説明

水溶性の非イオン性有機高分子の存在下での混合モードクロマトグラフィーによる抗体の能力の増大および精製方法

本発明は、凝集していない無傷の抗体、ならびに断片化もしくは凝集した抗体、宿主細胞タンパク質、DNA、エンドトキシンおよび/またはウイルスを含む望ましくない物質を含有する混合物から、少なくとも1種の凝集していない無傷の抗体を精製するための混合モードクロマトグラフィーの使用に関する。本発明はさらに、インビボ用途に適する抗体の精製のために、他の分画方法を伴う多段階の手法にこのような方法を統合することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2007年1月9日に出願された米国特許仮出願第60/879,484号;2007年3月8日に出願された米国特許仮出願第60/905,696号;および2007年4月20日に出願された米国特許仮出願第60/913162号のそれぞれの優先権の恩典を主張するものであり、これらのそれぞれは参照により組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、混合モードクロマトグラフィーによる抗体の精製を向上するための方法に関する。特定の態様において、この向上によってクロマトグラフィー法がより多い量の抗体と結合することを可能にし得、それにより生産性を改善し、かつ未精製調製物からの抗体の初期捕捉のためのその実用化を促進する。他の態様において、この向上は、抗体ではないタンパク質および他の不純物から、抗体をより効率的に分離することを可能にし得る。他の態様において、この向上は、凝集した抗体から、凝集していない抗体をより効率的に分離することを可能にし得る。他の態様において、この向上は、抗体断片から、無傷の抗体をより効率的に分離することを可能にし得る。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
混合モードクロマトグラフィーは、タンパク質または他の溶質を吸着するために複数の化学的機構を使用する、固相クロマトグラフィー担体の使用を含む。例としては、以下の機構:陰イオン交換、陽イオン交換、疎水性相互作用、親水性相互作用、水素結合、π-π結合、および金属アフィニティのうちの2種またはそれ以上の組み合わせを活用する、クロマトグラフィー担体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0004】
混合モードクロマトグラフィー担体は、例えばイオン交換等の単一モードクロマトグラフィー法では再現することができない特有の選択性を提供するが、方法の開発は複雑で予測不可能であり、かつ多大な資金を必要とするかもしれない。その場合でも、有用な手法の開発にはヒドロキシアパタイトにより例示されるような長期間を必要とする可能性がある。
【0005】
ヒドロキシアパタイトは、Ca10(P04)6(OH)2の構造式をもつリン酸カルシウムの結晶性鉱物である。化学的な反応性の部位は、一対の正電荷をもつカルシウム原子および三つ組の負電荷をもつリン酸基を含む。ヒドロキシアパタイトとタンパク質との間の相互作用は複数の様式であり、それ故その分類は混合モード担体とされている。相互作用の1つの様式は、結晶カルシウム原子に対するタンパク質のカルボキシルクラスタの金属アフィニティを含む。相互作用の別の様式は、負電荷をもつリン酸塩の結晶との、正電荷をもつタンパク質アミノ残基の陽イオン交換を含む(Gorbunoff, Analytical Biochemistry 136 425 (1984);Kawasaki, J., Chromatography 152 361 (1985))。
【0006】
特定のタンパク質の結合および溶出に対する2つの機構の個々の寄与は、溶出液のために用いる塩の選択によってある程度制御することができる。陽イオン交換の相互作用は、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、または塩化ナトリウムおよび塩化カリウムが特に挙げられる塩化物を含む、任意の塩の勾配を用いて制御することができる。カルシウムアフィニティの様式は、最もよく用いられるリン酸塩ではない塩に対しては不活性である。従って、相互作用によってヒドロキシアパタイト上のカルシウム基と結合するタンパク質を塩化ナトリウムのみによって溶出することはできない。それらはリン酸塩を用いて溶出することができる。
【0007】
ヒドロキシアパタイトは通常、抗体の精製、特に部分的に精製された調製物からの抗体の精製のために用いられる。カラムは通常平衡化され、かつ試料は、低濃度のリン酸塩を含む緩衝液に加えられる。吸着した抗体は、リン酸塩の増加勾配で溶出されることが多い(Gagnon, Purification Tools for Monoclonal Antibodies, Chapter 5, Validated Biosystems, Tucson, ISBN 0-9653515-9-9 (1996);Luellauら, Chromatography 796-165 (1998))。例えば塩化ナトリウム等のリン酸塩ではない塩と組み合わせたリン酸塩の勾配も、抗体精製を含むタンパク質精製のために用いられてきた(Freitag, “Purification of a recombinant therapeutic antibody by hydroxyapatite chromatography,” 口頭発表, 2d International Hydroxyapatite Conference, サンフランシスコ (2001))。このようなアプローチの1つには、リン酸塩を低レベルで一定に保ちながら、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの勾配を適用することが含まれる(Kawasakiら, Eur. J. Biochem., 155-249 (1986);Sun, “Removal of high molecular weight aggregates from an antibody preparation using ceramic hydroxyapatite,” 口頭発表, 3rd International Hydroxyapatite Conference, Lisbon (2003);Gagnonら, “Practical issues in the use of hydroxyapatite for industrial applications,”ポスター BIOT 322, 232nd meeting of the American Chemical Society, サンフランシスコ, (2006) [http://www.validated.com/revalbio/pdffiles/ACS_CHT 0_02.pdf];Wyethら, 米国特許出願公開番号 WO/2005/044856 (2005))。本アプローチも、フルオロアパタイトを用いた抗体精製に適用されてきた(Gagnonら, “Simultaneous removal of aggregate, leached protein A, endotoxin, and DNA from protein A purified monoclonal IgG with ceramic hydroxyapatite and ceramic fluorapatite,” 口頭発表, Wilbio Conference on Purification of Biological Products, サンタモニカ, (2005) [http://www.validated.com/revalbio/pdffiles/PBP_2005.pdf])。フルオロアパタイトは、ヒドロキシアパタイトをフッ素化することによって調製される。これは、ヒドロキシル基をフッ素で置換して、Ca10(P04)6F2の構造式をもつ鉱物を生じる。
【0008】
ヒドロキシアパタイトは、単一の工程で高い精製度を与えることが示されている。しかしながらリン酸塩および他のイオンの存在は、ヒドロキシアパタイトまたはフルオロアパタイトのいずれかを、捕捉法として経済的に不適当な程度にまで結合能力を低下させ得る(Gagnonら, Hydroxyapatite as a Capture Method for Purification of Monoclonal Antibodies, IBC World Conference and Exposition, サンフランシスコ (2006) [http://www.validated.com/revalbio/pdffiles/Gagnon_IBCSF06.pdf])。これは、それらが、例えばプロテインAアフィニティクロマトグラフィー等の、リン酸塩濃度および塩濃度に比較的影響されない捕捉法と競合するのを防ぐ。
【0009】
抗体ではないタンパク質不純物のほとんどは抗体より前に溶出するが、異なるクローン由来の抗体は溶出プロフィールの異なる範囲で溶出し、かつそれゆえに不純物が混入したタンパク質と種々の度合いで重なり合うかもしれない。分離を向上するための公知の方法は無効であることが多く、かつその上、経済的な理由で好ましくないかもしれない。例えば、浅い(shallow)直線的溶出勾配を適用できるが、これは緩衝液の体積および所要時間を増やすという負の副次的作用を有し、かつ依然として所望の純度を達成できない可能性がある。
【0010】
ヒドロキシアパタイトは、例えば断片等の分解された形態の抗体の除去に有効であることが示されているが、選択性は、溶出を塩化物勾配を用いて行うかまたはリン酸塩勾配を用いて行うかに大きく依存している。
【0011】
ヒドロキシアパタイトおよびフルオロアパタイトは、多くの抗体調製物からの凝集体の除去に有効であることが示されている。抗体凝集体は通常、抗体の後に溶出されるが、種々の度合いで抗体と一緒に共溶出され得る。凝集体は、インビトロの診断的用途に関連して、貯蔵安定性(shelf stability)、感度、精度、および分析結果の再現性を低下させる、非特異的相互作用に寄与することが公知であることから、凝集体の除去が重要である。凝集体は例えば、インビボの治療的用途に関連して、補体の活性化、アナフィラキシー、または療法中和抗体(therapy-neutralizing antibody)の形成等の、有害な薬理作用を媒介することが公知である。最終生成物において十分に低い凝集レベルを達成するための付加的な工程を必要とすることから、凝集体は精製効率も低下させる。低い一定濃度のリン酸塩での、塩化物勾配を用いたヒドロキシアパタイトおよびフルオロアパタイトの溶出は、単純なリン酸塩勾配よりも効率的であることが示されているが、このアプローチでさえ、全ての抗体調製物に対して十分ではないかもしれない。
【0012】
抗体精製のために種々の他の混合モードクロマトグラフィー法が近年紹介されている。混合モードの機能性を活用した市販品の例としては、MEP Hypercel(Pall Corporation);Capto-MMC、Capto-Adhere、Capto-Q、Capto-S(GE Healthcare));およびABx(J.T. Baker)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの製品は、凝集体、宿主細胞タンパク質、DNAおよびウイルスを抗体調製物から除去する、種々の度合いの能力を有するが、ヒドロキシアパタイトを用いる場合、方法の開発は、複雑かつ予測不可能であり、捕捉法としてのそれらの有用性は、低い能力により限定されることが多い。
【0013】
水溶性の非イオン性有機高分子は、抗体を含むタンパク質を沈降させるそれらの能力に関して、タンパク質精製の分野で公知である。それらがプロテインAアフィニティクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーにおけるタンパク質の保持を増大させることも報告されている(Gagnon, Purification Tools for Monoclonal Antibodies, Chapter 5, Validated Biosystems, Tucson, ISBN 0-9653515-9-9 (1996);Gagnonら, “Multiple mechanisms for improving binding of IgG to protein A,” ポスター, BioEast, Washington D. C., (1992);Gagnonら, “A method for obtaining unique selectivities in ion exchange chromatography by adding organic solvents to the mobile phase,” ポスターおよび口頭発表, 15th International Symposium on HPLC of Proteins, Peptides, and Polynucleotides, Boston (1995) [http://www.validated.com/revalbio/pdffles/p3p95iec.pdf])。このような有機高分子としては、種々の高分子分子量の、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、セルロースおよびデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。PEGはHO-(CH2-CH2-O)n-Hの構造式をもつ有機高分子である。タンパク質分画のためのその利用に加えて、PEGは、薬学的処方での使用に適したタンパク質安定化剤として公知である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、水溶性の(すなわち親水性の)非イオン性有機高分子の存在下で、抗体調製物を混合モードクロマトグラフィー担体と接触させることによって、抗体調製物から無傷の凝集していない抗体を精製する方法に関する。出願人は、驚いたことに、非イオン性有機高分子の存在が混合モードクロマトグラフィー担体上での抗体の結合能力を増大させ、それによって、より高レベルの生産性の達成を可能にすること、および未精製の調製物からのそれらの最初の捕捉に関して考えられ得る方法の範囲の拡大を可能にすることを発見した。出願人は、さらに驚いたことに、非イオン性有機高分子の存在が、不純物が混入したタンパク質の大部分と比較して、混合モードクロマトグラフィー担体上での抗体の保持を優先的に増大させ、それによって抗体ではないタンパク質の除去を改善するための新規な選択性を付与することを発見した。出願人は、さらに驚いたことに、非イオン性有機高分子の存在が、凝集していない抗体と比較して、混合モードクロマトグラフィー担体上での凝集した抗体および他の非常に大きな分子の保持を優先的に増大させ、それによって、大きな不純物を除去するための新規な選択性および優れた分離性能を付与することを発見した。最も驚いたことに、出願人は、可溶性の非イオン性有機高分子の抗体結合および溶出挙動への効果が、それらそれぞれの本来の選択性における劇的な違いにもかかわらず、異なる混合モードクロマトグラフィー法の間で比較的一様であることを発見した。特定の混合モードクロマトグラフィー担体の組成にかかわらず、それが、本発明を任意の抗体調製物に適用するための画一的なアプローチを可能にすることから、これは特に価値がある。
【0015】
抗体調製物は、非イオン性有機高分子の種々の濃度で、混合モードクロマトグラフィー担体に適用され得る。いくつかの態様において、非イオン性有機高分子の濃度は、約0.01%から50%までの範囲である。いくつかの態様において、非イオン性有機高分子の濃度は、0.1%〜50%、1%〜50%、3%〜50%、5%〜50%、1%〜70%、1%〜10%、0.1%〜10%等である。
【0016】
非イオン性有機高分子の濃度を、一定に維持してもよいし、または分離の過程を通して変えてもよい(濃度の増加もしくは減少の勾配で、または濃度の段階的な変更によるものが含まれるが、これらに限定されない)。
【0017】
非イオン性有機高分子の平均分子量は種々であり得る。いくつかの態様においてこの平均分子量は、約100から10,000ダルトンまで、例えば、100〜1000、1000〜5000等の範囲である。
【0018】
いくつかの態様において、非イオン性有機高分子はPEGである。いくつかの態様において、PEGは6,000ダルトンの平均分子量を有し、かつ/または0.01から7.5%の濃度で適用される。いくつかの態様において、PEGは2,000ダルトンの平均分子量を有し、かつ/または0.01から15%の濃度で適用される。
【0019】
いくつかの態様において、抗体調製物は非イオン性有機高分子の存在下で、混合モードクロマトグラフィー担体に適用され、それによって担体の抗体結合能力を増加させる。従って、いくつかの態様において、十分な濃度の非イオン性有機高分子が10%(または、例えば20%、50%等)まで溶出を遅らせるために適切な緩衝液中に存在する。例えば、抗体を溶出させるために塩の増加勾配を用いる場合、溶出した抗体ピークの中心は、非イオン性有機高分子の非存在下で出現するであろう濃度よりも、少なくとも10%高い塩の濃度で出現する。
【0020】
いくつかの態様において、抗体調製物は、凝集していない抗体および不純物の結合を可能にする条件下で、その後、不純物は担体に結合したまま残るが、凝集していない抗体は溶出されるような条件に変更することによって達成される、凝集していない抗体の分画を用いて混合モードクロマトグラフィー担体に適用される。この適用モードは、「結合‐溶出」モードと称されることが多い。
【0021】
結合‐溶出モードのいくつかの態様において、pHを変更するか、または溶出用の塩の濃度を増加させると同時に、溶出の間、非イオン性有機高分子の濃度を一定に維持する。
【0022】
結合‐溶出モードのいくつかの態様において、pHを変更するか、または溶出用の塩の濃度を増加させると同時に、溶出の間、非イオン性有機高分子の濃度を増加させる。
【0023】
結合‐溶出モードのいくつかの態様において、pHおよび塩の濃度を一定に維持すると同時に、溶出の間非イオン性有機高分子の濃度を減少させる。
【0024】
抗体調製物は、凝集した抗体および他の大きな分子である不純物の結合を可能にするが、凝集していない抗体の結合を防ぐ条件下で、混合モードクロマトグラフィー担体に適用され得る。この適用モードは、「フロー‐スルー」モードと称されることが多い。結合した凝集体は引き続いて、適切な緩衝液を用いた洗浄工程によってカラムから除去され得る。
【0025】
本発明の更なる目的および利点は、以下に続く記載の一部に記載されるであろうし、かつ一部はその説明から明らかになるであろうし、または本発明の実施により知り得る。本発明の目的および利点は、特許請求の範囲で明記される要素および組み合わせによって、実現および達成されるであろう。
【0026】
本発明は、プロテインAおよび他の型のアフィニティクロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、他の混合モードクロマトグラフィー、およびクロマトグラフィーではない方法を含むが、これらに限定されない、1つまたは複数の他の方法と組み合わせて実施され得る。これらの方法のための適切な条件を開発すること、および特定の抗体の精製を達成するためにそれらを本明細書に記載される本発明と統合することは、当業者の能力の範囲内である。
【0027】
前記の一般的な記載および下記の詳細な記載は、どちらも単に例示および説明のためのものであって、主張される本発明を限定するものではないことが理解される。
【0028】
本明細書に組み入れられ本明細書の一部を構成する添付の図面は、記載と共に本発明の理念を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】非イオン性有機高分子を用いてヒドロキシアパタイト上の抗体調製物の力学的結合能力を増加させる、本発明の適用を説明する。
【図2】非イオン性有機高分子を用いて、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、抗体調製物からの、抗体ではないタンパク質、凝集した抗体および他の不純物の除去を改善する、本発明の適用を説明する。
【図3】非イオン性有機高分子を用いて、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、抗体調製物からの、凝集した抗体および凝集していない抗体の分離を改善する、本発明の適用を説明する。
【図4】非イオン性有機高分子を用いて、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる、凝集した抗体の分離を改善する、本発明の適用を説明する。
【図5】抗体単量体からの抗体凝集体の分離を説明する。2つの異なる抗体(「キメラ(a)」および「キメラ(b)」)はヒドロキシアパタイト上でそれぞれ異なる溶出特性を有したが、PEGの付加はそれらにほとんど同じように影響したことを左のグラフは示す。これはPEGの効果が系の選択性を支配することを実証する。さらにこれは、この方法が異なる抗体に広範囲に適用可能であって、かつ、PEGの非存在下では起こらない、単量体からの凝集体の分離をもたらすことを説明する。右のグラフは、単量体および凝集体のピークの分離度が、わずかな量のPEGの存在下であっても向上することを示す。1.5およびそれより大きいR値は一般にピーク間のベースラインを示し、第二のピークが溶出し始める前に1つのピークを十分に溶出させることができること意味する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
A. 定義
本発明をより容易に理解し得るように用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明全体を通して説明される。
【0031】
「単一モード担体」とは、単一の化学吸着機構を実質的に含む、クロマトグラフィーの固相のことを指す。例としては、陽イオン交換体および陰イオン交換体が挙げられる。
【0032】
「混合モードクロマトグラフィー担体」とは、2種またはそれ以上の化学機構の組み合わせを実質的に含むクロマトグラフィーの固相のことを指す。いくつかの態様において、この組み合わせは、単一モード担体では達成できない、抗体、抗体凝集体、抗体断片、他のタンパク質、DNA、エンドトキシンおよびウイルスの間での分画を達成することができるような、特有の選択性をもたらす。混合モード担体に組み合わせることができる化学機構の例としては、陽イオン交換、陰イオン交換、疎水性相互作用、親水性相互作用、水素結合、π-π結合、および金属アフィニティが挙げられるが、これらに限定されない。固相は、多孔質粒子、非多孔質粒子、膜、またはモノリス(monolith)であることができる。
【0033】
「非イオン性有機高分子」とは、水溶性で非荷電性の、直線状または分岐状高分子の有機組成物のことを指す。例としては、種々の分子量の、デキストラン、デンプン、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールは構造式HO-(CH2-CH2-O)n-Hを有する。例としては、100から10,000ダルトンまでの範囲の平均高分子分子量をもつ組成物が挙げられるが、これらに限定されない。市販のPEG調製物の平均分子量は通常、ハイフンで結んだ接尾語で示される。例えば、PEG-6000とは約6,000ダルトンの平均分子量をもつ調製物のことを指す。
【0034】
「抗体」とは、免疫グロブリン、複合体、またはそれらの断片型のことを指す。この用語としては、例えばヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え型抗体、ハイブリッド抗体、突然変異型抗体、移植抗体、およびインビトロで生成した抗体等の、天然型また遺伝子改変型を含む、ヒトまたは他の哺乳類の細胞株から誘導されるIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMという分類のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。「抗体」としては、免疫グロブリン部分を含む融合タンパク質を含むがこれらに限定されない複合体形態も挙げられ得る。「抗体」としては、それらが抗原結合機能を保持するかどうかにかかわらず、例えばFab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAb、Fc、および他の組成物等の抗体断片も挙げられ得る。
【0035】
「抗体調製物」とは、無傷の凝集していない抗体を含む任意の組成物のことを指す。該調製物は、抗体断片および/または凝集体を含み得る。核酸、エンドトキシンおよびウイルスを含む可能性があるがこれらに限定されない、抗体ではないタンパク質および他の不純物も存在してもよい。
【0036】
「凝集体」とは、少なくとも2個の抗体、および多くの場合それ以上の抗体(例えば、5、10、20またはそれ以上の抗体)の会合のことを指す。この会合は、抗体を会合させた機構にかかわりなく、共有結合性または非共有結合性のどちらかであり得る。この会合は、抗体間での直接的なもの、または抗体を互いに連結する他の分子を介した間接的なものであってもよい。後者の例としては、他のタンパク質を介したジスルフィド連結、脂質を介した疎水性会合、DNAを介した電荷会合、抽出プロテインA(leached protein A)によるアフィニティ会合、または複数の構成要素を介した混合モード会合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
「複合体」とは、1種または複数種の抗体ではない分子との抗体の会合のことを指す。この会合は、会合の機構にかかわりなく、共有結合性または非共有結合性のどちらかであり得る。例としては、他のタンパク質、脂質、DNA、抽出したプロテインA、または複数の構成成分との会合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
「抗体ではないタンパク質」(NAP)とは、抗体産生培地中に作製したタンパク質、および/または抗体産生の間、細胞株もしくは宿主により産生したタンパク質のことを指す。
【0039】
本明細書で本発明に関連する「結合‐溶出モード」とは、抗体調製物が非イオン性有機高分子の存在下で適用される場合に、無傷の凝集していない抗体、および不純物が、どちらも混合モードクロマトグラフィー担体に結合するように緩衝液の条件が確立されている、クロマトグラフィーの操作アプローチのことをいう。その後、無傷の凝集していない抗体の分画は、不純物は結合したまま残るが、関心対象の生産物が担体から溶出されるような条件に変更することによって達成される。これらの不純物は任意で、適切な洗浄緩衝液によって除去され得る。
【0040】
本明細書で本発明に関連する「フロー‐スルーモード」とは、凝集体および他の大きな分子である不純物を選択的に保持して、それによりそれらの除去を達成するが、無傷の凝集していない抗体は、適用した混合モードクロマトグラフィー担体を通過するように緩衝液の条件が確立されている、クロマトグラフィーの操作アプローチのことを指す。
【0041】
「調製的用途」とは、本発明が、研究、診断または治療の用途のための純粋な無傷の凝集していない抗体を得ることを目的に実施される状況のことを指す。このような用途は、1バッチ当たり、抗体がミリグラムからキログラムの範囲である、任意の規模で実施され得る。
【0042】
「インライン希釈(In-line dilution)」とは、抗体がカラムに結合し得る前に沈降するのを避けるために用いることができる、クロマトグラフィーの試料の平衡化の方法のことを指す。事前に非イオン性有機高分子を抗体調製物に添加することは、ある期間にわたって抗体を沈降させる可能性がある。充填したクロマトグラフィーカラムに適用する場合、このような沈降は問題を引き起こす可能性がある。インライン希釈では、非イオン性有機高分子を、カラム上に注入されている抗体調製物に添加する。プレカラムで抗体を非イオン性有機高分子と接触させる時間が非常に短いために抗体沈降を生じることができない条件が用いられ得る。
【0043】
B. 材料
1. 混合モードクロマトグラフィー担体
種々の混合モードクロマトグラフィー媒介物が市販されており、これらのいずれかを本発明の実施に用いることができる。市販されているものの例としては、セラミックヒドロキシアパタイト(CHT)もしくはセラミックフルオロアパタイト(CFT)、MEP-Hypercel(商標)、Capto-MMC(商標)、Capto-Adhere(商標)、Capto-S(商標)、Capto-Q(商標)、およびABx(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
「ヒドロキシアパタイト」とは、Ca10(P04)6(OH)2の構造式をもつリン酸カルシウムの不溶性ヒドロキシル化鉱物を含む、混合モード担体のことを指す。その相互作用の主要な様式は、ホスホリル陽イオン交換およびカルシウム金属アフィニティである。
【0045】
「フルオロアパタイト」とは、Ca10(P04)6F2の構造式をもつリン酸カルシウムの不溶性フッ素化鉱物を含む混合モード担体のことを指す。その相互作用の主要な様式は、ホスホリル陽イオン交換およびカルシウム金属アフィニティである。
【0046】
「セラミック」ヒドロキシアパタイト(CHT)または「セラミック」フルオロアパタイト(CFT)とは、ナノ結晶を粒子に凝塊形成し、かつ高温で溶融してクロマトグラフィー適用に適した安定なセラミック小球体に作製した、それぞれの鉱物の形態のことを指す。セラミックヒドロキシアパタイトの市販品の例としては、CHT タイプIおよびCHT タイプIIが挙げられるが、これらに限定されない。フルオロアパタイト市販品の例としては、CFT タイプIおよびCFT タイプIIが挙げられるが、これらに限定されない。特定されない限り、CHTおよびCFTとは、約10、20、40、および80ミクロンを含むが、これらに限定されない任意の平均直径のほぼ球状の粒子のことを指す。ヒドロキシアパタイトもしくはフルオロアパタイトの選択、型、および平均粒径は、当業者により決定され得る。
【0047】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、陰イオン交換および疎水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、MEP-Hypercel(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、陽イオン交換および親水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、Capto-S(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、陰イオン交換および親水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、Capto-Q(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、陽イオン交換、陰イオン交換および疎水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、ABx(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、水素結合およびπ-π結合の可能性をもつ、陰イオン交換および疎水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、Capto-Adhere(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、水素結合およびπ-π結合の可能性をもつ、陽イオン交換および疎水性相互作用の機能性の組み合わせを活用する。このような担体の例としては、Capto-MMC(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明は、ヒドロキシアパタイトまたはフルオロアパタイトを含む、充填ベッドカラム(packed bed column)、流動/膨張ベッドカラム(fluidized/expanded bed column)、および/または、一定時間混合モード担体が抗体調製物と混合される、バッチ操作で実施され得る。
【0054】
いくつかの態様において、混合モードクロマトグラフィー担体は、カラムに充填される。
【0055】
いくつかの態様において、混合モード担体は、少なくとも5 mmの内径および少なくとも25 mmの高さのカラムに充填される。このような態様は、例えば、特定の抗体に対する種々の条件の効果を評価するために有用である。
【0056】
別の態様は、調製的用途を支持するために必要な任意の寸法のカラムに充填された混合モード担体を使用する。特定の用途の要件に応じて、カラムの直径は、1 cm未満から1 メートルを超える範囲であり得、かつカラムの高さは、1 cm未満から30 cmを超える範囲であり得る。
【0057】
適切なカラムの寸法は、当業者により決定され得る。
【0058】
2. 抗体
本発明を適用できる抗体調製物としては、天然、合成または組換え原料由来の、未精製または部分的に精製した抗体が挙げられ得る。未精製の抗体調製物は、血漿、血清、腹水、乳、植物抽出物、細菌溶解物、酵母溶解物、または馴化細胞培地(conditioned cell culture media)を含むが、これらに限定されない種々の原料から生じ得る。部分的に精製した調製物は、少なくとも1つのクロマトグラフィー、沈降、他の分画工程、または前記ものの任意の組み合わせにより処理された、未精製の調製物から生じ得る。クロマトグラフィーの工程(step)または工程(steps)は、アフィニティクロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー、または混合モードクロマトグラフィーを含むがこれらに限定されない、任意の方法を使用することができる。沈降の工程(step)または工程(steps)としては、塩沈降またはPEG沈降を含むが、これらに限定されない任意の方法が挙げられ得る。他の分画工程としては、結晶化または膜濾過が挙げられ得るが、これらに限定されない。いくつかの態様において、抗体はペグ化抗体ではない。
【0059】
3. 非イオン性有機高分子
種々の市販の非イオン性有機高分子を、本発明を実施するために用いることができる。例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、セルロース、デキストラン、デンプン、およびポリビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
PEGは、本発明の状況の中で、可溶性の非イオン性有機高分子の挙動のための一般的なモデルを提供する。従って、PEGは以下の文章で論じられるが、本明細書で具体的に列挙される他の非イオン性高分子を含むがこれらに限定されない他の非イオン性高分子に対してこの情報が等しく適用されることを認識すべきである。
【0061】
本発明は、約100から約10,000ダルトンまでの範囲の平均高分子分子量をもつ、PEGを用いて実施され得る。例示的なPEGとしては、例えば、200、300、400、500、900、1000、1400、2000、3300、4500、8000、10000、14000等の平均分子量を有するPEGが挙げられる。いくつかの態様において、PEGは、400〜1000、200〜1000、400〜2000、または1000〜5000の平均重量を有する。多岐にわたる異なったPEGが、例えば、Aldrichから入手できる。
【0062】
PEGまたは他の有機高分子は、直線状または分岐状の高分子であり得る。
【0063】
より低い分子量のPEGは、一般に、より高い分子量のPEGと同様の効果を達成するために、より高い濃度を必要とするであろう。
【0064】
より大きな抗体および融合タンパク質の結合を増大させるために、所定の分子量のPEGが、より小さいタンパク質の増大した結合量と同じ結合量をもたらすためのPEGの濃度に対する濃度と比較して、一般により低い濃度で用いられる。例えば、約960kDの概算の分子量をもつIgMは一般に、特定の結合増強度を達成するために、160kDの概算の分子量をもつIgGが必要とするPEG濃度よりも低いPEGの濃度を必要とするであろう。凝集体、複合体、および他の大きな分子である不純物の保持は、一般に、それらが誘導される凝集していない形態のタンパク質よりも大きい度合いに増強されるであろう。
【0065】
弱く保持される分子に対して同様に増強された結合を達成するためのPEGに関する濃度と比較して、一般に、PEGのより低い濃度が、混合モードクロマトグラフィー担体によって強く保持される分子の結合を増強するために必要とされるであろう。
【0066】
2つ前の節に記載した効果は一般に、混成されるであろう。非イオン性有機高分子の非存在下で強く保持される大きな分子の保持は、本発明の適用によって、より小さくかつ弱く保持されるか、より小さくかつ強く保持されるか、あるいはより大きくかつ弱く保持される分子よりも増大されるであろう。
【0067】
いくつかの態様において、約6,000ダルトンの平均分子量をもつPEGを0.0〜7.5%の濃度範囲で使用して、凝集した形態から無傷のIgGを分離する(図を参照のこと)。
【0068】
いくつかの態様において、約2,000ダルトンの平均分子量をもつPEGを0.0〜15.0%の濃度範囲で使用して、凝集した形態から無傷のIgGを分離する。
【0069】
本発明の実施のための、有機高分子の、同一性、適当な平均分子量および濃度は、当業者により決定され得る。
【0070】
C. 方法の説明
抗体調製物を混合モード担体と接触させるための調製におけるいくつかの態様において、カラム内部の化学的環境は平衡化されている。これは、通常、適切なpH;伝導性;非イオン性有機高分子の、同一性、分子量および濃度;ならびに他の関連する変数を確立するために、カラムを通じて平衡緩衝液を流すことにより遂行することができる。
【0071】
いくつかの態様において、本発明を実施できるようになる前に、抗体調製物もカラム平衡緩衝液に適合する条件に平衡化される。これは、一般に、pH、塩濃度の調整;非イオン性有機高分子の、同一性、平均分子量および濃度からなる。
【0072】
一つの態様において、抗体調製物をカラムに適用する前に、非イオン性有機高分子は抗体調製物に直接添加される。しかしながらこれは、試料をカラムに載せることができるようになる前に、過剰な濃度の高分子が抗体または調製物の他の構成成分を沈降させる可能性があるため、用いられ得る非イオン性有機高分子の量を限定する可能性がある。
【0073】
別の態様において、非イオン性有機高分子は、インライン希釈によって、抗体調製物に添加される。これは、プレカラムで高分子が試料と接触する時間を、数秒またはそれ未満に減らすことから、より高い割合の非イオン性有機高分子を使用することを可能にする。適切な条件は、当業者により決定され得る。
【0074】
いくつかの態様において、カラムおよび抗体調製物を平衡化した後、この抗体調製物をカラムと接触させてもよい。抗体調製物は、例えば、約50〜300 cm/時間の範囲の線流速(linear flow velocity)で適用され得る。適切な流速は、当業者により決定され得る。
【0075】
フロー‐スルーモードの一つの態様において、凝集した抗体はカラムに結合するが、凝集していない抗体はカラムを通過し収集される。抗体調製物の後に、平衡緩衝液と通常同じ組成である洗浄緩衝液を続ける。これは、凝集していない抗体を収集できるように、残存する凝集していない抗体をカラムから移動させる。保持される凝集体は任意で、適切な洗浄緩衝液を用いてカラムから除去してもよい。
【0076】
フロー‐スルーモードの条件は、所望される特定の抗体に応じて、開発することができる。本発明の範囲を限定することを意図するのではなく、以下の説明は、特定の抗体のために所望されるフロー‐スルー条件を開発するための先導として提供される。いくつかの態様において、それにより凝集体は混合モードカラムに結合し、かつ凝集していない抗体は結合しないであろう、PEG(または他の可溶性の非イオン性有機高分子)濃度が特定される。例えば、リン酸塩、塩化ナトリウム、他の塩、またはそれらの組み合わせを、抗体/凝集体が溶出される条件を特定するために、種々の濃度および条件で、最初は可溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で試験する。次いで、凝集していない抗体は通過するが、凝集体はカラムに結合したまま残るという、適切な濃度が特定されるまで、可溶性の非イオン性有機高分子の量を増加させて試料に注入する。
【0077】
結合‐溶出モードで行われる適用の一つの態様において、凝集した抗体および凝集していない抗体は、どちらもカラムに結合する。いくつかの態様において、試料適用の後に、平衡緩衝液と通常同じ組成である洗浄緩衝液を続ける。これは保持されていない不純物をカラムから除去する。次いで、凝集していない抗体を、カラムに結合した凝集した抗体をそのまま残す条件下でカラムから溶出させる。保持される凝集体を任意で、適切な洗浄緩衝液を用いてカラムから除去してもよい。
【0078】
結合‐溶出モードの一つの態様において、洗浄緩衝液は、平衡緩衝液とは異なる配合を有してもよい。
【0079】
当業者は、溶出の間非イオン性有機高分子濃度を操るための種々の戦略が、本発明の好結果な適用を可能にするだろうと認識すると思われる。
【0080】
結合‐溶出モードの一つの態様において、pHを変更する、および/または溶出用の塩の濃度を増加させると同時に、溶出の間非イオン性有機高分子の濃度を一定に維持する。
【0081】
結合‐溶出モードの別の態様において、pHおよび溶出用の塩の濃度を一定に維持すると同時に、溶出の間非イオン性有機高分子の濃度を減少させる。
【0082】
結合‐溶出モードの別の態様において、溶出用の塩の濃度も増加させると同時に、溶出の間非イオン性有機高分子の濃度を増加させる。後で溶出する凝集体が、好ましくは、それらの保持を増大させ、かつ凝集していない抗体からのそれらの分離を向上させる、より高濃度の非イオン性有機高分子を経験することから、本態様は、凝集していない抗体と凝集した抗体との間の最良の分離を与えることが多い。
【0083】
使用後、混合モードカラムを任意で、洗浄、清浄化、および適当な薬剤中で保管してもよく、かつ任意で再使用してもよい。
【0084】
いくつかの態様において、本発明は、核酸、エンドトキシン、ウイルス、および抽出したプロテインAとの抗体の複合体を含むがこれらに限定されない他の不純物の除去に対する有益な効果を有するだろう。
【0085】
D. 付加的な任意の工程
本発明は、より高いレベルの精製を達成するために、他の精製方法と組み合わせてもよい。例としては、例えば、プロテインAおよび他の型のアフィニティクロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー、ならびに付加的な混合モードクロマトグラフィーの方法等の、抗体の精製のために通常用いられる他の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
精製した抗体からの残存する有機高分子の除去は、必要に応じて特定の非イオン性有機高分子の除去工程を必要とせずに遂行することができる。抗体結合能力を増加させるように本発明が実施される用途において、溶出される抗体が実質的に高分子を含まないように、非イオン性有機高分子を洗浄および溶出の工程から省くことができる。あるいはその後に続く処理工程において抗体がクロマトグラフィー媒介物に結合する場合、残存する非イオン性有機高分子はカラムを通過するであろう。このアプローチは、ほとんどのイオン交換、混合モードおよびアフィティーの方法でもうまくいくであろう。残存する非イオン性高分子の除去は、それらをダイアフィルトレーション(diafiltration)または他の緩衝液交換法によって除去できるように、低い平均分子量の高分子を使用することによっても促進することができる。
【0087】
実施例
1つの抗体調製物から別の抗体調製物で、クロマトグラフィーの挙動における著しい変動が生じることは、抗体精製の技術分野で周知である。これには、種々の抗体調製物を汚染する、抗体ではないタンパク質、抗体断片および凝集体の、組成および比率における変動、ならびに異なる抗体の個々の保持特性における変動が含まれる。これは、緩衝液の条件を個別に調整して、本発明をそれぞれの状況におけるその最も有利なものに適応させる必要性を生じさせる。これは、pHの調整、塩の濃度、pH緩衝構成成分の濃度、イオン性有機高分子の、同一性の選択、平均分子量および濃度を含み得る。種々のパラメーターおよび構成成分に関する適切なレベルは、種々のアプローチによって体系的に決定することができる。以下の実施例は、説明の目的のみのために提供される。
【0088】
実施例 1(図1)
結合‐溶出モード、結合能力の増大
ヒドロキシアパタイト、CHT タイプII、20 ミクロン、直径5 mm、高さ50 mmのカラムを、pH 6.7で、5 mM のリン酸ナトリウムを用いて、300 cm/時間の線流速で平衡化する。あらかじめプロテインAアフィニティクロマトグラフィーによって精製したモノクローナル抗体調製物を、同じ条件に平衡化しカラムにアプライする。流出液を280nm でのUV吸収に関してモニターし、カラムの結合能力を特徴づける。次いでカラムを、約600 mMのリン酸カリウム、pH 6.7を用いて洗浄する。試料およびカラム平衡緩衝液に添加される約2.5%のPEG-6000を用いる以外は、この行程(run)を繰り返す。異なる分子量もしくは濃度のPEG、および他のパラメーターにおける変動は、特定の抗体に対する最良の結果を提供する配合を決定するための、これに続く反復において評価され得る。同様に、他の非イオン性有機高分子が評価されてもよい。
【0089】
実施例 2(図2)
未精製のモノクローナル抗体の調製物からの、抗体ではないタンパク質不純物および凝集体の除去を増強した、結合‐溶出モード
ヒドロキシアパタイト、CHT タイプII、20 ミクロン、直径5 mm、高さ50 cmのカラムを、pH 6.7で、5 mM のリン酸ナトリウムを用いて、300 cm/時間の線流速で平衡化する。未精製の抗体調製物をカラムにアプライし、平衡緩衝液で洗浄し、次いで、5 mM のリン酸ナトリウム、2.0 Mの塩化ナトリウム、pH 6.7への勾配を用いて溶出させる。約5 mM のリン酸ナトリウム、2.0 Mの塩化ナトリウムおよび約5%のPEG-6000への直線的勾配を用いて溶出させる以外は、この行程を繰り返す。これに続く反復において、勾配の終点の緩衝液におけるPEG-6000の濃度を3.75%に増加させる以外は、この行程を繰り返す。異なる分子量または濃度のPEG、および他のパラメーターにおける変動は、特定の抗体に対する最良の結果を提供する配合を決定するための、これに続く反復において評価され得る。同様に、他の非イオン性有機高分子が評価されもよい。
【0090】
実施例 3(図3)
調製物、またはプロテインAで精製したモノクローナル抗体からの、抗体凝集体の除去を増強した、結合‐溶出モード
ヒドロキシアパタイト、CHT タイプI、20 ミクロン、直径5 mm、高さ5 cmのカラムを、pH 6.7で、5 mM のリン酸ナトリウムを用いて、300 cm/時間の線流速で平衡化する。部分的に精製した抗体調製物をカラムにアプライし、平衡緩衝液で洗浄し、次いで5 mM のリン酸ナトリウム、2.0 Mの塩化ナトリウム、pH 6.7への直線的勾配を用いて溶出させる。約5 mM のリン酸ナトリウム、2.0 Mの塩化ナトリウムおよび約7.5%のPEG-6000への勾配を用いて溶出させる以外は、この行程を繰り返す。異なる分子量または濃度のPEG、および他のパラメーターにおける変動は、特定の抗体に対する最良の結果を提供する配合を決定するための、これに続く反復において評価され得る。同様に、他の非イオン性有機高分子が評価されもよい。
【0091】
実施例4(図4)
調製物、またはプロテインAで精製したモノクローナル抗体からの、抗体凝集体の除去を増強した、結合‐溶出モード
ヒドロキシアパタイト、CHT タイプI、20 ミクロン、直径5 mm、高さ5 cmのカラムを、pH 7.0で、10 mM のリン酸ナトリウムを用いて、300 cm/時間の線流速で平衡化する。部分的に精製した抗体調製物をカラムにアプライし、平衡緩衝液で洗浄し、次いで500 mM のリン酸ナトリウム、pH 7.0への直線的勾配を用いて溶出させる。3.75%のPEG-6000を用いる以外は同じ条件下でこの行程を1回繰り返し、かつ2回目は7.5%のPEG-6000を用いる以外は同じ条件下で繰り返す。
【0092】
上記の実施例に記載されるような実験の結果を、それらの特定の要件を満たすために必要であるいかなる体積までにもスケールアップする方法は、当業者により理解されるであろう。例えばハイスループットなロボットのアプローチ等の方法開発のための他のアプローチが、特定の抗体のために本発明を最も効率的に具体化する条件を決定するために適用され得ることも、当業者により理解されるであろう。
【0093】
本明細書で引用される全ての参考文献は、個々の刊行物または特許もしくは特許出願が、全ての目的のために参照によりそれらの全体が組み入れられるように具体的におよび個々に指示される場合と同じ程度で、参照によりその全体が、全ての目的のために組み入れられる。参照により組み入れられる刊行物および特許もしくは特許出願が、明細書に含まれる開示に矛盾する程度内で、この明細書は、任意のこのような矛盾した記事(material)に取って代わる、かつ/またはこの記事に優先することが、意図される。
【0094】
本明細書および特許請求の範囲で用いられる、成分の量、クロマトグラフィーの条件等を表す全ての数字は、全ての場合に「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。従って、本明細書および添付される特許請求の範囲で示される数値パラメーターは、そうでないことが指示されない限り、本発明により得ようとする所望の性能に応じて変動し得る近似値である。
【0095】
当業者には明らかであるように、本発明の多くの改変および変更を、その趣旨および範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書に記載される特定の態様は例示のみを目的として提示され、決して限定することを意図するものではない。本明細書および実施例は単なる例示的なものに過ぎず、以下の特許請求の範囲によって示される本発明の真の範囲および趣旨とともに考慮されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合モードクロマトグラフィー担体の抗体結合能力を増大させるための方法であって、水溶性の非イオン性有機高分子の存在下で、該担体を抗体調製物と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
混合モードクロマトグラフィー担体が結合‐溶出モードで操作される際に、接触させる工程が生じる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
混合モードクロマトグラフィー担体がフロー‐スルー(flow-through)モードで操作される際に、接触させる工程が生じる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
非イオン性有機高分子が、デキストラン、デンプン、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール(PEG)からなる群の中からのものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
非イオン性有機高分子が2種またはそれ以上の非イオン性無機高分子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
非イオン性有機高分子が0.01から50%までの範囲の濃度で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
非イオン性有機高分子が100から10,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
抗体調製物がIgG、IgA、IgE、IgMまたはIgDのうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
抗体調製物が抗体融合タンパク質を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
抗体調製物が抗体断片を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
抗体調製物が精製されていない、請求項1記載の方法。
【請求項12】
抗体調製物が部分的に精製されている、請求項1記載の方法。
【請求項13】
抗体調製物がプロテインAであらかじめ精製されている、請求項12記載の方法。
【請求項14】
混合モード担体が、抗体調製物の構成成分を吸着するための以下の機能性のうち2種またはそれ以上の組み合わせを活用する、請求項1記載の方法:
陽イオン交換、陰イオン交換、疎水性相互作用、親水性相互作用、水素結合、π-π結合、金属アフィニティ。
【請求項15】
混合モード担体がヒドロキシアパタイトを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
混合モード担体がヒドロキシアパタイト(hydroxypatite)CHT タイプI、20ミクロン;ヒドロキシアパタイトCHT タイプI、40ミクロン;ヒドロキシアパタイトCHT タイプI、80ミクロン;ヒドロキシアパタイトCHT タイプII、20ミクロン;ヒドロキシアパタイトCHT タイプII、40ミクロン;およびヒドロキシアパタイトCHT タイプII、80ミクロンからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
混合モード担体がフルオロアパタイトを含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
混合モード担体がヒドロキシアパタイトCFT タイプI、40ミクロン;またはヒドロキシアパタイトCFT タイプII、40ミクロンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
混合モード担体が、Capto-MMC、Capto-Adhere、Capto-S、Capto-Q、MEP Hypercel、およびABxからなる群より選択されるリガンドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの他の精製工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
凝集した抗体がフロー‐スルーに出現し始める前に、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で得られるであろう体積よりも大きい体積の凝集していない抗体が得られるよう、フロー‐スルーモードでの担体の抗体凝集体結合能力が優先的に増大させられる、請求項1記載の方法。
【請求項22】
結合-溶出モードで操作される混合モードクロマトグラフィー担体での凝集していない抗体からの抗体凝集体の分離が、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で生じるであろう分離と比較して向上する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
ウイルスがフロー‐スルーに出現し始める前に、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で得られるであろう抗体の体積と比較してより大きい体積の抗体が得られるよう、フロー‐スルーモードで操作される混合モード担体のウイルス結合能力が優先的に増大させられる、請求項1記載の方法。
【請求項24】
結合-溶出モードで操作される混合モードクロマトグラフィー担体での抗体からのウイルスの分離が、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で生じるであろう分離と比較して向上する、請求項1記載の方法。
【請求項25】
水溶性の非イオン性有機高分子の存在下で溶出を導くことにより、結合-溶出モードで操作される混合モード担体で、抗体凝集体、ウイルス、抽出したプロテインA(leached protein A)、DNA、および/またはエンドトキシンが、抗体調製物中の抗体から分離される、請求項1記載の方法。
【請求項26】
抗体凝集体、ウイルス、抽出したプロテインA、DNA、およびエンドトキシンがフロー‐スルーに出現し始める前に、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で得られるであろうよりも大きい体積の凝集していない抗体が得られるよう、フロー‐スルーモードで操作される混合モード担体の、抗体凝集体、ウイルス、抽出したプロテインA、DNAおよび/またはエンドトキシン結合能力が増大させられる、請求項1記載の方法。
【請求項27】
結合溶出モードで操作される混合モードクロマトグラフィー担体での、抗体ではないタンパク質の抗体からの分離が、水溶性の非イオン性有機高分子の非存在下で生じるであろう分離と比較して向上する、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−517942(P2010−517942A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545634(P2009−545634)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/050477
【国際公開番号】WO2008/086335
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(507190880)バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド (25)
【Fターム(参考)】