合液の400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が560nm以下となる(B)顔料誘導体を用いる請求項1記載の水性顔料分散液。
【請求項3】
25℃における表面張力が60mN/m以下である請求項1または2記載の水性顔料分散液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性顔料分散液を含有するインク組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−231074(P2007−231074A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52452(P2006−52452)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】