説明

水系硬化性樹脂組成物

【課題】環境対応において有利であり、また成膜助剤を用いることなく塗工が可能で、エマルションの分散安定性を向上させることができ、しかも硬化性、耐久性、耐汚染性等の塗膜物性を向上させることができる水系硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】このような水系硬化性樹脂組成物は、乳化重合によって製造されたアクリル系エマルションを必須成分とする水系硬化性樹脂組成物であって、上記アクリル系エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを含有するものである水系硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、環境問題に対応することができ、各種の物性を有する塗膜を紫外線等で硬化させて形成することが求められる様々な用途に好適に用いられる水系硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水系硬化性樹脂組成物は、水系である利点から環境問題に対応することができ、また硬化性を有することから各種の物性を発現することができ、例えば、紫外線等で硬化させて塗膜を形成することが求められる様々な用途に好適に用いられている。このような水性タイプの硬化性樹脂組成物としては、水分散型(エマルション型ともいう)と水溶性型とがある。水分散型は、紫外線(UV)樹脂を活性剤にて水分散させたものが用いられているが、分散安定性に関してUV照射前に凝集しやすいという性質がある。水溶性型は、水可溶タイプのUV硬化性樹脂を使用したものが知られている。しかし、加水分解しやすく安定性が低下し、酸基やポリエチレングリコール(PEG)基等の水可溶とするための親水性基を多く有することに起因して、耐水性が低下し、またPEG鎖等を有するものは硬化物が柔らかくなってしまう傾向にあり、UV硬化による硬い塗膜形成の利点が損なわれるおそれがある。
【0003】
従来のUV硬化塗料組成物としては、沢田浩著、「水系UV/EB硬化性樹脂の設計」、平成13年、p.35−43に、基本構成が重合性オリゴマー/反応性希釈剤/光開始剤からなっているUV/EB硬化性樹脂が開示されており、また、高尾道生著、「水性UVインキ」、ファインケミカル、2005年1月、第34巻、第1号、p.52−57に、UV硬化樹脂を活性剤を用いて水分散した系が開示されている。
また溶剤又は分散剤として水を含む感光性組成物として、特開平5−9407号公報(第1頁)に、少なくとも結合剤として水溶性の固体の架橋性のフィルム形成ポリマー、水溶性の光重合性アクリレート、オリゴマー、光開始剤化合物を含む感光性組成物が開示されており、また、特開平9−302266号公報(第1−2頁)に、水性樹脂分散体に感光性ポリマー及び感光性モノマーを配合してなる水性感光性コーティング組成物が開示されている。
【0004】
これらの硬化性樹脂のように、基本構成を重合性オリゴマー/反応性希釈剤/光開始剤とする場合、硬化後は、反応性希釈剤が揮散せず、実質的に無溶剤とすることができ、環境対応に関して有利なものではある。しかしながら、反応性希釈剤だけで希釈したものは、硬化物の各種物性をバランスよく向上させることができない。
また、通常用いるエマルションにおいて、柔らかい硬化物は、成膜助剤として溶剤を必要としないが、硬い硬化物は、耐汚染性等の物性が向上されたものについては、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等の溶剤が必要となる。このように、基本構成を重合性オリゴマー/反応性希釈剤/光開始剤としたものあるいはエマルション(又はエマルション/成膜助剤のみ)の系では、環境問題に対して有利ではあるものの、各種物性について性能バランスを図ることができず、より強靱で基本性能が向上した塗膜を形成して種々の用途に好適に適用することができるようにすることが求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、環境対応において有利であり、また成膜助剤を用いることなく塗工が可能で、エマルションの分散安定性を向上させることができ、しかも硬化性、耐久性、耐汚染性等の塗膜物性を向上させることができる水系硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、近年の環境問題に充分に対応することができる水系硬化性樹脂組成物について種々検討したところ、乳化重合によって製造されたアクリル系エマルションが、分散安定性において好適であることに着目し、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを含有するものとすると、これらが成膜助剤効果を発現しつつ紫外線等により硬化させることができ、硬化性、耐久性、耐汚染性等の塗膜物性が向上することを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、乳化重合によって製造されたアクリル系エマルションを必須成分とする水系硬化性樹脂組成物であって、上記アクリル系エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを含有するものであることを特徴とする水系硬化性樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の水系硬化性樹脂組成物において、アクリル系エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを含有するものである。すなわち、硬化性モノマー及び硬化性オリゴマーのうち少なくとも1種のものがエマルション粒子の内部に存在することになるものである。
ここで、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーをアクリル系エマルション粒子中に存在させた形態としては、例えば、(1)調製されたアクリル系エマルション粒子に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを吸わせた形態、(2)アクリル系エマルション粒子の調製中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを吸わせた形態が挙げられ、これらを組み合わせた形態であってもよい。好ましくは、調製されたアクリル系エマルション粒子に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを吸わせた形態を必須とすることである。この場合には、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、アクリル系エマルション粒子中に浸透する性質を有するものを用いることが好ましい。
【0009】
本発明においては、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーがアクリル系エマルション粒子中に存在することにより、造膜過程において、成膜助剤を用いなくとも、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーが成膜助剤効果を発現して塗膜を形成することができ、かつ、硬化する際に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーも硬化に寄与し、塗膜の硬化性、耐久性及び耐汚染性が向上することになる。
【0010】
上記水系硬化性樹脂組成物においてはまた、必要により成膜助剤を添加してもよいが、この場合、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと、成膜助剤との合計量100質量%に対し、成膜助剤が20質量%以下であることが好適である。より好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。すなわち、成膜助剤を添加しない形態は、本発明の好ましい実施形態の一つである。
なお、このように成膜助剤の使用量を低減することにより、揮発性の成膜助剤が環境にもたらす影響を充分に低減することができるとともに、本発明の樹脂組成物を用いた塗膜の硬化性をより向上させることが可能となる。
【0011】
上記成膜助剤としては、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオール、モノイソブチレート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート、2−エチルヘキシルジグリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール、n−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等が挙げられる。
これらのものを用いるとMFTは低下するが、熱又はUV硬化により得られた被膜は、硬度が発現せず、また、耐溶剤性、耐汚染性も不充分なものである。
【0012】
上記硬化性モノマー及びオリゴマーとしては、反応性希釈剤のうちエマルション粒子中に存在することができるものを用いることができる。
本発明の場合、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーは、調製されたアクリル系エマルション粒子に吸わせることができる化合物であるか、アクリル系エマルション粒子の調製中に吸わせることができる化合物であることが好ましい。
【0013】
重合性アクリルポリマーが、紫外線照射によって硬化されて使用される場合、その硬化方法は、使用する光重合開始剤、紫外線を発生させる光源の種類、光源と塗布面との距離などの条件によっても異なってくるが、例えば波長1000〜8000オングストロームの紫外線を通常数秒間、長くとも数十秒間照射する方法を挙げることができる。
電子線照射によって硬化されて使用される場合には、例えば通常50〜1000kev、好ましくは100〜300kevの加速電圧で、吸収線が1〜20Mrad程度となるように電子線を照射する方法を挙げることができる。電子線照射は大気中で行ってもよいが、窒素などの不活性ガス中で行うのが好ましい。吸収線量については、被膜中に残存する重合性二重結合が被膜物性に影響しないまで照射することができる。紫外線照射又は電子線照射後、必要に応じて加熱を行い、硬化を一層進行させてもよい。
熱によって硬化されて使用される場合、50〜200℃の乾燥機で0.5〜60分乾燥させる方法を挙げることができる。好ましくは、5〜20分、100〜180℃で乾燥させるのがよい。上記乾燥工程前に基材をプレヒートしたり、セッティングする手法を併用しても構わない。乾燥機は、ジェットオーブン、熱風乾燥機など一般的に使用されているものを使用することができる。
また、電子線にて硬化させる場合、熱又は光重合開始剤を必要としないため、得られた塗膜は耐候性、耐水性等塗膜性能を向上させることができる。
【0014】
上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、モノマー及び/又はオリゴマーであり、紫外線並びに熱及び/又は電子線にて硬化又は重合するものであり、親水性又は疎水性のものである。すなわち、上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーの好ましい形態としては、(1)紫外線硬化性親水性モノマー、熱硬化性親水性モノマー又は電子線硬化性親水性モノマー、(2)紫外線硬化性疎水性モノマー、熱硬化性疎水性モノマー又は電子線硬化性疎水性モノマー、(3)紫外線硬化性親水性オリゴマー、熱硬化性親水性オリゴマー又は電子線硬化性親水性オリゴマー、(4)紫外線硬化性疎水性オリゴマー、熱硬化性疎水性オリゴマー又は電子線硬化性疎水性オリゴマーであり、成膜助剤機能と硬化機能、特に紫外線、熱、又は電子線硬化機能とを両立させるようなものが好適である。より好ましくは、エマルション粒子中に吸わせることができ、含浸させやすい疎水性モノマー及び/又は疎水性オリゴマーである。すなわち、上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーは、疎水性であることがより好ましい。疎水性の硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、20℃における水への溶解度が1.0質量%以下のものが好ましく、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等、水に対する溶解性がほとんどないものが好適である。また、硬化性モノマーとしては、硬化反応性を有する官能基を2個以上もつ多官能モノマーであることが好ましい。これにより、水系硬化性樹脂組成物によって形成される塗膜がより強靱なものとなり、塗膜物性を向上させることができる。
すなわち、上記水系硬化性樹脂組成物は、紫外線、熱及び電子線の少なくとも一つで硬化又は重合することが好ましい。つまり、それぞれ単独で硬化又は重合してもよいし、2種以上を併用してもよい。具体的には、例えば、加熱後に、必要に応じて紫外線照射や電子線照射を行う形態や、紫外線照射又は電子線照射後、必要に応じて加熱を行う形態等が挙げられる。中でも、紫外線照射又は電子線照射後、更に硬化を完結するために、通常行われるように必要に応じて加熱を行うことがより好ましい。
【0015】
上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを例示すると、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、多官能(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、EO変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、PO変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることが好適である。なお、多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコール鎖を有する多官能(メタ)アクリレートであってもよい。
【0016】
上記硬化性モノマーとしては、多官能(メタ)アクリレートであることが好ましく、これにより、硬化性、耐久性、耐汚染性等の塗膜物性をより充分に向上させることが可能となる。ここで、多官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に重合性二重結合や各種官能基等の反応点を2以上有し、かつ、当該化合物自身が反応する化合物である(メタ)アクリル酸エステル系化合物を意味する。好ましくは、1分子中に、(メタ)アクリル酸エステルに起因する重合性二重結合(−C=C−COO−、−C=C(CH)−COO−)を2以上有する化合物である。
【0017】
上記ポリエチレングリコール鎖を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)により表されるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好適である。
【0018】
【化1】

【0019】
上記式中、Rは、H又はCHを表す。n=1〜6、m=1〜50、より好ましくは、n=1〜6、m=2〜30の整数である。
【0020】
またポリエチレングリコールジアクリレート(商品名「SARTOMER SR−344」、巴工業社製)、トリプロピレングリコールジアクリレート(商品名「アロニックスM−220」、東亜合成化学工業社製)等も好適である。更に、下記一般式(2)のようなもの、アクリル酸2−(2’−ビニルオキシエトキシエチル)も好適である。
【0021】
【化2】

【0022】
R:H又はCH、n=2〜6、より好ましくは、n=2の整数である。
【0023】
本発明においては、硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを水系硬化性樹脂組成物に含有させることより、最低造膜温度(MFT;Minimum film forming temperature)を低下させることができる。なお、MFTは、エマルション粒子が塗膜を形成するため必要な最低温度である。上記硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを含有しない場合、本発明の水系硬化性樹脂組成物のMFTは、20℃以上となるが、硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを含有した水性硬化性樹脂組成物のMFTは、0〜60℃となる。より好ましくは、0〜30℃である。これにより、高温で加熱することなく塗膜を形成することができる。
MFTを低下させるために必要な硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーの量は、乳化重合によって製造されたアクリルエマルションに対して、3〜100重量%である。より好ましくは、5〜60重量%、最も好ましくは、10〜40重量%である。
【0024】
その他の硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、例えば、以下の(1)及び(2)に例示した化合物等が挙げられる。これらは、上述した好ましい硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと併用して用いることができる。
(1)ウレタン(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体の側鎖に(メタ)アクロイル基を含有させたアクリル樹脂(以下、単に(メタ)アクリル樹脂ということがある。)、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の多官能ラジカル重合性化合物。より具体的には、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレート等のペンタ(メタ)アクリレート類。
(2)ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル等の少なくとも2つ以上の重合性不飽和二重結合をもつオリゴマー又はモノマーであるポリオレフィン系化合物。
【0025】
本発明における水系硬化性樹脂の必須成分であるアクリル系エマルションは、通常の乳化重合によって製造されたものであればよい。例えば、乳化剤により、水中に形成されたミセル中のアクリル系モノマー及び必要により他のモノマーを含むモノマー(単量体)成分が開始剤によって重合し、形成されたものであればよい。
【0026】
更に使用するアクリルエマルションとして、官能基を有する重合性単量体から得られたアクリルエマルションを、その官能基と反応性を有する別の化合物を用いて反応させて得られる水性樹脂分散体を使用することもできる。例えば、カルボキシル基を有するアクリルエマルションにエポキシ基、オキサゾリン基、アジリジニル基等を有する化合物を反応させた水性樹脂分散体;エポキシ基を有するアクリルエマルションにカルボキシル基、アミノ基等を有する化合物を反応させて得られる水性樹脂分散体;カルボニル基を有するアクリルエマルションにヒドラジド基を有する化合物を反応させて得られる水性樹脂分散体;水酸基を有するアクリルエマルションにイソシアナート基等を有する化合物を反応させて得られる水性樹脂分散体等が挙げられる。一例として、カルボキシル基と反応性を有するオキサゾリン基含有化合物としてイソプロペニルオキサゾリン、オキサゾリン基を有するポリマー等;エポキシ基含有化合物としてグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エポキシ基を有するポリマー等;エポキシ基と反応性を有するカルボキシル基含有化合物としてアクリル酸、イタコン酸、カルボキシル基を有するポリマー等;アミノ基含有化合物としてジメチルアミノエチルメタクリレート、アミノ基を有するポリマー等;カルボニル基と反応性を有するヒドラジド基含有化合物としてアジピン酸ジヒドラジド、シドラジド基を有するポリマー等が挙げられる。
これらの化合物は、アクリルエマルションが得られた後、更に導入された官能基を活用して反応を行い、所望する水性樹脂分散体にすることになるが、別の手法として、予め乳化重合時又は乳化重合反応終了直後に、そのまま、官能基を有する重合性単量体とその官能基と反応性を有する化合物とを共存させておき、反応させることも可能である。
このような反応点を有するアクリルエマルションを、多官能(メタ)アクリレート及び/又は官能基を有する化合物との反応を利用して硬化させることで、更に架橋密度を上げることができ、硬化性、耐久性及び耐汚染性のより優れた塗膜物性を得ることができる。
【0027】
上記水系硬化性樹脂組成物は、乳化重合によって製造されたアクリルエマルションのTgと水系硬化性樹脂組成物が示すMFT(最低造膜温度)の差が10〜100℃であることが好ましい。ここで、MFTは、後述する測定方法により求めることが好ましい。アクリルエマルションのTgは、計算Tgであることが好ましい。計算Tg(ガラス転移温度)は、以下のFoxの式により求めるものとする。なお、計算Tgを計算する場合、MFT0℃以下は「0℃」として、100℃以上は「100℃」として取り扱うものとする。
Fox式:1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
ここで、Wnは、単量体nの重量%、Tgnは単量体nからなるホモポリマーのTg(絶対温度)を示す。なお、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートを含む重合性単量体成分については、これらを除いて算出したTgを、該重合体単量体成分のガラス転移温度とした。
【0028】
上記アクリル系モノマーとは、アクリロイル基を有するアクリル系モノマー及びメタクリロイル基を有するメタクリル系モノマーのいずれか又は両方を意味するものである。本明細書において、「アクリル」との記載は、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0029】
上記アクリル系モノマーとしては、以下のような化合物等が好適である。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭素数3〜20のアラルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系モノマー。
【0030】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートへのε−カプロラクトン付加物であるPlaccelFA−1、PlaccelFA−4、PlaccelFM−1、PlaccelFM−4(ダイセル化学社製)、(メタ)アクリロキシポリオキシアルキレン等の水酸基含有アクリル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリロキシエチルホスフェート、(メタ)アクリロキシエチルスルホン酸等の酸性基含有(メタ)アクリレート;不飽和カルボン酸、酸性基含有(メタ)アクリレートの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等)。
【0031】
無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物と炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコールとのハーフエステル;イソシアネート基含有化合物とヒドロアルキル(メタ)アクリレートの反応物等であるウレタン結合を含むウレタン(メタ)アクリレート化合物;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリレート基含有オルガノポリオキシロキサン等の(メタ)アクリル酸基含有シリコーンマクロマー;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩基性不飽和モノマー類。
【0032】
2−スルホン酸エチル(メタ)アクリレート及びその塩等の不飽和スルホン酸類;(メタ)アクリル酸のカプロラクトン変性物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピペリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシ(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類。
【0033】
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリアシルシアヌート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有するモノマー;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のピペリジン系重合等の光安定基を有する重合性モノマー。
【0034】
2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合性モノマー;2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[ヒドロキシ−5−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系重合性モノマー等の紫外線吸収性基を有する重合性モノマー。
【0035】
また上記アクリル系モノマーとしては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレートが、耐水性及び耐候性等の観点から好ましい。より好ましくは、炭素数4〜10のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレートであり、更に好ましくは、炭素数4〜6のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6〜8のシクロアルキル(メタ)アクリレートである。また、光安定性基を有する重合性モノマー及び/又は紫外線吸収性基を有する重合性モノマーであることが好ましい。
【0036】
すなわち、本発明における上記アクリル系エマルションの好ましい実施形態としては、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレート、並びに、光安定性基及び/又は紫外線吸収基を有する重合性モノマーの少なくとも一種を必須とする重合性モノマー成分から形成される形態が挙げられる。すなわち、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレートのみをを必須とする重合性モノマー成分から形成される形態でもよく、光安定性基及び/又は紫外線吸収基を有する重合性モノマーのみを必須とする重合性モノマー成分から形成される形態でもよい。
なお、これらのアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレートは、上述したアクリル系モノマーと組み合わせて用いてもよいが、アルキル(メタ)アクリレート及びシクロアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上、更に2種以上を用いることが最も好ましい。
【0037】
上記アルキル(メタ)アクリレート及び/又はシクロアルキル(メタ)アクリレートの使用量としては、例えば、全モノマーの合計使用量に対して、5〜60重量%とすることが好ましく、10〜50重量%がより好ましく、20〜40重量%が更に好ましい。また、光安定性基を有するモノマーを用いる場合は、全モノマーの合計使用量に対して0.1〜10重量%とすることが好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。
【0038】
上記アクリル系エマルションの製造に用いる乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。
上記アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルスルフォネート、ナトリウムドデシルスルフォネート等のアルキルスルフォネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルフォネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルフォネート等のアルキルアリールスルフォネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、ハイテノール18E等);ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、ハイテノールN−08等);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリート、ナトリウムステアリレート等の脂肪酸塩;等が挙げられる。
【0039】
上記ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業社製、ナロアクティ−N−200等);ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業社製、ノニポール−200等);ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの縮合物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:脂肪酸モノグリセライド;ポリアミド;エチレンオキサイドと脂肪族アミンの縮合生成物;等が挙げられる。
上記カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド等のアルキルアンモニウム塩;等が挙げられる。
【0040】
上記両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤等が挙げられる。
上記高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル等ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;又はこれらの重合体を構成するモノマーのうちの1種以上を共重合成分とする共重合体;等が挙げられる。
【0041】
上記乳化剤の種類としては、耐水性を重視する場合には、重合性基を有する乳化剤を使用するのが好ましい。重合性基を有するアニオン性乳化剤としては、例えば、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤社製、アントックスMS−60等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製、エレミノールRS−30等)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンHS−10等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンKH−10等)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープSE−10等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープ−SR−10N等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)等が挙げられる。重合性基を有するノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンRN−20等)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープNE−10等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープER−10等)等が挙げられる。
上記乳化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記乳化剤の使用量としては、特に限定されず、例えば、モノマーの合計使用量に対して、好ましくは、0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。使用量が多すぎると、塗膜の耐水性が低下するおそれがあり、一方、少なすぎると、重合安定性が低下することとなる。
【0043】
上記乳化重合の開始剤としては、特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。なお、重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記重合開始剤の使用量は、特に限定されず、好ましくは、全モノマー成分の合計使用量に対して0.05〜1重量%とするのがよく、より好ましくは、0.1〜0.5重量%とするのがよい。0.05重量%未満であると、重合速度が遅くなって、未反応のモノマーが残存しやすくなり、一方、1重量%を超えると、形成される塗膜の耐水性が低下する傾向がある。なお、重合開始剤は、得られる樹脂粒子を細かくするために、初期重合で全使用量の40〜100重量%添加するのが好ましい。
【0045】
上記重合開始剤を添加する方法は、特に制限はなく、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下等のいずれの方法であってもよい。更に、重合の完了を早めるために、最終段のモノマー成分の滴下終了前後に重合開始剤の一部を添加してもよい。
上記乳化重合においては、重合開始剤の分解を促進する目的で、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤や硫酸第一鉄等の遷移金属塩を添加してもよい。
【0046】
上記乳化重合工程で用いることができる水性媒体としては、水が好適であるが、例えば、メタノール等の低級アルコール等の親水性溶媒を併用することもできる。なお、水性媒体の使用量は、得ようとするアクリル系エマルションが所望の物性となるように適宜設定すればよい。
上記乳化重合で用いることができる添加剤としては、例えば、pH緩衝剤、(例えば、t−ドデシルメルカプタン等のチオール基を有する化合物等)等の公知の添加剤等が挙げられる。
【0047】
上記乳化重合における重合温度としては、特に限定されず、好ましくは、0〜100℃、より好ましくは、40〜95℃とするのがよい。重合時間についても、特に限定されず、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合開始から終了まで2〜8時間の範囲とすることが好ましい。重合時の雰囲気については、光開始剤の効率を高めるため、窒素雰囲気下で行うのが一般的である。
【0048】
本発明はまた、上記水系硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有することが好ましい。
上記光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステル、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステル、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルホリノプロパン−1−オン、2−モルホリノプロパン−1−オン、ヨードニウム,(4−メチルフェニル[4−(2−メチルプロピル)フェニル])−ヘキサフルオロフォスフェート、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、また、熱重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の油溶性開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の水溶性過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等が挙げられる。これらのうち、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記水系硬化性樹脂組成物が光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有する形態としては、(1)製造したアクリル系エマルションに直接添加・混合することによって水系硬化性樹脂組成物が光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有する形態、(2)硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーに一旦溶解してから、アクリル系エマルションに配合・混合することによって水系硬化性樹脂組成物が光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有する形態が挙げられる。
【0050】
本発明の水系硬化性樹脂組成物としては、振り子式硬度が40回以上であることが好適である。これにより、より充分な硬度を有する硬化物を与えることができるため、様々な用途でより好適に使用することが可能となる。より好ましくは、50回以上であり、更に好ましくは、60回以上である。
なお、振り子式硬度は、ASTM−D4366に準拠してケーニッヒ振り子式硬度試験(Pendulum Hardness Tester)を行い、振り子の往復回数を測定することにより求めることができる。
【0051】
上記水系硬化性樹脂組成物(硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを含有した水系硬化性樹脂組成物)としての計算TgとMFTとの差、すなわち「計算Tg−MFT」は、20〜90℃であることが好適である。これにより、様々な用途により好適に使用することが可能となる。より好ましくは、30〜80℃である。
なお、計算Tg(℃)は、上述したFoxの式を用いて求めることができる。
【0052】
本発明の水系硬化性樹脂組成物は、環境問題に対応することができ、各種の物性を有する塗膜を紫外線等で硬化させて形成することが求められる塗料、インキ、粘接着剤、その他コーティング剤のビヒクルとして、様々な用途に好適に用いられる。中でも、塗料、自動車、フィルム用途に用いることが特に好ましく、これらの用途に用いる水系硬化性樹脂組成物もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上述した用途においては、上記水系硬化性樹脂組成物をコーティング剤又はフィルム形成材として使用することが好ましいが、このように上記水系硬化性樹脂組成物をコーティング剤又はフィルム形成材として使用する水系硬化性樹脂組成物の使用方法もまた、本発明の1つである。
【0053】
また上記水系硬化性樹脂組成物を塗工して得られる塗膜も、本発明の1つであり、上記水系硬化性樹脂組成物を塗工して得られるスレート、自動車用鋼板、フィルムもまた、本発明の好適な実施形態である。
このような本発明の塗膜は、例えば、スレート板、フレキシブルボード、セメントスラグ抄造板、セメントスラグ成形板、硬質木片セメント板、押出成形セメント板、金属板、プラスチック板、セラミック板、木板、金属部品鋼板、アルカリ無機窯業系建材、金属建材、ダル冷間圧延鋼板、リン酸亜鉛処理鋼板、PETフィルム、転写箔フィルム、反射防止フィルム、光拡散用フィルム、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック成形体等の基材上に本発明の水性樹脂組成物を塗布することにより得られる。
なお、上記水性樹脂組成物を塗布する方法としては、刷毛、バーコーター、アプリケーター、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター等を用いた塗布方法等が挙げられる。
【0054】
上記塗膜は、一般に、上塗り層として使用されるものであり、基材上に直接有していてもよいし、シーラー層、中塗り層等、間に1層又は2層以上の塗膜が介在していてもよい。中でも、基材上にシーラー層、中塗り層を順次有し、その上に本発明の塗膜を有する形態が好ましい。シーラー、中塗り、トップコートいずれの層でもよいが、特にトップコートとして用いることが有用である。
【0055】
本発明はまた、乳化重合によって製造されたアクリルエマルションを用い、そのエマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを含有させる水系硬化性樹脂組成物の製造方法でもある。本発明の製造方法により製造された水系硬化性樹脂組成物は、環境対応において有利であり、また、成膜助剤を用いることなく塗工が可能で、塗膜物性を向上させることができるものである。
【発明の効果】
【0056】
本発明の水系硬化性樹脂組成物は、上述の構成からなるので、環境対応において有利であり、また成膜助剤を用いることなく塗工が可能で、エマルションの分散安定性を向上させることができ、しかも硬化性、耐久性、耐汚染性等の塗膜物性を向上させることができるものである。またこのような水系硬化性樹脂組成物は、例えば、水分散型の分散安定性に関して紫外線照射前に凝集しやすいという性質を改善することができ、また水溶性型に比較して安定性や塗膜物性を改善することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0058】
以下の実施例及び比較例では、まず、硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを添加する前のアクリル系エマルションが分散した溶液(重合体分散液)を製造する方法(製造例1〜6)について説明する。その後、製造例1〜6において製造した重合体分散液等に硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを添加して水系硬化性樹脂組成物を製造する方法について、実施例1〜16及び比較例1〜4として説明する。最後に、用途別の実施例及び比較例として実施例17〜25及び比較例5〜7について説明する。
【0059】
なお、以下の製造例におけるMFT及び計算Tgは、以下の方法にて求めた。
<MFT>
熱勾配試験機(テスター社、製品名:MFTテスター)上に置いたガラス基板の上に、表1に示す組み合わせにより製造した水系硬化性樹脂分散液を0.2mmのアプリケーターによって塗布し、試験機により加熱(及び必要に応じて冷却)して塗膜を乾燥させ、その塗膜に加熱等は、10〜60℃又は50〜100℃の温度範囲で、4cm間隔毎に5℃ずつ熱勾配(温度勾配)をつけて行い、良好に成膜された温度のうち最も低い温度をMFT(℃)とした。
【0060】
<計算Tg>
Foxの式により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するために使用した各々のホモポリマーのTg値を()内に示した。
2−エチルヘキシルアクリレート(−70℃)
メチルメタクリレート(105℃)
シクロヘキシルメタクリレート(83℃)
アクリル酸(95℃)
n−ブチルメタクリレート(20℃)
4−メタアクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン(130℃)
Y−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(70℃)
【0061】
製造例1
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに脱イオン水76.8gを仕込んだ。また、滴下ロートにアクアロンHS−10の25%水溶液4.0g、RN−20の25%水溶液4.0g、脱イオン水5.8g、シクロヘキシルメタクリレート26.0g、n−ブチルメタクリレート3.0g、アクリル酸1.0gからなる一段目のプレエマルションを調整し、そのうち、トータルモノマー量の5%にあたる7.3gをフラスコに添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に75℃まで昇温した。昇温後、5%の過硫酸カリウム水溶液を6.0g添加し、重合を開始した。この時に、反応系内を80℃まで昇温し、10分間維持した。なお、ここまでを初期反応とした。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、調整した1段目用のプレエマルションを50分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も、同温度で30分間維持し、一段目の重合を終了した。
【0062】
次に、25%アンモニア水を0.9g添加し、10分間攪拌した。引き続いて、アクアロンRN−20の25%水溶液2.0g、脱イオン水23.2g、2−エチルヘキシルアクリレート17.0g、シクロヘキシルメタクリレート14.0g、n−ブチルメタクリレート22.0g、メチルメタクリレート15.0g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0g、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジニルメタクリレート1.0gからなる二段目のプレエマルションを130分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水5gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持し、二段目の重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、100メッシュの金網でろ過して、固形分43.9%、粘度320mPa・s、pH9.0、MFT70℃のエマルション型の重合体分散液1を得た(計算Tgは31℃である)。
【0063】
製造例2
製造例1で用いた1段目用の重合性単量体のうち、シクロヘキシルメタクリレート26.0gをメチルメタクリレート22.0gに、n−ブチルメタクリレート3.0gから7.0gに代え、2段目用の重量性単量体のうち、シクロヘキシルメタクリレート14.0g及びn−ブチルメタクリレート22.0gをシクロヘキシルメタクリレート35.0gに、2−エチルヘキシルアクリレート17.0gから19.0gに、更に1,2,6,6−ペンタメチルピペリジニルメタクリレート1.0gを使用しないこと以外は、製造例1と同様の方法にて、固形分43.8%、粘度600mPa・s、pH9.0、MFT30℃のエマルション型の重合体分散液2を得た(計算Tgは21℃である)。
【0064】
製造例3
製造例1で用いた1段目用の重合性単量体であるn−ブチルメタクリレートをメチルメタクリレートに、2段目用の重量性単量体である2−エチルヘキシルアクリレート17.0gを用いず、メチルメタクリレートを15.0gから32.0gに置き換えた以外は、製造例1と同様の方法にて、固形分44.0%、粘度1200mPa・s、pH8.9、MFT100℃以上のエマルション型の重合体分散液3を得た(計算Tgは74℃である)。
【0065】
製造例4
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに脱イオン水76.8gを仕込んだ。
また、滴下ロートにアデカリアソープSR−10(旭電化工業社製)の25%水溶液6.0g、ER−20(旭電化工業社製)の25%水溶液6.0g、脱イオン水29.0g、メチルメタクリレート50.0g、スチレン10.0g、2−エチルヘキシルアクリレート30.0g、n−ブチルメタクリレート9.0g、アクリル酸1.0gからなるプレエマルションを調製し、そのうち5%にあたる7.1gをフラスコに添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に75℃まで昇温した。
昇温後、5%の過硫酸カリウム水溶液を6.0g添加し、重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し10分間維持した。ここまでを初期反応とした。
初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、調製したプレエマルションを180分間にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水10gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で30分間維持した。その後、室温まで冷却し、0.9gのアンモニアを加えて中和し、10分攪拌後、100メッシュの金網でろ過して、固形分44.0%、粘度210mPa・s、pH9.1、MFT35℃のエマルション型の重合体分散液4を得た(計算Tgは21℃である。)。
【0066】
製造例5
製造例1で1段目に用いる重合性単量体のうち、「シクロヘキシルメタクリレート26.0g」を、シクロヘキシルメタクリレート11.0g及びトリメチロールプロパントリメタクリレート15.0gに代え、また、2段目に用いる重合性単量体のうち、「n−ブチルメタクリレート22.0g」及び「2−エチルヘキシルアクリレート17.0g」を、2−エチルヘキシルアクリレート14.0g及びトリメチロールプロパントリメタクリレート25.0gに代える以外は製造例1と同様の方法にて、固形分43.5%、粘度400mPa・s、pH8.9、MFT100℃以上のエマルション型の重合体分散液5を得た(計算Tgは31℃である。)。
【0067】
製造例6
製造例1で得られた重合体分散液1:234.7gにベンジルトリメチルアンモニウムクロライド0.08gを溶解させたメタノール溶液0.4g及びアリルグリシジルエーテル1.6gとイソプロピルアルコール1.6gとを混合した溶液をフラスコに投入し、反応系内を85℃にして180分間維持し、反応を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、固形分44.0%、粘度400mPa・s、pH8.9、MFT75℃のエマルション型の重合体分散液6を得た。
【0068】
実施例1
製造例1において得られた重合体分散液1:100部にポリエチレングリコールジアクリレート(商品名:サートマーSR−344)を20部、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパン−1−オン1部を混ぜ、エマルション型の水系硬化性樹脂を得た。
得られた水系硬化性樹脂分散液をアルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、1時間室温にて予備乾燥させた後、紫外線照射装置にて4.0kW/cm、500mJ/cmの条件にて照射を行い、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(A)に示す。
なお、硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)は以下のようにして求めた。
【0069】
<振り子式硬度>
ASTM−D4366に準拠してケーニッヒ振り子式硬度試験(Pendulum Hardness Tester)を行い、振り子の往復回数を測定した。
【0070】
<耐溶剤性>
有機溶剤(メチルエチルケトン)に浸し、軽く絞った脱脂綿で、得られた水性樹脂組成物の塗膜(アルミニウム板)を軽く擦った。有機溶剤に塗膜が浸され、塗膜に穴があくまでの摩擦回数を測定する。
【0071】
<耐汚染性>
塗膜に0.05%カーボン水溶液を刷毛で10回塗布し、80℃で1時間乾燥した後、水洗いしながら、刷毛で30回洗浄したときの塗膜への汚れの付着の程度を見た。
◎:付着なし、○:殆どなし、△:やや付着あり、×:付着あり
【0072】
<耐候性>
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機、製品名:サンシャインスーパーロングライフウェザーオーメーター)で3000時間後の塗膜の光沢保持率を測定して評価した。なお、数値が高いほど、耐候性が高いことを示す。
【0073】
実施例2〜7
実施例2〜7については、重合分散体及び硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを表1に示すものを用いた以外は、同様の操作を繰り返してエマルション型の水系硬化性樹脂組成物(水系硬化性樹脂分散液)を得た。また、得られた水系硬化性樹脂分散液についても実施例1と同様の操作を繰り返し、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(A)に示す。
【0074】
実施例8
製造例1において得られた重合体分散液1:100部にポリエチレングリコールアクリレート(商品名:サートマーSR−344)を20部、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名ABN−E 日本ヒドラジン工業(株))1部を混ぜ、エマルション型の水系硬化性樹脂を得た。次に得られた水系硬化性樹脂をアルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、150℃の熱風乾燥機にて20分間乾燥させた後、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(A)に示す。
【0075】
実施例9
製造例1において得られた重合体分散液1:100部に1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(商品名:サートマーSR−238F)を20部を混ぜ、エマルション型の水系硬化性樹脂を得た。次に得られた水系硬化性樹脂をアルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、1時間室温にて予備乾燥させた後、日新ハイボルテージ社製のエリアビーム型電子線照射装置(窒素雰囲気中、加速電圧200kv、線量10Mrad.)を用いて試験板に電子線を照射して得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(A)に示す。
【0076】
実施例10〜16
実施例10〜16については、重合体分散液及び硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを表1に示すものを用いた以外は、同様の操作を繰り返してエマルション型の水系硬化性樹脂組成物(水系硬化性樹脂分散液)を得た。また、得られた水系硬化性樹脂分散液についても実施例1と同様の操作を繰り返し、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(A)に示す。
【0077】
比較例1
製造例2で得られた重合体分散液2:100部にペンタエリスリトールテトラアクリレートを20部、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン1部を混ぜ、エマルション型の水系硬化性樹脂を得た後、アルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、室温にて予備乾燥を行ったが、MFTを低下させることはできず、融着した連続被膜は得られなかった。
【0078】
比較例2
製造例1において得られた重合体分散液1:100部に2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ製、商品名:CS−12)5部及びブチルセロソルブ5部を混ぜ、1日後、得られた比較用樹脂分散液をアルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、100℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させた後、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(B)に示す。
【0079】
比較例3
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計、還流冷却管を備えたフラスコに、ポリエチレングリコールジアクリレート(商品名:サートマーSR344)50.0g、2−エチルヘキシルアクリレート45.0g、アクリル酸5.0g、イソプロピルアルコール200g、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)1.0gを仕込み、85℃に設定した湯浴にて6時間還流させた後、AIBNを更に1.0g添加し、更に2時間加熱攪拌を続けながら溶媒を留去した。更に、同温度条件下に40mmHg以下まで減圧しながら、水を200g加え、固形分33.1%、粘度8600mPa・s、pH3.5、MFT0℃以下、計算Tg−60℃の比較用重合体分散液3を得た。この重合体水溶液3を100部に対して、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン1部を混ぜて、水分散型の水系硬化性樹脂組成物(水系硬化性樹脂分散液)を得た。得られた水系硬化性樹脂分散液は、実施例1と同様の操作を繰り返し、得られた硬化塗膜の性能(振り子式硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐候性)をテストした。結果を表2(B)に示す。
【0080】
比較例4
製造例5で得られた重合体分散液5:100部に2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ社製、商品名「CS−12」)5部及びブチルセロソルブ5部を混ぜ、1日後得られた樹脂分散液をアルミ板にWET4milのアプリケーターにて塗工し、100℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させたが、MFTを低下させることはできず、融着した連続被膜は得られなかった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2(A)】

【表2(B)】

【0083】
なお、実施例1〜16において用いた硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーは、造膜過程における最低造膜温度(MFT)を低下させることができるが、比較例1及び4において用いた硬化性モノマーは、MFTを低下させることができないものである。
また比較例1及び4は均一な膜が得られなかったため、試験をすることができなかった。
【0084】
(建築塗料用コーティング剤)
実施例17
6×70×150mmのスレート板(「フレキハード(FS−N)」(ノンアスベストスレート)、ノザワ社製)上に溶剤シーラー(「Vセラン#200」、大日本塗料社製)を乾燥重量20g/mになるようにエアスプレーにて塗装した後、ベースコート層形成用塗料を8milのアプリケータにて塗装した。
なお、ベースコート層形成用塗料は、以下の組成で調製した。
アクリセットEX−35(日本触媒社製)を300g、白色ペースト(注1)を135g、黒色ペースト(「ユニラント88」、ユニラント社製)を10g、消泡剤(「ノプコ8034L」、サンノプコ社製)を1.5g、ブチルセロソルブを15g及び成膜助剤(「CS−12」、チッソ社製)を15g。
【0085】
(注1)白色ペーストは:下記成分にガラスビーズを500部加え、ホモディスパーで3000min−1×60分間攪拌して調製した。
分散剤(「デモールEP」、花王社製)を60g、分散剤(「ディスコートN−14」、第一工業製薬社製)を50g、湿潤剤(「エマルゲン909」、花王社製)を10g、脱イオン水を210g、エチレングリコールを60g、酸化チタン(「CR−95」、石原産業社製)を1000g及び消泡剤(「ノプコ8034L」、サンノプコ社製)を10g。
【0086】
上記ベースコート層形成用塗料を水にて20%希釈した後、エアースプレーでWET重量150g/mになるように塗装した後、塗装後、3分間セッティングし、熱風乾燥機(TABAI社製、乾燥温度100℃、風量1m/秒)にて10分間乾燥させた。
乾燥機から取り出して10分後に、評価用水系硬化性樹脂分散液を4milのアプリケーターにて塗装し、その3分後に紫外線照射装置にて4.0kW/cm、500mJ/cmの条件で照射を行い、建築用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜を以下の方法に従って、耐ブロッキング性、耐凍害性、耐温水白化性の物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0087】
なお、評価用水系硬化性樹脂分散液は以下のように調製した。
製造例1において得られた重合体分散液1:100部に1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(「サートマーSR−238F」、化薬サートマー社製)を20部混ぜ、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパン−1−オン1部を混ぜ、エマルション型の水系硬化性樹脂を得た。
【0088】
比較例5
実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液を用いる代わりに比較例2で得られた比較用樹脂分散液を用いて4milのアプリケータにて塗装し、3分間セッティングさせた後、100℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させ、比較用建築用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、以下の方法に従って物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
<耐ブロッキング性>
乾燥機から取り出した試験板を、90秒間放冷し、その後、ガーゼ、ガラス板、重り(積載荷重:120g/cm)の順で試験板に積載し、100℃の熱風乾燥機に速やかに移動させ、10分間積載状態を継続した。その後、試験板を30℃以下にまで冷却して、ガーゼを剥離し、その塗膜外観を観察し、以下の基準で評価した。
◎:ガーゼの交点の跡が見られなかった。
○:わずかにガーゼ跡が見られた。
△:浅くガーゼ跡が見られた。
×:ガーゼ跡が網目状に残っている。
【0090】
<耐凍害性>
上述したように、耐ブロッキング性試験用に作成した試験板と同一の条件にてシーラー及びベースコート層を塗装、乾燥した。続いて、評価用水性樹脂組成物を8milのアプリケータにて塗装し、10分間セッティングし、100℃にて10分間乾燥させた。得られたスレート板を1週間室温で放置し、溶剤系の2液硬化型アクリル系樹脂を用いて、側面及び背面をシールし、1日経過させた。その後、ASTM規格におけるC666−97に準じて、凍結融解試験機(マルイ社製、装置名:MIT−1682)にて耐凍害性試験を行った。
具体的には、−20℃にて2時間(空気中)及び20℃にて2時間(水中)のサイクルを繰り返す凍結融解条件により200サイクル実施し、30倍ルーペを用いてスレート板上の塗膜にクラックの有無を調べた。
◎:クラックなし
△:一部にクラックあり
×:全面クラック
【0091】
<耐温水白化性>
上述したように、耐凍害性、耐ブロッキング性試験用に作成した試験板と同一の条件にてシーラー及びベースコート層を塗装、乾燥した。続いて、評価用水性樹脂組成物を4milのアプリケータにて塗装し、10分間セッティングし、100℃にて10分間乾燥させた。
得られたスレート板を24時間室温で放置した後、溶剤系の2液硬化型アクリル系樹脂を用いて、側面及び背面をシールし、その試験板を1週間室温で放置し、色差計(日本電色工業社製、装置名:分光式色彩計SE−2000)でL値(L0)を測定した。続いて、60℃の温水にスレート板を浸漬し、24時間経過後に引き上げて軽く水分を拭き取り、直ちに上記色差計でL値(L1)を測定した。
ΔL=(L1)−(L0)としてL値の変化値を算出し、耐温水白化性を評価した。
【0092】
【表3】

【0093】
(自動車塗料用コーティング剤)
実施例18
イサム塗料社製のメタリックベース用樹脂AU21を日産塗色TG−1に調色した塗料をリン酸亜鉛処理鋼板に膜厚がdry25μmになるようにスプレー塗装し、その3分後に実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液をクリアー層の膜厚がdry35μmに塗装し、その10分後に紫外線照射装置にて4.0kW/cm、500mJ/cmの条件で照射を行い、自動車用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜を以下の方法に従って、耐ガソリン性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0094】
比較例6
実施例18において、実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液を用いる代わりに比較例2で得られた比較用樹脂分散液を用いて塗装し、100℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させ、比較用自動車用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、以下の方法に従って物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0095】
<耐ガソリン性>
得られたテストピースを24時間室温で放置した後、コスモレギュラーガソリンに常温で30分の浸漬試験を行い、その外観を観察した。
【0096】
<鉛筆硬度>
得られたテストピースを24時間室温で放置した後、JIS−K5600(1999年)に準拠して鉛筆引っかき試験を行い、擦り傷による評価を行った。
【0097】
【表4】

【0098】
(フィルム用コーティング剤)
実施例19
実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績社製、「コスモシャインA4300」、厚み188μm)にバーコーターを用いてなるよう塗布し、100℃で10分乾燥させた後、紫外線照射装置にて4.0kW/cm、500mJ/cmの条件で照射を行い、膜厚3μのフィルム用コーティング剤としての硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜を以下の方法に従って、耐スチールウール性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表5に示す。
【0099】
比較例7
実施例19において、実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液を用いる代わりに比較例2で得られた比較用樹脂分散液を用いて塗装し、100℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させ、比較用フィルム用コーティング剤としての硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、以下の方法に従って物性評価を行った。結果を表5に示す。
【0100】
<耐スチールウール性>
スガ試験機社製の学振型耐磨耗試験機を用いて#0000スチールウールを100gの荷重で10回往復させた後の傷のつき方を目視で評価した。傷がない場合をA、傷が1〜10本の場合をB、傷が11本以上の場合をCとした。
【0101】
<鉛筆硬度>
得られたテストピースを24時間室温で放置した後、JIS−K5400(1990年)に準拠して鉛筆引っかき試験を行い、擦り傷による評価を行った。
【0102】
【表5】

【0103】
(建築塗料用コーティング剤)
実施例20
実施例17と同じようにしてシーラー、ベースコート層を塗装・セッティングした後、評価用硬化性樹脂分散液をWET100g/mになるように塗装し、その3分後に日新ハイボルテージ社製のエリアビーム(EB)型電子線照射装置(窒素雰囲気中、加速電圧200kv、線量10Mrad.)を用いて試験板に電子線を照射して建築用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例17と同様にして、耐ブロッキング性、耐凍害性、耐温水白化性の物性評価を行った。結果を表6に示す。
【0104】
実施例21
実施例17と同じようにしてシーラー、ベースコート層を塗装した後、評価用硬化性樹脂分散液をWET100g/mになるように塗装し、3分セッティングした後、150℃の熱風乾燥機に20分乾燥させ、建築用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例17と同様にして、耐ブロッキング性、耐凍害性、耐温水白化性の物性評価を行った。結果を表6に示す。
【0105】
【表6】

【0106】
(自動車塗料用コーティング剤)
実施例22
実施例17と同じようにしてベース塗料を塗装・セッティングした後、評価用硬化性樹脂分散液をdry35μmになるように塗装し、その3分後に日新ハイボルテージ社製のエリアビーム型電子線照射装置(窒素雰囲気中、加速電圧200kv、線量10Mrad.)用いて試験板に電子線を照射して自動車用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例18と同様にして、耐ガソリン性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表7に示す。
【0107】
実施例23
実施例17と同じようにしてベース塗料を塗装・セッティングした後、評価用硬化性樹脂分散液をdry35μmになるように塗装し、3分セッティングした後、150℃の熱風乾燥機に20分乾燥させ、自動車用塗料硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例18と同様にして、耐ガソリン性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表7に示す。
【0108】
【表7】

【0109】
(フィルム用コーティング剤)
実施例24
実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績社製、厚み188μm)にバーコーターを用いてdry3μmになるよう塗布し、100℃で10分乾燥させた後、その3分後に日新ハイボルテージ社製のエリアビーム(EB)型電子線照射装置(窒素雰囲気中、加速電圧200kv、線量10Mrad.)用いて試験板に電子線を照射してフィルムコーティング用硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例19と同様にして、耐スチールウール性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表8に示す。
【0110】
実施例25
実施例17で調製した評価用水系硬化性樹脂分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績社製:厚み188μm)にバーコーターを用いてdry3μmになるよう塗布し、3分セッティングした後、150℃の熱風乾燥機に20分乾燥させ、フィルムコーティング用硬化塗膜が得られた。得られた硬化性塗膜について、実施例19と同様にして、耐スチールウール性、鉛筆硬度の物性評価を行った。結果を表8に示す。
【0111】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合によって製造されたアクリル系エマルションを必須成分とする水系硬化性樹脂組成物であって、
該アクリル系エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを含有するものであることを特徴とする水系硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記水系硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有するものであることを特徴とする請求項1記載の水系硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化性モノマーは、多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の水系樹脂硬化組成物。
【請求項4】
前記アクリル系エマルションは、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレート、並びに、光安定性基及び/又は紫外線吸収基を有する重合性モノマーの少なくとも一種を必須とする重合性モノマー成分から形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系樹脂硬化組成物。
【請求項5】
乳化重合によって製造されたアクリルエマルションのTgと前記水系硬化性樹脂組成物が示すMFTの差が10〜100℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記水系硬化性樹脂組成物は、紫外線、熱及び電子線の少なくとも一つで硬化又は重合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水系硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーは、疎水性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水系硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水系硬化性樹脂組成物をコーティング剤又はフィルム形成材として使用することを特徴とする水系硬化性樹脂組成物の使用方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の水系硬化性樹脂組成物を塗工して得られることを特徴とする塗膜。

【公表番号】特表2009−510179(P2009−510179A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513832(P2008−513832)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/JP2006/320145
【国際公開番号】WO2007/037559
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】