説明

水系における亜鉛の析出防止剤、及び、亜鉛の析出防止方法

【課題】冷却水系や冷温水系等の、比較的低温で水の滞留時間が長い水系であっても、亜鉛のスケール化、及び、亜鉛のスラッジ化を効果的に防止する水系における亜鉛の析出防止剤、及び、亜鉛の析出防止方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体、及び/または、その塩を有効成分とすることを特徴とする水系における亜鉛の析出防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放循環冷却水系や蓄熱冷温水系等、比較的低温(50℃以下)で水の滞留時間が長い水系における、亜鉛のスケール化、及び、亜鉛のスラッジ化を効果的に防止する水系における亜鉛の析出防止剤、及び、亜鉛の析出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種水系水には、鉄系金属の防食剤として亜鉛を含む薬剤が添加されることがある。また、防食剤として亜鉛を含む薬剤が添加されていない水系であっても、腐食抑制のために水系内で使用されている亜鉛めっき鋼管(白ガス管)等から溶出し、水系内に亜鉛成分が蓄積される。
【0003】
こうした水系水中の亜鉛成分は、珪酸亜鉛等として熱交換器にスケールとして付着し、熱交換効率を悪化させる原因になる。
【0004】
ここで、このような問題を防止する亜鉛スケールの防止剤として、特公62−27879号公報(特許文献1)、特開2007−38120公報(特許文献2)等で、種々の提案がされている。
【0005】
しかしながら、冷却水系や冷温水系では、こうした亜鉛スケールの問題だけではなく、亜鉛のスラッジ化が問題になることがある。このような水系では、比較的低温(50℃以下)で水の滞留時間が長いために亜鉛成分は水酸化亜鉛等の亜船スラッジとして系内に沈積し、沈積層の下部で例えば鉄材や銅材などからなる配管材料や熱交換器に腐食を発生させる等の問題を生じる。
【0006】
上述のような亜鉛スケールの防止に有効な薬剤では、このような亜船成分を長期間、水溶性またはコロイド状に保って、スラッジ化を防止する効果が充分ではなかった。
【特許文献1】特公62−27879号公報
【特許文献2】特開2007−38120公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、冷却水系や冷温水系等、比較的低温(50℃以下)で水の滞留時間が長い水系であっても、亜鉛のスケール化、及び、亜鉛のスラッジ化を効果的に防止する水系における亜鉛の析出防止剤、及び、亜鉛の析出防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討を行った結果、カルシウム等のスケール防止に有効なカルボキシル基を有する薬剤のうち、ある種の物質が亜鉛のスラッジ化防止に特に有効であり、特に冷却水系や冷温水系等、比較的低温(50℃以下)で水の滞留時間が長い水系における亜鉛スラッジの堆積の問題をも解決しうることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の水系における亜鉛の析出防止剤は上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体、及び/または、その塩を有効成分とすることを特徴とする水系における亜鉛の析出防止剤である。
【0010】
また、水系における亜鉛の析出防止剤は、請求項2に記載の通り、請求項1記載の水系における亜鉛の析出防止剤において、前記カルボキシル基を有する単量体が、ポリアクリル酸であり、かつ、前記スルホン基を有する単量体が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする。
【0011】
本発明の亜鉛の析出防止方法は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の水系における亜鉛の析出防止剤を水系水に添加することを特徴とする亜鉛の析出防止方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水系における亜鉛の析出防止剤は、水系水への低濃度の添加でも亜鉛のスケール化防止、及び、スラッジ化防止に有効であり、特に冷却水系や冷温水系等の比較的低温(50℃以下)で水の滞留時間が長い水系であっても、水系水中の亜鉛を溶解状態またはコロイド状態に長期間保つことができるので、亜鉛スケールや亜鉛スラッジとしての析出を防止する効果が極めて高い。
【0013】
さらに、前記カルボキシル基を有する単量体が、ポリアクリル酸であり、かつ、
前記スルホン基を有する単量体が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であると特に高い亜鉛の析出防止効果が得られる。
【0014】
本発明の亜鉛の析出防止方法は高い析出防止効果が得られる優れた亜鉛の析出防止方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水系における亜鉛の析出防止剤は、上述のようにカルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体、及び/または、その塩を有効成分とする水系における亜鉛の析出防止剤である。
【0016】
ここでカルボキシル基を有する単量体としてはアクリル酸、メタアクリル酸等が挙げられ、これらから1種を選択する。
【0017】
また、スルホン基を有する単量体としては、アリルスルホン酸、アクリルアミドスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等を挙げることができ、これらから1種を選択する。
【0018】
このようなカルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体として、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体であると、比較的低温(50℃以下)で、水の滞留時間が長い水系であっても、水系水中の亜鉛を溶解状態またはコロイド状態に、特に長期間維持することでき、特に高い亜鉛の析出防止効果が得られるので好ましい。
【0019】
本発明のカルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体における、カルボキシル基を有する単量体ユニットとスルホン基を有する単量体ユニットとのモル比は20:80〜80:20(境界値含む)であることが高い効果を得るために好ましい。
【0020】
また、本発明のカルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体は、平均分子量が1000以上100000以下のものであることが好ましい。
【0021】
カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体はそのまま、及び/または、水に可溶な塩として用いる。
【0022】
上記カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体はそのまま、あるいは、予め水に溶解させた状態で水系における亜鉛の析出防止剤として供給することができる。
【0023】
本発明にかかる水系における亜鉛の析出防止剤を冷却水系や冷温水系等の水系水に添加するが、その際の添加濃度は、カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体、及び/または、その塩の有効成分が1mg/L以上100mg/L以下となるように添加することが好ましい。添加濃度が1mg/L未満の場合、充分な亜鉛の析出防止効果が得られず、また、100mg/Lを越えて添加しても、添加量の増加に見合う効果の増加が得られない。
【0024】
本発明の水系における亜鉛の析出防止剤は、さらにその特性を改良するなどの目的で、本発明の効果が損なわれない限り、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、臭素系殺菌剤及びヨウ素系殺菌剤、さらにグルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド系化合物、ピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート系化合物、ヨーネンポリマー、ビス型四級アンモニウム塩、ビス型四級アンモニウム塩以外の四級アンモニウム塩系化合物、四級ホスホニウム塩素化合物等のカチオン系化合物などのスライム防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の水処理剤を併用することができ、その場合も本発明に含まれる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例について示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
<実施例>
亜鉛スラッジの析出防止効果について検討を行った。
東京都水道水を補給水として、約5倍濃縮で運転している開放循環冷却水系の冷却水を1Lずつ、ガラス製の容器に採取し、これらそれぞれに亜鉛濃度が20mg/Lとなるように硫酸亜鉛を添加したのちに、さらに、表1に示すような水系におけるスケール防止剤(略号A〜D)を表2に示す濃度となるようにそれぞれ添加した後、室温で静置保管した。
【0027】
30日後に採水してそれぞれ0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、亜鉛の濃度を測定した(原子吸光光度法)。濾過後の亜鉛濃度の測定結果と濾過後の亜鉛の残存率を表2に併せて示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表2によれば,本発明にかかる水系における亜鉛の析出防止剤である、カルボキシル基を有する単量体としてポリアクリル酸と、スルホン基を有する単量体として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と、の2元共重合物であるアクリル酸・2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体を用いた系において亜鉛の析出が30日間もの長期にわたり極めて効果的に防止されることが判る。
【0031】
さらに、カルボキシル基を有するもののスルホン基を有しない重合体、次亜リン酸にカルボキシル基、スルホン基を有する単量体を付加重合させた化合物、さらに、カルボキシル基とスルホン基とを有するもののその他の非イオン性基を有する三元共重合体であっても、亜鉛の析出防止効果は殆ど得られないことも判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する単量体とスルホン基を有する単量体とから構成される2元共重合体、及び/または、その塩を有効成分とすることを特徴とする水系における亜鉛の析出防止剤。
【請求項2】
前記カルボキシル基を有する単量体が、ポリアクリル酸であり、かつ、
前記スルホン基を有する単量体が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である
ことを特徴とする請求項1記載の水系における亜鉛の析出防止剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水系における亜鉛の析出防止剤を水系水に添加することを特徴とする亜鉛の析出防止方法。

【公開番号】特開2009−240950(P2009−240950A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91496(P2008−91496)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】