説明

水理地質構造推定方法

【課題】 従来より格段に安い費用で貯水池周辺地盤の水理地質構造を推定する方法を提供する。
【解決手段】
(a)貯水池(24)周辺の複数の湧水地点(28)の水位を測定し、複数の湧水地点(28)の位置を表した平面上で、複数の湧水地点(28)の位置と水位とから水位の等しい位置に印(32)を付け、それらの印(32)を結ぶ等高線(33)を描くことで地下水位等高線図(51)を作成するステップを含む。(b)貯水池(24)の水位及び湧水地点(28)のうち貯水池(24)より低い位置にある湧水地点(28)の湧水量を測定し、貯水池(24)の水位の変化及び湧水地点(28)の湧水量の変化を示す波形をそれぞれ求め、湧水量の変化を示す波形が水位の変化を示す波形に似た形状を示すまでに要した時間を求めるステップを含む。(c)地下水位等高線図及びその時間に基づいて貯水池(24)周辺の水理地質構造を推定するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯水池周辺地盤の水理地質構造を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貯水池式水力発電所では、地震や経年劣化等によって生じた貯水池や導水路等の亀裂から水が漏れ、それが地中を流れて鉄管路が設置されている斜面から湧き出ることがある。貯水池周辺の地盤に含まれる水量が増加すると、地すべりなどの危険性が増加するため、水力発電所では、貯水池周辺の地下水状況や漏水量の測定データ等に基づいて貯水池周辺地盤の水理地質構造を推定し、その結果から地盤の安定性評価を行っている。
【0003】
水理地質構造は、岩盤、断層、破砕帯、風化・変質帯、及び割れ目帯などの地質構造に透水性などの水理学的特性を加味したものであり、近年のダム建設に際しては、地盤の安定性等を評価するための判断材料として重要視されている。
【0004】
従来、地下水状況を把握するためには、地下水位調査を含む地下水調査を行う。国土調査法第三条第二項の規定に基づく地下水調査作業規程準則の規定によると、地下水調査においては、地下水位の測定並びに帯水層の状況に関する調査を行い、その結果を地図及び簿冊に作成するものとされている。ここで、地下水調査の作業は、「現地作業」及び「整理作業」からなる。
【0005】
現地作業は、地下水位の同時観測、長期観測及び地盤の標高(以下「地盤高」という。)の測定を行うとともに、帯水層の状況を明らかにするために必要な踏査、地質ボーリング及び物理探査(例えば、弾性波探査など)等の地質調査等を行う作業をいう。同時観測とは、数日間降雨のないときに、調査範囲全体に亘って同時に調査を行うものであり、年2回地下水位の高い時期と低い時期を選んで実施することが原則である。長期観測とは、一年以上、毎日一回定時に水位を測定するものである。長期観測を実施する観測井は、同時観測の結果に基づき、地下水の分布の概要を把握し、地形、地質、河川、湖沼、水路等の状況を十分に勘案して決定される。
【0006】
整理作業とは、現地作業の結果に基づいて、地下水観測表、地下水位年表、地下水位図表、地下水位の等高線図(以下「地下水位等高線図」という。)を含む地下水図、地質柱状断面図及び地下水説明書を作成する作業をいう。
【0007】
地下水位等高線図等の作成を目的とする地下水位調査は、既存の井戸を観測井として利用するか或いはボーリング孔を掘削して新たに観測井を設置して実施されるが、既存の観測井は、上水道の整備の進展や井戸枯れなどによって、継続して利用できない場合がある。従って、地下水位調査を行うときは、一般的には、ボーリング工事によって観測井が設置される。
【0008】
また、地下水調査を実施するときは、地下水の水位と水質の両方を同時に観測する必要がある場合も多いが、1つの観測井において水位と水質の両方を観測することは困難である。従って、このような場合には複数の観測井を掘削する必要があり、調査費用増大の原因となっている。さらに、従来の観測井は、費用の掛かる100〜150mm程度の大口径のボーリング孔を必要とするものである。
【0009】
下記特許文献1には、ボーリング孔掘削時の費用的負担を従来に比べ低減する技術として、「地盤中の地下水位及び地下水質の観測方法及び観測装置」が記載されている。この技術では、ボーリング孔の径を小さくし、地下水位及び地下水質の観測を同一のボーリング孔で行っている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−122935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来の地下水位調査では、ボーリング工事による観測井の設置が必要不可欠であるため、調査範囲が大きくなればボーリング工事の回数も増える。また、水位の同時観測を行うためには、全ての観測井の設置が完了しなければならず、これらが原因となって、調査の長期化及びコスト増大という問題が発生する。従って、ボーリング工事を行わずに地下水位調査が実施できれば、地下水位調査に掛かる期間と費用のみならず、貯水池周辺地盤の水理地質構造の推定に要する期間と費用も低減することが可能である。
【0012】
本発明の目的は、従来より格段に安い費用で貯水池周辺地盤の水理地質構造を推定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水理地質構造推定方法は、(a)貯水池周辺の複数の湧水地点の水位を測定し、前記複数の湧水地点の位置を表した平面上で、前記複数の湧水地点の位置と水位とから水位の等しい位置を求め、それらの位置を結ぶ等高線を描くことで地下水位の等高線図を作成するステップと、(b)前記貯水池の水位及び前記湧水地点のうち前記貯水池より低い位置にある湧水地点の湧水量を測定し、前記貯水池の水位の変化及び前記湧水地点の湧水量の変化を示す波形をそれぞれ求め、湧水量の変化を示す波形が水位の変化を示す波形に似た形状を示すまでに要した時間(例えば、後述の漏水伝達時間)を求めるステップと、(c)前記地下水位の等高線図及び前記時間に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定するステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の具体的態様では、前記(a)のステップでは、複数の時点で地下水位の等高線図を作成する。
【0015】
また、前記(b)のステップでは、任意の時点で測定した湧水地点の湧水量と当該湧水量を測定した時点から前記時間遡った時点で測定した貯水池の水位との相関図を作成し、前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、及び当該相関図に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする。
【0016】
また、(d)前記貯水池及び前記湧水地点の水質を調査するステップを含み、前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、前記相関図、及び当該水質に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする。
【0017】
本発明の具体的態様では、前記水質は、水素イオン濃度、電気伝導度、又は溶存イオンである。
【0018】
また、(e)前記湧水地点の湧水量を測定するステップを含み、前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、前記相関図、前記水質、及び当該湧水量に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする。
【0019】
本発明の具体的態様では、(f)前記(c)のステップで推定した水理地質構造に基づいて前記貯水池周辺の地盤の安定性を評価するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水理地質構造推定方法によれば、貯水池周辺に存在する湧水地点の水位に基づいて地下水位等高線図を作成し、また、貯水池水位の変化及び前記湧水地点の湧水量の変化を示す波形をそれぞれ求め、湧水量の変化を示す波形が水位の変化を示す波形に似た形状を示すまでに要した時間を求め、その地下水位等高線図と時間に基づいて貯水池周辺の水理地質構造を推定することができる。従って、従来の地下水調査では必須のボーリング調査を行う必要がなく、これに伴って貯水池周辺の水理地質構造の推定も格段に安い費用で行うことが可能である。
【0021】
また、地下水位等高線図は、複数の時点で作成するのが好適である。
【0022】
また、任意の時点で測定した湧水地点の湧水量と当該湧水量を測定した時点から漏水伝達時間遡った時点で測定した貯水池の水位との相関図を作成し、これを水理地質構造の推定のための判断材料とすることができる。
【0023】
また、貯水池及び湧水地点の水質を調査し、これを水理地質構造の推定のための判断材料とすることができる。この場合、水素イオン濃度、電気伝導度、又は溶存イオンを調査することが好適である。
【0024】
また、湧水地点の湧水量を測定し、これを水理地質構造の推定のための判断材料とすることも可能である。
【0025】
また、貯水池周辺の水理地質構造の推定に伴い、その結果から貯水池周辺の地盤の安定性を評価することが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の水理地質構造推定方法のメインフローチャートを示す。
【0027】
実施例の水理地質構造推定方法では、まず、水理地質構造推定の対象となる範囲についての地下水位等高線図の読込みを行う(ステップ[以下、STと表記する]1)。以下、地下水位等高線図の作成方法について説明する。
【0028】
地下水位等高線図を作成するには地下水位調査を行う必要があるため、調査計画を策定するのがよい。具体的には、地下水位調査を実施する範囲、時期等を定めておくのがよい。
【0029】
調査範囲は、例えば、特定のダム貯水池から所定の半径以内としてもよいし、地形図上に当てはめた所定の枠内の範囲としてもよく、水理地質構造を推定しようとする範囲を指定すればよい。
【0030】
調査時期は、上記の調査範囲において地下水位の高い時期と低い時期とを含む、通年で少なくとも2つの時期を選ぶようにするのがよい。例えば、調査範囲をダム施設周辺に指定したときは、その調査範囲における降雨状況や貯水池の水位等に基づいて定められる渇水期と豊水期、或いは低水位期と高水位期などである。具体的には、降雨量の少ないときが渇水期、多いときが豊水期、及び貯水池の水位が低いときが低水位期、高いときが高水位期である。
【0031】
調査時期を決定するために雨量や貯水池の水位等を基準とするのは、雨量の増減及び貯水池等からの漏水が地下水面の上昇と下降とに大きな影響を及ぼすからである。
【0032】
図2は、地下水位等高線図の作成方法を示すフローチャートである。
【0033】
まず、予め策定した調査計画に従って、調査時期に至ったかどうかを判別する(ST11)。渇水期、豊水期、低水位期並びに高水位期等は通年で日数が限られていることなどから、調査時期は地下水位調査を実施する上で重要である。従って、地下水位の状況を的確に把握するためには、予め策定した調査計画に即して調査を実施することが必要である。また、調査時期は、通年の降雨状況や貯水池の水位等からおおよその時期を予測できるため、それに基づいて調査時期が近づいたときに地表踏査を行い、正確な日時については、そのときの降雨量や貯水池の水位等に基づいて決定すればよい。
【0034】
ST11の判別が“YES”であれば、調査計画で定めた調査範囲において、湧水地点と既存の観測井(例えば、ボーリング孔)等からなる観測点の位置を確認する(ST12)。具体的には、調査範囲において地表踏査を行い、所定の記号(例えば、●)を用いて湧水地点の位置を地形図上に記す。これと同時に、既存の観測井の位置も、上記と同じ地形図上に所定の記号(例えば、■)を用いて記入しておく。図3は、調査計画で定めた調査範囲の地形図21(例えば、縮尺二万五千分の一のもの)と、各観測点の位置を記した状態を示す。
【0035】
実施例では、調査計画において、ダム施設22を含む所定の範囲(例えば、南北に3km及び東西に2kmの範囲)を調査範囲とし、この調査範囲における渇水期、豊水期、低水位期、及び高水位期を調査時期として定めた。また、例外的な調査時期として、地震発生後、豪雨後、及び充水期についても調査を行うこととした。充水期は、地形図21上に示されたダム施設22の導水路25が発電用水で満たされている時期である。
【0036】
地形図21上のダム施設22は、水路式の発電所23、貯水池24、導水路25、サージタンク26、及び鉄管路27を有している。
【0037】
水路式発電は、貯水池24の水を、緩い勾配の導水路25を通して落差の得られる地点まで導き、急勾配の鉄管路27で一気に発電所へ落とすことによって発電する方式である。
【0038】
貯水池24は、発電用水を貯留することのできる大きな池である。
【0039】
導水路25は、貯水池24からサージタンク26まで発電用水を導くためのトンネル式の水路である。
【0040】
サージタンク26は、導水路25と鉄管路27との接続地点に設置され、発電所23の水車を起動又は停止したときに導水路25や鉄管路27の内面に働く水撃圧を緩和すための筒型の巨大な水槽である。
【0041】
鉄管路27は、サージタンク26から発電所23まで発電用水を導くための鉄管で、発電用水の落差による水圧を直接受けるため、10〜20mm厚の鉄管が用いられている。
【0042】
ダム施設22は、利水計画に基づいて運用されているため、貯水池24周辺の水理地質構造の推定結果に基づいて、貯水池24の周辺地盤の安定性を評価することは、ダム施設を健全に運用する上で重要なことである。
【0043】
湧水は、自由地下水が、台地の崖の前面から湧出する崖線タイプのものと、台地面上の谷間などから湧出するタイプのものとがある。自由地下水は、地表と地表に最も近い不透水層との間の透水層に含まれている地下水である。
【0044】
次に、ST12で確認した湧水地点28等の観測点の水位を測定する(ST13)。具体的には、湧水地点28の水面と地表面とが面一であると仮定することにより、ST12において地形図上に記入した観測点の位置と、地形図上の等高線が示す標高とに基づいて、各観測点の水位を標高(以下「水面高」という。)で表す。
【0045】
また、既存のボーリング孔を利用した観測井29では、一般的な水位計を用いて地表面からの深さを測定し、その観測井の地形図21上の位置に基づいて水面高を算出すればよい。いずれにしても、各観測点の水面高は自動計測することが好適である。
【0046】
図4は、上記の方法によって得た各観測点における水面高を、地形図21上の観測点の傍に記入した状態を示す。また、これと同時に、各観測点の水面高を示す表を作成するようにしておいてもよい。
【0047】
次に、地形図21上に記した各観測点の位置及び各観測点の水面高に基づいて地下水位等高線図を作成する(ST14)。
【0048】
地下水位等高線図作成方法の基本的な考え方を図5に示す。まず、地形図21に記されている観測点のうち近接して位置する任意の3点を選び出し、各点間を直線31で結ぶ。選び出した3点には、例えば、反時計回りに“A”,“B”,“C”と名付けておくと分かり易い。
【0049】
ここでは、各観測点の水面高は、点Aが345m、点Bが295m、点Cが325mである。まず、線分ABを点Aと点Bの各水面高に基づいて比例配分し、所定の間隔(例えば、20m間隔)で区切る。具体的には、点Aと点Bの水面高は345mと295mなので、水面高が300m、320m、及び340mの位置で線分ABを区切ってそれぞれの位置に印32を付けておく。
【0050】
上記と同様にして、線分BC及び線分CAにも20m間隔で区切りの印32を付け、この3つの線分上で水面高の等しい印32同士を直線(図では破線で示す)で結ぶことにより、三角形ABCによって区切られた範囲における20m間隔の地下水位等高線33が得られる。
【0051】
次に、図6に示すように、三角形ABCの外側で、線分ABと線分CAのそれぞれに最も近い観測点を探し出し、各点をD,Eとする。点Dと点Eの水面高は、325mと377mであり、三角形ABDと三角形ACEによって区切られた範囲においても、上記と同様の方法で20m間隔の地下水位等高線33が得られる。
【0052】
そして、上記の作業を調査範囲内のすべての観測点について行い、調査範囲全域に亘って地下水位等高線33を描き、それをフリーハンドで滑らかに描き直すか、或いはX−Y座標を適用して、3次スプライン補間法等の一般的な補間法を用いて滑らかに近似するのがよい。これにより、1つの調査時期(例えば、渇水期)の地下水位等高線図を作成することができる。また、地下水位等高線図は、予め全観測点間において20m間隔の印32を付けた後、水面高が等しい印32を滑らかな曲線で結んでいくことにより作成するようにしてもよい。
【0053】
補間とは、非連続的な値の各観測点間を滑らかな線で結ぶ方法で、各観測点間のデータは滑らかに連続していると仮定される。一般的には、2つの観測点を通る2次曲線を各観測点間で滑らかにつないでいく方法や3次スプライン補間法などがある。
【0054】
3次スプライン補間法は、2次曲線を求める方法よりもさらに条件を増やしたもので、隣接する等水位の3点を順に選び、第1点及び第2点を通る3次曲線の1次及び2次導関数と、第2点及び第3点を通る3次曲線の1次及び2次導関数とが、第2点を通るようにする方法である。この作業を、1点ずつ観測点をずらしながら全ての観測点について行うことで、滑らかな地下水位等高線33が得られる。
【0055】
これらの補間法のいずれを用いても、地下水位等高線33を得るためにコンピュータで演算処理することが好適である。そして、その演算結果に基づき、コンピュータが作図装置を自動操作することにより、地下水位等高線図が作成される。
【0056】
1つの調査時期において、調査計画で定めた調査範囲の地下水位等高線図を作成すると、ST1に移り、次の調査時期に至ったとき、改めて上記の方法で地下水位等高線図を作成する。
【0057】
図7及び図8は、上記の方法で一年を通じて作成した各調査時期の地下水位等高線図51を示す。図7の破線は渇水期(例えば、平成13年6月5日〜同月8日)、実線は豊水期(例えば、平成13年7月24日〜同月25日)、図8の破線は低水位期(例えば、平成13年10月2日〜同月4日)、実線は高水位期(例えば、平成13年11月12日〜同月14日)の地下水位等高線を表している。図7及び図8の地下水位等高線図51において、各等高線から引き出した線に沿って記された数字は、地下水位等高線図51を構成する各等高線が表す水面高を示す。
【0058】
このようにして、ボーリング工事を行わず、湧水地点28を含む観測点の水位を測定することで地下水位等高線図51を作成することが可能であり、従来の地下水位調査に比べて調査に要する期間と費用を格段に低減することができる。
【0059】
実施例では、上記の方法で調査範囲の地下水位等高線図を継続的に作成し、データを蓄積しておくことが好適であり、貯水池24周辺の水理地質構造を推定するための判断材料として随時参照できるようにしておくのがよい。
【0060】
実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート(図1)では、ST1において、上記の方法で作成した複数(例えば、渇水期、豊水期、低水位期、及び高水位期の4つ)の地下水位等高線図51を読み込み、又は参照するようにすればよい。また、複数年分の地下水位等高線図51が参照可能であれば、それらを読み込み、過去の同時期の地下水位等高線図51と比較できるようにしてもよい。
【0061】
次に、上記の地下水位等高線図51の評価を行う(ST2)。以下、地下水位等高線図51の評価の一例を示す。
【0062】
図7の渇水期の地下水位等高線図51を見ると、地下水位等高線(例えば、地下水位400mの等高線など)が貯水池24から南東の方向へ向けて張り出しているのがわかる。この原因としては、この範囲に存在するリニアメントの影響により、地下水が豊富に供給されていることが考えられる。
【0063】
また、発電所23周辺の地下水位等高線は、隣接する等高線との間隔がほぼ均等であり、比較的安定している。
【0064】
図7に示す渇水期と豊水期の地下水位等高線図51を比較すると、ダム施設22の西側の範囲における地下水位等高線の変動量は、ダム施設22の東側(図の右端付近)の範囲における地下水位等高線の変動量よりも大きい。これは、ダム施設22の西側の範囲には、東側の範囲に比べて基盤上に難透水層の存在が顕著であるためと思われる。すなわち、渇水期から豊水期にかけての降雨による雨水が難透水層上に帯水していることが予想される。
【0065】
また、鉄管路27周辺の急斜面は、地下水位等高線は変化し難いことがわかる。
【0066】
図7の豊水期と図8の低水位期の地下水位等高線図51を比較すると、ダム施設22の西側の範囲については、地下水位があまり変化しておらず、豊水期から低水位期にかけて貯水池24の水位が低下したことによる影響が表れにくい地盤であることがわかる。
【0067】
一方、図7及び図8の右下方の範囲については、低水位期の地下水位等高線図51の形状が渇水期の地下水位等高線図51の形状と似ており、貯水池24の水位低下の影響を受け易い地盤であることがわかる。これは、貯水池24の南東部に位置する前述のリニアメントの影響で、貯水池24の水位が下がったことにより、リニアメント沿いに供給されていた地下水量が減少したためと考えられる。
【0068】
図8の低水位期と高水位期の地下水位等高線図51を比較すると、ダム施設22の西側の範囲においては、大きな変化が見られず、貯水池24の水位上昇による影響をあまり受けていないことがわかる。ダム施設22の東側の範囲において、高水位期の地下水位400mの等高線が低水位期よりも下方に突出しており、貯水池24の水位上昇の影響が表れている。
【0069】
次に、実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート(図1)に従い、上記の地下水位調査の調査計画で定めた調査範囲内に存在する上記と同様の湧水地点28を含む観測点の湧水量及び水質データの読込みを行う(ST3)。以下、このデータを得るための湧水量・水質調査について説明する。
【0070】
図9は、湧水量・水質調査のフローチャートを示す。
【0071】
まず、湧水地点28を含む各観測点の湧水量を測定する(ST21)。実施例では、湧水量の測定を各観測点において継続的に行うようにした。
【0072】
次に、調査時期に至ったか否かを判別する(ST22)。この調査時期は、前述の地下水位調査と同様の調査時期とすればよい。この判別が“NO”、即ち所定の調査時期に至るまでは、ST21を繰り返し、湧水量のみを継続的に測定する。
【0073】
湧水量の測定には、各湧水地点28の状況に即した適宜の方法を用いるのがよい。以下、主な測定方法について説明する。
【0074】
(1)三角堰・四角堰による流量測定方法
堰による流量測定設備を設置した場合には、堰の越流量を測定し、水理公式により流量を求めることができる。堰による流量算出式を図10及び図11に示す。
【0075】
(2)容器法
比較的流量の少ない湧水地点については、湧水を貯留するための容器とタイマーを用い、単位流量当たりの測定時間或いは単位測定時間当たりの流量を計測し、流量を求めることができる。
【0076】
(3)塩分希釈法
さらに、流量が多く、容器法の適用が困難な湧水地点・渓流について適用可能な流量測定方法である。以下、この方法による流量測定手順を示す。
【0077】
(1)まず、河川水の電気伝導度・水温を測定する。電気伝導度の測定には、一般的な電気伝導度計を使用すればよい
(2)電気伝導度を10mS/cm程度に調整した食塩水適量(例えば、1〜5リットル)を測定地点の上流地点(例えば、10〜20m上流の地点)に投入する
(3)測定地点で電気伝導度の連続測定(例えば、5秒間隔の測定)を行う。測定は、食塩水投入時から電気伝導度の増加が終了するまでとする。
【0078】
図12は塩分希釈法による流量算出式、図13は測定地点の電気伝導度の継時変化を示す。図13に示すように、流量算出の基準となる時間は、電気伝導度が増加し始めた時点tから、もとの電気伝導度に戻った時点tまでの間の時間(t−t)である。また、湧水量の測定は、上記のいずれの場合においても、自動計測することが好適である。
【0079】
次に、ST22の判別が“YES”、即ち所定の調査時期になると、貯水池24を含む各観測点の水素イオン濃度の測定(ST23)、電気伝導度の測定(ST24)、及び溶存イオンの分析(ST25)を行う。いずれも一般的な調査方法を用いて自動的にデータ収集を行うようにするのがよい。
【0080】
ST25の後、ST21〜ST26のステップで収集したデータの整理を行い(ST26)、再びST21へ戻り、上記のステップを繰り返してデータ収集を行い、これをコンピュータに蓄積する。図15〜図20は、図14に示す観測点S1〜S8の8点において収集した調査データを整理したものである。また、図において、「▲」で示す観測点S8は、貯水池24の上流にあるダム(図示せず)から管路を通って貯水池24に水が流入する地点(以下「貯水池流入口」という。)を示す。
【0081】
図15は、観測点S1〜S4,S6,S7の各調査時期の湧水量を示すグラフで、参考として、豪雨後(例えば、平成12年11月16日)と充水期(例えば、平成13年12月18日〜同月21日までの期間)の湧水量の測定データも記した。データの整理を行う際には、図のような各観測点の湧水量を比較できるグラフを、コンピュータで随時作成できるようにしておくことが好適である。
【0082】
図16は、観測点S1〜S3の湧水量の継時変化を示すグラフである。実施例では、湧水量の継続測定を行っている期間中に、貯水池24周辺に複数回の地震が発生した。このグラフでは、平成12年10月6日に発生したM7.3の地震、平成14年1月20日に発生したM4.5の地震、及び平成14年3月3日に発生したM4.5の地震の直後に湧水量が増加するという現象が見られる。湧水量は、各観測点で継続測定しているため、このように各観測点の湧水量の継時変化を表すグラフを作成するのが好適である。また、図のように、複数の観測点における湧水量の継時変化を比較できるようにするのがよい。いずれもコンピュータで随時自動作成できるようにしておくことが好適である。
【0083】
図17は、調査時期ごとの観測点S1〜S3,S5及びS8における水素イオン濃度(pH)を示すグラフである。ここでも、所定の調査時期に加えて、豪雨後及び充水期のデータと、平成12年10月6日に発生した地震の直後(例えば、平成12年10月26日〜同月27日)のデータを記した。水素イオン濃度のグラフも、他のデータと同様にコンピュータを用いて各観測点について作成し、任意の観測点のデータを比較できるようにしておくのが好適である。
【0084】
図18は、調査時期ごとの観測点S1〜S3,S5及びS8における電気伝導度の変化を示すグラフである。ここでも、所定の調査時期に加えて、豪雨後及び充水期のデータと、平成12年10月6日に発生した地震の直後(例えば、平成12年10月26日〜同月27日)のデータを記した。電気伝導度のグラフも、他のデータと同様にコンピュータを用いて各観測点について作成し、任意の観測点のデータを比較できるようにしておくのが好適である。
【0085】
図19は、貯水池24の水と観測点S3の湧水に溶存する各イオンの濃度を示すヘキサダイアグラムである。ここでは、貯水池24の渇水期及び豊水期のデータと、観測点S3の渇水期のデータを示す。溶存イオンの分析も各観測点について行うが、図に示すように貯水池24のデータと比較できるようなグラフを作成するようにし、コンピュータで随時参照可能にしておくのが好適である。貯水池24のデータと各観測点のデータを比較することにより、各観測点からの湧水が貯水池24からの漏水か否かを判断することができるからである。このことは、溶存イオンデータの比較のみならず、上記の水素イオン濃度や電気伝導度のデータ比較についても同様にいえることである。
【0086】
図20は、貯水池24の水と観測点S3の湧水に溶存する各イオンのパーセント組成を示すトリリニヤダイアグラムである。ここでも、上記のヘキサダイアグラムと同様に、貯水池24の渇水期及び豊水期のデータと、観測点S3の渇水期のデータを示す。以下、図において“I”〜“IV”で示した領域に該当する水質組成について説明する。
【0087】
領域Iに該当する水は、Ca(HCO型、即ち炭酸カルシウム型と呼ばれている。水の分類としては、地表水と地下水が該当し、酸性を示す。この領域に含まれる水は、最も一般的な地下水で、汚濁を受けない自由面地下水や補給地帯又はそれに近接する地帯の被圧地下水である。
【0088】
領域IIに該当する水は、NaHCO型、即ち炭酸ナトリウム型と呼ばれている。水の分類としては、地下水が該当し、アルカリ性を示す。この領域に含まれる水は、地下水の補給地帯から流れ、例えば、盆地の中央部や海岸地帯に分布する一般的な被圧地下水である。
【0089】
領域IIIに該当する水は、CaSO型,CaCl型、即ち非炭酸カルシウム型と呼ばれている。水の分類としては、地表水と地下水が該当し、酸性を示す。この領域に含まれる水は、鉱山廃水や火山起源の温泉水、鉱泉水又はそれに汚濁されている地下水や地すべり地の地下水、或いは海岸地帯の塩水化地下水などである。
【0090】
領域IVに該当する水は、NaSO,NaCl型、即ち非炭酸ナトリウム型と呼ばれている。水の分類としては、海水と地下水が該当し、アルカリ性を示す。この領域に含まれる水は、火山起源の温泉水、鉱泉水又はそれに汚濁されている地下水や、海岸地帯の塩水化地下水などである。
【0091】
実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート(図1)では、ST3において、上記の湧水量・水質データに関する各種のグラフを読み込み、又は参照するようにすればよい。
【0092】
次に、上記の湧水量・水質データ(例えば、グラフ)の評価を行う(ST4)。以下、湧水量・水質データの評価の一例を示す。
【0093】
図16に示す漏水量の継時変化のグラフから、図に示す3つの地震の直後、鉄管路27の周辺斜面(観測点S1〜S3)において、湧水量の著しい増加が確認できる。これは、地震に起因して地山に割れ目が生じ又は既存の割れ目が開口し、導水路25から地山内に発電用水が多量に漏水したことが原因と考えられる。また、平成12年10月6日の地震後のデータを見ると、各観測点の湧水量が減少傾向にあることが確認できる。この原因としては、貯水池24の周辺地山の開口亀裂が時間の経過とともに目詰まりしたこと、及び地震による導水路25の破損箇所を修繕するため、地震直後から平成13年11月辺りまでは導水路25を抜水したことにより、導水路25からの漏水がなかったこと等が考えられる。
【0094】
次に、図15の観測点S1〜S7の湧水量測定結果において、各調査時の湧水量が変化した原因については、以下のように考えられる。
【0095】
豊水期調査時では、湧水量の総量が渇水期に比べて2倍以上に増加している。特に、観測点S6の湧水量が3倍以上に増加していることが確認できる。これは、降雨により地盤の飽和度が高まったことにより地山の透水係数が上がったことと、地下水位の上昇に伴い、地盤内の既存の水みちを通る地下水量が増加したためと思われる。
【0096】
低水位期調査時では、渇水期と豊水期のほぼ中間の値を示していることがわかる。低水位期は降雨量が多かったため、貯水池24の水位を下げた影響が顕著に表れ難かったことが考えられる。
【0097】
高水位期の湧水量は、低水位期に比べて20%程度増加し、豊水期調査時とほぼ同じ値を示しており、特に、観測点S7の湧水量の増加が顕著である。これは、貯水池24の水位上昇に伴って地下水位も上昇したためと考えられる。
【0098】
充水期調査時では、高水位期と比べて30%程度減少していることがわかる。これは、調査期間前の降雨量の影響が大きいと考えられる。また、湧水量の増加は確認されなかったことから、導水路25からの漏水量は殆どなかったものと推定される。
【0099】
次に、水質分析結果について評価する。水素イオン濃度及び電気伝導度については、一般に、岩盤内での水の滞留時間が長いほどイオン流出等によって大きくなるとされている。このことを前提として、図17及び図18のグラフを参照すると、貯水池24の貯水池流入口S8の値と他の観測点S1〜S3,S5の値に顕著な差異は認められない。従って、貯水池24の底面から岩盤内に浸透した水は、比較的短い時間で地表面に表れ、降雨や貯水池24の水位変動の影響を受けていないことがわかる。
【0100】
また、低水位期調査時では、貯水池24の貯水池流入口S8における水素イオン濃度と電気伝導度の値が共に高い値を示しているが、これは、貯水池24の上流側にあるダム湖から貯水池24に水を送るための管路の工事に起因してセメント系排水が混入したためと考えられる。
【0101】
豊水期調査時の水素イオン濃度は、全体的にアルカリ性を示す地点が多いことがわかる。この原因としては、夏期の植物プランクトンの光合成に起因して貯水池24の水素イオン濃度が上昇したことが考えられる。
【0102】
次に、図19のヘキサダイアグラムを参照すると、貯水池24の水にはナトリウムとカリウム及び炭酸水素イオンの溶存量が突出するものの、基本的に溶存成分が少ないことがわかる。また、貯水池24の水に関するヘキサダイアグラムの形状は一般的な表流水と同様の形状を示しているといえる。さらに、図20のトリリニヤダイアグラムの結果から、貯水池24の水は、表流水に代表される中間型に近いものとなっていることがわかる。
【0103】
一方、観測点S3における計測結果は、炭酸水素イオンが若干増加しているものの、ヘキサダイアグラムの形状は貯水池24のものと似ていることがわかる。
【0104】
以上より、貯水池24周辺の地下水は、比較的短い滞留時間で鉄管路27の周辺斜面に到達している可能性が高い。
【0105】
上記の湧水量・水質データの評価(ST4)の後、メインフローチャートに従って湧水記録解析データの読込みを行う(ST5)。湧水記録の解析は、貯水池24の水位変化と、貯水池24より標高の低い位置にある湧水地点28を含む各観測点における湧水量の変化との間の相関を求めることをいう。以下、湧水記録解析方法について説明する。
【0106】
図21は、湧水記録解析方法のフローチャートを示す。
【0107】
まず、貯水池24の水位の測定を行う(ST31)。この水位測定は、継続的に行うのがよい。
【0108】
次に、湧水量の測定を行う(ST32)。具体的には、貯水池24からの漏水の影響を把握するため、前述の地下水位調査及び湧水量・水質調査で用いた各観測点のうち、貯水池24よりも低い位置にある観測点を選び、湧水量を継続的に測定するのがよい。また、この湧水量の測定に際しては、新たに流量計を設置する必要はなく、前述の湧水量・水質調査で用いた流量計等を用いて湧水量を自動的に測定するようにすればよい。
【0109】
ST32の後、一定期間(例えば、1年間)経過したか否かを判別する(ST33)。実施例では、測定した水位と湧水量のデータが一定量蓄積されたとき、そのデータを整理(例えば、後述のグラフ化)するようにした。従って、この期間を制限的に捉える必要はなく、測定データを逐次整理するようにしてもよいし、上記の期間(例えば、1年間)よりも長い期間に亘って蓄積した測定データを整理するようにしてもよい。データの整理方法は、後述する。
【0110】
ST33の判別が“NO”の場合には、ST31へ移り、上記の処理を繰り返し、貯水池24の水位と各観測点の湧水量を測定する。
【0111】
一方、ST33の判別が“YES”の場合、即ち貯水池24の水位と各観測点の湧水量を所定の期間(例えば、1年間)継続して測定したときは、そのデータに基づいて、貯水池24の水位と各観測点の湧水量の測定データをグラフ化する(ST34)。この貯水池24の水位及び各観測点の湧水量の測定データのグラフの一例を、図22に示す。
【0112】
次に、上記のグラフ上で、湧水量の変化を示す波形が水位の変化を示す波形に似た形状を示すまでに要した時間(例えば、日数)を求める(ST35)。一般に、貯水池24よりも低い位置にある観測点では、湧水量の変化を示すグラフ波形が水位の変化を示すグラフ波形と似た形状になる場合が多い。両方のグラフ波形が滑らかな場合には、そのような相関を見ることは難しいが、上記のように所定期間(例えば、1年間)継続して測定した水位と湧水量の変化を見ると、図のように、水位と湧水量の両方のグラフが上又は下に大きく突出した形状を示す場合がある。そこで、両グラフが同じ方向に突出する部分の変曲点、即ちその点での接線の傾きが0になる点を示した時間の間隔を求めることで、貯水池24からの漏水が各観測点まで流れ着くまでに要する時間(以下「漏水伝達時間」という。)を推定することができる。具体的には、例えば、両グラフで下方に突出した部分の変曲点(下限)が現れた時間の間隔を求めればよく、ここでは、day1及びday2の日数差により求められる。また、実施例で採用した調査範囲においては、貯水池24の水位と各観測点の湧水量に関する過去の測定データに基づいて求めた漏水伝達時間は、20〜30日の間で推移していることが確認された。
【0113】
また、ダム施設22の稼動中は、貯水池24の水位が著しく変動し、水位の下限又は上限が明瞭に表れないため、長期断水期間に測定したデータに基づいて上記の方法で漏水伝達時間を求めることが好適である。長期断水期間は、ダム施設22、特に導水路25や鉄管路27のメンテナンスのために発電所23の運転を停止している期間であり、この期間中は、導水路25の取水口を閉じており、導水路25や鉄管路27には発電用水が流れていない。
【0114】
ST35で漏水伝達時間を求めた後、貯水池24の水位と各観測点の湧水量の相関図を作成する(ST36)。具体的には、任意の時点で測定した湧水地点の湧水量と当該湧水量を測定した時点から上記の漏水伝達時間遡った時点で測定した貯水池24の水位との相関図を作成する。また、相関図においては、貯水池24の水位を1m間隔で区切り、区間毎の平均総湧水量を求め、さらにその値を用いて近似線を描くようにするのがよい。
【0115】
図23は、上記の方法で作成した貯水池24の水位と観測点S1の湧水量との相関図、図24は、貯水池24の水位と観測点S2の湧水量との相関図を示す。図において、地震前と地震後に分けてデータを整理したが、この地震は、図16のグラフの横軸上に記した平成12年10月6日の地震である。このように、貯水池24の水位と各観測点の湧水量との相関図を作成するときは、地震の影響を考慮して、地震の前と後にデータを分けて整理するのがよい。
【0116】
漏水記録の解析では、上記の処理を一通り終えると、再びST1の処理へ移り、貯水池24の水位と各観測点の湧水量を測定し、上記と同様の相関図を作成するという処理を繰り返す。そして、貯水池24の水位と任意の観測点の湧水量についての相関図を随時参照できるようにしておくことが好適である。また、上記のいずれの処理もコンピュータで自動的に行うことができる。
【0117】
実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート(図1)では、ST5の処理において、上記の漏水伝達時間や、漏水伝達時間に基づいて前述の方法で作成した相関図(例えば、図23,24)を読み込み、又は参照するようにすればよい。
【0118】
次に、湧水記録解析データの評価を行う(ST6)。具体的には、上記の貯水池24の水位と各観測点の湧水量との相関図(図23,24)の評価を行う。以下、相関図についての評価の一例を示す。
【0119】
図23及び図24の相関図によれば、地震の前と後の近似線からもわかるように、貯水池24の水位と観測点S1,S2の湧水量との相関関係は地震の前と後で殆ど相違していないことが確認できる。従って、観測点S1,S2付近の地盤の漏水機構は、地震の直後に湧水量が一時的に増加したものの、次第に地震前の状態に戻りつつあると考えられる。以上のことから、地震前後の湧水記録を比較した結果、明確な差異は見られないため、その地震に起因して貯水池24周辺の水理地質構造が大きく変化したとは考え難い。
【0120】
次に、実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート(図1)に従い、上記の各調査結果に基づいて、貯水池24周辺の水理地質構造を推定する(ST7)。以下、上記の各種調査結果に基づいて推定した貯水池24の周辺の水理地質構造の一例を示す。
【0121】
まず、各調査時期の調査結果に基づいて、貯水池24の周辺の水理地質構造を推定する。
【0122】
(1)渇水期
渇水期調査結果からは、地震(例えば、平成12年10月6日の地震)前後の有意な差異は認められないものの、観測点S3において地震前より地震後の湧水量が増加していることが推定される。但し、今後、時間の経過とともに地震前の状態に戻ることも推定される。
【0123】
水質調査の分析結果から、鉄管路27の周辺斜面の湧水は、貯水池24からの漏水であることが推定される。
【0124】
(2)豊水期
観測点S7周辺は地下水位が全体的に上昇し、観測点S6周辺では湧水量の増加が顕著であった。これにより、観測点S7周辺は帯水層型、観測点S6周辺は縦亀裂系の水理地質構造であるとそれぞれ推定される。
【0125】
渇水期と豊水期で湧水量が変化した主な原因は、梅雨時期の降雨により貯水池24周辺の地盤が涵養され、渇水期より相対的に地下水面が上昇したためと推定される。
【0126】
各観測点において継続測定した湧水量データによれば、例えば、図16に示すように、3つの地震の直後に湧水量の急激な増加が見られるものの、その後は減少し、地震の前後において概ね同程度の湧水量であることがわかる。
【0127】
貯水池24の水位と各観測点の湧水量との関係から求められる漏水伝達時間は、地震の前後においても、20〜30日の間で推移しており、大きな変化は認められない。
【0128】
(3)低水位期
貯水池24の水位が低下したことにより、観測点S6周辺での地下水位等高線(図8)が豊水期調査時(図7)と比べて下がっていることから、この範囲は前述の貯水池24の南東部に存在するリニアメント沿いの水みちの影響を受け易いと推定される。一方、観測点S7周辺は地下水位等高線に大きな変化は見られず、貯水池24の水位が変化したことによる影響が表れ難いと推定される。
【0129】
(4)高水位期
観測点S6周辺の地下水位等高線(図8)が低水位時(図8)と比べて地下水位400mの等高線が若干突出した原因としては、貯水池24の水位が上昇したことが推定される。
【0130】
鉄管路27の周辺斜面の水理地質構造は、観測点S7側と同様に帯水層型に属すると推定される。
【0131】
(5)充水期
各観測点の湧水量は、高水位期と比べて30%程度減少している。これは、充水期調査直前の降雨量が高水位期調査直前と比べて約半分だったことがわかっており、その影響が大きいものと推定される。
【0132】
次に、貯水池24の周辺の水理地質構造を総合的に推定する。
【0133】
(1)貯水池24からダム施設22周辺にかけての水理地質構造
水質調査の結果から、貯水池24の周辺で確認されている湧水地点28の湧水は、貯水池24からの漏水であると推定される。また、貯水池24の周辺の水理地質構造は、観測点S6周辺においてリニアメントの影響による縦亀裂系の構造が推定されるが、その他は帯水層型であり、特に異常なものではないと推定される。
【0134】
(2)地震が貯水池24の周辺の水理地質構造に与えた影響
湧水記録の解析により、地震の前後において漏水伝達時間や相関図(図23,24)には顕著な差異がみられない。また、その他のデータを積み重ねた結果、貯水池24の周辺の水理地質構造は地震の前後で大きな変化はなかったと推定されるため、地震が貯水池24の周辺の水理地質構造に与えた影響はないと推定される。
【0135】
上記のように貯水池24の周辺の水理地質構造を推定した後、その推定結果から、貯水池24の周辺地盤の安定性評価を行う(ST8)。具体的には、ST7において貯水池24の周辺の水理地質構造に何らかの異常がみられた場合、貯水池24の周辺の地盤には、例えば地すべり等の危険性があり、早急な対策が必要である旨の評価がなされることになる。具体的には、各観測点の湧水量や漏水伝達時間が他の観測点に比べて著しく増加又は減少している場合、同一の観測点であっても、過去の同時期に測定した値と著しく相違する値を示す場合、地震後に湧水量や漏水伝達時間が増加し、時間の経過とともに減少しない場合等、貯水池24の周辺の地盤に何らかの異常が見られる場合、貯水池24の周辺の水理地質構造は早急な対策が必要である旨の評価がなされることになる。
【0136】
また、実施例の場合には、湧水量や漏水伝達時間は地震の前後で大きく変わっておらず、これらの結果を積み重ねた結果、概ね地震に起因して貯水池24の周辺の地盤はダメージを受けていないと評価できる。さらに、一連の調査結果を総合的に見ると、一部にリニアメントの影響が推定されるが、それのみでは貯水池24の周辺の水理地質構造が異常と判断するには至らないため、早急な対策を要する特段の事情はないと評価できる。
【0137】
以上、実施例について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。
【0138】
実施例では、地下水位等高線図51(図7,図8)は、近接する3点で形成される三角形の各辺を比例配分して求めた等水位点同士を結ぶことで作成されるが、所定の地形断面における地下水面を示す形状線(以下「地下水面形状線」という。)を想定することで、地下水位等高線図51を作成する方法を用いてもよい。この方法を前述の実施例の地下水位等高線図作成方法に適用した場合について説明する。
【0139】
図25は、観測点の位置が記された地形図21上で所定の間隔(例えば、250m間隔)で複数のグリッド線71を引き、地形図21を格子状に分割した状態を示す。グリッド線71は、任意の位置に描けば良いが、ここでは、1本のグリッド線71がダム施設22の導水路25及び鉄管路27に沿うようにして描かれている。
【0140】
次に、各グリッド線71に沿った地下水面形状線を求めるため、各グリッド線71に沿った地形断面図を作成する。図26、図27及び図28は、地下水面形状線73を含む、図25のI−I線、II−II線、及びIII−III線に沿った地形線72からなる地形断面図75I〜75IIIを示す。
【0141】
地下水面形状線73を想定するには、グリッド線71の両側(例えば、グリッド線の両側に500mの範囲)に位置する湧水地点28同士を直線で結び、その線分を比例配分して、グリッド線71と線分との交点における水面高を算出する。この交点の高さ方向の位置を、その水面高に基づいて地形断面図75上にプロットし、それらを滑らかな曲線で結ぶことにより地下水面形状線73を想定することができる。
【0142】
例えば、図25の右下方でII−II線の両側に位置する2つの湧水地点28を、それぞれ28a,28bとする。湧水地点28a及び28bの水面高は、357m及び325m(図4)である。この2点間を結ぶ線分(以下「線分ab」という。)とII−II線との交点を「X」とすると、線分abを比例配分することによって、点「X」は、線分abを1:3の比に内分する点であることがわかる。これにより、湧水地点28a,28bのそれぞれの水面高に基づいて、点「X」における水面高(349m)が算出される。具体的には、「357−(357−325)×1/4=349」という計算により求められる。
【0143】
図27の地形断面図75II上にプロットされている点「X」は、上記のようにして算出した点「X」の水面高に基づく高さ方向の位置を示す。この作業をII−II線の両側(例えば、II−II線の両側に500mの範囲内)に位置する全ての湧水地点28に適用し、地形断面図75II上にプロットした点を滑らかな曲線で結ぶことにより、地形断面図75II上の地下水面形状線73が想定される。地下水面形状線73は、この曲線を地形線72よりも下方に位置するようにして想定するのがよい。また、各グリッド線71に沿った地形断面図75が交差する位置では、各地下水面形状線73が交わる(水面高が等しくなる)ようにすればよい。上記の作業を全てのグリッド線71に沿った地形断面図75に対して行うことで、各グリッド線71に沿った地下水面形状線73を含む地形断面図75が作成される。
【0144】
図29は、地形断面図75II上の地下水面形状線73が示す水面高に基づいて、II−II線(図25)上に所定の高さ間隔(例えば、20m間隔)で点74をプロットする方法を示す。点74は、上記のようにして作成した地形断面図75IIの上方に、この断面に対応するグリッド線71(II−II線)を水平に描き、地下水面形状線73上の20m毎の水面高(例えば、380mと400m)を示す位置に対応するII−II線上の位置(真上の位置)にプロットされる。このようにして、点74は、各グリッド線71の全長に亘ってプロットされるが、コンピュータで演算処理することが好適である。
【0145】
図30は、グリッド線71が形成する格子の一部で、20m毎の高さ間隔で水面高を示す点74をプロットした状態を示す。ここで、水面高の等しい点74同士を直線で結ぶことにより、地下水位等高線を描くことができる。この作業を各グリッド線71上の全ての点74に対して行うことで、地下水位等高線図51(図7,図8)を作成することができる。また、地下水位等高線は、滑らかに連続するように描いてもよいし、上記の実施例で説明した補間法を適用してもよく、いずれの場合も、コンピュータを用いて自動作図することができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】実施例の水理地質構造推定方法のメインフローチャート。
【図2】地下水位等高線図作成方法の処理を示すフローチャート。
【図3】調査範囲における湧水地点等の位置を示す地形図。
【図4】地形図上に各観測点の水面高を記した状態を示す図。
【図5】近接して位置する3つの観測点とその水面高とに基づいて地下水位等高線を描く方法を示す図。
【図6】図5に観測点を追加して地下水位等高線を描く方法を示す図。
【図7】調査範囲における渇水期及び豊水期の地下水位等高線図の一例。
【図8】調査範囲における低水位期及び高水位期の地下水位等高線図の一例。
【図9】湧水量・水質調査のフローチャート。
【図10】三角堰による流量算出式を示す図。
【図11】四角堰による流量算出式を示す図。
【図12】塩分希釈法による流量算出式を示す図。
【図13】塩分希釈法を適用した測定点の電気伝導度の継時変化を示す図。
【図14】調査範囲の地形図上で代表的な観測点として選定した観測点S1〜S8を示す図。
【図15】観測点S1〜S4,S6,S7の湧水量の測定結果を示すグラフ。
【図16】観測点S1〜S3の湧水量の継時変化を示すグラフ。
【図17】観測点S1〜S3,S5,及び貯水池流入口S8における調査時期ごとの水素イオン濃度の変化を示すグラフ。
【図18】観測点S1〜S3,S5,及び貯水池流入口S8における調査時期ごとの電気伝導度の変化を示すグラフ。
【図19】貯水池の水と観測点S3の湧水に溶存するイオンの濃度を示すヘキサダイアグラム。
【図20】貯水池の水と観測点S3の湧水に溶存する各イオンのパーセント組成を示すトリリニヤダイアグラム。
【図21】湧水記録解析方法のフローチャート。
【図22】漏水伝達時間の求め方の基本的な考え方を示す図。
【図23】地震前後の貯水池水位と観測点S1の湧水量の相関図。
【図24】地震前後の貯水池水位と観測点S2の湧水量の相関図。
【図25】調査範囲の地形図をグリッド線で均等に分割した状態を示す図。
【図26】図25のI−I線に沿った模式的な地形断面図。
【図27】図25のII−II線に沿った模式的な地形断面図。
【図28】図25のIII−III線に沿った模式的な地形断面図。
【図29】図25のグリッド線上に20m毎の水面高を示す点をプロットする方法を示す図。
【図30】地下水位等高線の別の描き方を示す図。
【符号の説明】
【0147】
21…地形図、22…ダム施設、23…発電所、24…貯水池、25…導水路、26…サージタンク、27…鉄管路、28…湧水地点、29…観測井、31…直線、32…印、33…地下水位等高線、51…地下水位等高線図、71…グリッド線、72…地形線、73…地下水面形状線、74…点、75…地形断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)貯水池周辺の複数の湧水地点の水位を測定し、前記複数の湧水地点の位置を表した平面上で、前記複数の湧水地点の位置と水位とから水位の等しい位置を求め、それらの位置を結ぶ等高線を描くことで地下水位の等高線図を作成するステップと、
(b)前記貯水池の水位及び前記湧水地点のうち前記貯水池より低い位置にある湧水地点の湧水量を測定し、前記貯水池の水位の変化及び前記湧水地点の湧水量の変化を示す波形をそれぞれ求め、湧水量の変化を示す波形が水位の変化を示す波形に似た形状を示すまでに要した時間を求めるステップと、
(c)前記地下水位の等高線図及び前記時間に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定するステップと
を含むことを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の水理地質構造推定方法において、前記(a)のステップでは、複数の時点で地下水位の等高線図を作成することを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水理地質構造推定方法において、前記(b)のステップでは、任意の時点で測定した湧水地点の湧水量と当該湧水量を測定した時点から前記時間遡った時点で測定した貯水池の水位との相関図を作成し、
前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、及び当該相関図に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の水理地質構造推定方法において、
(d)前記貯水池及び前記湧水地点の水質を調査するステップを含み、
前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、前記相関図、及び当該水質に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項5】
請求項4記載の水理地質構造推定方法において、前記水質は、水素イオン濃度、電気伝導度、又は溶存イオンであることを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の水理地質構造推定方法において、
(e)前記湧水地点の湧水量を測定するステップを含み、
前記(c)のステップでは、前記地下水位の等高線図、前記時間、前記相関図、前記水質、及び当該湧水量に基づいて前記貯水池周辺の水理地質構造を推定することを特徴とする水理地質構造推定方法。
【請求項7】
請求項6記載の水理地質構造推定方法において、
(f)前記(c)のステップで推定した水理地質構造に基づいて前記貯水池周辺の地盤の安定性を評価するステップを含むことを特徴とする水理地質構造推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−283346(P2006−283346A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103356(P2005−103356)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】