説明

水系接着剤

【課題】ポリビニルアルコール乳化型ポリクロロプレンラテックスを用いた水系接着剤の耐水接着力を向上させる。
【解決手段】アセトアセチル化ポリビニルアルコールの存在下で乳化重合して得られるポリクロロプレンラテックスと、酸化亜鉛を含有することを特徴とする水系接着剤。ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体は、クロロプレン及びカルボキシル基含有ビニル単量体の共重合体であることが好ましく、ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体の、トルエン不溶分が10〜90%であることが好ましい。また、アセトアセチル化ポリビニルアルコールのアセトアセチル化度が0.05〜15mol%であることが好ましく、水系接着剤中の酸化亜鉛の含有量は、ポリクロロプレンラテックスを固形分換算で100質量部に対して、固形分換算で0.1〜6.0質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリビニルアルコールを乳化剤として用いて得られるポリクロロプレンラテックスと、酸化亜鉛を含有する水系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールを乳化剤に用いたポリクロロプレンラテックス(以下、「PVA乳化型ポリクロロプレンラテックス」と記載する。)は、粘着付与樹脂エマルジョンや増粘剤などの各種配合剤との相溶性に優れ、配合設計の自由度が高く、各種被着体に塗布した後のタック性に優れるという特徴がある。そのため、このような特徴を活かして、合板などの木材同士や、発泡断熱材とコンクリートなどを接着するための水系接着剤に利用されている。ところが、これらの水系接着剤は、接着剤層が乾燥した時に、ポリビニルアルコールが表面にブリードすることがあり、湿度が高い場所や、水に濡れやすい場所で使用すると接着不良を起こす可能性がある。そのため、様々な方法で、耐水接着力の改良が検討されている。従来の耐水接着力の改良技術は、(1)ポリクロロプレンラテックスにポリビニルアルコール以外の添加剤を含有させる方法、(2)ポリクロロプレンの構造を改良する方法、(3)ポリビニルアルコールの構造を改良する方法に大別することができる。
【0003】
(1)の例としては、特定構造のノニオン系乳化剤の存在下、0〜20℃の温度範囲で、クロロプレンを乳化重合することにより、初期接着力、常態接着力、耐水接着力に優れた水系接着剤用のポリクロロプレンラテックスが得られることが知られている。(特許文献1参照)
別の特許文献では、ポリビニルアルコール存在下、クロロプレンと特定量のエチレン性不飽和カルボン酸を乳化共重合して、これに弱酸塩とラジカル捕捉剤を加えることで、貯蔵安定性と耐水接着力に優れるポリクロロプレンラテックスが得られることが記載されている。(特許文献2参照)
また、ポリクロロプレンラテックスに、チオウレア化合物を配合して耐水接着力を改良する技術も知られている。(特許文献3参照)
【0004】
(2)の例としては、ポリビニルアルコールと、ノニオン系乳化剤の存在下、クロロプレンとエチレン性不飽和カルボン酸を乳化共重合させて製造される、ゲル含有量10〜70質量%、pH6〜9のポリクロロプレンラテックスが知られている。(特許文献4参照)
【0005】
(3)の例としては、分子内にエチレン単位を1〜15モル%含有するポリビニルアルコールを乳化剤として使用することで、耐水接着力とコンタクト性に優れるポリクロロプレンラテックスが得られることが知られている。(特許文献5参照)
また、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するポリビニルアルコールを乳化剤として使用することによっても、耐水接着力、コンタクト性、耐熱クリープ性などの接着性能に優れたポリクロロプレンラテックスが得られることが知られている。(特許文献6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−16084
【特許文献2】特許第4342706号
【特許文献3】特許第4244253号
【特許文献4】特開2007−63370
【特許文献5】特開2001−139611
【特許文献6】特開2004−346183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の既存技術によって、PVA乳化型ポリクロロプレンラテックスを用いた水系接着剤の耐水接着力は向上してきているが、靴のゴム部材の接着や、ウェットスーツ生地の発泡ゴムと布の接着など、高い耐水接着力が要求される分野で使用するためには、更なる改良が必要であった。
【0008】
本発明は、PVA乳化型ポリクロロプレンラテックスを用いた水系接着剤の耐水接着力を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アセトアセチル化ポリビニルアルコールの存在下で乳化重合して得られるポリクロロプレンラテックスと、酸化亜鉛を含有することを特徴とする水系接着剤である。
【0010】
ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体は、クロロプレン及びカルボキシル基含有ビニル単量体の共重合体であることが好ましく、ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体のトルエン不溶分は、10〜90%であることが好ましい。また、アセトアセチル化ポリビニルアルコールのアセトアセチル化度が0.05〜15mol%であることが好ましく、水系接着剤中の酸化亜鉛の含有量は、ポリクロロプレンラテックスを固形分換算で100質量部に対して、固形分換算で0.1〜6.0質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PVA乳化型ポリクロロプレンラテックスを用いた水系接着剤の耐水接着力を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の水系接着剤は、アセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下、「AA化PVA」と記載する。)を乳化剤に用いてクロロプレン単量体を水中でラジカル乳化重合して製造されるポリクロロプレンラテックスと、酸化亜鉛を必須成分として含有するものである。
【0014】
AA化PVAとは、下記化学式(1)で表される構造単位を有する、ビニルアルコール単位中の水酸基がアセトアセチル化されたポリビニルアルコールである。
【化1】

【0015】
AA化PVAは、ビニルエステル単量体をラジカル重合した後、鹸化して得られるポリビニルアルコールに、ジケテン、アセト酢酸、アセト酢酸エステルなどを反応させて製造される。
【0016】
ビニルエステル単量体としては、特に限定するものではないが、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニルなどが挙げられる。また、これらの中でも特に、重合時の安定性に優れる酢酸ビニルを使用することが望ましい。
【0017】
ポリビニルアルコールの製造時には、必要に応じて、前述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。その際、共重合可能な単量体としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類、又はその塩類、その不飽和酸類のエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩などのアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩などのメタクリルアミド類、炭素数1〜18のアルキル鎖長を有するアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコールなどのアリル化合物、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物及び酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0018】
なお、これらの共重合可能な他の単量体の使用量は、特に限定するものではないが、単量体全量に対して0.001mol%以上20mol%未満であることが好ましい。
【0019】
これらの単量体の重合方法は、公知のラジカル重合方法を採用することができる。一般には、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールなどのアルコールを溶媒とする溶液重合により製造されるが、バルク重合や乳化重合や懸濁重合などで製造してもよい。また、バルク重合または溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいし、バッチ重合でもよい。更に、単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0020】
ラジカル重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)などのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル化合物、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどの公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。また、重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30〜90℃程度の範囲で設定することができる。
【0021】
連鎖移動剤としては、メルカプタン化合物、アルデヒド化合物が挙げられる。アルデヒド化合物を使用した場合には、得られるポリビニルアルコール分子内に二重結合が導入されるため、これを乳化剤とすることで、更に耐水性の高いポリクロロプレンラテックスを得ることができる。アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン(ビニルアルデヒド)、ベンズアルデヒドが挙げられ、ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。この中では、アセトルデヒドが、ポリビニルアルコールの分子内の炭素−炭素二重結合量を制御しやすい理由から最も好ましい。連鎖移動剤の使用量は、単量体合計100質量部に対して、0.1〜3.0質量部が好ましい。また、連鎖移動剤は、初期に一括添加しても、重合反応中に分割または継続的に添加しても良い。
【0022】
一方、ポリビニルアルコールを製造する際の鹸化方法も、公知の方法で鹸化すればよい。一般的には、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。このとき、重合溶媒であるアルコール中の共重合体の濃度は、特に限定されないが、10〜80質量%であることが望ましい。
【0023】
使用されるアルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート及びカリウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物や、アルコラートなどを用いることができる。また、酸触媒としては、例えば、塩酸及び硫酸などの無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸などの有機酸を用いることができるが、特に水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
【0024】
更に、鹸化反応の温度も、特に限定されないが、好ましくは10〜70℃、より好ましくは30〜40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分〜3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0025】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、85〜99mol%が好ましい。鹸化度が85mol%未満の場合、ポリビニルアルコールの水に対する溶解速度が遅くなり、生産性が低下する。また鹸化度が99mol%を超える場合には、ポリビニルアルコールの乳化性能が低下するため、安定した乳化重合がおこなえない恐れがある。なお、ここで規定する鹸化度は、JIS K 6726に規定される方法で測定した値である。
【0026】
ポリビニルアルコールは、JIS K 6726に規定される方法で測定した水溶液粘度(濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度)が、3〜50mPa・sであることが好ましい。この水溶液粘度が3mPa・s未満の場合、水溶液が飛散しやすくなる。また、水溶液粘度が20mPa・sを超える場合、ポリビニルアルコールの水に対する溶解速度が遅くなったり、溶解タンクの内壁への付着量が増加したりする。
【0027】
なお、変性されたポリビニルアルコールの場合、JIS K 6726で定められている方法で重合度を測定しようとすると、未鹸化の酢酸ビニル単位を完全に鹸化する前処理の段階で架橋・不溶化して、正確な重合度を求めることができないことがある。そこで、本発明においては、重合度に代えて、JIS K 6726に規定されている水溶液粘度の好適な範囲を記載した。前処理で不溶化しない場合の好適な重合度範囲は、200〜2600である。
【0028】
鹸化後のポリビニルアルコールは、必要に応じて洗浄され、加熱乾燥される。鹸化反応では、酢酸ナトリウムなどの無機塩が副生するため、洗浄条件によって、無機塩の含有量が変化する。無機塩は、アセトアセチル化反応の触媒としても作用するため、ある程度含有していることが好ましい。一方で、無機塩の含有量が多いと、クロロプレン単量体を乳化重合する時に乳化不良を起こす可能性がある。このような理由から、無機塩の含有量は、0.01〜2.0質量%が好ましい。
【0029】
乾燥粉砕されたポリビニルアルコール粉体の平均粒径は、100〜1000μm、更に好ましくは200〜400μmが好ましい。100μmよりも細かいと、粉立ちが問題となり、1000μmよりも粗いと、アセトアセチル化反応を均一に進行させることが困難になる。
【0030】
このようにして得られたポリビニルアルコールをアセトアセチル化する方法は、特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコールにジケテンを反応させる方法を選択する場合、好適な方法として、不活性ガス中で、ポリビニルアルコール乾燥粉末を20〜120℃の範囲で加熱しながら撹拌し、酢酸などの有機酸の存在下、ジケテンを噴霧する方法が挙げられる。
【0031】
AA化PVAのアセトアセチル化度は0.05〜15mol%が好ましい。アセトアセチル化度が0.05mol%未満では、ポリクロロプレンラテックスを使用した接着剤の耐水性が低下することがある。また、アセトアセチル化度が15mol%を超えると、AA化PVAの乳化剤としての性質が不十分となり、ポリクロロプレンラテックスの貯蔵安定性が低下することがある。アセトアセチル化度は、H−NMRスペクトルにおける主鎖メチレンプロトン由来ピークとアセトセチル基メチレンプロトン由来ピークの面積比によって計算することができる。
なお、AA化PVAのアセトアセチル化度を高くするためには、例えば、ポリビニルアルコールの加熱温度を高くしたり、ポリビニルアルコール粉末の粒径を細かくしたり、ジケテンの噴霧量を増やしたり、ジケテンの反応時間を長くしたりすればよい。
【0032】
本発明の水系接着剤で用いるポリクロロプレンラテックスは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンと記す)または、クロロプレンと、クロロプレンと共重合可能な単量体を、上述のAA化PVAの存在下で乳化重合して得られるポリクロロプレンラテックスである。つまり、クロロプレン重合体を、上述のAA化PVAを介して水中に乳化させたラテックス(エマルジョン)である。
【0033】
クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、硫黄、メタクリル酸及びそのエステル類、アクリル酸及びそのエステル類が挙げられ、必要に応じて2種類以上用いても良い。本発明のクロロプレン重合体は、クロロプレンとカルボキシル基含有ビニル単量体の共重合体であることが好ましい。カルボキシル基含有ビニル単量体としては、メタクリル酸が最も好ましく、その仕込み量は、単量体の合計100質量部のうち、カルボキシル基含有ビニル単量体が0.01〜5質量部が好ましい。カルボキシル基含有ビニル単量体を共重合させると、接着剤に酸化亜鉛や酸化マグネシウムといった金属酸化物を配合した時に、2価金属イオンとカルボキシル基の架橋が起こり、耐熱性や耐溶剤性といった接着性能を向上させることができるからである。
【0034】
AA化PVAの仕込み量は、初期仕込み単量体の合計100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましい。0.5質量部未満では、乳化力が十分ではなく、10質量部を超えると接着剤の耐水性を低下させてしまう。
【0035】
なお、ポリクロロプレンラテックスの貯蔵安定性を改良したり、冬期の凍結を防止したりする目的で、AA化PVA以外の乳化剤を併用することも可能である。この場合、併用する乳化剤の種類は特に限定されず、アニオン性、ノニオン性、カチオン性のいずれを選択しても良い。アニオン性乳化剤の具体例としては、カルボン酸型、硫酸エステル型などがあり、例えば、ロジン酸のアルカリ金属塩、炭素数が8〜20個のアルキルスルホネート、アルキルアリールサルフェート、ナフタリンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドの縮合物等が挙げられる。ノニオン性乳化剤の具体例としては、アセトアセチル化していないポリビニルアルコールまたはその共重合体(例えばアクリルアミドとの共重合体)、ポリビニルーテルまたはその共重合体(例えば、マレイン酸との共重合体)、ポリオキシエチレアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステルなどが挙げられる。カチオン性乳化剤の具体例としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩等があり、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。PVA以外の乳化剤を使用する場合、その仕込み量は、単量体の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部が好ましい。
【0036】
クロロプレン単量体の重合条件は、特に限定されるものではなく、重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤、重合率などを任意に選択することで、分子量、分子量分布、ゲル含有量、分子末端構造、結晶化速度を制御することが可能である。
【0037】
クロロプレン単量体を乳化重合する時の重合温度は、特に限定されるものではないが、重合反応を円滑におこなうために、5〜50℃とすることが好ましい。開始剤は、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、第3−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等であり、特に限定されるものではない。
【0038】
クロロプレン単量体を乳化重合する時の連鎖移動剤の種類は、特に限定されるものではなく、通常クロロプレンの乳化重合に使用されるものが使用できるが、例えばn−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルム等の公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0039】
重合停止剤(重合禁止剤)は特に限定するものではなく、例えば、2,6−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、ヒドロキシアミン等が使用できる。
【0040】
最終重合率は、特に限定するものではないが、70〜100%で任意に調節することができる。未反応単量体の除去(脱モノマー)は、減圧加熱等の公知の方法によっておこなう。
【0041】
本発明におけるポリクロロプレンラテックス中のクロロプレン重合体のトルエン不溶分は、10〜90%、さらに好ましくは20〜80%であることが好ましい。この範囲であれば、初期接着力と常態接着力のバランス優れた接着剤を作ることができる。
【0042】
酸化亜鉛は、従来の水系接着剤には、ポリクロロプレンから脱離する塩酸の受酸剤として配合されており、水系接着剤の貯蔵安定性改良の目的で配合されていたものである。しかしながら、本発明では、AA化PVAのアセトアセチル基と亜鉛のキレート反応によって接着力を向上させるために配合するものであり、従来の非変性PVAを用いたポリクロロプレンラテックスでは発揮し得ない効果を有する。
【0043】
酸化亜鉛の配合量は、ポリクロロプレンラテックスを固形分換算で100質量部に対して、固形分換算で0.1〜6.0質量部配合することが好ましい。0.1質量部よりも少ないと、接着力の向上効果が現れにくく、6.0質量部を超えると、酸化亜鉛自体が、接着剤乾燥後の表面に移行して接着不良を起こしてしまう場合がある。
酸化亜鉛は、ラテックスの粘度が高い場合には、粉末状態のまま添加することができるが、乳化剤を用いて水中に乳化/分散させてエマルジョンとしてから配合することが好ましい。
【0044】
水系接着剤には、ポリクロロプレンラテックスを固形分換算で100質量部に対して、粘着付与樹脂を固形分換算で20〜60質量部配合することが好ましい。この範囲の量で粘着付与樹脂を配合すると、被着材に接着剤を塗布してから張り合わせるまでの時間(オープンタイム)を延長することができる。粘着付与樹脂の具体例としては、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジン樹脂、重合ロジン樹脂、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂、C留分系石油樹脂、C留分系石油樹脂、C/C留分系石油樹脂、DCPD系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂などが挙げられる。粘着付与樹脂の添加方法としては、接着剤中に均一に配合させるために、エマルジョンとしてから添加することが好ましい。さらに、粘着付与樹脂エマルジョンの製造方法には、トルエン等の有機溶剤に溶解ものを乳化剤を用いて水中に乳化/分散させた後、有機溶剤を加熱減圧しながら除去する方法と、微粒子に粉砕して乳化/分散させる方法などがあるが、より微粒子のエマルジョンが作製できる前者の方法が好ましい。
【0045】
さらに、水系接着剤には、用途及び要求性能に応じて、増粘剤、加硫促進剤、充填剤(補強剤)、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、防腐剤、抗菌剤、可塑剤、pH調節剤、消泡剤、防錆剤、ポリクロロプレン以外のポリマーラテックスなどを任意に配合してもよい。また、硬化剤を組み合わせて、2液型接着剤とすることも可能である。
【0046】
増粘剤の具体例としては、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、HEUR系(ポリエチレンオキシドの両末端を疎水基でエンドキャップしたポリマー)などの有機系増粘剤、ヘクトライトやモンモリロナイトなどシリケート化合物のような無機系増粘剤が挙げられる。これらのうち、HEUR系が、少ない添加量で大きな増粘効果が得られ、配合後の粘度安定性が優れているため、好適である。
【0047】
加硫促進剤としては、チオウレア系、ジチオカルバミン酸塩、キサントゲン酸塩などが挙げられる。チオウレア系化合物の具体例としては、エチレンチオ尿素、ジブチルチオ尿素、ジラウリルチオ尿素、N,N‘−ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素(TMU)、N,N’−ジエチルチオ尿素(EUR)等が挙げられる。ジチオカルバミン酸塩の例としては、ジメチルカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(III)、ジメチルジチオカルバミン酸テルル(IV)などが挙げられる。キサントゲン酸塩の例としては、ブチルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、エチルキサントゲン酸ガリウム(III)などが挙げられる。
【0048】
硬化剤を使用する2液型接着剤の場合には、水分散型イソシアネート化合物を組み合わせることが好ましい。硬化剤を使用すれば、接着剤の耐水性を更に向上させることができる。水分散型イソシアネート化合物とは、脂肪族及び/または脂環族ジイソシアネートから得られる、分子内にビュウレット、イソシアヌレート、ウレタン、ウレトジオン、アロファネート等の構造を有するポリイソシアネートポリマーに親水基を導入したものである。つまり、水中に添加・撹拌すると、水中で微粒子として分散することが可能な自己乳化型イソシアネート化合物である。脂肪族及び/または脂環族イソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、重合MDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)(IPC)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHPI)、トリジンジイソシアネート(TODI)等が挙げられる。中でも、HDI、MDI、IPDI、水添XDIは工業的に入手しやすく良好である。親水基は、エチレンオキサドの繰り返し単位を有する乳化剤を上記の脂肪族及び/または脂環族ジイソシアネートから得られる重合物の分子鎖の一部と、反応させることにより導入される。エチレンオキサイドの繰り返し単位を有する乳化剤としては、水に対する分散性を考慮すれば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。硬化剤としての効果は、原料化合物よりもむしろ、JIS K−7301で規定される方法によって算出したイソシアネート基含有率によって左右される。良好な接着力を得るためには、使用するイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率が、17〜25質量%であることが好ましい。
【0049】
水分散型イソシアネート化合物を硬化剤として使用して2液型接着剤とする場合、主剤中のポリクロロプレンラテックスを固形分で100質量部に対して、硬化剤中の水分散型イソシアネート化合物が固形分で0.5〜15質量部となるように混合することが好ましい。0.5質量部未満では、接着力が不足し、また15質量部よりも多く添加すれば、主剤と硬化剤を混合した後のポットライフ(使用可能時間)が短くなる恐れがある。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。ポリビニルアルコールとしては、本発明の範囲内のAA化PVA−A〜E、及び本発明の範囲から外れる、アセトアセチル化していない汎用PVA−F〜Iを製造した。続いて、これらのPVA−A〜Iを乳化剤として使用して、ポリクロロプレンの乳化重合を行い、得られたポリクロロプレンラテックスに、酸化亜鉛等を配合して接着剤を作製して、その接着力を評価した。以下に、PVA−A〜Iの製造について述べる。
【0051】
<AA化PVA−Aの製造>
還流冷却管を取り付けた反応器に、酢酸ビニル3500g、酢酸1.8gを仕込み、窒素置換後、アセトアルデヒド154g仕込み、混合溶液の沸点まで昇温した。還流が始まったら、アゾビスイソブチロニトリルのメタノールの0.5%メタノール溶液50gを、6時間かけて滴下して、重合率70%に達した時点で重合を停止した。
【0052】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式粉砕して、スラリーを濾過した後、90℃のギアオーブンで2時間乾燥して、PVA−Aを作製した。ブラベンダー混練機に、PVA−A粉体100質量部、水1質量部、酢酸30質量部を入れて、60℃で2時間撹拌した。次に、ジケテン30質量部を3時間かけて少量ずつ添加して、添加終了後、4時間撹拌をおこなった。更に、メタノールで3回洗浄して、90℃のギアオーブンで1時間乾燥し、AA化PVA−Aを得た。
【0053】
<AA化PVA−Bの製造>
還流冷却管を取り付けた反応器に、酢酸ビニル3000g、メタノール220g、酢酸1.5gを仕込み、窒素置換後、アセトアルデヒド65.9g仕込み、混合溶液の沸点まで昇温した。還流が始まったら、アゾビスイソブチロニトリルのメタノールの0.5%メタノール溶液60gを、5時間かけて滴下して、重合率71%に達した時点で重合を停止した。
【0054】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式粉砕して、スラリーを濾過した後、80℃のギアオーブンで1時間乾燥して、PVA−Bを得た。ブラベンダー混練機に、PVA−B粉体100質量部、水1質量部、酢酸30質量部を入れて、80℃で3時間撹拌した。次に、ジケテン30質量部を3時間かけて少量ずつ添加して、添加終了後、4時間撹拌をおこなった。更に、メタノールで3回洗浄して、90℃のギアオーブンで1時間乾燥し、AA化PVA−Bを得た。
【0055】
<AA化PVA−Cの製造>
還流冷却管を取り付けた反応器に、酢酸ビニル3000g、メタノール616.3g、マレイン酸ジメチル40.8g及びアゾビスイソブチロニトリル2.5gを仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温し、重合率70%に達した時点で重合を停止した。
【0056】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式粉砕して、スラリーを濾過した後、90℃のギアオーブンで2時間乾燥して、PVA−Cを作製した。ブラベンダー混練機に、PVA−C粉体100質量部、水1質量部、酢酸30質量部を入れて、70℃で3時間撹拌した。次に、ジケテン30質量部を3時間かけて少量ずつ添加して、添加終了後、2時間撹拌をおこなった。更に、メタノールで3回洗浄して、90℃のギアオーブンで1時間乾燥し、AA化PVA−Cを得た。
【0057】
<AA化PVA−Dの製造>
還流冷却管を取り付けた反応器に、酢酸ビニル1640g、メタノール500g、フマル酸ジメチル4.0g及びアゾビスイソブチロニトリル2.0gを仕込み、窒素置換後、混合溶液の沸点まで昇温した。還流が始まったら、反応器上部より、酢酸ビニル510g、メタノール230g、フマル酸ジメチル33gの混合液を、5時間かけて少しずつ連続的に滴下して、重合率55%に達した時点で重合を停止した。
【0058】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式粉砕して、スラリーを濾過した後、90℃のギアオーブンで90分間乾燥して、PVA−Dを得た。ブラベンダー混練機に、PVA−D粉体100質量部、水1質量部、酢酸30質量部を入れて、70℃で3時間撹拌した。次に、ジケテン20質量部を3時間かけて少量ずつ添加して、添加終了後、2時間撹拌をおこなった。更に、メタノールで3回洗浄して、90℃のギアオーブンで1時間乾燥し、AA化PVA−Dを得た。
【0059】
<AA化PVA−Eの製造>
重合反応缶に、酢酸ビニル120g、メタノール560g、アゾビスイソブチロニトリルの1%メタノール溶液1.6gを仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温した。次に、酢酸メチル1720g、メタノール607g、アゾビスイソブチロニトリルの1%メタノール溶液406gを、14時間かけて連続添加し、連続添加終了から1時間後に、酢酸ビニルの重合率99%に達したことを確認して、重合反応を停止した。
【0060】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式分さんして、スラリーを濾過した後、90℃のギアオーブンで90分間乾燥して、PVA−Eを得た。ブラベンダー混練機に、PVA−E粉体100質量部、水2質量部、酢酸30質量部を入れて、60℃で2時間撹拌した。次に、ジケテン20質量部を2時間かけて少量ずつ添加して、添加終了後、2時間撹拌をおこなった。更に、メタノールで3回洗浄して、90℃のギアオーブンで1時間乾燥し、AA化PVA−Eを得た。
【0061】
<非変性PVA−F〜Iの製造>
重合反応缶に、酢酸ビニル120g、メタノール560g、アゾビスイソブチロニトリルの1%メタノール溶液1.6gを仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温した。次に、酢酸メチル1720g、メタノール607g、アゾビスイソブチロニトリルの1%メタノール溶液406gを、14時間かけて連続添加し、連続添加終了から1時間後に、酢酸ビニルの重合率99%に達したことを確認して、重合反応を停止した。
【0062】
メタノール蒸気を吹き込みながら反応器を加熱して、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液に、水酸化ナトリウムメタノール溶液を混合し、反応温度35℃で、鹸化反応を進行させた。固化した鹸化反応液をメタノール中で湿式分さんして、スラリーを濾過した後、90℃で90分間ギアオーブン内にて乾燥して、PVA−F〜Iを作製した。PVA−F〜Iは、アセトアセチル化していない従来のPVAであり、重合反応の際に用いた水酸化ナトリウム量、鹸化反応の温度と時間を調節して、鹸化度を調整したものである。
【0063】
<PVAの特性分析>
次に、得られたAA化PVA−A〜Eおよび非変性PVA−F〜Iについて、鹸化度、酢酸ナトリウム含量、重合度、水溶液粘度、AA化度を下記の方法によってそれぞれ測定した。
【0064】
a)鹸化度:JIS K6726に準拠して測定した。
b)酢酸ナトリウム含量:JIS K6726に準拠して測定した。
c)重合度:JIS K6726に準拠して測定した。
d)水溶液粘度:JIS K6726に準拠して測定した。
e)AA化度:H−NMRスペクトルにおける主鎖メチレンプロトン由来ピークとアセトセチル基メチレンプロトン由来ピークの面積比によって計算した。
【0065】
<ポリクロロプレンラテックスA〜Iの製造>
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、水86質量部、AA化PVA−A〜Eおよび非変性PVA−F〜Iのいずれか一種3.2質量部を60℃で溶解させた。このポリビニルアルコール水溶液を室温まで冷却した後、クロロプレン単量体97質量部、メタクリル酸4質量部、オクチルメルカプタン0.3質量部を加えた。これを40℃に保ちながら過硫酸カリウムを開始剤として用いて乳化重合した。反応終了液に20質量%ジエタノールアミン水溶液を添加してpHを7に調整し、減圧下で未反応の単量体を除去した後、更に減圧下で水分を蒸発させて濃縮をおこない、固形分濃度50%のポリクロロプレンラテックスを得た。PVAの種類(A〜I)を変えて、オクチルメルカプタンの添加量を調節し、ゲル含有量が異なるポリクロロプレンラテックスA〜Iを作製した。固形分濃度と、ゲル含有量は、下記の方法で測定した。
【0066】
<固形分濃度>
アルミ皿だけの質量をAとする。ラテックス試料を2ml入れたアルミ皿の質量をBとする。ラテックス試料を入れたアルミ皿を125℃で1時間乾燥させた後の質量をCとする。固形分濃度(%)は下式で算出した。
固形分濃度={(C−A)/(B−A)}×100
【0067】
<ゲル含有量(トルエン不溶分)>
ラテックス試料を凍結乾燥し秤量してAとした。23℃で20時間、トルエンで溶解(0.6%に調整)し、遠心分離機を使用し、更に200メッシュの金網を用いてゲルを分離した。ゲル分を風乾後110℃雰囲気下で、1時間乾燥し、秤量してBとした。ゲル含有量(%)は下式に従って算出した。
ゲル含有量=(B/A)×100
【0068】
以下に接着試験方法を説明する。
表1に示す処方に従い、ポリクロロプレンラテックスA〜Iを固形分換算で100質量部に対して、酸化亜鉛エマルジョン(AZ−SW/大崎工業株式会社製)を固形分換算で0〜7質量部、テルペンフェノール樹脂エマルジョン(タマノルE−100/荒川化学工業株式会社製)を固形分換算で40質量部、水分散液にしたイソプロピルキサントゲン酸亜鉛(ノクセラーZIX/大内新興化学工業株式会社製)を固形分換算で2質量部、平均粒径:10μm、比表面積:191m/gの湿式シリカ(トクシールU/株式会社トクヤマ製)を5質量部、HEUR系増粘剤(RM−8W/ロームアンドハースジャパン株式会社製)を固形分換算で0.1質量部配合して、接着剤を作製した。
【0069】
帆布(糊代部のサイズは幅25mm×長さ70mm)2枚各々に、150g(wet)/mの接着剤を刷毛で塗布し、23℃雰囲気中で3時間乾燥させた後、その上から300g(wet)/m2の接着剤を刷毛で塗布し、70℃雰囲気で5分間乾燥させた後、張り合わせ、ハンドローラーで圧着した。
<初期接着力>
圧着してから1日後に引張試験機で引張速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。
<常態接着力>
圧着してから7日後に引張試験機で引張速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。
<耐水性接着力>
圧着してから1日後に、純水に7日間浸した後、引張試験機で引張速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。
【0070】
評価結果を表1にまとめた。なお、表1中の「水酸化ナトリウム量」は、ポリマー中の酢酸ビニル単位/水酸化ナトリウムのモル比を表した値である。
【表1】

【0071】
表1からわかるように、実施例1〜7のポリクロロプレンラテックスは、比較例1〜6のポリクロロプレンラテックスよりも、接着剤の耐水接着力に優れることが示された。
また、AA化PVAを使用した場合、酸化亜鉛の配合量が適切な範囲(実施例5〜7)である場合は、酸化亜鉛を配合しない場合(比較例5)や配合量が過剰な場合(比較例6)よりも、高い接着力を発揮することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアセチル化ポリビニルアルコールの存在下で乳化重合して得られるポリクロロプレンラテックスと、酸化亜鉛を含有することを特徴とする水系接着剤。
【請求項2】
ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体が、クロロプレン及びカルボキシル基含有ビニル単量体の共重合体であることを特徴とする、請求項1記載の水系接着剤。
【請求項3】
ポリクロロラテックス中のクロロプレン重合体の、トルエン不溶分が10〜90%であることを特徴とする、請求項1または2記載の水系接着剤。
【請求項4】
アセトアセチル化ポリビニルアルコールのアセトアセチル化度が0.05〜15mol%であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項記載の水系接着剤。
【請求項5】
酸化亜鉛の含有量が、ポリクロロプレンラテックスを固形分換算で100質量部に対して、固形分換算で0.1〜6.0質量部であることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項記載の水系接着剤。

【公開番号】特開2012−176999(P2012−176999A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39206(P2011−39206)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】