説明

水溶性材料で被覆された棘を有する織物

本発明は、織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなる補綴用織物(prosthetic fabric)に関する。織物は、少なくとも一つの表面の上に、その表面に対して外に突出する1以上の棘(barb)を有し、棘は、水溶性で生体適合性のあるコーティング材で被覆されている。また、本発明は、当該織物を製造する方法、及び当該織物から製造される人工器官(prostheses)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性コーティング材で被覆された棘(barb)を有する補綴用織物(prosthetic fabric)に関する。この種の織物(fabric)は、特に、腹腔鏡(coelioscopy)で患者に導入される壁補強人工器官(wall-reinforcing prostheses)を製造するのに使用される。
【背景技術】
【0002】
壁補強人工器官(例えば、腹壁を補強する人工器官)は、外科的なフィールドで広く使われている。この人工器官は、一時的なヘルニアの治療、あるいは、永久的な組織欠損の埋め込みに使用される。この人工器官は、通常、生物学的適合性の補綴用織物からできており、適合される解剖学的構造に応じて、矩形、丸、楕円等の種々の形状を有する。ある人工器官は、全て生体再吸収性の糸からなり、細胞の定着が起き、組織再生が終わって、その補強役割を終えた後に消滅する。また、他の人工器官は、非生体再吸収性の糸からなり、患者の体内に永久に残る。
【0003】
ある人工器官は、糸の織物、織布、又は不織布の配列からなり、人工器官の一つの表面から突出する棘状の短柔毛(barbed nap)を有している。これらの棘は、他の補綴用織物(同一の織物か否かを問わず)に固定可能な、あるいは、生物組織(例えば、腹壁)に直接固定可能なフックを構成している。なお、人工器官は、2つの表面にそれぞれ棘を有していてもよい。
【0004】
さらに、外科手術後の外傷を最小にするために、患者は、許容される手術のときには、腹腔鏡手術によって、手術を受けるケースが増えている。腹腔鏡手術は、非常に小さな切開で済み、そこに套管針(trocar)を通して、人工器官を体内移植サイトに移送して行われる。そのため、開腹手術が避けられ、患者は早く退院できる。特に、腹腔鏡手術は、ヘルニアの治療のような腹部の外科手術に普及している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に、腹腔鏡手術で使用される套管針は、可能な限り切開の大きさを小さくするために、例えば、5〜15mm程度の、比較的小さな直径を有している。そのため、人工器官を、小さな直径のチャネル内を移送して、体内移植サイトに配置しなければならない。
【0006】
この作業を行うために、人工器官は、通常、套管針のチャネルの中を滑らすために、自身に巻きつけられている。しかしながら、人工器官を構成している補綴用織物が表面に棘を有している場合、棘が保護されていないと、人工器官が套管針内を体内移植サイトに移送されるとき、棘が織物にひっかかったり、人工器官を巻きつける際に、損傷を受ける畏れがある。
【0007】
それ故に、腹壁補強等の人工器官の製造に使用できる、棘状の短柔毛を有する補綴用織物において、套管針等のチャネル内を、棘に損傷を与えることなく移送でき、一旦、患者の体内移植サイトに着いたら、完全に配置できるような補綴用織物が求められている。
【0008】
本発明は、このような要求に対して改善をなすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなり、織物が、少なくとも一つの表面の上に、その表面に対して外に突出する1以上の棘を有する補綴用織物において、棘は、水溶性で、かつ生体適合性のあるコーティング材で被覆されていることを特徴とする。
【0010】
本出願において、「水溶性材料」という用語は、例えば、約20〜25℃の温度、あるいは、それ以上の温度、特に、人体の温度(約37℃)で、水または生物流体(biological fluid)等の水性組成物に溶解することができる材料を意味する。
【0011】
本発明における織物の水溶性材料は、水性組成物に接しないときは、35℃以下の温度で、固体の状態であることが好ましい。
【0012】
従って、本発明における織物は、特に、体内移植サイトの人体の温度(約37℃)で、水または生物流体に接すると、棘を被覆している材料は、少しずつ溶解して、棘から剥離される。後で詳しく述べるように、棘を被覆している材料の全てが溶解するのに必要な時間で、容易に人工器官を配備することができる。棘の被覆がなくなると、棘は、他の補綴用織物に対して、あるいは、腹壁等の生物組織の中で、再び、固定する機能を発揮し得る。
【0013】
一般に、棘を被覆する材料は、その水溶性により、25℃以下の温度で、滑らかな表面を有する。それ故に、水溶性材料で被覆されている棘が、水溶性材料で被覆されている他の棘と接触しても、互いに滑り合って、いかなる抵抗も生じない。従って、人工器官が、套管針内で滑るようにするために、自身に巻きつけられるとき、棘は互いに絡み合う。しかし、それはずっとではなく、人工器官が、体内移植サイトで、套管針の壁から切り離されるとすぐに、棘は、互いに引っかけることなく、互いに滑り合い、容易に離される。そして、人工器官は、水溶性材料の全てが完全に溶解する前に、容易に配置される。
【0014】
さらに、数秒から数分のオーダーの溶解時間に、外科医は、もし、必要であれば動かして、人工器官を配置することができる。水溶性材料は、まだ完全に溶解していないので、棘が、完全に水溶性材料の被覆がなくなるまで、棘は、周囲組織に対して滑り、人工器官を固定しないので、この作業は容易である。
【0015】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、生物分解可能(biodegradable)である。
【0016】
本出願において、「生物分解可能」という用語は、再吸収され、吸収され、及び/または、組織(tissue)で劣化され、または、体内移植サイトから洗われて、そして、生体内で、所定の時間後に消滅するような材料を意味する。ここで、所定の時間は、材料の化学的性質によって変わるが、例えば、数時間から数ヶ月である。
【0017】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアセテート(PVA)、ゼラチン、ポリグルクロン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテル、キトサン、及びこれらの混合物から選択される。
【0018】
例えば、水溶性材料は、40000Da以下、好ましくは、20000Da以下のモル質量を有するポリエチレングリコールである。また、例えば、モル質量は、1000〜20000Daの範囲である。このようなモル質量をもったポリエチレングリコールは、特に、生物分解可能である。
【0019】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、約1000Daのモル質量を有する、少なくとも一つのポリエチレングリコールを含む。このようなポリエチレングリコールは、より溶解性を向上させる。
【0020】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、1000Daと異なるモル質量を有するポリエチレングリコールを含む。
【0021】
本発明の水溶性材料に適したキトサンは、水溶性キトサン、または、キトサン誘導剤、例えば、「pHの関数としての部分的にN−アセチル化(N-acetylated)されたキトサンの水溶性:化学組成および脱重合の効果」(Kjell M. Varum, Mette H. Ottoy & Olav Smidsrod, 炭水化物ポリマ,25(1994), 65-70)に開示された、部分的にN−アセチル化されたキトサンである。
【0022】
本発明の他の実施形態は、織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなり、織物が、少なくとも一つの表面の上に、その表面に対して外に突出する1以上の棘を有する補綴用織物を被覆する方法に関し、以下の工程を含むことを特徴とする。
【0023】
a)少なくとも液体状態の水溶性生体適合材料を含む組成物を用意する工程
b)上記組成物の層を、前記棘に供給する工程
液体状態の水溶性生体適合材料を含む組成物は、液体、粘性、または糊状であってもよい。例えば、組成物は、ブラシまたは他にロールを用いて、棘に塗ることができる、または、棘をその中に浸すことのできる粘度(consistency)を有している。
【0024】
本発明の方法による一実施形態において、上記工程b)は、ロールを用いて実行される。これにより、組成物は、ロール上に塗られて、一様に棘に供給される。
【0025】
本発明の方法による一実施形態において、組成物は、水溶性材料を水に溶解することによって得られる。また、組成物を、水溶性材料の融点に加熱してもよい。
【0026】
上記実施形態において、組成物の層が棘に供給されると、棘を被覆する水溶性材料の層が、設定状態、すなわち、固体になるまで、組成物は乾燥される。また、組成物を冷却してもよい。
【0027】
本発明の方法による他の実施形態において、組成物は、水溶性材料だけを、水溶性材料の融点に加熱することによって得られる。この場合、組成物の層が棘に供給されると、棘を被覆する水溶性材料の層が、設定状態、すなわち、固体になるまで、組成物は冷却される。
【0028】
本発明の他の側面は、上記織物から製造されるヘルニアの治療用の人工器官、または、上記方法によって得られた織物から製造されるヘルニアの治療用の人工器官に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来の棘を有する補綴用織物を模式的に示した断面図である。
【図2】図2は、本発明の補綴用織物を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施形態における織物を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0031】
本出願において、「補綴用織物」という用語は、生体適合性の糸、繊維、フィラメント、および/またはマルチフィラメントの配列または組立て、例えば、械織(knitting)、編成(weaving)、織布、又は不織布の配列または組立てによって得られる如何なる織物も意味する。本発明における織物の糸の配列は、少なくとも2つの対向する表面を定める。本発明における補綴用織物は、2つの表面のうち、少なくとも一つの表面から突出する棘を有する。かかる棘は、上記表面に実質的に垂直な平面から突出していてもよい。あるいは、上記表面に対して傾斜した1以上の平面に沿って突出していてもよい。かかる棘は、他の補綴用織物の糸、繊維、フィラメントおよび/またはマルチフィラメントの一つ以上の配列に巻き込まれることによって、または、腹壁等の生物組織に引っ掛けることによって、固定手段として機能する。
【0032】
本発明における補綴用織物の棘は、例えば、織物を形成している糸の配列から直接得られる熱溶融モノフィラメント糸等の糸から形成してもよい。この種の織物、棘、及びそれらの製造工程は、例えば、WO 01/81667、DE 198 32 634、US 6,596,002、US 5,254,133に開示されている。
【0033】
上記の場合、棘は、例えば、ポリ乳酸でできたモノフィラメント糸から形成される。
【0034】
本発明における補綴用織物の棘は、いかなる生体適合性のある材料から作られたフックであってもよい。かかるフックは、糸を配列する製造(編込み、械織、編成等)中に、織物の中に組み込まれたものであっても、あるいは、後で加えられたものであってもよい。
【0035】
本発明における織物の糸の配列を形成している糸、繊維、またはフィラメント、および/またはマルチフィラメントは、いかなる生物分解可能な、または非生物分解可能な、生体適合性のある材料から形成されたものであってもよい。本発明の織物の糸に適した生物分解可能な材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、酸化セルロース、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン (PDO)、トリメチレン炭酸塩(TMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシアルカノアート(PHAs)、ポリアミド、ポリエーテル、これらの合成物のコポリマー、およびそれらの混合物から選択することができる。本発明の織物の糸に適した非生物分解可能な材料は、ポリエチレンテレフタル酸塩(PET)、ポリアミド、アラミド、発泡(expanded)四フッ化エチレン樹脂、ポリウレタン、重合ビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリブチルエステル、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン)、銅合金、銀合金、プラチナ、医療グレード・ステンレス鋼のような医療グレード鋼、及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0036】
本発明の一実施形態において、補綴用織物は、両方の表面の上に棘を有していてもよい。
【0037】
本発明における補綴用織物の棘は、水溶性の生体適合性のある材料で被覆されている。
【0038】
ここで、本発明における「水溶性材料」という用語は、例えば、約20〜25℃の温度、あるいは、それ以上の温度、特に、人体の温度(約37℃)で、水または生物流体等の水性組成物に溶解することができる材料を意味する。
【0039】
本発明における水溶性材料は、水性組成物に接していないとき、周囲温度、及び/または本発明の織物の保存温度、すなわち、約35℃以下の温度で、固体の状態であることが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、生物分解可能である。
【0041】
本発明における「生物分解可能」という用語は、再吸収され、吸収され、及び/または、組織(tissue)で劣化され、または、体内移植サイトから洗われて、そして、生体内で、所定の時間後に消滅するような材料を意味する。ここで、所定の時間は、材料の化学的性質によって変わるが、例えば、数時間から数ヶ月である。
【0042】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアセテート(PVA)、ゼラチン、ポリグルクロン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテル、キトサン、及びこれらの混合物から選択される。
【0043】
水溶性材料は、例えば、40000Da以下、好ましくは、20000Da以下のモル質量を有するポリエチレングリコールである。また、モル質量は、1000〜20000Daの範囲であってもよい。このようなモル質量をもったポリエチレングリコールは、特に、生物分解可能である。
【0044】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、約1000Daのモル質量を有する、少なくとも一つのポリエチレングリコールを含む。このようなポリエチレングリコールは、より溶解性を向上させる。
【0045】
本発明の一実施形態において、水溶性材料は、1000Daと異なるモル質量を有するポリエチレングリコールを含む。
【0046】
本発明における織物は、一般に、当該織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなる補綴用織物によって提供される。当該織物は、少なくとも一つの表面の上に、その表面に対して外に突出する1以上の棘を有し、かかる織物は、例えば、WO 01/81667に記載された方法で用意することができる。
【0047】
本発明に適した棘を有する織物は、Sofradim Productionという会社から、Parietex Progrid(登録商標)、または、Parietene Progrid(登録商標)という商品名で、商業的に入手できる。
【0048】
水溶性材料からなる組成物は、水に溶解した形で、または、必要に応じて、組成物を、水溶性材料の融点に加熱することによって、得ることができる。あるいは、水溶性材料だけを、融点以上に加熱することによって、液体または粘性の組成物を得ることができる。
【0049】
液体状態の水溶性材料を含む組成物は、ブラシまたはロールを用いて、取り込むことのできる粘度を有していることが好ましい。組成物は、例えば、ブラシまたはロールを用いて、棘に供給される。組成物を、できるだけ一様に棘の上に分布させるためには、ロールを用いることが好ましい。急速に溶ける材料を得たいのか、あるいは、乾燥後、水および/または生物流体と接しない材料を得たいのかによって、温度を調整したり、あるいは、組成物の濃度を調整することによって、組成物の粘度を変えることができる。
【0050】
水溶性材料を含む組成物が棘に供給されると、組成物は、乾燥、及び/または冷却される。特に、組成物が、水溶性材料の水溶液である場合、組成物を乾燥することにより、水が蒸発し、最終的に水溶性材料だけが棘の上に残される。もし、組成物が、水溶性材料の溶解中に加熱された場合は、組成物は冷却される。組成物が、液体状に加熱された水溶性材料だけからなる場合、組成物は、水溶性材料の融点以下の温度に冷却される。このような乾燥、及び/または冷却の間に、棘上に塗られた水溶性材料の組成物は、棘のヘッドを被覆する。その結果、棘のヘッドは、非常に滑らかな表面になる。2つの棘が、互いに接触したとき、いかなる抵抗もなく互いに滑り合う。
【0051】
これにより、外科医が、本発明における織物から形成された人工器官を移植したいとき、被覆された棘のある表面を、内側あるいは外側の方に折りたたむ(fold)ことによって、人工器官を容易に巻き付けることができる。その結果、棘が、套管針の壁、または、他の周囲の外部要素(exterior element of the environment)と擦れるのが保護される。
【0052】
人工器官が套管針によって体内移植サイトへ移送されると、水溶性材料がまだ被覆された棘は、互いに滑り合って、いかなる抵抗も生じないため、人工器官は、巻き戻されて、容易に配置することができる。従って、たとえ、人工器官の巻き付けの間、棘がひっかかっていても、容易にほぐすことができる。
【0053】
人工器官が配置されると、棘は、少しずつ、生物流体と接して、徐々に溶解していく。この溶解は、数秒から数分続き、その間に、外科医は、人工器官を、それを埋めるべきヘルニア欠陥に対して、あるいは、それを取り付けたい他の補綴用織物に対して、正しい位置に、容易に動かすことができる。
【0054】
外科医が水溶性材料の溶解を加速するために加えた食塩水の助けを借りて、人工器官の織物の棘に存在する全ての水溶性材料が、生物流体に溶けると、棘は、それを形成する材料の特性や、フック状の形状等によって、カップリング特性を回復する。そして、人工器官は、套管針のチャネル中を移送される間、棘がいかなる損傷も受けることなく、他の織物、または生物学的壁(biological wall)に固定される。
【0055】
以下、実施例を用いて、本発明を例示する。
【0056】
(実施例1)
WO 01/81667に記載された、15×10cmの大きさで、棘を有する補綴用織物を準備する。ここで、棘は、ポリ乳酸(PLA)からなるモノフィラメント糸で形成されている。
【0057】
図1は、かかる織物を模式的に示した断面図である。ここで、織物1は、対向する2つの表面2a、2bで定められる糸の配列2で形成されている。織物1は、表面2a上に、その表面から突出する棘3を有している。各棘は、シャフト3aとヘッド3bを備えている。図1に示すように、棘のヘッド3bは、棘のカップリング特性を付与する隆起4を有している。
【0058】
融点が53℃と59℃の間にあり、モル質量が4000で、5gのポリエチレングリコール(FLUKA製PEG4000)を60℃の温度で加熱して、均一な液体を得た。補綴用織物の棘に、ブラシを用いて、あるいは、液体のPEG4000組成物に浸して、液状のPEG4000を被覆した。
【0059】
例えば、ブラシを用いる場合、PEG4000組成物の粘性によって、被覆は、棘の上にブラシを数回、連続して、ブラシをかけることによって行われる。
【0060】
その後、被覆された織物は、周囲温度(約20℃)で冷却される。PEG4000は、固まって、滑らかな固体のコーティングで棘を被覆する。
【0061】
図2は、本発明における織物5を模式的に示した断面図である。本実施例では、本発明の補綴用織物5は、固体層6として、水溶性材料で被覆されている。本実施例では、4000の分子量を有するポリエチレングリコールからなる水溶性材料の固体層6が、完全に、各棘3のヘッド3b及びシャフト3aを被覆している。図2から明らかなように、層6の表面は滑らかで、棘3のヘッド3bは、他の織物と干渉する隆起4がなくなっている。
【0062】
このように、棘にPEG4000を被覆することにより、織物との結合を減少させ、取り扱いを容易にする。使用する状態では、付与されたPEG4000の質量は、最初の織物の質量の約50%に相当する。被覆された棘を、37℃の水で洗浄すると、棘は、再びカップリング特性を回復する。
【0063】
本実施例で説明したポリエチレングリコールで被覆された棘を有する織物を、矩形、円形、あるいは、治療される器官の解剖に適した形状に切断することによって、ヘルニアの治療のための人工器官を製造することができる。
【0064】
本実施例で説明したポリエチレングリコールで被覆された棘を有する織物は、特に、腹腔鏡によるヘルニア治療のための人工器官の製造に特に適している。実際、このような人工器官は、棘を内側、及び/または外側にして、自身に巻き付けられるので、套管針のチャネルの中を、棘に損傷を与えることなく、体内移植サイトまで移送することができる。さらに、水溶性のポリエチレングリコール層により、体内移植サイトで套管針から切り離されると、かかる棘は、人工器官の配置を妨げることはない。そして、数秒後には、生物流体によって、ポリエチレングリコールが溶解した後、棘は、カップリング特性を回復して、外科医が望む方法で、人工器官を固定することができる。
【0065】
(実施例2)
図1に示したような、実施例1と同じ補綴用織物を準備する。
【0066】
表1に示すように、モル質量が4000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG4000)と、モル質量が1000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG1000;33℃と339℃の間の融点を有する)との混合比を変えた4種類の混合物を準備した。これらの混合物を、60℃の温度で加熱して、均一な液体を得た。補綴用織物の棘に、ブラシを用いて、これらの混合物を被覆した。
【0067】
【表1】

【0068】
図2に示したような本発明おける補綴用織物5を得た。
【0069】
棘にポリエチレングリコールの混合物を被覆することにより、織物との結合を減少させ、取り扱いを容易にする。使用する状態では、付与された混合物の質量は、最初の織物の質量に対して、30%から100%に相当する。この結果を、表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
(混合物の可溶性試験)
補綴用織物の棘に付与された混合物が溶解するのに必要な時間を評価するために、上記のように用意したサンプルを、棘が、カップリング能力を回復するまで、37℃の水の中に数秒間入れた。
【0072】
これらの試験から、混合物は急速に溶解し(下記の表3)、棘のカップリング能力を回復するために必要な時間は、20秒のオーダーであることが分かった。
【0073】
【表3】

【0074】
(実施例3)
図1に示したような、実施例1と同じ補綴用織物を準備する。
【0075】
表4に示すように、モル質量が4000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG4000)と、モル質量が2000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG2000)と、モル質量が1000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG1000)との混合比を変えた7種類の混合物を準備した。これらの混合物を、60℃の温度で加熱して、均一な液体を得た。補綴用織物の棘に、ブラシを用いて、これらの混合物を被覆した。
【0076】
【表4】

【0077】
図2に示したような本発明おける補綴用織物5を得た。
【0078】
表4に示した混合物を棘に被覆することにより、織物との結合を減少させ、取り扱いを容易にすることができる。使用する状態では、付与された混合物の質量は、最初の織物の質量に対して、20%から110%に相当する。この結果を、表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
(混合物の可溶性試験)
補綴用織物の棘に付与された混合物が溶解するのに必要な時間を評価するために、上記のように用意したサンプルを、40℃の水で湿らせた状態(kept on wipes moistened with water)で、所定時間(10、25、20秒)維持した。所定時間が経ったとき、棘のカップリング特性、及びサンプル上に残留した混合物の質量を評価した。
【0081】
これらの試験から、混合物は急速に溶解し(下記の表6〜8)、棘のカップリング能力を回復するために必要な時間は、20秒のオーダーであることが分かった。
【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
【表8】

【0085】
表6〜8は、最初に堆積される混合物の量が、混合物の可溶性に重要な役割を果たすことを示している。混合物の量の少ないサンプルでは、堆積された混合物のほとんどが、溶解中に、直接、湿気と接触して、織物の棘の上で観察された。
【0086】
また、PEG1000を加えると、溶解が容易になることも見出された。そのため、PEGの残留量は、短時間に少なくなる。
【0087】
(被覆の安定性)
融点の低いPEG1000(33℃〜39℃)を用いて、40℃での被覆の安定性を評価するために、いくつかの試験が行われた。PEG1000だけで被覆されたサンプルは、40℃のオーブンの中で、24時間後に溶けた。これに対して、PEG1000/PEG4000、またはPEG1000/PEG2000の混合物が被覆された織物は、同じ条件の下で、被覆の変容を示さなかった。
【0088】
PEG1000の追加は、PEG混合物の溶解を早める効果がある。
【0089】
(実施例4)
図1に示したような、実施例1と同じ補綴用織物を準備する。
【0090】
表9に示すように、モル質量が2000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG2000)と、モル質量が1000のポリエチレングリコール(FLUKA製PEG2000)との混合比を変えた4種類の混合物を準備した。これらの混合物を、60℃の温度で加熱して、均一な液体を得た。織物のサンプルの棘に、泡ロール(foam roll)を用いて、これらの混合物を被覆した。
【0091】
【表9】

【0092】
図3に示したような本発明おける補綴用織物5を得た。
【0093】
図3に示すように、水溶性材料、すなわち、本実施例では、ポリエチレングリコール混合物からなる固体層6は、各棘3のヘッド3bを完全に被覆し、棘のシャフト3aは、被覆されていない。
【0094】
ロールを用いた本実施例の混合物で棘を被覆することは、非常に効果的である。得られたサンプルは、非常に均一性がよく、堆積は、織物の棘のヘッドに適切に向けられている。使用する状態では、付与された混合物の質量は、最初の織物の質量に対して、38%から55%に相当する。この結果を、表10に示す。
【0095】
上記実施例で説明したように、棘のヘッドに直接被覆することにより、本発明による織物の取り扱いが容易になると同時に、織物が生物流体と接したときの溶解が、容易で、より迅速になる。
【0096】
【表10】

【0097】
実施例1〜4で説明したように、本発明におけるポリエチレングリコールで被覆された棘を有する織物は、特に、腹腔鏡によるヘルニア治療のための人工器官の製造に適している。実際、このような人工器官は、棘を内側、及び/または外側にして、自身に巻き付けられるので、套管針のチャネルの中を、棘に損傷を与えることなく、体内移植サイトまで移送することができる。さらに、水溶性のポリエチレングリコール層により、体内移植サイトで套管針から切り離されると、棘は、人工器官の配置を妨げることはない。そして、数秒後には、生物流体によって、ポリエチレングリコールが溶解した後、棘は、カップリング特性を回復して、外科医が望む方法で、人工器官を固定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなり、前記織物が、少なくとも一つの表面の上に、該表面に対して外に突出する1以上の棘を有する補綴用織物において、
前記棘は、水溶性で、かつ生体適合性のあるコーティング材で被覆されている、補綴用織物。
【請求項2】
前記水溶性材料は、生物分解可能である、請求項1に記載の補綴用織物。
【請求項3】
前記水溶性材料は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアセテート(PVA)、ゼラチン、ポリグルクロン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテル、キトサン、及びこれらの混合物から選択される、請求項1または2に記載の補綴用織物。
【請求項4】
前記水溶性材料は、40000Da以下、好ましくは、20000Da以下のモル質量を有するポリエチレングリコールである、請求項1〜3の何れかに記載の補綴用織物。
【請求項5】
前記モル質量は、1000〜20000Daの範囲である、請求項4に記載の補綴用織物。
【請求項6】
前記水溶性材料は、約1000Daのモル質量を有する、少なくとも一つのポリエチレングリコールを含む、請求項1〜5の何れかに記載の補綴用織物。
【請求項7】
前記水溶性材料は、1000Daと異なるモル質量を有するポリエチレングリコールを含む、請求項6に記載の補綴用織物。
【請求項8】
織物の少なくとも2つの表面で定められる糸の配列からなり、前記織物が、少なくとも一つの表面の上に、該表面に対して外に突出する1以上の棘を有する補綴用織物を被覆する方法であって、
a)少なくとも液体状態の水溶性生体適合材料を含む組成物を用意する工程と、
b)前記組成物の層を、前記棘に供給する工程と
を含む、補綴用織物を被覆する方法。
【請求項9】
前記工程b)は、ロールを用いて実行される、請求項8に記載の補綴用織物を被覆する方法。
【請求項10】
前記組成物は、前記水溶性材料を水に可溶化し、任意に、前記組成物を、前記水溶性材料の融点に加熱することによって得られる、請求項8または9に記載の補綴用織物を被覆する方法。
【請求項11】
前記組成物は、前記水溶性材料だけを、前記水溶性材料の融点に加熱することによって得られる、請求項8または9に記載の補綴用織物を被覆する方法。
【請求項12】
請求項1〜7の何れかに記載の補綴用織物から製造された、または、請求項8〜11の何れかに記載の方法によって得られた補綴用織物から製造された、ヘルニアの治療用の人工器官。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

image rotate

【図3】
image rotate

image rotate


【公表番号】特表2013−503674(P2013−503674A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527373(P2012−527373)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051843
【国際公開番号】WO2011/027087
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(597147278)ソフラディム・プロダクション (8)
【Fターム(参考)】