説明

水溶性金属加工用潤滑剤

【課題】アルミニウム等の非鉄金属と鉄や鋼等の鉄金属のいずれの金属加工においても加工性能が優れ、同時に接着剤との適合性が良好な水溶性金属加工用潤滑剤を提供すること。
【解決手段】(A)ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸の重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ脂肪酸化合物、(B)炭素数8〜20の脂肪酸、(C)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも一種の塩基性化合物、(D)炭素数8〜20の直鎖オレフィン、及び(E)非イオン界面活性剤を配合してなる水溶性金属加工用潤滑剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性金属加工用潤滑剤に関し、詳しくは、アルミ等の非鉄金属と鋼等の鉄金属のいずれの金属加工においても好適に利用できる水溶性金属加工用潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化することによる燃費向上を達成するために、自動車の製造に使用される材料としてアルミニウムの量が増加してきている。このような変化は、自動車の製造に於いては、従来から用いられている鋼等の鉄金属の部品とともに、アルミニウムやその合金等の非鉄金属の部品も成型加工する金属加工設備や金属加工工程が必要になっていることを示している。
ところが、プレス加工等の金属加工に用いられる金属加工用潤滑剤は、通常被加工材の種類によって異なる潤滑剤を使用する。例えば、被加工材が非鉄金属である場合と鉄金属である場合とでは、金属加工用潤滑剤に要求される加工性能が相違するため、通常それぞれ異なる油剤が用いられる。つまり、非鉄金属用油剤を鉄金属の加工油剤として使用したり、鉄金属用油剤を非鉄金属の金属加工に使用すると、それらの成型加工品は、必ずしも満足できるものではない結果となる。
【0003】
このような状況から、自動車製造等の非鉄金属と鉄金属の両者を金属加工する工場においては、鉄金属用の加工設備(加工ライン)と非鉄金属用の加工設備を別々に設置することが必要である。そのために必要な設備や設備費が増加するとともに、作業効率が低下してしまうという問題がある。
このような問題を解決するためには、被加工材が非鉄金属であっても鉄金属であっても良好な加工性能(成型性)を示す油剤を開発することが必要である。そのような油剤があれば、鉄金属と非鉄金属を共通の加工設備(加工ライン)で加工することが可能になる。
【0004】
また、金属加工においては、上記加工性能が優れるとともに、それ以外の種々の性能を満たすことが要求される。例えば自動車部品の製造においては、接着剤との適合性、つまり金属加工製品(部品)同士又は金属加工製品と他の材料部品とを接着して組み立てるため、それらの間の接着性が優れることを要求される。したがって、良好な接着性(接着適合性)が不可欠である。
さらに、金属加工油剤は、防錆性、脱脂性、貯蔵安定性などの基本的性能も当然要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような状況下でなされたものであり、アルミニウム等の非鉄金属と鉄や鋼等の鉄金属のいずれの金属加工においても加工性能が優れ、同時に接着剤との適合性が良好な水溶性金属加工用潤滑剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のヒドロキシ脂肪酸化合物や特定の脂肪酸等を配合してなる潤滑剤によって、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)(A)ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸の重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ脂肪酸化合物、(B)炭素数8〜20の脂肪酸、(C)アルカリ金属の水酸化物及び有機アミン化合物から選ばれる少なくとも一種の塩基性化合物、(D)炭素数8〜20の直鎖オレフィン、及び(E)非イオン界面活性剤を配合してなる水溶性金属加工用潤滑剤、
(2)潤滑剤全量基準で(A)成分を10〜60質量%、(B)成分を3〜30質量%、(D)成分を0.5〜30質量%、(E)成分を3〜50質量%、及び(C)成分を中和当量比〔(C)/((A)+(B))〕が0.5〜2.5となる範囲で配合してなる前記(1)に記載の水溶性金属加工用潤滑剤、
(3)(A)のヒドロキシ脂肪酸化合物の数平均分子量が、300〜2000である前記(1)又は(2)に記載の水溶性金属加工用潤滑剤、
(4)(B)の脂肪酸が、炭素数8〜10の脂肪酸である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤、
【0008】
(5)(C)の塩基性化合物がアルカリ金属の水酸化物と有機アミン化合物の混合物である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
(6)(D)の直鎖オレフィンが、炭素数8〜20の1−オレフィンである前記(1)〜(5)のいずれかに記載に記載の水溶性金属加工用潤滑剤、
(7)防錆剤、酸化防止剤及び腐敗防止剤の中から選ばれる少なくとも一種を配合してなる、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤、及び
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤を水で3〜300倍希釈してなる水溶性金属加工用潤滑剤
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルミニウム等の非鉄金属と鉄や鋼等の鉄金属のいずれの金属加工においても加工性能が優れ、同時に接着剤との適合性が良好な水溶性金属加工用潤滑剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水溶性金属加工用潤滑剤は、(A)ヒドロキシ脂肪酸化合物、(B)炭素数8〜20の脂肪酸、(C)塩基性化合物、(D)直鎖オレフィン、及び(E)非イオン界面活性剤を配合してなるものである。
本発明における前記(A)成分のヒドロキシ脂肪酸化合物は、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸の重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ脂肪酸化合物である。
【0011】
前記ヒドロキシ脂肪酸としては、例えばモノオキシ脂肪酸として、ヒドロキシペラルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸;モノオキシジカルボン酸として、ヒドロキシセバシン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸;モノオキシトリカルボン酸として、ノルカペラート酸、アガリチン酸、ジオキシモノカルボン酸として、イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸;ジヒドロキシジカルボン酸として、ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン二酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸などがあげられる。また、天然油脂より得られるひまし油脂肪酸や、硬化ひまし油脂肪酸も使用できる。
これらのうちで、効果及び入手容易性の観点で、モノヒドロキシ脂肪酸が好ましく、中でも炭素数12〜20のモノヒドロキシ脂肪酸、特にヒドロキシステアリン酸(12−ヒドロキシステアリン酸)、及びヒドロキシオクタデセン酸(リシノレイン酸)が好ましい。
【0012】
前記ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物としては、前記ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体が好ましい。特に好ましいものは、ヒドロキシオクタデセン酸(リシノレイン酸)またはヒドロキシオクタデカン酸(12ヒドロキシステアリン酸)の2〜6量体である。
【0013】
前記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸との脱水縮合物の脱水縮合反応に用いる脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などで例示される一塩基酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸、リノール酸、メタアクリル酸縮合物などで例示される二塩基酸があげられる。また、不飽和結合を持つ脂肪酸に対してメタアクリル酸に例示される不飽和脂肪酸を付加させた脂肪酸なども使用できる。
上記重縮合物は、上記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と上記脂肪酸とを通常の重縮合反応に従って、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下で反応させることにより得られる
【0014】
本発明に用いる上記ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸との脱水縮合物であるヒドロキシ脂肪酸化合物は、平均分子量が300〜2000であるものが好ましい。平均分子量が300未満であれば加工性能(成型性)が不充分となることがあり、一方分子量が2000を超えると接着性が低下することがある。ヒドロキシ脂肪酸化合物の平均分子量は、500〜800であるものがより好ましく、600〜700のものが特に好ましい。
【0015】
本発明においては、上記ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸との脱水縮合物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ脂肪酸化合物を配合する。該ヒドロキシ脂肪酸化合物の配合量は、潤滑剤全量基準で、10〜60質量%であることが好ましく、30〜45質量%であることがより好ましい。ヒドロキシ脂肪酸化合物の含有量が10質量%以上であれば、加工性能(成型性)が良好であり、60質量%以下であれば、他の成分の適切な配合量を確保することができる。
【0016】
本発明における前記(B)成分の脂肪酸としては、炭素数が8〜20の脂肪酸を用いる。その脂肪酸には、直鎖若しくは分岐鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸が含まれる。
このような脂肪酸の中でも、接着適合性を高める点で、炭素数8〜10の脂肪酸が好ましく、その具体例としては、各種オクタン酸、各種ノナン酸、各種デカン酸などの脂肪族モノカルボン酸、オクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。特に炭素9又は10の脂肪酸、中でも分岐鎖を有する炭素9又は10の脂肪酸が好ましい。
これらの脂肪酸は、一種単独で、又は二種以上を混合して使用してもよい。
本発明においては、脂肪酸の配合量は、潤滑剤全量基準で、3〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。3質量%以上であれば、接着適合性を良好に保つことができ、一方、30質量%以下であれば、他の成分の適切な配合量を確保することができる。
【0017】
本発明においては、(C)成分としてアルカリ金属の水酸化物、及び有機アミン化合物から選ばれる少なくとも一種の塩基性化合物を配合する。
前記アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムを例示することができる。また、有機アミン化合物としては、アルカノールアミン及びピペラジン化合物を挙げることができる。
前記アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノn−プロパノールアミン、ジ(n−プロパノール)アミン、トリ(n−プロパノール)アミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルイソプロパノールアミンなどが例示できる。これらのアルカノールアミンの中でも、総炭素数2〜4の一級又は三級のアルカノールアミンが好ましい。
また、前記ピペラジン化合物の代表例としては、N−(2−ヒドロキシメチル)ピペラジン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−(2−ヒドロキシプロピル)ピペラジンなどのN−(2−ヒドロキシアルキル)ピペラジンが例示できる。
これらの有機アミン化合物のうちでも、効果の点で、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、及びN−(2−ヒドロキシアルキル)ピペラジンが好ましく、N−(2−ヒドロキシアルキル)ピペラジンが特に好ましい。
【0018】
本発明においては、(C)成分の配合量は、前記(A)成分および(B)成分の配合量との関係で、中和当量比〔(C)/((A)+(B))〕が0.5〜2.5となる範囲で配合するのが好ましく、さらに中和当量比が0.6〜2.0、特に0.7〜1.7となる範囲であることが好ましい。
(C)成分のアルカリ金属の水酸化物及び有機アミン化合物から選ばれる少なくとも一種の塩基性化合物の配合量が、前記の範囲であれば、(A)のヒドロキシ脂肪酸化合物及び(B)の脂肪酸が(C)成分と良好な塩を形成し、優れた加工性能、接着適合性を付与するとともに防錆性を高める効果がある。具体的には、例えば中和当量比が0.5以上であれば、鉄やアルミに対する腐食が抑制され、中和当量比が2.5以下であれば良好な成型性を発揮することができる。
【0019】
また、本発明の(C)成分としてアルカリ金属水酸化物を一種又は二種以上と有機アミン化合物を一種又は二種以上を混合して配合することが好ましい。その場合のアルカリ金属の水酸化物と有機アミン化合物との混合割合は任意であるが、アルミ表面の変色防止などの観点から、アルカリ金属の水酸化物(C1)と有機アミン化合物(C2)の割合(当量比(C1)/(C2))が1.0以下であることが好ましい。
【0020】
本発明においては、(D)成分として炭素数8〜20、好ましくは10〜20の直鎖オレフィンを用いる。直鎖オレフィンの炭素数が8未満であれば、引火点が低いため好ましくなく、一方炭素数が20を越えると通常室温で固体であるため、取扱いが困難である。本発明においては、この直鎖オレフィンの中でも、α−オレフィン、すなわち1−オレフィンが好ましい。
このような直鎖オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−イコセン或いはこれらの混合物などを挙げることができる。
これらの直鎖オレフィンは、例えば、エチレンを重合することによって製造されるエチレンオリゴマーを用いることができる。
本発明においては、上記炭素数8〜20の直鎖オレフィンの配合量は、潤滑剤全量基準で、0.5〜30質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%であることがより好ましい。0.5質量%以上であれば、加工性能、特に非鉄金属に対する加工性能を良好に保つことができ、一方、30質量%以下であれば、脱脂性が良好であり、また他の成分の適切な配合量を確保することができる。
【0021】
本発明においては、(E)成分として、非イオン系界面活性剤を配合する。
非イオン系界面活性剤としては、各種のものを使用できる。例えば、ポリオキシアルキレングリコール又はそのモノ、ジエーテル化合物、グリセリン若しくはそのアルキレンオキサイド付加物又はエーテル化合物等のポリオキシアルキレン系乳化剤、カルボン酸とアルコール(特に、多価アルコール)とのエステル、アルカノールアミンと脂肪酸又はカルボン酸とのアミド、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらのうちで、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやカルボン酸と多価アルコールとのエステルが好ましく、特に、そのHLB4以上のものが好ましい。
非イオン系界面活性剤の配合量は、潤滑剤全量基準で3〜50質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましい。3質量%以上であれば、潤滑剤の分散性又は溶解性が良好であり、一方、50質量%以下であれば他の成分の適切な配合量を確保することができる。
なお、本発明においては、前記非イオン系界面活性剤とともに、硫酸エステル塩、スルホン酸エステル塩、リン酸エステル塩等の陰イオン系界面活性剤やポリエチレンポリアミン等の陽イオン系界面活性剤を配合してもよい。
【0022】
本発明においては、さらに水を配合してもよい。この水は、潤滑剤の分散若しくは溶解安定性を高める効果を有することがある。
しかし、潤滑剤の分散(溶解)安定性は、潤滑剤中に存在する前記(A)〜(E)の成分の内容とそれらの配合割合によって変化する。そのため、水を必要としない場合もある。したがって水の配合量は、潤滑剤全量を基準として、0〜50質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。
【0023】
本発明の水溶性金属加工用潤滑剤においては、さらに防錆剤、酸化防止剤及び腐敗防止剤の中から選ばれる少なくとも一種を配合することが好ましい。
前記防錆剤としては、例えば、石油スルホン酸ナトリウムなどの金属スルホネート系、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸などのこはく酸エステル系、カルボン酸アミドなどが挙げられる。このような防錆剤の配合量は、潤滑剤全量を基準として、通常、0.0005〜2質量%の範囲内で配合するのが好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。
前記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤が挙げられる。
このような酸化防止剤の配合量は、潤滑剤全量を基準として、通常、0.01〜3質量%の範囲内で配合するのが好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。
前記腐敗防止剤としては、例えば、トリアジン系防腐剤、アルキルベンゾイミダゾール系防腐剤などが挙げられる。このような腐敗防止剤の配合量は、潤滑剤全量を基準として、通常、0.0001〜3質量%の範囲内で配合するのが好ましく、0.001〜2質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の水溶性金属加工用潤滑剤においては、本発明の目的に反しない範囲で、適宜その他の添加剤や溶剤類を配合することができる。
そのような添加剤としては、例えば、各種のアルコール類、エステル類,油脂類,硫化油脂類,硫化エステル類,硫化オレフィン,硫化鉱油、塩素パラフィン,リン酸エステル,亜リン酸エステル,及びそれらのアミン塩、ジチオリン酸塩(ジチオリン酸亜鉛,ジチオリン酸モリブデン等),ジチオカルバミン酸塩(ジチオカルバミン酸モリブデン等)などの油性剤や極圧剤、ベンゾトリアゾール系、チアゾール系などの腐食防止剤、シリコン系、フッ素化シリコン系などの消泡剤、ポリメタアクリレート系、オレフィンコーポリマー系などの粘度指数向上剤などが挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、目的に応じて適宜選定すればよいが、通常これらの添加剤の合計が潤滑剤全量を基準として20質量%以下になるように配合する。
【0025】
本発明は、上記各成分を配合してなる水溶性金属加工用潤滑剤であるが、該潤滑剤を原液とし、これを水で希釈してその希釈液を水溶性金属加工用潤滑剤として使用することができる。その場合の希釈倍率は特に制限はないが、通常3〜300倍が好ましく、5〜100倍、さらには、10〜50倍程度が好ましい。
また、水溶性金属加工用潤滑剤のpHについては、水の30倍希釈液が7.5〜10であることが好ましく8〜9.5であることがより好ましい。水の30倍希釈液がこの範囲であれば、各種金属表面の変色や腐食の恐れがない。
【0026】
本発明の水溶性金属加工用潤滑剤(希釈した潤滑剤を含む)の動粘度については、特に制限はないが、40℃でおよそ20〜20000mm2/sの範囲にあるものが好ましい。動粘度がおよそ20〜20000mm2/sの範囲であれば、加工性が良好で、引火性の問題もなく、かつ潤滑剤が被加工物に付着して持ち去られる量が過大となることもない。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
なお、各実施例及び比較例で得られた試料油について、以下の方法で評価した。
1.成形性(球頭張出成形試験)
<評価方法>
下記の方法でプレス加工を行い、球頭張出成形試験を行った。
(1)被加工材
(a)鋼材(JSC270D)、GA材(亜鉛メッキ鋼板、JAC270D)、 いずれも板厚0.8mm
(b)アルミ材(AA5182、及びAA6022)、いずれも板厚1.0mm
(2)加工条件
ポンチ球頭径:φ100,クロムメッキ鋼
成形速度 :100mm/s
(3)評価項目
球頭張出成形割れ発生限界高さ(mm)を測定した。
<評価基準>
◎:限界高さ、アルミ材及びGA材の場合36mm以上、鋼材の場合40mm 以上
○:限界高さ、アルミ材及びGA材の場合30mm以上36mm未満、鋼材の 場合35mm以上40mm未満
×:限界高さ、アルミ材及びGA材の場合30mm未満、鋼材の場合35mm 未満
【0028】
2.接着適合性試験
<評価方法>
JASO規格M323に準拠し、下記の方法で接着した2枚の被加工材について、せん断強度と剥離形態(剥離面積率)を測定した。
(1)被加工材の接着方法;
1.(1)の成形性の評価で使用した被加工材の試験片(25×100mmの長方形)を各2枚セットにして準備した。これらの試験片について、その片面に潤滑剤を塗布量1g/m2となるように塗布した。次いで、潤滑剤を塗布した各2枚セットの一方の試験片について、潤滑剤塗布面に接着剤を塗布し、その接着剤塗布試験片と、2枚セットの前記他の試験片とを、潤滑剤塗布面を介して接着剤を挟むように接着して、試験片セットを作製した。
この場合、スペーサーもしくはガラスビーズを用いて接着部における試験片の隙間が0.05〜0.15mmとなるよう、接着剤の塗布量を調整した。
上記試験片セットを170±2℃の乾燥炉で20分間加熱し、その後標準状態で24時間放置した。このようにして得られた試験片セットについて、せん断強度と剥離形態を評価した。
なお、接着剤は、エポキシ系接着剤(サンスター技研社製、商品名「♯1085」)を用いた。
(2)せん断強度測定条件
せん断強度測定時の引張り速度は50mm/minの条件で測定した。
<評価基準>
せん断強度
◎:15MPa以上
○:10MPa以上15MPa未満
×:10MPa未満
剥離形態
○:凝集破壊面積率100%
△:凝集破壊面積率80%以上100%未満
×:凝集破壊面積率80%未満
【0029】
3.脱脂性試験
<評価方法>
潤滑剤を3.0g/m2塗布したアルミ板材(AA5182、70×150mm)を室温で1時間放置後水洗した。水洗によって、脱脂された部分の面積%を求めた。
<評価基準>
○:95%以上
△:50%以上95%未満
×:50%未満
4.防錆性試験
<評価方法>
潤滑剤を3.0g/m2塗布したアルミ板材(AA5182、70×150mm)を室温で14日間暴露し、その後アルミ板の外観を観察して評価した。
<評価基準>
○:変色なし
△:変色有り(変色面積が5%以下)
×:変色有り(変色面積が5%を超える)
5.低温貯蔵安定性試験
各油剤を−5℃の低温槽に設置し、5日経過後にくもりの有無を観察した。
<評価基準>
○:くもり無し
△:わずかにくもり発生、常温で透明液体に戻る
×:くもりおよび固形物発生、常温で透明液体に戻らない
【0030】
実施例1〜14、比較例1〜7
第1表及び第2表に示した組成の油剤を調製し、その潤滑剤の性能を第1表及び第2表に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
[注]
1)Mn=300の化合物はリシノレイン酸単体、Mn=650〜1650の各化合物はリシノレイン酸を重縮合し、その重縮合物をさらにラウリン酸と反応(脱水縮合)させて得られた脱水縮合物、
2)水酸化カリウム(純度:80%)の50質量%水溶液とN−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンの混合物
3)炭素数10〜18の1‐オレフィンの混合物
4)ヘキシレンジグリコール(HLB=4)
5)防錆剤(ベンゾトリアゾール)
【0035】
第1表及び第2表によれば、本願発明である実施例1〜14の潤滑剤を用いれば、各種鋼材(鋼や亜鉛メッキ鋼など)の加工、各種のアルミ材の加工のいずれにおいても成型性が優れると共に、鋼材、アルミ材のいずれに対しても接着適合性が良好であることが分る。
これに対し、B成分を含有しない比較例1〜3、A成分を含有しない比較例4,D成分を含有しない比較例5,E成分を含有しない比較例6、C成分を含有しない比較例7の潤滑剤は、鋼材、アルミ材の加工における成型性、及び鋼材、アルミ材に対する接着適合性の全ての性能を満たすことができない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の水溶性金属加工用潤滑剤は、プレス加工等種々の金属加工に有効であり、特に、アルミニウム等の非鉄金属と鉄や鋼等の鉄金属のいずれの金属加工においても加工性能に優れている。また、接着剤の適合性にも優れる水溶性金属加工用潤滑剤である。
したがって、自動車の部品製造など多種の被加工材を加工する金属加工用潤滑剤として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の重縮合物、並びにヒドロキシ脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸の重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ脂肪酸化合物、(B)炭素数8〜20の脂肪酸、(C)アルカリ金属の水酸化物及び有機アミン化合物から選ばれる少なくとも一種の塩基性化合物、(D)炭素数8〜20の直鎖オレフィン、及び(E)非イオン界面活性剤を配合してなる水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項2】
潤滑剤全量基準で(A)成分を10〜60質量%、(B)成分を3〜30質量%、(D)成分を0.5〜30質量%、(E)成分を3〜50質量%、及び(C)成分を中和当量比〔(C)/((A)+(B))〕が0.5〜2.5となる範囲で配合してなる請求項1に記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項3】
(A)のヒドロキシ脂肪酸化合物の数平均分子量が、300〜2000である請求項1又は2に記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項4】
(B)の脂肪酸が、炭素数8〜10の脂肪酸である請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項5】
(C)の塩基性化合物がアルカリ金属の水酸化物と有機アミン化合物の混合物である請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項6】
(D)の直鎖オレフィンが、炭素数8〜20の1−オレフィンである請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項7】
防錆剤、酸化防止剤及び腐敗防止剤の中から選ばれる少なくとも一種を配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性金属加工用潤滑剤を水で3〜300倍希釈してなる水溶性金属加工用潤滑剤。

【公開番号】特開2009−242743(P2009−242743A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94078(P2008−94078)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】