説明

水硬性組成物及びその硬化体

【課題】流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタル(スラリー)を提供する。
【解決手段】水硬性成分と、無機質微粉末と、流動化剤とを含む水硬性組成物であって、流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築工事に使用されるグラウト用の水硬性組成物であって、水との混練操作によって速やかに良好なスラリー状態が得られ、流動性に優れ、材料分離抵抗性が高い水硬性モルタル(スラリー)が得られる水硬性組成物に関する。
【0002】
さらに、本発明は、前記水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル(スラリー)及び水硬性モルタル(スラリー)硬化体に関する。
【背景技術】
【0003】
グラウト組成物と水とを連続混練又は連続混練機を用いて混練して安定した流動性を有するスラリーが得られるグラウト組成物を提供することを目的として、特許文献1には、ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材と流動化剤と膨張剤とを含むグラウト組成物が開示され、さらに前記グラウト組成物を用い、連続混練機を使用して連続混練して得られたスラリーをポンプを用いて施工部に連続して供給するグラウトスラリーの施工方法が開示されている。
【0004】
また、流動特性の温度依存性が小さい水硬性モルタル(スラリー)を得るための水硬性組成物として、特許文献2には、水硬性成分と無機質微粉末とを含む水硬性組成物であって、無機質微粉末が、ブレーン比表面積が4000cm/g〜15000cm/g、平均粒径が10.0μm以下、平均円形度が0.915〜1.000であり、水硬性成分と無機質微粉末との合計質量100質量%中の無機質微粉末が25〜45質量%であることを特徴とする水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−298662号公報
【特許文献2】特開2009−234818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に屋外で行われる水硬性モルタル(スラリー)の施工は、施工時期によって異なった温度条件の下で行われる。異なった温度条件での施工を容易にするため、水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は、温度に依存しないことが好ましい。流動特性の温度依存性が大きい場合には、適切な気温の場合にしか水硬性モルタル(スラリー)の施工を行うことができないためである。
【0007】
そこで、本発明は、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタル(スラリー)を得ることができ、強度特性に優れた水硬性モルタル(スラリー)の硬化体を得ることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記水硬性組成物と水とを混練した際に、短時間に優れた流動特性が得られると共に、良好な材料分離抵抗性を有し、調製した水硬性モルタル(スラリー)の流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタル(スラリー)を提供することを目的とする。さらに、調製した水硬性モルタル(スラリー)をスラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた狭隘部の施工場所に供給しても材料分離を生じず、優れた充填性を有する水硬性モルタル(スラリー)を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタル(スラリー)を調製し、スラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた狭隘部の施工場所に連続的に供給して施工する水硬性モルタル(スラリー)の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水硬性組成物が所定の流動化剤を含むことにより、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタル(スラリー)を得ることができることを見出し、本発明に至った。また、本発明者らは、水硬性組成物が所定の流動化剤を含むと共に、特定の構成要素を有する無機質微粉末、水硬性成分及び細骨材を含み、特定の粒度構成を持つ水硬性組成物は、水と混練して水硬性モルタル(スラリー)を得た際に、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができると共に、短時間に優れた流動特性が得られ、良好な材料分離抵抗性を有していることを見出した。さらに前記水硬性組成物と水とを連続的に混練して調製したスラリーを、ポンプを用いて離れた狭隘部の施工場所に連続的に供給した際にも材料分離を生じることなく安定して長距離圧送が可能であり、狭隘部に施工する際に優れた充填性を有することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、水硬性成分と、無機質微粉末と、流動化剤とを含む水硬性組成物であって、流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物である。本発明の水硬性組成物を用いるならば、混練後の長い時間にわたって流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0012】
本発明の水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)無機質微粉末が、ブレーン比表面積が4000cm/g〜15000cm/g、平均粒径が10.0μm以下、平均円形度が0.915〜1.000であり、水硬性成分と無機質微粉末との合計質量100質量%中の無機質微粉末が50質量%未満である。本発明の水硬性組成物が所定の無機質微粉末を含むことによって、良好な材料分離抵抗性を有し、流動特性の温度依存性が小さい水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
(2)水硬性組成物が細骨材をさらに含み、水硬性組成物が、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を20.5〜30.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を10.0〜25.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を10.0〜40.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を15.0〜50.0質量%含み、850μm以上の粒子を0〜2質量%を含む。本発明の水硬性組成物が所定の細骨材を含むことによって、優れた材料分離抵抗性を有し、良好で安定した流動性の水硬性モルタル(スラリー)を得られると共に、圧送した際にも骨材のアーチング現象による閉塞を回避できる水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
(3)水硬性組成物が、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製し、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させるモルタル施工方法に用いられる。本発明の水硬性モルタル(スラリー)を所定のモルタル施工方法に用いることにより、異なった温度条件であっても容易に、モルタル施工をすることができる。
【0013】
また、本発明は、上述の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル(スラリー)である。本発明の水硬性モルタル(スラリー)は、混練後の長い時間にわたって流動特性の温度依存性が小さいので、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、上述の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル(スラリー)を硬化させて得られる水硬性モルタル(スラリー)の硬化体である。本発明の水硬性モルタル(スラリー)を用いることにより、異なった温度条件であっても、強度特性に優れた水硬性モルタル(スラリー)の硬化体を得ることができる。
【0015】
また、本発明は、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタル(スラリー)を調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタル(スラリー)を施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、水硬性モルタル(スラリー)の施工方法である。本発明の水硬性組成物を用いることにより、異なった温度条件であっても容易に、水硬性モルタル構造物の施工を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、混練後の長い時間にわたって流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタル(スラリー)を提供することができる。また、本発明の水硬性モルタルを用いることによって、強度特性に優れた水硬性モルタル(スラリー)の硬化体を得ることができる。
【0017】
また、本発明の水硬性組成物を用いるならば、水と混練した際に、短時間に優れた流動特性が得られると共に、良好な材料分離抵抗性を有し、調製した水硬性モルタル(スラリー)の流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。その結果、混練時間の長短に関わらずフロー値やJ14ロート流下値などの流動特性が安定した水硬性モルタル(スラリー)を季節を問わず製造することができる。
【0018】
また、本発明の水硬性組成物を用いて調製した水硬性モルタル(スラリー)は、良好な材料分離抵抗性を有していることから、ポンプを使用して長距離圧送することができ、効率的にかつ安定性状の水硬性モルタル(スラリー)を狭隘部の施工場所へ充填することが可能となり、品質の安定した構造物の構築に優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水硬性スラリーの連続混練装置を模式的に示す図である。
【図2】水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル(スラリー)調製・施工用トラックを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、無機質微粉末と、流動化剤とを必須成分とする、土木建築工事に使用されるグラウト用の水硬性組成物である。本発明は、流動化剤が所定の側鎖を有する変性ポリカルボン酸系流動化剤(「変性ポリカルボン酸系流動化剤a」という)であることに特徴がある。そのため、本発明の水硬性組成物と水との混練操作によって得られる水硬性モルタル(スラリー)は、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる。また、本発明の水硬性組成物は、水との混練操作によって短時間に優れた流動特性が得られると共に、良好な材料分離抵抗性を有し、流動特性の温度依存性が小さい水硬性モルタル(スラリー)を安定して調製することができる。
【0021】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分を含む。本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分は、ポルトランドセメントを含み、ポルトランドセメントの他に、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で石膏やアルミナセメントを含むことができる。
【0022】
水硬性成分に含まれることのできる成分としては、ポルトランドセメントのみ、ポルトランドセメント及び石膏の2種、ポルトランドセメント及びアルミナセメントの2種、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏の3種、から選ぶことができる。
【0023】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等が挙げられ、それらのうちの一種又は二種以上を混合して使用することができる。
【0024】
水硬性成分100質量%中に対して、ポルトランドセメントを好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含むことが好ましい。
【0025】
石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の石膏がその種類を問わず、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0026】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0027】
本発明の水硬性組成物は、無機質微粉末を含む。本発明の水硬性組成物が無機質微粉末を含む場合には、水と混練することにより短時間に優れた流動特性が得られると共に、良好な材料分離抵抗性を有し、流動特性の温度依存性が小さい水硬性モルタル(スラリー)が得られる。
【0028】
本発明の水硬性組成物に含まれる無機質微粉末としては、フライアッシュ、高炉スラグ、製鋼スラグ、各種セラミック及び炭酸カルシウムなどの微粉末や、これらを摩砕処理、熱処理及び/又は分級処理などによって粒子の平均円形度を高めた微粉末を用いることができ、これらの微粉末の一種又は二種以上を混合して使用することができる。市販品では四電ビジネス社製ファイナッシュなどを無機質微粉末として好適に使用することができる。
【0029】
本発明の水硬性組成物に含まれる無機質微粉末としては、ブレーン比表面積が、好ましくは4000cm/g〜15000cm/gの微粉末、より好ましくはブレーン比表面積4300cm/g〜12000cm/gの微粉末、さらに好ましくは4700cm/g〜10000cm/gの微粉末、特に好ましくはブレーン比表面積5000cm/g〜8000cm/gの微粉末を好ましく用いることができる。
【0030】
本発明の水硬性組成物に含まれる無機質微粉末としては、平均粒径が、好ましくは10.0μm以下の微粉末、さらに好ましくは8.5μm以下の微粉末、より好ましくは7.0μm以下の微粉末、特に好ましくは6.0μm以下の微粉末を好適に使用することができる。
【0031】
また、本発明の水硬性組成物に含まれる無機質微粉末は、1次粒子の平均円形度が、好ましくは0.915〜1.000の微粉末、より好ましくは0.916〜0.980の微粉末、さらに好ましくは0.917〜0.970の微粉末、特に好ましくは0.918〜0.965の微粉末を用いることができる。無機質微粉末の1次粒子の平均円形度が上記の値であることにより、流動特性の温度依存性が小さくフロー性状が良好な流動性と、優れた材料分離抵抗性とを安定して得ることができる。
【0032】
本発明の水硬性組成物に対する無機質微粉末の添加量は、水硬性成分と無機質微粉末との合計質量100質量%中の無機質微粉末が50質量%未満であることが好ましく、45質量%未満であることがより好ましく、40質量%未満であることがさらに好ましい。水硬性組成物に対する無機質微粉末の添加量が上記の値であることにより、得られる水硬性モルタル(スラリー)の流動特性の温度依存性が小さくフロー性状が良好な流動性と、優れた材料分離抵抗性とを安定して得ることができる。なお、本発明の水硬性組成物に対する無機質微粉末の添加量の下限は、無機質微粉末の添加の効果を有効なものとするために、水硬性成分と無機質微粉末との合計質量100質量%中、好ましくは25質量%以上、より好ましくは27質量%以上、さらに好ましくは29質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の水硬性組成物が特定の構成要素を有する無機質微粉末を含むため、本発明の水硬性組成物と、水とを混練して得られる水硬性モルタル(スラリー)は、短時間に優れた流動特性が得られると共に、良好な材料分離抵抗性を有し、流動特性の温度依存性が小さい。
【0034】
本発明の水硬性組成物は、細骨材を含むことができる。本発明の水硬性組成物が細骨材を含み、さらに水硬性組成物が特定の粒度構成を有することによって、優れた材料分離抵抗性を有し、良好で安定した流動性の水硬性モルタル(スラリー)を得られると共に、圧送した際にも骨材のアーチング現象による閉塞を回避できる水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0035】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、シリカ粉、粘土鉱物及び廃FCC触媒などの無機質材、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物並びにアルミナセメントクリンカー骨材などから選択して用いることができる。
【0036】
本発明の水硬性組成物に含まれる細骨材は、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、シリカ粉並びに廃FCC触媒などから選択して用いることが特に好ましい。
【0037】
本発明では、細骨材を含む水硬性組成物の粒度構成(「特定の粒度構成」という)は、好ましくは、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を20.5〜30.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を10.0〜25.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を10.0〜40.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を15.0〜50.0質量%含み、850μm以上の粒子を0.0〜2.0質量%含むものを好適に使用することができる。
また、細骨材を含む水硬性組成物の特定の粒度構成は、より好ましくは、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を21.0〜29.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を12.0〜24.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を11.0〜39.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を16.0〜48.0質量%含み、850μm以上の粒子を0.0〜1.0質量%含むものを好適に使用することができる。
また、細骨材を含む水硬性組成物の特定の粒度構成は、さらに好ましくは、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を22.0〜27.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を15.0〜22.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を12.0〜38.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を17.0〜46.0質量%含み、850μm以上の粒子を0.0〜0.5質量%含むものを好適に使用することができる。
また、細骨材を含む水硬性組成物の特定の粒度構成は、特に好ましくは、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を22.0〜27.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を15.0〜20.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を25.0〜38.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を18.0〜30.0質量%含み、850μm以上の粒子を0.0〜0.2質量%含むものを好適に使用することができる。
【0038】
細骨材を含む水硬性組成物の粒度構成が前記特定の粒度構成の範囲にある場合には、水硬性モルタル(スラリー)が優れた材料分離抵抗性を安定して得ることができ、また水硬性モルタル(スラリー)をスラリーポンプを用いて圧送した際に、水硬性モルタル(スラリー)中の骨材がアーチング現象を引き起こしたり閉塞させる心配がないため好ましい。
【0039】
本発明の水硬性組成物に対する細骨材の添加量は、水硬性成分と無機質微粉末との合計100質量部に対して、好ましくは20〜200質量部、より好ましくは40〜190質量部、さらに好ましくは60〜180質量部、特に好ましくは80〜170質量部の範囲にすることにより、優れた流動特性と材料分離抵抗性、及び、良好な硬化体強度発現性が得られることから好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物は、以下に説明する所定の変性ポリカルボン酸系流動化剤(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を含む。
【0041】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、下記化学式で示される構造単位Cを含み、好ましくは下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む。より好ましくは、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cからなることが好ましい。
【0042】
【化1】

【0043】
構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。ポリオキシエチレン鎖の単位構造(POE)の繰り返し数(繰り返し単位構造数)をnとすると、本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aでは、繰り返し単位構造数nが30〜50の範囲であることが好ましく、繰り返し単位構造数nが35〜48であることがより好ましく、繰り返し単位構造数nが40〜45であることがさらに好ましい。繰り返し単位構造数nは具体的には、42であることができる。
【0044】
構造単位Cのカルボン酸エステルの側鎖の長さは、好ましくは30〜70nm、より好ましくは35〜65nmである。
【0045】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーの、構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、好ましくは9:1〜5:5、より好ましくは8:2〜6:4、さらに好ましくは7.5:2.5〜6.5:3.5である。構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、具体的には、7:3であることができる。
【0046】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置によりNa量の測定をした場合、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマー中のNa量が、好ましくは3000〜20000μg/g、より好ましくは5000〜15000μg/g、さらに好ましくは7500〜12500μg/g、特に好ましくは9000〜11000μg/gであることが好ましい。変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマー中のNa量は、具体的には、9900μg/gであることができる。
【0047】
本発明の水硬性組成物が変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含むことにより、本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル(スラリー)は、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタル(スラリー)を提供することができる。
【0048】
本発明の水硬性組成物中の変性ポリカルボン酸系流動化剤aの添加量は、水硬性成分と無機質微粉末との合計100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.03〜2質量部、特に好ましくは0.05〜1質量部の範囲である。添加量があまり少ないと水硬性成分を速やかに分散させる効果が乏しくなって充分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、流動性の経時変化やモルタル(スラリー)の粘稠性が大きくなることがあることから好ましくない。
【0049】
本発明の水硬性組成物では、変性ポリカルボン酸系流動化剤aと、特定の粒度構成を有するための細骨材とを併せて使用することにより、水硬性組成物と水とを混練して速やかに良好な流動特性を有する水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0050】
なお、一般的な流動化剤としては、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、リグニンスルホン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸などの流動化剤を挙げることができる。本発明の水硬性組成物は、本発明の特性を失わない範囲で、変性ポリカルボン酸系流動化剤aに加えて一般的な流動化剤を含むことができる。しかしながら、本発明の水硬性組成物の特性をより良く発揮するためには、本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤は、変性ポリカルボン酸系流動化剤aであることが好ましい。
【0051】
本発明では、水硬性組成物と水とを混練して速やかに良好な流動特性を有する水硬性モルタル(スラリー)を得るために、本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、無機質微粉末と、所定の流動化剤とを含む。また、本発明の水硬性組成物の粒度構成は、無機質微粉末及び細骨材の粒度を調整することにより、上述の特定の粒度構成とすることが好ましい。さらに、本発明では現場での水硬性モルタル(スラリー)の調製の煩雑さや品質変動を回避するため、予め水硬性組成物の構成成分をプレミックスして現場に提供するため、流動化剤についても粉末状の流動化剤を選択して使用することが好ましい。
【0052】
本発明では、水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル(スラリー)の材料分離抵抗性をさらに高めるために、増粘剤を使用することが好ましい。本発明の水硬性組成物に含まれる増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系及び水溶性ポリマー系などから選択したものを用いることができ、特にセルロース系などを用いることができる。
【0053】
本発明の水硬性組成物に対する増粘剤の添加量は、水硬性成分と無機質微粉末との合計100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.50質量部、より好ましくは0.0003〜0.10質量部、さらに好ましくは0.0005〜0.05質量部、特に好ましくは0.001〜0.01質量部の範囲である。増粘剤の添加量があまり少ないと材料分離抑制効果は期待できず、また多すぎても単に不経済であるだけでなく、モルタル(スラリー)の粘稠性が大きくなり、流動性を損なうことがあることから好ましくない。
【0054】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分、無機質微粉末及び流動化剤である必須成分、並びに細骨材及び増粘剤の成分の他に、必要に応じて本発明の特性を失わない範囲で膨張材、凝結調整剤、消泡剤、樹脂粉末などの成分を少なくとも1種以上含むことができる。
【0055】
本発明の水硬性組成物に含まれる膨張材としては、金属粉等の金属系膨張材や石灰類等の無機系膨張材の用いることが好ましく、特に金属系膨張材及び無機系膨張材を併用して用いることが好ましい。
【0056】
金属系膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉などの金属粉を使用することができるが、中でも比重の面から、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906:1998「塗装用アルミニウム顔料」の第2種に準ずるものを好適に使用することができる。
【0057】
無機系膨張材としては、カルシウムサルフォアルミネート系ではアウイン、石灰系では生石灰、生石灰−石膏系及び仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。石灰系膨張材としては、生石灰又は生石灰−石膏系を用いることが好ましく、特に生石灰−石膏系を用いることが好ましい。無機系膨張材としては、例えば遊離生石灰を膨張成分として含むものや、カルシウムサルフォアルミネート等のエトリンガイト形成物質を膨張成分とする市販品を用いることができる。好ましくは、収縮補償効果とともに反応時の水和発熱によって低温環境下の強度増強効果を有する生石灰を有効成分として含む膨張材を用いることが特に好ましい。この場合膨張材中の生石灰含有量は特に限定されないが、生石灰含有量が高いもの(100質量%を含む)では水和反応が急激に進行することがあるので、膨張材中の生石灰含有量は80質量%以下であることが好ましい。
【0058】
本発明の水硬性組成物に対する金属系膨張材は、用いる水硬性成分により本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。具体的には、本発明の水硬性組成物に対する金属系膨張材の添加量は、水硬性成分と無機質微粉末との合計100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、より好ましくは0.0002〜0.008質量部、さらに好ましくは0.0003〜0.004質量部、特に0.0004〜0.002質量部の範囲とすることが好ましい。
【0059】
本発明の水硬性組成物中の無機系膨張材の添加量は、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、さらに好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは4〜15質量部の範囲とすることが好ましい。無機系膨張材としては、市販のものを好適に用いることができる。
【0060】
本発明の水硬性組成物に対して、凝結調整剤(凝結促進剤及び凝結遅延剤)を添加することができる。凝結調整剤は、用いる水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。凝結調整剤の添加では、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することにより、得られる水硬性モルタル(スラリー)の流動性、可使時間、硬化性状などを調整することができる。
【0061】
本発明の水硬性組成物に対して、消泡剤を添加することができる。消泡剤は、シリコン系、アルコール系及びポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。
【0062】
本発明の水硬性組成物に対する消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0063】
本発明の水硬性組成物に対して、樹脂粉末を添加することができる。樹脂粉末としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びアクリル系重合体などの乳化重合した高分子エマルジョンを噴霧乾燥して調製した樹脂粉末などを用いることができる。
【0064】
本発明の水硬性組成物を構成する場合に、好適な成分構成の水硬性組成物は、水硬性成分と、特定の構成要素を持つ無機質微粉末と、所定の変性ポリカルボン酸系流動化剤と、細骨材とを含み、細骨材を含む特定の粒度構成を有する水硬性組成物であって、さらに増粘剤を含む水硬性組成物である。
【0065】
本発明の水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成の水硬性組成物は、水硬性成分と、特定の構成要素を持つ無機質微粉末と、所定の変性ポリカルボン酸系流動化剤と、細骨材とを含み、細骨材を含む特定の粒度構成を有する水硬性組成物であって、さらに増粘剤、金属系膨張材及び無機系膨張材を含むものである。
【0066】
本発明では、水硬性成分、無機質微粉末及び流動化剤と、必要に応じて、細骨材、増粘剤、膨張材、凝結調整剤、消泡剤及び粉末樹脂等から選択される成分を1種以上添加し、混合機で混合して水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0067】
本発明の水硬性組成物は、混練装置を用いて、又は、混練機構を有するミキサー設備を用いて、水と混練することにより、安定して良好な流動性を有する水硬性モルタル(スラリー)を製造することができる。
【0068】
また、本発明の水硬性組成物は水とともに、定量的かつ連続的に混練機構を有するミキサー設備に供給されることにより、速やかに混練されて安定した流動性を有するスラリーが得られることから、図1に示すように、水硬性スラリータンク(リザーバータンク)に螺旋形状の撹拌羽根を備えた連続混練装置を好ましく用いることができる。
【0069】
さらに、大規模な現場で大量の水硬性モルタル(スラリー)を限られた期間内に施工する場合には、特に、水硬性モルタル(スラリー)を連続的に製造し、離れた施工場所へ供給・施工できる図2に示すような水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル(スラリー)調製・施工用トラックを使用し、該トラックに搭載した連続混練ミキサー(図1)を用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタル(スラリー)を連続的に調製し、該トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタル(スラリー)を施工箇所へ連続的に供給・打設する水硬性モルタル(スラリー)施工方法が施工効率及び施工品質において極めて有効である。本発明の水硬性組成物は、所定量の水と速やかに混練され、安定して優れた流動性と良好な材料分離抵抗性とを有するスラリーが得られることから、前記の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル(スラリー)調製・施工用トラックを使用した施工方法に好適に用いることができる。
【0070】
本発明の水硬性組成物は、所定量の水と混練することによって速やかに良好な流動特性を有し、材料分離抵抗性に優れた水硬性モルタル(スラリー)を調製することができる。
【0071】
本発明では、混練条件A(5℃)、混練条件A(20℃)又は混練条件A(30℃)の条件で水硬性組成物と水とを混練し、混練操作によって得られる水硬性モルタル(スラリー)の流動特性をフロー値によって評価する。混練条件Aとは、所定温度(5℃、20℃又は30℃)、湿度65%の恒温室において、恒温室と同温度に養生した水硬性組成物と水を用い、2Lポリ容器に所定量の水を入れ、タービン羽根を取り付けた0.15KW攪拌機を使用し、300rpmで攪拌しながら水硬性組成物1500gを全量投入後、780rpmで2分間混練して、水硬性モルタル(スラリー)を調製するものである。なお、温度5℃、20℃及び30℃での混練条件Aでの混練を、それぞれ混練条件A(5℃)、混練条件A(20℃)及び混練条件A(30℃)という。
【0072】
本発明の水硬性組成物を混練条件Aの条件で、室温20度の恒温室にて混練して調製し、同恒温室にて測定した水硬性モルタル(スラリー)のフロー値は、好ましくは250〜350mmの範囲、さらに好ましくは260〜340mmの範囲、より好ましくは270〜330mmの範囲であることが速やかに優れた流動性を安定して確保できることから好ましい。
【0073】
本明細書では、所定の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値を、下記の記号で示す。
水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をZとする。
水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をZ30とする。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をXとする。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をX30とする。
水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をYとする。
水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値をY30とする。
【0074】
水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Yと、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Xとのフロー値の温度依存性の比率(Y/X)が、
好ましくはY/X=0.80〜1.20の範囲であり、
より好ましくはY/X=0.85〜1.15の範囲であり、
さらに好ましくはY/X=0.90〜1.10の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0075】
/Xが上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、混練直後の水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化により流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0076】
水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Zと、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Xとのフロー値の温度依存性の比率(Z/X)が、
好ましくはZ/X=0.90〜1.10の範囲であり、
より好ましくはZ/X=0.92〜1.08の範囲であり、
さらに好ましくはZ/X=0.95〜1.05の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0077】
/Xが上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、混練直後の水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化により流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0078】
水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Y30と、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値X30とのフロー値の温度依存性の比率(Y30/X30)が、
好ましくはY30/X30=0.70〜1.30の範囲であり、
より好ましくはY30/X30=0.80〜1.20の範囲であり、
さらに好ましくはY30/X30=0.90〜1.10の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0079】
30/X30が上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、練置き30分後の水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化により流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0080】
水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Z30と、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値X30とのフロー値の温度依存性の比率(Z30/X30)が、
好ましくはZ30/X30=0.80〜1.20の範囲であり、
より好ましくはZ30/X30=0.85〜1.15の範囲であり、
さらに好ましくはZ30/X30=0.90〜1.10の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0081】
30/X30が上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、練置き30分後の水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化により流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0082】
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値X30と、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Xとのフロー値の温度依存性の比率(X30/X)が、
好ましくはX30/X=0.80〜1.20の範囲であり、
より好ましくはX30/X=0.85〜1.15の範囲であり、
さらに好ましくはX30/X=0.90〜1.10の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0083】
30/Xが上記範囲であることにより、20℃の温度で混練から時間が経過した場合にも、水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、時間経過によっても流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0084】
水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Y30と、水硬性組成物を混練条件A(30℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Yとのフロー値の温度依存性の比率(Y30/Y)が、
好ましくはY30/Y=0.70〜1.30の範囲であり、
より好ましくはY30/Y=0.80〜1.20の範囲であり、
さらに好ましくはY30/Y=0.90〜1.10の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0085】
30/Yが上記範囲であることにより、30℃の温度で混練から時間が経過した場合にも、水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、時間経過によっても流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0086】
水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した後、30分間練置きしたときの水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Z30と、水硬性組成物を混練条件A(5℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタル(スラリー)のフロー値Zとのフロー値の温度依存性の比率(Z30/Z)が、
好ましくはZ30/Z=0.80〜1.20の範囲であり、
より好ましくはZ30/Z=0.85〜1.10の範囲であり、
さらに好ましくはZ30/Z=0.90〜1.02の範囲である水硬性モルタル(スラリー)を得ることができる。
【0087】
30/Zが上記範囲であることにより、5℃の温度で混練から時間が経過した場合にも、水硬性モルタル(スラリー)の流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタル(スラリー)をポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、時間経過によっても流動性が変化しにくくなり、流動特性が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0088】
本発明の水硬性組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタル(スラリー)の流動性、材料分離抵抗性などを、さらに硬化して得られる硬化体の強度などを調整することができる。
【0089】
本発明の水硬性モルタル(スラリー)は、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有することができるので、広い気温の範囲にわたって同様な手順で水硬性モルタル(スラリー)を調製し、施工することができる。また、本発明の水硬性モルタル(スラリー)は、特定の構成要素を有する無機質微粉末、水硬性成分及び細骨材を含むことにより、水硬性モルタル(スラリー)が優れた材料分離抵抗性を安定して得ることができるので、間隙など、狭いところに充填できる。
【0090】
本発明の水硬性モルタル(スラリー)は、トンネルやシールドの裏込め、ダムの継ぎ目、橋梁のシュウ、構造物の補修や補強、鉄筋継手、機械基礎の固定、下水道の補修等、土木・建築分野の構造物(水硬性モルタル構造物)を施工するための各種グラウト工事において、高流動性、無収縮性及び高強度といった性能を有することからその利用価値は大きい。特に、大規模な現場で大量のグラウチングを行うような場合に、連続的に水硬性モルタル(スラリー)を調製して、連続的に施工箇所へ供給・打設施工する場合にその性能を発揮するものである。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0092】
1)フロー試験:
混練条件Aで混練した水硬性モルタル(スラリー)を用い、建築改修工事監理指針の簡易テーブルフロー試験に準拠して評価を行う。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ100mmの塩化ビニル製パイプを置き、スラリーを充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
【0093】
2)混練条件A:
所定温度(5℃、20℃又は30℃)、湿度65%の恒温室において、恒温室と同温度に養生した水硬性組成物と水を用い、2Lポリ容器に所定量の水を入れ、タービン羽根を取り付けた0.15KW攪拌機(新東科学社製、品番:スリーワンモータBL600)を使用し、300rpmで攪拌しながら水硬性組成物1500gを全量投入後、780rpmで2分間混練して、水硬性モルタル(スラリー)を調製することを混練条件Aとする。なお、温度5℃、20℃及び30℃での混練条件Aでの混練を、それぞれ混練条件A(5℃)、混練条件A(20℃)及び混練条件A(30℃)という。
【0094】
3)粒度分布(粒度構成)の測定方法(測定条件A):
分散媒にはエチルアルコールを用い、60秒間超音波及びスターラー撹拌により無機質微粉末を分散し、屈折率を1.330に設定したレーザー粒度分析装置(LMS−30、セイシン企業)を使用して測定する。
【0095】
5)平均円形度の測定方法(測定条件B):
分散媒には分散助剤を0.001%加えた水を用い、300秒間超音波及びスターラー撹拌により無機質微粉末を分散し、粒度・形状分布測定器(PITA−1、セイシン企業)を用いて測定して、観測粒子3000個の平均を求め、平均円形度とする。なお、平均円形度は観測粒子の投影面積Aとし、周囲長Pとした際の4πA/Pの値とする。
【0096】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(宇部早強セメント、ブレーン比表面積4500cm/g)。
比表面積の評価法は、JIS・R5201−1997に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。また、篩を使用して測定したポルトランドセメントの粒度構成を表3に示す。
【0097】
2)無機質微粉末
・無機質微粉末:ファイナッシュ(四電ビジネス、ブレーン比表面積=5800cm/g、平均円形度=0.921、平均粒径=4.7μm)
無機質微粉末のブレーン比表面積は、JIS・R−5201に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。無機質微粉末の平均円形度は、測定条件Bにて測定した。無機質微粉末の平均粒径は、測定条件Aにて測定した。
【0098】
2)細骨材:
・珪砂A:5号荒、瓢屋社製。
・珪砂B:SC6、山川産業社製。
・珪砂C:S8、山川産業社製。
篩を使用して測定した珪砂A〜Cの粒度構成を表3に示す。
【0099】
3)膨張材:
・無機系膨張材a:太平洋ジプカル(太平洋マテリアル社製)。
・無機系膨張材b:太平洋エクスパン(太平洋マテリアル社製)。
・金属系膨張材:アルミニウム粉(粒度44μm以下60%以上、大和金属粉工業社製)。
【0100】
4)流動化剤(減水剤):
・流動化剤A:変性ポリカルボン酸系流動化剤a(構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む変性ポリカルボン酸の流動化剤である。構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。その他、詳細を表1に示す。)
・流動化剤B:変性ポリカルボン酸系流動化剤、Melflux(登録商標)2651F(BASFポゾリス社製。流動化剤Bは、下記化学式で示される構造単位A2及び構造単位Bを含む変性ポリカルボン酸の流動化剤である。構造単位A2は、ポリオキシエチレン鎖の側鎖(−(OC)n−H)を含むが、カルボン酸エステルではない。その他、詳細を表1に示す。)
【0101】
【化2】

【0102】
【表1】

【0103】
5)増粘剤:セルロース系増粘剤、ハイユーローズ(宇部興産社製)。
【0104】
(比較例1、実施例1〜2)
表2に示す配合割合で水硬性組成物と水とを混練条件A(5℃)、A(20℃)及び混練条件A(30℃)にしたがって混練し、780rpmで2分間混練したスラリーの水硬性モルタル(スラリー)を調製し、混練直後及び混練後30分間練置きしたときのフロー値を測定した。フロー値の測定結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
(1)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた混練直後のフロー値の温度依存性の場合、表2に示すように、実施例1及び実施例2の比率(Y/X)が、0.99〜1.00の範囲だった。これに対して、比較例1では、混練直後のフロー値の温度依存性の比率(Y/X)が、0.86だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、混練直後のフロー値の温度依存性が小さいことが明らかとなった。
【0108】
(2)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた混練直後のフロー値の温度依存性の場合、表2に示すように、実施例1及び実施例2の比率(Z/X)が、1.01〜1.01の範囲だった。これに対して、比較例1では、混練直後のフロー値の温度依存性の比率(Z/X)が、0.98だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、混練直後のフロー値の温度依存性が小さいことが明らかとなった。
【0109】
(3)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた30分間練置き後のフロー値の温度依存性の場合、表2に示すように、実施例1の比率(Y30/X30)が、0.83だった。これに対して、比較例1では、30分間練置き後のフロー値の温度依存性の比率(Y30/X30)が、0.68だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、30分間練置き後のフロー値の温度依存性が小さいことが明らかとなった。
【0110】
(4)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた30分間練置き後のフロー値の温度依存性の場合、表2に示すように、実施例1の比率(Z30/X30)が、1.00だった。これに対して、比較例1では、30分間練置き後のフロー値の温度依存性の比率(Z30/X30)が、1.25だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、30分間練置き後のフロー値の温度依存性が小さいことが明らかとなった。
【0111】
(5)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた20℃でのフロー値保持性の場合、表2に示すように、実施例1の比率(X30/X)が、0.98だった。これに対して、比較例1では、20℃でのフロー値保持性の比率(X30/X)が、0.81だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、20℃でのフロー値保持性が大きいことが明らかとなった。
【0112】
(6)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた30℃でのフロー値保持性の場合、表2に示すように、実施例1及び実施例2の比率(Y30/Y)が、0.81〜0.91だった。これに対して、比較例1では、30℃でのフロー値保持性の比率(Y30/Y)が、0.64だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、30℃でのフロー値保持性が大きいことが明らかとなった。
【0113】
(7)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた5℃でのフロー値保持性の場合、表2に示すように、実施例1の比率(Z30/Z)が、0.97だった。これに対して、比較例1では、5℃でのフロー値保持性の比率(Z30/Z)が、1.03だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、5℃でのフロー値保持性が大きいことが明らかとなった。
【0114】
以上のことから、本発明の水硬性組成物を用いた場合には、混練後の長い時間にわたって流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタル(スラリー)を提供することができることが明らかとなった。
【0115】
表2に示す実施例及び比較例では、細骨材等の粒度は、表3に示す粒度構成のものを用い、水硬性組成物が特定の粒度構成となるようにした。そのため、本発明の実施例では、フロー値が良好で、材料分離抵抗性に優れるものだった。流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いる本発明の実施例の場合には、フロー値が良好で、材料分離抵抗性に優れるため、優れたポンプ圧送性が得られていることが推測される。
【符号の説明】
【0116】
10:混練スクリュー
11:スラリー製造・供給装置
12:水硬性組成物
13:ホッパー
14:ホッパースクリュー
15:給水口
16:混練装置(ミキサー)
17:混練スクリュー
18:モルタル(スラリー)排出口
19:モルタル(スラリー)
20:リザーバータンク
21:モルタル(スラリー)
22:スターラースクリュー(螺旋形状撹拌羽根)
23:移送スクリュー
24:スネークポンプ(スラリーポンプ)
25:モルタル(スラリー)
26、27、28:モーター
29、30:動力伝達ベルト
31:水硬性モルタル・スラリー調製・施工用トラック
32:水硬性組成物の供給口
33:水硬性組成物タンク
34:水硬性スラリー
35:混練装置(ミキサー)
36:ホッパー
37:水硬性組成物
38:スクリューフィーダー
39:水タンク
40:水供給ポンプ
41:水供給パイプ
42:スターラースクリュー(螺旋形状撹拌羽根)
43:水硬性スラリータンク(リザーバータンク)
44:スラリーポンプ
45:スラリーホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性成分と、無機質微粉末と、流動化剤とを含む水硬性組成物であって、
流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物。
【請求項2】
無機質微粉末が、ブレーン比表面積が4000cm/g〜15000cm/g、平均粒径が10.0μm以下、平均円形度が0.915〜1.000であり、水硬性成分と無機質微粉末との合計質量100質量%中の無機質微粉末が50質量%未満である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性組成物が細骨材をさらに含み、水硬性組成物が、水硬性組成物100質量%中に、1μm以上〜8μm未満の粒子を20.5〜30.0質量%含み、8μm以上〜32μm未満の粒子を10.0〜25.0質量%含み、32μm以上〜300μm未満の粒子を10.0〜40.0質量%含み、300μm以上〜850μm未満の粒子を15.0〜50.0質量%含み、850μm以上の粒子を0〜2質量%を含む、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
水硬性組成物が、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製し、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させるグラウト施工方法に用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルを硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、水硬性モルタルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207669(P2011−207669A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76903(P2010−76903)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】