説明

水産練り製品用食品添加物製剤

【課題】蒲鉾などの水産練り製品を製造する際に、魚肉すり身の軟化(ダレ)を防止しつつ、上記製品の日持ちの延長、上記製品のpH調整、酸味の付与が可能な水産練り製品用の食品添加物製剤を提供すること。
【解決手段】酢酸ナトリウムと、グルコノデルタラクトンと、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物から選ばれるアルカリ剤とを配合してなることを特徴とする水産練り製品用の食品添加物製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒲鉾などの水産練り製品用の食品添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉すり身からなる蒲鉾などの水産練り製品においては目的に応じて食品添加物を使用することがあり、これらの一つの作用として水産練り製品の日持ちの延長作用が挙げられる。水産練り製品の日持ちの延長作用の主だった要因は、これら製剤に配合された酢酸ナトリウムによるものであり、酢酸ナトリウムと有機酸などを配合した製剤を水産練り製品に混合することで、水産練り製品中で酢酸が生じ、日持ちの延長効果が発現する。従って、pH調整剤や酸味料であっても酢酸ナトリウムを含む製剤の場合には蒲鉾などの日持ちの延長作用も認められるものが多い。
【0003】
一方、水産練り製品(以下蒲鉾を代表例として説明するが、本発明は蒲鉾に限定されない)の製造の際、より日持ちを延長させるため、酢酸ナトリウムを含む低pHの食品添加物を添加して魚肉すり身を調製すると、魚肉すり身が柔らかくなる現象が現れる(以下これをダレと表記する)。このダレは蒲鉾を製造する際の成形性に著しく悪影響を与え、蒲鉾の製造が困難になる。
【0004】
この問題を解決するのに従来の技術では有機酸を油脂などでコーティングし、魚肉すり身が、成形後加熱されるまでの間は有機酸が魚肉すり身中で溶け出さないようにする方法があるが、この方法では、有機酸のコーティングが完全でなかったり、魚肉すり身の調製中に混合機などの物理的な力によりコーティングが壊れるなどして問題の解決には不十分である。さらに蒲鉾の成形品の加熱時にコーティングが溶解した際に、部分的に極度のpH低下が起こるため、魚肉タンパクが局部的に変性し、得られた蒲鉾に白点を生じるという問題もある。従って、魚肉すり身のダレ防止をしつつ、かつ日持ちの延長を行える食品添加物の開発は難しいことであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、水産練り製品全般、特に蒲鉾を製造する際にダレを防止しつつ、蒲鉾の日持ちの延長、pH調整、酸味の付与が可能な蒲鉾用の食品添加物製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、酢酸ナトリウムと、グルコノデルタラクトンと、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物から選ばれるアルカリ剤とを配合してなることを特徴とする水産練り製品用食品添加物製剤を提供する。
【0007】
上記本発明においては、酸化カルシウムが、焼成カルシウムであること;および酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物が、焼成ドロマイトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、酢酸ナトリウムとグルコノデルタラクトンとアルカリ剤とを配合することで、魚肉すり身の調製中はpHを中性付近に保つことでダレを防止し、かつその後の加熱によりグルコノデルタラクトンが加水分解してグルコン酸を生じ、pHを、日持ちの延長に有利な酸性にすることができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明の製剤に使用する酢酸ナトリウム(a成分)は従来から、蒲鉾の日持ちの延長に使用されているものであり、特に限定されない。上記a成分である酢酸ナトリウムは有機酸などと一緒に配合することで、蒲鉾の日持ちの延長効果が発現する。このとき、一般的にはpHを下げれば下げるほどその効果が高くなるが、pHを下げるほどダレの程度もひどくなり、蒲鉾を製造する際の成形性に著しく悪影響を与え、蒲鉾の製造が困難になる。
【0010】
また、本発明の製剤に使用するグルコノデルタラクトン(b成分)は、従来から食品添加物として酸味料、pH調整剤、豆腐凝固剤などとして使用されており、市場から入手して本発明で使用することができる。このb成分は、次に挙げるアルカリ剤と適量を合わせることで魚肉すり身に添加した際にpHを中性付近に保つことからダレを生じず、魚肉すり身の成形性を損なわない。一方、魚肉すり身を蒲鉾に成形した後、加熱処理などによってグルコノデルタラクトンよりグルコン酸へと加水分解し、蒲鉾のpHを低く維持して良好な日持ちを維持することができる。
【0011】
また、アルカリ剤(c成分)は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物から選ばれる少なくとも1種である。このc成分は加熱後の蒲鉾の弾力の形成に必要なすり身中のタンパク質を充分に溶出させるとともに、カルシウムやマグネシウムによるタンパク質の架橋剤としても働き、蒲鉾の弾力の発生に寄与しているものと考えられる。
【0012】
上記酸化カルシウムは、食品添加物として使用されている焼成カルシウムであることが好ましい。焼成カルシウムとしては、ウニ殻焼成カルシウム、貝殻焼成カルシウム、造礁サンゴ焼成カルシウム、卵殻焼成カルシウムなどが好ましい。これらの焼成カルシウムは、酸化カルシウム純品である必要はなく、種々の副成分を含んでいてもよい。
【0013】
また、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物もアルカリ剤として使用でき、特に酸化マグネシウムとしては、酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物である焼成ドロマイトが使用できる。
【0014】
前記a〜c成分の配合割合は、前記a〜c成分の合計量を100質量%とした時に、a成分は5〜95質量%であり、より好ましくは35〜80質量%である。a成分の使用割合が上記範囲未満では、蒲鉾の日持ちの延長効果が低いなどの点で好ましくない。また、a成分の使用割合が上記範囲を超えるとbおよびc成分の配合量が少なくなり、製剤としての効果が得られなくなるなどの点で好ましくない。
【0015】
また、b成分は5〜90質量%であり、より好ましくは20〜50質量%である。b成分の使用割合が上記範囲未満では、加熱後の蒲鉾のpHが充分に下がらないことから日持ちの延長やpH調整ができないなどの点で好ましくない。また、b成分の使用割合が上記範囲を超えるとaおよびc成分の配合量が少なくなり、日持ちの延長やダレの防止効果などの点で好ましくない。
【0016】
また、c成分は0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。c成分の使用割合が上記範囲未満ではすり身からの必要タンパクの溶出および、pHを中性付近に調整できないなどの点で好ましくない。また、c成分の使用割合が上記範囲を超えるとpHを中性付近に調整することができなくなり、強度のアルカリにより、タンパク質の分解や変性がおこり好ましくない。
【0017】
本発明の製剤は、前記a〜c成分を必須成分とする他、他の種々の添加剤、例えば、アミノ酸およびその塩類、核酸、無機塩類、有機酸およびその塩類、澱粉、デキストリンなどを本発明の目的達成を妨げない範囲で含み得る。本発明の製剤は、前記a〜c成分を単に混合することで調製することができ、蒲鉾の他、はんぺん、竹輪、揚蒲鉾、風味蒲鉾、魚肉ソーセージなどの各種水産練り製品にも添加することができる。本発明の水産練り製品に対する添加量は特に限定されないが、例えば、魚肉すり身100gあたり約0.2〜3g程度が適当である。
【実施例】
【0018】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。なお、下記において「%」とあるのは質量基準である。
実施例1〜2および比較例1〜3
下記表1の成分を配合して本発明および比較例の食品添加物製剤を作成した。
【0019】

【0020】
<ダレ防止試験>
下記表2に示す魚肉すり身の組成表に従い魚肉すり身を調製した。具体的には、まず、解凍した冷凍すり身をサイレントカッターで5分間撹拌後、塩および氷水の半量を加え、再度8分間撹拌した。これに砂糖、グルタミン酸一ナトリウム、馬鈴薯澱粉、みりん、残量の氷水を加え、8分間撹拌し、試験魚肉すり身とした。この試験魚肉すり身350gに比較例1〜3および実施例1〜2では上記表1の食品添加物製剤を2.8g加え、小型フードカッターでさらに撹拌し、試験魚肉すり身とした。また、食品添加物製剤を加えずに小型フードカッターで撹拌した物を無添加試験区とした。
【0021】

【0022】
この試験魚肉すり身を内径5cm、深さ3cmのステンレス製容器に入れ、10℃で30分放置後、ゲル強度測定用サンプルとした。ゲル強度は山電製クリープメーターを使用し、魚肉すり身をステンレス製容器に入れたまま測定した。ゲル強度測定の条件は、直径3cmの円形プランジャーを使用し、サンプル台の上昇スピード10mm/secとした。以上の試験結果を表3に示す。表3から明らかなように、本発明の製剤を用いた実施例では、魚肉すり身がダレず、無添加品と同等もしくはそれ以上の成形性に優れる魚肉すり身が得られる。なお、表中の数値は無添加を100としたときの相対値である。
【0023】

【0024】
<日持ち試験>
ダレ防止試験と同様に試験魚肉すり身を調製後、すり身にBacillus subtilis(NBRC 13719)芽胞液(1.2×104個/ml)を3.5ml加え、混合した。これを折径48mmの塩化ビニリデンフィルムのケーシングに詰め、40℃で30分間座りをかけた後、90℃で35分ボイルし、蒲鉾を作成した。この蒲鉾を15℃で保管し、一定日数毎に蒲鉾中の菌数測定を行った。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、本発明の製剤を用いた実施例では、十分な日持ち効果(保存性)を有する蒲鉾が得られる。なお、表中の数値は菌数(個/g)を表す。
【0025】

【0026】
<白点生成試験>
使用した魚肉すり身に食用赤色3号を加えた以外は、日持ち試験と同様にして着色蒲鉾を製造後、カットし、白点の生成の有無を確認した。結果を表5に示す。表5から明らかなように、pH低下剤として油脂コートフマル酸を含む製剤を用いた比較例2では、着色部分に白点が発生している。本発明の製剤を用いた実施例では、白点は発生していない。
【0027】

【0028】
<蒲鉾の破断試験>
日持ち試験と同様に蒲鉾を製造後、蒲鉾を長さ25mmにカットし、蒲鉾の歯ごたえの指標となる破断強度を測定した。破断強度は山電製クリープメーターで直径5mmの球形プランジャーを使用し、サンプル台の上昇スピード1mm/secとした。以上の試験結果を表6に示す。表6から明らかなように、本発明の製剤を用いた実施例では、無添加品と同等もしくはそれ以上の破断強度(歯ごたえ)を有する蒲鉾が得られる。なお、表中の数値は無添加を100としたときの相対値である。
【0029】

【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の如き本発明によれば、酢酸ナトリウムとグルコノデルタラクトンとアルカリ剤とを組み合わせることで、優れた日持ちの延長効果と蒲鉾の弾力を保ちながら、蒲鉾の製造時に魚肉すり身を軟化(ダレ)させることなく、成形性のよい魚肉すり身を調製することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ナトリウムと、グルコノデルタラクトンと、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物から選ばれるアルカリ剤とを配合してなることを特徴とする水産練り製品用食品添加物製剤。
【請求項2】
酸化カルシウムが、焼成カルシウムである請求項1に記載の水産練り製品用食品添加物製剤。
【請求項3】
酸化カルシウム−酸化マグネシウム混合物が、焼成ドロマイトである請求項1に記載の水産練り製品用食品添加物製剤。

【公開番号】特開2008−295332(P2008−295332A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143348(P2007−143348)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(593157910)株式会社タイショーテクノス (10)
【Fターム(参考)】