説明

水溶性リン酸エステルの精製方法

【課題】 本発明の目的は、従来の水溶性リン酸エステルの精製方法に内在する前記課題を解決し、極めて簡単な操作により短時間で実施することが可能で、設備の整備に多大な費用を必要としない、水溶性リン酸エステルの精製方法を提供することにある。
【解決手段】 水溶性リン酸エステルを水、炭素数1から4の低級アルコール、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の溶媒に溶解し、次いで炭素数3から7のケトンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性リン酸エステルの精製方法に関するものであり、その実施により高純度の水溶性リン酸エステルを製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶性リン酸エステルは、例えば1,2−ジオキセタン誘導体のような、有機リン化合物のうちリン酸とアルコールが脱水縮合したエステルである。水溶性リン酸エステルは種々の用途を有するが、例えば1,2−ジオキセタン誘導体は化学発光物質として知られ、アルカリ性フォスファターゼ(ALP)を標識物質として使用する酵素免疫測定法等においてALPを検出するための試薬として使用されることがある。
【0003】
酵素免疫測定法等における検出試薬としては、高純度の1,2−ジオキセタン誘導体等が使用されるが、合成等した水溶性リン酸エステルを高純度に精製するには、従来、煩雑な精製操作が必要であった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145882公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
具体的な水溶性リン酸エステルを精製する方法として、逆相液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)が知られている。逆相HPLCでは、精製操作を実施した後に精製された水溶性リン酸エステルから水分を除去する必要があり、凍結乾燥等の複雑で長時間を要する操作を併せて実施する必要があった。また、逆相HPLCは、カラムサイズに応じて1回に精製できる水溶性リン酸エステル量が限られ、仮に大量の水溶性リン酸エステルを得ようとするならば、得ようとする量に応じたサイズのカラムを備えた大型の逆相HPLC装置が必要となり、又は小型の逆相HPLC装置を複数台使用するか同様の精製操作を複数回繰り返す必要があり、設備を整備するために多大な費用が必要となるか、又は煩雑で膨大な工数を要する精製操作を繰り返し実施する必要があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、従来の水溶性リン酸エステルの精製方法に内在する前記課題を解決し、極めて簡単な操作により短時間で実施することが可能で、設備の整備に多大な費用を必要としない、水溶性リン酸エステルの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的に鑑みて鋭意検討を行った結果、前記目的を達成し得る本発明を完成するに至った。即ち本発明は、水溶性リン酸エステルを水、炭素数1から4の低級アルコール、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の溶媒に溶解し、次いで炭素数3から7のケトンを添加することからなる、水溶性リン酸エステルの精製方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は種々の水溶性リン酸エステルに対して適用可能であるが、中でも1,2−ジオキセタン誘導体に対して好適に適用可能である。1,2−ジオキセタン誘導体としては、具体的に例えば、リン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩、リン酸 3−(5−イソプロピル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩等を例示することができる。
【0009】
本発明では、まず水溶性リン酸エステルを水、炭素数1から4の低級アルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から選択される1以上の溶媒に溶解する。溶媒の種類及び濃度等は、精製しようとする水溶性リン酸エステルが安定であれば特に制限はなく、また溶媒は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、炭素数1から4の低級アルコールについては、直鎖状又は分枝鎖状のものが好ましい。水溶性リン酸エステルを溶解した後には、ろ紙、グラスフィールター又はセライト等の篩いを用い、不要物を除去することが好ましい。
【0010】
以上の操作により、水溶性リン酸エステルが溶解した溶媒を得た後、溶媒に対して炭素数3から7のケトンを添加する。添加するケトンの種類及び濃度等は、精製しようとする水溶性リン酸エステルが安定であれば特に制限はない。ケトンとしては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のものが特に制限なく使用できる。
【0011】
以上により、精製された水溶性リン酸エステルを不溶化物として得ることができる。不溶化物については、ケトンにて洗浄を行うことが好ましい。ここで、ケトンの添加後、攪拌又は震盪等、適当な運動エネルギーを与えることで、油状の不溶化物として水溶性リン酸エステルを得ることができ、またこのようにして得た水溶性リン酸エステルは、適当な篩いを用いて分離し乾燥することにより粉末にすることもできる。また、ケトンの添加後、運動エネルギーを与えずに静置する等、適当な篩いを用いて分離することで、結晶として水溶性リン酸エステルを得ることができる。粉末として又は結晶として得たリン酸エステルは、長期間にわたって安定的に保存することが可能である。
【0012】
精製対象としてリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩等の1,2−ジオキセタン誘導体に代表される、熱に対して不安定な水溶性リン酸エステルを精製する場合には、以上に説明した操作を例えば8℃以下の低温度下で実施することが好ましい。また更には、溶媒やケトン等についても同様に8℃以下に冷却したものを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の精製方法では、水溶性リン酸エステルを溶媒に溶解後、不溶化物として得るものであり、その精製操作は、水溶性リン酸エステルを溶媒に添加する操作と当該溶媒に対してケトンを添加するだけであるから、従来の逆相HPLC等による精製方法と比較して極めて簡便であり、操作工数を大幅に削減することができる。また、精製に要する時間も操作が簡便化されたことにより、短時間内に終了することが可能である。
【0014】
本発明は、更に、精製しようとする水溶性リン酸エステルの量の応じた容量の容器等を準備するだけで実施することが可能であるから、他に特別の施設や設備を必要とせず、特別の設備を整備するための多大な費用も不要である。しかも本発明の精製方法では、大量の水溶性リン酸エステルを1度の操作で精製できるから、同様の精製操作を繰り返し実施する必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の精製操作を実施する前の水溶性リン酸エステル(リン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩)の分析を行った結果を示すものである。図中、最も大きなピークがリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)であり、その後(図中右側)に溶出するピークはリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)の合成時に使用した原料に由来するピークと考えられる。
【図2】図2は、本発明の精製操作を実施した後の水溶性リン酸エステル(リン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩)の分析を行った結果を示すものである。最も大きなピークがリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)であり、その後(図中右側)に溶出するピークはリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)の合成時に使用した原料に由来するピークと考えられる。
【0016】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例 1
リン酸 3−(3−t−ブチル−4,4−ジメチル−4,5−ジヒドロフラン−2−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩5.0gに10mLの水を加えて溶解して、ろ過した。次いで、アセトン150mLを加えて磁気攪拌子を用いて攪拌することにより、白色沈殿を得た。これをろ過した後に、20mLのアセトンで洗浄することにより、精製リン酸エステルの白色粉末を4.3g得た。回収率は86%であった。
【0018】
実施例 2
リン酸 3−(3−t−ブチル−4,4−ジメチル−4,5−ジヒドロフラン−2−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩5.0gに15mLのメタノールを加えて溶解し、ろ過した。その後、アセトン200mLを加えて磁気攪拌子を用いて攪拌することにより、白色沈殿を得た。これをろ過した後に、20mLのアセトンで洗浄することにより、精製リン酸エステルの白色粉末を4.4g得た。回収率は88%であった。
【0019】
実施例 3
リン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)5.0gに8℃に冷却した10mLの水を加えて溶解し、ろ過した。その後、8℃に冷却したアセトン200mLをゆっくり加えて静置することにより、白色針状結晶を得た。これをろ過した後に、20mLのアセトンで洗浄することにより、精製リン酸エステルの白色針状結晶を4.0g得た。回収率は80%であった。なお以上の操作は、8℃の低温条件下で実施した。
【0020】
実施例 4
リン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)5.0gに8℃に冷却した15mLのメタノールを加えて溶解し、ろ過した。その後、8℃に冷却したアセトン250mLをゆっくり加えて静置することにより、白色針状結晶を得た。これをろ過した後に、20mLのアセトンで洗浄することにより、精製リン酸エステルの白色針状結晶を4.1g得た。回収率は82%であった。なお以上の操作は、8℃の低温条件下で実施した。
【0021】
精製操作を実施する前及び精製操作を実施した後のリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)各50μlを、市販のカラム(TSKgel Octadecyl−2PW、6.0mm I.D.×15cm)を用に供して270nmで検出した結果を図1(精製操作を実施する前)および図2(精製操作を実施した後)に示す。分析条件は、40℃条件下で、0.1% NaHC03水溶液に対し、MeCNを量比で80:20となるように加えた溶離液を用い、流速0.5ml/分で行ったものである。
【0022】
図1及び図2から分かるように、本発明の精製操作によりリン酸 3−(5−t−ブチル−4,4−ジメチル−2,6,7−トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト−1−イル)−フェニルエステル ジナトリウム塩(1,2−ジオキセタン)が精製されていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性リン酸エステルを水、炭素数1から4の低級アルコール、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の溶媒に溶解し、次いで炭素数3から7のケトンを添加することからなる、水溶性リン酸エステルの精製方法。
【請求項2】
8℃以下の温度条件下で実施することを特徴とする、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
水溶性リン酸エステルが1,2−ジオキセタン誘導体である、請求項1又は2に記載の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140330(P2012−140330A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291794(P2010−291794)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】