説明

水系離型潤滑剤組成物

【課題】 高温の被塗布物(離型・摺動部材)の表面に塗布したとき、水系離型潤滑剤組成物の液滴がはじかれることがなく、被塗布物表面に良好な離型潤滑被膜を形成することが可能な水系離型潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 シリコーン系界面活性剤と、固体潤滑剤と、水溶性樹脂とを含む水系離型潤滑剤組成物であって、シリコーン系界面活性剤を0.001〜0.1質量%、固体潤滑剤を10〜50質量%、水溶性樹脂を1〜5質量%含有し、25℃における表面張力が40〜60mN/mである。シリコーン系界面活性剤としては、ポリジメチルシリコーン、フルオロアルキル変性シリコーン、オルガノ変性シリコーンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型・摺動部材などの高温の被塗布物にスプレーや刷け塗り等の方法で直接塗布することにより、潤滑性や離型性を付与する水系の離型潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高温域での潤滑が必要とされる離型・摺動の分野として、例えば温・熱間の塑性加工における被加工材及び金型があり、更には製鉄の溶融金属容器の出湯口に装着される摺動開閉装置のレンガ部などがある。これらの離型・摺動部材には、例えば水系の離型潤滑剤を塗布することが従来から行われているが、塗布した離型潤滑剤に含まれる水分が高温の離型・摺動部材の表面で瞬時に蒸発し、発生した水蒸気により離型潤滑剤の液滴がはじかれてしまい、良好な潤滑塗膜を形成できないという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、例えば特許文献1には、水系の潤滑剤を塗布する離型・摺動部材の表面に、予め無機系水溶性接着剤を含む下地処理剤を塗布する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、離型・摺動部材の表面を予め下地処理する必要があるうえ、この下地処理した表面上に別種の離型潤滑剤を塗布して2層の処理層を形成する必要があるなど、高温の離型・摺動部材への塗布作業が極めて煩雑になるという欠点があった。
【0004】
尚、金型などの高温の離型・摺動部材への潤滑離型剤としては、一般的にシリコーンオイルが使用されている。例えば特許文献2には、高温の金型への離型用として、オルガノポリシロキサンに特定のキレート剤を含有させた水溶性のエマルジョンを使用することが提案されている。ただし、この方法は高温の金型への付着を少なくして汚れ防止を目的とするものであり、水溶性離型潤滑剤の付着性が改善できることを示すものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3931054号公報
【特許文献2】特開2003-275845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の水系離型潤滑剤の問題点に鑑み、高温の被塗布物(離型・摺動部材)の表面に塗布したとき、水分が蒸発して発生した水蒸気によって水系離型潤滑剤の液滴がはじかれることを防止でき、被塗布物表面に良好な離型潤滑被膜を形成することができる水系離型潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、発明者は、高温の離型・摺動部材に塗布したとき良好な離型潤滑被膜を形成できる条件について検討を重ねた結果、水系離型潤滑剤組成物を塗布したとき、高温の離型・摺動部材との界面で発生する水蒸気の気泡は水系離型潤滑剤組成物の25℃における界面張力が特定の範囲内にあるとき破泡放出され、液滴がはじかれずに高温の離型・摺動部材表面に付着することを見出し、本願発明を完成するに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明が提供する水系離型潤滑剤組成物は、シリコーン系界面活性剤と、固体潤滑剤と、水溶性樹脂とを含む水系離型潤滑剤組成物であって、シリコーン系界面活性剤を0.001〜0.1質量%、固体潤滑剤を10〜50質量%、水溶性樹脂を1〜5質量%含有し、25℃における表面張力が40〜60mN/mであること特徴とする。
【0009】
上記本発明による水系離型潤滑剤組成物においては、前記シリコーン系界面活性剤が、ポリジメチルシリコーン、フルオロアルキル変性シリコーン及びオルガノ変性シリコーンのいずれかであることが好ましい。また、前記固体潤滑剤は、グラファイトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系離型潤滑剤組成物によれば、600℃を超える高温の被塗布物に塗布したとき、塗布した液滴がはじかれることがなく、被塗布物の表面に良好な離型潤滑被膜を形成することことができる。従って、高温の被塗布物に水系離型潤滑剤組成物を直接塗布することができるため、従来のように被塗布物に下地処理剤を塗布して一旦冷却した後再加熱するなどの煩雑な操作が必要なくなり、エネルギーロスをなくすと共に、高温での離型潤滑作業効率を大巾に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水系離型潤滑剤組成物は、シリコーン系界面活性剤と、固体潤滑剤と、水溶性樹脂とを主な成分とし、水を溶剤とするものであって、シリコーン系界面活性剤の添加により25℃における表面張力が40〜60mN/mの範囲に調整されている。シリコーン系界面活性剤の添加により表面張力を40〜60mN/mに制御することによって、高温の離型・摺動部材に塗布された水系離型潤滑剤組成物の液滴がはじかれず、離型・摺動部材表面に付着して良好な離型潤滑被膜を形成することができる。
【0012】
本発明の水系離型潤滑剤組成物に用いるシリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、ポリジメチルシリコーン、ポリジメチルシリコーンのメチル基の一部をフルオロアルキル基で置き換えたフルオロアルキル変性シリコーン、ポリジメチルシリコーンのメチル基の一部を第一級アミンで置き換えたオルガノ変性シリコーン等を用いることができる。また、消泡性や水への分散性を向上させるために、ポリオキシエチレン・オクチルフェニルエーテルや鉱油等を含有させたシリコーン系界面活性剤を用いることもできる。
【0013】
いずれのシリコーン系界面活性剤を用いる場合も、そのシリコーン系界面活性剤の添加によって、水系離型潤滑剤組成物の表面張力を40〜60mN/mの範囲に制御することが重要である。また、熱安定性の観点からは、ポリジメチルシリコーン、フルオロアルキル変性シリコーンの1種であるトリフルオロプロピル変性シリコーン、オルガノ変性シリコーンの1種である第1級アミン変性シリコーンなどを好適に用いることができる。その中でもポリジメチルシリコーンは、耐熱性及び耐薬品性などにも優れているため特に好ましい。
【0014】
上記シリコーン系界面活性剤の配合量は、水系離型潤滑剤組成物の全体量に対して0.001〜0.1質量%の範囲とする。シリコーン系界面活性剤の配合量が0.001質量%より少ないと、水系離型潤滑剤組成物の表面張力低減効果が得られにくく、40〜60mN/mの範囲の表面張力を得ることが難しい。また、シリコーン系界面活性剤を0.1質量%より多く配合しても、表面張力の低減効果が飽和してしまうため、更なる表面張力の低減は得られず、コストアップとなるため好ましくない。
【0015】
本発明の水系離型潤滑剤組成物は、固体潤滑剤を含有している。固体潤滑剤としては、一般に離型・潤滑の目的で使用されている公知の固体潤滑剤粉末を用いることができ、例えば、グラファイト(黒鉛)、四フッ化エチレン(PTFE)、メラミンシアヌル酸(MCA)、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどを好適に使用することができる。その中でもグラファイトは、軟らかい鱗片状結晶構造物であり、被塗布物上で摺動されることで容易に潤滑面を形成するため特に好ましい。
【0016】
上記固体潤滑剤の配合量は、水系離型潤滑剤組成物の全体量に対して10〜50質量%とする。固体潤滑剤の配合量が10質量%より少ないと、離型潤滑被膜の潤滑作用が不十分となる。また、固体潤滑剤の配合量が50質量%より多くなると、水系離型潤滑剤組成物がペースト状となってしまうため被塗布物への塗布が困難となる。
【0017】
また、本発明の水系離型潤滑剤組成物は、上記した固体潤滑剤を被塗布物表面で塗膜とするため水溶性樹脂を含有している。水溶性樹脂としては、特に限定されるものではないが、従来から同様の目的で使用されているもの、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等を使用することができる。また、本発明の水系離型潤滑剤組成物においては、アルギン酸ナトリウムも水溶性樹脂として使用することができる。
【0018】
上記水溶性樹脂の配合量は、水系離型潤滑剤組成物の全体量に対して1〜5質量%とすることが必要である。水溶性樹脂の配合量が1質量%より少ないと、被塗布部材表面で塗膜を形成することが難くなる。また、水溶性樹脂の配合量が5質量%より多くなると、離型潤滑被膜の潤滑作用が不十分となるため好ましくない。
【0019】
また、一般的に水系離型潤滑剤組成物は時間と共に固体潤滑剤粉末が沈降しやすいため、その沈降防止並びに再分散性改良の目的で、親水処理されたベントナイト、ヘクトライト、スメクタイトを増粘剤として含有することができる。尚、上記増粘剤の配合量は、使用する水溶性樹脂の種類や配合量に応じて適宜定めることができるが、配合量が多すぎると水溶性樹脂の特性である糊状になる性質に影響を及ぼすため注意を必要とする。更に、長期安定性を目的としての防腐剤や分散剤、消泡剤等の各種添加剤を適宜配合することもできる。
【0020】
本発明の水系離型潤滑剤組成物は、上記した各成分を所定量秤量し、例えば下記する手順に従って撹拌混合することにより製造することができるが、特に下記の手順に限定されるものではない。例えば、シリコーン系界面活性剤、固体潤滑剤、水溶性樹脂、溶剤(水)、及び必要に応じて消泡剤、分散剤、消泡剤などを所定量秤量する。次に、これらの原料を混合し、例えばディゾルバー型撹拌機を用いて均一な液状となるまで撹拌混合と分散を行うことで、本発明の水系離型潤滑剤組成物を得ることができる。
【実施例】
【0021】
シリコーン系界面活性剤として、ポリジメチルシリコーン(界面活性剤1)、トリフルオロプロピル変性シリコーン(界面活性剤2)、及び第一級アミン変性シリコーン(界面活性剤3)のいずれかを使用すると共に、固体潤滑剤としてグラファイト粉末、水溶性樹脂としてヒドロキシエチルセルロースを使用し、水を溶剤として、下記表1に示す試料1〜7の各水系離型潤滑剤組成物を製造した。
【0022】
即ち、上記の各構成成分を下記表1に示す組成となるように秤量し、ディゾルバー型撹拌機により1200回転数で30分間撹拌混合して、それぞれ試料1〜7の各水系離型潤滑組成物を作製した。得られた試料1〜7の各水系離型潤滑組成物について、デュヌーイ氏表面張力計を使用して、JIS K 2241に準拠した試験方法により表面張力を測定し、得られた結果を各水系離型潤滑剤組成物の配合組成と共に下記表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
次に、上記試料1〜7の各水系離型潤滑組成物について、被膜形成性(付着性)を以下の評価方法により評価した。即ち、各試料の水系離型潤滑組成物を、下記表2に示す表面温度に加熱し且つ60°に傾斜させた耐火レンガ上に、エアスプレー(明治機械製作所製、ノズル口径1.0mm、霧化圧0.35MPa)を用いて塗布した。尚、耐火レンガの加熱は電気炉で行い、耐火レンガの表面温度は放射温度計を使用して測定した。
【0025】
得られた被膜形成性(付着性)の評価結果を、耐火レンガの表面温度と共に下記表2に示した。尚、評価の基準は、エアスプレーから噴霧された水系離型潤滑組成物の液滴の8割以上が耐火レンガ表面ではじかれずに付着して被膜形成したものを◎、エアスプレーから噴霧された液滴の5割以上8割未満が耐火レンガ表面ではじかれずに付着して被膜形成したものを○、エアスプレーから噴霧された液滴の5割未満が耐火レンガ表面ではじかれずに付着して被膜形成したものを×とした。
【0026】
【表2】

【0027】
上記の結果から分るように、本発明の実施例である試料1〜5の各水系離型潤滑組成物は、表面張力が40〜60mN/mと低く、高温に加熱された耐火レンガの表面に噴霧により塗布したとき液滴のはじきが無く、その表面に付着して良好な離型潤滑被膜を形成することができた。一方、比較例である試料6〜7の各水系離型潤滑組成物は、シリコーン系界面活性剤を含まないか又はその配合量が少なすぎるため、表面張力が60mN/mよりも高くなり、耐火レンガの表面温度が400℃以下でなければ付着して離型潤滑被膜を形成することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系界面活性剤と、固体潤滑剤と、水溶性樹脂とを含む水系離型潤滑剤組成物であって、シリコーン系界面活性剤を0.001〜0.1質量%、固体潤滑剤を10〜50質量%、水溶性樹脂を1〜5質量%含有し、25℃における表面張力が40〜60mN/mであること特徴とする水系離型潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記シリコーン系界面活性剤が、ポリジメチルシリコーン、フルオロアルキル変性シリコーン及びオルガノ変性シリコーンのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の水系離型潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記固体潤滑剤がグラファイトであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水系離型潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2012−62337(P2012−62337A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205075(P2010−205075)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】