説明

水系潤滑液組成物

【課題】 低CODで高い摩耗防止性の持続性を有する水系潤滑液、さらには樹脂―金属間の摺動部も摩耗防止性の持続性を向上させることができる水系潤滑液を提供する。
【解決手段】
水に、炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を0.01〜0.25重量%が配合され、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を用いることにより、鉱物油、合成油、グリコール類、高分子有機化合物を使用せずに、低CODで高い摩耗防止性を有する水系潤滑液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化に伴い、環境に対する関心が高まってきている。各種機器においては、鉱物油および合成油を基油とした潤滑油が使用されているが、水質汚染の一因となるため、機械からの漏洩の予防が必要となる。そのため、万一機器から漏洩した場合にも環境への影響が少ない水を基油の代わりに用いた潤滑液の検討が試みられている(特許文献1、2)。しかしながら、その耐摩耗性の持続性は十分とは言えず、さらなる改良が求められている。
【0003】
ところで、難燃性が求められる作動油では、すでに鉱物油や合成油を基油とした潤滑油に代わり、基油を難燃性に優れる水に変更した作動油が知られている。例えば、特定構造のポリアルキレングリコールジエーテル化合物、特定構造のポリオキシアルキレングリコールモノエーテル化合物、特定構造のポリオキシプロピレングリコールモノエーテル化合物及び特定構造の脂肪酸塩を有する含水系潤滑油組成物(特許文献3参照)、特定構造のポリオキシアルキレングリコールエーテル化合物を含有する含水作動液(特許文献4参照)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの発明は、潤滑性の保持のために、鉱物油、合成油、グリコール類、高分子有機化合物等をある程度の量含有していることから、CODは高い。そのため、機器から漏洩した作動液は、通常の廃水処理施設での処理を念頭におき、廃水処理性の向上については考慮しているが、機器から潤滑油が河川に直接漏洩した際の環境負荷までは考慮されていない。そのため、環境に対する影響の少ない低いCODの潤滑液が希求されているが、一般的にCODを低減するためには、鉱物油、合成油、グリコール類、高分子有機化合物のような潤滑剤の使用を厳しく制限しなければならず、摩耗防止性を確保するのは極めて困難である。
【0005】
一方、環境対応のため水潤滑機構を採用している装置の摺動部にはポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE樹脂」又は「PTFE」ということがある。)やポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、「PEEK樹脂」又は「PEEK」ということがある。)のような自己潤滑作用のある樹脂が使用される場合がある。しかしながら、これらの樹脂は摩擦時に表面層が小片として剥離(摩耗)することにより低摩擦性を示す機構になっているため、剥離が進みすぎると多量に生成した剥離片が摺動面に堆積し、摩擦力が増大する場合が考えられる。特に樹脂と金属からなる摺動面ではこの剥離が進みやすいため、これらの樹脂を用いた摺動面に用いる水系潤滑液には、樹脂の摩耗を抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−202788号公報
【特許文献2】特開2010−202789号公報
【特許文献3】特開平6−279779号公報
【特許文献4】特開平10−183163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような実情を鑑みて、低CODで高い摩耗防止性の持続性を有する水系潤滑液を提供することを目的とするものであり、さらには樹脂―金属間の摺動部も摩耗防止性の持続性を向上させることができる水系潤滑液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、水に特定の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を配合することにより、鉱物油、合成油、グリコール及び高分子有機化合物等を配合しなくても、高い摩耗防止性の持続性を得ることができ、さらに樹脂―金属間の摺動部においても高い摩耗防止性の持続性を得ることができ、なお且つ低CODを達成できること見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水に炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を0.01〜0.25重量%配合され、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記水系潤滑液組成物において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩である水系潤滑液組成物を提供するものである。
さらに、本発明は、上記水系潤滑液組成物において、樹脂と金属の摺動部に用いられる水系潤滑液組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系潤滑液組成物は、高い摩耗防止性の持続性を有し且つ低CODであり、漏洩の予防対策を省力化した各種機器へも好適に用いることができる。また、樹脂と金属の摺動部を有する機器に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水系潤滑液組成物には、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を含有する。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は6〜18であり、好ましくは炭素数が8〜16、特に好ましくは炭素数が10〜14である。アルキル鎖長が6未満であると摩耗防止効果が得られず、18を超えると水への溶解性が著しく低下する。また、アルキル基が分岐鎖であると摩耗防止性の持続性が低下するため、本発明においてはアルキル基は直鎖である必要がある。なお、分岐鎖であると摩耗防止性の持続性が劣る理由としては、摺動部分において分岐鎖であるとアルキルベンゼンスルホン酸塩の密度の高い吸着膜が刑成できず摩耗防止性の持続性が低下するためと考えられる。
【0012】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩はアルカリ金属塩であれば特に限定されないが、水への溶解性の観点からアルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩、ナトリウム塩が特に好ましい。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の含有割合は、水系潤滑液組成物全量に対して0.01〜0.25質量%であり、好ましくは0.1〜0.24質量%であり、特に好ましくは0.15〜0.23質量%である。0.01%未満であると摩耗防止性の持続性が得られず、0.25質量%を超えるとCODが160mg/Lを超過する。
【0013】
本発明の水系潤滑液組成物における水の含有量は、水系潤滑液組成物全量に対して、99.75〜99.99質量%であり、好ましくは99.76〜99.9質量%であり、特に好ましく99.77〜99.8質量%である。
本発明の水系潤滑液組成物は、JIS K0102排水試験方法により測定されるCODが160mg/L以下であり、好ましくは150mg/L以下である。CODは低い程環境負荷が低くなるので好ましいが、本発明の水系潤滑液組成物では前述の通り最低でも直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を0.01質量%含有することから、CODの下限値は7mg/L程度となる。
【0014】
本発明の水系潤滑液組成物には、基本的に鉱物油、合成油、グリコール類、高分子有機化合物を含有しないか、含有していても組成物全体のCODが160mg/Lを超えない量である必要があるので、その量はわずかであり、他成分との兼ね合いを考えた場合には、例えば10mg/L以下であることが好ましい。
鉱物油としては、例えば、原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組み合わせて精製したものが挙げられる。
【0015】
合成油としては、例えば、メタン等の天然ガス等の原料としてフィッシャー―トロプシュ合成によって得られたワックスを原料として製造されたもの、リン酸エステル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、モノエステル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ケイ酸エステル、クロロフルオロカーボン、パーフルオロアルキルエーテル、ポリフェニルエーテル、合成ナフテンなどが挙げられる。
【0016】
グリコール類としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングルコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロプレングリコール、ブチレングリコール、ジチレングリコール、ペンチルグリコール、ジペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、ジヘキシレングルコールなどのグリコール類及びこれらのグリコール類のモノアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0017】
高分子有機化合物としては、ポリαオレフィン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン、エチレンプロピレン共重合体、スチレン―ブタジエン水素化共重合体、スチレン―無水マレイン酸エステルきょう重合体、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンイミン、ポリフェニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、多糖類などが挙げられる。
【0018】
本発明の水系潤滑液組成物には、鉱物油、合成油、グリコール類、高分子有機化合物を除き、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の他に、CODが160mg/Lを超えない範囲でその他の成分を適宜配合することができる。その他の添加剤としては、例えば通常の水系潤滑液に用いられる成分、潤滑剤、金属不活性化剤、液相あるいは気相防錆剤、消泡剤、着色剤、及びその他任意の添加剤が挙げられる。
【0019】
潤滑剤としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸、芳香族脂肪酸、ダイマー酸などが挙げられる。これらの脂肪酸は1種単独で用いても良いし、2種以上を混合使用してもよい。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、5
− メチルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾールおよびそれらのアルカリ金属塩又はアミン塩などのベンゾトリアゾール系化合物、メルカプトベンゾチアゾールおよびそのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの金属不活性化剤は1種単独で用いても良いし、2種以上を混合使用しても良い。
【0020】
液相あるいは気相防錆剤としては、メチルモルホリン、エチルモルホリン等のアルキルモルホリン類やトリエタノールアミン、N
− メチルジエタノールアミン等の有機アミン類、カルボン酸アルカリ金属塩等を含有させることが可能である。これらの液相あるいは気相防錆剤は1種単独で用いても良いし、2
種以上を混合使用してもよい。
消泡剤としては、シリコーン化合物の乳化物などが、着色剤としてはアルコール系着色剤、金属系着色剤などが挙げられる。
【0021】
本発明の水系潤滑液組成物は、低環境負荷能が求められる種々の用途において使用することが可能である。例えば産業機械、輸送機械、特に好ましくは設備工場、産業機械の軸受や歯車、搬送用ベルトコンベア、工作機械、農機、金属加工、圧延機、発電所のタービン、油圧機器、コンプレッサー等の潤滑箇所に使用できる。
【0022】
また、本発明の水系潤滑液組成物は、種々の材質を使用している摺動部に用いることができ、例えば、金属−金属間の摺動部や、樹脂−金属間の摺動部に適用できるが、磨耗防止性の持続性の観点から、樹脂−金属間の摺動部に好ましく適用でき、特にPTFE樹脂又はPEEK樹脂−金属間の摺動部に好適に用いることができる。
樹脂としては、PTFE樹脂、PEEK樹脂以外にも、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、二トリル−ブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。また、金属としては、炭素鋼、ステンレス鋼、含鉄合金、鋳鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン、チタニウム合金などが挙げられる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例及び比較例でさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
(実施例1〜3及び比較例1〜5)
実施例1〜3及び比較例1〜5として、下記のアルキルベンゼンスルホン酸を用いて、表1の水系潤滑液組成物を調製した。各水系潤滑液組成物は、以下の評価方法でpH、COD、摩耗防止性の持続性を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0024】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩:
(A)アルキル基の炭素数が10〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
(B)アルキル基の炭素数が4のn−ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
(C)アルキル基の炭素数が8の2−エチルヘキシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
【0025】
<評価方法>
(1)COD測定
CODはJIS K0102排水試験方法により測定した。
(2)摩耗防止性試験(摩耗防止性の持続性)
ASTM D 2714に規定されているLFW−1試験機を用い、回転数2000rpm、液温40℃、荷重5ポンドの条件で試験を行い、下記に示す各材質のブロックの摩耗深さを測定した。
(A)PTFE樹脂―鋼
ASTM D 2714に準拠したPTFE樹脂製のブロックと鋼製のリングを使用し、10時間試験を行った。
(B)PEEK樹脂―鋼
ASTM D 2714に準拠したPEEK樹脂製のブロックと鋼製のリングを使用し、10時間試験を行った。
(C)鋼―鋼
ASTM D 2714に準拠した鋼製のブロックと鋼製のリングを使用し、10時間試験を行った。
【0026】
表1に示した結果から、実施例1及び実施例2の水系潤滑液組成物は、摩耗防止性の持続性に優れている上に低いCODであることがわかる。
一方、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を含有しない比較例5や本発明で規定する配合量よりも少ない比較例1や、配合された直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基が本発明で規定する炭素数よりも小さい比較例3では十分な摩耗防止性の持続性を得られないことがわかる。
【0027】
また、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の配合量が本発明で規定する配合量を超えると摩耗防止性の持続性は良好ではあるが、CODが高くなってしまい、排水への影響が懸念される結果となった。
さらに、本発明の成分である炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸に代えて炭素数8の分岐鎖アルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩を配合しても十分な摩耗防止性の持続性を得ることができないことがわかる。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の水系潤滑液組成物は、低環境負荷能が求められる種々の用途において使用することが可能である。例えば産業機械、輸送機械、特に好ましくは設備工場、産業機械の軸受や歯車、搬送用ベルトコンベア、工作機械、農機、金属加工、圧延機、発電所のタービン、油圧機器、コンプレッサー等の潤滑箇所に使用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に、炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を0.01〜0.25重量%が配合され、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物。
【請求項2】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩である請求項1に記載の水系潤滑液組成物。
【請求項3】
樹脂と金属の摺動部に用いられる請求項1又は2のいずれかに記載の水系潤滑液組成物。

【公開番号】特開2013−87220(P2013−87220A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229834(P2011−229834)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】