説明

水系塗料組成物及び熱遮蔽塗料

【課題】高い熱遮蔽性をもつ熱遮蔽塗料を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】本発明の水系塗料組成物は、球状金属酸化物粒子含む無機物粒子が配合されていることを特徴とする。水系塗料組成物には種々の化合物などが配合されているが、球状金属酸化物粒子を含有させることで、前述のように、高い太陽光反射性を有することが可能になった。本発明者らは従来から真球性の高い無機物粒子の開発を行っており、その真球性の高い無機物粒子を開発する中で、真球性が高い無機物粒子が非常に高濃度で液体中に分散できることを見いだし、塗料組成物に応用することに想到した。太陽光の反射性に優れる無機物粒子を大量に含有させることが可能になることで、熱遮蔽性も向上することを確認し本発明を完成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料組成物及び熱遮蔽塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネ意識の高まりや、法規制の強化などにより、エネルギー効率の向上が望まれている。そこで、各種建築物、車両などの冷房効率化、遮熱化を目的として、太陽光からの熱遮蔽性を有する熱遮蔽性塗料が提案されている(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ペイントニュースリリース、平成12年7月24日、日本ペイント株式会社、インターネット〈URL:http://www.nipponpaint.co.jp/news/2000/wn0724.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は更に高い熱遮蔽性をもつ水系塗料組成物及びその性質を利用した熱遮蔽塗料を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ところで、本発明者らは従来から真球性の高い無機物粒子の開発を行っている。その真球性の高い無機物粒子を開発する中で、真球性が高い無機物粒子が非常に高濃度で液体中に分散できることを見いだし、塗料組成物に応用することに想到した。太陽光の反射性に優れる無機物粒子を大量に含有させることが可能になることで、熱遮蔽性も向上することを確認し以下の発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の水系塗料組成物は、球状金属酸化物粒子含む無機物粒子が配合されていることを特徴とする。水系塗料組成物には種々の化合物などが配合されているが、球状金属酸化物粒子を含有させることで、前述のように、高い太陽光反射性を有することが可能になった。
【0007】
特に、前記球状金属酸化物粒子は比表面積が30m/g以下であることが望ましい。比表面積をこの範囲に制御することで、より多くの球状金属酸化物粒子を水系塗料組成物に含有させることが可能になる。このような球状金属酸化物粒子を製造する方法としては、含酸素雰囲気下にて金属粉末を酸化させる方法があり、この方法により得られる球状金属酸化物粒子を水系塗料組成物に含有させることが望ましい。また、前記球状金属酸化物粒子は火炎溶融法にて製造されたものであることも望ましい。
【0008】
そして、前記球状金属酸化物粒子はシリカであることが望ましい。また、前記無機物粒子以外の不揮発分の質量を100質量部とした場合に、該無機物粒子の含有量が60質量部以上であることができる。無機物粒子をこの範囲で含有させることで、より高い性能が発揮できる。特に、無機物粒子としては球状金属酸化物粒子以外のものを実質的に含有しないことが望ましい。ここで、前記球状金属酸化物粒子の真球度は0.7以上であるものが好ましい。
【0009】
そして、上記課題を解決する本発明の熱遮蔽塗料は、上述の本発明の水系塗料組成物を有するものである。上述の水系塗料組成物は球状金属酸化物粒子を含有するので高い太陽光反射性を有し、高い熱遮蔽性が実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系塗料組成物は、球状金属酸化物粒子を含有することで、高い太陽光反射性を付与することができる。従って、この水系塗料組成物を採用した熱遮蔽塗料は高い性能が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の水系塗料組成物及び熱遮蔽塗料について詳しく説明する。なお、本発明の水系塗料組成物及び熱遮蔽塗料は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0012】
〈水系塗料組成物及び熱遮蔽塗料〉
本発明の水系塗料組成物は球状金属酸化物粒子を含む無機物粒子が配合されている。本発明の水系塗料組成物の形態は特に限定されず、水中にバインダーなどがエマルジョンとして分散されたエマルジョン系や、水溶性のバインダーを採用したものなどである。本発明の熱遮蔽塗料は本発明の水系塗料組成物を有するものである。
【0013】
ここで、球状金属酸化物粒子の組成は特に限定しないが、含有する金属としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどが挙げられる。コストや、性能などの観点からはケイ素を用いたシリカが望ましい。球状金属酸化物粒子以外には無機物粒子を実質的に含有しないことが望ましいが、必要に応じて、球状金属酸化物粒子以外の無機物粒子を含有させることも可能である。例えば、必要な塗装色を実現するための顔料である。
【0014】
球状金属酸化物粒子は球状であることのほかは特に限定しないが以下に示すものが望ましい。まず、比表面積が30m/g以下であることが望ましく、10m/g以下であることがより望ましい。比表面積が小さいほど、球の形状により近く、水系塗料組成物中への充填性を高くできる。比表面積は窒素を用いたBET法にて測定した値である。
【0015】
そして、球状金属酸化物粒子の真球度が0.7以上であることが望ましく、0.8以上であることがより望ましい。ここで、本明細書中における「真球度」とは、SEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(真球度)={4π×(面積)÷(周囲長)}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0016】
球状金属酸化物粒子の粒径は、体積平均粒径が好ましくは0.05μm〜20μm程度、より好ましくは0.2μm〜10μm程度のものが例示される。球状金属酸化物粒子の粒径をこの範囲に制御することで、充分な太陽光の反射性と、乾燥後の塗料被膜の滑らかさとが両立できる。
【0017】
このような球状金属酸化物粒子はどのように製造されたものでも構わないが、含酸素雰囲気下にて金属粉末を酸化させて得られる方法(VMC法)や、火炎溶融法などが好ましい方法として挙げられる。
【0018】
VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物粒子の一部を構成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物粒子を得る方法である。
【0019】
VMC法の作用について説明すれば以下のようになる。まず、容器中に反応ガスである酸素を含有するガスを充満させ、この反応ガス中で化学炎を形成する。次いで、この化学炎に金属粉末を投入し高濃度(500g/m以上)の粉塵雲を形成する。すると、化学炎により金属粉末表面に熱エネルギが与えられ、金属粉末の表面温度が上昇し、金属粉末表面から金属の蒸気が周囲に広がる。この金属蒸気が酸素ガスと反応して発火し火炎を生じる。この火炎により生じた熱は、さらに金属粉末の気化を促進し、生じた金属蒸気と反応ガスが混合され、連鎖的に発火伝播する。このとき金属粉末自体も破壊して飛散し、火炎伝播を促す。燃焼後に生成ガスが自然冷却されることにより、酸化物粒子の雲ができる。得られた酸化物粒子は、バグフィルターや電気集塵器等により捕集される。
【0020】
VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものである。VMC法によれば、瞬時に大量の酸化物粒子が得られる。得られる酸化物粒子は、略真球状の形状をなす。目的とする球状金属酸化物粒子の組成に応じて、例えば、シリカ粒子を得る場合にはシリコン粉末を投入し、アルミナ粒子を得る場合にはアルミニウム粉末を投入する。投入するシリコン粉末などの粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、得られる酸化物粒子の粒子径を調整することが可能である。また、原料物質としては金属微粉末に加えて、金属酸化物粉末も添加することができる。
【0021】
なお、本球状シリカ粒子は、好ましいと考えられるVMC法以外にも、乾式法としての火炎溶融法、PVS(Physical Vapor Synthesis)法等の燃焼法や、湿式法としての沈降法やゲル法などによって製造できる。火炎溶融法は目的とする球状金属酸化物粒子を構成する金属酸化物を粉砕などにより粉末化した後に、火炎中に投入・溶解させた後、冷却・固化させることで、球状金属酸化物粒子を製造する方法である。
【0022】
ここで、球状金属酸化物粒子は、水系塗料組成物に含まれるバインダなどとの密着性を向上させるため、表面処理を施すことができる。例えば、シラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系の各種カップリング剤、カチオン、アニオン、両性、中性の各種界面活性剤を混合することができる。
【0023】
水系塗料組成物は無機物粒子以外にも一般的に含有される組成物を含有することができる。例えば、バインダーや、球状金属酸化物粒子などの無機物粒子を水中に分散させる分散剤、エマルジョン化剤などである。例えば、水系アクリル塗料、水系アルキド-ポリエステル塗料、水系ポリウレタン塗料、水系フッ素樹脂塗料、水系エポキシ塗料、シリコーン変性アクリル塗料などの水系塗料組成物中に含有される組成物を適宜、含有することができる。これらの組成については一般的なものをそのまま採用することが可能なので更なる詳細な説明は省略する。
【0024】
本水系塗料組成物中の不揮発分は無機物粒子以外の質量を100質量部とした場合に、無機物粒子が60質量部以上であることが望ましく、96質量部以上であることがより望まく、130質量部以上であることが更に望ましい。特に、球状金属酸化物粒子が60質量部以上であることが望ましく、96質量部以上であることがより望ましい。
【実施例】
【0025】
本発明の水系塗料組成物について実施例に基づき、更に詳細に説明を行う。
【0026】
(試験用塗料の調製)
水系塗料組成物は株式会社アサヒペン製の水性塗料スーパーハロー(白色、ブルー又はグレー)に水を添加して、不揮発分を50質量%に調整したもの100質量の中に、球状金属酸化物粒子としての球状シリカ(株式会社アドマテックス製、SO−C2、体積平均粒径0.5μm、比表面積6.5m/g、VMC法にて製造)、球状シリカ(東海ミネラル製、ES−07、体積平均粒径7.4μm、比表面積4.6m/g、火炎溶融法にて製造)、又は破砕シリカ(体積平均粒径10μm、比表面積7.0m/g)を表1及び2に示す割合で混合することで調製した。比較例6は市販断熱塗料をそのまま使用して評価を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
(評価)
各実施例及び比較例の試験塗料について、スレート試験片(300mm×300mm)に塗料を150μmの厚さで塗布し、JIS R 3105に従い日光反射率を測定した。更に、同様のスレート試験片に200μmの厚さで塗膜を形成し、屋外に放置して表面温度の経時変化を測定した。日光反射率は表1及び表に2に併せて示し、表面温度の経時変化は表3及び表4に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
(結果)
球状金属酸化物粒子としての球状シリカは、実施例1〜6の結果から明らかなように、48質量部〜65質量部までも実用性を保ったまま、配合することができた。破砕シリカは10質量部は配合することができたが(比較例4)、48質量部配合すると、スレート試験片に塗布した際にぼろぼろで、亀裂、剥がれが生じて実用上、使用することができなかった(比較例5)。
【0033】
表3に示した結果から、実際の屋外における表面温度の測定から球状シリカを配合した実施例1の試験塗料は、塗料を塗布していないときよりも表面温度が低いことはもちろん、球状シリカを含有させていない比較例1や、市販品である比較例6の試験塗料よりも表面温度を低く保つことができることが明らかになり、高い熱遮蔽性を有することが判った。従って、水系塗料組成物中にシリカ微粒子を配合することで熱遮蔽性が発揮できることが判った。
【0034】
また、表4に示した結果から、破砕シリカを10質量部配合した比較例4の試験塗料と比較しても、実施例1の試験塗料を塗布したスレート試験片の表面温度は低く保たれており、高い熱遮蔽性を有することが明らかになった。従って、球状シリカは破砕シリカ(形状は角張った不定形である)よりも高い熱遮蔽性を発揮できることが判った。
【0035】
すなわち、金属酸化物粒子の球状にすることで、大きな割合で水系塗料組成物中に配合することが可能になるのに対して、破砕シリカは球状シリカと同程度配合する場合でも実用的な塗膜を形成することができなかった。
【0036】
その結果、球状シリカも破砕シリカも双方とも熱遮蔽性を有しており、破砕シリカも球状シリカと同程度の熱遮蔽性を発揮する可能性もあるが、多量に配合することが可能な球状シリカは高い熱遮蔽性を充分に発揮できるのに対して、破砕シリカは充分に配合することができないので球状シリカと同程度の熱遮蔽性を発揮することができなかったものと推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状金属酸化物粒子含む無機物粒子が配合されていることを特徴とする水系塗料組成物。
【請求項2】
前記球状金属酸化物粒子は比表面積が30m/g以下である請求項1に記載の水系塗料組成物。
【請求項3】
前記球状金属酸化物粒子は含酸素雰囲気下にて金属粉末を酸化させて得られる粒子である請求項1又は2に記載の水系塗料組成物。
【請求項4】
前記球状金属酸化物粒子は火炎溶融法にて製造されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項5】
前記球状金属酸化物粒子はシリカである請求項1〜4のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項6】
前記無機物粒子以外の不揮発分の質量を100質量部とした場合に、該無機物粒子の含有量が60質量部以上である請求項1〜5に記載の水系塗料組成物。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子以外には実質的に前記無機物粒子を含有しない請求項1〜6のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項8】
前記球状金属酸化物粒子の真球度は0.7以上である請求項1〜7のいずれかに記載の水系塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の水系塗料組成物である熱遮蔽塗料。

【公開番号】特開2012−149269(P2012−149269A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83351(P2012−83351)
【出願日】平成24年3月31日(2012.3.31)
【分割の表示】特願2007−510596(P2007−510596)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【出願人】(506276723)日本中央研究所株式会社 (2)
【Fターム(参考)】