説明

水稲の粒形状および葉形状に関連するタンパク質、これのコーディング遺伝子ならびに使用

本発明は、水稲の粒の形状および葉の形状に関連するタンパク質OsXCL、その誘導化タンパク質ならびにこれらのコーディング遺伝子を提供する。OsXCLを過剰に発現する形質転換水稲は、粒の長さ、粒の重さ及び1つの穂当たりの粒の数の増加、ならびに巻葉(leaf rolling)などとしての表現型を提示する。本発明はまた、OsXCLまたはその誘導化タンパク質のコーディング遺伝子を所望の植物に形質転換することによって形質転換植物を得る方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に水稲の粒長さ、粒重量、1穂当たりの粒数および巻葉(rolled leaf)に関連するタンパク質、これのコーディング遺伝子およびこれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の説明
コメは、ヒトの生活が依存し、世界の人口の半分近くの主食を提供する主要な穀類作物のひとつである。中国では、コメは、生産量ですべての穀類作物のうち一位を占め、中国での居住者の穀物の配給消費量の60%を占める;農業従事者の半分近くがコメの生産に従事している。したがって、コメは、中国の食用作物を主導している。世界人口がますます成長し(コメを消費する国の人口成長率が世界人口の平均成長率より早く)、工業化や都市化が迅速に発展し、さらに自然災害による損害が多くなるなどにつれて、水田が減少傾向にあり、世界的なコメの供給及び需要の間で切迫した葛藤が生じている。安定したコメの供給を確保できるようにどのようにしてより少ない水田でより多くの食物が生産できるのか?これは、我々が直面し解決しなければならない緊急の課題である。しかしながら、大規模生産でのコメの生産高は、たいてい非常に低い。1999年に国連の食糧農業機関(FAO)によって行われた調査によると、1単位面積当たりの世界の平均のコメの出来高はたったの3.8t・ha−1(中国では6.3t・ha−1)でしかない。この目的のために、中国は、高収量品種の生産力を発達させ、これによりコメの出来高を実質的に向上するために、ここ30年、超高い出来高のための水稲の育種プロジェクト(超水稲育種プロジェクト)を進めてきている。粒重量及び1穂当たりの粒数は穀物の生産高に影響を与える重要な因子であり、粒の大きさ、粒の重量または1穂当たりの粒の数を増加させることはコメの出来高を増加させる有効なアプローチである。さらに、粒の長さは重要な形態学的特徴であり、コメの品質を決定する。生物学者や農学者にとって、コメの生産量及び品質双方を向上することは最も追求する価値のある目標である。
【発明の概要】
【0003】
発明の開示
本発明の目的は、下記1)または2):
1)配列表の配列番号:2に記載されるアミノ酸配列から構成される、タンパク質;
2)配列表の配列番号:2に記載されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸を置換および/または欠失および/または付加することにより1)から誘導化され、かつ植物の粒の長さ、粒の重量、1穂当たりの粒数および葉の形状に関連する、タンパク質
である、OsXCLと称される、水稲由来のタンパク質を提供することである。
【0004】
配列番号:2は、255個のアミノ酸を有するOsXCLのアミノ酸配列であり、この際、72個の疎水性アミノ酸(プロリンを含む)、183個の親水性アミノ酸、34個の酸性アミノ酸及び38個の塩基性アミノ酸が存在する。このタンパク質は、26.73kDaの分子量及び9.8の等電点を有する。これは、今まで報告されていない新規なタンパク質である。
【0005】
表1に記載のタグは、1)のOsXCLの簡便な精製を目的として、配列表の配列番号:2に記載されるアミノ酸配列から構成されるタンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端に連結されてもよい。
【0006】
【表1】

【0007】
上記2)におけるOsXCLは、人工的に合成することによって得られても、あるいは生物学的に発現させる前にそのコーディング遺伝子を合成することによって得られてもよい。上記2)のOsXCLのコーディング遺伝子は、配列表の配列番号:1の5’末端から出発する106〜870番目の位置の塩基について、1以上のアミノ酸残基のコドンを欠失させる、および/または1以上の塩基対をミスセンス変異を行う、および/または5’末端および/または3’末端で表1に記載されるようなタグのコーディング配列を連結することによって得られてもよい。
【0008】
OsXCLと称される、上記タンパク質のコーディング遺伝子はまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0009】
上記コーディング遺伝子は、下記1)または2)または3)または4)の遺伝子:
1)配列表の配列番号:1の5’末端から106〜870番目の位置に記載されるコーディング配列を有する、遺伝子;
2)配列表の配列番号:1の5’末端から50〜873番目の位置に記載されるコーディング配列を有する、遺伝子;
3)高ストリンジェントな条件で1)または2)で規定される遺伝子とハイブリダイズし、かつ当該タンパク質をコード化する、遺伝子;
4)1)または2)で規定される遺伝子と80%以上の相同性を有し、かつ当該タンパク質をコード化する、遺伝子
である。
【0010】
配列番号:1は、5’側の非翻訳領域が105塩基からなり、3’側の非翻訳領域が192塩基からなり、コーディング領域が765塩基(106〜870番目の位置)からなり、配列表の配列番号:2のアミノ酸配列を有するOsXCLタンパク質をコード化する、1062塩基から構成されるOsXCLコード化全長cDNAである。コーディング領域では、Aは15.16%(116)を占め、Cは40.65%(311)を占め、Gは32.29%(247)を占め、Tは11.9%(91)を占め、A+Tは27.06%(207)を占め、また、C+Gは72.94%(558)を占める。
【0011】
上記高ストリンジェントな条件は、65℃で30分間プレハイブリダイゼーションするためにプレハイブリダイゼーション溶液(0.25モル/L リン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.2、7% SDS)中にハイブリッドフィルムを置き;プレハイブリダイゼーション溶液を除き、65℃で12時間、ハイブリダイゼーションするためにハイブリダイゼーション溶液(0.25モル/L リン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.2、7% SDS、同位体標識されたヌクレオチドフラグメント)を加え;ハイブリダイゼーション溶液を除き、膜洗浄溶液I(20ミリモル/L リン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.2、5% SDS)を加え、膜を65℃で2回洗浄し、それぞれ30分間継続し;膜洗浄溶液II(20ミリモル/L リン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.2、1% SDS)を加え、膜を65℃で30分間洗浄する。
【0012】
上記OsXCL遺伝子またはこのフラグメントの全長を増幅するのに使用されるプライマー対もまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0013】
上記遺伝子を含む形質転換細胞系もまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0014】
上記遺伝子を含む組換株もまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0015】
上記遺伝子を含む組換ベクターもまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0016】
OsXCL遺伝子を含む組換発現ベクターは、公知の植物の発現ベクターを用いて構築されうる。植物の発現ベクターとしては、Agrobacteriumベクター及び植物の微粒子銃(microprojectile bombardment)に使用されるベクターなど、例えば、pCAMBIA3301、pCAMBIA1300、pBI121、pBin19、pCAMBIA2301、pCAMBIA1301−UbiN、pBY505または他の誘導化された植物の発現ベクターが挙げられる。OsXCL遺伝子を有する組換発現ベクターを構築する際には、単独であるいはカリフラワー・モザイク・ウイルス(cauliflower mosaic virus)(CAMV)35Sプロモーター、ユビキチン遺伝子プロモーター(ubiquitin gene promoter)(pUbi)、アクチンプロモーター(Actin promoter)等の、他の植物プロモーターと組み合わせて使用してもよい、エンハンスメントプロモーター(enhancement promote)、構成プロモーター(constitutive promoter)、組織特異的プロモーター(tissue specific promoter)または誘導性プロモーター(inducible promoter)を、転写開始ヌクレオチドの前に付加してもよい。
【0017】
加えて、本発明の遺伝子を用いて植物の発現ベクターを構築する際には、翻訳エンハンサーまたは転写エンハンサー等のエンハンサーをまた使用してもよい。これらのエンハンサー領域は、ATG開始コドンまたは隣接する領域の開始コドンであってもよく、これは全配列の正確な翻訳を保証するためにコーディング配列のリーディングフレームと一致する必要がある。翻訳調節シグナルや開始コドンの源が豊富に存在し、この際、これらは天然のものであってもあるいは合成されたものであってもよい。翻訳開始領域は、転写開始領域または構造遺伝子由来であってもよい。
【0018】
使用される植物の発現ベクターは、形質転換植物細胞または植物の公知の同定及びスクリーニングを目的として、植物中で発現して、色の変化する酵素または発光化合物(GUS遺伝子、GFP遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等)、耐性を有する抗生物質マーカー(ゲンタシンマーカー、カナマイシンマーカー等)または抗化学試薬に対するマーカー遺伝子(例えば、抗除草剤遺伝子)等を生産する遺伝子を導入することによって、プロセッシングを受けて(processed)もよい。
【0019】
特に、上記組換ベクターは、発現ベクター163−1300の複数のクローニング部位に上記遺伝子を挿入することによって得られる組換ベクターであってもよく;
この際、この発現ベクター163−1300の構築方法は、pJIT163をKpnI及びXhoIで酵素的に切断することによって製造されるDouble 35Sプロモーターを、pCAMBIA1300をKpnI及びSalIで酵素的に切断することによって製造されるラージフラグメントと連結して、組換発現ベクターを得るものである。
【0020】
本発明の他の目的は、粒の重量が増加した形質転換植物の育種(breeding)方法を提供することである。本発明によって提供される粒の重量が増した形質転換植物の育種(breeding)方法は、上記遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、ターゲットとなる植物の粒重量より重い粒重量を有する形質転換植物を得ることである。
【0021】
本発明の他の目的は、粒長さが増加した形質転換植物の育種(breeding)方法を提供することである。本発明によって提供される粒長さが増加した形質転換植物の育種(breeding)方法は、上記遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、ターゲットとなる植物の粒長さより長い粒長さを有する形質転換植物を得ることである。
【0022】
本発明の他の目的は、1穂当たりの粒数が増加した形質転換植物の育種(breeding)方法を提供することである。本発明によって提供される1穂当たりの粒数が増加した形質転換植物の育種(breeding)方法は、上記遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、ターゲットとなる植物の1穂当たりの粒数より多い1穂当たりの粒数を有する形質転換植物を得ることである。
【0023】
本発明の他の目的は、巻葉(rolled leaf)を有する形質転換植物の育種(breeding)方法を提供することである。本発明によって提供される巻葉を有する形質転換植物の育種(breeding)方法は、上記遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、巻葉を有する形質転換植物を得ることである。
【0024】
上記遺伝子は、上記組換ベクターを介してターゲットとなる植物に導入される。本発明のOsXCL遺伝子を有する植物の発現ベクターは、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウィルスベクター、遺伝子銃(gene gun)、花粉管経路(pollen tube pathway)、マイクロインジェクション(microinjection)、電気的形質転換(electrical transformation)、Agrobacterium法(Agrobacterium mediation)等の、公知の生物学的な方法によって植物細胞または組織に形質転換されうる。
【0025】
上記植物は、双子葉植物または単子葉植物であってもよく;前記単子葉植物は、好ましくは水稲であり、双子葉植物は、好ましくはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、PCRによって増幅されたOsXCL cDNAのアガロースゲル電気泳動の結果を示すものであり、この際、レーン1は、DNAマーカーであり;レーン2及び3は、OsXCL cDNAである。
【図2】図2は、OsXCLをTベクターに連結した後のHindIII及びEcoRIで酵素的に切断したものの確認図であり、この際、レーン1は、DNAマーカーであり;レーン2〜5は、OsXCL cDNAのクローニングベクターのEcoRI及びHindIIIのダブルで酵素的に切断した結果である。
【図3】図3は、OsXCL cDNAをTベクターに連結した後のBamHIで酵素的に切断したものの確認図であり;P1、P2、P3及びP4は、BamHIで酵素的に切断する前のOsXCL cDNAプラスミドのバンドであり;1、2、3及び4は、BamHIで酵素的に切断した後のOsXCL cDNAプラスミドのバンドであり、Mは、DNAマーカーである。
【図4】図4は、pJIT163のマップである。
【図5】図5は、pCAMBIA1300のマップである。
【図6】図6は、OsXCLを含むpMD18−Tベクターのマップの一部である。
【図7】図7は、OsXCLを発現ベクターに連結した後のEcoRIで酵素的に切断したものの確認図であり;レーン1〜5は、EcoRIで酵素的に切断したOsXCL発現ベクターの酵素的切断結果である。
【図8】図8は、OsXCLを発現ベクターに連結した後のHindIIIで酵素的に切断したものの確認図であり;レーン1〜5は、HindIIIで酵素的に切断したOsXCL発現ベクターである。
【図9】図9は、Agrobacteriumから単離されたプラスミドでそれぞれ行われたEcoRI及びHindIIIで1つの酵素による切断したものの確認図であり;レーン1は、DNAマーカーであり;レーン2は、EcoRIによる酵素切断後のOsXCL発現ベクタープラスミドの結果であり;レーン3は、HindIIIによる酵素切断後のOsXCL発現ベクタープラスミドの結果である。
【図10】図10は、ハイグロマイシン耐性遺伝子に従って設計されたプライマーを用いて行われたPCRの確認図である。この際、Mは、DNAマーカーであり;レーン1〜9及び12〜21は、OsXCL形質転換水稲植物のゲノムDNAを鋳型として用いて行われたハイグロマイシン耐性遺伝子のPCR結果であり;レーン10及び22は、発現ベクタープラスミドを鋳型として用いて増幅したハイグロマイシン耐性遺伝子であり、ポジティブコントロールとして使用し;レーン11及び23は、鋳型を用いない(水)のネガティブコントロールである。
【図11】図11は、OsXCL遺伝子を用いて形質転換されたT0 93−11植物で行われた定量リアルタイムPCR(quantitative real-time PCR)の相対的な発現分析である。S1は、非形質転換コントロール水稲であり;S2は、OsXCL遺伝子を持たない空のベクターを有するコントロール水稲であり;S3〜S25は、OsXCL遺伝子を用いて形質転換されたT0 93−11水稲植物である。
【図12】図12は、OsXCL形質転換水稲の粒及びコントロールの粒の写真である。
【図13】図13は、葉が巻いている(leaves rolled up)OsXCLで形質転換されたT0世代の水稲及び後にカールした刀のように細長く先の尖った葉脚(flag leaf base)を有するT2世代の水稲の写真である。
【図14】図14は、OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換9311水稲のT2世代の1穂当たりの粒数が増加したことを示す写真である。
【図15】図15は、OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換9311水稲の粒の成長を示すグラフである。
【図16】図16は、長角果(siliques)及び巻葉(leaves curled)を劇的に増加したOsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明を実施するための最良の形態
本発明を、下記特定の実施例を参照しながらさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0028】
特記しない限り、下記実施例の方法はそれぞれ公知の方法である。
【0029】
実施例1:長い、大きい及び複数の粒ならびに巻葉(rolled leaf)を有する形質転換水稲の育種(breeding)
I.組換発現ベクターの構築
1.OsXCL遺伝子のクローニング
5’末端にそれぞれNcoI及びBamHI酵素切断部位が付加されるプライマー対を人工的に合成した。上記上流プライマー及び下流プライマーは下記のとおりである:
【0030】
【化1】

【0031】
水稲Pei’ai 64S(Chinese National Center for Rice Hybridization and Breeding, Changsha, China)から抽出した、RNAを、逆転写してcDNAの第1の鎖を得た。
【0032】
PCRを行い、上記上流プライマー及び下流プライマーをプライマーとしておよび水稲Pei’ai 64SのcDNAを鋳型として用いて、配列番号:1に記載されるcDNAを増幅した。このPCRプログラムでは、105℃の加熱蓋の下で94℃で5分間予備変性を開始した後、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニール、72℃で1分20秒間の伸長(extension)を32サイクル行い、最後に72℃で10分間の最終伸長(extension)を行い、温度は22℃に維持した。
【0033】
PCRシステムは、下記のとおりである:
【0034】
【化2】

【0035】
アガロースゲル電気泳動を、TEA電気泳動緩衝液を用いて行い、得られた約800bpのフラグメント(図1)をOsXCLと称した。
【0036】
上記OsXCLのバンドを、TIANGENのキットを用いて、gel slug-press recoveryの方法によって回収した。回収したフラグメントをpMD18−Tベクター(TA Cloning, Jinan TaiTianHe Biotechnology Limited Company)に連結し、この際の連結システムは、下記のとおりである:
【0037】
【化3】

【0038】
ライゲーションを2時間行い、大腸菌(E.coli) DH5αのコンピテント細胞に形質転換し、プレートにスプレッドし、アンピシリンでスクリーニングした。単一のクローン(monoclone)を選択し、これからプラスミドを単離し、HindIII及びEcoRIの2つの酵素で切断することによって同定した。酵素の切断物から、図2に示されるように、約800bpのOsXCLのバンドの存在が示された。
【0039】
プラスミドをBamHIで消化して、ターゲットとなるフラグメントOsXCLがTベクターに連結する方向を確認し、その結果では、図3に示されるように、BamHI部位が下流プライマーに付加されたので、Tベクターに逆に挿入されることにより約840bpのバンドが生じた;図3において、P1、P2、P3及びP4は未切断のプラスミドを表わし、そのバンドの大きさは右側ではマーカーに1kbたしたもので示され、さらに、1、2、3及び4は切断後の結果を表わし、そのバンドの大きさは左側ではマーカーに1kbたしたもので示される。結果を比較することにより、プラスミド4以外の、プラスミド1、2及び3はそれぞれオープンになるように切断され(cut open)、ターゲットとなるフラグメントが順方向に連結された(即ち、それぞれが約800bpである)。プラスミド1、2及び3に相当する細菌溶液の配列を決定し、その配列の結果から、ターゲットとなるフラグメントOsXCLは配列番号:1の5’末端から50〜873番目の位置の配列を有し、OsXCL遺伝子のORF(オープンリーディングフレーム)は配列番号:1の5’末端から106〜870番目の位置に示される配列と完全に一致した配列を有することが示唆された。
【0040】
2.組換発現ベクターの構築
1)発現ベクター163−1300の構築
図4に示されるpJIT163(pGreen, http://www.pgreen.ac.uk/)を、KpnI及びXhoIで酵素的に切断し、酵素による切断物の結果を、ダブル35Sプロモーター(Double 35S promoter)を含むDNAバンドを回収する前に、アガロースゲル電気泳動により同定した。図5に示されるように、pCAMBIA1300(CambiaLabs, http://www.cambia.org/daisy/bioforge_ legacy/3725.html)を、KpnI及びSalIで酵素的に切断し、ラージフラグメントを回収した。XhoI及びSalIは、イソカウダマー(isocaudarner)である。これら2つの回収フラグメントをT4リガーゼで一晩ライゲートし、163−1300コンプレックスベクター(complex vector)を構築した。
【0041】
2)組換発現ベクターの構築
図6に示される、OsXCLを含むTベクターを、酵素NcoI及びBamHIで切断した(BamHIは、設計されたプライマーによる872番目の位置に導入される酵素切断部位または887番目のTベクターの酵素切断部位に作用し、回収されたフラグメントはそれぞれOsXCL ORFの終始コドンを含む)。また、発現ベクター163−1300をこれら2つの酵素で切断し、回収した後、連結し、即ち、遺伝子OsXCLを発現ベクター163−1300に連結して、OsXCL−163−1300と称される、組換発現ベクターを構築し、これを、それぞれ、HindIII及びEcoRIの1種の酵素で切断することによって確認した。図7及び8に示されるように(1、2、3、4及び5は、それぞれ、酵素切断後のOsXCL発現ベクターのバンドを表す)、結果から、1、3、4及び5は、それぞれ、OsXCLを含む約1600bpの正しいターゲットとしたバンドを有することが示される。
【0042】
II.粒が長く、巻葉を有する形質転換水稲の育種および検出
1.粒が長く、大きくかつ複数ありかつ巻葉を有する形質転換水稲を得る
ステップI.2の組換発現ベクターを用いて、Agrobacteriumの形質転換のための凍結融解法を用いてAgrobacterium EHA105(Tiangen Biotech (Beijing) Co., Ltd.で市販)に形質転換した。Agrobacteriumから単離したプラスミドについて、それぞれ、EcoRI及びHindIIIの1種の酵素切断により確認した(図9)。この際、Agrobacteriumの形質転換のための凍結融解法のステップは下記のとおりである:
凍結融解法のステップは下記のとおりである:−70℃で貯蔵されたAgrobacterium EHA105のコンピテント細胞を取り出し、氷浴において、融解し;10〜20μlのpCAMBIA1300-2×CaMV35S-OsMsr1 -CaMV35S-Term plasmid DNA(約1〜2μg)を、滅菌したガンチップ(gun tip)で撹拌しながら、Agrobacteriumの融解したコンピテント細胞 200mlに添加し、数分間放置し;この混合物を液体窒素中に1分間、さらに37℃の水浴に5分間、入れた後、700〜800μlのLB液体培地を添加し、さらに28℃で4時間、200rpmで振盪し;1000gで30秒間遠心して、上清の一部を捨てて、100〜150μlを残し、これをガンチップと共に吸入・排出(inhalation and ejection)して再懸濁し、50mg/L カナマイシン、50mg/L リファンピシン及び34mg/L クロロマイシンを含むLBプレートにスプレッドし;次に、このプレートをひっくり返して(invertly)置き、28℃で2日間培養した。
【0043】
上記で確認された組換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いて、感染法により、ライス93−11(rice 93-11)(Chinese National Center for Rice Hybridization and Breeding, Changsha, China)のカルス組織に感染させた。次に、感染カルスを、ハイグロマイシン(50mg/L)を含む選択培地で生育させて、ハイグロマイシン耐性再生植物体を得た。
【0044】
ゲノムDNAを、ハイグロマイシン耐性再生植物体の葉から抽出し、ハイグロマイシン耐性遺伝子に基づいて設計された下記プライマーを用いてPCR確認用鋳型として使用した:
【0045】
【化4】

【0046】
確認結果を図10に示すが、ターゲットとなるバンドが、1、2、3、4、5、6、12、13、15、16、18及び20の計12植物系で得られた、すなわち、形質転換植物のT0世代で計12の陽性植物が存在した(OsXCLと接近して連結したハイグロマイシン遺伝子は水稲のゲノムに既に組み込まれていた)。
【0047】
2.検出分析
上記OsXCL形質転換水稲を栽培を目的として温室に移し、袋に入れ、自家交配して、形質転換水稲の種を集めた。
【0048】
一方、OsXCL遺伝子を持たない発現ベクター163−1300の形質転換水稲を空のベクターコントロールとして使用した;また、非形質転換水稲をコントロールとして使用した。
【0049】
1)定量PCR検出
定量PCR検出を、OsXCL遺伝子のDNA配列プライマー108−F及び108−Rを用いてOsXCL形質転換水稲及び非形質転換水稲で行った;結果を図11に示し、OsXCLは、非形質転換水稲93−11では発現レベルが比較的低く、OsXCL形質転換水稲では発現レベルが劇的に向上した。
【0050】
ここで、RT−PCR用のプライマーは下記のとおりであった:
【0051】
【化5】

【0052】
【表2】

【0053】
【化6】

【0054】
2)表現型の観察および統計データ
A.OsXCL遺伝子の形質転換水稲93−11、空のベクターコントロール及び非形質転換水稲93−11のT0世代の種を秤量し、100粒の重量(hundred-grain-weight)及び粒の長さを測定し、T0植物を観察し、巻葉を有する植物の数を数えた。
【0055】
この試験を3回繰り返し、結果を図12及び表2に示す。非形質転換水稲93−11及び空のベクターコントロールと比較すると、OsXCL形質転換水稲では、100粒の重量及び粒の長さが有意に増加した。野生型の水稲と比較すると、OsXCL形質転換水稲の100粒の重量は、新鮮な重量では25.1%及び乾燥重量では23%ほど増加し、粒の長さは、1/4ほど増加し、チョークのような粒の割合は減少した(コメの質が向上した)。
【0056】
【表3】

【0057】
非形質転換水稲及び空のベクターコントロールに比べて、OSXCL形質転換水稲T0世代の植物は、若干幅広の歯及び刀のように細長く先の尖った巻葉(rolled flag leaf)を有する(図13)。巻葉を有する植物は、OSXCL形質転換水稲植物の最大90%を占める。巻きは葉脚(leaf base)から開始し、後期の発達段階では、葉の上部にまで拡張する。
【0058】
B.OsXCL遺伝子を過剰に発現するT植物系およびpCAMBIA1300-163空のベクターで形質転換したコントロール植物系の1穂当たりの粒数を数え、巻葉を有するT植物の数を観察した。
【0059】
この試験を3回繰り返した。図14及び表3に、1穂当たりの粒数を示す。空のベクターコントロールと比較すると、OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換93−11水稲では、1穂当たりの粒数が有意に増加した。
【0060】
【表4】

【0061】
図13は、巻葉(leaf curls)の結果を示す。OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換9311水稲の刀のように細長く先の尖った葉脚(flag leaf base)は、後期にカールした。
【0062】
C.30粒を、それぞれ、OsXCL遺伝子を過剰に発現するT植物系およびpCAMBIA1300-163空のベクターを形質転換したコントロール植物系から選択し、粒の長さを測定した。
【0063】
この試験を3回繰り返し、結果を図15に示す。空のベクターコントロール植物系では、平均の粒の長さが8.62mmであり;OsXCL遺伝子を過剰に発現する植物系では、粒の長さが11.38mmであり、空のベクターコントロール植物系の種より24.30%長かった。
【0064】
したがって、すべてのOsXCL遺伝子を過剰に発現する植物系は、T0世代からT3世代まで粒の長さ及び粒の重量が増加した表現型を発揮する。
【0065】
実施例2:形質転換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の育種
組換発現ベクター OsXCL−163−1300を、実施例1に記載の方法に従って得た後、Agrobacteriumによるfloral−dip methodによって、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Col−0、Arabidopsis Biological Resource Center, ABRCから市販)のゲノムに組み込んだ;ハイグロマイシン(50mg/L)を含むMS培地でスクリーニングを行い、T2世代の種について、ハイグロマイシンを含むMSで連続してスクリーニングし、分離比が3:1である植物系をT3世代での連続スクリーニングのために選び;T3世代の種の100%がハイグロマイシンを含むMSで生育したら、その植物系を同型接合系(homozygous line)と見なし、OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を得た。
【0066】
一方、OsXCL遺伝子を持たない発現ベクター163−1300で形質転換したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を、空のベクターコントロールとして使用した。
【0067】
OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及び空のベクターコントロールのT3世代を育種し、長角果の数及び巻葉(leaf curl)を計測した。結果を図16に示すが、OsXCL遺伝子を過剰に発現する形質転換シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、長角果及び巻葉(leaf curl)が劇的に増加した。
【0068】
産業上の用途
本発明によって育種されたOsXCL形質転換水稲は、野生型のコントロールに比して、100粒の重量が最大4.224g増加し、粒の重量が25.1%増加し、粒の長さが1/4増加し、さらに1穂当たりの粒数が11%増加する。OsXCLは水稲で過剰発現して、水稲で巻葉を生じさせ、コメの長さ及び1000粒の重量(thousand-grain-weight)を有意に増加させ、さらにコメの品質及び1穂当たりの粒数を向上させる。OsXCLの適用によって、生産が増加するのみではなく、コメの品質が向上する;さらに、水稲の成長や発達には何ら否定的な影響がない。したがって、この遺伝子は、バイオテクノロジー及び遺伝子操作によって、コメ等の穀物の改良にとってかなり理想的な遺伝子であり、水稲や他の穀物の安全な生産に積極的な役割を果たすであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1)または2):
1)配列表の配列番号:2に記載されるアミノ酸配列から構成される、タンパク質;
2)配列表の配列番号:2に記載されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸を置換および/または欠失および/または付加することにより1)から誘導化され、かつ植物の粒の形状および葉の形状に関連する、タンパク質
である、タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコード化する遺伝子。
【請求項3】
下記1)または2)または3)または4)の遺伝子である、請求項2に記載の遺伝子:
1)配列表の配列番号:1の5’末端から106〜870番目の位置に記載されるコーディング配列を有する、遺伝子;
2)配列表の配列番号:1の5’末端から50〜873番目の位置に記載されるコーディング配列を有する、遺伝子;
3)高ストリンジェントな条件で1)または2)で規定される遺伝子とハイブリダイズし、かつ請求項1に記載のタンパク質をコード化する、遺伝子;
4)1)または2)で規定される遺伝子と80%以上の相同性を有し、かつ請求項1に記載のタンパク質をコード化する、遺伝子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の遺伝子を有する形質転換細胞系または組換株。
【請求項5】
請求項2または3に記載の遺伝子を有する組換ベクター。
【請求項6】
前記組換ベクターは、請求項2または3に記載の遺伝子を発現ベクター163−1300の多重クローニング部位中に挿入することによって得られる組換ベクターであり;
発現ベクター163−1300の構築方法が、pJIT163をKpnI及びXhoIで酵素的に切断することによって製造されるダブル35Sプロモーター(Double 35S promoter)を含むDNAバンドを、pCAMBIA1300をKpnI及びSalIで酵素的に切断することによって製造されるラージフラグメントと連結して、組換発現ベクターを得るものである、請求項5に記載の組換ベクター。
【請求項7】
請求項2または3に記載の遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、前記ターゲットとなる植物の粒重量より大きい粒重量を有する形質転換植物を得ることを有する、粒重量が増加した形質転換植物の育種(breeding)方法。
【請求項8】
請求項2または3に記載の遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、前記ターゲットとなる植物の粒長さより長い粒長さを有する形質転換植物を得ることを有する、粒長さが増加した形質転換植物の育種(breeding)方法。
【請求項9】
請求項2または3に記載の遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、前記ターゲットとなる植物の1穂当たりの粒数より多い1穂当たりの粒数を有する形質転換植物を得ることを有する、1穂当たりの粒数が増加した形質転換植物の育種(breeding)方法。
【請求項10】
請求項2または3に記載の遺伝子をターゲットとなる植物に導入して、巻葉(rolled leaf)を有する形質転換植物を得ることを有する、巻葉を有する形質転換植物の育種(breeding)方法。
【請求項11】
請求項2または3に記載の遺伝子を、請求項5または6に記載の組換ベクターを用いてターゲットとなる植物に導入する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記植物が、双子葉植物または単子葉植物であり;前記植物が好ましくは水稲またはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−502230(P2013−502230A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525852(P2012−525852)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/CN2010/001015
【国際公開番号】WO2011/022930
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512043728)中国科学院亜熱帯農業生態研究所 (1)
【Fターム(参考)】