説明

水系缶塗料用樹脂組成物及びこれを塗布した塗装金属板

【課題】 耐オーバーベーク性、耐デント性、耐酸性に優れ、ピンホールのない良好な塗装性を有する缶塗料用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸が70〜100モル%、その他のポリカルボン酸成分が0〜30モル%であり、ポリアルコール成分として、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを必須成分として含み、さらに2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群のうち少なくとも1種類以上を含み、これらの合計が40〜100モル%、その他のポリアルコール0〜60モル%であり、酸価が150〜800eq/106gであり、数平均分子量が5,000〜100,000であるポリエステル樹脂(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)、塩基性化合物(C)および水を含むことを特徴とする水系缶塗料用樹脂組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飽和共重合ポリエステル樹脂を有効成分とする水系缶塗料用樹脂組成物であり、更に詳しくは加工性に優れたポリエステル樹脂と該ポリエステル樹脂を硬化し得るレゾール型フェノール樹脂等からなり、食品、および飲料用金属缶等の内面に塗装され、硬化性、加工性、オーバーベーク性、耐レトルト性、耐内容物(酸、塩など)性、耐デント性、抽出性、深絞り加工性に優れ、さらには、消泡剤やレベリング剤などの塗料添加剤を使用しなかったり、ワックスなどの潤滑剤を添加した場合においてもピンホールの少ない良好な塗装性が得られる水系缶(缶胴、缶蓋、シーム補修を含む)塗料用樹脂組成物、及びこれを塗布、硬化した塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
缶塗料の中で特に缶内面用塗料は内容物の風味やフレーバーを損なわないこと、および多種多様の食物による缶材質の腐食を防止することを目的として使用されるものであり、まず毒性のないこと、加熱殺菌(レトルト)処理に耐えること、次いで成形時の加工性に優れること(加工性、深絞り加工性)、食塩や酸性を示す内容物を加熱殺菌処理したときの耐ブリスター性と耐白化性(耐酸性)、内容物に含まれる酸や硫黄化合物(硫化黒変)での腐食防止、製缶時の過度の焼付による加工性の劣化の無いこと(耐オーバーベーク性)、レトルト後の耐衝撃性(耐デント性)などが要求される。さらに、水系塗料の場合は、塗料の安定性や塗装作業性に問題があることが多く、塗装作業性としては、タレ、発泡やピンホールなどがない良好な塗装作業性が要求される。
【0003】
従来、缶の内面塗料としてはエポキシ樹脂を主とする塗料が多く使用されている。その中でも特に、水分散型(水系)のエポキシ−アクリル塗料は自然環境の保護及び作業環境の改善のため、溶剤系の塗料に置き換わり缶内面塗料として多く用いられるようになっている。エポキシ−アクリル樹脂は加工性に劣るが、水分散後の安定性も良好であり、缶内面に塗装された後の加工性、耐レトルト性などに優れ、また、従来は人体に対する衛生性も優れるとされてきた。
【0004】
しかし、エポキシ−アクリル塗料の原料であるビスフェノールAは外因子内分泌攪乱物質(環境ホルモン)である可能性が示唆されるようになり、近年、特に食品分野において缶の内面塗料への使用を避ける要求が高まっている。そのため、ビスフェノールAに代わる水系塗料の開発が望まれているが、いまだ十分に好適な塗料は得られていない。
【0005】
例えば、特許文献1〜5では、ジカルボン酸、グリコール、ポリカルボン酸モノ無水物などでポリエステル樹脂の解重合、または開環付加反応を行い樹脂末端に酸価を与えることが望ましいとしている。さらに、これを塩基性化合物で分子内に有するカルボキシル基を中和することで水分散し、アミノ樹脂、保護コロイドを含有する水系樹脂組成物が提案されている。
【0006】
これらの塗料は硬化性、加工性に優れるものの、アミノ樹脂は抽出物が多く、衛生性に乏しく、特にメラミン−ホルムアルデヒド樹脂は耐レトルト性に劣る。また、この耐レトルト性を改良するために疎水性のアミノ樹脂(ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド樹脂など)を使用することも可能であるが、これら特許公報に記載の方法で得られたポリエステル樹脂はカルボキシル基が分子末端に偏在しているため、分散性安定性が低い。従って、塗料の安定化を図るため、保護コロイドが耐レトルト性、衛生性を低下させるという問題がある。また、分散安定性が低いために缶内面塗料としてスプレー塗装した際に、スプレーノズルの目詰まりや塗装後のタレを生じるという問題もある。
【0007】
特許文献6では、カルボン酸ポリ無水物を開環付加したポリエステル樹脂と硬化剤としてのフェノール樹脂との組み合わせた水系樹脂組成物を提案している。この系は、疎水性の強いフェノール樹脂との組み合わせ場合においても比較的良好な貯蔵安定性と塗膜物性を有するが、スプレー塗装やロールコートなどの塗装作業性において、フロー性に劣るため、ピンホールが発生しやすい問題がある。この傾向はワックスなどの潤滑剤を配合した場合に顕著となる。
【0008】
また、缶内面塗料は、内容物の風味やフレーバーを損なわないために、近年、消泡剤、レベリング剤などの塗料添加剤を無くすか、極力減らす方向になっている。さらに、イージーオープンの缶蓋加工や絞り加工性を付与したり、ライン走行中の擦り傷を低減するために、ワックスなどの潤滑剤が添加される。しかし、添加剤を無くしたり、潤滑剤の添加により、ピンホールなどの塗膜欠陥が問題となっており改善が要望されている。
【0009】
更にはDI(Draw & Ironing)加工やDRD(Draw &Redraw)加工によって得られる2ピース缶をプレコート化するためには硬度、潤滑性、塗膜の伸度(展延性)、レトルト処理後の密着性が必要とされるが、前述した性能、要求に加えこれらの加工を満足する塗膜を与える塗料組成物は得られていない。
【0010】
かかる問題点を解決するために、塗装、焼付けが容易で、硬化性、加工性、金属との密着性、耐レトルト性に優れ、焼却時に有毒、腐食ガスを発生せず、塗膜中にビスフェノール−Aなどの環境ホルモンを含有しない水系ポリエステル樹脂の製缶用内用コーティング剤への適応が試みられているが、これらに加え耐内容物性、抽出性、耐オーバーベーク性、耐デント性、DI加工、DRD加工性に優れ、さらには、消泡剤やレベリング剤などの塗料添加剤を使用しない場合や、ワックスなどの潤滑剤を添加した場合においてもピンホールの無い良好な塗装性の得られる缶内面用に好適な水系塗料用樹脂及び塗料樹脂組成物は得られていない。
【0011】
【特許文献1】特開平9−296100号公報
【特許文献2】特開平11−61035号公報
【特許文献3】特開平11−124542号公報
【特許文献4】特開平11−236529号公報
【特許文献5】特開2000−26709号公報
【特許文献6】特開2003−089746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者はこれらの問題点のうち、特に上記した従来技術では検討されていなかった耐オーバーベーク性、耐デント性、耐酸性について鋭意検討し、更には塗料添加剤なしで処方したり、ワックスなどの潤滑剤を配合した場合においても、ピンホールのない良好な塗装性を得るべく、検討を進めた結果、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを必須とする特定のグリコールを有する水系ポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂で硬化することでこれらの諸問題を解決できる塗膜を得ることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち本発明は、ポリカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸が70〜100モル%、その他のポリカルボン酸成分が0〜30モル%であり、ポリアルコール成分として、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを必須成分として含み、さらに2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群のうち少なくとも1種類以上を含み、前記2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールの合計が40〜100モル%、その他のポリアルコール0〜60モル%であり、酸価が150〜800eq/106gであり、数平均分子量が5,000〜100,000であるポリエステル樹脂(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)、塩基性化合物(C)および水を含むことを特徴とする水系缶塗料用樹脂組成物、及びこれを塗布した塗装金属板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水系缶塗料用樹脂組成物は、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと特定のグリコールを含むポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂、塩基性化合物からなり、上記した毒性化合物の含有、排出がなく、環境ホルモンを含まず、硬化性、加工性、耐レトルト性、耐内容物性を満足し、更には、塗料添加剤を配合しない場合や潤滑剤を配合した場合においてもピンホールの発生が少なく塗装性に優れるため、食品缶、及び飲料缶胴、缶蓋の内面やシーム用補修塗料に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)に使用する芳香族ジカルボン酸成分は70〜100モル%であり、その他のポリカルボン酸は0〜20モル%である。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等があり、これらの中から1種、または2種以上を選択し使用できる。芳香族ジカルボン酸の量が70モル%未満だと塗膜の強度が低下する傾向にあり、加工性、深絞り加工性、耐デント性が低下することがある。更に、芳香族ジカルボン酸のうちテレフタル酸とイソフタル酸を合計80モル%以上とすることで、塗膜の強度、可撓性が向上するためより加工性、耐デント性、深絞り加工性が向上し、好ましい。その他のポリカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、テルペン−マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸などを挙げることができ、これらの中から1種又はそれ以上を使用できる。衛生面で好ましいのはアジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸である。
【0016】
本発明に使用されるポリエステル樹脂(A)のポリアルコール成分において、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを使用する必要がある。2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを使用することにより、驚くべきことに塗膜のフロー性が改善され、水系で、かつ、消泡剤やレベリング剤などの塗料添加剤なしの処方で、さらにはワックスなどの潤滑剤を配合した塗料系においても良好な塗装性が得られ、ハジキなどによるピンホールの発生が大幅に改善される。さらには、耐加水分解性にも優れ、耐レトルト性や耐内容物性が向上する。
【0017】
さらに、本発明に使用されるポリエステル樹脂(A)においては、ポリアルコール成分として、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群のうち少なくとも1種類以上のグリコールを前記2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと併用して使用する必要がある。2−メチル−1,3−プロパンジオールと1,4−ブタンジオールは、これらを使用することにより、レゾール型フェノール樹脂(B)との硬化性が著しく改善されるため、缶塗料として特に重要な物性である加工性、耐レトルト性、耐デント性が改善される。1,4−シクロヘキサンジメタノールは、特に加工性と耐ブロッキング性のバランスが良好となる。また、レゾール型フェノール樹脂との硬化性も改善される。
【0018】
2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールの好ましい含有量の上限は、全ポリアルコール成分を100モル%としたときに、30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。下限は5モル%以上が好ましく、より好ましくは10モル%以上である。2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールの含有量が30モル%を超えると、ポリエステルの水分散性や分散体の安定性が低下したり、レゾール型フェノール樹脂との反応性が悪化したり、耐フレーバー性が悪化する傾向にある。5モル%未満では、塗装作業性が低下し、ピンホールが発生しやすくなる傾向にある。
【0019】
2−エチル−2−ブチル−1、3−プロパンジオールと前記2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールの合計量は、全ポリアルコール成分中40〜100モル%である。40モル%未満では、レゾール型フェノール樹脂(B)との反応性が低下したり、缶塗料として特に重要な物性である加工性、耐レトルト性、耐デント性が低下する傾向にある。
【0020】
その他のグリコールとしては、以下のものが挙げられ、全ポリアルコール成分中60モル%未満で使用できる。好ましいのは側鎖を有するグリコールであり、例えばプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオール等が挙げられる。
【0021】
側鎖のないアルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。脂環族グリコールとしては、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類などが挙げられる。これらの中から1種、又はそれ以上を選び使用できる。このうち衛生上好ましいものはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0022】
本発明に使用されるポリエステル樹脂(A)の酸価は150eq/106g〜800eq/106gであることが必要である。この酸価とは、ポリエステル樹脂に含まれるカルボキシル基の濃度を示す。ポリエステル樹脂に含まれるカルボキシル基を塩基性化合物(C)で中和することにより、親水性が増して、水あるいは水/溶剤系の媒体に分散または溶解して使用できる。さらには、架橋剤との硬化促進、缶用金属材料との密着性改良等の効果が挙げられる。
【0023】
酸価が150eq/106g未満であると、水への分散性が低下し、分散体の貯蔵安定性が不安定となる場合がある。また、酸価が800eq/106gを超えると、本発明の塗膜の耐レトルト性が低下するおそれがある。好ましい酸価の下限は180eq/106g以上である。酸価の上限は500eq/106g以下が好ましく、より好ましくは400eq/106gである。
【0024】
末端基をカルボキシル基に変換する方法としては重縮合後期に多価カルボン酸無水物を添加する解重合方法、重縮合完了後に多価カルボン酸無水物を付加する方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を得る方法などがあるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから重縮合完了後に多価カルボン酸無水物を付加する方法が好ましい。
【0025】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物などが挙げられ、これらの中から一種、または二種以上を選び使用できる。これらの内、無水トリメリト酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物が最も好適に使用できる。
【0026】
本発明に使用されるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は5,000〜100,000であり、好ましくは8,000〜50,000、より好ましくは10,000〜30,000である。数平均分子量が5,000未満であると塗膜が脆くなり、加工性や耐レトルト性に劣ったりし、100,000を越えるとポリエステルの水分散性や分散体の安定性が低下したり、塗装作業性が低下する場合がある。なお、ここで言う数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0027】
また、好ましいガラス転移温度(Tg)は10〜90℃、より好ましくは20〜70℃、更に好ましくは30〜60℃である。ガラス転移温度が10℃未満であると耐レトルト性が劣る傾向にあり、耐ブロッキング性も問題になる可能性がある。特にフレーバー性を必要とする内容物には30℃以上のTgが望ましい。Tgが90℃を超えると加工性や塗装作業性が低下したりする場合がある。なお、ここで言うガラス転移温度(Tg)とは示差熱分析(DSC)によって測定したものである。
【0028】
本発明に使用されるポリエステル樹脂(A)はポリカルボン酸成分、ポリアルコール成分に3官能以上のポリカルボン酸または/およびポリアルコールを加工性の低下しない範囲で使用する事が特に好ましい。3価以上のポリカルボン酸成分としては、例えばトリメリト酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられ、3官能以上のポリアルコールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコシドなどが挙げられる。衛生上好ましくはトリメリト酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリンである。これら3官能以上のポリカルボン酸、及びポリアルコール成分は全酸成分または全ポリアルコール成分に対して0.1〜3モル%の範囲で使用する事が好ましく、これらの3官能成分が3モル%を越えるとポリエステル樹脂の可撓性が失われ、加工性が低下したりすることがある。
【0029】
本発明の缶用塗料樹脂組成物はレゾール型フェノール樹脂との相溶性が良好で、反応性が良好であるので、硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂(B)を使用できる。硬化剤にレゾール型フェノール樹脂を使用することにより、従来のポリエステル樹脂とアルキルエーテル化アミノ樹脂の組み合わせでは得られなかった缶塗料として特に重要な物性である加工性、耐レトルト性、耐デント性が得られる。
【0030】
レゾール型フェノール樹脂(B)は、ポリエステル樹脂との相溶性、硬化性の面より150℃に熱した金属プレートに滴下した後、ゲル(メチルエチルケトンに不溶化)に到達するまでの時間は30秒以上であることが好ましく、より好ましくは100秒以上、更に好ましくは150秒以上である。ゲル到達時間が30秒未満だと、レゾール型フェノール樹脂同士の自己縮合反応が早くなるため、ポリエステル樹脂との硬化、架橋反応が進まず、硬化性の低下、相分離による塗膜の濁りの原因となる傾向にある。ゲル到達時間が30秒以上では著しく硬化性の向上と相分離の抑制がより良好となる。従って、ゲル到達時間が30秒以下になると塗膜に濁りが生じたり、硬化性が得られないために加工性、耐デント性が低下する傾向にある。
【0031】
レゾール型フェノール樹脂(B)が不溶化するまでの時間が30秒以上であるか否かは次のような手順で決定することが出来る。すなわち、150℃に熱したアルミニウム金属板(#5052、70mm×150mm×0.3mm)にレゾール型フェノール樹脂溶液濃度(固形分濃度50重量%)を5ml滴下し、硬化後の厚みが5μmになるようにワイヤーバーで素早く塗り広げる。30秒経過後金属板を流水に浸け冷却する。このフェノール樹脂が塗工されたアルミニウム金属板にメチルエチルケトン(MEK)を含浸させた幅1cm×長さ3cm、厚さ1cmのフェルトを当て、これに荷重0.5kgをかけながら幅方向に50回往復させる。その後、フェルトを往復させた部分の塗膜状態を目視で観察し、下地のアルミニウム金属板の露出していない場合に不溶化したと判断する。
【0032】
本発明の缶用塗料組成物に使用するレゾール型フェノール樹脂(B)はフェノール化合物をホルマリン類にてメチロール化した後、その一部、または全部をアルコール類にてアルコキシメチル化したものである。該フェノール樹脂の原料となるフェノール化合物としては、例えばフェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F等の3官能以上のフェノール化合物、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール等の2官能のフェノール化合物がある。ポリエステル樹脂との硬化性を得るには3官能以上のフェノール樹脂が好ましく、更に環境ホルモンとしてビスフェノール型化合物が指摘されているためより好ましくはフェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールである。原料のフェノール化合物中に前記した3官能フェノール化合物が1種または2種以上、合わせて70重量%以上含まれることが望ましい。
【0033】
前記したフェノール化合物をメチロール化の際に使用されるホルマリン類としてはホルマリン、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンなどが挙げられ、これらから1種、または2種以上を使用することができる。得られたメチロール基は芳香環1核当たり1.0個以上であることが望ましい。メチロール化した後、このメチロール基をアルコキシメチル化する。好ましくはメチロール基の50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。フェノール樹脂をアルコキシメチル化することでポリエステル樹脂(A)との相容性、硬化性が高くなる。50%未満だとポリエステル樹脂(A)との相容性が低くなり、塗膜に濁りが生じたり、硬化性が得られなかったりする。アルコキシメチル化する際に使用されるアルコールとしては炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜4個の1価アルコールであり、好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどを挙げることができ、より好ましくはn−ブタノールである。また、アルコキシメチル化する際にはリン酸などの触媒を使用しても良い。
【0034】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂(B)以外に使用できる任意の架橋剤としてはアミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられるが、衛生面よりアミノ樹脂が特に好ましい。これらの架橋剤は塗膜の性能を低下させない程度に配合し使用できる。
【0035】
上記のアミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド、などのアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を炭素原子数1〜6のアルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に含まれる。これらの内、単独或いは併用して使用できる。衛生上、メラミン、ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂が好ましく、更に好ましくは耐レトルト性、抽出性に優れるベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂である。
【0036】
ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。上記、ブチルアルコールとしてはイソブチルアルコール、n−ブチルアルコールが好ましい。
【0037】
メラミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。
【0038】
本発明の水系缶内面用塗料樹脂組成物には、前記ポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和する目的で、塩基性化合物(C)を配合する必要がある。本発明に用いる塩基性化合物(C)としては、塗膜形成時の焼き付けで揮散する化合物、すなわち、アンモニアおよび/または沸点が250℃以下の有機アミン化合物、などが好ましい。塩基性化合物の具体例を挙げると、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどを挙げることができる。これら塩基性化合物は、ポリエステル樹脂の酸価を少なくとも一部分中和し得る量を必要とし、具体的には酸価に対して0.5当量〜1.5当量を添加することが好ましい。塩基性化合物が0.5当量未満であると本発明に使用するポリエステル樹脂の水分散化の効果が低く、1.5当量を超えると本発明の水系樹脂組成物が著しく増粘したり、本発明に使用するポリエステル樹脂が加水分解を起こす可能性がある。
【0039】
本発明の缶用塗料組成物には酸触媒(D)を使用することが好ましい。酸触媒としては例えば硫酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸及びこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和している)したもの等が挙げられ、これらの中から1種、又は2種以上を併用することができるが、樹脂との相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びこの中和物が好ましい。
【0040】
本発明の缶塗料用樹脂組成物はこれに使用するポリエステル樹脂(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)の配合割合は、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂(B)が5〜40重量部の範囲にあることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、レゾール型フェノール樹脂(B)の重量比が40重量部を超えると加工性が劣ることがあり、5重量部未満だと硬化性、耐レトルト性、耐デント性が低下することがある。好ましくはポリエステル樹脂(A)100重量部に対し10〜30重量部である。また、酸触媒(D)はポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.05〜5重量部であることが好ましい。酸触媒(D)量が0.05重量部未満だと硬化性が不十分になり加工性、耐レトルト性が劣ることがあり、5重量部を超えると酸による架橋部分の解裂が促進され加工性や硬化性、耐レトルト性、耐デント性などが低下することがある。より好ましくはポリエステル樹脂(A)100重量部に対し0.1〜3重量部である。
【0041】
また、本発明の缶塗料用樹脂組成物には潤滑剤(E)を配合することが好ましい。その際の配合量はポリエステル樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部含有することが好ましい。これは製缶時の塗膜の傷付きを抑制したり、成形加工時の塗膜の滑りを向上させる効果がある。特にDI加工、DRD加工時に効果がある。潤滑剤(E)が0.1重量部未満だと深絞り成型加工時に塗膜の傷付きが激しくなり基材の腐食が著しくなり、10重量部を超えると硬化性、塗膜の機械的強度が低下したりして加工性が満足しない可能性がある。より好ましくは0.3〜5重量部の範囲内である。本発明の缶塗料用樹脂組成物を用いると、潤滑剤が存在してもはじくことなく、ピンホールの少ない良好な塗膜が得られる。
【0042】
本発明に使用する潤滑剤(E)は、例えばポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバろう、及びシリコン系化合物等を挙げることができる。潤滑剤は1種、または2種以上を混合し使用できる。
【0043】
本発明の缶塗料用樹脂組成物には用途に合わせた酸化チタン、シリカなどの無機顔料、リン酸およびそのエステル化物、有機スズ化合物等の硬化触媒、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0044】
本発明の水系缶塗料用樹脂組成物は、有機溶剤を含まない水単独系に分散させても好ましく使用できるが、増膜性や塗膜の乾燥性、再溶解性、分散安定性を保つためには、有機溶剤を含む水に分散させて使用することがさらに好ましい。
【0045】
前期有機溶剤としては、ポリエステル樹脂の可塑効果があり、かつ両親媒性を有するものが好ましく、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどを挙げることができる。
【0046】
本発明の水系缶塗料用樹脂組成物を得る方法としては、特に限定はされず、公知の方法を用いることができるが、例えば、前期の有機溶剤の内、一種または二種以上を選択し、本発明に用いるポリエステル樹脂を加熱溶解し、次に本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂と塩基性化合物を攪拌しながら必要量加えた後、水を加えることによって得ることができる。
【0047】
このときの水は、ポリエステル樹脂を溶解している有機溶剤の温度付近に温めたものを使用してもよい。水を加えていくとW/O型エマルションからO/W型エマルションへの相転移が生じる。
【0048】
また、この後、必要に応じ、ポリエステル樹脂を溶解する際に使用した有機溶剤を加熱留去、あるいは減圧で留去することができる。有機溶剤を留去する方法としては、レゾール型フェノール樹脂が有機溶剤留去中の熱での縮合を押さえるためにも100℃以下での減圧留去が好ましく、80℃以下の留去がより好ましい。この場合、有機溶剤を全量留去すれば完全に水系の塗料用樹脂組成物が得られるが、分散体の安定性、成膜性などから有機溶剤を3質量%〜20質量%含有させることが望ましい。
【0049】
また、本発明に用いるポリエステル樹脂を粉砕し、これに本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂、塩基性化合物、水および前記の有機溶剤を必要量仕込み、加熱分散することでも、本発明の水系塗料用樹脂組成物を得ることも可能である。この場合も加熱温度は100℃以下とすることが望ましい。
【0050】
しかし、前記の有機溶剤のうち、一種または二種以上を選択し、本発明に用いるポリエステル樹脂を加熱溶解し、次に本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂と塩基性化合物を攪拌しながら必要量加えた後、水を加える分散方法を行うほうが、より安定した水系分散体を得ることができる。
【0051】
本発明の缶塗料用樹脂組成物には塗膜の可撓性、密着性付与などの改質を目的としたその他の樹脂を使用できる。その他の樹脂としてはエチレン−重合性不飽和カルボン酸共重合体、及びエチレン−重合性カルボン酸共重合体アイオノマーを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を配合することにより効果的の塗膜の可撓性、密着性を付与できる。
【0052】
本発明の缶塗料用樹脂組成物は飲料缶、食品用缶、その蓋、キャップ等に用いることができる金属板であればいずれへも、その内外面に塗装し使用でき、例えばブリキ板、ティンフリースティール、アルミ等を挙げることができる。これらの金属板にはあらかじめリン酸処理、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、その他の防錆処理剤などの防食、塗膜の密着性向上を目的とした表面処理を施したものを使用しても良い。
【0053】
本発明の缶塗料用樹脂組成物はロールコーター塗装、スプレー塗装などの公知の塗装方法によって塗装し、本発明の塗装金属板を得ることができる。塗装膜厚は特に限定されるものではないが、乾燥膜厚で3〜18μm、更には3〜10μmの範囲であることが好ましい。塗膜の焼付条件は通常、約100〜300℃の範囲で約5秒〜約30分の程度であり、更には約150〜250℃の範囲で、約1〜約15分の程度である事が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において単に部とあるものは重量部を示す。各測定項目は以下の方法に従った。
【0055】
(1)ポリエステル樹脂の組成、及びフェノール樹脂のメチロール基とアルコキシメチル基の定量
重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0056】
(2)ポリエステル樹脂とフェノール樹脂の数平均分子量の測定
テトラヒドロフランを溶離液としたウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)150cを用いて、カラム温度35℃、流量1ml/分にてGPC測定を行なった結果から計算して、ポリスチレン換算の測定値を得た。ただしカラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0057】
(3)ポリエステル樹脂の還元粘度測定
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25cm3に溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
【0058】
(4)ガラス転移温度の測定
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて、150℃まで、昇温速度10℃/分にて測定した。ガラス転移温度は、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0059】
(5)酸価の測定
ポリエステル0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当たりの当量(eq/106g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
【0060】
(6)フェノール樹脂のゲル化時間
150℃の熱したアルミニウム金属板(#5052、70mm×150mm×0.3mm)にレゾール型フェノール樹脂溶液濃度(固形分濃度50重量%)を5ml滴下し、硬化後の厚みが5μmになるようにワイヤーバーで素早く塗り広げた。一定時間後アルミニウム金属板を流水に浸け冷却した。このフェノール樹脂が塗工されたアルミニウム金属板にメチルエチルケトン(MEK)を含浸させた幅1cm×長さ3cm、厚さ1cmのフェルトを当て、これに荷重0.5kgをかけながら幅方向に50回往復させた。その後、フェルトを往復させた部分の塗膜状態を目視で観察した。この操作の時間を変えて行い、下地のアルミニウム金属板の露出していないサンプルを不溶化したと判断した。
【0061】
(7)テストピースの作成
水系塗料組成物をアルミニウム金属板(#5052、200mm×300mm×0.3mm)に硬化後の膜厚が4〜8μmになるようにロールコーターで塗装し、硬化焼き付けを行い、これを試験片とした。ロールコーターは、熊谷理機工業(株)製の小型ロールコーターを使用し、焼付条件としては210℃×5分間で評価を行った。
【0062】
(8)硬化性
(7)で作成したテストピースの塗装面にMEK/トルエン=1/1溶剤を浸したフェルトを当て、これに荷重0.5kgをかけながら50回往復させる。その後、フェルトを往復させた部分の塗膜状態を目視で観察し、以下のように判定する。
◎:良好(塗膜が溶剤に溶けた形跡無し)
○:わずかに溶剤に溶けている
△:溶剤に溶けているが塗膜は残っている。
×:塗膜が溶剤に溶け、素地に達している。
【0063】
(9)加工性
(7)で作成したテストピースに、そのテストピースの作成に用いたアルミニウム金属板を1枚挟み180度方向に曲げた。この加工部を1%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(1.5mA以下)が良好である。
【0064】
(10)オーバーベーク性
(7)で作成したテストピースを、再度210℃×10分の熱処理を行い、これを(9)と同じ方法で加工性を評価した。
【0065】
(11)耐レトルト性
(7)で作成したテストピースを立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水をテストピースの半分の高さまで注いだ。これを圧力釜の中に設置し、125℃×30分のレトルト処理を行なった。処理後の評価は水中部分と蒸気部分とで行い、それぞれ白化の度合いを目視で以下のように判定した。
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターは無し
△:若干白化、または若干のブリスターあり
×:著しい白化、または著しいブリスターあり
【0066】
(12)耐内容物性
(7)で作成したテストピースを食塩3wt%、及び乳酸3wt%を含む水溶液に浸し、(11)と同様の条件にて125℃×30分処理した後、塗膜の白化、ブリスターの状態を目視で判定した。
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターは無し
△:若干白化、または若干のブリスターあり
×:著しい白化、または著しいブリスターあり
【0067】
(13)耐デント性
(12)に示した耐内容物試験を行った試験片の塗装面を下にし、デュポン衝撃試験機を用い、その裏面より1/2インチ×1kg×5cm高さの条件で衝撃を加える。次いでその凸部分を1%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(1.5mA以下)が良好である。
【0068】
(14)抽出性
(11)に示したレトルト試験後の抽出液を過マンガンカリウムによる滴定により、塗膜からの有機物の抽出量を定量した。数値の少ない方が良好である。
【0069】
(15)深絞り加工性
(7)で作成したテストピースの塗装面が外側になるよう深絞り加工機を使用して、L/D(直径/深さ)=1/1の成形加工を行った。この試験片の加工側面部の塗膜剥離状態を目視観察し、判定した。
◎:良好
○:塗膜にわずかにスリ傷がある。
△:塗膜に若干の剥離が認められる。
×:塗膜に激しい剥離、損傷が認められる。
【0070】
(16)塗装作業性(ピンホールの評価)
アルミ板は硫酸銅にふれると反応して変色する。この特性を生かして以下のとおり、ピンホールを評価した。すなわち、200cm×300cmのサイズの試験片を5%硫酸銅水溶液に5分浸漬し、試験片の変色部分の個数で評価した。30枚について評価し、ピンホールの1平方メートルあたりの平均個数で評価した。
◎:なし
○:1〜2個
△:3〜5個
×:6個以上
【0071】
本発明のポリエステル樹脂(a)の合成例
テレフタル酸50部、イソフタル酸115部、無水トリメリト酸1.9部、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール50部、1,4−ブタンジオール99部、1,4−シクロヘキサンジメタノール48部、チタンテトラブトキシド0.07部を2Lフラスコに仕込み、4時間かけて220℃まで徐々に昇温し、水を留出させエステル化を行った。所定量の水を流出させた後、30分かけて10mmHgまで減圧重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、更にこのまま1mmHg以下で50分間後期重合を行った。ついで、減圧を止めて、窒素気流下で220℃まで冷却し、無水トリメリト酸5.8部を添加し、220℃で30分撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行った後、樹脂を取り出し、本発明のポリエステル樹脂(a)を得た。組成と特性値は表1に示す。
【0072】
ポリエステル樹脂(b)の合成
テレフタル酸50部、イソフタル酸115部、無水トリメリト酸1.9部、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール62部、1,4−ブタンジオール52部、2−メチル−1,3−プロパンジオール71部、チタンテトラブトキシド0.07部を2Lフラスコに仕込み、4時間かけて220℃まで徐々に昇温し、水を留出させエステル化を行った。所定量の水を流出させた後、30分かけて10mmHgまで減圧重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、更にこのまま1mmHg以下で50分間後期重合を行った。ついで、減圧を止めて、窒素気流下で220℃まで冷却し、無水トリメリト酸3.8部とエチレングリコールビストリメリテート二無水物4.1部を添加し、220℃で30分撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行った後、樹脂を取り出し、本発明のポリエステル樹脂(b)を得た。組成と特性値は表1に示す。
【0073】
ポリエステル樹脂(c)〜(d)の合成
以下、同様にしてポリエステル樹脂(c)〜(d)を合成した。ポリエステル樹脂(d)においては、さらに、ジフェノール酸を共重合することにより、フェノール性の水酸基を導入したものである。結果を表1に示す。
【0074】
比較ポリエステル樹脂(e)〜(h)の合成
ポリエステル樹脂(a)または(b)と同様にして、比較ポリエステル樹脂(e)〜(h)
を合成した。結果を表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
レゾール型フェノール樹脂(i)の合成
m−クレゾール100部、37%ホルマリン水溶液180部、及び水酸化ナトリウム1部を加え、60℃で3時間反応させた後、減圧下50℃で1時間脱水した。ついでn−ブタノール100部を加え、110〜120℃で4時間反応を行った。反応終了後、得られた溶液を濾過して、固形分約50%のm−クレゾール系のレゾール型フェノール樹脂架橋剤(k)を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂の数平均分子量は750、ゲル化時間は350秒であった。
【0078】
レゾール型フェノール樹脂(j)の合成
レゾール型フェノール樹脂(i)と同様に、m−クレゾールの代わりに3,5−キシレノールを用いて、数平均分子量650、ゲル化時間260秒のレゾール型フェノール樹脂(j)を得た。
【0079】
実施例 (1)
ポリエステル樹脂(a)85部(固形樹脂)、カルナウバろう1.0部、メチルエチルケトン68部、エチレングリコールモノブチルエーテル17部を2Lの四つ口フラスコに入れ、これを75℃で攪拌、溶解した。ついで、N,N−ジメチルエタノールアミン2.1部、レゾール型フェノール樹脂(i)15固形部、イソプロパノール34部を順次投入し、70℃で攪拌、均一化した。ついで、70℃に加熱したイオン交換水170部を10分かけて投入し、相転移を行った。フラスコに減圧蒸留装置(ト字管、コンデンサー、溶剤トラップ、真空ポンプなど)を装着し、メチルエチルケトン、イソプロパノールおよびレゾール型フェノール樹脂(i)に含まれるn−ブタノールを減圧、留去し終えたらこれを冷却し、固形分36%の水分散体を得た。この水分散体に酸触媒としてのドデシルベンゼンスルホン酸0.5部を加えて、本発明の水系缶内面塗料を得た。
【0080】
これを前述した方法により塗布、焼付を行い本発明の塗装金属板のテストピースを得た。本発明に使用するポリエステル樹脂(a)は水分散性が良好で、分散後の分散体も安定であった。レゾール型フェノール樹脂との相溶性、硬化性に優れ、良好な塗膜物性を得ている。さらには、塗装作業性に優れ、ピンホールの無い塗膜が得られている。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表3に示す。
【0081】
実施例(2)〜(4)
実施例(1)と同様にして本発明の塗料樹脂組成物を得た後、同じく前述した方法により塗布、焼付を行い本発明の塗装金属板のテストピースを得た。いずれの実施例も良好な塗膜物性を有し、さらには優れた塗装作業性を示す。実施例(4)では、ジフェノール酸共重合によりポリエステル樹脂にフェノール性水酸基を導入した例であるが、酸触媒なしでもレゾール型フェノール樹脂との良好な硬化性が得られ、衛生面および基材としての金属の腐食を低減するなどのメリットがある。また、共溶剤なしでも良好な塗装作業性が得られている。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表3に示す。
【0082】
比較例 (1)〜(6)
実施例(1)と同様にして、比較例の塗料樹脂組成物を得た後、同じく前述した方法により塗布、焼付を行い比較例のテストピースを得た。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表4に示す。比較例(1)、(2)、(4)は、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを含まない比較ポリエステルの例であるが、いずれも塗装作業性が悪い。比較例(2)では、共溶剤のない例であるが、塗膜のフロー性が悪く、塗装作業性が悪い。比較例(1)、(2)では、塗膜物性としては、耐オーバーベーク性、耐デント性に劣る。比較例(3)は、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールとその他のグリコールの組み合わせた比較ポリエステル樹脂を用いた場合であるが、塗装作業性は良好であるが、レゾール型フェノール樹脂との硬化性に劣り、良好な塗膜物性が得られない。比較例(5)、(6)は、本発明のポリエステル樹脂とアミノ樹脂を組み合わせた例であるが、塗膜物性は比較的良好であるが、アミノ樹脂を使用しているため抽出性に劣り、飲料缶、食品缶などの内面塗料としては不適である。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
表3より明らかなように、本発明の水系缶塗料用樹脂組成物を塗布した金属板はその硬化性、加工性、耐レトルト性、耐内容物(酸、塩)性、耐オーバーベーク性、耐酸加工性、抽出性、耐デント性、深絞り加工性に優れている。さらに、ピンホールの発生が非常に少なく、塗装性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
食品や飲料缶内面に塗装される塗料はその性質から毒性がなく、廃棄、リサイクル時にも汚染物質の排出もなく、製缶の加工、レトルト処理の蒸気、熱、内容物の塩、酸に耐えるものでなければならない。また近年はエポキシ−フェノール系塗料など外因子内分泌撹乱物質(環境ホルモン)とされるビスフェノール化合物を含む塗料の代替化も望まれている。本発明の水系缶塗料用樹脂組成物は、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと特定のグリコールを含むポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂、塩基性化合物からなり、上記した毒性化合物の含有、排出がなく、環境ホルモンを含まず、硬化性、加工性、耐レトルト性、耐内容物性を満足し、更には、塗料添加剤を配合しない場合や潤滑剤を配合した場合においてもピンホールの発生が少なく塗装性に優れるため、食品缶、及び飲料缶胴、缶蓋の内面やシーム用補修塗料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸が70〜100モル%、その他のポリカルボン酸成分が0〜30モル%であり、ポリアルコール成分として、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールを必須成分として含み、さらに2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群のうち少なくとも1種類以上を含み、前記2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールの合計が40〜100モル%、その他のポリアルコール0〜60モル%であり、酸価が150〜800eq/106gであり、数平均分子量が5,000〜100,000であるポリエステル樹脂(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)、塩基性化合物(C)および水を含むことを特徴とする水系缶塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
レゾール型フェノール樹脂(B)が、150℃の金属プレート上に滴下した後、メチルエチルケトンに不溶化するまでの時間が30秒以上要することを特徴とする請求項1に記載の水系缶塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
レゾール型フェノール樹脂(B)のメチロ−ル基がブチルエーテル化されている請求項1又は2に記載の水系缶塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
缶内面塗料用として用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系缶塗料用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水系缶塗料用樹脂組成物を塗布、硬化させたことを特徴とする塗装金属板。

【公開番号】特開2006−143891(P2006−143891A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335972(P2004−335972)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】