説明

水田用除草装置及びこれを備えた水田用除草走行装置

【課題】株間に発生した雑草の除去を十分に行うことができると共に、稲株の損傷を抑制することができる水田用除草装置を提供すること。
【解決手段】圧力流体を供給する流体加圧供給機構10と、流体加圧供給機構10に連通した流路管体20と、流路管体20に回動自在に取り付けられた噴射口体30とを備え、水田S内に圧力流体を噴射して除草する水田用除草装置1であって、噴射口体30は、使用時に水平面内で回動自在であると共に、流路管体20と連通して圧力流体を流す流通路33と、流通路33に連通して、水平方向よりも下方に向けて圧力流体を噴射する噴射口34とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田に生育する雑草、特に株間に発生した発現間もない雑草を除去する水田用除草装置及び水田用除草走行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、代掻きされて柔らかくなると共に雑草がなくなった水田に田植えを行うが、稲株が水田の底面に根付く頃になると、水田内に雑草が発生してしまう。
【0003】
そこで、従来から、水田内に高圧の空気や水等の圧力流体を噴射し、水田の水と一緒に土壌を撹拌することで雑草の根を覆った土を吹き払い、この雑草を除去している。このようなものとして、株間を除草する水田用除草装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この水田用除草装置では、稲株の有無を識別するセンサによって株間を検出すると、このセンサに連動する自在アームが稲株を避けて株間を往復移動し、同時にこの自在アームに支持された伝導パイプが株間に入り込んで圧力流体を噴射するようになっている。そして、自在アームがすばやく往復移動を繰り返すことで、間断噴射の除草作業を行って株間に発生した雑草の除去を行う。
【特許文献1】特開2002−34305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の水田用除草装置では、伝導パイプと稲株との接触を防止するために短時間で伝導パイプを株間から引き出すことにより、十分な量の圧力流体を噴射する前に自在アームが移動してしまっていた。そのため、株間の土壌を十分に撹拌することができず、確実な除草を行うことができないことがあった。
【0006】
また、圧力流体を十分に噴射するために伝導パイプを株間内で低速移動させると、伝導パイプが稲株に接触してしまい、稲株の損傷が大きくなるという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、株間に発生した雑草の除去を十分に行うことができると共に、稲株の損傷をも抑制することができる水田用除草装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、水田内に圧力流体を噴射して除草する水田用除草装置であって、前記圧力流体を供給する流体加圧供給機構と、該流体加圧供給機構に連通した流路管体と、該流路管体に回動自在に取り付けられた噴射口体とを備え、該噴射口体は、使用時に水平面内で回動自在であると共に、前記流路管体と連通して前記圧力流体を流す流通路と、該流通路に連通して、水平方向よりも下方に向けて前記圧力流体を噴射する噴射口とを有していることを特徴としている。
【0009】
また、前記噴射口体は、扁平な歯車形状であると共に、インボリュート曲線に形成された歯先部を有し、前記噴射口はこの歯先部の歯幅面又は下面に形成されていることを特徴としてもよい。
【0010】
また、前記噴射口体は、三葉歯車形状を呈していることを特徴としてもよい。
【0011】
また、前記噴射口体は、外側周面が平面視インボリュート曲線に形成された三葉歯車形状を呈するようにパイプを屈曲加工して形成されたリング状管を備えており、前記噴射口は、前記リング状管の外側周面に設けられたことを特徴としてもよい。
【0012】
そして、本発明に係る水田用除草装置を備えた水田用除草走行装置は、前記加圧流体供給機構及び前記流路管体を搭載し、走行可能とされた車体と、水田の底面から前記噴射口体までの距離を調整する高さ調整機構とを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明によると、噴射口体から水平方向よりも僅かに下方に向けて圧力流体を噴射するので、水田の雑草、特に困難とされる株間に発生した雑草の根に向かって圧力流体を吹き付けて雑草の根をすすぎ洗いし、雑草を水中に浮遊させて確実に除草することができる。
【0014】
また、噴射口体が使用時に水平面内で回動可能となっているため、噴射口体が稲株に接触した際に、稲株との間に生じる接触力により噴射口体が稲株から離れる方向に回動し、稲株の損傷を低減することができる。
【0015】
特に、発生から二葉期までの雑草であれば着根力が弱いため、噴射された圧力流体による圧力により簡単に浮遊させることができる。
【0016】
さらに、噴射口体から噴射された圧力流体による反力が、噴射口体を稲株から離反する方向に作用するので、前述の接触力をさらに低減し、噴射口体が稲株に強く接触することがなくなり、稲株の損傷をさらに抑制することが可能となる。なお、圧力流体の噴射圧を調整することで、圧力流体が稲株へ与える影響をさらに低減することができる。
【0017】
また、噴射口体がインボリュート曲線に形成された歯先部を有するものにあっては、噴射口体と稲株とが、あたかも歯車とスプロケットとの噛み合いのようであり、株間へ噴射口体の歯先部が出入りしやすくなる。したがって、株間に発生した雑草の根元に向かって至近距離から圧力流体を噴射することができ、株間の雑草の除去をも確実に行うことが可能となる。
【0018】
さらに、噴射口体が三葉歯車形状を呈しているものにあっては、多数葉歯車のものと比較して、噴射口体の株間への入り込み量を増加させる、すなわち、この噴射口体の歯先部が株間に深く入り込むことができる。これにより、株間の除草をさらに確実に行うことが可能となる。
【0019】
また、噴射口体がインボリュート曲線に形成された外側周面を有する三葉歯車形状をなすようにパイプを屈曲形成されたリング状管とされたものにあっては、軽量化を図ることができ、稲株への衝撃緩和や流路管体への負担軽減を図ることが可能となる。
【0020】
そして、水田の底面と噴射口体との距離を一定にするように高さ調整機構により高さ調整された状態で加圧流体供給機構及び流路管体が、走行可能な車体に搭載された水田用除草走行装置では、車体を畝間に沿って走行させることで、噴射口体を稲株の並び方向に沿って畝間を移動させることができる。そのため、噴射口体を容易に移動させながら圧力流体を噴射させることができ、畝間及び株間の除草作業を容易とすることが可能となる。
【0021】
なお、複数の流路管体の間隔を畝間に合わせると共に、各流路管体にそれぞれ噴射口体を取り付ければ、車体を畝間に沿って走行させながら複数の畝間及び株間の除草作業を同時に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る水田用除草装置1の最良の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお、図中矢印Fで示す方向は水田用除草装置1を備えた水田用除草走行装置2の前進方向である。
【0023】
この水田用除草装置1は、流体加圧供給機構10と、この流体加圧供給機構10に連通した流路管体20と、流路管体20に取り付けられた噴射口体30とを備えており、車体3に搭載されている。
【0024】
この車体3は、フレーム3bと、フレーム3bに取り付けられたハンドル4と、ハンドル4により操作される操向輪5と、フレーム3bの後部に設けられた一対の後輪6,6(図2参照)とを有している。なお、この車体3に乗員が着座する座席3aと、図示しないエンジンとを配置することにより水田用除草走行装置(以下、走行装置という)2を構成しており、後輪6,6は、エンジンによって駆動されて自走可能とされている。また、この走行装置2は、操向輪5及び後輪6,6が水田に植えられた多数の稲株Kのそれぞれの畝間(条間)W(図2参照)に対応させられて走行可能となっている。
【0025】
ここで、「畝間(条間)W」とは、縦横に植えられた多数の稲株K,…の間のうち比較的広い幅のものを指し、「株間P」とは、縦横に植えられた多数の稲株K,…の間のうち比較的狭い幅のものを指す。一般的に、稲は田植え機の走行方向に沿って植えられていくが、このときの稲の植込み間隔を株間Pとし、これと直交する走行位置を畝間Wとしている(図2参照)。
【0026】
そして、流体加圧供給機構10は、圧力をかけて高圧状態にした水を供給するものであって、一対の貯水タンク12,12(図2参照)と、貯水タンク12,12内の水を加圧して放出する圧送ポンプ13と、圧送ポンプ13を駆動する原動機14とを有している。
【0027】
一対の貯水タンク12,12は、雑草に向けて噴射される水を貯留するものであり、車体3のフレーム3bを挟むように振り分けて配置されると共に、操向輪5と駆動輪6,6との間に取り付けられている。
【0028】
圧送ポンプ13及び原動機14は、それぞれ貯水タンク12,12の上方に配置されており、各貯水タンク12と圧送ポンプ13とは吸込管12aを介して連通している。なお、この吸込管12aは、一対の貯水タンク12,12のそれぞれに深く挿入されており、中央部で分岐されて圧送ポンプ13に接続されている。
【0029】
流路管体20は、流体加圧供給機構10の圧送ポンプ13と噴射口体30とを連結するものであり、一定の間隔をおいてほぼ垂直に延びる4本の流路管22,…と、各流路管22と圧送ポンプ13の吐出口13aとを連結するホース体21とから大略構成されている。
【0030】
ホース体21は、可撓性を有するゴム等により形成されており、走行方向Fと直交して水平方向に延びる水平ホース部21bと、水平ホース部21bのほぼ中央位置で水平方向に分岐される連結ホース部21aと、水平ホース部21bの長手方向に沿って一定間隔をおいて鉛直方向に分岐された4本の鉛直ホース部21c,…とを有している。
【0031】
連結ホース部21aは、開放端部21d(図3参照)が吐出口13aに図示しないバンド等を介して連結される。
【0032】
そして、各鉛直ホース部21cは、連結ホース部21a及び水平ホース部21bと直交する方向、ここでは下方に向かって延在されている。また、各鉛直ホース部21cの内径は、連結ホース部21a及び水平ホース部21bの内径よりも細くなっている。
【0033】
流路管22は、硬質プラスチックやステンレス等の所定の剛性を有する直管材により形成されており、一端部22aに設けられた接続部23を介して鉛直ホース部21cに取り付けられている。また、この流路管22の先端部22bの外周面には、噴射口体30の後述する回転装着体32が螺合するネジ溝22c(図8参照)が形成されている。なお、この流路管22の内径は、鉛直ホース部21cの内径よりも細くなっている。
【0034】
さらに、各流路管22の中間部には位置決めハンドル24がそれぞれ固定され、この位置決めハンドル24と先端部22bとの間には、保持リング25(図3参照)がそれぞれ取り付けられている。
【0035】
この保持リング25は、図4に示すように、軸方向に割れたリング部25aと、リング部25aから拝み合わせに延びたフランジ25b,25bとを有している。そして、この保持リング25は、流路管22を挟み込んだ状態でフランジ25b,25b同士をボルトナット25cにより締め付けることにより、流路管22に固定されている。
【0036】
ここで、各フランジ25bには、後述する断面C型のレール26の一対のレール片26a,26aが係合する一対の凹部25d,25dと、流路管22と同軸方向に延びるピン穴25eが形成されている。なお、ピン穴25eは、フランジ25b,25b同士を締め付けた状態でほぼ円柱状穴を呈するようになっている。
【0037】
レール26は、流路管22と直交する方向であって、進行方向Fに対しても直交するように延びており、前方側には互いに対向するレール片26a,26aが形成され、上面には長手方向に沿って所定間隔をおいて複数の固定穴26b,…が貫通形成されている。
【0038】
この固定穴26bは、畝間Wへ流路管22を降ろす位置を調整するために使用されるものであり、ピン穴25eとレール26に形成された複数の固定穴26b,…のうちの任意のものとを対向させた後、固定ピン27を貫通させる。これにより、保持リング25がレール26の所望の位置に固定される。
【0039】
そして、このレール26は、後述する角度調整機構43aを介して後述する昇降装置40に支持されている。
【0040】
昇降装置(高さ調整機構)40は、水田Sの底面Saまでの水深を検知すると共に、検知した水深に応じてレール26の支持高さを変化させ、底面Saからこのレール26に保持された流路管22に取り付けられた噴射口体30までの距離をほぼ一定に調整するものである。
【0041】
そして、この昇降装置40は、フレーム3bから下方に延在された保持フレーム3cに固定された装置本体41と、この装置本体41に取り付けられたフロート42及びアーム部43とを有している。
【0042】
フロート42は、リンク機構を有するフロートアーム42aを介して装置本体41に対して揺動可能に保持されている。そして、このフロート42は、水田Sに浮遊しており、走行装置2の走行によって変化する水田Sの底面Saの凹凸、すなわち水深に応じて上下方向に揺動する。
【0043】
アーム部43は、フロート42の上下の動きに連動し、フロート42が上方へ動いたときには下がり、下方へ動いた時には上がるように、フロート42とは逆の動きをする上下方向に揺動可能となっている。なお、ここでは、装置本体41に内蔵された図示しない歯車機構によって上下動する。そして、このアーム部43の先端には、角度調整機構43aを介してレール26が取り付けられている。
【0044】
この角度調整機構43aは、アーム部43の上下動に関わらずレール26が常に一定方向を向くように(ここでは、図1に示すようにレール片26a,26aが進行方向前方を向いた状態に)保持するものである。
【0045】
一方、噴射口体30は、図5に示すように、噴射口本体31と、この噴射口本体31の上面に設けられた回転装着体32とを有している。
【0046】
ここで、回転装着体32は、図8に示すように、内周面に流路管22のネジ溝22cに螺合するネジ部32aが形成された鍔付円筒部32bと、軸受32cを介して鍔付円筒部32bを回転自在に噴射口本体31に装着する押え盤32dとを有している。そして、ネジ溝22cとネジ部32aとが螺合することにより、流路管22の先端部22bに噴射口体30が回転自在に固定されることとなる。
【0047】
噴射口本体31は、アルミやステンレス等の金属板により形成された扁平な歯車形状を呈しており、外側周面31aがインボリュート曲線に形成された歯先部31bを有している。なお、「外側周面31a」とは、歯先部31bの歯幅方向の面である歯幅面である。
【0048】
さらに、ここでは、この噴射口本体31は、3つの歯先部(凸部)31b,…及び3つの歯元部(凹部)31c,…を有する三葉歯車形状を呈している。また、回転装着体部32は、噴射口本体31の一方の端面の中心に押え盤32dのフランジ部32eがネジ止めされることで固定されている。
【0049】
ここで、畝間W300mm、株間P180mmの場合における噴射口本体31の歯車形状を設定する手順について説明する(図6参照)。
【0050】
まず、畝間Wに侵入可能な噴射口本体31の直径の限度を、式(1)によって求める。この場合畝間Wが300mmであるので、直径限度は250mmとなる。なお、このときの余裕Yは任意に設定できるが、ここでは20mmとした。また、稲株Kの直径は除草時の標準的な稲株Kの大きさである30mmとした。
【0051】
噴射口本体の直径限度=畝間W−稲株Kの直径−余裕Y
=300(mm)−30(mm)−20(mm)
=250(mm) ・・・(1)
次に、稲株Kの並び面K´に沿って転がるピッチサイクルダイア(PCD)の円周pを、式(2)によって求める。この場合三葉歯車形状であると共に株間Pが180mmであるので、PCDの直径は540mmとなる。
【0052】
PCDの円周p=歯車葉数×株間Pの長さ
=3 ×180(mm)
=540(mm) ・・・(2)
続いて、PCDの直径Rを、式(3)によって求める。この場合、直径Rは172mmとなり、式(1)にて求めた噴射口本体31の直径限度内に収まることがわかる。
【0053】
PCDの直径R=PCDの円周長さ÷円周率
=540(mm)÷3.14
=172(mm) ・・・(3)
なお、噴射口本体31を四葉歯車形状とした場合では、PCDの直径Rが229mmとなり噴射口本体31の直径限度とほぼ同じ大きさなので余裕が少なく、五葉歯車形状とした場合ではPCDの直径Rが286mmとなり噴射口本体31の直径限度内に収まらない。したがっていずれの場合も不適当となる。
【0054】
次に、噴射口本体31の歯の大きさを示すモジュールを、式(4)によって求める。この場合、モジュールは57.3mmとなる。
【0055】
モジュール=PCDの直径R÷歯車葉数
=172(mm)÷3
=57.3(mm) ・・・(4)
そして、歯先円の直径Rを式(5)によって求め、歯底円の直径Rを式(6)によって求め、基礎円の直径を式(7)によって求める。なお、このときの圧力角αは任意に設定することができるが、ここでは30°とした。
【0056】
歯先円直径R=PCDの直径R+1×モジュール
=172(mm)+1×57.3(mm)
=229.3(mm) ・・・(5)
歯底円直径R=PCDの直径R+0.5×モジュール
=172(mm)+0.5×57.3(mm)
=200(mm) ・・・(6)
基礎円直径=PCDの直径R×cosα
=172(mm)×0.866
=148.9(mm) ・・・(7)
以上の手順により求められた歯先円直径R、歯底円直径R、基礎円直径に基づいて噴射口本体31の歯車形状が設定される。
【0057】
さらに、この噴射口本体31の内部には、流路管22と連通し、流路管体20を流れた圧力流体(ここでは水)を流す流通路33が形成されている。
【0058】
この流通路33は、図7に示すように、回転装着体32と同軸方向に延びる軸経路33aと、軸経路33aから各歯先部31bの先端に向かってそれぞれ延びる主経路33b,…と、軸経路33aから各歯元部31cに向かってそれぞれ延びる補助経路33c,…と、各主経路33bから直交方向に延びる多数の末端経路33d,…とを有している。
【0059】
なお、この流通路33の内径は、軸経路33a、主経路33b、補助経路33c及び末端経路33dの順に次第に小さくなっている。ここでは、補助経路33cと末端経路33dとの内径はほぼ同じ大きさである。
【0060】
そして、全ての主経路33b,補助経路33c,末端経路33dの先端は、それぞれ噴射口本体31の外側周面31aに開放した噴射口34となっている。
【0061】
各噴射口34は、水平方向よりも下方に向けて高圧状態の水を噴射するようになっている。ここでは、主経路33bは先端部33b´のみが下方に向かって傾斜し、補助経路33cは軸経路33aから全長にわたって下方に向かって傾斜し(図8参照)、末端経路33dは主経路33bから全長にわたって下方に向かって傾斜し(図9参照)、これにより各噴射口34から水が下方に噴射するようになっている。
【0062】
さらに、主経路33bの先端部33b´は二股に分岐し、流路面積を小さくして内部を流れる水の流速が早くなるようにされている。
【0063】
次に、この発明に係る水田用除草装置1の作用について説明する。
【0064】
この水田用除草装置1を使用するには、まず、一対の貯水タンク12,12をそれぞれ満水にする。
【0065】
ここで、圧送ポンプ13には、複数の噴射口体30が取り付けられた流路管体20があらかじめ接続されている。また、この流路管体20は、昇降装置40によって支持されている。
【0066】
そして、走行装置2を運転して水田S内に侵入する。このとき、図2に示すように、操向輪5及び一対の後輪輪6,6が稲株Kと接触しないように、畝間Wに沿うように操作される。
【0067】
一方、各噴射口体30は、歯先部31bの外側周面31aが稲株Kに対向した際に、所定の間隔(ここでは余裕Y20mm)を空けた状態となるように、各噴射口体30のレール26方向の位置が調整される。
【0068】
ここで、噴射口体30の位置を調整するには、まず固定ピン27を取り外し、歯先部31bの外側周面31aと稲株Kとの間隔が上記所定間隔になるように保持リング25をレール26に沿って移動させる。そして、ピン穴25eと任意の固定穴26bとを対向させ、固定ピン27を貫通させる。これにより、噴射口体30の位置を所望の位置に固定することができる。
【0069】
なお、このとき、流路管体20のホース体21が可撓性を有するゴム等により形成されているので、このホース体21が保持リング25の移動に追随して変形し、保持リング25を円滑に移動させることができると共に、管路が閉塞することはない。
【0070】
なお、噴射口体30の高さ位置については、あらかじめ水田Sの底面Saとの距離を任意に設定する。そして、走行装置2が走行した際には、昇降装置40によってレール26の支持高さを自動的に変化させることにより、噴射口体30の底面Saからの距離が一定にするように調整される。
【0071】
このとき、レール26は角度調整機構43aを介して昇降装置40のアーム部43に支持されているので、レール26は支持高さに関わらず常に一定方向を向いた状態(ここでは、図1に示すようにレール片26a,26aが進行方向前方を向いた状態)に保持される。
【0072】
そして、走行装置2を畝間Wに沿って走行させながら、原動機14を駆動させて圧送ポンプ13を稼動させる。稼動した圧送ポンプ13は、吸込管12aを介して一対の貯水タンク12,12の双方からほぼ同量の水を同時に吸い上げ、圧力をかけて高圧状態にしてからホース体21へと供給する。
【0073】
圧送ポンプ13から供給された高圧状態の水は、ホース体21から流路管22へと流れ、流路管22の先端部22bから噴射口体30の内部に形成された流通路33を通って多数の噴射口34,…から噴射される。
【0074】
これにより、噴射口体30は、圧送ポンプ13から供給される高圧の水を噴射口34から噴射しながら、稲株Kの並びに沿って図1に矢印Fで示す方向に移動することとなる。
【0075】
ここで、噴射口体30は、流路管22に回転装着体32を介して回動自在に取り付けられており、使用時においても水平面内で回動可能である。
【0076】
そして、噴射口34から噴射された水は、水平方向よりも下方に向けて噴射されるので、水が株間Pに発生した雑草の根に向かって吹き付けられ、雑草の根をすすぎ洗いして、水中に浮遊させて確実に除草することができる。また、畝間Wに発生した雑草についても、根に向かって水を噴射して水中に浮遊させることができるので、確実に除草することが可能となる。
【0077】
このように、上述の実施の形態の噴射口体30では、株間P及び畝間Wに発生した雑草を円滑、且つ容易に除去することができる。特に、二葉期までの雑草であれば着根力が弱いため、高圧状態にされた水の圧力により簡単に浮遊させることができる。
【0078】
また、畝間Wに沿って走行装置2が走行することで、噴射口体30も畝間Wに沿って移動する。この噴射口体30の移動に伴って歯先部31bの外側周面31aが稲株Kに接触すると、稲株Kとの間に生じる接触力により、噴射口体30が移動方向とは反対方向である稲株Kから離れる方向に回動する。そのため、噴射口体30と稲株Kとの接触力を弱め、稲株Kの損傷を低減することができる。
【0079】
なお、ここで、ホース体21の連結ホース部21a、水平ホース部21b、各鉛直ホース部21c、流路管22と次第に内径が細くなっているので、内部を流れる水の流速が次第に速くなり水圧がほとんど低下しない。さらに、流通路33の内径も、軸経路33a、主経路33b、補助経路33c及び末端経路33dの順に次第に小さくなっているので、水圧の低下を防止し、噴射口34から勢いよく水を噴射することができる。そのため、雑草の根を覆う土を十分に除去することが可能となる。
【0080】
さらに、噴射口体30から噴射された水により、噴射口体30を稲株Kから離反させる方向の反力が作用する。このため、噴射口体30が稲株Kに接触する際の接触力が低減し、稲株Kの損傷をさらに抑制することが可能となる。
【0081】
なお、圧送ポンプ13から供給される水の噴射圧を調整することで、水及び噴射口体30が稲株Kへ与える影響をさらに低減するができる。
【0082】
また、この噴射口体30は、回転装着体32のネジ部32aと流路管22のネジ溝22cとを螺合することにより流路管体20に取り付けられているので、容易に取り外すことができ、畝間Wや株間Pの大きさに応じて任意の大きさの噴射口体30を簡単に付け替えて使用することができる。
【0083】
また、上述の実施の形態では、噴射口体30が扁平な歯車形状であり、外側周面31aがインボリュート曲線に形成された歯先部31bとなっている。
【0084】
これにより、噴射口体30が移動しながら水平面内で回動すると、この噴射口体30と稲株Kとがあたかも歯車とスプロケットとの噛み合いのようであり、株間Pへ噴射口体30の歯先部31bが出入りしやすくなる。
【0085】
そのため、株間Pに発生した雑草の根元近傍に向けて勢いよく水を噴射することができ、株間Pに発生した雑草の除去をも十分に行うことが可能となる。
【0086】
また、上述の実施の形態では、噴射口体30が三葉歯車形状を呈している。そのため、株間Pの間隔が一般的に普及している間隔、すなわち株間Pが180mmの場合では、噴射口体30の歯先部31bの株間Pへの入り込み量を増加させることができ、噴射口体30が株間Pに深く入り込むこととなる。
【0087】
これにより、株間Pに発生した雑草の近傍で水を噴射することが可能となるので、株間Pの除草をさらに確実に行うことができる。
【0088】
そして、上述の実施の形態では、走行装置2に流体加圧供給機構10と、流路管体20が搭載され、流路管体20の流路管22は、昇降装置40により噴射口体30と水田Sの底面Saとの距離が一定になるように支持されている。
【0089】
これにより、走行装置2を畝間Wに沿って走行させることで、流路管体22に取り付けられた噴射口体30を稲株Kの並び方向に沿って畝間Wを移動させることができる。そのため、噴射口体30を容易に移動させながら高圧の水を噴射させることができ、株間Pの除草作業を容易とすることが可能となる。
【0090】
なお、上述の実施の形態では、流路管体20が4本の流路管22を有し、それぞれの先端部22bに噴射口体30が取り付けられている。
【0091】
これにより、4本の流路管22,…の互いの間隔を畝間Wの大きさに合うように調整することで、複数の畝間W及び株間Pの除草作業を同時に行うことが可能となる。
【0092】
また、流路管22が昇降装置40を介して支持されているので、噴射口体30から水田Sの底面Saまでの距離が一定になり、底面Saの凹凸に関わらず常に雑草の根元に向けて高圧の水を噴射でき、確実に除草することが可能となる。
【0093】
以上、この発明にかかる実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施の形態に限らない。この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等はこの発明に含まれる。
【0094】
例えば、上述の実施の形態では、噴射口本体31が金属板により形成された歯車形状を呈しているが、図10に示す噴射口体50のように、パイプを歯車形状に沿って屈曲加工してリング状に形成したものであってもよい。
【0095】
この噴射口体50では、流路管22に回転自在に装着される軸管51と、この軸管51の外周面から径方向に延びる複数(ここでは3本)の連結管52,…と、各連結管52と連通して溶着されると共に軸管51及び各連結管52の周囲を取り囲むリング状管53とを有している。
【0096】
軸管51は、周面51aに各連結管52に連通する複数(ここでは3個)の流通穴51b,…が形成され、図示しない上端部には、上述の実施の形態における回転装着体32と同様の機構を有している。
【0097】
連結管52は、一端が軸管51の周面51aに溶着固定され、他端がリング状管53の内側周面53aに溶着固定されている。
【0098】
リング状管53は、環状の中空パイプからなり、外側周面53bがインボリュート曲線をなす歯先部を有する三葉歯車形状を呈するように屈曲加工されている。さらに、このリング状管53の内側周面53aには連結管52に連通する複数(ここでは3個)の流通穴54a,…が形成され、外側周面53bには、周方向に並ぶ多数の噴射口55が形成されている。
【0099】
ここで、「内側周面」とは、リング状管53の外周面のうち軸管51に臨む面であり、「外側周面」とは、リング状管53の外周面のうち外方に臨む面である。
【0100】
この場合であっても、株間Pに発生した雑草の除去を十分に行うことができると共に、稲株Kの損傷を抑制することが可能となる。
【0101】
さらに、上記噴射口体50は、金属の平板によって形成された上述の実施の形態における噴射口体30よりも軽量化することができるので、稲株Kへの衝撃緩和や流路管体20や昇降装置40にかかる負担軽減を図ることができる。
【0102】
さらに、上述の実施の形態では、圧力流体として加圧された水を使用したが、例えば空気であってもよい。
【0103】
この場合、圧送ポンプとしてコンプレッサを使用し、大気から空気を吸い込んで供給することができる。そのため、貯水タンクが不要となる。
【0104】
また、圧送ポンプ13により加圧して供給する水として、水田Sの水を使用してもよい。この場合、水田S中の土砂を吸い込まないようにフィルタ等を透過させた後に、加圧、供給することが望ましい。
【0105】
そして、上述の実施の形態では、流体加圧供給機構10、流路管体20、噴射口体30を、運転手が乗車して運転操作し、水田S内を走行可能な走行装置2に搭載しているが、これに限らない。
【0106】
例えば、流体加圧供給機構10等を作業者が操作ハンドルを持って押しながら移動させる、手押し車タイプの歩行型移動農機に搭載してもよい。この場合では、走行装置2が入らない小規模の水田であっても容易に取り回しを行うことができる。
【0107】
さらに、本発明に係る水田用除草装置として、いわゆる肩掛けタイプの手動式噴霧器の先端部に噴射口体30を取り付けたものであってもよい。
【0108】
この場合であっても、水の噴射圧で雑草を水中に浮遊させて除去することができ、除草作業の負担を軽減することが可能となる。
【0109】
そして、上述の実施の形態では、噴射口体30の各噴射口34が噴射口本体31の外側周面31aに開放すると共に流通路33が下方に向かって傾斜し、水を水平方向よりも下方に向かって噴射しているが、これに限らない。
【0110】
噴射口34を噴射口本体31の底面、すなわち、水田Sの底面Saに対向する面に形成してもよい。この場合であっても、雑草の根に向けて水を噴射することができるので、雑草の根を覆う土を吹き払って、雑草を水中に浮遊させるように除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る水田用除草装置を搭載した走行装置を示す側面図である。
【図2】図1に示す走行装置を示す平面図である。
【図3】図1に示す水田用除草装置の要部を示す斜視図である。
【図4】図3におけるA部の拡大図である。
【図5】噴射口体の外観を示す斜視図である。
【図6】噴射口体の形状の設定手順を説明するための説明図である。
【図7】図5に示す噴射口体に形成された流通路を示す説明図である。
【図8】図7におけるB−B断面図である。
【図9】図7におけるC−C断面図である。
【図10】本発明に係る水田用除草装置の噴射口体の他の例を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0112】
1 水田用除草装置
10 流体加圧供給機構
20 流路管体
30 噴射口体
33 流通路
34 噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田内に圧力流体を噴射して除草する水田用除草装置であって、
前記圧力流体を供給する流体加圧供給機構と、該流体加圧供給機構に連通した流路管体と、該流路管体に回動自在に取り付けられた噴射口体とを備え、
該噴射口体は、使用時に水平面内で回動自在であると共に、前記流路管体と連通して前記圧力流体を流す流通路と、該流通路に連通して、水平方向よりも下方に向けて前記圧力流体を噴射する噴射口とを有していることを特徴とする水田用除草装置。
【請求項2】
前記噴射口体は、扁平な歯車形状であると共に、インボリュート曲線に形成された歯先部を有し、前記噴射口はこの歯先部の歯幅面又は下面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水田用除草装置。
【請求項3】
前記噴射口体は、三葉歯車形状を呈していることを特徴とする請求項2に記載の水田用除草装置。
【請求項4】
前記噴射口体は、外側周面が平面視インボリュート曲線に形成された三葉歯車形状を呈するようにパイプを屈曲加工して形成されたリング状管を備えており、
前記噴射口は、前記リング状管の外側周面に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の水田用除草装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の水田用除草装置を備えた水田用除草走行装置であって、
前記加圧流体供給機構及び前記流路管体を搭載し、走行可能とされた車体と、水田の底面から前記噴射口体までの距離を調整する高さ調整機構とを有していることを特徴とする水田用除草走行装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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