説明

水系接着剤組成物

【課題】コストを抑えることができ、接着力(常態接着力)に優れ、従来の塗工程でそのまま使用することができ、かつ比較的長期間の貯蔵安定性を有する水系接着剤組成物を提供する。
【解決手段】親水基導入率1質量%超10質量%未満の親水基導入樹脂からなる樹脂バルーン(A)を含み、20℃における粘度が15000〜100000mPa・secであり、かつ、比重が0.60〜1.00である水系接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、オフィスなどの建材用途や車両用途等に使用する接着剤において、従来はトルエン、メチルエチルケトン等の溶剤系接着剤が主であったが、近年の環境問題から無溶剤化の方向にあり、溶剤を含有しない水系接着剤等へ代替が進んでいる。既に一部用途において置き換えが進んでおり、例えばカルボキシル基を有するクロロプレンラテックスを用いた水系接着剤は、建材・家具用などの用途で使用されている。
【0003】
従来の水系接着剤は、溶剤系接着剤と比較し、接着力が十分ではない等の課題があった。この課題に対しては、有機充填剤および/または無機充填剤を水系接着剤に配合することによって解決を図ったものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、「接着性樹脂の水分散液(A)に熱膨張済マイクロカプセル(B)が分散されていることを特徴とする水系接着剤」が記載されている。さらに、その水系接着剤では、「熱膨張済マイクロカプセル(予め熱膨張させた熱膨張性マイクロカプセル)が含有されているので、水系接着剤の塗装鋼板面等への接着性、耐湿・耐熱性が大幅に向上する。」と記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、「クロロプレン樹脂を含有するクロロプレンラテックスを含む水系接着剤であって、未発泡の熱膨張性マイクロカプセルが分散されていることを特徴とする水系接着剤」が記載されている。さらに、その水系接着剤では、「接着性樹脂としてクロロプレン樹脂を含有するクロロプレンラテックスを使用しているので、表面に有機塗装を施した鋼板等の難接着材料に対して接着力が向上する。すなわち、クロロプレンラテックスが高い皮膜柔軟性、幅広い被着体への接着性、優れたコンタクト接着性など優れている。また、未発泡カプセルが含有されているので、スプレー塗布安定性が優れている。そして、塗布後、乾燥時等に加熱し、未発泡カプセルを膨張させれば、接着剤の硬化皮膜への湿気の進入を防ぐ等の効果があるので、耐湿・耐熱性が大幅に向上する。」と記載されている。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、「(A)合成高分子を含有する水分散液と、(B)熱膨張性微粒中空体と、(C)無機粉体充填材とからなることを特徴とする易解体性接着パネル用水性接着剤組成物」が記載されている。また、「(A)合成高分子を含有する水分散液は、ポリ酢酸ビニル系、アクリル系高分子、シリコーン系高分子、クロロプレン高分子エラストマー、スチレンブタジエン共重合高分子エラストマーからなる群から選択された1種以上の合成高分子を選択すればよい。」とも記載されている。さらに、「この接着剤を使用した接着パネルは、日常使用する上においては耐水性、耐熱性、接着性などの支障のない品質を有し、不要になったり、解体する必要が生じた時には、加熱することにより、材料破壊することなく剥離可能な状態になり、放置後は、手で力を加えることにより容易に界面剥離でき元の素材に分別することができる。従って、化粧金属板及び多孔質基材を再利用することができ、もし、両方とも損傷が激しく、汚れがひどければ、化粧金属は再溶融すればよく、多孔質基材は粉砕すればよい。よって、産業廃棄物として埋め立て処分することなく、地球環境保全に寄与できる。」と記載されている。
【0007】
従来使用されてきた溶剤系接着剤と水系接着剤とを比較すると、溶剤系接着剤には、コスト的に極めて有利であり、しかも、非常に長きにわたって使用されてきたため、接着剤を使用する現場が溶剤系接着剤に慣れているという利点がある。
【0008】
従って、溶剤系接着剤を水系接着剤で代替しようとする場合には、物性的に代替可能であることは当然であるが、コスト的な課題を解決しつつ、従来と同じ使い勝手で使用できるようにしなければならない。
【0009】
コスト的な課題を解決するための手段としては、接着剤塗布量を単純に下げる、充填剤を配合する等の方法によって、水系接着剤組成物の成分中のコスト的に比較的大きな部分を占めるゴムラテックス/樹脂エマルジョンの消費量を減らすことが試みられてきた。
【0010】
しかし、接着剤塗布量を単純に下げた場合、十分な接着力および接着信頼性を得ることが著しく困難である。接着力を担保するためには、単位面積あたりの塗布量(体積)が、ある程度は必要であり、従来、既に十分な接着力および接着信頼性を担保するために、過不足無い塗布量(体積ベース)が設定されていたからである。
【0011】
そして、水系接着剤組成物に充填剤を配合することは、接着剤のコストを抑えるため、接着剤の体積収縮率を下げるため、または、接着剤を硬くするため等の理由から、重質炭酸カルシウム、シリカ、カオリン・クレー、硫酸バリウム等を充填剤として配合することは従来行われてきたことである。
【0012】
ところが、このような充填剤を配合すると、前記したような効果が得られるが、同時に、接着力の低下、粘度の上昇、比重の増加等の好ましくない副効果も得られる。
【0013】
比重の増加を抑えるためには、比重が小さな充填剤を使用することが考えられる。実際、エポキシ樹脂やウレタン樹脂に、プラスチックバルーンやガラスバルーン等の比重が小さな充填剤を混合した組成物が知られている。
【0014】
しかし、水系接着剤組成物を軽量化しようとして充填剤を配合したものはこれまで無かった。水系接着剤組成物にバルーンを混入してもすぐに浮いて分離してしまうことから、バルーンを長期間安定に均一に分散することはできないと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−281452号公報
【特許文献2】特開2007−091779号公報
【特許文献3】特開2004−123943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、コストを抑えることができ、接着力(常態接着力)に優れ、従来の塗工程でそのまま使用することができ、かつ比較的長期間の貯蔵安定性を有する水系接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水系接着剤組成物に親水基導入率が1質量%超10質量%未満の親水基導入樹脂からなる樹脂バルーンを配合し、20℃における粘度を15000〜100000mPa・sec、比重を0.60〜1.00とすると、コストを抑えることができ、接着力(常態接着力)に優れ、比較的長期間の貯蔵安定性を有し、かつ、従来の塗工程でそのまま使用することができる水系接着剤組成物を提供することができることを知得し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)を提供する。
【0018】
(1)親水基導入率が1質量%超10質量%未満の親水基導入樹脂からなる樹脂バルーン(A)を含み、20℃における粘度が15000〜100000mPa・secであり、かつ、比重が0.60〜1.00である水系接着剤組成物。
【0019】
(2)さらに、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)を含む、上記(1)に記載の水系接着剤組成物。
【0020】
(3)前記ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)が、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスである、上記(2)に記載の水系接着剤組成物。
【0021】
(4)前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスに含まれるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体において、スチレン−ブタジエン成分とアクリル成分との質量比が、{(スチレン−ブタジエン成分)/(アクリル成分)}=90/10〜70/30である、上記(3)に記載の水系接着剤組成物。
【0022】
(5)前記樹脂バルーン(A)の真比重が0.05〜0.70である、上記(2)〜(4)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【0023】
(6)前記樹脂バルーン(A)の平均粒径が10〜200μmである、上記(2)〜(5)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【0024】
(7)さらに、増粘剤(C)を含む、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【0025】
(8)前記増粘剤(C)が、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(7)に記載の水系接着剤組成物。
【0026】
(9)さらに、粘着付与剤(D)を含む、上記(2)〜(8)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【0027】
(10)前記粘着付与剤(D)が、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂および石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(9)に記載の水系接着剤組成物。
【0028】
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の接着剤組成物を使用し、第1の基材と第2の基材とを接着して得られる積層体。
【0029】
(12)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の接着剤組成物を第1の基材の一の表面および第2の基材の一の表面に塗布し、乾燥し、第1の基材と第2の基材とを、該接着剤組成物を塗布した面を向かい合わせて貼り合わせ、コンタクト接着する、上記(11)に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、コストを抑えることができ、接着力(常態接着力)に優れ、従来の塗工程でそのまま使用することができ、かつ、比較的長期間の貯蔵安定性を有する水系接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.本発明の水系接着剤組成物は、親水基導入率が10%未満の親水基導入樹脂からなる樹脂バルーン(A)(以下、単に「樹脂バルーン(A)」という場合がある。)を含み、20℃における粘度が15000〜100000mPa・secであり、かつ、比重が0.60〜1.00である水系接着剤組成物である。
【0032】
(1)樹脂バルーン(A)
樹脂バルーン(A)は、親水基導入率が1質量%超10質量%未満の親水基導入樹脂からなるものであれば、特に限定されない。
【0033】
樹脂バルーン(A)としては、1種類の樹脂バルーンを単独で用いてもよいし、2種以上の樹脂バルーンを組み合わせて使用することもできる。
【0034】
〈親水基導入樹脂〉
本発明では、親水基導入樹脂とは、樹脂ポリマーの主鎖または側鎖に親水基を導入している樹脂をいう。例えば、親水基導入樹脂としては、親水基を有するモノマーと、これと共重合可能なモノマーとを共重合させた共重合体が挙げられる。
【0035】
上記親水基としては、例えば、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ヒドロキシメチル基、アミノメチル基等が挙げられる。これらのうちでも、カルボキシ基またはアミノ基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。
【0036】
上記親水基を有するモノマーとしては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【化1】

[式(1)中、Rは水素基またはメチル基を表し、Rは、Rとは独立に、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ヒドロキシメチル基またはアミノメチル基を表す。]
【0038】
上記共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレンの水素を各種の置換基で置換した化合物が挙げられる。このような化合物として、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;スチレン;メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキル置換スチレン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンなどのジオレフィン;エチレン、プロピレンなどのモノオレフィン;等が挙げられる。
【0039】
上記親水基導入樹脂としては、下記式(i)で表されるモノマー単位および下記式(ii)で表されるモノマー単位を含む共重合体が好ましい。
【0040】
【化2】

[式(i)中、Rは水素基またはメチル基を表す。]
【0041】
【化3】

[式(ii)中、Rは水素基またはメチル基を表し、Rは、Rとは独立に、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ヒドロキシメチル基またはアミノメチル基を表す。Rとしてはメチル基が好ましい。Rとしてはカルボキシ基またはアミノ基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。]
【0042】
上記共重合体は同一分子中に、上記式(i)で表されるモノマー単位はRが水素基であるものとメチル基であるものの両方が存在してもよく、上記式(ii)で表されるモノマー単位はRが水素基であるものとメチル基であるものの両方が存在してもよい。
【0043】
上記親水基導入樹脂としては、(メタ)アクリロニトリル、メタクリル酸およびその他のビニル系モノマーを共重合させたものが好ましく、アクリロニトリル樹脂(AN樹脂)にメタクリル酸およびその他のビニル系モノマーを共重合したものがより好ましい。
【0044】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロニトリル」とは、「アクリロニトリル」または「メタクリロニトリル」を意味するものとする。
【0045】
〈親水基導入率〉
親水基導入樹脂の親水基導入率(以下、単に「導入率」ともいう。)とは、親水基導入樹脂(共重合)においては、共重合体を構成するモノマー単位中の親水基を有するモノマー単位の占める割合をいい、下記式によって計算される。
(親水基を有するモノマー単位の質量/共重合体の質量)×100 [質量%]
親水基導入率は1質量%超10質量%未満である。1質量%未満であると効果がなく、10質量%以上であると樹脂自体が膨潤することにより、樹脂バルーンが破れ易くなる。また、樹脂バルーンの親水性をより向上させる観点から親水基導入率は3質量%以上とすることが好ましい。また、樹脂バルーンが膨潤しすぎないようにする観点から8質量%以下とすることが好ましい。よって、親水基導入率は3質量%以上8質量%以下(すなわち、3〜8質量%)とすることが好ましい。
【0046】
〈樹脂バルーンの真比重〉
上記樹脂バルーンの真比重は、特に限定されないが、0.05〜0.70が好ましい。この範囲内であると、得られる接着剤組成物の比重を1.0以下とすることが容易となり、かつ、樹脂バルーンを水系接着剤組成物中に均一に分散することが容易となるからである。また、真比重は0.05〜0.50がより好ましく、0.10〜0.50がさらに好ましい。
【0047】
〈樹脂バルーンの平均粒径〉
上記樹脂バルーンの平均粒径は、特に限定されないが、20〜200μmが好ましい。この範囲内であると、水系接着剤組成物とよりよく混和することができ、さらに、単位体積あたりの接着体積をより多く確保することができるため、接着力をより向上させる効果がある。また、平均粒径は20〜100μmがより好ましく、20〜50μmがさらに好ましい。
なお、本発明において、樹脂バルーンの平均粒径はメジアン径(D50)をいうものとし、レーザー回析(乾式)によって測定された値である。
【0048】
〈表面処理〉
上記樹脂バルーンは、無機物の表面処理剤または有機物の表面処理剤で表面処理をしてもよい。
無機物の表面処理剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、酸化チタン、チタン、クレー、酸化ケイ素が挙げられる。これらのうちでも、炭酸カルシウムが好ましく、表面無処理炭酸カルシウムがより好ましい。
有機物の表面処理剤としては、例えば、脂肪酸、樹脂酸および脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸のような直鎖飽和脂肪酸;セトレイン酸、ソルビン酸のような不飽和脂肪酸;安息香酸、フェニル酢酸のような芳香族カルボン酸が挙げられる。
樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、ピマル酸、レボピマル酸、イソピマル酸が挙げられる。
脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数8以上の高級脂肪酸のエステルが挙げられる。炭素数8以上の高級脂肪酸のエステルとしては、例えば、パルミチン酸ラウリル、パルミチン酸ステアリル、ステアリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、トリパルミチン、トリステアリンが挙げられる。
表面処理剤の量は、表面処理後の樹脂バルーン中、1.0〜10質量%であるのが好ましい。
【0049】
〈市販の樹脂バルーン〉
上記樹脂バルーンの市販品としては、例えば、マツモトマイクロスフェアMFL−80GCA−AC5(平均粒径(体積平均径) 30μm,真比重 0.23,カルボキシ基導入率 5質量%,AN系コポリマー;松本油脂製薬(株)社製)等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらの樹脂バルーンは、製造元である松本油脂製薬(株)社から購入することができる。
【0050】
(2)水系接着剤組成物
〈粘度〉
本発明の水系接着剤組成物は、20℃における粘度が15000〜100000mPa・secである。
ここで、粘度は、JIS K 7117−2:1991に記載の方法に従い、BL形粘度計(No.4ロータ、6rpm)を用いて20℃で測定した、20℃における粘度である(単位:mPa・sec)。
粘度が、15000mPa・sec以上であると、樹脂バルーンを長期間安定に組成物中に分散させることができ、100000mPa・sec以下であれば、ローラー塗布工程で従来の手順を変更することなく本発明の組成物を使用することができるからである。
〈比重〉
本発明の水系接着剤組成物は、比重が0.60〜1.00である。
ここで、比重は、JIS K 6833:1994に記載の方法に従い、水系接着剤組成物と水とについて、比重カップ法で100mlあたりの質量を測定し、それをもとに算出した比重である(単位:なし)。
コストを抑えるという観点からは、比重は小さい方が望ましい。
【0051】
2.本発明の水系接着剤組成物は、さらに、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)と、増粘剤(C)とを含んでもよい。
【0052】
(1)ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)
本発明の水系接着剤組成物に用いられるゴムラテックスは、ゴムの水分散系であれば特に限定されない。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CP)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体等の、主鎖に不飽和炭素結合をもつゴムのラテックス、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)等の、ポリメチレン型の飽和主鎖をもつゴムのラテックス、エチレノキシド−エピクロロヒドリン共重合体(ECO)等の主鎖に炭素と酸素をもつゴムのラテックス、シリコーンゴム(VMQ)等の主鎖にケイ素と酸素をもつゴムのラテックス、ポリエステルウレタン(AU)、ポリエーテルウレタン(EU)等の主鎖に炭素、酸素および窒素をもつゴムのラテックス等が挙げられる。
【0053】
本発明の水系接着剤組成物に用いられる樹脂エマルジョンは、樹脂の水分散系であれば特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、アクリル−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、酢酸ビニル−アクリル共重合体、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂等のエマルジョンが挙げられる。
【0054】
ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
本発明の水系接着剤組成物に用いるゴムラテックス/樹脂エマルジョンとしては、主鎖に不飽和炭素結合をもつゴムのラテックスが好ましく、クロロプレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンゴムラテックスおよびスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスからなる群から選ばれる1つ以上のゴムラテックスがより好ましく、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスがさらに好ましい。これらは接着力(常態接着力)が特に優れているからである。
【0056】
スチレン−ブタジエンゴムラテックス中に含まれるスチレン成分として、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン等が挙げられ、ブタジエン成分として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。スチレン−ブタジエンゴムラテックスのスチレン比率は、50質量%未満が好ましく、5〜45質量%の範囲がより好ましく、5〜30質量%の範囲がさらに好ましい。この範囲であると、凝集力が強く、接着力(常態接着力)に優れるからである。
【0057】
スチレン−ブタジエン共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。
【0058】
スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス中に含まれるアクリル成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。より詳細には、例えば、(メタ)アクリル酸とアルキルアルコールとのエステルが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が例示される。
【0059】
上記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスに含まれるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体において、スチレン−ブタジエン成分とアクリル成分との質量比は、{(スチレン−ブタジエン成分)/(アクリル成分)}=90/10〜70/30であることが好ましい。SBR成分中のスチレン成分、ブタジエン成分およびそれらの含有率はスチレン−ブタジエンゴムラテックスの場合と同様である。この範囲であると、粘着力および凝集力が強く、接着力(常態接着力)に優れるからである。
【0060】
クロロプレンエマルジョンの市販品としては、例えば、住化バイエルウレタン(株)製のグレードC74が、スチレン−ブタジエンゴムラテックスの市販品としては旭化成ケミカルズ(株)製のグレード2610が、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの市販品としては旭化成ケミカルズ(株)製のグレードL7430、L7689、A7531、L8900等が挙げられる。
【0061】
また、ゴムラテックス/樹脂エマルジョン中のゴム/樹脂の固形分は、特に限定されないが、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。
【0062】
(2)増粘剤(C)
本発明の水系接着剤組成物に含んでもよい増粘剤(C)としては、以下に説明する増粘剤を1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
増粘剤は、水溶性高分子化合物であれば特に限定されない。天然系であってもよいし、合成系であってもよい。天然系増粘剤としては、例えば、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、キサンタンガム、カゼイン、アルブミン、アルギン酸、寒天、スメクタイト等が挙げられる。また、合成系増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル等が挙げられる。
【0064】
増粘剤は、本発明の目的を損なわない範囲の配合量で含有することができる。具体的には、本発明の水系接着剤組成物の粘度が15000〜100000mPa・secの範囲となるように配合することができる。粘度が、15000mPa・sec以上であると、マイクロバルーンを長期間安定に組成物中に分散させることができ、100000mPa・sec以下であると、ローラー塗布工程で従来の手順を変更することなく本発明の組成物を使用することができるからである。
【0065】
増粘剤(D)の本発明の水系接着剤組成物中の含有量は、例えば、増粘剤(C)としてカルボキシメチルセルロースを使用する場合、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)の固形分の合計100質量部に対して、0.1〜0.9質量部とすることが好ましい。
【0066】
4.本発明の水系接着剤組成物は、さらに、粘着付与剤(D)を含んでもよい。
(1)粘着付与剤(D)
本発明の水系接着剤組成物に含んでもよい粘着付与剤(E)としては、以下に説明する粘着付与剤を1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
粘着付与剤は、上記ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)と相溶性があるものであれば、特に制限されない。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂が挙げられる。
【0068】
ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、変性ロジン樹脂、不均化ロジン樹脂、ロジン樹脂エステル、重合ロジン樹脂等が挙げられる。
【0069】
テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂等が挙げられる。
【0070】
石油樹脂としては、例えば、C5留分系石油樹脂、C9留分系石油樹脂、C5/C9留分系石油樹脂、DCPD系石油樹脂等が挙げられる。
【0071】
クマロン樹脂としては、例えば、クマロン(1−ベンゾフラン)の重合体、クマロンの誘導体の重合体、クマロン−インデン樹脂(クマロンとインデンの共重合体)、水素化クマロン−インデン樹脂等が挙げられる。
【0072】
粘着付与剤(D)は、本発明の水系接着剤組成物の性能を低下させない範囲で配合することができる。例えば、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)の固形分の合計100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、10〜70質量部がより好ましい。この範囲内であると、十分な濡れ性の付与がされ、かつ接着剤皮膜の形成も阻害されず接着力に優れる。
【0073】
粘着付与剤(D)を本発明の組成物に含有する場合の配合方法は特に限定されないが、本発明の組成物中に樹脂を均一に分散させるためにエマルジョンとして配合することが好ましい。また、均一に分散させるためには、より微粒子であることが好ましい。粘着付与剤をエマルジョンとして配合する場合は、上記の配合量は固形分の量を表す。
【0074】
市販の粘着付与剤(エマルジョン)では、例えば、ロジン系エステルエマルジョンでは、ベース樹脂軟化点が175℃以下、固形分が45〜55質量%、pH5.5〜9.5のものが好ましく、具体的には、ハリマ化成(株)製のロジン系エステルエマルジョン「ハリエスターシリーズ」の、DS−70E、SK−70D、SK−90D−55、SK−508H、SK−816E、SK−822E、SK−218NS、SK−323NS、SK−370N、SK−501NS、SK−385NS等を挙げることができる。
【0075】
また、本発明の組成物に粘着付与剤を含有しない場合には、被着体に濡れ性を付与するために、被着体接着面に処理を行うことが好ましい。例えば、被着体接着面をプライマーで処理してから、本発明の水系接着剤組成物を塗布することができる。プライマーは、粘着付与剤を水系エマルジョンとして被着体表面に塗布するのが好ましい。
【0076】
5.その他含有してよいもの
本発明の水系接着剤組成物は、上記成分の他、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加材、例えば、有機充填剤、無機充填剤、増粘剤、老化防止剤、酸化防止剤、防錆剤、消泡剤、難燃剤、防腐剤、防黴剤、香料、着色剤、湿潤剤等を含有してもよい。
【0077】
6.使用方法
本発明の水系接着剤組成物は、特に限定されないが、たとえば、住宅、オフィス等に用いられる建材用途や車両用途等に使用することができ、特に好ましくは、サイディングボードと鋼板の接着に使用することができる。
基材と被着体との接着に用いる、本発明の水系接着剤組成物の単位面積あたりの塗布量(体積ベース)は、160〜360cm/mの範囲内が好ましく、240〜280cm/mがより好ましく、255〜265cm/mがさらに好ましい。この範囲であると、十分な接着力を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
1.水系接着剤組成物の調製
以下に示す各成分を第1表に示す含有量で混合し、水系接着剤組成物を調製した。なお、各成分の含有量は、B成分の固形分を100[質量部]として相対値で表している。
(A)樹脂バルーン
・樹脂バルーン1:マツモトマイクロスフェアMFL−80GCA(平均粒径 30μm,真比重 0.23,カルボキシ基導入なし,AN系コポリマー;松本油脂製薬(株)製)
・樹脂バルーン2:マツモトマイクロスフェアMFL−80GCA−AC5(平均粒径 30μm,真比重 0.23,カルボキシ基導入率 5質量%,AN系コポリマー;松本油脂製薬(株)製)
・樹脂バルーン3:マツモトマイクロスフェアMFL−80GCA−AC10(平均粒径 30μm,真比重 0.24,カルボキシ基導入率 10質量%,AN系コポリマー;松本油脂製薬(株)製)
・樹脂バルーン4:マツモトマイクロスフェアMFL−80GCA−AC1(平均粒径 80μm,真比重 0.13,カルボキシ基導入率 1質量%,AN系コポリマー;松本油脂製薬(株)製)
(B)ゴムラテックス/樹脂エマルジョン
・ゴムラテックス1:スチレン−ブタジエン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体ラテックスA3804(SBR成分/アクリル成分=95/5,固形分48質量%;旭化成ケミカルズ社製)
(C)増粘剤
・増粘剤1:ポリアクリル酸 シックナー630(サンノプコ社製)
(D)粘着付与剤
・粘着付与剤1:ハリエスター SK−323NS(完全無溶剤型ロジン系エマルジョン,固形分50〜51質量%;ハリマ化成社製)
【0080】
2.物性試験
(1)粘度
JIS K 7117−2:1991に記載の方法に従い、BL形粘度計(No.4ロータ、6rpm)を用いて、20℃における粘度を測定した。測定結果は第1表に示す。
(2)比重
JIS K 6833:1994に記載の方法に従い、水系接着剤組成物と水とについて、比重カップ法で100mlあたりの質量を測定し、それをもとに比重を算出した。算出値は第1表に示す。
【0081】
3.性能試験
(1)せん断試験
5mm×5mmのサイズの被着材(鋼板)の一方の表面に、調製した水系接着剤組成物を100g/mの塗布量でクシ目塗布をした。塗布後、循環式オーブンに入れ、100℃、60秒間の条件で乾燥させた。
25mm×25mmのサイズの基材(モルタル板)の一方の表面に、被着材に塗布したものと同じ水系接着剤組成物を100g/mの塗布量でクシ目塗布をした。塗布後、循環式オーブンに入れ、135℃、60秒間の条件で乾燥させた。
乾燥後に鋼板と基材を取り出して貼り合わせ、20℃、7日間の条件で静置養生をして組成物を硬化させた後に引張せん断試験を行い、せん断強度を求めた。
せん断強度は、JIS K 6850:1999に記載の方法に準拠して引張せん断試験を行った。測定値を第1表に示す。
せん断強度500N以上のものを、接着力が優れると評価した。
【0082】
(2)貯蔵安定性
製造した水系接着剤組成物を、20℃で3か月間放置した後に、それぞれ肉眼的に観察した。水系接着剤組成物中に樹脂バルーンが分散し、かつ、外観上の変化が認められなかったものを貯蔵安定性が優れるとして「○」と評価した。一方、樹脂バルーンの分離、ゲルの発生その他外観上の変化が認められたものを貯蔵安定性が劣るとして「×」と評価した。評価結果を第1表に示す。
なお、樹脂バルーンを含まない水系接着剤組成物に係る比較例1については、樹脂バルーンの分散性について評価することはないため、第1表の貯蔵安定性の欄には「−」と記載している。ただし、20℃で3か月間放置した後にも、ゲル化等の肉眼的に認められる変化は無かった。
【0083】
【表1】

【0084】
第1表に示す結果に基づき、各実施例および各比較例について説明する。
カルボキシ基導入率5質量%のカルボキシ基導入AN系樹脂からなる樹脂バルーンを配合し、210℃における粘度が15000、30000または50000mPa・secであり、かつ、比重が0.80である実施例1〜3の水系接着剤組成物は、コストを抑えることができ、接着力(常態接着力)に優れ、従来の塗工程でそのまま使用することができ、かつ比較的長期間の貯蔵安定性(20℃で3か月間)を有することがわかった。
【0085】
樹脂バルーンを配合しない比較例1の水系接着剤組成物は、比重が1.00を超え、コストを抑えることができない。
【0086】
親水基を導入しないAN系樹脂からなる樹脂バルーンを配合した比較例2の水系接着剤組成物は、樹脂バルーンが分離しやすく、貯蔵安定性が十分でない。
【0087】
カルボキシ基導入率10質量%のAN系樹脂からなる樹脂バルーンを配合した比較例3の水系接着剤組成物は、樹脂自体が膨潤して破れやすくなるため、比重1.00以下を維持することができず、コストを抑えることができない。また、破れた樹脂バルーンが分離しやすく、貯蔵安定性も十分でない。
【0088】
カルボキシ基導入率1質量%のAN系樹脂からなる樹脂バルーンを配合した比較例4の水系接着剤組成物は、樹脂バルーンが分離しやすく、貯蔵安定性が十分ではない。親水基導入率1質量%では、親水基を導入しない樹脂の場合と効果に差異がないことが示唆された。
【0089】
粘度が10000mPa・secである比較例5の水系接着材組成物は、カルボキシ基導入率5質量%のAN系樹脂からなる樹脂バルーンであっても、樹脂バルーンが分離しやすく、貯蔵安定性が十分ではない。
【0090】
比重が0.58である比較例6の水系接着剤組成物は、せん断強度が十分でなく、また、貯蔵安定性も十分ではない。これは、樹脂バルーンの配合量が多く、接着成分の共重合体の凝集を妨げる結果、接着力が低下し、しかも、樹脂バルーンが分離しやすくなっていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水基導入率1質量%超10質量%未満の親水基導入樹脂からなる樹脂バルーン(A)を含み、20℃における粘度が15000〜100000mPa・secであり、かつ、比重が0.60〜1.00である水系接着剤組成物。
【請求項2】
さらに、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)を含む、請求項1に記載の水系接着剤組成物。
【請求項3】
前記ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン(B)が、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスである、請求項2に記載の水系接着剤組成物。
【請求項4】
前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスに含まれるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体において、スチレン−ブタジエン成分とアクリル成分との質量比が、{(スチレン−ブタジエン成分)/(アクリル成分)}=90/10〜70/30である、請求項3に記載の水系接着剤組成物。

【公開番号】特開2012−31303(P2012−31303A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172639(P2010−172639)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】