説明

水系無機ジンクリッチ塗料組成物

【課題】防食性に優れた水系無機材料をビヒクルとして用いてVOC削減を具現化した、重防食塗装システムの防食下地となるジンクリッチ塗料、ジンクショッププライマー、厚膜型ジンクリッチペイントとして使用できる水系無機ジンクリッチ塗料組成物を提供すること。
【解決手段】特定の珪酸アルカリ、アンモニウムイオン及びハロゲンイオンを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクル、これに更にハロゲン化アルカリを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクル、又は特定の珪酸アルカリ及びハロゲン化アルカリを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクルを用い、このビヒクルと亜鉛末とを特定の配合比で用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系無機ジンクリッチ塗料組成物に関し、より詳しくは、防食性に優れた水系無機材料をビヒクルとして用いてVOC削減を具現化した、重防食塗装システムの防食下地となるジンクリッチ塗料、ジンクショッププライマー、厚膜型ジンクリッチペイントとして使用できる水系無機ジンクリッチ塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重防食塗装システムの防食下地に欠かせない従来のジンクリッチ塗料は、アルキルシリケートをバインダーとする溶剤型無機系塗料(例えば、特許文献1参照)と、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂などの高分子樹脂をバインダーとする溶剤型有機系塗料(例えば、特許文献2及び3参照)とに大別される。
【0003】
世界的にVOC削減及び省石油資源が地球環境問題として論議されている現在、石油製品であり且つVOC源としての有機溶剤を削減することは塗料・塗装業界に課せられた命題であり、一般の溶剤型塗料で使用される有機溶剤量を2004年実績の50%に削減する方針が日本塗料工業会から指針として提案されている。
【0004】
それで、塗料業界はこの問題を真剣に受け止め、技術的に可能なものから順次水系塗料或いは粉体塗料等の非有機溶剤塗料への転換を進めており、建築、自動車、弱電、一般工業品関係などでは非有機溶剤型塗料への転換率が非常に高い。
【0005】
しかしながら、塗装系としてこれらのジンクリッチ塗料に塗装するエポキシ系の下塗り塗料、非黄変型ウレタン上塗り塗料、アクリルシリコン上塗り塗料、フッ素上塗り塗料等は実用できるまでの性能を保持する水系樹脂の開発がほぼ確立されているが、肝心のジンクリッチ塗料及びジンクショップ塗料等には、長期耐久性を保障し得る水系のビヒクル仕様が確立されていないので、橋梁、石油タンク、船舶、湾岸エリア構造物等の重防食ジンクリッチ塗料を必要とする分野においては、水系化への転換が遅れている。
【0006】
ジンクリッチ塗料に求められる性能は当然のことながら長期にわたる鋼材の防食である。水系化する場合、技術的には有機質塗料のほうが容易であり、実際に一部工業用途では実用されている。しかしながら、実用されている水系の有機質ジンクリッチ塗料では、防食性能に限界があり、重防食塗装システムに求められている、ジンクリッチ塗料としての性能を実現することは極めて困難であり、より長期の防食性が期待できる無機質塗料の水系化が望まれている。
【0007】
無機質系の水系塗料で使用できるバインダーとしてアルカリ珪酸塩およびコロイダルシリカが代表的な材料として検討されており、多くの特許が出願されている。しかし、多くの特許が成立している現状においても、長期防食塗装システムの環境対策が求められた時に、実用品として展開できるジンクリッチ塗料は残念ながら市場展開されていない。これはひとえに、これら既検討水系無機ジンクリッチ塗料の性能が、重防食塗装システムが要求する性能レベルに到達していないことを示している。
【0008】
例えば、バインダーとしてアルカリ珪酸塩を単独で用いた場合には、(1)アルカリ珪酸塩のアルカリ度が高い場合には亜鉛末との反応が避けられず、可使時間が1〜3時間程度と短くなるので使い難い、(2)乾燥塗膜表面での色むら及び屋外で曝露したときの表面白化傾向がクレームになる可能性が大きい、(3)亜鉛としての防食電位を示すが、電位の発現が遅いときがある、(4)塩水噴霧試験での防食性能は優れているが、安定性に欠ける、(5)エポキシ下塗り塗料との付着性が安定しない、(6)水道水への浸漬で溶解、フクレ、剥離を起こし易く、浸漬用途では使用できない、という問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開2004−359800号公報
【特許文献2】特開平11−124520号公報
【特許文献3】特開2005−66574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
重防食塗装システムで使用出来る水系の無機ジンクリッチ塗料にするために解決すべき課題は、例えば、亜鉛末との混合安定性、可使時間、塗膜強度、エポキシ塗料などの上塗り性、塗装系としての2次物性、塩水噴霧防食性、防食電位発現性、防食電位維持性、塗膜の水不溶性、塗装作業性等であり、ここで重要なことは、性能毎に優れているものでなく、各性能間のバランスが取れていることである。
【0011】
本発明は、防食性に優れた水系無機材料をビヒクルとして用いてVOC削減を具現化した、重防食塗装システムの防食下地となるジンクリッチ塗料、ジンクショッププライマー、厚膜型ジンクリッチペイントとして使用できる水系無機ジンクリッチ塗料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、水系無機ジンクリッチ塗料組成物に用いるビヒクルについて鋭意検討した結果、特定の珪酸アルカリ、アンモニウムイオン及びハロゲンイオンを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクル、これに更にハロゲン化アルカリを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクル、又は特定の珪酸アルカリ及びハロゲン化アルカリを特定の濃度で含有している水溶液からなるビヒクルを用い、このビヒクルと亜鉛末とを特定の配合比で用いることにより本発明で目的とする水系無機ジンクリッチ塗料組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物は、一般式M2O・nSiO2(式中、MはNa、K、Li又はCsであり、nは2〜4の数である。)で表される珪酸アルカリを10〜50質量%の濃度で含有し、アンモニウムイオンを0.01〜0.1Mの濃度で含有し且つハロゲンイオンを0.01〜1Mの濃度で含有している水溶液からなるビヒクルと亜鉛末とからなり、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜20質量%、好ましくは5〜10質量%となり、亜鉛末が80〜95質量%、好ましくは90〜95質量%となる配合であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物は、上記のビヒクルが珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%(本発明において、「珪酸アルカリの質量を基準にして」とは、珪酸アルカリ化合物、即ち固形分100質量部に対する各成分の質量部を示すものである)となる量でハロゲン化アルカリを追加含有していることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物は、一般式M2O・nSiO2(式中、MはNa、K、Li又はCsであり、nは2〜4の数である。)で表される珪酸アルカリを10〜50質量%の濃度で含有し且つ珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%となる量でハロゲン化アルカリを含有している水溶液からなるビヒクルと亜鉛末とからなり、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜20質量%、好ましくは5〜10質量%となり、亜鉛末が80〜95質量%、好ましくは90〜95質量%となる配合であることを特徴とする。
【0016】
本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物においては、上記の各々のビヒクルに珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜4.5質量%となる量の無機酸を加えてケイ酸アルカリの一部分を中和させたものと、ポリアクリル酸エマルション希釈液を水酸化アルカリ金属水溶液で中和して得られた水溶粘液状態の樹脂とを、ビヒクル中の中和ポリアクリル酸の固形分の量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜3.5質量%となる量比で配合したものをビヒクルとして用いることも、上記の各々のビヒクルが珪酸アルカリの質量を基準にして1〜35質量%となる量で水溶性多価アルコールを追加含有しているものをビヒクルとして用いることも、ビヒクルが顔料を追加含有しており、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜15質量%となり、顔料が5〜55質量%以下となり、亜鉛末が40〜90質量%となる配合であるものを用いることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物は、防食性に優れた水系無機材料をビヒクルとして用いてVOC削減を具現化し、重防食塗装システムの防食下地となるジンクリッチ塗料、ジンクショッププライマー、厚膜型ジンクリッチペイントとして使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明においては、ビヒクルとして一般式M2O・nSiO2(式中、MはNa、K、Li又はCsであり、nは2〜4の数であり、整数でなくてもよい。)で表される珪酸アルカリを用いる。珪酸アルカリのアルカリ度が高いと水系無機ジンクリッチ塗料組成物の安定性が損なわれる傾向があるので、nの値が2.5〜4であることが好ましい。本発明においては上記一般式で表される珪酸アルカリを10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%の濃度で含有する水溶液を使用することが好適である。その濃度が10質量%未満である場合には、乾燥塗膜とした時の最低のバインダー固形分量である5質量%の場合でも、亜鉛末と混合するビヒクルの必要量が多くなり、塗料としての粘度が下がりすぎるので混合物の沈殿安定性に支障をきたす傾向がある。又、その濃度が50質量%を越えるとビヒクルの粘度が著しく増加して、各種材料(例えば顔料類、亜鉛末)との混合作業に支障が生じる傾向がある。
【0019】
本発明の第一の態様としては、ジンクリッチ塗料としての性能バランスを確保するために、珪酸アルカリを含有する水溶液中に活性化剤としてのアンモニウムイオンを0.01〜0.1Mの濃度で含有させ且つ触媒としてのハロゲンイオンを0.01〜1Mの濃度で含有させることが好ましい。このような水溶液は特公平7−10750号公報に示されている。このようにアンモニウムイオン及びハロゲンイオンを含有させることにより、ビヒクルと亜鉛末とを混合した時の亜鉛末との反応速度を鈍くして5時間程度の可使時間を確保し、エポキシ下塗り塗料との付着性を安定化させることができる。
【0020】
アンモニウムイオン源としては、例えば塩化アンモニウム、フッ化アンモニウム等の無機塩類が好適であるが、そのうちでも塩化アンモニウムが特に好ましい。ビヒクル中のアンモニウムイオン濃度が0.01M未満である場合には、活性化剤としての添加効果が不十分となる傾向があり、ビヒクル中のアンモニウムイオン濃度が0.1Mを超える場合には、亜鉛末と混合したときにゲル化速度が促進されて可使時間が短くなり、実用塗料として支障が生じる傾向がある。
【0021】
また、ハロゲンイオン触媒としては、塩素イオンまたはフッ素イオンが好適であるが、そのうちでも特に塩素イオンが好ましい。ハロゲンイオン源としては、Na、K、Ca、Al、Mg等の金属の塩化物及びフッ化物が好適であるが、このうちでも特にNa塩が好ましい。ビヒクル中のハロゲンイオン濃度が0.01M未満である場合には、防食電位の発現が遅くなり、触媒としての添加効果が不十分となる傾向があり、本発明の目的を完全に達成することが出来ない。またビヒクル中のハロゲンイオン濃度が1Mを超える場合には、ビヒクルの安定性が悪くなり、得られる乾燥塗膜の耐水性が低下する傾向がある。
【0022】
使用に好適なビヒクルは、例えば、ハロゲン化アンモニウムを0.05Mの濃度で含有し、ハロゲン化アルカリを0.1Mの濃度で含有する。このようなビヒクルはそのまま使用することも出来るが、必要によってはハロゲン化アルカリを更に追加することもできる。追加した後の合計濃度としては、ビヒクルが珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%、好ましくは1〜12質量%となる量でハロゲン化アルカリを含有していることが好適である。この場合には、ビヒクルと亜鉛末とを混合した時の亜鉛末との反応速度を鈍くして5時間程度の可使時間を確保し、防食電位の発現を早くさせ、耐塩水噴霧性能を安定化させ、エポキシ下塗り塗料との付着性を安定化させ、得られる乾燥塗膜の二次性能を改善することができる。なお、亜鉛末の平均粒径については比較的大きい方が好ましく、具体的には5〜8μmであることが好ましい。
【0023】
本発明の第二の態様としては、ジンクリッチ塗料としての性能バランスを確保するために、珪酸アルカリを含有する水溶液中に珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%、好ましくは1〜12質量%となる量でハロゲン化アルカリを含有させることが好適である。このことにより、ビヒクルと亜鉛末とを混合した時の亜鉛末との反応速度を鈍くして5時間程度の可使時間を確保し、防食電位の発現を早くさせ、耐塩水噴霧性能を安定化させ、エポキシ下塗り塗料との付着性を安定化させ、得られる乾燥塗膜の二次性能を改善することができる。
【0024】
ビヒクル中のハロゲン化アルカリの量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5質量%未満である場合には、添加効果が不十分となる傾向があり、13質量%を超える場合には、得られる乾燥塗膜表面に色ムラが生じたり、屋外曝露で白化することもあるので好ましくない。
【0025】
本発明の第三の態様としては、ジンクリッチ塗料としての性能バランスを確保するために、上記の何れかのビヒクルに珪酸アルカリの質量を基準にして1〜35質量%、好ましくは1〜30質量%となる量で水溶性多価アルコールを含有させることが好適である。このことにより、ビヒクルと亜鉛末とを混合した時の亜鉛末との反応速度を鈍くして5時間程度の可使時間を確保し、防食電位の発現を早くさせ、耐塩水噴霧性能を安定化させ、エポキシ下塗り塗料との付着性を安定化させることができる。得られる乾燥塗膜の二次性能は幾分低下するが、実用には支障がない。また、得られる乾燥塗膜表面の色ムラを抑制できるが、屋外曝露を継続した場合の白化を抑制することができない。
【0026】
水溶性多価アルコールとしてグリセリン、エチレングリコール、分子量が2000までのジ乃至ポリエチレングリコール等を用いることができる。ビヒクル中の水溶性多価アルコールの量が珪酸アルカリの質量を基準にして1質量%未満である場合には、防食電位の発現が不十分となる傾向があり、35質量%を越える場合には、乾燥塗膜表面にワレ現象が生じ傾向があるので好ましくない。
【0027】
本発明の第四の態様としては、ジンクリッチ塗料としての性能バランスを確保するために、上記の何れかのビヒクルに珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜4.5質量%、好ましくは0.8〜4質量%となる量の無機酸を加えてケイ酸アルカリの一部分を中和させたものと、ポリアクリル酸エマルション希釈液を水酸化アルカリ金属水溶液で中和して得られた水溶粘液状態の樹脂とを、ビヒクル中の中和ポリアクリル酸の固形分の量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜3.5質量%、好ましくは0.7〜3.2質量%となる量比で配合したものをビヒクルとして用いることが好適である。このことにより、ビヒクルと亜鉛末とを混合した時の亜鉛末との反応速度を鈍くして5時間程度の可使時間を確保し、防食電位の発現を早くさせ、耐塩水噴霧性能を安定化させ、エポキシ下塗り塗料との付着性を安定化させ、得られる乾燥塗膜の二次性能を改善し、得られる乾燥塗膜表面の色ムラを抑制でき、屋外曝露を継続した場合の白化を抑制することができる。
【0028】
無機酸として塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸等を用いることができるが、ハロゲン化水素酸、特に塩酸を用いることが特に好ましい。塩酸を用いた場合には、中和の結果として生成する塩化ナトリウム(NaCl)が、特開2005−15836号公報の段落0026〜0030に説明されているように、M2O・nSiO2(珪酸アルカリ)を使用することで亜鉛末表面においてイオン化傾向による置換を完結する際に、安定錯塩を形成するのに寄与する。
【0029】
上記の反応を理論式により説明する。Zn(亜鉛末)及び[Zn(OH)42-、[Zn(OH)4(H2O)22-のような白サビがM2O・nSiO2(珪酸アルカリ)の存在下、イオン化傾向による置換反応を完結し、中和の結果として生成したNaClにより安定錯塩を形成する。即ち、
【0030】
【化1】

【0031】
上記のように、亜鉛末と反応し、表面に塩基性塩化亜鉛水和物の不溶性塩Zn5(OH)8Cl2・H2Oを生成し、腐食環境下での亜鉛末の消耗を抑制できるという副次効果が得られる。
【0032】
珪酸アルカリ水溶液を無機酸で中和するにあたり無機酸の量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5質量%未満である場合には、防食電位の発現の効果が小さく、3.5質量%を越える場合には、珪酸アルカリ水溶液がゾル化乃至ゲル化する傾向があるので好ましくない。ビヒクル中の中和ポリアクリル酸の固形分の量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5質量%未満である場合には、塩酸中和による塗膜の凝集力低下を抑制する効果が不十分となり、3.5質量%を越える場合には、ビヒクルの粘度が著しく高くなり、亜鉛末との混合作業に支障を来たし且つ塗膜の耐水性を低下させる原因となる傾向があるので好ましくない。
【0033】
本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物においては、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜20質量%、好ましくは5〜10質量%となり、亜鉛末が80〜95質量%、好ましくは90〜95質量%となる配合とする。バインダー固形分が5質量%未満となる配合の場合には、ビヒクルと亜鉛末とは混合し難くなり、水希釈を行っても粘結成分が少ないことで、混合液中の亜鉛末が短時間で沈殿する傾向があるので好ましくない。また、バインダーとしての絶対量が不足し、亜鉛末との混合作業に支障を来たし、且つ塗膜の凝集力が低下して耐久性のある塗膜を形成することが出来ない。バインダー固形分が20質量%を超える場合には、それに応じて亜鉛末の割合が低下し、ジンクリッチ塗料とはならない。
【0034】
本発明の第五の態様としては、酸化チタン、酸化鉄、水系アルミペーストなどの着色顔料、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、カオリン、風化珪石粉末等の体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料から選ばれる1種以上の顔料を含有させることができる。その配合量については、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜15質量%となり、顔料が5〜55質量%以下となり、亜鉛末が40〜90質量%となる配合であることが好ましい。
【0035】
本発明の水系無機ジンクリッチ塗料組成物においては、ダレ防止剤等のジンクリッチ塗料組成物に慣用的に用いられている種々の添加剤を配合することもできる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例及び比較例の記載において、部及び%は特に指定のない限り質量基準である。
【0037】
以下の実施例及び比較例で用いた原料は次の通りである。
<珪酸アルカリ液>
特公平7−10750号公報の請求項1に記載のアルカリ水溶液であり、塩化アンモニウムを0.05M、塩化ナトリウムを0.1M、及び化学式Na2O・3SiO2で表される珪酸アルカリを45質量%の固形分濃度で含有する珪酸ナトリウム水溶液である。
<3号珪酸ソーダ液>
化学式Na2O・3SiO2で表される化合物を40質量%の固形分濃度で含有する市販の3号珪酸ソーダ水溶液。
<工業用食塩>
NaCl含有量99.5%の工業用食塩。
<1M塩酸液>
水道水1リットル中にHClを36.5g含有する水溶液。
<2.8%ASE−60水溶液>
プライマールASE−60(ローム&ハース株式会社製、固形分28%)のエマルジョン液を水道水で10倍に希釈し、1規定の苛性ソーダ液で中和して得た透明な粘液。
<精製グリセリン>
坂本薬品工業株式会社製の精製グリセリン。
<ポリエチレングリコール>
分子量2000のポリエチレングリコール(シグマアルドリッチジャパン株式会社製) (ぬるま湯で濃度10%に溶解させ、常温に冷却して使用、このぬるま湯の量は配合水道水に含まれる)。
<亜鉛末 F−500、粒径7〜8μm>
本荘ケミカル株式会社製の標準的な亜鉛粉末。
<酸化チタン>
石原産業株式会社製 商品名タイペークCR−50 ルチル型酸化チタン着色顔料。
<酸化鉄(弁柄)>
戸田ピグメント株式会社製 商品名トダカラー130ED 赤色酸化鉄着色顔料。
<リン酸アルミニウム>
テイカ株式会社製 商品名K−ホワイト#84、リン酸アルミ系の防錆顔料。
<沈降性硫酸バリウム>
堺化学株式会社製 商品名沈降性硫酸バリウムL−100 体質顔料。
【0038】
実施例1〜8及び比較例1〜6
実施例1〜6及び比較例1〜6については、第1表に示す原料の内で亜鉛末以外の原料を第1表に示す量(質量部)で配合し、撹拌機で混合した。その後に第1表に示す量(質量部)の亜鉛末と攪拌機で混合してジンクリッチ塗料組成物を得た。
【0039】
実施例7〜8については、第1表に示す原料の内で亜鉛末以外の原料を第1表に示す量 (質量部)で配合し、ビーズを用いた練合で、粒度がJIS K 5600に規定するA法で60ミクロン程度になるように粉砕混合した。その後に第1表に示す量(質量部)の亜鉛末と混合してジンクリッチ塗料組成物を得た。
【0040】
第1表には、ビヒクル中の各原料の珪酸アルカリに対する%(珪酸アルカリ化合物、即ち固形分100質量部に対する各成分の質量部)、計算上の乾燥塗膜中の亜鉛末の割合、バインダー固形分の割合、顔料の割合も示す。
【0041】
実施例1〜8及び比較例1〜6のジンクリッチ塗料組成物について、亜鉛末と混合した直後の状態、亜鉛末と混合した直後に下記のようにして試験板を作成し、試験した場合の結果を第2表に示す。
【0042】
<混合性・ろ過性>
ビヒクルと亜鉛末とを撹拌機で混合したときに容易に一様な混合液になり、60分間放置した後でも分離がなく、80メッシュのステンレス金網でろ過したときに容易にろ過が出来、金網上に残分がないか、否かを下記の評価基準で判定した:
合 格:ビヒクルと亜鉛末とを撹拌機で混合したときに容易に一様な混合液になり、6
0分間放置した後でも分離がなく、80メッシュのステンレス金網でろ過した ときに容易にろ過が出来、金網上に残分がない場合に合格とする。
不合格:ビヒクルと亜鉛末との混合に時間がかかるか、60分以内で分離があるか、8
0メッシュのステンレス金網でろ過しにくいか、金網上に残分が残る、等のい ずれかの現象があれば、実用性がないと判断して不合格とする。
【0043】
<試験板の作成>
70×150×2.3mmのサンドブラスト鋼板の表面に実施例1〜8及び比較例1〜6の何れかのジンクリッチ塗料組成物を乾燥膜厚が60〜80μmになるようにエアースプレー塗りして試験板を得た。
【0044】
試験項目、試験内容及び評価基準は次のとおりである。
<乾燥塗膜の白化、色むら、塗膜ワレ>
サンドブラスト鋼板の表面にエアースプレー塗りし、室内で3日間乾燥させた後、塗膜の表面を目視で観察して白化、色むらの有無を調べ、また30倍の拡大鏡で観察して塗膜のワレの有無を調べて下記の評価基準で判定した。
5:乾燥塗膜表面に色むら、塗膜ワレがない、
4:ごく一部に白化があるが、塗膜にワレがない、
3:試験板の20%以下の範囲で白化又は色むらがあるが、塗膜にワレがない、
2:試験板の50%程度に白化又は色むらがあるか、30倍の拡大鏡で観察して塗膜に ワレがある、
1:試験板の50%以上の範囲で白化又は色むらがあるか、目視でも塗膜のワレが認め られる。
【0045】
<屋外曝露後の塗膜の白化、色むら、塗膜ワレ>
サンドブラスト鋼板の表面にエアースプレー塗りし、室内で3日間乾燥させ、更に屋外に7日間曝露を継続した後、塗膜の表面を目視で観察して白化、色むらの有無を調べ、また30倍の拡大鏡で観察して塗膜のワレの有無を調べて下記の評価基準で判定した:
5:乾燥塗膜表面に色むら、塗膜ワレがない、
4:ごく一部に白化があるが、塗膜にワレがない、
3:試験板の20%以下の範囲で白化又は色むらがあるが、塗膜にワレがない、
2:試験板の50%程度に白化又は色むらがあるか、30倍の拡大鏡で観察して塗膜に ワレがある、
1:試験板の50%以上の範囲で白化又は色むらがあるか、目視でも塗膜のワレが認め られる。
【0046】
<防食電位>
この試験は乾燥塗膜中の亜鉛末の量が90%以上であるジンクリッチ塗料組成物を対象とする。
【0047】
サンドブラスト鋼板の表面にエアースプレー塗りし、7日間乾燥した試験板の裏面、エッジをエポキシ塗料で塗り包み、室内で7日間乾燥させた。試験は3%食塩水に250時間浸漬後で、自然電位を測定した。測定法は簡易法とし、試験板裏面の一部塗膜を剥ぎ取り、端子を取り付け、試験板表面に3%食塩水を滲み込ませた2cm2のガーゼを載せて、直流電圧を測定するメーターを介して銀塩化銀電極を軽く接触させ、メーターに表示される電圧を読み取り、下記の評価基準で判定した。この評価基準で4以上のものが実用性ありと判断される:
5:−950mv以上、
4:−800mv以上、−950mv未満、
3:−650mv以上、−800mv未満、
2:−500mv以上、−650mv未満、
1:−500mv未満。
【0048】
<塩水噴霧試験>
サンドブラスト鋼板の表面にエアースプレー塗りし、7日間乾燥した試験板をJIS
K 5600に基づいて塩水噴霧試験を250時間行い、サビ、フクレ、塗膜の溶解状態について下記に示すそれぞれの評価基準で判定した。これらの評価基準で4以上のものが実用性ありと判断される:
・サビ評価基準:
5:クロスカット部及びクロスカットを行なっていない一般部のいずれにも鉄の赤サ
ビの発生がない、
4:クロスカット部の一部に赤錆があるが、試験時間に比例して広がることはない、
3:クロスカット部の全てに赤錆ある、
2:クロスカット部にのみならず、一般部にも赤錆がある、
1:試験板の20%以上に赤錆ある。
・フクレ、溶解性評価基準:
5:塗膜にフクレがなく、溶解現象もない、
4:塗膜の10%程度のエリアにフクレがある。擦っても塗膜の溶解はない、
3:塗膜の40%程度のエリアにフクレがあるか、擦ると塗色で汚れる、
2:塗膜の60%程度のエリアにフクレがあるか、擦ると下地の一部が表出する、
1:塗膜の80%以上にフクレがあるか、塗膜は溶解し下地が露出している。
【0049】
<橋梁規格の溶剤型エポキシ下塗適合性試験>
サンドブラスト鋼板の表面にエアースプレー塗りし、7日間乾燥した試験板に橋梁の規格で規定されているエポキシ系下塗り塗料(大日本塗料株式会社製 エポニックス#30下塗)及び中塗り塗料(大日本塗料株式会社製 VトップH中塗)を24時間間隔で規定の塗布量でハケ塗りした。中塗を塗装して7日間乾燥させた後に付着試験を行なった。付着試験は試験部位の表面を#240研磨紙で軽く目荒らしし、エポキシ系の接着剤を塗布し、直径が2cmの引っ張り試験用のアタッチメントを貼り付け、2日間乾燥させた後、アタッチメントの周辺塗膜を削って縁を切り、アドヒージョン引っ張り試験機でアタッチメントが剥がれるまでの引っ張り加重を測定した。付着力は、下記に示す評価基準で判定した。この評価基準で4以上のものが実用性ありと判断される:
5:付着力が2.0MPa以上、
4:付着力が1.5MPa以上、2.0MPa未満、
3:付着力が1.0MPa以上、1.5MPa未満、
2:付着力が0.5MPa以上、1.0MPa未満、
1:付着力が0.5MPa未満。
【0050】
<橋梁規格の溶剤型エポキシ下塗/中塗塗料成層膜での二次物性>
上記の付着試験終了後の試験板を水道水に浸漬して14日後に2×2mmのゴバン目試験を行って2次付着性を試験し、下記に示す評価基準で判定した。この評価基準で4以上のものが実用性ありと判断される:
5:ゴバン目付着が25/25、
4:ゴバン目付着が20/25以上、25/25未満、
3:ゴバン目付着が15/25以上、20/25未満、
2:ゴバン目付着が10/25以上、15/25未満、
1:ゴバン目付着が10/25未満。
【0051】
<可使時間>
<5時間放置後の混合性・ろ過性>
ビヒクルと亜鉛末とを撹拌機で混合して5時間放置した後の混合液の状態を観察して撹拌し難い沈殿・分離の有無を調べ、また80メッシュのステンレス金網でろ過したときのろ過性を調べて下記の評価基準で判定した:
合 格:5時間放置した後の混合液に分離又は沈殿があっても容易に撹拌ができ、80 メッシュのステンレス金網でろ過が出来る場合に合格とする。
不合格:5時間放置した後の混合液に容易には撹拌出来ない分離又は沈殿があり、80 メッシュのステンレス金網でろ過を行ってもろ過が容易でなく、金網上に残る 量が多い場合は実用性がないと判断して不合格とする。
【0052】
ビヒクルと亜鉛末とを撹拌機で混合して5時間放置した後の混合液を80メッシュのステンレス金網でろ過した水系無機ジンクリッチ塗料組成物を用いて、前記と同様にして<混合性・ろ過性>、<乾燥塗膜の白化、色むら、塗膜ワレ>、<屋外曝露後の塗膜の白化、色むら、塗膜ワレ>、<防食電位>、<塩水噴霧試験>、<橋梁規格の溶剤型エポキシ下塗適合性試験>、<橋梁規格の溶剤型エポキシ下塗/中塗塗料成層膜での二次物性>を評価した。それらの結果を第3表に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M2O・nSiO2(式中、MはNa、K、Li又はCsであり、nは2〜4の数である。)で表される珪酸アルカリを10〜50質量%の濃度で含有し、アンモニウムイオンを0.01〜0.1Mの濃度で含有し且つハロゲンイオンを0.01〜1Mの濃度で含有している水溶液からなるビヒクルと亜鉛末とからなり、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜20質量%となり、亜鉛末が80〜95質量%となる配合であることを特徴とする水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項2】
ビヒクルが珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%となる量でハロゲン化アルカリを追加含有していることを特徴とする請求項1記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項3】
一般式M2O・nSiO2(式中、MはNa、K、Li又はCsであり、nは2〜4の数である。)で表される珪酸アルカリを10〜50質量%の濃度で含有し且つ珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜13質量%となる量でハロゲン化アルカリを含有している水溶液からなるビヒクルと亜鉛末とからなり、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜20質量%となり、亜鉛末が80〜95質量%となる配合であることを特徴とする水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項4】
乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜10質量%となり、亜鉛末が90〜95質量%となる配合であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項5】
一般式M2O・nSiO2中のnが2.5〜4であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項6】
亜鉛末の平均粒径が5〜8μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のビヒクルに珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜4.5質量%となる量の無機酸を加えてケイ酸アルカリの一部分を中和させたものと、ポリアクリル酸エマルション希釈液を水酸化アルカリ金属水溶液で中和して得られた水溶粘液状態の樹脂とを、ビヒクル中の中和ポリアクリル酸の固形分の量が珪酸アルカリの質量を基準にして0.5〜3.5質量%となる量比で配合したものをビヒクルとして用いることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項8】
ビヒクルが珪酸アルカリの質量を基準にして1〜35質量%となる量で水溶性多価アルコールを追加含有していることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。
【請求項9】
ビヒクルが顔料を追加含有しており、乾燥塗膜とした時にバインダー固形分が5〜15質量%となり、顔料が5〜55質量%以下となり、亜鉛末が40〜90質量%となる配合であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の水系無機ジンクリッチ塗料組成物。

【公開番号】特開2009−249490(P2009−249490A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98739(P2008−98739)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(592217842)
【出願人】(000219015)島貿易株式会社 (2)
【出願人】(000207090)大都産業株式会社 (6)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】