説明

水系クリヤー塗料組成物、およびこれを用いた塗膜の製造方法

【課題】塗布した部位に関わらず均一、かつ短時間で脱色する塗膜を形成でき、塗り忘れや塗り斑を防止できる水系クリヤー塗料組成物、およびこれを用いた塗膜の製造方法の実現。
【解決手段】バインダー樹脂と、沸点が100℃以上の水溶性アミン化合物と、フェノールフタレインとを含有し、pH値が9.5〜13.0であることを特徴とする水系クリヤー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の外壁などの塗装に好適に使用される水系クリヤー塗料組成物、およびこれを用いた塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の外壁などの表面(被塗布面)には、意匠性の付与や保護を目的としてクリヤー塗料が塗布される場合が多い。
しかし、クリヤー塗料は、無色透明またはそれに近い透明であるため、クリヤー塗料が塗布された面と未塗布の面においての境界が判別しにくく、塗り忘れや塗り斑といったクリヤー塗料ならではの問題があった。特に光触媒機能を有するクリヤー塗料の場合、防汚性塗膜を形成できるが、塗り忘れが発生すると、その部分では防汚性塗膜が形成されないため所望の光触媒効果が発揮されず、汚れが目立ちやすくなる。
【0003】
そこで、特許文献1には、有機系着色剤(有機顔料、有機染料、着色試薬のうち少なくとも1種類以上)を含むクリヤー型の光触媒塗料が開示されている。該光触媒塗料によれば、有機系着色剤によって塗料が着色しているため、塗布の際には塗装部分が目視にて確認でき塗り忘れや塗り斑を防止し、塗布後には光触媒機能によって有機系着色剤を分解して塗膜を脱色することができる。
【特許文献1】特開2004−256674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、光触媒機能を利用したクリヤー塗料では、形成された塗膜は光触媒機能によって脱色するので、直射日光が当たりにくい部位では直射日光が当たる部位に比べて有機系着色剤が分解されにくく、塗膜の脱色が完了するのに数日〜数週間の時間が必要であった。そのため、無色部分と着色部分との色斑が長時間続くこととなり、外観上問題があった。
また、このようなクリヤー塗料は光触媒塗料に限定されるため、用途が制限されやすかった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、塗布した部位に関わらず均一、かつ短時間で脱色する塗膜を形成でき、塗り忘れや塗り斑を防止できる水系クリヤー塗料組成物、およびこれを用いた塗膜の製造方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、アルカリ水溶液中で赤く呈色し、中性に近づくに連れて無色に変化するフェノールフタレインの特性に着目した。そこで、水系クリヤー塗料組成物の成分として、数多くの種類が存在する指示薬の中から、特にフェノールフタレインを選択して用い、かつアルカリ性になるように塩基性物質(水溶性アミン化合物)を用いてpH値を調整することにより、水系クリヤー塗料組成物が赤く着色するので、塗布の際には塗り忘れや塗り斑を防止でき、塗布後の塗膜の水分の蒸発や、塩基性物質の揮発により、pH値が中性に近づくことで塗膜が脱色することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の水系クリヤー塗料組成物は、バインダー樹脂と、沸点が100℃以上の水溶性アミン化合物と、フェノールフタレインとを含有し、pH値が9.5〜13.0であることを特徴とする。
さらに、顔料を含有することが好ましい。
【0008】
また、前記水溶性アミン化合物の含有量が、当該水系クリヤー塗料組成物100質量%中、0.3質量%以上であることが好ましい。
さらに、前記水溶性アミン化合物が、水酸基を1つ有することが好ましい。
また、前記顔料が光触媒粒子であれば、形成される塗膜に防汚性機能を付与することができる。
【0009】
また、本発明の塗膜の製造方法は、前記水系クリヤー塗料組成物を、対象物の被塗布面に塗布した後に、脱色させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系クリヤー塗料組成物、およびこれを用いた塗膜の製造方法によれば、塗布した部位に関わらず均一、かつ短時間で脱色する塗膜を形成でき、塗り忘れや塗り斑を防止できる。
また、本発明によれば、塗布した部位に関わらず塗膜が速やかに脱色するので、無色部分と着色部分とで発生する色斑が短時間(例えば24時間以内)で解消できる。
さらに、本発明水系クリヤー塗料組成物は、光触媒塗料に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水系クリヤー塗料組成物(以下、「塗料組成物」という。)は、バインダー樹脂と、水溶性アミン化合物と、フェノールフタレインとを含有する。
また、塗料組成物のpH値は9.5〜13.0であり、9.6〜11.0が好ましく、10.0〜10.5がより好ましい。pH値が上記範囲内であれば後述するフェノールフタレインが赤く呈色するので、塗料組成物も赤く着色する。pH値が上記範囲より中性側に移動すると、フェノールフタレインが赤く呈色しにくくなる(塗料組成物が無色になる)ので、塗料組成物を塗布する際に塗布面と未塗布面との境界が目視にて判断しにくくなり、塗り忘れや塗り斑を防止できにくくなる。一方、pH値が上記範囲よりアルカリ性になっても、フェノールフタレインの構造が変化して塗料組成物が無色になる。
【0012】
<バインダー樹脂>
前記バインダー樹脂としては、水性塗料として使用可能なものであれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、酢酸ビニル−アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、スチレン−アクリレート樹脂などが挙げられる。中でもアクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂が好ましい。これらのバインダー樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
バインダー樹脂の含有量(固形分換算)は、塗料組成物100質量%中、2〜50質量%が好ましく、4〜20質量%がより好ましい。バインダー樹脂の含有量が上記範囲内であれば、形成する塗膜の膜厚が均一になりやすくなる。
【0014】
<水溶性アミン化合物>
本発明においては、塗料組成物に水溶性アミン化合物を含有させることで、当該塗料組成物のpH値を上記範囲に調整することができる。なお、非水溶性のアミン化合物を用いると、塗料組成物のpH値を上記範囲に調整することが困難となり、塗料組成物が赤く着色しにくくなるので、アミン化合物としては、水溶性のものを用いるものとする。
【0015】
前記水溶性アミン化合物は沸点が100℃以上であり、120〜240℃が好ましい。沸点の下限値が上記値より小さくなると、塗料組成物に含まれる水分との共沸効果による揮発速度が速くなり、塗料組成物を塗布した直後から水溶性アミン化合物が揮発し始めるので、pH値が上記範囲より低くなる。後述するフェノールフタレインはpH値が上記範囲内の時に赤く呈色するので、塗料組成物は塗布した直後から脱色しやすく、塗布面と未塗布面との境界が目視にて判断しづらくなり、塗り忘れや塗り斑の防止といった本発明の効果を十分に発揮しにくくなる。
一方、沸点の上限値が上記値より大きくなると、水溶性アミン化合物が揮発しにくいため塗膜中に残留しやすくなり、塗膜が黄変したりタック感が残ったりする場合がある。また、塗料組成物に光触媒粒子などの顔料が含まれる場合は、耐防汚性が低下することもある。
【0016】
なお、水溶性アミン化合物は沸点が高くなると、分子量も大きくなる傾向にあり、pH値を所望の値に調整するのが困難となる傾向にある。従って、pH値を所望の値に調整するためには配合量を増やす必要があるが、配合量を増やしてもpH値を10以上に調整することは困難である。そのため、僅かな量の水溶性アミン化合物の揮発でも塗膜の中のpH値は上記範囲を下回るため、比較的短時間で塗膜の脱色が完了する。しかし、脱色後の塗膜中には多量の水溶性アミン化合物が残留するため、塗膜が黄変したりタック感が残ったりしやすくなる。
【0017】
このような水溶性アミン化合物としては、例えば、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−(メチルアミノ)エタノール、3−アミノ−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。中でも、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−(メチルアミノ)エタノール、3−アミノ−1−プロパノールが好ましく、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが特に好ましい。これら水溶性アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
なお、水溶性アミン化合物は、仮に沸点が同じであったとしても、含有する水酸基の数が増えるに連れて揮発性が低下する傾向にある。水酸基を複数有する水溶性アミン化合物は塗膜中に残留しやすくなったり、塗膜の耐水性を低下させたりする場合もあるので、水溶性アミン化合物としては、水酸基を1つ有するものを用いるのが好ましい。
【0019】
水溶性アミン化合物の含有量は、塗料組成物100質量%中、0.3質量%以上が好ましい。水溶性アミン化合物の含有量が0.3質量%未満になると、塗料組成物のpH値を上記範囲内に調整することが困難となり、フェノールフタレインが赤く呈色しにくくなり、結果、塗料組成物も着色しにくくなる。
ただし、水溶性アミン化合物の含有量が増えると、塗膜が脱色するのに要する時間が長くなる傾向にあるので、無色部分と着色部分とで発生する色斑の抑制を考慮すると、水溶性アミン化合物の含有量は0.5〜7質量%がより好ましい。
【0020】
<フェノールフタレイン>
フェノールフタレインは、酸塩基指示薬として一般的に用いられており、アルカリ性の水溶液中で赤く呈色し、水溶液が中性になるに連れて、また、水分の揮発によりイオンが消失するに連れて無色に変化する。本発明では、この特性を利用しており、上述した水溶性アミン化合物によりpH値を上記範囲に調整したバインダー樹脂の水性エマルションにフェノールフタレインを添加することで、塗料組成物を赤く着色させている。従って、塗料組成物を塗布する際は塗布面と未塗布面との境界が目視にて容易に判断できるようになるため、塗り忘れや塗り斑を防止できる。そして、塗膜中の溶媒(水)の揮発によりイオンが消失することや、水溶性アミン化合物が揮発することで塗膜のpH値が中性側に移動し、フェノールフタレインが無色に変化することで塗膜が脱色する。
なお、本発明において「イオンが消失する」とは、水を構成する水素イオンや水酸化物イオンの消失、およびフェノールフタレイン自身のイオン性の消失を意味する。
【0021】
なお、フェノールフタレイン以外にも多くの指示薬が知られているが、他の指示薬は色の変化を引き起こすことはできるものの、フェノールフタレインのような容易な機構では無色になりにくく、クリヤー塗料組成物本来の効果が発揮されにくくなる。
従って、本発明では、指示薬としてフェノールフタレインを用いるものとする。
なお、フェノールフタレインは水に難溶であるため、通常、エタノールやプロパノールなどのアルコールに溶解させ、さらに必要に応じて水で希釈して用いる。
【0022】
フェノールフタレインの含有量(固形分換算)は、塗料組成物100質量%中、0.01〜0.5質量%が好ましく、0.03〜0.3質量%がより好ましい。フェノールフタレインの含有量の下限値が上記値より小さくなると、塗料組成物のpH値が上記範囲内であったとしても赤く着色しない場合がある。一方、フェノールフタレインの含有量の上限値が上記値より大きくなっても、着色効果に変化はなく、製造コストが増加する。
【0023】
<顔料>
本発明の塗料組成物には、顔料を含有させてもよい。顔料としては、光触媒粒子や体質顔料などが挙げられるが、中でも光触媒粒子が好ましい。塗料組成物に光触媒粒子を含有させることで、塗料組成物の成分に用いる水溶性アミン化合物の沸点が高かったり、含有量が多かったりして、水溶性アミン化合物が塗膜中に残留したとしても、光触媒粒子が水溶性アミン化合物やフェノールフタレインを分解するので、塗膜が速やかに脱色すると共に、耐水性の低下をより抑制できる。さらに、塗膜に付着した埃や汚れなどの有機物を、光触媒粒子が分解するので、塗膜に防汚性機能をも付与できる。
【0024】
このような光触媒粒子としては、酸化チタンなどが挙げられるが、中でもアパタイトなどのリン酸カルシウムが酸化チタンに被覆した光触媒複合粒子が特に好ましい。アパタイトは、タンパク質やアルデヒド類などの物質吸着能に優れているため、光がなくても物質を吸着できる上、光が照射された時に吸着しておいた物質を光触媒機能により分解することができる。従って、上述した光触媒複合粒子を含有させることで、塗膜の防汚性がより向上する。
なお、アパタイトは、酸化チタンの表面を完全に被覆しているのではなく分散して析出しているので、酸化チタンの表面は部分的に露出しており、光触媒機能はほとんど失われることはない。また、酸化チタンの表面をアパタイトが被覆していることで、アパタイトがスペーサーとなり、酸化チタンとバインダー樹脂とは直接接触しにくくなるため、バインダー樹脂は分解されにくい。
光触媒複合粒子としては、市販のものを用いることができ、例えば、石原産業社製のSTシリーズなどが好適である。
【0025】
顔料として例えば前記光触媒複合粒子を含有させる場合、その含有量は、塗料組成物100質量%中、0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましい。光触媒複合粒子の含有量の下限値が上記値より小さくなると、光触媒の効果が発現しにくくなる。一方、光触媒複合粒子の含有量の上限値が上記値より大きくなると、塗膜の耐候性が低下しやすくなる。
【0026】
<その他>
本発明の塗料組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、造膜助剤や各種添加剤が必要に応じて含まれていてもよい。
造膜助剤としては、具体的には、テキサノール、ブチルセルソルブ、ブチルセルソルブアセテート、カルビトール、トリエチレングリコール等を例示することができる。これらの各種造膜助剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。造膜助剤の含有量は、塗料組成物100質量%中、0.1〜10質量%が好ましい。
添加剤としては、消泡剤、増粘剤、凍結安定剤、湿潤剤、浸透助剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤等、通常の塗料に用いられる添加剤が適宜使用できる。
【0027】
<塗料組成物>
本発明の塗料組成物は、上述したバインダー樹脂に、必要に応じて顔料、造膜助剤、および各種添加剤を加え、さらに水を加えて撹拌混合した混合物に、水溶性アミン化合物を添加してpH値を調整した後、フェノールフタレイン溶液を添加することで得られる。
各成分を上述した含有量の範囲内で添加することにより、フェノールフタレインが赤く呈色し、赤く着色した塗料組成物が得られる。
水の含有量は、塗料組成物100質量%中、50〜98質量%が好ましく、80〜96質量%がより好ましい。
【0028】
なお、バインダー樹脂は、予めエマルションにしてから用いてもよい。エマルションに調製する方法としては、特に制限はなく、例えば、バインダー樹脂の原料モノマーを、水溶媒を使用した乳化重合法などで重合させることにより、水中において樹脂微粒子が乳化、分散したエマルションを得ることができる。また、エマルションとしては市販のものを用いてもよく、例えば、旭化成ケミカルズ社製のポリデュレックスシリーズなどが好適である。
なお、エマルション100質量%中におけるバインダー樹脂の質量割合には特に制限はないが、好ましくは20〜65質量%程度とする。
【0029】
このようにして得られる塗料組成物は、水溶性アミン化合物によってpH値を上記範囲内に容易に調整できるので、塗料組成物中のフェノールフタレインによって赤く着色している。該塗料組成物を対象物の被塗布面に塗布した直後は、塗膜は赤く着色しているので、塗布面と未塗布面との境界が目視にて容易に判断でき、塗り忘れや塗り斑を防止できる。そして、塗膜中の水溶性アミン化合物や水分の揮発により、塗膜のpH値が中性側に移動してフェノールフタレインが無色に変化することによって、塗膜が脱色し、クリヤーな塗膜が得られる。
塗膜の脱色が完了するのに要する時間は、温度や湿度などの周囲の環境によって異なるが、本発明の塗料組成物を用いれば、塗布後3分〜24時間の短時間で塗膜の脱色が完了する。
【0030】
光触媒機能を利用した従来の塗料を対象物の被塗布面に塗布した場合、直射日光が当たりにくい部位では直射日光が当たる部位に比べて有機系着色剤が分解されにくく、塗膜の脱色が完了するのに数日〜数週間の時間が必要であった。そのため、無色部分と着色部分との色斑が長時間続くこととなり、外観上問題があった。
しかし、本発明であれば、塗膜の脱色は塗膜中の水溶性アミン化合物や水分の揮発性に依存するので、塗膜形成の部位に関係なく均一に脱色できる。また、短時間で塗膜の脱色が完了するので、無色部分と着色部分との色斑が長時間続くことを抑制できる。
【0031】
さらに、本発明の塗料組成物であれば、光触媒塗料に限定されないので、幅広い用途が期待できる。ただし、本発明の塗料組成物中に光触媒粒子を含有させれば、塗膜に残留する水溶性アミン化合物や、フェノールフタレインを分解するので、脱色時間が早まると共に、得られる塗膜に防汚性機能を付与させることができるで、より有用な光触媒塗料が得られることは言うまでもない。
【0032】
なお、本発明の塗料組成物を保存する際は、水溶性アミン化合物や水分が蒸発しないように密閉容器に保管するのが好ましい。顔料として光触媒粒子をさらに含有させた場合は、遮光性の密閉容器に保管するのが好ましい。
【0033】
また、本発明の塗料組成物の塗布方法としては、刷毛、ローラ、エアスプレー、エアレススプレーなどの通常の方法により行うことができる。塗布の際には、事前に対象物の被塗布面に存在する埃や汚れなどを除去して清潔な状態にするのがよい。さらに、対象物の材質の伸縮に追従するよう、乾燥後の塗膜の膜厚が薄くなるように塗布するのが好ましい。乾燥後の塗膜の膜厚は1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
【0034】
また、本発明の塗料組成物を塗布する対象物の材質としては、金属、モルタル、コンクリート、セメント、木材、プラスチック、ガラスなどが挙げられる。
また、上記の材質からなる対象物の表面に、他の塗料を塗布して塗膜を形成させた後に、本発明の塗料組成物を塗布してもよい。
【0035】
以上説明したように、本発明の塗料組成物はフェノールフタレインの特性を活かしており、水溶性アミン化合物で塗料組成物のpH値を所望の値に調整することでフェノールフタレインを赤く呈色させ、塗料組成物を赤く着色させている。そのため、塗布面と未塗布面との境界が目視にて容易に判断できるので、塗り忘れや塗り斑を防止できる。そして、塗膜中の水溶性アミン化合物の揮発により塗膜のpH値が中性側に移動することや、水分の揮発によりイオンが消失することによって、フェノールフタレインが無色に変化することによって、塗膜が脱色し、クリヤーな塗膜が得られる。
また、本発明は、塗膜の脱色において光触媒機能を利用していないので、光触媒塗料に限定されない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「%」とは「質量%」を示す。
[実施例1]
<塗料組成物の調製>
バインダー樹脂としてアクリル−シリコーン樹脂(旭化成ケミカルズ社製、「ポリデュレックスG−659」固形分42%)33.0gに、顔料として光触媒粒子(石原産業社製、「ST−01」)1.3g、造膜助剤(イーストマンケミカルジャパン社製、「テキサノール」)4.0g、消泡剤(ビックケミー・ジャパン社製、「BYK−028」)0.1g、および水59.0gを加え、固形分16%の混合物を得た。
この混合物に、水溶性アミン化合物として2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(ダウ・ケミカル日本社製、「AMP−90」、分子量:89、沸点:133℃)0.6gを添加してpH値を10.0付近に調整した。次いで、3%フェノールフタレイン/イソプロピルアルコール溶液2.0g(フェノールフタレインの固形分換算で0.06g)を添加し、赤く着色した塗料組成物(100g)を得た。
なお、pH値はpHメータ(堀場製作所社製、「pHメータF−21」)を用いて測定した。得られた塗料組成物のpH値を表1に示す。
【0037】
<評価>
アルミニウム製平板(7cm×15cm)上に、プライマー(藤倉化成社製、「アクレタンM」、白色)を塗布し、乾燥させた基材に、得られた塗料組成物をスプレー塗布し(塗布量:60g/m)、試験体を作成した。乾燥後の塗膜の膜厚は5μmであった。
塗料組成物の塗布後から、塗膜の脱色が完了するまでに要した時間(脱色時間)を計測した。結果を表1に示す。
また、塗料組成物を基材上に塗布する際の作業性について、以下の評価基準にて判断した。結果を表1に示す。
○:塗り忘れや塗り斑を目視にて判断でき作業性が良好であり、脱色、乾燥後の塗膜に変化が認められず、クリヤーな塗膜が得られた。
△:塗り忘れや塗り斑を目視にて判断でき作業性が良好であるが、脱色、乾燥後の塗膜が黄変したり、タック感が残ったりした。
×:塗り忘れや塗り斑を目視にて判断するのが困難である。
なお、脱色、乾燥後の塗膜の変化は、目視にて判断した。また、タック感は、塗料組成物を塗布した直後から24時間経過後の塗膜を手指で触れて、タック感が残っているかどうかを判断した。
【0038】
[実施例2〜10]
表1に示すように、水溶性アミン化合物の種類とその添加量、および3%フェノールフタレイン/イソプロピルアルコール溶液の添加量(フェノールフタレインの固形分換算量)を変化させた以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1、4〜6]
表1に示すように、水溶性アミン化合物の種類、およびその添加量を変化させた以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0040】
[比較例2、3]
水溶性アミン化合物の代わりに、表1に示す非水溶性アミン化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1、2から明らかなように、各実施例で得られた塗料組成物を使用することにより、塗り忘れや塗り斑を目視にて判断でき作業性が良好であった。また、水溶性アミン化合物や3%フェノールフタレイン/イソプロピルアルコール溶液の添加量が少なくなると、塗膜の脱色時間が短くなった。
なお、実施例5、6では、水溶性アミン化合物の添加量を実施例1〜4に比べて増やしたので、それに伴い水分の揮発によるイオンの消失に時間がかかり、脱色時間は長くなったが、実施例5、6で用いた水溶性アミン化合物は揮発性が良好なので、脱色、乾燥後の塗膜は黄変したりタック感が残ったりすることはなかった。
【0044】
また、実施例9で得られた塗料組成物は、水酸基を2つ有する水溶性アミン化合物を用いたため、揮発性が低下し、フェノールフタレイン(固形分換算)の含有量が同量の実施例1に比べて、脱色時間が長くなった。また、実施例9で用いた水溶性アミン化合物は沸点が247℃と高かったため、塗料組成物のpH値を所望の値に調整するために添加量を増やす必要があったが、添加量を3.5gに増やしても塗料組成物のpH値は9.8であった。そのため、僅かな量の水溶性アミン化合物の揮発で塗膜のpH値は中性側に移動したため、脱色が完了した後の塗膜中にも多量の水溶性アミン化合物が残留し、脱色、乾燥後の塗膜が黄変した。
実施例10で得られた塗料組成物は、水酸基を3つ有する水溶性アミン化合物を用いたため、実施例9よりもさらに揮発性が低下し、脱色時間が長くなった。また、水溶性アミン化合物の沸点が335℃と高かったため、実施例9よりもさらに添加量を増やす必要があり、脱色、乾燥後の塗膜が黄変すると共に、タック感が残っていた。
【0045】
一方、比較例1、4で得られた塗料組成物は、沸点の低い水溶性アミン化合物を用いたため、塗布前は赤く着色していたが、塗布した直後から水溶性アミン化合物が揮発してしまい、塗膜が直ちに脱色して、塗り忘れや塗り斑を目視にて判断しにくかった。
比較例2、3で得られた塗料組成物は、非水溶性アミン化合物を用いたため、塗料組成物のpH値が所望の値に調整できず、赤く着色しなかった。そのため、塗り忘れや塗り斑を目視にて判断しにくかった。
比較例5で得られた塗料組成物は、水溶性アミン化合物の添加量が少なかったため、pH値が所望の値にならなかった。そのため、塗料組成物は若干赤く着色していたが、僅かな量の水溶性アミン化合物が揮発しただけでも直ちにpH値が中性側に移動しやすい状態であったため、塗布した直後から塗膜が脱色し、塗り忘れや塗り斑を目視にて判断しにくかった。
比較例6で得られた塗料組成物は、水溶性アミン化合物の添加量が少なかったため、pH値が所望の値にならなかった。そのため、フェノールフタレインが赤く呈色せず、塗料組成物も赤く着色せず、塗り忘れや塗り斑を目視にて判断しにくかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、沸点が100℃以上の水溶性アミン化合物と、フェノールフタレインとを含有し、pH値が9.5〜13.0であることを特徴とする水系クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
さらに、顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の水系クリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記水溶性アミン化合物の含有量が、当該水系クリヤー塗料組成物100質量%中、0.3質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水系クリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記水溶性アミン化合物が、水酸基を1つ有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系クリヤー塗料組成物。
【請求項5】
前記顔料が、光触媒粒子であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の水系クリヤー塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水系クリヤー塗料組成物を、対象物の被塗布面に塗布した後に、脱色させたことを特徴とする塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−46555(P2009−46555A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212868(P2007−212868)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】