説明

水溶性防食剤

【課題】防食性が優れた水溶性防食剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 一般式(1)で表されるポリエーテルポリアミン(E)を含有する水溶性防食剤を使用する。


{式中、Hは水素原子、Oは酸素原子、Nは窒素原子、R1は水素原子または炭素数2〜18の1価若しくは2価の炭化水素基、R2は炭素数2〜18の2価の炭化水素基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、pは0〜10の整数、x、y及びzは0〜20の整数、qはR1が水素原子または1価の炭化水素基の場合が1でR1が2価の炭化水素基の場合が2、p×y+x+zは2〜50の整数、(R1の炭素数)+(R2の炭素数)×pは3〜36の整数である。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性防食剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー等の蒸気発生装置は、蒸気発生用の水に溶存する二酸化炭素の影響により、蒸気発生装置の材料である金属の腐食及びスケール(水に溶解しない沈殿物)が生成するという問題がある。そこで、蒸気発生装置の腐食及びスケールの生成を防止することを目的として、アルカノールアミン等の水溶性防食剤が知られている。(特許文献1)
【特許文献1】特開平4−271809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の水溶性防食剤では、防食性が不十分であった。本発明は防食性が優れた水溶性防食剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般式(1)で表されるポリエーテルポリアミン(E)を含有する水溶性防食剤からなることを要旨とする。
【化1】

(式中、Hは水素原子、Oは酸素原子、Nは窒素原子、R1は水素原子または炭素数2〜18の1価若しくは2価の炭化水素基、R2は炭素数2〜18の2価の炭化水素基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、pは0〜10の整数、x、y及びzは0〜20の整数、qはR1が水素原子または1価の炭化水素基の場合が1でR1が2価の炭化水素基の場合が2、p×y+x+zは2〜50の整数、(R1の炭素数)+(R2の炭素数)×pは3〜36の整数である。)
【発明の効果】
【0005】
本発明の水溶性防錆剤は、防食性が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
一般式(1)におけるR1は水素原子または炭素数2〜18の1または2価の炭化水素基であり、防食性の観点等から、炭素数2〜18の1または2価の炭化水素基が好ましい。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。
【0007】
1が脂肪族炭化水素基の場合、R1の炭素数は、防食性及び水溶性の観点から、2〜18が好ましく、さらに好ましくは3〜12、特に好ましくは6〜8である。
【0008】
脂肪族炭化水素基としては、鎖式炭化水素基および脂環式炭化水素基が挙げられる。
鎖式炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基および分岐状炭化水素基が挙げられる。
【0009】
1価の直鎖状炭化水素基としては、直鎖状アルキル基及び直鎖状アルケニル基が含まれる。
直鎖状アルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基およびオクタデシル基等が挙げられる。
【0010】
直鎖状アルケニル基としては、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基およびオレイル基等が挙げられる。
【0011】
2価の直鎖状炭化水素基としては、直鎖状アルキレン基及び直鎖状アルケニレン基が挙げられる。
直鎖状アルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基およびオクタデカメチレン基等が挙げられる。
【0012】
直鎖状アルケニレン基としては、プロペニレン基、ブテニレン基、ヘキセニレン基、オクテニレン基、オクタデセニレン基等が挙げられる。
【0013】
1価の分岐状炭化水素基としては、1−メチルエチル基、t−ブチル基、2−エチルへキシル基、2,4,6−トリメチルヘプチル基、2,4,6,8−テトラメチルノニル基及び2−n−ブチルテトラデシル基等が挙げられる。
【0014】
2価の分岐状炭化水素基としては、2−メチルエチレン基、2−エチルエチレン基、2−エチルヘキサメチレン基、2,4,6−トリメチルへプチレン基、2,4,6,8−テトラメチルノネン基及び2−n−ブチルテトラデシレン基等が挙げられる。
【0015】
1価の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基及びシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0016】
2価の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシレン基、シクロヘキセニレン基及びシクロヘプチレン基基等が挙げられる。
【0017】
1が芳香族炭化水素基の場合、R1の炭素数は、防食性と水溶性の観点から、6〜12が好ましく、さらに好ましくは6〜10、特に好ましくは6〜8である。
1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、キシリル基、ナフチル基及びビフェニリル基等が挙げられる。
【0018】
2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、キシリレン基、ナフチレン基及びビフェニリレン基等が挙げられる。
【0019】
これらのうち、R1としては、防食性の観点等から、炭素数2〜18の1または2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜12の2価の鎖式炭化水素基及びシクロヘキシル基、特に好ましくはヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基及びオクタメチレン基である。
【0020】
一般式(1)におけるR2は炭素数2〜18の2価の炭化水素基であり、炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。
2が脂肪族炭化水素基の場合、R2の炭素数は、防食性及び水溶性の観点から、2〜18が好ましく、さらに好ましくは3〜12、特に好ましくは3〜8である。
【0021】
脂肪族炭化水素基としては、鎖式炭化水素基および脂環式炭化水素基が挙げられる。
鎖式炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基および分岐状炭化水素基が挙げられる。
【0022】
2価の直鎖状炭化水素基としては、直鎖状アルキレン基及び直鎖状アルケニレン基が挙げられる。
直鎖状アルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基およびオクタデカメチレン基等が挙げられる。
【0023】
2価の分岐状炭化水素基としては、2−メチルエチレン基、2−エチルエチレン基、2−エチルヘキサメチレン基、2,4,6−トリメチルへプチレン基、2,4,6,8−テトラメチルノネン基、2−n−ブチルテトラデシレン基等が挙げられる。
【0024】
2価の脂環式炭化水素基としては、1,4−シクロヘキシレン基および1,4−シクロヘプチレン基、1,4−シクロヘキシルジメチレン基などが挙げられる。
【0025】
2が芳香族炭化水素基の場合、R2の炭素数は、防食性と水溶性の観点から、6〜18が好ましく、さらに好ましくは6〜12、特に好ましくは6〜8である。
【0026】
2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、キシリレン基、ナフチレン基及びビフェニリレン基等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、R2としては、防食性と水溶性の観点から、炭素数2〜18の2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜12の2価の鎖式炭化水素基、特に好ましくは炭素数3〜8の直鎖状アルキレン基である。
【0028】
一般式(1)におけるAは炭素数2〜4のアルキレン基であり、炭素数2のアルキレン基としてはエチレン基、炭素数3のアルキレン基としてはプロピレン基及びトリメチレン基、炭素数4のアルキレン基としてはイソブチレン基及びエチルエチレン基が挙げられる。炭素数2〜4のアルキレン基は、単一のアルキレン基でも複数のアルキレン基の混合でもよい。
これらのうち、水への溶解性の観点等から、炭素数2〜3のアルキレン基が好ましく、さらに好ましくはエチレン基、特に好ましくは一般式(1)におけるAが全てエチレン基である。
【0029】
pは0〜10の整数が好ましく、さらに好ましくは0〜2、特に好ましくは0である。この範囲であると、水溶液の粘度が低く、取り扱いが容易である。
【0030】
qはR1が水素原子または1価の炭化水素基の場合が1であり、R1が2価の炭化水素基の場合が2である。
【0031】
x、yおよびzは0〜20の整数が好ましく、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1である。この範囲であると、水溶性及び防食性が優れる。x、y及びzは同じでもよく、互いに異なっていてもよい。
【0032】
p×y+x+zは2〜50の整数が好ましく、さらに好ましくは2〜20、特に好ましくは2〜4である。この範囲であると、水溶性及び防食性が優れる。
【0033】
(R1の炭素数)+(R2の炭素数)×pは3〜36の整数が好ましく、さらに好ましくは4〜20、特に好ましくは6〜12である。この範囲であると、水溶性及び防食性が優れる。
【0034】
本発明の水溶性防食剤は、ポリエーテルポリアミン(E)以外に炭素数6〜20のカルボン酸(Q)を含有すると、鉄以外の金属への防食性がさらに優れるため好ましい。カルボン酸(Q)は、ポリエーテルポリアミン(E)と塩(F)を形成していてもよい。
【0035】
炭素数6〜20のカルボン酸(Q)としては、脂肪族カルボン酸および芳香族カルボン酸が含まれる。
脂肪族カルボン酸の場合、カルボン酸(Q)の炭素数は6〜20が好ましく、さらに好ましくは8〜18、特に好ましくは8〜12である。
【0036】
脂肪族カルボン酸としては、鎖式カルボン酸及び脂環式カルボン酸が含まれる。
鎖式カルボン酸としては、飽和カルボン酸及び不飽和カルボン酸が含まれる。
【0037】
飽和カルボン酸としては、飽和モノカルボン酸及び飽和ジカルボン酸が含まれる。
飽和モノカルボン酸としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸及びエイコサン酸等が挙げられる。
飽和ジカルボン酸としては、アゼライン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0038】
不飽和カルボン酸としては、不飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸が含まれる。
不飽和モノカルボン酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
不飽和ジカルボン酸としては、オクテニルコハク酸、ドデセニルコハク酸およびペンタデセニルコハク酸等が挙げられる。
【0039】
脂環式カルボン酸としては、ナフテン酸およびシクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0040】
芳香族カルボン酸の場合、炭素数は7〜20が好ましく、さらに好ましくは7〜12、特に好ましくは7〜9である。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、桂皮酸等が挙げられる。
【0041】
これらのうち、防食性の観点等から、脂肪族カルボン酸が好ましく、さらに好ましくは鎖式カルボン酸、特に好ましくは飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸、最も好ましくはオクタン酸及びデカン二酸である。
【0042】
本発明の水溶性防食剤は、水を含有してもよい。水を含有する場合、水の含有量(重量%)は、水、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の重量に基づいて、5〜95が好ましく、さらに好ましくは20〜80、特に好ましくは25〜75である。この範囲であると、粘度が低くなり、使用時に水溶性防食剤をさらに水で希釈する場合に溶解しやすくなる。
【0043】
本発明の水溶性防食剤は、親水性有機溶媒を含有してもよい。親水性有機溶媒としては、エチルアルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、及びポリエチレングリコールなどが含まれる。
親水性有機溶媒を含有する場合、親水性有機溶媒の含有量(重量%)は、親水性有機溶媒、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の重量に基づいて、0.01〜30が好ましく、さらに好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜15である。この範囲であると、水溶性防食剤の粘度が低くなり、使用時にさらに水で希釈する場合に溶解しやすくなる。
【0044】
本発明の水溶性防食剤は、水溶液とした場合のpHを調節するために、酸及びアルカリを含有してもよい。
酸としては、無機酸及び有機酸が含まれる。
無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸及びほう酸等が含まれる。
有機酸としては、炭素数1〜18の有機酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、ラウリン酸及びオレイン酸等が含まれる。
【0045】
アルカリとしては、アンモニア、アルカリ金属水酸化物及び炭素数1〜6の有機アミン等が含まれる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等が含まれる。
有機アミンとしては、アルキルアミン、アルカノールアミン及びモルホリン等が含まれる。
アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン及びシクロヘキシルアミン等が含まれる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等が含まれる。
【0046】
本発明の水溶性防食剤は、従来用いられてきた公知の防食剤(「腐食反応とその制御」H.H.ユーリック著、産業図書、1968年発行に記載のもの等)を含有してもよい。
このような防食剤としては、炭素数7〜18の有機アミン、6〜18の脂肪族アミド、芳香族アミド、シクロヘキシルアミンナイトライト、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン、及びアリザリン等が挙げられる。
炭素数7〜18の有機アミンとしては、炭素数7〜18の脂肪族アミン及び芳香族アミンが含まれる。
炭素数7〜18の脂肪族アミンとしては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン等が含まれる。
炭素数6〜18の脂肪族アミドとしては、前記アルキルアミン、前記アルカノールアミン又はアンモニアと、炭素数8〜18の脂肪族カルボン酸とが反応して製造されうる脂肪酸アミドが含まれる。
炭素数8〜18の脂肪族カルボン酸としては、オクタン酸、ラウリル酸、ノナン酸、デカン酸、オレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、オクテニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸及びオクタデセニルコハク酸等が含まれる。
芳香族アミドとしては、前記アルキルアミン、前記アルカノールアミン又はアンモニアと、芳香族カルボン酸とが反応して製造されうる芳香族アミドが含まれる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、ニトロ安息香酸等が含まれる。
従来公知の防食剤を含有する場合、含有量(重量%)は、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の重量に基づいて、30以下が好ましく、さらに好ましくは20以下、特に好ましくは、10以下である。この範囲内であれば、硬水によるスケールの発生が少なく、泡立ちが小さいという観点から好ましい。
【0047】
次に、本発明の水溶性防食剤の製造方法について説明する。
ポリエーテルポリアミン(E)は、一般式(2)で表されるアミンに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加反応させる方法等により製造できる。
1−[(NH−R2)p−NH2]q (2)
{式中、H、N、R1、R2、p及びqは一般式(1)と同じである。}
【0048】
一般式(2)で表されるアミンとしては、次の(i)〜(iv)が例示できる。
(i)p=0、q=1の場合、アンモニア、アルキルアミン、アルケニルアミン、脂環式アミン及び芳香族アミン等が含まれる。
アルキルアミンとしては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン及びドデシルアミン等が挙げられる。
アルケニルアミンとしては、オクテニルアミン及びオレイルアミン等が挙げられる。
脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン及びシクロへプチルアミン等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、フェニルアミン及びスチレン化フェニルアミン等が挙げられる。
【0049】
(ii)p=0、q=2の場合、アルキレンジアミン、脂環式ジアミン及び芳香族ジアミン等が含まれる。
アルキレンジアミンとしては、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デシルメチレンジアミン、ドデシルメチレンジアミン、ヘキサデシルメチレンジアミンおよびオクタデシルメチレンジアミン等が挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、シクロヘキシルジアミン等が挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミンおよびキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0050】
(iii)p>0、q=1の場合、エチル−1,3−プロピレンジアミン、N−シクロヘキシル−1,3−プロピレンジアミン、ラウリルアミノプロピルアミン、及びオレイルアミノプロピルアミン等が含まれる。
【0051】
(iv)p>0、q=2の場合、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビスアミノプロピル−1,3−プロピレンジアミン、及びN,N’−ビスアミノプロピル−1,4−ブチレンジアミン等が含まれる。
【0052】
炭素数2のアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド(EOと略記)が挙げられる。
炭素数3のアルキレンオキシドとしては、プロピレンオキシド(POと略記)及びオキセタン等が挙げられる。
炭素数4のアルキレンオキシドとしては、エチルエチレンオキシド(1,2−ブチレンオキシド)、2,3−ジメチルエチレンオキシド(2,3−ブチレンオキシド)等が挙げられる。
炭素数2〜4のアルキレンオキシドは、単一のアルキレンオキシドでも複数のアルキレンオキシドの混合でもよい。
これらのうち、水への溶解性の観点等から、炭素数2〜3のアルキレンオキシドが好ましく、さらに好ましくはエチレンオキシドである。
【0053】
アルキレンオキシドの付加反応は、温度100〜180℃、圧力0〜0.6MPa、反応時間2〜15時間で行うことが好ましい。反応は、必要により触媒(CA)を使用することができる。
触媒(CA)としては、アルカリ触媒及び酸化物等が挙げられる。
アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム及び水酸化カルシウム等が含まれる。
酸化物としては、酸化カリウム、酸化カルシウム及び酸化バリウム等が含まれる。
【0054】
ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)は、固体又は液体である。
本発明の水溶性防食剤が、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の混合物の場合、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の混合物の製造方法としては、(i)ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)をそのままで混合する方法、(ii)ポリエーテルポリアミン(E)及び必要によりカルボン酸(Q)を水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に溶解若しくは分散させる方法等が挙げられる。これらのうち、均一に混合し易いという観点等から、(ii)ポリエーテルポリアミン(E)及び必要によりカルボン酸(Q)を水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に溶解若しくは分散させる方法が好ましい。
混合する場合、混合装置を用いてもよく、混合装置としては、撹拌機又は分散機等が使用できる。
撹拌機としては、メカニカルスターラー及びマグネチックスターラー等が挙げられる。
分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル及びビーズミル等が挙げられる。
混合する際の温度及び時間には制限がなく、製造する規模や設備等に応じて適宜決めることができ、例えば、製造規模が数kg程度の場合、5〜40℃で0.1〜5時間程度が好ましい。
【0055】
また、(i)の製造方法を用いると、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の塩(F)が製造できる。したがって、(i)で製造した塩(F)を水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に溶解若しくは分散させても(iii)の製造方法と同じものが製造できる。
【0056】
JIS K0070:1992に準拠して測定される炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の酸価と、ポリエーテルポリアミン(E)のASTM D2074に記載の方法に準拠して測定される全アミン価との比(酸価/全アミン価)は、0〜2.0が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.5、特に好ましくは0.5〜1.0である。この範囲であると、水溶性防食剤の水溶性がさらに優れる。
また、ポリエーテルポリアミン(E)とカルボン酸(Q)との含有量比(重量比)は、(E/Q)=10/0〜1/9が好ましく、さらに好ましくは8/2〜2/8、特に好ましくは7/3〜5/5である。
【0057】
この計算は、具体的には、例えば、次のようである。
全アミン価が300のポリエーテルポリアミン(E)100重量部に対して、酸価389のカルボン酸(Q)を77.1(=300×100/389)重量部含有する場合、ポリエーテルポリアミン(E)の全アミン価に対してカルボン酸(Q)の酸価が1.0倍となる。
【0058】
本発明の水溶性防食剤が適用できる金属としては、鉄(鋼鉄及び鋳鉄等)、銅、黄銅、アルミニウム、亜鉛及びハンダ等が挙げられる。
【0059】
本発明の水溶性防食剤を蒸気発生装置等に使用する場合、水に希釈して使用するのが好ましい。
希釈する場合、ポリエーテルポリアミン(E)及び炭素数6〜20のカルボン酸(Q)の濃度(重量%)は0.001〜20が好ましく、さらに好ましくは0.01〜10、特に好ましくは0.05〜5である。
また、希釈する場合、希釈後のpHは6.0〜12.0が好ましく、さらに好ましくは7.0〜10.0、特に好ましくは8.0〜9.0である。この範囲であると、防食性がさらに優れる。希釈時に前記のpH調整剤を使用してもよい。
【実施例】
【0060】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において、部は重量部、%は重量%を表す。なお、特に記載のない限り、純度100%のものは蒸留して精製したものを使用した。
【0061】
<製造例1>
温度制御装置を備えたオートクレーブにシクロヘキシルアミン99部(関東化学社製試薬、純度100%)(1モル)を仕込み、耐圧滴下ロートに仕込んだEO88部(2モル)を反応温度が140〜150℃を保つように制御しながら6時間かけて滴下した後、145℃でさらに2時間撹拌して、反応させた。その後、80℃に冷却した後、600Pa以下に減圧することで脱水を行い、ポリエーテルポリアミン(E1)187部を得た。ポリエーテルポリアミン(E1)の全アミン価は300であった。
なお、全アミン価は、ASTM D2074記載の方法に準拠して測定した。
【0062】
<製造例2>
シクロヘキシルアミン99部をヘキサメチレンジアミン116部(ナカライテスク社製試薬、純度100%)(1モル)にし、EO88部(2モル)をEO176部(4モル)に代えた以外は製造例1と同様にして、ポリエーテルポリアミン(E2)292部を得た。ポリエーテルポリアミン(E2)の全アミン価は384であった。
【0063】
<製造例3>
シクロヘキシルアミン99部をN,N’−ビスアミノプロピル−1,4−ブチレンジアミン202部(広栄化学工業社製)(1モル)にし、EO88部(2モル)をEO264部(6モル)に代えた以外は製造例1と同様にして、ポリエーテルポリアミン(E3)466部を得た。ポリエーテルポリアミン(E3)の全アミン価は482であった。
【0064】
<製造例4>
シクロヘキシルアミン99部をN−シクロヘキシル−1,3−プロピレンジアミン156部(Hoechst社製)(1モル)にし、EO88部(2モル)をEO132部(3モル)に代えた以外は製造例1と同様にして、ポリエーテルポリアミン(E4)466部を得た。ポリエーテルポリアミン(E4)の全アミン価は390であった。
【0065】
<製造例5>
オートクレーブに実施例2で得られた(E2)292部(1モル)および水酸化カリウム(粉末)を0.6部仕込み、耐圧滴下ロートに仕込んだEO352部(8モル)を反応温度が140〜150℃を保つように制御しながら6時間かけて滴下した後、145℃でさらに2時間反応させた。精製するために、さらに吸着処理剤(協和化学工業社製 キョーワード600)を用いて水酸化カリウムを除去後、ろ過し、製造例1と同様に減圧脱水して、ポリエーテルポリアミン(E5)644部を得た。ポリエーテルポリアミン(E5)の全アミン価は174であった。
【0066】
<製造例6>
ガラス製コルベンにジエチレントリアミン103部(和光純薬工業社製)(1モル)および4−メチル−2−ペンタノン250部(和光純薬工業社製、純度99.5%)(2モル)を仕込み、窒素を吹き込み、110℃で生成する水を留去しながら、5時間撹拌し、ジエチレントリアミンの両末端1級アミノ基と4−メチル−2−ペンタノンのケチミン化反応を行った(反応は1H−NMRにより確認した)。さらに120℃に昇温し、600Pa以下に減圧することで脱水及び未反応の4−メチル−2−ペンタノンを留去し、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−N’−[2−[(1,3−ジメチルブチリデン)アミノ]エチル]−1,2−エタンジアミン267部(e6)(1モル)を得た。得られた(e6)267部(1モル)および水酸化カリウム(粉末)を0.6部をオートクレーブに仕込み、耐圧滴下ロートに仕込んだEO352部(8モル)を反応温度が140〜150℃を保つように制御しながら6時間かけて滴下した後、145℃で2時間さらに反応させた。精製するために、製造例5と同様に吸着処理剤を用いて水酸化カリウムを除去後、ろ過した。さらに水253部を加えた後、100℃に昇温し、約1時間撹拌し加水分解した。その後同温度で600Pa以下に減圧し、生成した4−メチル−2−ペンタノン及び水を留去することでポリエーテルポリアミン(E6)455部を得た。ポリエーテルポリアミン(E6)の全アミン価は370であった。
【0067】
<比較製造例7>
シクロヘキシルアミン99部をエチレンジアミン60部(1モル)にし、EO88部(2モル)をEO176部(4モル)に代えた以外は製造例1と同様にして、ポリエーテルポリアミン(EH1)236部を得た。ポリエーテルポリアミン(EH1)の全アミン価は475であった。
【0068】
<実施例1>
ポリエーテルポリアミン(E1)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A1)を得た。水溶性防食剤(A1)の酸価/全アミン価は、0/90であった。
【0069】
<実施例2>
ポリエーテルポリアミン(E2)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A2)を得た。水溶性防食剤(A2)の酸価/全アミン価は0/115であった。
【0070】
<実施例3>
ポリエーテルポリアミン(E3)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A3)を得た。水溶性防食剤(A3)の酸価/全アミン価は0/144であった。
【0071】
<実施例4>
ポリエーテルポリアミン(E4)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A4)を得た。水溶性防食剤(A4)の酸価/全アミン価は0/117であった。
【0072】
<実施例5>
ポリエーテルポリアミン(E5)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A5)を得た。水溶性防食剤(A5)の酸価/全アミン価は0/52であった。
【0073】
<実施例6>
ポリエーテルポリアミン(E6)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A6)を得た。水溶性防食剤(A6)の酸価/全アミン価は0/111であった。
【0074】
<実施例7>
ポリエーテルポリアミン(E2)30部、デカン二酸10部、水60部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A7)を得た。水溶性防食剤(A7)の酸価/全アミン価は56/115であった。
【0075】
<実施例8>
ポリエーテルポリアミン(E2)30部、オクタン酸10部、水60部をビーカー中、30℃で均一に混合して、本発明の水溶性防食剤(A8)を得た。(A8)の酸価/全アミン価は39/115であった。
【0076】
<比較例1>
モノエタノールアミン30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、比較用の水溶性防食剤(B1)を得た。比較用の水溶性防食剤(B1)の酸価/全アミン価は0/276であった。
【0077】
<比較例2>
トリエタノールアミン30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、比較用の水溶性防食剤(B2)を得た。比較用の水溶性防食剤(B2)の酸価/全アミン価は0/113であった。
【0078】
<比較例3>
ポリエーテルポリアミン(EH1)30部、水70部をビーカー中、30℃で均一に混合して、比較用の水溶性防食剤(B3)を得た。比較用の水溶性防食剤(B3)の酸価/全アミン価は0/143であった。
【0079】
<比較例4>
トリエタノールアミン30部、オクタン酸10部、水60部をビーカー中、30℃で均一に混合して、比較用の水溶性防食剤(B4)を得た。比較用の水溶性防食剤(B4)の酸価/全アミン価は39/113であった。
【0080】
<評価>
防食性の評価は、実施例及び比較例で作成した水溶性防食剤を用いて、以下のように行った。
【0081】
耐水ペーパー(粒度320A 住友スリーエム社製)と水を用いて研磨後、トルエンとアセトンを用いて洗浄した短冊型試験片〔長さ76mm、幅12mm、厚さ2mmの鋼板、JIS G3141:2005(冷間圧延板および鋼帯)に記載のSPCC〕を入れた試験管(内径15mm、高さ130mm)に水溶性防食剤の0.2%水溶液20mlを注ぎ、鋼板を全浸漬させた。その試験管を容量2リットルのオートクレーブに収容し、密閉した。次いでオートクレーブのバルブを開いて二酸化炭素をボンベから導入し、0.3MPa(ゲージ圧)に加圧した後、バルブを閉じて密閉した状態で、温度を100℃に昇温し、そのまま5日間放置した。
5日後にオートクレーブの温度調節を止め、室温に放置することにより30℃まで冷却した後、試験片を取り出し、表面の付着物を希塩酸により除去し、水洗、乾燥後、試験前後の表面の変化を目視で観察し、重量変化(mg/cm2){(水溶性防食剤処理前の短冊型試験片の重量)−(水溶性防食剤5日処理、乾燥後の重量)}/(短冊型試験片の表面積)を電子天秤(メトラー社製、AE−240)で測定することにより評価した。重量変化が小さい程、防食性が良好である。
また、乾燥後の外観を、以下の基準によって評価した。
◎:試験前と全く変化がないかまたはほぼ同じ色調および光沢を有する。
○:試験前に比べて若干変化が見られる。
△:試験前に比べて変色が著しいが、全面腐食、孔食は見られない。
×:変色の有無に関わらず全面腐食、孔食等がある。
【0082】
実施例1〜8及び比較例1〜4で製造した水溶性防食剤の組成及び防食性の評価結果を、表1〜表3に示す。
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
実施例及び比較例の結果から、本発明の水溶性防食剤を用いると、試験片の外観および質量の変化が小さいことから、防食性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の水溶性防食剤は、水に任意の濃度に稀釈でき、二酸化炭素溶存下の防食性に優れる。
本発明の水溶性防食剤は、切削油、研削油、研磨油、圧延油、引き抜き油、プレス油、焼き入れ油、アルミディスク及びシリコンウエハの研磨、切断等の水溶性の加工油;特に二酸化炭素が溶存しやすいボイラの給水系や蒸気・復水系に添加することにより好適に用いることができる。
本発明の水溶性防食剤は、塗料の塗装面や樹脂への浸透性が弱いため、被処理材料の周辺の塗膜の剥離や膨潤が起きにくいという効果も有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるポリエーテルポリアミン(E)を含有する水溶性防食剤。
【化1】

(式中、Hは水素原子、Oは酸素原子、Nは窒素原子、R1は水素原子または炭素数2〜18の1価若しくは2価の炭化水素基、R2は炭素数2〜18の2価の炭化水素基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、pは0〜10の整数、x、y及びzは0〜20の整数、qはR1が水素原子または1価の炭化水素基の場合が1でR1が2価の炭化水素基の場合が2、p×y+x+zは2〜50の整数、(R1の炭素数)+(R2の炭素数)×pは3〜36の整数である。)
【請求項2】
炭素数6〜20のカルボン酸(Q)を含有する請求項1に記載の水溶性防食剤。
【請求項3】
一般式(1)におけるR1が炭素数3〜18の1または2価の炭化水素基である請求項1または2に記載の水溶性防食剤。
【請求項4】
一般式(1)におけるAがエチレン基である請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性防食剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性防食剤からなる蒸気発生装置用水溶性防食剤。