説明

水抜き工法

【課題】地山内に形成したボアホールから地下水を引き出す場合などに、ボアホールの内面に孔荒れがあったり崩落しやすい地山にあっても良好に水抜きできるようにする。
【解決手段】地山内にボアホールを形成すると同時にボアホール内に、周壁が通水可能なケーシングパイプを収容配置し、後端側に水等の流体を注入する流体注入口を、先端側に所定限度以下の圧力では開封しない封止部をそれぞれ有し、流体による所定限度以下の圧力で拡径可能な管状のパッカーをボアホール開口側のケーシングパイプ内に挿入し、流体注入口から流体を所定限度以下の圧力で注入してパッカーを拡径することによりケーシングパイプを介してパッカーをボアホール内面に圧着固定した後、パッカー内に流体を所定限度以上の圧力で注入して封止部を開封することによって地山内の地下水をケーシングパイプの水抜き孔からパッカー内を介してボアホールの外側に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル掘削工事に伴う地山補強工事等を行う際に地山内に形成したボアホールから地下水を引き出す場合などに適用する水抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来たとえばトンネル掘削時に、地山内の地下水位が高い場合には一般に切羽前方に長尺の水抜きボーリングを行い、切羽鏡が安定するレベルまで地下水位を下げて掘削工事等を行う。しかし、トンネル掘削断面を全面的に地下水位以下に保つことは難しく、また可能であったとしても莫大な費用がかかるため、実際には掘削後のトンネル周囲にはある程度の地下水が存在することは避けられない。またトンネルを掘削する地山が砂層や砂礫層もしくは低強度の砂岩層などの場合は、トンネル掘削後に施工された吹付けコンクリートの僅かな隙間から、湧水が継続し、その湧水とともに地山の細粒分がトンネル内に流出して、吹付けコンクリートと地山の境界に空隙が生じたり、地山強度が低下して、収束していたトンネルの変位が再び進行し、覆工コンクリートを施工するために追加の補強が必要になったり、必要なトンネル断面が侵略されて再掘削やコンクリート吹き付け、もしくはパッカーによる坑壁面の復元が必要になる等の問題がある。
【0003】
このような場合に、地質が概ね均質であれば下向きに穿孔したボアホールに排水用のストレーナ管を設置して吸引する、いわゆるウェルポイント工法によって、掘削後の地下水位を大きく低下させることが可能であるが、帯水層がトンネル断面の上部に分布していたり、部分的に水平、あるいは傾斜して存在する場合は、削孔した孔に単純にストレーナ管を挿入するだけのウェルポイント工法では、ボアホールの口元側から流入する空気を吸ってしまうため効率的に排水することができない。
【0004】
これに対処するため、例えば下記特許文献1においては、ストレーナ管の口元側にリング状パッカーを2箇所(先端パッカー、口元パッカー)取付け、各リング状パッカーに止水材を注入し削孔面に密着させて仕切った後に、先端パッカーと口元パッカー間にさらに止水材を注入して硬化させ、これによりボアホール口元からの空気の流入を防止し、吸引効率を高める水抜き工法が提案されている。しかし、上記工法は、2箇所のリング状パッカー及びそのリング状パッカー間に止水材を注入して硬化させなければならず、施工に手間と時間を要する上、孔壁が平滑でない等の孔荒れがある場合は、先端パッカーとボアホール壁面との密着が不十分となり、リング状パッカー間に注入された止水材が先端パッカーを越えてストレーナ管の先端側に達し、ストレーナ管の通水孔を閉塞し、排水を阻害する等のおそれがある。
【0005】
そこで、本出願人等は下記特許文献2に記載のように、地山内に形成した水抜き用ボアホールから地下水を抜き出すための水抜き工法として、周面に多数の通水孔を有するストレーナ管(水抜き管)と、水等の流体による所定限度以下の圧力で拡径可能な管状のパッカーとをカプラ等で接続した状態で上記ボアホール内に挿入し、上記パッカーの先端側に所定限度以下の圧力では開封しない封止部を設けると共に、上記パッカーの後端側に設けた後端スリーブから水等の流体を所定限度以下の圧力で注入し上記パッカーを拡径してボアホール内面に圧着固定した後、上記パッカー内に水等の流体を所定限度以上の圧力で注入して上記封止部を開封することによって上記地山内の地下水を上記ストレーナ管の通水孔から上記パッカー内を介してボアホールの外側に排出することを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−187185号公報
【特許文献2】特開2009−13694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにボアホール内に、ストレーナ管とパッカーとをカプラ等で接続した状態で挿入する際に、ボアホールの内面に孔荒れがあったり、孔壁が崩れやすい場合には挿入しずらく、特に砂質地山等の孔が自立しない地山で、しかも地下水圧が高い場合にはボアホールが崩落しやすく、ストレーナ管やパッカーの挿入が困難もしくは挿入不能となる等のおそれがある。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、ボアホールの内面に孔荒れがあったり崩落しやすい地山にあっても良好に水抜き作業を行うことのできる水抜き工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明による水抜き工法は以下の構成としたものである。即ち、地山に形成したボアホールから地下水を抜き出すための水抜き工法であって、上記地山内にボアホールを形成すると同時に該ボアホール内に、周面に多数の水抜き孔を有するケーシングパイプを収容配置し、後端側に水等の流体を注入する流体注入口を、先端側に所定限度以下の圧力では開封しない封止部をそれぞれ有し、上記流体による所定限度以下の圧力で拡径可能な管状のパッカーを上記ボアホール開口側のケーシングパイプ内に挿入し、上記流体注入口から水等の流体を所定限度以下の圧力で注入して上記パッカーを拡径することにより上記ケーシングパイプを介して上記パッカーをボアホール内面に圧着固定した後、上記パッカー内に水等の流体を所定限度以上の圧力で注入して上記封止部を開封することによって上記地山内の地下水を上記ケーシングパイプの水抜き孔から上記パッカー内を介してボアホールの外側に排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように本発明による水抜き工法は、地山内にボアホールを形成すると同時に該ボアホール内にケーシングパイプを収容配置するようにしたから、例えば砂質地山等の孔が自立しない地山で、しかも地下水圧が高い場合でも上記ケーシングパイプで孔壁の崩落を防水することができると共に、その後は上記ケーシングパイプ内に挿入したパッカーを水等の流体で径方向に膨張させて上記ケーシングパイプを介してボアホールの内面に圧着させることで地山が固定され、その状態で封止部を開封することによって地山内の地下水をケーシングパイプの水抜き孔からパッカー内を介してボアホールの外側に良好かつ確実に排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明による水抜き工法に用いるケーシングパイプの一例を示す正面図、(b)はその側面図。
【図2】(a)は本発明による水抜き工法に用いるケーシングパイプの他の例を示す正面図、(b)はその側面図。
【図3】(a)は上記パッカーにおよびそれに接続したストレーナ管の側面図、(b)は(a)の縦断側面図、(c)はストレーナ管の別の例を示す側面図、(d)は(c)の縦断側面図。
【図4】(a)は上記パッカーの平面図、(b)はその正面図、(c)は(b)におけるc−c断面図、(d)は(c)の一部の拡大図、(e)は(d)におけるe−e断面図。
【図5】(a)〜(d)は上記パッカーの作製プロセスの一例を示す説明図。
【図6】(a)〜(e)は本発明による水抜き工法の施工プロセスの一例を示す説明図。
【図7】(f)〜(i)は上記水抜き工法の続きのプロセスの一例を示す説明図。
【図8】(a)はパッカーをケーシングパイプ内に挿入した状態の横断面図、(b)は上記パッカーを膨張させて拡径した状態の同上図。
【図9】(a)および(b)はパッカーの凹部に止水部材を装填してケーシングパイプ内に挿入した状態の横断面図、(c)は上記パッカーを膨張させて拡径した状態の同上図。
【図10】(a)〜(d)は本発明による水抜き工法の施工プロセスの他の例を示す説明図。
【図11】(a)は変更例のパッカーをケーシングパイプ内に挿入した状態の横断面図、(b)は上記パッカーを膨張させた状態の同上図。
【図12】(a)は他の変更例のパッカーをケーシングパイプ内に挿入した状態の横断面図、(b)は上記パッカーを膨張させた状態の同上図。
【図13】(a)は本発明による水抜き工法をトンネル掘削時の地山補強を行う際に適用した例の縦断面図、(b)はその横断面図。
【図14】本発明による水抜き工法を崖等の法面の補強を行う際に適用した例の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による水抜き工法を図に示す実施形態に基づいて説明する。図1および図2は本発明による水抜き工法に使用するケーシングパイプの一例を示すもので、図1に示すケーシングパイプ1は、予め管状に形成した横断面円形の鋼管等よりなる素材管の周壁面に貫通する水抜き孔1aを多数形成すると共に、上記素材管の少なくとも周方向1箇所に、母線方向(軸線方向)に延びるスリット状の切込溝11を設けたものである。特に図の場合は上記切込溝11を上記母線方向に所定の間隔をおいて間欠的に設けることによって、隣り合う切込溝11・11間に連接部12を残すようにしたものである。なお、図示例のケーシングパイプ1はその端部に連接部12を残すようにしたものであるが、その端部の連接部12は必ずしも残さなくてもよい。また上記切込溝11は図の場合は周方向の1箇所にのみ設けたが周方向に複数設けるようにしてもよい。
【0013】
また図2に示すケーシングパイプ1は、予め多数の貫通する水抜き孔1aを形成してなる方形平板状の素材板を筒状に丸めて、その周方向両端部を互いに突き合わせると共に、その突き合わせ部13の長手方向複数箇所を溶接Wによって連結したものである。なお、上記実施形態は周方向に1枚の素材板で構成したが、周方向に複数枚の素材板で構成し、その周方向に隣り合う素材板の端部を上記と同様に互いに突き合わせると共に、その突き合わせ部の長手方向複数箇所を溶接して連結してもよい。
ケーシングパイプ1の口元側(図における左側)には、該ケーシングパイプ1と略同径のゴムパイプ10が接着材等を介して嵌着接続されており、ゴムパイプ10は水抜き孔のないもので、図示例においては長さ50cm程度のものである。
【0014】
本発明による水抜き工法を施工する際、上記ケーシングパイプ1内には、膨張式のパッカーを単独で、もしくは周壁が通水可能なストレーナ管を接続した状態で挿入するもので、図3(a)、(b)は膨張式のパッカー2の一端(先端)に、繊維質整形管、フィラメント編状体、或いは立体網状体等からなるストレーナ管3を筒状のカプラ4を介して接続した状態を示す。なお、ストレーナ管3は、図3(c)、(d)に示すように、素材そのものには透水性がない管の周面に多数の通水孔3aを設けたものを用いても差し支えない。
【0015】
上記パッカー2は、図4に示すように横断面欠円形の中空パイプ状のパッカー本体20の両端部にそれぞれ先端スリーブ21と後端スリーブ22とを設けた構成である。そのパッカー2を構成するパッカー本体20と先端スリーブ21および後端スリーブ22の材質は適宜であるが、例えば金属、プラスチック等、種々の材料を用いることができる。特に、打撃や重機による強圧でパッカー2をボアホールに強制的に押し込むことができるようにするには金属製とするのが望ましく、特に鋼管を用いるのが望ましい。
【0016】
上記パッカー2の作製方法は適宜であるが、例えば上記パッカー本体20の素材管として図5(a)に示すような鋼管等の断面円形の金属管20’を用い、その金属管20’を同図(b)のように直径方向に押し潰して扁平な中空帯状に形成した後、それを幅方向両端部が互いに向かい合うように筒状に丸めて同図(c)のような横断面欠円形の中空パイプ状のパッカー本体20を形成する。次いで、そのパッカー本体20の軸線方向両端部にそれぞれ同図(d)のように先端スリーブ21と後端スリーブ22とを圧入等で嵌合接続すると共に必要に応じて溶接等で固着すればよい。
【0017】
上記先端スリーブ21は上記パッカー本体20の先端部内周面に嵌合固定され、後端スリーブ22はパッカー本体20の後端部外周面に嵌合固定されている。そのパッカー本体20の後端部には、該パッカー本体20の中空部に連通する流体注入口2aを設けると共に、その流体注入口2aを除く後端スリーブ22の内側のパッカー本体20の後部を肉盛り溶接で閉塞した構成であり、上記流体注入口2aから上記パッカー本体20内に水等の流体を所定限度以下の圧力で注入することによって、上記パッカー本体20が後述する図8(a)のような状態から同図(b)のように膨張して拡径するように構成されている。
【0018】
また上記パッカー2には、上記所定限度以上の圧力で開封可能な封止部を設けるようにしたもので、本実施形態においては上記封止部として金属またはプラスチック等よりなるねじ栓23を先端スリーブ21の前側の雌ねじ孔(不図示)に螺合させて設けたものである。また上記先端スリーブ21にねじ栓23を螺合した状態で上記パッカー2内に水等の流体による所定限度以上の圧力が作用したとき、上記封止部としてのねじ栓23が解放されるようにしたもので、本実施形態においては上記先端スリーブ21にねじ込んだねじ栓23が上記パッカー2内に作用する水等の流体による所定限度以上の圧力で破壊もしくは上記ねじ栓23と先端スリーブ21との螺合部が弾性または塑性変形して螺合状態が解除され、それによって上記封止部としてのねじ栓23が先端スリーブ21から分離して飛び出すことによって上記の封止部が解放もしくは解除される構成である。
【0019】
なお、上記所定限度以上の圧力で封止部を解放もしくは解除する構成としては、上記のようなねじ栓23を用いて、その破壊や螺合部での分離を生じさせるもののほか、先端スリーブ21の開口部を閉じる適宜の開口閉鎖部材を接着や溶接もしくはワンタッチジョイント(抜け止め機構付きの嵌合型管継手)等で固着したもの、或いは先端スリーブ21とその開口閉鎖部材とを一体成形したもの等とすることもできる。そして上記の接着や溶接もしくはジョイントの部分または封止部材自体が破壊する構造とすることができる。
【0020】
前記ストレーナ管3は、地山内の細粒分が地下水と共に前記ケーシングパイプ1の水抜き孔1aを通過して地山の強度低下や崩落を引き起こすおそれがある場合に、それらの細粒分を捕捉するのに有効である。上記ストレーナ管3および前記カプラ4の材質は適宜であるが、例えば金属やプラスチック等その他種々の材料を用いることができる。
【0021】
上記ストレーナ管3は、前記通水孔3aを有するタイプの内側或いは外側もしくは両方にフィルタ素材からなる管を同心状に配置したものでもよく、或いは、通水孔3aを覆うように別途フィルタを設けるようにしてもよく、さらに、ストレーナ管3内にフィルタ材を充填する等その他適宜である。
【0022】
上記ストレーナ管3の内側または外側もしくは両側にフィルタを配置する具体例としては、例えば筒状の網や不織布等の網状体をストレーナ管3の内側または外側もしくは両側に被覆し、必要に応じて接着材やリングまたはネット等その他適宜に固定手段で固定すればよい。また上記ストレーナ管3内にフィルタ材を充填する具体例としては、例えば植物繊維、化学繊維、プラスチックまたは金属製のシート材、棒材、管材等をフィルタ材としてそのままストレーナ管3内に充填する、或いは上記フィルタ材を柱状に成形してストレーナ管3内に挿入する等その他適宜である。さらに素材そのものに透水性がなく金属やプラスチック等からなるストレーナ管3の通水孔3aをフィルタ材で覆う具体例としては、例えばその通水孔3aの開口縁部に該通水孔3aよりも大径の座ぐり孔を浅く形成し、その座ぐり孔内にスチールメッシュ等よりなるフィルタを嵌め込んで固定する等その他適宜である。
【0023】
本発明は上記のように構成されたケーシングパイプ1とパッカー2および必要に応じて上記ストレーナ管3を用いて水抜き工法を施工するもので、例えばトンネル掘削工事に伴う地山補強工事等を行う際に水抜き作業を行う場合を例にして図6および図7に示す施工プロセスに従って具体的に説明する。なお、図6および図7の施工プロセスは、ケーシングパイプとして前記図1に示すケーシングパイプ1を用い、パッカーとしては前記図3(a)と(b)に示すストレーナ管3を接続したパッカー2を用いて施工したものである。
【0024】
上記の水抜き工法を施工するに当たっては、先ず地山補強工事等を行う際に水抜き作業を行うべき地山Gにパッカー2を挿入するためのボアホールhを形成すると同時に該ボアホールh内にケーシングパイプ1を収容配置する。図6(a)はその一例を示すもので、中空筒状の削孔ロッド51の先端に装着した削孔用ビット52を、上記削孔ロッド51と共に所定の掘削方向に回転させながら地山G内に押し込むことによって該地山G内にボアホールhを形成するとともに、それと同時に上記削孔用ビット52にケーシングシュー53を介して連結したケーシングパイプ1を、上記削孔ロッド51および削孔用ビット52の前進に伴って、ボアホールh内に引き込んで収容配置するようにしたものである。このようにケーシングパイプ5を引き込むようにしてボアホールh内に配置させると、その後端部のゴムパイプ10が無理なく的確にボアホールhの口元にセットされる。
【0025】
なお、上記のようなボアホールhを形成する手段としては上記のような削孔用ビット52に限らず各種構成のものが適用可能であり、例えば公知のリングビットとセンタービットとからなるものを用いる場合には、センタービットを削孔ロッドと共にボアホールh内から引き抜き回収して再使用し、リングビットとケーシングシューおよびケーシングパイプとをボアホールh内に残留させるようにすればよい。
【0026】
そして図6(b)のように所定の深さまでボアホールhが形成され、そのボアホールh内の所定深さ位置までケーシングパイプ1が挿入されたところで削孔作業を終了し、ケーシングパイプ1内の削孔ロッド51をケーシングパイプ1内から引き抜き回収して繰り返し削孔作業に使用すると共に、削孔用ビット52とケーシングシュー53およびケーシングパイプ1をボアホールh内に残留させる。その際、上記ボアホールhの周囲の地山G内の地下水がボアホールh内に浸透してきたときは、ケーシングパイプ1の水抜き孔1aからケーシングパイプ1内を通ってボアホールhの外側に排出させることができる。又そのとき、ボアホールh内もしくは内壁面にある上記水抜き孔1aよりも大きい砂礫等は水抜き孔1aを透過することなく、その位置に保持され、ボアホールh内の砂礫の流出やボアホール内壁面の崩落等を防止することができる。
【0027】
次いで、上記ボアホールh内に残留させたケーシングパイプ1の内方にパッカー2を挿入するもので、図の実施形態は図6(c)に示すようにパッカー2の先端側にカプラ4を介してストレーナ管3を接続した状態で挿入するようにしたものである。その際、上記ボアホールhの内面側にはケーシングパイプ1があるので、ボアホールhの孔壁が荒れていたり、崩落しやすい状態にあっても上記ケーシングパイプ1をガイドとして上記パッカー2等をボアホールh内に容易かつ円滑に挿入することができる。
【0028】
次に、図6(d)のように上記パッカー2の後端スリーブ22に流体注入用のアタッチメント6を介して注入管7を接続し、その注入管7から上記アタッチメント6および流体注入口2aを介してパッカー本体20内に水等の流体を所定限度(例えば鋼管製のパッカーを拡径するのに必要な最大圧力25〜30MPa程度)以下の圧力で加圧注入する。すると、前記の中空パイプ状のパッカー本体20が、図6(e)のように長手方向ほぼ全長にわたって次第に膨らんで、パッカー本体20の横断面形状が図8(a)のほぼ内外二重の筒状態から同図(b)のほぼ一重の筒状態に拡径され、それに伴ってケーシングパイプ1も拡径方向に押し広げられる。
【0029】
それによって前記図1のように形成されたケーシングパイプ1は隣り合う切込溝11・11間の連接部12が破断されて欠円形となり、また切込溝11を周方向に複数設けたものにあっては連接部12若しくはその付近が周方向に伸びるなどして図6(e)のようにケーシングパイプ1も拡径されながらパッカー本体20とともにボアホールhの内面に圧接される。その結果、パッカー本体20が図のようにケーシングパイプ1を介してボアホールhの内周面に圧着した状態に保持され、パッカー2およびストレーナ管3がボアホールh内に強固に定着固定されると共に、パッカー2の周囲の地山Gが該パッカー2で補強され、地山の挙動や崩落が防止される。また、この際ケーシングパイプ1の後端部のゴムパイプ10はケーシングパイプ1と同様に拡径するが、その周壁には水抜き孔はないので、パッカー本体20の外側とボアホールhの孔壁との間を水密にシールする。
【0030】
その状態で、引き続き上記注入管7からアタッチメント6および流体注入口2aを介してパッカー本体20内に水等の流体を上記所定限度以上(例えば前記の最大圧力25〜30MPa以上)の圧力で加圧注入して前記の封止部を開封するもので、本実施形態においては図7(f)のようにパッカー2の先端スリーブ21の雌ねじ孔(不図示)にねじ込んだ封止部としてのねじ栓23と上記雌ねじ孔との螺合部が弾性または塑性変形して螺合状態が解除され、それによって上記ねじ栓23が先端スリーブ21から分離して飛び出す構成である。その飛び出したねじ栓23は、その前側の前記カプラ4内に設けた棒状体41に当たって、その位置に停止し、それよりも前方のストレーナ管3内にねじ栓23が進入して管が詰まるのが防止される。
【0031】
上記のようにして封止部としてのねじ栓23による封止状態を解除することによって、上記パッカー2内とストレーナ管3内とが連通される。その状態で、図7(g)のように上記アタッチメント6および注入管7とをパッカー2の後端スリーブ22から取り外すことによって、前記の地山G内からケーシングパイプ1内に浸入した地下水を再びボアホールhの外に排出させることができる。すなわち、図7(g)のように上記ケーシングパイプ1内に浸入した地下水は、ストレーナ管3の通水孔3aから該ストレーナ管3内に浸入したのち上記パッカー2内を介してボアホールhの外に排出される。なお、その際、パッカー2の後端スリーブ22に排水チューブ(不図示)等を接続すると、その排水チューブ等を介して所望の位置に排水することができる。
【0032】
なお、上記の排水は、地下水の自重による流出力に任せて自然排出させてもよいし、上記排水チューブに吸水ポンプ等を接続して強制的に吸引排水するようにしてもよい。強制的に吸引排水する場合は、上記パッカー2とボアホールhの内壁面との接触面が、気密又はそれに近い状態になるようにするのが望ましく、そのためには、ボアホールhの径に対し拡径時のパッカー2の径を大き目に設定するのが望ましい。これにより、強制吸引力を作用させたときに、ボアホールhの口元側からの空気の流入が防止され、地下水の吸引を効率的に行うことが可能となる。
【0033】
上記のようにして地下水の排出が終われば、排出チューブや給水ポンプを後端スリーブ22から取り外して水抜き作業を終了する。その後、上記ボアホールh内にパッカー2とストレーナ管3およびケーシングパイプ1を残留させて補強材として機能させる。また必要に応じて排水後の通水路を閉じるために、パッカー2の後端スリーブ22から止水用のシール材を上記パッカー2およびストレーナ管3内さらにケーシングパイプ1内に注入して硬化させる。或いは図7(h)のように後端スリーブ22から例えばモルタルやセメントミルクもしくは樹脂等のグラウト材を注入し、そのグラウト材を図7(i)のように上記パッカー2とストレーナ管3およびケーシングパイプ1内ならびにその周囲の地山内に浸透固化させることによって、上記パッカー2をロックボルトとし、ストレーナ管3やケーシングパイプ1を補強材とした地山補強工として機能させることもできる。
【0034】
上記のように本発明による水抜き工法によれば、地山の水抜き作業を容易・迅速に行なうことが可能となる。特に、地山G内にボアホールhを形成すると同時に該ボアホールh内にケーシングパイプ1を収容配置するようにしたから、ボアホールhの内面に孔荒れ等が生じやすい地山でも削孔と同時にケーシングパイプ1を容易に収容配置することができると共に、その状態で地山G内の地下水がボアホールh内に浸透してくる場合には、ケーシングパイプ1の水抜き孔1aで砂礫等の流出を防止しながらケーシングパイプ1内を経てボアホールhの外側に排出させることができる。
【0035】
また上記ボアホール開口側のケーシングパイプ1内にパッカー2を挿入して拡径することで該パッカー2がケーシングパイプ1を介してボアホール内面に圧着固定され、それによってボアホールhの内壁面および地山Gが固定されてボアホールの崩落等を防止できると共に、その状態でパッカー2の封止部を解放することで、上記の地山Gからケーシングパイプ1内に浸入した地下水を上記パッカー2内を介してボアホールhの外側に安定性よく排出させることができる。また例えば異なる長さのパッカーを準備しておけば、現場の状況に応じたパッカーを選択して用いることができ、予想外の長い止水長が必要になった場合などにも、迅速に対応することが可能となる。
【0036】
なお、上記パッカー2のパッカー本体20は、図3(e)のように凹状に窪んだ状態にあり、拡径後もボアホールhの径や地山強度によっては図8(b)のように凹部20aが残ることがあり、またボアホール内面への圧着力を維持させるには、むしろ上記のような凹部20aが残る方が好ましい。しかし、拡径後も上記のような凹部20aが残ると、後端スリーブ22の形状や径によっては、上記凹部20aを介して地下水が漏出し、それによってボアホールhの内面が崩れやすくなる等のおそれがある。このような場合には、例えば図9(a)または同図(b)のように拡径前のパッカー本体20の凹部20aに適宜の止水部材8を装着し、必要に応じて接着材や適宜の固定手段で固定した状態でケーシングパイプ1内に挿入すれば、拡径後も図9(c)のように凹部20aが残っても、その凹部20aとケーシングパイプ1との間の隙間Sが上記止水部材8で閉塞されて上記のような地下水の漏出を防ぐことができる。
【0037】
上記止水部材8の材質は適宜であるが、例えばネオプレンスポンジゴム等のスポンジ状材料、シリコンゴム等の粘弾性材料、水膨張性を有する繊維または高分子系材料、外力が加わると破砕し、破片が内部に収納した硬化材と反応して硬化する樹脂カプセル、天然ゴムまたは合成ゴム及びそれらとセメント系材料との混合材などを用いることができる。また上記止水部材8は、パッカー本体20の長手方向の一部、例えば長手方向一箇所または複数箇所に設けてもよく、或いは長手方向全長もしくはほぼ全長にわたって連続的に設けるようにしてもよい。さらに、止水部材8をより粘性の高い止水材料や水膨張性材料で構成し、これをパッカー本体20の周囲に塗布しておいて、パッカー本体20が拡径したときにこの部分のケーシングパイプ1の水抜き孔1aから止水材料や水膨張性材料が外側に押し出されてこの部位をシールするようにしておいてもよい。
【0038】
上記実施形態は、パッカー2にカプラ4を介してストレーナ管3を接続した状態でケーシングパイプ1内の挿入するようにしたが、上記のストレーナ管3およびカプラ4は必ずしも用いなくてもよい。図10はその一例を示すもので、前記図6(b)のようにボアホールhを形成すると同時に該ボアホールh内にケーシングパイプ1を収容配置した後、削孔ロッド51を引き抜き回収したところで上記ケーシングパイプ1内にパッカー2のみを挿入すると、図10(a)の状態になる。その状態で図10(b)に示すように前記と同様にパッカー2の後端スリーブ22に流体注入用のアタッチメント6を介して注入管7を接続し、その注入管7から上記アタッチメント6および流体注入口2aを介してパッカー本体20内に水等の流体を所定限度以下の圧力で加圧注入して前記と同様にパッカー2を膨張し拡径してケーシングパイプ1を介してボアホールhの内面に圧着固定する。
【0039】
次いで、上記注入管7からアタッチメント6および流体注入口2aを介してパッカー本体20内に水等の流体を上記所定限度以上の圧力で加圧注入すると、図10(c)のように封止部としてのねじ栓23が前記と同様に先端スリーブ21から飛び出させてパッカーの先端側が解放される。その状態で、図10(d)のようにアタッチメント6および注入管7とをパッカー2の後端スリーブ22から取り外すと、前記と同様に地山G内からボアホールh内のケーシングパイプ1内に浸入した地下水をパッカー2を介してボアホールhの外に自然排水もしくは強制排出させることができる。なお、上記先端スリーブ21から飛び出たねじ栓23は、前記ストレーナ管3を用いた場合のように該管3を塞ぐおそれがないので前記の棒状体41等は必ずしも設けなくてもよいが、必要に応じて設けるようにしてもよい。
【0040】
上記のようにしてボアホールh内に浸入した地下水をパッカー2を介してボアホールhの外に排出させた後は、前記と同様にボアホールh内にパッカー2およびケーシングパイプ1を残留させて補強材として機能させたり、必要に応じて排水後の通水路を閉じるために、パッカー2の後端スリーブ22から止水用のシール材を上記パッカー2およびストレーナ管3内さらにケーシングパイプ1内に注入して硬化させる。或いは後端スリーブ22から例えばモルタルやセメントミルクもしくは樹脂等のグラウト材を注入してパッカー2とケーシングパイプ1内ならびにその周囲の地山内に浸透固化させて地山補強を行うこともできる。
【0041】
なお、図10に示すケーシングパイプ1は、口元部分にゴムパイプ10がなく、全長が水抜き孔1aを有する管からなっているものであり、水圧が低い場合にはこれでも充分である。また、上記実施形態はケーシングパイプ1として前記図1の構成のものを用いたが、前記図2の構成のものを用いることもできる。その場合にも、膨張式パッカー2の膨張時に前記溶接部W2が破断するなどして上記と同様の作用効果が得られる。また上記ケーシングパイプ1の材質や構成は、前記図1および図2に限らず適宜変更可能であり、少なくとも地山Gに形成したボアホールh内に挿入してボアホール内面が湧水等によって崩れるのを防止することができると共に、削孔後は該ケーシングパイプ1内への膨張式パッカー2の挿入を許容し、該パッカー2を径方向に膨張させたときには、それとともにケーシングパイプ1が径方向に膨張してボアホール内面に密着した状態に定着固定できるものであればよい。
【0042】
また上記実施形態は、膨張式パッカー2の膨張前の横断面形状が前記図8(a)に示すような形状のものを用いたが、例えば図11(a)または図12(a)のような横断面形状のものを用いることも可能である。図11(b)および図12(b)はそれぞれ図11(a)および図12(a)のパッカー2の膨張時の横断面図である。上記以外にも各種の横断面形状のパッカーを使用することができる。
【0043】
さらに本発明による水抜き工法は各種の地山や岩盤等を補強する場合などに適用可能であり、その具体的な対象としては、例えば図13に示すようなトンネル掘削工事における切羽鏡部21の前方地山を補強する場合や、トンネル掘削後のトンネル空間Tの上部を補強する場合などに良好に適用することができる。図中、22は上記の切羽鏡部51に設けた吹き付けコンクリート、23はトンネル掘削後のトンネル空間Tの上部内周面に敷設した支保工を示す。
【0044】
また本発明は上記のようなトンネル掘削工事に限らず、例えば図14に示すような崖等の法面を補強する場合などにも適用可能である。この場合、ケーシングパイプ1とパッカー2とを図のようにほぼ水平方向に施工するか、或いはボアホールhの開口側が孔奥側よりも低くなるように傾斜状態に施工するとよい。そのようにすると、パッカー本体20内に注入した水等の流体を、施工後(膨張後)にパッカー本体から排出させる場合には、容易に自然排出させることができる。さらに本発明は上記のような補強工事に限らず他の工事に付帯する水抜き工法として若しくは専ら水抜き作業のみを行う専用の水抜き工法としても施工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように本発明による水抜き工法は、地山G内にボアホールhを形成すると同時に該ボアホールh内にケーシングパイプ1を収容配置するようにしたから、ボアホールhの内面に孔荒れ等が生じやすい地山でも削孔と同時にケーシングパイプ1を容易に収容配置することができると共に、その状態で地山G内の地下水がボアホールh内に浸透してくる場合には、ケーシングパイプ1の水抜き孔1aで砂礫等の流出を防止しながらケーシングパイプ1内を経てボアホールhの外側に排出させることができる。また上記ボアホール開口側のケーシングパイプ1内にパッカー2を挿入して拡径することで該パッカー2がケーシングパイプ1を介してボアホール内面に圧着固定され、それによってボアホールhの内壁面および地山Gが固定されてボアホールの崩落等を防止できると共に、その状態でパッカー2の封止部を解放することで、上記の地山Gからケーシングパイプ1内に浸入した地下水を上記パッカー2内を介してボアホールhの外側に安定性よく排出させることができるもので、各種補強工事やその他の工事に付帯する水抜き工法として或いは専用の水抜き工法としても適用可能であり、産業上も有効に利用することができるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 ケーシングパイプ
1a 水抜き孔
11 切込溝
12 連接部
13 突き合わせ部
2 パッカー
2a 流体注入口
20 パッカー本体
20a 凹部
21 先端スリーブ
22 後端スリーブ
23 ねじ栓(封止部)
3 ストレーナ管
3a 通水孔
4 カプラ
51 削孔ロッド
52 削孔用ビット
53 ケーシングシュー
6 アタッチメント
7 注入管
8 止水部材
h ボアホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に形成したボアホールから地下水を抜き出すための水抜き工法であって、
上記地山内にボアホールを形成すると同時に該ボアホール内に、周壁が通水可能なケーシングパイプを収容配置し、
後端側に水等の流体を注入する流体注入口を、先端側に所定限度以下の圧力では開封しない封止部をそれぞれ有し、上記流体による所定限度以下の圧力で拡径可能な管状のパッカーを上記ボアホール開口側のケーシングパイプ内に挿入し、
上記流体注入口から水等の流体を所定限度以下の圧力で注入して上記パッカーを拡径することにより上記ケーシングパイプを介して上記パッカーをボアホール内面に圧着固定した後、
上記パッカー内に水等の流体を所定限度以上の圧力で注入して上記封止部を開封することによって上記地山内の地下水を上記ケーシングパイプの水抜き孔から上記パッカー内を介してボアホールの外側に排出することを特徴とする水抜き工法。
【請求項2】
上記パッカーをケーシングパイプ内に挿入する際に、該パッカーの先端側に、周壁が通水可能なストレーナ管を接続した状態で上記パッカーをケーシングパイプ内に挿入し、上記パッカー内に水等の流体を所定限度以上の圧力で注入して上記封止部を開封することによって上記地山内の地下水を上記ケーシングパイプの水抜き孔および上記ケーシングパイプの通水孔を経たのち上記パッカー内を介してボアホールの外側に排出するようにした請求項1に記載の水抜き工法。
【請求項3】
上記パッカーの拡径前および拡径後の該パッカーの周面に凹部が存在する構成とし、上記パッカーをケーシングパイプ内に挿入する際に上記凹部内に止水部材を装着した状態で上記ケーシングパイプ内に挿入するようにした請求項1または2に記載の水抜き工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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