説明

水硬性組成物

【課題】 建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う左官材料に関し、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性と、寸法安定性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、60〜150mmであることを特徴とする水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物に施工する作業性と速硬性と寸法安定性とに優れる水硬性組成物と、水硬性組成物を用いて得られるコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面のモルタル塗仕上げは、施工が簡易であり経済的にも安価であることから多種多様な箇所で用いられている。一般的にモルタル塗仕上げ工法は、使用材料としてポルトランド系セメントと砂を用いて、これに適当量の水を加えたセメントモルタルをコンクリートの表面にこてを用いて塗り付ける方法である。
【0003】
モルタル塗仕上げに用いる組成物として、特許文献1には、主に左官工法によってモルタルやコンクリート系の構造物の修復に用いるのに好適なセメント系の厚付けモルタルに関し、軽量骨材と普通骨材からなる細骨材又は軽量骨材からなる細骨材、ポルトランドセメント、アルミナセメント、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、膨張材、増粘剤及び減水剤を含有してなる厚付けモルタルが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、可使時間が長く、しかも可使時間内での流動性の変動が小さいため施工性に優れるとともに、超速硬性で早期開放が可能なモルタルに関し、アルミナセメント100重量部に対して、ポルトランドセメント20〜300重量部、石膏1
0〜100重量部、硬化促進剤0.1〜5重量部及び硬化遅延剤0.1〜5重量部を含有するモルタルが開示されている。
【0005】
特許文献3には、道路舗装やトンネルコンクリートの補修等の覆工時に使用する急硬性組成物として、セメント、カルシウムアルミネート、石膏、凝結調整剤、及びアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなる急硬性セメント組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−320783号公報
【特許文献2】特開2002−356363号公報
【特許文献3】特開2007−217212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建設工事現場でも機械化による各種の省力化工法が開発・実用化されつつあるが、モルタル仕上げを行う工程については、依然として左官職人に依存しているのが現状である。モルタル仕上げ作業は、微妙な調整に熟練度が要求されるが、一方で、それを担える左官職人については、高齢化や就業者数の減少により左官職人が不足する状況となっている。このため、より短工期で効率的にモルタル仕上げが可能な左官材料が求められている。
本発明は、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う左官材料に関し、ハンドリング性(可使時間)と、こて塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定の樹脂成分と、細骨材とを含む水硬性組成物を用いることによって、適度な流動性を有し、ハンドリング性(可使時間)が長く、良好なこて塗り作業性を有しながら、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好な水硬性組成物を見出して本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の第1は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、60〜150mmであることを特徴とする水硬性組成物である。
本発明の第2は、
前記本発明の水硬性組成物を用いたモルタル硬化体層を表層に有するコンクリート壁構造体である。
【0010】
本発明の水硬性組成物について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
1)細骨材は、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒子を3〜20質量%、150μm以上〜300μm未満の粒子を50〜80質量%、300μm以上〜850μm未満の粒子を15〜40質量%含み、850μm以上の粗粒子を含まないこと。
2)水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなること。
3)樹脂成分は、再乳化形樹脂粉末であり、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂成分の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化形樹脂粉末であること。
4)水硬性組成物は、軽量骨材を含まないこと。
5)水硬性組成物は、さらに無機粉末、凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
6)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち6時間後に20以上であること。
7)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で0〜−0.1%の範囲であること。
8)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体は、材齢1日の曲げ強度が2N/mm以上であり、材齢1日の圧縮強度が8N/mm以上であること。
9)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルは、鏝を用いて壁面に鏝塗り施工されること。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れるアルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、水と混練して得られる水硬性モルタルは、適度な流動性を有し、ハンドリング性(可使時間)が長く、良好なこて塗り作業性を有しながら、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好で、優れた寸法安定性を有するモルタル硬化体が得られるものであり、左官職人の施工性をより向上させるとともに、短工期のモルタル施工を可能とし、耐久性・耐候性に優れたモルタル硬化体を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物である。
さらに、本発明の水硬性組成物は、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を好適に用いることができる。
【0013】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0014】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0015】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0016】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが好ましい。
水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計質量を100質量部とした場合に、
好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント15〜60質量部及び石膏10〜40質量部からなる組成、
より好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部からなる組成、
特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント25〜40質量部及び石膏17〜27質量部からなる組成
を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
【0017】
本発明の水硬性組成物で使用する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、市販のポリマーエマルションや再乳化形樹脂粉末などから適宜選択して使用することができる。
本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂成分については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を好適に使用することができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物は、屋外で水硬性モルタルを施工した場合の硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生や、材料分離によるブリーディング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果と、硬化体と下地との接着強度を向上させる効果とを付与するために再乳化形樹脂粉末を使用する。再乳化形樹脂粉末を用いることによって前記の効果が得られ、耐久性及び耐候性に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0019】
樹脂成分の製造方法については特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂成分としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂成分の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂成分は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いる。
【0020】
本発明では、樹脂成分として保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0021】
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の1次粒子(エマルジョンの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
1次粒子の平均粒径が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好なこて送り性とこて伸び性とが得られる。
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下するため好ましくなく、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時のこて送り性とこて伸び性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0022】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末100質量%中に再乳化型樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、さらに好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、より好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
前記範囲の粒径の1次粒子を前記の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好なこて送り性とこて伸び性とが得られる。
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下するため好ましくなく、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時のこて送り性とこて伸び性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0023】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。
再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0024】
本発明では、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を選択して用いることによって、モルタル施工時に優れた作業性が得られるとともに、モルタル硬化体においては接着性や耐候性、耐水性及び耐アルカリ性に優れた特性を得ることができる。
【0025】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜90μmの範囲であり、より好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲であることが、再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物と水とを混練してモルタル化する過程で、再乳化型樹脂粉末の2次粒子が水硬性組成物に含まれている細骨材によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすいことから前記範囲の2次粒子径を有する再乳化型樹脂粉末を用いることが好ましい。
再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より大きくなるとモルタル化の過程で再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散した状態になり難くなることから好ましくなく、2次粒子径が前記範囲より小さくなると、工場においてプレミックスして水硬性組成物を製造する際に、再乳化型樹脂粉末が飛散して作業環境が悪化するなどのハンドリング性が悪くなることから好ましくない。
【0026】
本発明で使用する再乳化型樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜18質量部、さらに好ましくは3〜16質量部、特に好ましくは4〜15質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せて得ることができる。
樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物に水を加えて得られるモルタルの粘度が高くなり、施工性およびこて作業性が低下し、表層の乾燥による皺や気泡跡が発生し易くなるとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、モルタル硬化体の弾性向上によるひび割れ抑制効果が小さくなり、モルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向があるため好ましくない。
【0027】
本発明では、モルタル流動性を向上させるとともに、モルタル内部の保水性を高めて材料分離抵抗性を向上させ、また、モルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制するために一定割合の微粒分を含み、特定の粒度構成を有する細骨材を使用することが好ましい。
細骨材としては、一般的に細骨材として用いられる公知の珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナセメントクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。また、粒度構成が異なる2種類以上の細骨材を混合して、微粒分を好適な割合含む細骨材を調製して用いることができる。本発明で好適に用いることができる細骨材は、前記の粒度構成を満足していれば特にその調製方法は限定されるものではない。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0028】
細骨材は、好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒子を3〜20質量%、150μm以上〜300μm未満の粒子を50〜80質量%、300μm以上〜850μm未満の粒子を15〜40質量%含み、850μm以上の粗粒子を含まないもの、さらに好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒子を3.5〜15質量%、150μm以上〜300μm未満の粒子を52〜78質量%、300μm以上〜850μm未満の粒子を18〜38質量%含み、850μm以上の粗粒子を含まないもの、特に好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒子を4〜10質量%、150μm以上〜300μm未満の粒子を55〜75質量%、300μm以上〜850μm未満の粒子を20〜35質量%含み、850μm以上の粗粒子を含まないものが、モルタルの流動性、材料分離抵抗性、水浮き抑制の点から好ましく用いることができる。
特に、細骨材が、30μm以上〜150μm未満の微粒子を、3質量%より少なく含む場合には、モルタルの保水性が充分に得られず、充分な材料分離抵抗性を付与することが難しくなる。また、モルタルの硬化までの水浮きを抑制する効果が小さくなり、流動性の経時変化が大きくなることから好ましくない。
【0029】
また本発明で用いる細骨材は、粒径が850μm以上の粒子を含まないことにより、良好なモルタルの流動特性及び材料分離抵抗性が得られ、平滑で優れた表面仕上り性を安定して得られることから好ましい。
【0030】
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは210〜270質量部の範囲で用いることが好ましい。
前記範囲の微粒分を含む細骨材を、水硬性成分100質量部に対して前記の好ましい範囲で用いることによって、良好なこて塗り作業性が得られ、モルタル全体の材料分離抵抗性を好適な性状の保つことができる。
【0031】
また、本発明ではパーライトや発泡骨材などの軽量骨材を含まないことが好ましい。パーライトなどの軽量骨材を用いた場合、こて塗り作業性をより向上させることができることもある反面、水硬性モルタルの流動性の経時変化(フローロス)が大きくなる傾向があることから好ましくない。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末と、細骨材とを含み、さらに無機粉末、凝結調整剤(凝結遅延剤および/または凝結促進剤)、増粘剤及び消泡剤を含み、流動化剤を含まないものである。
さらに、本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末と、細骨材とを含み、さらに無機粉末、凝結調整剤(凝結遅延剤および/または凝結促進剤)、増粘剤及び消泡剤を含み、流動化剤を含まないものである。
【0033】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることや、低コストで長期強度を増進させることができる。
水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜100質量部とするのが好ましい。
【0034】
水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜100質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなることや長期強度が十分得られないことがあり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0035】
本発明の水硬性組成物では、流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いない。流動化剤は、モルタルの材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保しやすいことから用いられることが多いが、温度変化に対するこて塗り作業性の変化と、モルタルの可使時間の変動とが大きくなる傾向があることから、本発明では流動化剤を用いない。
【0036】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤、または、凝結遅延剤と凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、水硬性組成物としての使用が非常に容易になるため好ましい。
特に、本発明では、良好なハンドリング性を確保した上で、適度な速硬性を緩やかに発現させることができることから、凝結調整剤として凝結遅延剤のみを使用することがさらに好ましい。
【0037】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0038】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0039】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.0質量部であり、より好ましくは0.1〜1.8質量部、さらに好ましくは0.2〜1.5質量部、特に好ましくは0.25〜1.2質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0040】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができ、凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、例えば、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩を用いることが好ましい。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
上記リチウム塩に硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することが、更に凝結促進効果が発揮されることから、さらに好ましい。
特に、凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩と硫酸アルミニウムとを併用することでより高い凝結促進効果を得ることができる。
【0041】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0042】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.02〜0.7質量部、特に好ましくは0.02〜0.4質量部の範囲で用いることによって、水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性・速乾性が得られることから好ましい。
【0043】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0044】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0045】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜3.0質量部、さらに好ましくは0.005〜2.5質量部、より好ましくは0.01〜2.0質量部、特に0.02〜1.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1.3質量部、特に0.02〜1.0質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0046】
水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、特定の粒度構成を有する細骨材、無機成分、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、または、凝結遅延剤と凝結促進剤)を含むものである。
【0047】
本発明では、水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、細骨材、無機成分、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、または、凝結遅延剤と凝結促進剤)などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0048】
水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、水硬性モルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0049】
水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
本発明で用いる水硬性モルタルは、水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、
好ましくは0.08〜0.30の範囲、
さらに好ましくは0.10〜0.25の範囲、
より好ましくは、0.12〜0.20の範囲、
特に好ましくは0.14〜0.18の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0050】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルについて、JIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の0打フロー値が、
好ましくは90〜160mm、
さらに好ましくは105〜155mm、
特に好ましくは120〜140mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正なこて塗り作業性が得られ、平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0051】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した混練直後の水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、
好ましくは160〜210mm、
さらに好ましくは170〜200mm、
特に好ましくは180〜190mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正なこて塗り作業性が得られ、平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0052】
さらに、本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製したのち60分経過した水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、
好ましくは160〜210mm、
さらに好ましくは170〜200mm、
特に好ましくは180〜190mmに調整されていることが、長時間の可使時間を安定して有し、施工作業の許容度が高く、適正なこて塗り作業性が得られ、平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0053】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したセルフレベリング材のフロー試験で測定したフロー値が、
好ましくは60〜150mm、
さらに好ましくは65〜120mm、
特に好ましくは70〜100mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正なこて塗り作業性が得られ、ダレのないモルタル施工体を得られやすいという理由により好ましい。フロー値が、150mmを超えると、壁面に水硬性モルタルをこて塗り施工した場合に、モルタル施工体にダレを生じることがあることから好ましくない。
【0054】
水硬性モルタルの施工厚さは、コンクリート下地表面の凹凸状態などによって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、コンクリート表面の最も凸部分上面を基準にして、
好ましくは施工厚さ0.8mm〜40mmの範囲、
さらに好ましくは施工厚さ1mm〜30mmの範囲、
より好ましくは施工厚さ1.2mm〜15mmの範囲、
特に好ましくは施工厚さ1.5mm〜7mmの範囲でこて塗り施工することが好ましい。
特に本発明の水硬性組成物は、施工厚さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、最も好適な作業性を安定して得ることができる。
【0055】
本発明で用いる水硬性モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
水硬性モルタルの可使時間は、モルタル調製から
好ましくは60分間であり、
さらに好ましくは90分間であり、
特に好ましくは120分間である。
【0056】
水硬性モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後2時間〜3時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度は、モルタルを打設してモルタル表面をこて仕上げしてから、
好ましくは6時間後に20以上、
さらに好ましくは6時間後に25以上、
より好ましくは6時間後に28以上、
特に好ましくは4時間後に10以上のショア硬度を有し、
モルタル施工(打設・こて仕上げ)が終了した後、速やかに硬化が進行することによって本発明のモルタル硬化体層を有するコンクリート構造体を短期間に形成させることができる。
【0057】
水硬性モルタル硬化体の曲げ強さは、材齢1日のモルタル硬化体では、好ましくは2N/mm以上、さらに好ましくは2.5N/mm以上、特に好ましくは2.8N/mm以上の曲げ強さを発現し、材齢28日のモルタル硬化体では、好ましくは5N/mm以上、さらに好ましくは6N/mm以上、特に好ましくは7N/mm以上の曲げ強さを発現する。
また、水硬性モルタル硬化体の圧縮強さは、材齢1日のモルタル硬化体では、好ましくは8N/mm以上、さらに好ましくは9N/mm以上、特に好ましくは10N/mm以上の圧縮強さを発現し、材齢28日のモルタル硬化体では、好ましくは20N/mm以上、さらに好ましくは24N/mm以上、特に好ましくは28N/mm以上の圧縮強さを発現する。
【0058】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れた特性を有しており、速やかに良好な硬化状態と表面乾燥状態を得ることができ、次工程への移行が翌日〜3日後には可能となる。
【0059】
水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.05%、さらに好ましくは0〜−0.03%、特に好ましくは0〜−0.025%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.1%、さらに好ましくは0〜−0.08%、特に好ましくは0〜−0.06%の範囲であり、前記の長さ変化率の特性を有する水硬性組成物が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床との間で高い接着力を保持できることから好ましい。また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、モルタル硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあるため好ましくない。
【0060】
本発明の水硬性組成物と水と混合して調製した水硬性モルタルは、左官鏝などを用いて各種建築物の床面、壁面及び天井面などに塗付け施工することができる。
本発明の水硬性モルタル硬化体の上面には、各種タイルなどの仕上げ層を適宜選択して施工することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0062】
(特性の評価方法)
1)0打フロー値、15打フロー値(mm):
0打フロー値は、練り上がったモルタルについて、混練直後にJIS R 5201 セメントの物理試験方法のフロー試験に準じて行い、コーンを取り去った直後の落下運動無しのフロー値を測定した。
15打フロー値は、練り上がったモルタルについて、混練直後、混練30分後、混練60分後にJIS R 5201 セメントの物理試験方法のフロー試験に準じて測定した。
2)SLフロー値(mm):
練り上がったモルタルについて、JASS 15M−103に記載の方法に準拠して測定した。
3)こて塗り作業性 :
練り上がったモルタルをコテ板に取り、左官用コテを用いてコンクリート壁面に、5mm厚さに塗り付けた。
上記のこて塗り作業の過程で、コテ送り(重さ)、コテ伸び(塗り面積)について、こて塗り施工後のモルタルについては、モルタルのダレ性について、3つの指標、大変良好:3、良好(実用上問題なし):2、不良(実用上問題あり):1、として評価した。
4)硬化体表面のショア硬度:
水硬性モルタル打設後からの所定の経過時間において、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。
5)軟度変化:
水硬性モルタルを混練して調製した直後のフロー値(15打)をXとし、混練後所定時間を経過したのち測定したフロー値(15打)をYとし、軟度変化(%)=[(X−Y)/X]×100、として算出した。
6)曲げ強さ(N/mm)、圧縮強さ(N/mm):
試験体の大きさは、断面が40mm平方、長さが160mmの角柱の試験体(4×4×16cm)であり、JIS R 5201に準じて材齢1日、材齢7日、材齢28日の曲げ強さ及び圧縮強さを測定した。
5)長さ変化:
長さ変化の測定試験については、JIS A 1129−1のコンタクトゲージ法に準じて行った。
【0063】
(使用材料):水硬性組成物は、以下の材料を使用して調製した。
下記の原材料を表1又は表2に示す配合割合で混合した水硬性組成物を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメントA : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・ポルトランドセメントB : 普通セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積3320cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・樹脂成分A : アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末、ニチゴー・モビニール社製、DM7000P。
・樹脂成分B : エチレン/酢酸ビニル系共重合体、RE5044N、旭化成ケミカルズ社製。
・珪砂A : 6号珪砂、東海サンド社製。
・珪砂B : 7号珪砂、瓢屋社製。
・珪砂C : 5号珪砂、瓢屋社製。
[珪砂A、B、C及び珪砂Aと珪砂Bの混合砂(混合比率:珪砂A(質量部)/珪砂B(質量部)=95/5の割合で混合]の粒度分布を表4に示す。
・寒水石 : 日立寒水石社製。
・パーライトA : 特1型、宇部興産社製。
・パーライトB : TM3、東邦パーライト社製。
・合成樹脂骨材A: エチレン酢酸ビニル系共重合体(EVAチップ)、粒径2mm以下、金義社製。
・合成樹脂骨材B: ポリプロピレン砕(PPチップ)、粒径2mm以下、本間加工所(積水化成)社製。
・高炉スラグ微粉末 : リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・凝結遅延剤A : L−酒石酸ニナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結遅延剤B : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・凝結遅延剤C : コンケムA1、コンケム社製。
・凝結促進剤A : 炭酸リチウム、本荘ケミカル社製。
・凝結促進剤B : 硫酸アルミニウム、大明化学工業社製。
・増粘剤A : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂社製。
・増粘剤B : メチルヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、チローゼMH6002P4、ニチゴー・モビニール社製。
・消泡剤 : ポリエーテル系消泡剤、77P、サンノプコ社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・膨張材 : 太平洋ジプカル、太平洋セメント社製。
【0064】
(水硬性組成物のモルタル調製)
表1及び表2に示す配合割合で水硬性組成物を調製し、水硬性組成物100質量部に対して所定量の水を配合し、回転数1100rpmのハンドミキサーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
【0065】
[実施例1〜3、比較例1、参考例1〜2]
表1及び表2に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製した。モルタルの流動性等の性状、こて塗り作業性、硬化特性を評価した結果を表3に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
(1)微粒分を適正量含まない細骨材を用いた比較例1の場合、水硬性モルタルを調製した直後及び調製後30分までは、実施例1〜3と同様にフローロス(流動性の低下)は見られなかったが、モルタル調製から60分経過時点では大きなフローロス(流動性の低下)を示した。また、軟度変化においてもモルタル調製から60分経過時点では比較的大きな軟度変化を示した。
(2)参考例1は、ショア硬度の発現性は良好であるが、水硬性モルタルが自己流動性を有しているため、こて作業でモルタル施工するには流動性が高すぎ、壁面へのこて塗り作業性は極めて不良であった。
(3)参考例2は、アルミナセメントを含まない水硬性成分を用いており、モルタル流動性、こて塗り作業性及び材齢28日(長期)の強度発現性状は良好であったが、こて塗り施工後、初期(数時間後〜材齢1日)のショア硬度発現性が小さく、モルタル硬化体の長さ変化についても−0.13%であり、−0.1%以上の大きな値を示した。
(4)実施例1〜3は、混練直後に良好な流動性が得られるのみならず、水硬性モルタルを調製してから60分経過した時点においても、フローロス(流動性の低下)が僅かで、流動性の保持状態は良好であった。さらに、こて塗り作業性は良好であり、こて塗り施工後4時間でショア硬度が10以上の値が得られ、材齢1日で曲げ強さが2.5N/mm以上、圧縮強さが10N/mm以上を示した。また、硬化体の寸法変化においても、材齢7日の場合には0〜−0.02の範囲、材齢28日の場合には0〜−0.05の範囲で、非常に小さい寸法変化率を示した。特に、実施例3の場合、こて塗り施工後、3時間経過時点から6時間経過時点まで、緩やかにショア硬度が高まっており、モルタル表面の整形・軽微な補修が必要な場合にも良好な作業性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、60〜150mmであることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
細骨材は、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒子を3〜20質量%、150μm以上〜300μm未満の粒子を50〜80質量%、300μm以上〜850μm未満の粒子を15〜40質量%含み、850μm以上の粗粒子を含まないことを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
樹脂成分は、再乳化形樹脂粉末であり、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
水硬性組成物は、軽量骨材を含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物は、さらに無機粉末、凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち6時間後に20以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で0〜−0.1%の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体は、材齢1日の曲げ強度が2N/mm以上であり、材齢1日の圧縮強度が8N/mm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルは、鏝を用いて壁面に鏝塗り施工されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物を用いたモルタル硬化体層を表層に有するコンクリート壁構造体。

【公開番号】特開2009−215136(P2009−215136A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62708(P2008−62708)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】