説明

水系剛直主鎖型液晶組成物、及びこれを利用したキラルセンサー

【課題】本発明は、従来に例がない合成螺旋高分子の水系剛直主鎖型液晶を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶を提供すること、及びキラルセンサーとして利用できる水系剛直主鎖型液晶を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子、例えばそのようなポリアセチレン誘導体の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶に関する。
また、本発明は、上記合成螺旋高分子の水溶性の塩、就中、不斉炭素を持たない上記合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる液晶を利用したキラルセンサーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶組成物に関する。
また、本発明は、上記合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶組成物を用いたキラルセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
螺旋高分子としては、高分子主鎖に不斉炭素を有するデオキシリボ核酸、リボ核酸、蛋白質、ポリペプチド、多糖等に代表される生体系高分子や、高分子主鎖に不斉炭素をもたず、側鎖に不斉炭素をもたせることにより主鎖に螺旋構造を発現させたポリイソシアネート、ポリシラン、ポリイソシアニド、ポリアセチレン等の合成高分子、更には、立体規則性が制御されることにより高分子主鎖が螺旋構造を形成するイソタクチックビニルポリマー等の合成高分子などが知られている。
近年、生体模倣をキーワードとした研究が盛んに行われているが、特に生体分子が形成する螺旋構造に着目し、機能を有する上述したような螺旋構造を形成する合成高分子に関する研究開発が精力的に行われている。
例えば、特許文献1に開示されている光学活性なメタクリル酸トリフェニルメチルの重合体は螺旋構造を持つことにより、高い旋光度を有し、この化合物自身が光学分割剤として有用であることが記載されている。
また、特許文献2には光学活性なポリ(メタ)アクリルアミド化合物が開示されており、この化合物が持つ光学活性な側鎖に基づく不斉構造により、ラセミ体混合物をそれらの光学対掌体に分離するための吸着剤として有用なことが記載されている。
更に、特許文献3には、ポリ(カルボキシアリールアセチレン誘導体)の塩が光学活性なアミノ酸や光学活性なアミノアルコール存在下、水中で長波長領域に円二色性を示すという独特の性質があり、キラルセンサーや光学分割剤として有用であることが記載されている。
そして特許文献4には光学活性な高分子化合物を用いた液晶組成物が開示されている。
更にまた、基礎的研究としては、不斉炭素を側鎖に有するポリイソシアネートやポリシランにおいて、高分子主鎖が形成する螺旋構造の剛直棒状な性質を利用して、液晶を発現させるためのメソゲンとして機能させ、有機溶媒系、またはサーモトロピック系で剛直主鎖型液晶を発現させている例がある(特許文献5)。
【0003】
液晶性を付与することは、電子、光機能高分子材料として有用であるため、産業上の利用分野が多いことから、重要である。液晶性の付与は側鎖に液晶部位を持たせた側鎖型液晶については容易に達成でき、多数の研究例が報告されている。近年、特に着目されている導電性高分子の代表例であるポリアセチレンについても側鎖型液晶の報告がされている(特許文献6)。
しかし、核酸や多糖が濃厚水溶液中で液晶構造を発現させる一方で、生体模倣材料としての観点から、或いは基礎研究としても、上述したような合成螺旋高分子が水溶液中で、剛直主鎖型液晶を発現させた例は無い。
また、上記特許文献3等を始めとして、種々のキラルセンサーがこれまでに開示されているが、産業分野では、一層高感度の不斉識別能力を有する材料が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開昭56−106907号公報
【特許文献2】特開昭63−1446号公報
【特許文献3】特開2001−294625号公報
【特許文献4】特開平1−79230号公報
【特許文献5】特開2001−164251号公報
【特許文献6】特開平2−227425号公報
【特許文献7】特開平9−176243号公報
【特許文献8】特開2001−294626号公報
【特許文献9】特開2001−294626号公報
【特許文献10】特開2003−55410号公報
【特許文献11】特開2003−292538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来に例がない合成螺旋高分子の水系剛直主鎖型液晶組成物を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶組成物を提供すること、及びキラルセンサーとして利用できる水系剛直主鎖型液晶組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物を含有してなる液晶組成物に関する。
また、本発明は、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物の液晶材料としての使用(use)に関する。
【0007】
また、本発明は、合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物、又はそれを含有してなる液晶組成物を利用したキラルセンサー、その使用方法、及びそれを用いたキラリティーの測定方法に関する。
さらに、本発明は、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物、又はそれを含有してなる液晶組成物のキラルセンサーとしての使用(use)に関する。
【0008】
即ち、本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、合成螺旋高分子の側鎖に水溶液中で遊離し易い酸性、又は塩基性置換基を導入し、酸性置換基を有する高分子に対しては、塩基性水溶液中で処理し、塩基性置換基を有する高分子に対しては、酸性水溶液中で処理して、塩とすることにより、水溶液中で、長距離秩序を生み出し易いイオン相互作用を利用して、合成螺旋高分子の塩が形成する主鎖螺旋構造を安定で剛直な性質にし、液晶を形成させることが出来ることを見出し、本発明を完成するに到った。
また、併せて、当該合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物は、光学活性化合物の添加により、形態を変化させること、更には、形成するコレステリック液晶の螺旋構造周期が光学活性化合物の添加量、及び、光学純度に依存することをも見出し、新規で且つ有用なキラルセンサーに係る本発明をも完成するに到った。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、合成螺旋高分子の塩からなる濃厚水溶液が剛直な螺旋分子をメソゲンとする剛直主鎖型液晶化合物であること、及びそれを含有する水系組成物が液晶を形成することを初めて見出した点に顕著な効果を奏するものである。
また、本発明に係る上記合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物は、不斉識別能を有し、光学活性化合物の添加量、及び光学純度に依存して、形成するコレステリック液晶の螺旋構造周期が高感度に変化し、キラルセンサーとしての利用が大いに期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子として用いられる合成高分子の具体例としては、側鎖に不斉炭素を導入すること等により主鎖に螺旋構造を誘起し得るポリイソシアネート、ポリシラン、ポリイソシアニド、ポリアセチレン等の合成高分子や、立体規則性が制御されることにより高分子主鎖が螺旋構造を形成するイソタクチックビニルポリマー等の合成高分子が挙げられる。
これらの高分子の中で、特に、ポリアセチレンは、主鎖に螺旋構造を誘起させ易いことや、多様な機能を有するポリアセチレン誘導体が容易に合成できることから好ましい。
また、これら不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない螺旋高分子は、安定な液晶相を形成させるという意味からは、主鎖に不斉炭素を実質的に含まないホモポリマーであることが好ましいが、分子末端等に不斉炭素を導入することが、却って、主鎖螺旋分子が安定で剛直になり、液晶を形成し易くなることもあるため、本発明の主たる目的を阻害しない範囲で、また、むしろ効果的である場合などには、少量の不斉炭素を主鎖に含ませても良く、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体であっても良い。また、これらの1成分以上のブレンドであっても良い。
本発明における「剛直」とは、安定した一定の立体構造を保持することができることを意味している。このような安定性を確保するための化学構造としては、比較的嵩高い置換基が導入されて元素−元素結合、例えば炭素−炭素結合における自由回転を制限する構造や、二重結合などの多重結合により結合軸における回転が起こりにくい構造などが例示される。
また、本発明における「剛直主鎖型」とは、高分子主鎖が形成する螺旋構造の剛直棒状な性質が、液晶を発現させるためのメソゲンとして機能することを意味している。
さらに、本発明における「水系」とは、有機溶媒を含有することを排除するものではないが、実質的に水を溶媒として使用する系であることを意味している。
【0011】
上記の分子末端等に導入する不斉炭素を主鎖に含む化合物としては、天然、非天然の光学活性なアルコール、カルボン酸、アミン、又はアミノ酸等が特に制限されることなく対象となる。不斉炭素が主鎖中で占める割合は、螺旋高分子の性質に依存するため、一概には言えないが、通常40%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0012】
本発明の液晶組成物は、剛直な主鎖螺旋分子が液晶を形成するためのメソゲンとして機能する剛直主鎖型液晶化合物を成分として含有するものであり、既存の低分子液晶に類似した液晶を形成させるための液晶セグメントを高分子側鎖に導入した側鎖型液晶や、既存の低分子液晶を形成するメソゲンと柔軟なアルキル基やアルコキシ基等のスペーサーが交互に連結された高分子で発現する主鎖型液晶を成分とするものとは異なるものである。
本発明の液晶組成物は、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物、及び液晶用の担体を含有してなるものである。本発明の液晶組成物における担体としては、室温で液体状の溶媒が挙げられる。好ましい担体としては、蒸留水、脱イオン水などの水が挙げられる。
【0013】
本発明に係る、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩は、塩を形成し得る官能基を有し、該官能基としては、塩を形成し得れば、特に制限はないが、ヘテロ原子を含むのが好ましく、例えば、カルボキシル基、硫酸基、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸基、燐酸エステル基、アミノ酸残基等が挙げられる。特に、上記へテロ原子として、窒素原子や燐原子を含む、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸基、燐酸エステル基、アミノ酸残基等がより好ましい。
置換アミノ基としては、N−モノ置換アミノ基、、N,N−ジ置換アミノ基の何れでも良く、具体例としては、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−イソプロピルアミノ基等のN−モノアルキルアミノ基、N、N−ジメチルアミノ基、N、N−ジエチルアミノ基、N、N−ジプロピルアミノ基、N、N−ジイソプロピルアミノ基等のN,N−ジアルキルアミノ基、N−エチル−N−(β−ヒドロキシエチル)アミノ基、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)アミノ基等が挙げられる。
アミノアルキル基としては、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基等が挙げられる。
置換アミノアルキル基は、上述の如き置換アミノ基を有するアルキル基であり、当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
アミノ酸残基としては、天然及び非天然アミノ酸の何れでも良いが、水への溶解性や主鎖螺旋構造を剛直にする観点から、側鎖のアミノ基又はカルボキシル基を利用してペプチド結合を介して側鎖に導入するのが好ましい。
燐酸エステル基としては、例えば、燐酸モノメチルや燐酸モノエチル等が挙げられる。
【0014】
本発明の不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない螺旋高分子の塩からなる水系剛直主鎖型液晶を形成するための化学構造としては、高分子側鎖に塩を形成し得る官能基を有するものであることを要するが、当該官能基としては、塩を形成し得れば、特に制限はなく、例えば、カルボキシル基、硫酸基、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸基、燐酸エステル基、アミノ酸残基等が挙げられる。上記の官能基のうち、ヘテロ原子を含む官能基、例えば、硫酸基、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸基、燐酸エステル基、アミノ酸残基等は、特に塩を形成し易いため好ましく、更に、窒素原子や燐原子を含むアミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸エステル基、アミノ酸残基等はより好ましい。また、上記官能基を有すると同時に、剛直な螺旋構造を形成し易くするために、高分子側鎖のα位、β位、又はγ位の何れかに一つ以上のジメチル基、ジエチル基、ジプロピル基、イソプロピル基、2−メチルブチル基等の脂肪族置換基やフェニル基、ビフェニル基等の芳香族置換基等の嵩高い置換基を有していることが好ましい。これら塩を形成させるための官能基と、螺旋構造を剛直にするための嵩高い置換基は、高分子側鎖にどのように導入されていても良いが、水溶性を損なわせないようにする観点から、塩を形成させるための上記の如き官能基は、螺旋を剛直にするための上記の如き嵩高い置換基の末端に導入することが好ましい。即ち、螺旋高分子主鎖に、先ず上記した如き嵩高い置換基が結合し、その嵩高い置換基の先に上記した如き官能基が導入されているのが好ましい。また、上記塩を形成させるための官能基がアミノ酸残基の場合には、上記した如く、側鎖のアミノ基又はカルボキシル基を利用してペプチド結合を介して導入されているのが好ましい
また、上記した如き、塩を形成させるための官能基と嵩高い置換基の、螺旋高分子への導入量は、水溶性、及び主鎖螺旋高分子の剛直性が損なわれない範囲で調製されれば良く、高分子の全てのモノマー単位に導入されたホモポリマーであっても、導入されたモノマーと導入されていないモノマーとの共重合体であっても良い。
【0015】
本発明に係る側鎖に塩を形成し得る官能基を有する合成螺旋高分子の水溶性の塩の中で、特に、上記した如き側鎖を有するポリアセチレン誘導体が、剛直な主鎖螺旋構造を形成し易いため、好ましい。
このようなポリアセチレン誘導体としては、上述の如き官能基と置換基を有する脂肪族、又は芳香族側鎖からなるポリアセチレン誘導体であれば何れのものでも良いが、より好ましい例としては、例えば、下記一般式[1]
【化1】

(式中、nは重合度を示し、環Arは、炭素数5〜18のアリール基又はヘテロアリール基を示し、Xは塩を形成し得る官能基を示す。)
で表されるポリアリールアセチレン誘導体が挙げられる。
【0016】
上記一般式[1]において、nで示される重合度は、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。
また、環Arで示される炭素数5〜18のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等の炭素数5〜18の単環式、縮合環式又は多環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、キノリル基などの1〜3個の窒素原子、酸素原子又はイオウ原子をヘテロ原子として有する5〜8員の単環式、縮合環式又は多環式のヘテロアリール基が挙げられる。
上記一般式[1]において、Xで示される塩を形成し得る官能基としては、上記本発明に係る、側鎖の塩を形成し得る官能基の説明のところで述べた通りである。
これらXで示される塩を形成し得る官能基の中でも、ヘテロ原子を含む官能基がより好ましいが、そのようなヘテロ原子を含む官能基のヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、燐原子等が好ましいものとして挙げられる。
また、このようなヘテロ原子を含む官能基の具体例としては、例えば、カルボキシル基、硫酸基、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、燐酸基、燐酸エステル基、アミノ酸残基(側鎖のアミノ基又はカルボキシル基を利用してペプチド結合を介して導入されているのが好ましい)等がより好ましいものとして挙げられる。これらの官能基を有するポリアリールアセチレン誘導体の塩が水に対する溶解度が高く、且つ螺旋構造を剛直にし、濃厚水溶液中で、液晶を発現させ易いためである。
置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、アミノ酸残基、リン酸エステル基については、上で述べた通りである。
これらの官能基の置換位置は、上記アリール基又はヘテロアリール基の何れの位置に置換されていても良い。
本発明の新規なポリ(アミノアルキル置換フェニルアセチレン)化合物の、ベンゼン環における置換基のアミノアルキル基としては、次の一般式、
−R−N(R)R
で表されるものである。
前記式中のRは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の直鎖状又は分枝状のアルキレン基を示す。R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の直鎖状又は分枝状のアルキル基、又は炭素数2〜21、好ましくは2〜11、より好ましくは2〜6の直鎖状又は分枝状のアルキルカルボニル基を示す。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などが挙げられる。また、このようなアルキルカルボニル基としては、各種のカルボン酸から誘導されるアシル基が挙げられ、例えば、脂肪族カルボン酸から誘導されるアセチル基、プロピオニル基などや、アミノ酸、好ましくはα−アミノ酸から誘導されるグリシル基などが挙げられる。
これらのアルキル基やアルキルカルボニル基におけるアルキル基はさらに1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、グアニジノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
【0017】
上記した如き塩を形成させるための官能基の、螺旋高分子への導入量は、結果として得られるポリアリールアセチレン誘導体の塩の水溶性、及び主鎖螺旋分子の剛直性が損なわれない範囲で調製されれば良く、高分子の全てのモノマー単位に上記官能基が導入されたホモポリマーであっても、上記官能基が導入されたモノマーと導入されていないモノマーとの共重合体であっても良い。
【0018】
本発明に係る側鎖に上記した如き官能基を有するポリアリールアセチレン誘導体は、環Arに上記した如き官能基が導入されているものであればよいが、上記した如き官能基の他に更に置換基を有してもよく、このような置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、エステル基などが挙げられる。しかしながら、本発明の化合物の水溶性を保持させるためには、水溶性を阻害するような疎水性の置換基の導入は好ましくない。
また、本発明に係るポリアリールアセチレン誘導体は、結果として得られるポリアリールアセチレン誘導体の塩の水溶性、及び主鎖螺旋分子の剛直性が損なわれない限りにおいては、単独のモノマーのみからなるホモポリマーでも、また、複数のモノマーからなるコポリマーでも何れでも良い。
【0019】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子で、上述したアミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基等を側鎖に有する、即ち塩基性側鎖を有する合成螺旋高分子については、酸性水溶液を用いて処理する。
使用する酸としては、本発明で用いられる塩基性側鎖を有する合成螺旋高分子と塩を形成し得る酸であれば、どのようなものでも良く、例えば、塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硫酸、燐酸、硝酸等の無機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸等の一価飽和脂肪酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、クエン酸、リノール酸、リノレン酸等の多価脂肪酸、乳酸、マンデル酸等のα−ヒドロキシ酸、アミノ酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記処理方法は、ポリアセチレン誘導体、及び上記一般式[1]で表されるポリアリールアセチレン誘導体においても同様である。特に、理由は定かではないが、イオン強度が高いと考えられるハロゲン化水素酸等の強酸で処理したポリアセチレン誘導体の塩が螺旋構造を分子長軸方向に長距離にわたり、剛直、且つ安定にし、液晶を形成させ易くする傾向にあり、好ましい。
【0020】
また、不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子で、上述した燐酸エステル基、アミノ酸残基、カルボキシル基、燐酸基、硫酸基等を側鎖に有する、即ち酸性側鎖を有する合成螺旋高分子を塩にするには、塩基性水溶液を用いて処理する。
使用する塩基としては、本発明で用いる酸性側鎖を有する合成螺旋高分子と塩を形成し得る塩基であれば、どのようなものでも良く、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、フェニルグリシノール、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等のアミン類やアンモニア(水酸化アンモニウム)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記処理方法は、ポリアセチレン誘導体、及び上記一般式[1]で表されるポリアリールアセチレン誘導体においても同様である。
【0021】
上述の塩基性側鎖や酸性側鎖の酸や塩基による中和度は、水溶性、及び主鎖螺旋構造の剛直性が損なわれない範囲であれば、特に限定されるものではないが、酸や塩基による処理において、螺旋高分子の塩の回収率を上げる観点から、完全中和、又は、螺旋高分子の分解を生じさせない範囲でやや過剰に中和を行うのが良い。
溶媒として用いる水は、脱イオン化した蒸留水が好ましく用いられるが、必須ではなく、本発明を阻害しない範囲であれば、水溶性の有機溶剤や無機塩等を少量添加しても良い。
本発明の水系剛直主鎖型液晶は、本発明に係る合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる濃厚水溶液中で発現するものであるが、濃厚水溶液の濃度としては、合成螺旋高分子の種類やその塩の種類により自ずから異なり、一概には言えないが、通常1〜99%、好ましくは2〜99%、より好ましくは5〜95%である。ポリアセチレン誘導体、及び上記一般式[1]で表されるポリアリールアセチレン誘導体においても同様に、1〜99%、好ましくは2〜99%、より好ましくは5〜95%である。
【0022】
本発明の合成螺旋高分子の分子量は、原料モノマーや重合された合成螺旋高分子主鎖の剛直性等によっても異なり、一概には言えないが、通常300以上、好ましくは、1,000以上、より好ましくは3,000以上である。分子量が300未満であると、液晶を形成するための必要条件である剛直なメソゲン、即ち螺旋分子の軸比が低く、液晶を形成させることができない。ポリアセチレン誘導体、及び上記一般式[1]で表されるポリアリールアセチレン誘導体の分子量においても300以上、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上である。
また、イソタクチックビニルポリマーやポリアセチレン誘導体等のように、重合方法により、立体規則性が異なる合成螺旋高分子については、立体規則性が制御され、規則的な螺旋周期構造を形成させるものが、液晶性を発現させ易い。例えば、ポリアセチレン誘導体においては、主鎖構造のシス−トランソイド分率は60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0023】
本発明に係る合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる本発明の水系剛直主鎖型液晶は、また、キラルセンサーとしても利用し得る。
キラルセンサーになり得る化合物は、濃厚水溶液中で剛直主鎖型液晶を形成する螺旋高分子の水溶性の塩であって、光学活性化合物と相互作用した結果、形態等が変化する化合物であれば、何れの螺旋高分子の塩でもよいが、それ自体不斉炭素をもたない合成螺旋高分子の水溶性の塩が好ましく、実用上は、更にその変化を適当な手段で調べることができるものがより好ましい。
本発明に係る、螺旋高分子の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶、就中、それ自体不斉炭素をもたない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる剛直主鎖型液晶は、光学活性な化合物の存在下で、形態を変化させ、その変化は直行ニコル下で顕微鏡観察を通して、その特徴的な光学組織から、容易に定量化できる。即ち、当該螺旋高分子の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶は、光学活性な化合物の存在下で、コレステリック液晶を形成し、光学活性化合物の添加量、及び光学純度に依存して、コレステリック螺旋構造周期が変化する。このコレステリック螺旋構造周期は、直行ニコル下で顕微鏡観察を通して、その特徴的な光学組織である縞状組織の間隔を2倍にすることにより、容易に測定できる。この現象は、螺旋高分子の塩が形成する主鎖螺旋構造の巻き方向に偏りが生じたことによるものと考えられる。このことは、当該螺旋高分子の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶が、キラルセンサーとして有用であることを意味している。
【0024】
検出手段としては、他に、螺旋高分子主鎖に由来する円偏光二色性の吸収から調べることもできるが、光学活性化合物自体の吸収が重なる場合があり、定量的に解析することが困難な場合がある。そのような観点から、顕微鏡を手段とする検出方法は障害をもたないので、利用価値が高い。
しかし、螺旋高分子の中でも、ポリアセチレン誘導体は、350nm近傍という長波長領域に主鎖に由来する円偏光の吸収があるため、光学活性化合物自体の吸収と重なることは少ない。検出機器に、幾分多様性を有するという観点から、ポリアセチレン誘導体の塩からなる液晶を利用したキラルセンサーがより有効である。
【0025】
キラルセンサーとして利用できる螺旋高分子の塩としては、本発明に係る、濃厚水溶液中で剛直主鎖型液晶を形成する螺旋高分子の塩であれば、何れの螺旋高分子の塩でも使用できるが、特に、不斉炭素を主鎖、及び側鎖にもたない螺旋高分子の塩が、キラルセンサーとしての感度に優れているため、好ましい。この理由は、不斉炭素を主鎖、及び側鎖にもたない螺旋高分子の塩が形成する主鎖螺旋構造が、元々、右巻き螺旋構造と左巻き螺旋構造の両螺旋構造を等量有するラセミ混合物であり、光学活性化合物が存在しない条件下では単独で形成される液晶がネマチック液晶、スメクチック液晶、カラムナー液晶等の光学不活性な液晶であるため、少量の光学活性化合物に対しても、その形態が著しく変化するためであると考えられる。
水中又は液晶場で不斉を検出した例はこれまで殆どなく、公知例では、ポリアセチレン誘導体において、希薄水溶液中で円偏光二色性により、不斉を検出したものが、本発明者らによる特許文献3及び7〜11に開示されているが、不斉識別感度は、当該螺旋高分子の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶場のものの方が数倍〜数百倍以上優れている。
【0026】
本発明のキラルセンサーが識別可能な光学活性化合物としては、特に制約はないが、光学活性化合物が合成螺旋高分子の塩が形成する主鎖螺旋構造の巻き方向に影響を与え得るものであり、且つ水溶性が僅かでもあれば良い。特に、理由は明らかではないが、ポリアセチレン誘導体の塩においては、フェニル乳酸やマンデル酸等のように、カルボキシル基、水酸基、及び芳香環を同時に有する光学活性化合物が、ポリアセチレン誘導体の塩が形成する主鎖螺旋構造の巻き方向に影響を与え易くキラルセンサーとしての効力を発揮しやすいので好ましい。
したがって、本発明は、前記した本発明の液晶化合物のキラルセンサーとしての使用、及びそれを用いたキラリティーの測定方法を提供するものである。
本発明のキラリティーの測定方法としては、前記した本発明の化合物の溶液又は液晶組成物の中に被検物質を添加して、前記した方法により、本発明の化合物の状態の変化を測定することからなる。例えば、偏光顕微鏡を使用する方法としては、本発明の不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩、又はそれを含有してなる液晶組成物に被検物質を添加して、縞状組織の変化を検出、同定、又は定量化することにより行うことができる。
【0027】
上述の如く、本発明者らは、合成螺旋高分子を塩とすることで、長距離秩序を生み出すイオンの相互作用を利用して、合成螺旋高分子の塩が形成する主鎖螺旋構造の剛直性を高め、水中で液晶にするという、単純ではあるが新しい発想により、本発明の新規な液晶化合物を見出すに到ったのである。
本発明は、環境面からも好ましい水系で、不斉認識等の機能を付与した従来にない液晶材料や電子、光機能高分子材料を提供し得る点で極めて有用である。
【0028】
以下、参考例、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら参考例、実施例により何ら限定されるものではない。
【0029】
参考例:ポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩の合成
(N,N−ジイソプロピル)−4−ブロモベンジルアミン(75mmol)とトリメチルシリルアセチレン(111mmol) とをビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム二塩化物(0.4mmol)、トリフェニルホスフィン(1.2mmol)、及び沃化銅(I)(2.9mmol)の存在下、トリエチルアミン(150ml)中、90℃で41時間反応させた。反応後、生成物をカラムクロマトグラフィーにより分離し(溶離液;酢酸エチル/n−ヘキサン=1/1)、精製した。分離精製物を乾燥後、テトラブチルアンモニウムフルオリド存在下、テトラヒドロフラン中で処理することにより、4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)-フェニルアセチレンを得た。なお、精製は蒸留により行った。沸点:54−56℃/0.13mmHg、収率:32%。
上で得られた4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)-フェニルアセチレン(2.2mmol)を、〔RhCl(NBD)〕2 (NBD=ノルボルナジエン)(22μmol)を触媒として用いて、テトラヒドロフラン4.4ml中、30℃で15分間重合反応させた。反応後、反応液を大過剰の1N塩酸−メタノールに注ぎ、1時間攪拌した後、遠心分離によりポリマーを回収した(収率93%)。
ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコールを標準サンプルとするサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(溶離液:pHを2.6に調整した酒石酸水溶液)により数平均分子量(340,000)、及び分子量分布(2.2)を測定した。生成ポリマーの立体規則性はH NMRスペクトルより、ほぼ100%シス−トランソイドであった。
以下の各実施例で使用した他のポリアセチレン誘導体についても、同様の方法により、合成した。立体規則性は全てほぼ100%シスートランソイドであった。
【実施例1】
【0030】
ポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩からなる液晶相の同定
下式で表される側鎖に置換アミノアルキル基を有するポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩(5mg)をサンプル瓶(2ml容量)中で、20μlの蒸留水に溶解し(20質量%)、密封した状態で室温(約25℃)で1日放置した。開封して、ガラスキャピラリーに詰めた後、再度、密封して液晶観察用試料とした。
【化2】

<測定方法>
液晶相の同定は、株式会社ニコン社製ECLIPSE ME600顕微鏡に偏光子を取り付け、直交ニコル下で観察される光学組織より決定した。測定は、室温(約25℃)で行った。
<結果>
側鎖に置換アミノアルキル基を有する上記ポリアリールアセチレン誘導体の塩酸塩は、0〜80℃度の温度範囲で、ネマチック液晶を形成した(顕微鏡観察)。
【実施例2】
【0031】
ポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)クエン酸塩からなる液晶相の同定
下式で表されるポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)のクエン酸塩について、実施例1と同様にして液晶観察用試料を調製し、実施例1と同様にして液晶相の同定を行った。
【化3】

<結果>
側鎖に置換アミノアルキル基を有する上記ポリアリールアセチレン誘導体のクエン酸塩は、0〜80℃度の温度範囲で、ネマチック液晶を形成した(顕微鏡観察)。
【実施例3】
【0032】
ポリ(4−(エトキシ−ヒドロキシ−ホスホリル)−フェニルアセチレン)ナトリウムからなる液晶相の同定
下式で表される側鎖に燐酸エステル基を有するポリアリールアセチレン誘導体のナトリウム塩(数平均分子量:19,000、分子量分布:3.5)を試料として用いて、実施例1と同様にして液晶観察用試料を調製し、実施例1と同様にして液晶相の同定を行った。
【化4】

<結果>
側鎖に燐酸エステル基を有する上記ポリアリールアセチレン誘導体のナトリウム塩は、0〜80℃度の温度範囲で、ネマチック液晶を形成した(顕微鏡観察)。
【実施例4】
【0033】
ポリ((R)−4−(2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−4−カルボキシ−ブチリルアミノ)−フェニルアセチレン)ナトリウムからなる液晶相の同定
下式で表される、側鎖にペプチド結合を介してアミノ酸残基であるグルタミン酸残基を有するポリアリールアセチレン誘導体のナトリウム塩(数平均分子量:623,000、分子量分布:2.2)を試料として用いて、実施例1と同様にして液晶観察用試料を調製し、実施例1と同様にして液晶相の同定を行った。
【化5】

側鎖にペプチド結合を介してアミノ酸残基であるグルタミン酸残基を有する上記ポリアリールアセチレン誘導体のナトリウム塩は、0〜80℃度の温度範囲で、コレステリック液晶を形成した(顕微鏡観察)。コレステリック螺旋構造の周期は9.6μmであった。
なお、コレステリック液晶の螺旋周期は、顕微鏡で観察される縞状組織の縞間隔を2倍にすることにより求めた。
【実施例5】
【0034】
実施例1で用いたポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩の水溶液に、光学活性化合物として、(S)−フェニル乳酸ナトリウムを添加したところ、コレステリック液晶を示した。光学活性化合物の添加量を変えて、コレステリック螺旋構造の周期を測定した結果を表1に示す。
なお、コレステリック液晶の螺旋周期は、顕微鏡で観察される縞状組織の縞間隔を2倍にすることにより求めた。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、コレステリック螺旋構造の周期が、光学活性化合物の添加量に敏感に応答していることが判る。このことは、コレステリック螺旋構造周期を指標として、高感度に、光学活性化合物の量を検出することができることを示すものであり、キラルセンサーとしての利用が可能であることが立証された。
【実施例6】
【0037】
実施例1で用いたポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩に対して、光学活性化合物として、フェニル乳酸ナトリウム((S)−体優勢)を0.1当量の割合で固定し、光学純度を種々変えて、コレステリック螺旋構造の周期を実施例5と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、コレステリック螺旋構造の周期は、光学活性化合物の光学純度に依存している。このことは、コレステリック螺旋構造周期を指標として、光学活性化合物の光学純度を検出することができることを示すものであり、キラルセンサーとしての利用が可能であることが判る。
【0040】
比較例1
実施例3で用いたポリ(4−(エトキシ−ヒドロキシ−ホスホリル)−フェニルアセチレン)を塩にせずに、蒸留水を溶媒として液晶形成能を調べた。水への溶解性が乏しく、不溶部分が少量残るものの、1〜95質量%の濃度範囲の試料を調製した。5〜80℃の温度範囲で顕微鏡観察を行ったが、溶解している部分と不溶部分の何れも液晶を形成しなかった。溶解している部分は、顕微鏡下で暗視野であり、等方相であった。原因としては、溶解度が低いため、体積密度が低く、液晶を形成しなかった故か、或いは塩ではないため、溶解している部分であっても、主鎖の剛直性が低く、螺旋分子がメソゲンとして機能しなかった故のどちらかであると考えられる。
【0041】
比較例2
実施例3で用いたポリ(4−(エトキシ−ヒドロキシ−ホスホリル)−フェニルアセチレン)を塩にせずに、ジメチルスルホキシド中における液晶形成能を調べた。ジメチルスルホキシドに対する溶解性は優れており、1〜95質量%の濃度範囲の均一な試料を調製できた。20〜80℃の温度範囲で顕微鏡観察を行ったが、顕微鏡下で試料は暗視野であり、等方相であった。塩ではない高分子主鎖の剛直性は低く、螺旋分子がメソゲンとして機能しないことを示している。
【0042】
比較例3
実施例3で用いたポリ(4−(エトキシ−ヒドロキシ−ホスホリル)−フェニルアセチレン)ナトリウム塩に対して、ジメチルスルホキシド中における液晶形成能を調べた。ジメチルスルホキシドに対する溶解性は良くないが、他の有機溶剤に比べれば、溶解力が優れているため、少量の不溶部を含む1〜95質量%の濃度範囲の試料を調製した。20〜80℃の温度範囲で顕微鏡観察を行ったが、溶解している部分と不溶部分の何れも液晶を形成しなかった。溶解している部分は、顕微鏡下で暗視野であり、等方相であった。原因としては、溶解度が低いため、体積密度が低く、液晶を形成しなかった故か、或いは有機溶媒中では、主鎖の剛直性を高めるイオン作用の効果が低く、螺旋分子がメソゲンとして機能しなかった故のどちらかであると考えられる。
【0043】
実施例1〜4、及び比較例1〜3の結果から、水系で剛直主鎖型液晶を形成させるためには、高分子を塩にすることが必要であることが判る。
【0044】
比較例4(希薄水溶液試料の円偏光二色性測定)
実施例5において、ポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩の20質量%水溶液の代りに、0.1質量%水溶液を試料として、日本分光株式会社製J−820型円二色性分散計を使用して、360nm近傍のポリアセチレン主鎖の吸収の可否により、希薄水溶液中の不斉識別限界を調べたところ、円偏光二色性による検出限界は0.001当量であり、感度が1/10以下であった。
【0045】
比較例5(希薄水溶液試料の円偏光二色性測定)
実施例6において、ポリ(4−(N,N−ジイソプロピルアミノメチル)−フェニルアセチレン)塩酸塩の20質量%水溶液の代りに、0.1質量%水溶液を試料として、日本分光株式会社製J−820型円二色性分散計を使用して、360nm近傍のポリアセチレン主鎖の吸収の可否により、希薄水溶液中の不斉識別限界を調べたところ、円偏光二色性による検出限界は5%であり、感度は1/5以下であった。
【0046】
実施例5、6、及び比較例4、5の結果から、合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる濃厚水溶液中で発現する剛直主鎖型液晶を利用した本発明のキラルセンサーが一層高感度であり、有用であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、従来に例がない合成螺旋高分子の水系剛直主鎖型液晶と、該液晶を利用したキラルセンサーを提供するものである。従って、本発明は、今後、環境面からも好ましい水系で、不斉認識等の機能を付与した従来にない液晶材料や電子、光機能高分子材料を提供し得る点で極めて有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物を含有してなる液晶組成物。
【請求項2】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子が、側鎖に塩を形成し得る官能基を有する合成螺旋高分子である、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子が、側鎖に塩を形成し得る、ヘテロ原子を含む官能基を有する合成螺旋高分子である、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項4】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子が、ポリアセチレン誘導体である、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項5】
ポリアセチレン誘導体が、下記一般式[1]
【化6】

(式中、nは重合度を示し、環Arは、炭素数5〜18のアリール基又はヘテロアリール基を示し、Xは塩を形成し得る官能基を示す。)
で表されるポリアリールアセチレン誘導体である、請求項4に記載の液晶組成物。
【請求項6】
一般式[1]において、Xが塩を形成し得る、ヘテロ原子を含む官能基である請求項5に記載の液晶組成物。
【請求項7】
ヘテロ原子を含む官能基のヘテロ原子が、窒素原子又は燐原子である請求項6に記載の液晶組成物。
【請求項8】
一般式[1]において、Xで示される塩を形成し得る官能基が、アミノ基、置換アミノ基、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ピリジル基、アミノ酸残基又はリン酸エステル基である、請求項5に記載の液晶組成物。
【請求項9】
合成螺旋高分子の水溶性の塩が無機酸又は有機酸の塩である請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項10】
合成螺旋高分子の水溶性の塩がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩又はアンモニウム塩である請求項9に記載の液晶組成物。
【請求項11】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物を含有してなるキラルセンサー。
【請求項12】
合成螺旋高分子が不斉炭素をもたない合成螺旋高分子である、請求項11に記載のキラルセンサー。
【請求項13】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子が、ポリアセチレン誘導体である、請求項11に記載のキラルセンサー。
【請求項14】
ポリアセチレン誘導体が、下記一般式[1]
【化7】

(式中、nは重合度を示し、環Arは、炭素数5〜18のアリール基又はヘテロアリール基を示し、Xは塩を形成し得る官能基を示す。)
で表されるポリアリールアセチレン誘導体である、請求項13に記載のキラルセンサー。
【請求項15】
不斉炭素をもたない上記一般式[1]で表されるポリアリールアセチレン誘導体の水溶性の塩からなる請求項14に記載に記載のキラルセンサー。
【請求項16】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物のキラルセンサーとしての使用。
【請求項17】
不斉炭素を主鎖の主たる構成成分としない合成螺旋高分子の水溶性の塩からなる水系剛直主鎖型液晶化合物の存在下に、被検物質を添加して、前記水系剛直主鎖型液晶化合物による縞状組織を測定することからなる被検物質のキラリティーを測定する方法。
【請求項18】
測定が、偏光顕微鏡によるものである請求項17に記載の方法。



【国際公開番号】WO2005/080500
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510177(P2006−510177)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001346
【国際出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】