説明

水系の電解処理方法及び装置

【課題】水系の水を電解槽に通水して電極(陰極)にスケールを析出させて該水中のスケール成分を除去し、系内のスケール生成傾向を下げる電解処理方法及び電解処理装置において、電解槽のメンテナンスを容易にすると共に、電解槽の運転を安定化させる。
【解決手段】陽極14、陰極15間に電圧を印加すると共に、弁42,44を開とする。貯水槽31からの水は、前記ポンプ41を経て電解槽10に通水され、電解処理された後、貯水槽31に戻される。陰極15の近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから冷却水系のスケール化傾向が低減される。スケール付着量が多くなったときには、バンド18を外して電解槽10を交換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系の電解処理方法及び電解処理装置に係り、特に、水の電解処理によりスケール障害とスライム障害を同時に抑制する電解処理方法及び電解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、ビルなどのコンプレッサー、冷凍機で発生した廃熱は、熱交換器を介して冷却水(冷却媒体)で冷却されている。熱交換器において、廃熱との熱交換で温度が上昇した冷却水は開放型冷却塔で空気と接触することで蒸発して放熱、冷却され、再び熱交換器に循環される。従って、このような循環型冷却水系では、冷却塔で蒸発ないし飛散して減少した水量に相当する補給水が補給されて運転が行われている。
【0003】
しかし、そのままでは補給水中に含有されるスケール成分が冷却水系内で濃縮されて、その溶解度を超え、熱交換器の伝熱面、冷却塔の充填材や底部或いは配管にスケールとして析出して付着し、熱交換効率の低下、通水抵抗の増加といった様々な運転障害を引き起こす。
【0004】
そこで、系内をスケール析出が起こらない硬度で運転するために、冷却塔の底部から、濃縮された冷却水をブロー水として系外へ排出し、補給水で全体を希釈することにより、循環冷却水を一定の水質で運転管理することが行われている。ここで、ブロー水量を多くして、系内のスケール成分濃度を低くして運転すると、補給水を多く必要として水道料金が過大となる。反対に、ブロー水量を少なくして高濃縮運転を行うと、冷却水中のスケール成分が溶解度を超え難溶塩のスケールが析出することとなる。
【0005】
従来、このような冷却水系内のスケール析出を防止するために、リン酸系薬剤やカルボン酸系など各種ポリマーよりなるスケール防止剤を添加することが行われているが、薬剤コストが嵩む。また、溶存した薬剤が放流域に住む水生生物へ影響を与える可能性があることから、下水道放流又は水処理が必要となるという問題もあった。また、薬剤は定期的に補充することが必要であり、その人員コストも問題となっている。
【0006】
このようなスケール防止剤を使用しない方法として、物理的スケール防止技術が提案されている。
【0007】
例えば、特開2003−190988号公報には、冷却水系の補給水または循環水を、極性が変わるバイポーラ電極を有する電解槽に通水し、補給水または循環水に含まれるスケール成分を微小な結晶として析出させることにより、冷却水系におけるスケール付着、特に伝熱面におけるスケール付着を防止する方法が記載されている。
【0008】
この電解槽においては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンは導電性粒子の陰極側に集まり、炭酸イオン、シリカなどは陽極側に集まる。陰極付近が高pHのため、陰極付近でスケールが析出する。正負の極性を逆に変換すると陰極は陽極となり、電極表面のpHが低下する。そうすることで核とならずに陰極上に析出したスケールを溶解し、電解不良を防ぐことができる。電極近傍で析出したスケールは循環水中へ流れ出て、非常に微細な結晶が冷却水中に分散したものとなる。この微細結晶が核となって、循環水中のスケール成分は系内の熱交換部や冷却塔よりも核を中心に析出する。次第に核は大きくなるが、ブロー水と共に排出され、伝熱面等へのスケール付着が防止される。
【0009】
即ち、上記特開2003−190988号公報の電解槽を備えた冷却水系において、電解槽で生じた微粒子を含んだ冷却水は熱交換器や冷却塔へ送り込まれ、その部位において溶解度が過飽和状態になる。過飽和状態において新たに結晶核を生成するために必要なエネルギーと既に存在する結晶を元に結晶成長するために必要なエネルギーでは既に存在する結晶を元に成長する方がはるかに必要なエネルギーが小さいので、流れてきたスケール成分の微粒子を種晶としてその上にスケール成分が析出する。そして、微細結晶は堆積するまでは成長せずにブローラインより排出される。
【0010】
また、特表2001−502229号公報には、円筒形容器内に黒鉛よりなる1対の電極を配置すると共に、該電極間に黒鉛等の炭素質材料よりなる導電性の粒子と、シリカ、ガラス、プラスチック等の非導電性の粒子とを混合充填し、この電極間に通電しつつ円筒形容器に水を通水させてスケール生成を低減する方法が記載されている。同号の記載によると、この通電処理によりアルカリが生成し、このアルカリによって結晶核が生成し、スケール生成傾向が低下する。このスケール防止方法では、アルカリ領域でスケール微細結晶の生成と共に電極へのスケール付着も起こり、定期的な洗浄が必要となる。この洗浄方法として、一定時間で電極を極性転換し、アルカリ側でスケール付着した電極が酸性領域となりスケールを剥離・溶解させる技術がある。
【0011】
しかしながら、電極の極性を転換させる方法では、極性転換によって陽極と陰極が反転するために電極自体の酸化・還元が繰り返され、電極が劣化し易い。電極の多くは酸化・還元どちらかの用途で用いられるが、両極で用いる場合、極性転換の時間によっては電極としての機能を果たす時間が非常に短くなる。例えば、グラファイト電極の場合、陽極で電極自身が酸化され、グラファイト粉末が流出して劣化する。不溶性電極としてよく使用される白金酸化物やイリジウム酸化物を被覆したチタン電極では、陽極での酸化には耐性を有するが、陰極では酸化物が剥離して劣化が進み易い。電極の交換を頻繁に行うことで上記問題は解決されるが、それに要する電極交換費が過大となる。
【0012】
特開2000−140849号公報には、凹凸の金属電極ユニットを備えた電解槽に被処理水を通してスケール成分を陰極面に析出させ、さらに極性反転して析出したスケール成分を系外へ除去する装置および方法が記載されている。この方法の問題点は、極性転換により電極が劣化し易いこと、及び、極性転換のみでは、付着したスケールの除去性が不十分なことである。即ち、一定量のスケールが電極に付着してから極性転換したときには、スケールが付着した部分が非導電性となり、電流に分布が生じる。従って、スケールが溶解する酸性領域が形成されるのはスケールが付着していない部分からとなり、スケールの剥離・溶解に時間がかかる。
【0013】
電極劣化を回避したスケール洗浄方法として、特開平9−141266号公報には、スケールが付着した電解槽を、副電解槽で発生させた酸性水を用いて洗浄する方法および装置が記載されている。しかしながら、この場合には、酸性水を発生させる副電解槽にスケールが析出する。また、洗浄効果を高めるために酸性水を過剰に供給した場合や、酸性水の水素イオン濃度を高めた場合には、放流水のpHが5以下となり、下水道法令pH5.8〜8.6の範囲外となるという問題もある。
【特許文献1】特開2003−190988号公報
【特許文献2】特表2001−502229号公報
【特許文献3】特開2000−140849号公報
【特許文献4】特開平9−141266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、水系の水を電解槽に通水して電極(陰極)にスケールを析出させて循環水中のスケール成分を除去し、系内のスケール生成傾向を下げる電解処理方法及び電解処理装置において、電解槽のメンテナンスを容易にすることを目的とする。また、本発明は、その一態様において、電解槽を安定して運転できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の水系の電解処理装置は、電極を有する電解槽と、該電解槽内に被処理水を通水する手段とを備えてなる水系の電解処理装置において、該電解槽が該通水手段に対し交換自在に接続されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項2の水系の電解処理装置は、電極を有する電解槽と、該電解槽内に被処理水を通水する手段とを備えてなる水系の電解処理装置において、該電極が電解槽に対し交換自在に設置されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3の水系の電解処理装置は、請求項1又は2において、複数個の該電解槽が該通水手段に対し並列に接続されていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4の水系の電解処理装置は、請求項1又は2において、複数個の該電解槽が該通水手段に対し直列に接続されていることを特徴とするものである。
【0019】
請求項5の水系の電解処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に信号を発生する手段を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
請求項6の水系の電解処理装置は、請求項5において、該信号を遠隔監視手段に送信する通信手段を備えたことを特徴とするものである。
【0021】
請求項7の水系の電解処理装置は、請求項5において、該信号に基づいて該電解槽の運転を停止する手段を備えたことを特徴とするものである。
【0022】
請求項8の水系の電解処理方法は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水系の電解処理装置によって循環水系の電解処理を行うことを特徴とするものである。
【0023】
請求項9の水系の電解処理方法は、請求項8において、該電解処理装置は請求項1に記載の電解処理装置であり、前記電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に該電解槽を交換することを特徴とするものである。
【0024】
請求項10の水系の電解処理方法は、請求項8において、取り外した該電解槽内に炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水を供給して洗浄することを特徴とするものである。
【0025】
請求項11の水系の電解処理方法は、請求項8において、取り外した該電解槽内を洗浄剤で洗浄することを特徴とするものである。
【0026】
請求項12の水系の電解処理方法は、請求項8において、該電解処理装置は請求項2に記載の電解処理装置であり、前記電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に該電極を交換することを特徴とするものである。
【0027】
請求項13の水系の電解処理方法は、請求項12において、取り外した該電極を炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水で洗浄することを特徴とするものである。
【0028】
請求項14の水系の電解処理方法は、請求項12において、取り外した該電極を洗浄剤で洗浄することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電解方法及び装置によって水系におけるスケール析出を防止する場合には、該水系の水を電解槽に通水して電解処理する。
【0030】
即ち、この電解槽において水は以下のように電解される。
陽極:2HO→O+4H+4e
陰極:4HO+4e→4OH+2H
【0031】
この反応により陰極近傍では水素が発生してアルカリ性となる。このため、陰極近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから水系のスケール化傾向が低減される。従って、この電解槽に通水して処理することにより、水系のスケール生成傾向が低下する。
【0032】
本発明の電解処理装置及び方法によると、薬品を使用せずに水系にスケール成分を析出させず、腐食を起こさない一定濃度で運転することができるため、熱交換部や冷却塔等にスケールが析出することが防止ないし抑制及び腐食の低減が可能となる。また、補給水の硬度が高い地方においては高濃縮運転が可能となり、節水に繋がる。
【0033】
なお、補給水などのように塩化物イオンなどの塩素成分が含まれている水の場合、電解処理により次亜塩素酸などの酸化剤が発生する。これにより、水系における水の殺菌を行うことができる。
【0034】
この電解処理により、スケール除去を継続していると、電極のスケール付着量が増加してくる。本発明では、電解槽を通水手段に対し交換自在としておくか、又は電解槽に対し電極を交換自在としておく。そして、電解槽内のスケール付着量が所定量を超えたときに、電解槽又は電極を新品又は洗浄済みのものと交換する。
【0035】
本発明では、電解槽を通水手段に接続したまま洗浄を行い、スケールを除去してから電解槽の通水運転を再開し、この洗浄によってはスケールが十分には除去できないようになった段階で電解槽や電極の交換を行うようにするのが好ましい。
【0036】
本発明では、複数個の電解槽を通水手段に対し並列に接続してもよい。この場合には、一部の電解槽を交換するか又はその電極を交換し、その間、他の電解槽に通水を継続することにより、循環水系の運転を停止することなく連続して継続させることができる。
【0037】
電解槽は、複数個、直列に接続されてもよい。この場合、通水方向の最も上流側に配置された電解槽において、スケールが最も多く析出する。従って、最上流側の電解槽について電解槽又は電極の交換の頻度が高くなるが、それよりも下流側の電解槽については、電解槽又は電極の交換頻度は著しく少ないものとなり、長期にわたって運転を継続することができる。電解槽の直列接続体を、並列に複数列配設してもよい。
【0038】
なお、スケール付着量が所定範囲よりも多くなったことは、印加電圧の過度な上昇、通電電流値の過度な低下などの通電値の異常から検知することができる。また、電解槽の通水圧損の過度な上昇によっても検知可能である。従って、このような現象を検知して信号を発生させることにより、電解槽又は電極を遅滞なく交換することが可能となる。
【0039】
これにより、スケール付着による電解槽の運転不良を防止し、安定した運転を行うことが可能となる。なお、上記信号を監視センター等の遠隔監視手段に通信し、この遠隔監視手段から保守管理担当部署に電解槽や電極の交換の指示を送るようにしてもよい。また、上記信号に基いて電解槽の運転を停止してもよい。
【0040】
電解槽内の電極等に付着したスケールは、酸、アルカリ、キレート、スルファミン酸などにより溶解除去することができる。カルシウム塩、マグネシウム塩、あるいはそれらの水酸化物を主体とするスケールであれば、pH4以下の酸洗浄により溶解させることができる。シリカ系スケールはpH10以上のアルカリにより溶解させることができる。
【0041】
また、スケールが炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを主成分とするものであるときには、これらを二酸化炭素と次のように反応させて溶解除去することもできる。
CO+HO→HCO+H+HCO (二酸化炭素の水への溶解)
CaCO+CO+HO→Ca2++2HCO (炭酸カルシウムの溶解)
Ca(OH)+2H→Ca2++2HO (水酸化カルシウムの溶解)
MgCO+CO+HO→Mg2++2HCO(炭酸マグネシウムの溶解)
Mg(OH)+2H→Mg2++2HO (水酸化マグネシウムの溶解)
【0042】
この二酸化炭素による溶解方式によると、酸洗浄用薬品の購入や危険な搬入作業が無くなり、薬品コストが削減されると共に、作業の安全性が向上する。また、二酸化炭素を市水に溶解させた場合、水のpHは5を下回ることはなく、スケールを溶解させた溶液はpH6以上となるので、下水道放流が可能となる。
【0043】
スケール除去に際し電解槽に二酸化炭素を供給する場合、二酸化炭素として炭酸ガスを洗浄水に供給してもよく、炭酸ガス溶解水として供給してもよく、炭酸ガスの気泡が分散した炭酸ガス溶解水として供給してもよい。
【0044】
本発明は、循環冷却水系に適用するのに好適であるが、逆浸透膜分離装置で濃縮排水(ブライン)を給水側へ循環させるようにした循環水系などの水系にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1,2はそれぞれ実施の形態に係る電解槽の断面図であり、図3は冷却水系の概略的な系統図である。
【0046】
図3の通り、水はクーリングタワー30で冷却され、貯水槽31に貯留される。この冷却水が循環ポンプ32を介して熱交換器33へ送られ、熱交換後、クーリングタワー30で冷却され、貯水槽31に戻される。
【0047】
この貯水槽31内の水を集合配管40、ポンプ41、分岐配管42及び弁43を介して電解槽10に通水し、電解処理した後、分岐配管44、弁45及び集合配管46を介して貯水槽31に戻す。貯水槽31内の水は適宜ブローされ、代わりに補給水が供給される。なお、図3では3本の分岐配管42,44と3個の電解槽10が示されているが、これらの数は2又は4以上であってもよい。
【0048】
また、図3では1つの分岐配管に1個の電解槽10が設置されているが、直列に2以上の電解槽10が設置されてもよい。
【0049】
次に、図1を参照して電解槽10の構成について説明する。
【0050】
電解槽10は、流入口11及び流出口12を有したケーシング13内に陽極14と陰極15とを配置し、陽極14と陰極15との間に貯水槽31からの水を通水して電解処理するよう構成している。
【0051】
流入口11及び流出口12の末端にはそれぞれフランジ11a,12aが設けられている。前記分岐配管42,44の末端にもフランジ42a,44aが設けられている。これらのフランジ11a,42a、同12a,44aが重ね合わされ、締付バンド18によって水密的に連結されている。
【0052】
陰極15を構成する材料としては、導電性を有し、酸に不溶な材料が好ましく、具体的にはガラス質炭素、不溶性金属、金属酸化物、SUSなどの金属複合物が好適である。陽極14には不溶性の金属電極、酸化耐性のある電極を使うのが好ましく、具体的には、白金、イリジウムを被覆したチタン電極や白金メッキ電極等が好ましい。なお、電解処理工程において、陽極14と陰極15とに印加する電圧を反転させないので、白金、イリジウムを被覆したチタン電極を陽極に用いることができる。
【0053】
陽極14と陰極15との間隔は3〜20mm特に5〜10mmが好適である。
【0054】
スケール除去のための電解処理運転を行う場合、陽極14、陰極15間に電圧を印加すると共に、弁42,44を開とする。貯水槽31からの水は、前記ポンプ41を経て電解槽10に通水され、電解処理された後、貯水槽31に戻される。
【0055】
この電解処理工程にあっては、陰極15の近傍では水素が発生してアルカリ性となる。このため、陰極15の近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから冷却水系のスケール化傾向が低減される。
【0056】
従って、貯水槽31内の水をこの電解槽に通水することにより、循環冷却水のスケール生成傾向が低下する。貯水槽31の水の代わりに、補給水をこの電解槽で処理してから貯水槽31へ供給するようにしてもよい。
【0057】
なお、スケールが主に炭酸塩として析出することにより、系内の硬度成分だけでなく重炭酸イオンも除去して循環水のpHを低下させることができる。
【0058】
溶液の腐食・スケール傾向を計るインデックスであるランジェリア指数(以下LSIと記載する。)は、正の値になるほどスケール析出傾向となり、負の値になるほど腐食傾向となり、0のときにどちらの傾向も示さない。電解槽10により硬度成分と重炭酸イオンの両方を除去してpHを下げることにより、LSIを正の値、特に0.5〜1.5程度となるようにコントロールするのが好ましい。LSIを正の値で管理することにより、系内配管や熱交換器への腐食速度の低減が可能となる。循環水中のカルシウム硬度は冷却水系の熱交換部や配管、冷却塔の充填材などにスケールを析出させない80〜120mgCaCO/Lで運転することが望ましく、さらにはMアルカリ度を80〜120mgCaCO/Lに制御して、飽和指数LSIを正の値、特に0.5〜1.5にすることが好ましい。
【0059】
上記の電解処理を継続すると、陰極15の表面のスケール付着量が次第に増加してくる。
【0060】
陽極14と陰極15との間に定電圧を印加する場合には、上記スケール付着に伴って両電極14,15間の通電電流値が低下する。また、両電極14,15間に定電流方式にて通電を行う場合には、スケール付着に伴って両電極14,15間の印加電圧が上昇する。そこで、この通電電流値が所定値を下回ったり、印加電圧が所定値を上回るようになったときに、電解槽10を交換する。この交換を行うには、交換しようとする電解槽10が連なる分岐配管42,44の弁43,45を閉めた後、バンド18を外し、電解槽10を取り外す。次いで、新品又はスケール除去洗浄済みの電解槽10をフランジ42a,44a間に介在させ、再度バンド18を締め付ける。その後、弁43,45を開き、交換した電解槽10に通水を開始する。この実施の形態では、複数個の電解槽10を並列に設置しているので、一部の電解槽10を上記の如くして交換しているときでも、残りの電解槽10に通水することができ、スケール除去を継続して行うことができる。なお、バンド18以外の連結手段(例えばボルト)によってフランジ同士を連結してもよいが、バンドであれば着脱を迅速に行うことができる。
【0061】
取り外した電解槽10は、酸、アルカリ、キレート、スルファミン酸等の洗浄剤、あるいは炭酸ガスによってスケールを除去し、次回の交換使用に用いる。
【0062】
上記実施の形態は、電解槽にスケールが付着した場合、電解槽全体を交換するものであるが、図2のように電極のみを交換するようにしてもよい。図2(a)は電極のみを交換できるよう構成した電解槽の縦断面図、同(b)は同(a)のB−B線断面図である。
【0063】
この電解槽20は、流入口21及び流出口22を有したケーシング23と、該ケーシング23の内面に取り付けられた陽極27及び陰極28とを有する。このケーシング23は、角筒形状であり、対向する1対の側面が取り外し可能なサイドプレート24,25にて構成されている。
【0064】
サイドプレート24,25はそれぞれボルト26によってケーシング23に対し着脱自在となっている。このサイドプレート24の内面に陽極27が取り付けられ、サイドプレート25の内面に陰極28が取り付けられている。
【0065】
流入口21は前記分岐配管42に接続され、流出口22は分岐配管44に接続されている。なお、分岐配管42,44は図2では図示省略されている。前記図3と同様に、分岐配管42,44には弁43,45が設けられている。
【0066】
この電解槽20に通水し、陽極27と陰極28との間に電圧を印加することにより、陰極28にスケールが付着する。このスケール付着により、通電値が所定範囲を逸脱したり、通水圧損が所定以上となったときには、弁43,45を閉め、ボルト26を外してサイドプレート25を取り外す。そして、代りに新品又は洗浄済みの陰極28を有したサイドプレート25を取り付け、次いで弁43,45を開いて通水を再開する。取り外したサイドプレート25の陰極28は、酸、アルカリ、キレート、スルファミン酸等の洗浄剤、又は炭酸ガスによって洗浄する。なお、サイドプレート25だけでなく、陽極27を有したサイドプレート24も交換してもよい。
【0067】
図2の実施の形態ではサイドプレート24,25を着脱して交換するようにしているが、各サイドプレートに対し陽極及び陰極をそれぞれ着脱自在としておき、サイドプレートを外した後、サイドプレートから陽極、陰極を取り外し、新品又は洗浄済みの陽極、陰極を取り付け、このサイドプレートを再度ケーシングに装着するようにしてもよい。
【0068】
上記実施の形態では、ケーシング13,23内に陽極と陰極が1個ずつ設けられているが、複数個設けられてもよい。
【0069】
また、図2では電極板がサイドプレートに重なるように取り付けられているが、サイドプレートから起立するように取り付けられてもよく、このようにすれば1枚のサイドプレートに複数枚の電極を櫛状に取り付けることができる。
【0070】
本発明では、電解槽の通電値(印加電圧又は通電電流値)や通水圧損が所定範囲を逸脱したときに警報を発生させるようにしてもよい。この警報を通信回線を介して遠隔監視センターに送給し、保守作業員が派遣されるシステムとしてもよい。
【0071】
上記実施の形態は循環冷却水系に関するものであるが、図4のように逆浸透膜(RO)システムに適用してもよい。図4において、水槽50内の被処理水はポンプ51及びライン52を介してROユニット53に通水され、透過水はライン57より取り出される。濃縮水は、ライン54を介して電解槽55に通水され、スケール除去処理された後、ライン56を介して水槽50に循環される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施の形態に用いられる電解槽の断面図である。
【図2】別の実施の形態に用いられる電解槽の断面図である。
【図3】循環型冷却水系の系統図である。
【図4】ROシステムの系統図である。
【符号の説明】
【0073】
10,20,55 電解槽
13,23 ケーシング
14,27 陽極
15,28 陰極
18 バンド
24,25 サイドプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する電解槽と、
該電解槽内に被処理水を通水する手段とを備えてなる水系の電解処理装置において、
該電解槽が該通水手段に対し交換自在に接続されていることを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項2】
電極を有する電解槽と、
該電解槽内に被処理水を通水する手段とを備えてなる水系の電解処理装置において、
該電極が電解槽に対し交換自在に設置されていることを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、複数個の該電解槽が該通水手段に対し並列に接続されていることを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、複数個の該電解槽が直列に配置されていることを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に信号を発生する手段を備えたことを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項6】
請求項5において、該信号を遠隔監視手段に送信する通信手段を備えたことを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項7】
請求項5において、該信号に基づいて該電解槽の運転を停止する手段を備えたことを特徴とする水系の電解処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水系の電解処理装置によって循環水系の電解処理を行うことを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項9】
請求項8において、該電解処理装置は請求項1に記載の電解処理装置であり、
前記電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に該電解槽を交換することを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項10】
請求項8において、取り外した該電解槽内に炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水を供給して洗浄することを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項11】
請求項8において、取り外した該電解槽内を洗浄剤で洗浄することを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項12】
請求項8において、該電解処理装置は請求項2に記載の電解処理装置であり、
前記電解槽の通電値及び/又は通水圧損が所定範囲を逸脱した場合に該電極を交換することを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項13】
請求項12において、取り外した該電極を炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水で洗浄することを特徴とする水系の電解処理方法。
【請求項14】
請求項12において、取り外した該電極を洗浄剤で洗浄することを特徴とする水系の電解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−198547(P2006−198547A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14334(P2005−14334)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】