説明

水素を生成する装置および方法

pH7未満の溶液と、前記溶液中に懸濁させた少なくとも1種のコロイド状金属と、非コロイド状金属とを含む水素を生成する装置および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年8月19日出願の米国特許仮出願第60/496,174号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、水から水素ガスを生成する方法および装置を対象とする。
【背景技術】
【0003】
水素ガスは、多数の現在の用途および潜在的な用途を有する貴重な物資である。水素ガスは、水と金属または金属化合物の化学反応によって生成させることができる。非常に反応性の高い金属は、鉱酸と反応して塩と水素ガスを生成する。式1〜5は、そのプロセスの例であり、式中HXは、任意の鉱酸である。HXとしては、たとえばHCl,HBr,HI,HSO,HNOがあり得るが、すべての酸が含まれる。

2Li+2HX→H+2LiX (1)
2K+2HX→H+2KX (2)
2Na+2HX→H+2NaX (3)
Ca+2HX→H+CaX (4)
Mg+2HX→H+MgX (5)
【0004】
これらの反応はそれぞれ、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの活性が非常に大きいので、極めて速い速度で起こる。これらの元素は、それぞれの反応速度の順に挙げられており、リチウムがこのグループの金属で最も反応が速く、マグネシウムが最も反応が遅い。事実、この反応は、非常に速い速度で起こるので、従来技術において水素ガスの有用な合成法を提供するものであるとはみなされなかった。
【0005】
中間的な反応性をもつ金属は、同じ反応を行うが、その反応ははるかに制御可能な速度で起こる。式6および7がその例であり、この場合もHXはすべての鉱酸を表す。

Zn+2HX→H+ZnX (6)
2Al+6HX→3H+2AlX (7)
【0006】
このタイプの反応は、その反応速度が比較的遅く、したがってより制御可能であるので、より優れた水素ガスの生成方法を提供する。しかしながら、このような金属は、その金属のコストのために従来技術による2原子水素の生成に使用されなかった。
【0007】
鉄は、以下の式のいずれかによって鉱酸と反応する:

Fe+2HX→H+FeX (8)
または
2Fe+6HX→3H+2FeX (9)
【0008】
鉄の活性がかなり低いので、この反応はともにかなり遅い反応速度で起こる。この反応速度は、非常に遅いので、従来技術において2原子水素の有用な生成法を提供するものであるとはみなされなかった。すなわち、鉄は実際、元素の水素の生成に必要とされる入手の容易さおよび低価格を提供するものの、水素生成に使いものになるのに十分なほど速い速度では反応しない。
【0009】
銀、金、白金などの金属は、従来技術において通常の条件下で鉱酸と反応を行わないことが知られている。

Ag+HX→反応しない (10)
Au+HX→反応しない (11)
Pt+HX→反応しない (12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、比較的安価な金属を使用して、水素ガスを効率的に生成する方法および装置に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書において、pH7未満の溶液と、その溶液中に懸濁させた少なくとも1種のコロイド状金属と、金属イオンとを含む、水素を生成する装置を記載する。
【0012】
本明細書に記載する本発明の別の実施形態は、pH7未満の溶液と、その溶液中に懸濁させた少なくとも1種のコロイド状金属および非コロイド状金属とを含む、水素を生成する装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、水素を生成するために使用することができる装置を示す。反応容器100は、水および酸を含む溶液102を含み、その溶液のpHは7未満、好ましくは5未満である。酸は、他の酸も使用することができるものの、好ましくは硫酸または塩酸である。反応容器100は溶液102に対して不活性である。溶液102は、溶液中に懸濁する第1のコロイド状金属(図示せず)を含む。第1のコロイド状金属は、他の金属も使用することができるものの、好ましくは銀、金、白金、スズ、鉛、銅、亜鉛、カドミウムなど活性の低い金属である。反応容器102はまた、好ましくは、溶液102中に少なくとも部分的に沈められた非コロイド状金属104を含む。非コロイド状金属は、任意の形態でよいが、好ましくは、ペレット形状など比較的表面積の大きい固体形状である。非コロイド状金属104は、好ましくは鉄、亜鉛、ニッケル,スズなど活性が中程度の金属である。非コロイド状金属104は、好ましくは第1のコロイド状金属より活性が高い。非コロイド状金属104は、最も好ましくは鉄である。反応性が中程度であり、コストが低いからである。好ましくは、溶液102はまた、第2のコロイド状金属(図示せず)を含む。第2のコロイド状金属は、好ましくは非コロイド状金属104よりも活性が高く、たとえばアルミニウム、マグネシウム、ベリリウムおよびリチウムである。
【0014】
上記の代わりに、溶液102は、1種または複数のコロイド状金属に加えて、酸および非コロイド状金属104ではなく、金属塩または金属酸化物を含むこともできる。好ましくは、溶液102は、固体の金属と、酸、または固体の金属104と同じ金属の金属塩もしくは金属酸化物とを含む。溶液102が最初に、固体の金属と、HClまたはHSOなどの強酸とを含む場合、酸は固体の金属と反応して、金属イオンを生成し、水素ガスを解放し、ついには酸または固体の金属が実質的に消滅すると考えられる。また、最初に適当なコロイド状触媒とともに金属塩を含む溶液は、最初のpHが7を超えていても、酸性になると考えられる。
【0015】
反応容器100は、水素ガス(図示せず)が逃げるのを可能にする出口106を備える。反応容器はまた、適当な濃度を維持するために水または他の成分を加えるための入口108を備えることもできる。
【0016】
反応容器中で起こると予想される反応は、全体として吸熱であると考えられるので、反応は、周囲の温度によって潜在的にエネルギーを供給されるものの、反応速度を高めるために好ましくはまたエネルギー源112を備える。図1に示すエネルギー源は、ヒータ(ホット・プレート)であるが、電気および光エネルギーを含めて他のエネルギー形を使用することもできる。エネルギー効果に加えて、光またはその他の電磁放射の効果もあるかもしれないが、これについては未だ十分に理解されていない。
【0017】
大抵の金属は、水溶液中でコロイド状態において生成させることができる。コロイドとは、溶液中に分散(懸濁)しているが、溶解してはいないある物質の非常に小さい粒子からなる材料である。したがって、コロイド粒子は、固体状態で存在するものの、溶液から沈降しない。したがって、どんな指定の金属のコロイドでも、溶液中に懸濁した前記金属の非常に小さい粒子である。こうした懸濁した金属粒子は、固体(金属性)の形またはイオンの形またはこの2種の混合物として存在することができる。この金属の粒子のサイズが非常に小さいので、金属に対して非常に大きな有効表面積がもたらされる。金属が他の原子または分子と接触する場合、金属のこうした非常に大きい有効表面積により、金属の表面反応を劇的に高めることができる。以下に記載の実験において使用するコロイド状金属は、テキサス州サンアントニオのCS Prosystems社販売のコロイド状銀製造機械を使用して得た。CS Prosystemsのウエブサイトは、www.csprosystems.comである。この製造者からの材料では、以下に記載の実験において使用するコロイド溶液中の金属粒子のサイズは、0.001〜0.01ミクロンの範囲にあると考えられる。コロイド状金属のこうした溶液において、金属の濃度は、約5〜20ppmであると考えられる。
【0018】
コロイド形状の触媒を使用する代わりに、多孔質の固体またはコロイド−ポリマー・ナノコンポジットなど、表面積と体積の比が高い別の形状の触媒を使用することも可能であるかもしれない。一般に、どんな形状のどんな触媒でもよいが、有効表面積は少なくとも金属触媒1立方メートルあたり298,000,000mであり、それより小さい表面積比でもうまく働くことができる。
【0019】
すなわち、どんな金属でもその通常の反応性とは関係なく、コロイド形状で使用すると、金属と鉱酸の反応をより速い速度で生じさせることができる。すなわち、式13〜15は、その通常の反応性とは関係なく任意の金属で生じると考えられる一般式であり、Mは任意の金属を表す。たとえば、Mは、それだけに限定されないが、銀、銅、スズ、亜鉛、鉛およびカドミウムでよい。実際、式13〜15の示す反応が、酸の1%水溶液においてさえかなり速い反応速度で生じることがわかっている。

2M+2HX→2MX+H (13)
M+2HX→MX+H (14)
2M+6HX→2MX+3H (15)
【0020】
式13〜15は、大多数の金属、特に通常の低い反応性の金属(たとえば、それだけに限定されないが、銀、金、銅、スズ、鉛および亜鉛)では大きな吸熱プロセスであるものの、式13〜15に示す反応の速度は、実際には、コロイド状金属の使用によってもたらされる表面効果のために非常に大きい。式13〜15の関与する反応は非常に速い速度で起こるが、この反応は、元素の水素の生成には有用でない。というのは、コロイド状金属は、定義により、非常に低い濃度でしか存在しないからである。
【0021】
しかし、水素の有用な調製は、それだけに限定されないが、金属鉄など、コロイド状金属より反応性がより高い金属を含めることによってもたらされる。すなわち、どんなコロイド状金属もイオンの形では、式16〜18において示されるように金属鉄と反応すると予想され、電気化学列または活性列上で鉄より下方の金属(カドミウムおよびそれより下方)が最もよく反応するはずである。

Fe+2M→2M+Fe+2 (16)
Fe+M+2→M+Fe+2 (17)
3Fe+2M+3→2M+3Fe+2 (18)
【0022】
コロイド性イオンM+nの有効表面積が大きいため、また使用するのに好ましいはずの反応性がより低い任意の金属に比べて鉄の反応性がより高いために、式16〜18によって示す反応は実際、非常に容易に起こると考えられる。実際、鉄より反応性が通常低い金属では、式16〜18は大きな発熱反応をもたらすはずである。得られる金属Mは、コロイド量で存在するはずであり、したがって、それだけに限定されないが、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸および塩素酸を含めてどんな鉱酸とも容易に反応すると考えられる。しかし、鉱酸は、好ましくは硫酸HSOまたは塩酸HClである。式19〜21は、この反応を記載し、式HX(またはイオン形状であるH+X)は一般に任意の鉱酸を表す。

2M+2H+2X→2M+1+H+2X (19)
M+2H+2X→M+2+H+2X (20)
2M+6H+6X→2M+3+3H+6X (21)
【0023】
式19〜21は吸熱反応を表すが、式16〜18における反応の発熱性がそれを補償するので、この2種の反応の組合せが、周囲の条件によって供給される熱エネルギーを使用して熱的に実現可能になると考えられる。もちろん、追加のエネルギーを供給すれば、プロセスが速まるはずである。
【0024】
したがって、元素の水素は、式22および23に示す反応の組合せによって効率的にかつ容易に生成すると考えられる。

2Fe+4M→4M+2Fe+2 (22)
4M+4H+4X→4M+1+2H+4X (23)
【0025】
すなわち、鉄が、式22においてコロイド状金属のイオンと反応して、コロイド状金属と鉄イオンを生成する。次いで、コロイド状金属は、式23において鉱酸と反応して、元素の水素を生成し、コロイド状金属のイオンを再生する。次いで、このコロイド状金属が再び式22により、それに続き再び式23により、また以下同様に連鎖反応プロセスで反応して、元素の水素の効率的な発生源が提供される。原理的に、任意のコロイド状金属のイオンがこうしたプロセスをうまく行うはずである。コロイド状金属のイオンが、電気化学列の表の上で鉄(または使用する他の固体の金属)より反応性が低い場合、反応が最も効率的に起こることがわかっている。式22と23を組み合わせると、正味の式24が得られる。その結果として式24により、鉄と鉱酸の反応から元素の水素が生成する。

2Fe+4M→4M+2Fe+2 (22)

4M+4H+4X→4M+1+2H+4X (23)

2Fe+4H→2Fe+2+2H (24)
【0026】
式24は、元素の鉄および酸が消費される、元素の水素の非常に効率的な生成法を提供するプロセスをまとめて示したものである。しかし、元素の鉄および酸はともに、ボルタの電気化学的プロセスまたはそれに続く熱プロセスの結果として再生されると考えられる。コロイド状金属M(式22において使用されるものと同じでも異なってもよい)は、式25および26で示されるボルタの酸化−還元反応を受け入れることができると考えられる。

カソード(還元)
4M+4e→4M (25)
アノード(酸化)
2HO→4H+O+4e (26)
【0027】
コロイド状金属Mは、原理的にどんな金属でもよいが、金属がより高い(正でより高い)還元電位を有すると、反応25は最も効率的に進行する。したがって、式25で示されるコロイド状金属のイオンの還元は、コロイド状金属が金属の電気化学列上で鉄よりより低い場合に最も効率的に起こる。したがって、反応25は、どんなコロイド状金属でもうまくゆくが、コロイド状銀または鉛で最もうまくゆく。そうなるのはこの金属が還元電位が高いからである。たとえば、式25および26においてコロイド状金属のイオンとして鉛を使用する場合、この一対の反応は非常に容易に起こることがわかっている。ここに示された酸化還元反応が起こると、ボルタ反応は正の電圧を生成する。この正の電圧を、他の化学プロセスで必要とされるエネルギーを供給するために使用することができる。実際、生成する電圧を使用して、別の反応容器で起こる式25および26を使用する反応のための、過剰の電位を供給することさえできる。したがって、この電気化学的プロセスを、外部のエネルギー源から供給することなくより速やかに生じさせることができる。次いで、得られるコロイド状金属Mは、酸化される鉄イオン(または他の固体の金属、好ましくはコロイド状金属より活性が低い金属)と反応することができ(式27)、それにより、金属鉄(または他の金属)の再生、および酸化された形のコロイド状金属の再生がもたらされるはずである。

2Fe+2+4M→4M+2Fe (27)
【0028】
式27に記載の反応は実際、出発物質として任意のコロイド状金属を使用して起こるはずであるが、コロイド状金属Mが、電気化学列上で鉄より上方にある場合、最も効果的に起こる。式25〜27を組み合わせると、元素鉄の再生、酸の再生および元素の酸素の形成をあらわす式28がもたらされる。

4M+4e→4M (25)

2HO→4H+O+4e (26)

2Fe+2+4M→4M+2Fe (27)

2Fe+2+2HO→4H+2Fe+O (28)
【0029】
式24と28を組み合わせると、式29に示す正味のプロセスがもたらされる。すでに論じたように、式25の示す反応は、コロイド状金属が電気化学列上で鉄より下方にある場合、最も効率的に進行する。しかし、式27の示す反応は、コロイド状金属が電気化学列上で鉄より上方にある場合、最も好ましい。したがって、2種のコロイド状金属、電気化学列上1種は鉄より上方のもの、1種は下方のもの、たとえば、それだけに限定されないが、コロイド状鉛とコロイド状アルミニウムを並列で使用すると、正味のプロセスの効率上最適の結果がもたらされることが観察されている。式29は単に、水を元素の水素と元素の酸素に分解することを示すので、この場合、元素の水素を生成するプロセス全体では、消耗可能な物質は水のみであり、必要な唯一のエネルギー源は周囲の熱的条件によって供給される。

2Fe+4H→2Fe+2+2H (24)

2Fe+2+2HO→4H+2Fe+O (28)

2HO→2H+O (29)
【0030】
このプロセスの正味の結果は、厳密に、水の電気分解から得られる結果そのものである。ただし、この場合、どんな電気エネルギーをも供給する必要がない。追加のエネルギーは助けにはなるが、供給エネルギーが周囲の熱エネルギーだけである場合でも反応が進行する。コロイド状金属のイオン触媒、金属鉄(または他の金属)および酸は、プロセス中で再生され、消耗可能な材料は水だけである。
【実施例1】
【0031】
93%濃HSO10mlおよび35%濃HCl30mlを含む最初の溶液を、鉄ペレット(スポンジ鉄)、ならびにそれぞれ濃度が約20ppmと考えられるコロイド状マグネシウム約50mlおよびコロイド状鉛約80mlと反応させた。表1に示す酸の消費量からのみ生成するとすれば、理論的な最大値である8.06lの水素ガスが生成するはずである。
【0032】
【表1】

【0033】
1モルのHSOは1モルのH(22.4l)をもたらす。
1モルのHSO=98グラム
したがって、HSO1グラムあたりHの最大収量は0.23lである。
2モルのHClは1モルのH(22.4l)をもたらす。
2モルのHCl=73グラム
したがって、再生反応がなければ、HCl1グラムあたりHの理論最大収量は0.31lと予想される。
【0034】
実験の装置は図2に示すとおりである。酸および鉄の溶液をフラスコ202に入れた。ホット・プレート204を使用して、反応のための熱エネルギーを供給し、溶液の温度を約71℃に維持した。反応によって生成したガスを管206を通して容積計量装置208に供給した。容積計量装置208は、水で満たした倒立容器210であり、水浴212に入れた。実験の第1の目的は、本発明の閉ループ・プロセスによって理論最大値8.06lを超える水素が生成されるという証拠を提供することであった。
【0035】
反応の速度は、最初は非常に速く、周囲温度で水素が発生する。酸が時間の経過につれて消費されると、再生プロセスが開始され、反応速度が遅くなる。再生プロセスを加速するために、プロセスに熱を加えることもできる。
【0036】
少なくともガス15lが生成したことが観察され、中断したとき、反応は依然として連続的に進行していた(71℃で毎秒約2個の気泡)。観察された生成ガス15lは、漏洩による可能性が高い水素ガスの損失を説明できないことに留意されたい。これまでの観察および理論的な予測では、生成した最初のガス8.06lは、基本的に純粋な水素からなる可能性が高く、理論的なしきい値8.06lを超える分については、生成したガスの66.7容積%が水素で、その他の33.3容積%が酸素であるはずである。この実験は再生プロセスが起こる十分な証拠を提供すると考えられる。
【0037】
逆反応を定性的に検証するために、唯一の鉄源として塩化鉄(III)(FeCl)を使用して追跡実験を行った。純粋な塩化鉄(III)を選んだのは、他のどんな酸化状態の鉄も存在しないことを示すことができるためである。鉄源として酸化鉄(III)を使用しても同様な実験をうまく行えたが、その結果は、鉄の他の酸化状態が存在していたかもしれないということによってあいまいになった。結果を以下の実施例2に記載する。
【実施例2】
【0038】
出発材料として塩化鉄(III)水溶液150ml(通常、エッチング溶液として使用され、Radio Shack社から購入)を使用して実験を行った。硫酸(HSO)10mlを溶液に加えた。この時点でどんな反応も生じなかった。次いで、それぞれ濃度約20ppmと考えられるコロイド状マグネシウム約50mlおよびコロイド状鉛約80mlを加えた。この時点で化学反応が開始され、ガスのバブリングが周囲温度で明らかであった。溶液を温度66℃(150°F)に加熱すると、ガスの生成が加速された。生成物のガスを石鹸の泡に捕集し、次いでその泡に点火した。ガスの生成物の点火が観察されたが、水素と酸素の混合物における典型的なものであった。
【0039】
鉄の並列的な酸化によっては水素ガスの生成しかもたらすことができないので、鉄(III)は、酸化される前に最初に還元されたはずであり、それによって逆反応の強力な証拠が提供されたことが明らかである。この実験に続いて、硫酸の代わりに塩酸(HCl)で繰り返したが、同様な結果が得られた。
【0040】
金属の消費のみから予想される最大量と比較してより多くの水素が生成するかどうかを決定するために、追加の追跡実験を2つ行った(#3で金属アルミニウムを使用;#4で金属鉄を使用)。結果を以下に記載する。
【実施例3】
【0041】
出発溶液は、合計の容積250mlであり、水、それぞれ濃度が約20ppmと考えられるコロイド状マグネシウム約50mlおよびコロイド状鉛80ml、上記実施例1の場合と同様に93%濃HSO10mlおよび35%濃HCl30mlを含んでいた。金属アルミニウム10グラムを溶液に加え、その溶液を加熱し、90℃に維持した。反応を1.5時間行い、ガス12lを得た。1.5時間後に測定されたpHは2より低かった。1.5時間後に反応を終了させ、未使用の金属を除去し、それを秤量した。未消費のアルミニウムの重量は、4.5グラムであり、アルミニウム5.5グラムが消費されたことを示す。アルミニウム5.5グラムの正味の消費によって通常予想される水素ガスの最大量は、以下の表に示すように6.8lである。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例1の場合と同様に、供給された酸の合計量をベースにすると、発生したガスの最初の8.06lは純粋の水素であり、残りは50%の水素であることが予想される。あるいは、消費されたアルミニウムの量に対する水素の理論量は、6.84lである。6.84l(消費されたアルミニウム量から予想される最大収量)の後、残りのガスは66.7%の水素であると予想される。したがって、それぞれ消費されたアルミニウム量および供給された酸の量に対して予想される最大値6.84lまたは8.06lと比較して、水素約10.3l(ガスの合計量約12lのうち)がこの実験で生成したと本発明者らは推定し、それにより再生プロセスが起こる追加の証拠が提供される。
【実施例4】
【0044】
出発溶液は、合計の容積250mlであり、水、それぞれ濃度が約20ppmと考えられるコロイド状マグネシウム約50mlおよびコロイド状鉛約80ml、上記実施例1の場合と同様に93%濃HSO10mlおよび35%濃HCl30mlを含んでいた。鉄ペレット(スポンジ鉄)100グラムを溶液に加え、その溶液を加熱し、90℃に維持した。反応を30時間行い、ガス15lを得た。30時間後に測定されたpHは約5であった。反応を30時間後に終了し、未使用の金属を除去し、それを秤量した。未消費の鉄の重量は、94グラムであり、鉄6グラムが消費されたことを示す。鉄6グラムの正味の消費によって通常予想される水素ガスの最大量は、上記の再生反応がない場合、以下の表に示すように2.41lである。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例1の場合と同様に、供給された酸の合計量をベースにすると、発生したガスの最初の8.06lは純粋の水素であり、残りは66.7%の水素であることが予想される。しかし、消費された鉄の量に対する水素の理論最大発生量は、2.41lである。2.41l(消費された鉄から予想される最大収量)の後、残りのガスは66.7%の水素であると予想される。したがって、コロイド状触媒を使用するこの実施例において、水素約10.8l(ガスの合計量約15lのうち)が生成したと推定され、消費された鉄の量に対して予想される最大2.41lを十分超えており、それにより再生プロセスが起こる追加の証拠が提供される。
【実施例5】
【0047】
実施例4から得られた最終溶液200mlを使用して実験を行った。最終溶液は、酸化された鉄および触媒を含み、pH5であることがわかった。上記の反応の場合と同様に、酸を溶液に加えた(93%濃HSO10mlおよび35%濃HCl30ml)。それによりpHは約1のレベルになった。どんな追加のコロイド状材料も加えず、金属アルミニウム20グラムを加えた。溶液を96℃で一定になるまで加熱した。反応が進行して、18時間の間にガス32lを生成し、その時点で反応の速度は非常に遅くなり、溶液のpHは約5になった。
【0048】
18時間の実験の終わりに残った金属を分離し、質量9グラムであることがわかった。その金属は、溶液由来のAlとFeの混合物であるように見えた。したがって、溶液中に残る鉄およびアルミニウムを無視すると、金属正味11グラムが消費され、ガス正味32lが生成された。
【0049】
以上示したように、反応に加えられた酸の量をベースにすると、酸と金属の反応だけからの予想される水素ガスの最大量は、8.06lのはずであった。質量9グラムであった回収した金属の構成によって変わるが、2つの極端な場合が可能であり、a)回収された金属が100%Alであると仮定すると、最大13.75lの水素ガスが、アルミニウム11グラムの消費から予想される;b)あるいは、回収された金属が100%Feであると仮定すると、最大21.25lの水素ガスが、アルミニウム17グラムの消費から予想される(供給された20グラムマイナス鉄の生成に使用された3グラム)。水素ガスの最大発生量を計算するために、本発明者らは、再生プロセスは起こらず、金属Feは、通常の単純なAlとの置換反応から生成したと仮定する。
【0050】
AlとFeの実際のパーセンテージは、2つの極端な場合のどこか中間にあるはずであり、したがって、金属の消費だけから(再生はなし)発生する水素ガスの最大量は、13.75l〜21.25lになるはずである。金属の消費だけから予想される最大量と比較して、ガス32lの発生が観察されたことは、再生プロセスが起きていることを示す。H生成の速度の増加は、元素の鉄を導入する前に溶液中の金属イオンの濃度が高いことに由来すると考えられる。すなわち、この種類の反応から得られる溶液は廃棄すべきではなく、続く反応の出発点として使用すべきである。したがって、H発生のこのプロセスは、廃棄する必要のある軽視できない化学廃棄物を生成しないはずである。
【実施例6】
【0051】
FeCl20ml、コロイド状マグネシウム10mlおよびコロイド状鉛20mlを使用して、温度約90℃で実験を行った。ガスの点火の観察に基づけば、水素と酸素の混合物であると考えられるガスが生成した。混合物のpHは、反応中に約4.5から約3.5に低下した。こうした観察は、水素を生成するために金属鉄も酸も溶液中に導入する必要がないことがわかる。電気化学的酸化/還元反応(式25〜28)は、金属鉄および酸の生成をもたらすので、この2つの成分はこのようにして生成することができる。おそらくは、この反応は、最終的には金属鉄および酸を最初に供給した場合に到達するのとと同じ安定状態に到達するはずである。
【0052】
先の実験を、人工光源と自然光源が混じりあった周囲の照明条件下で行った。弱めた光の条件下で記載の反応を行うと反応速度も減少した。しかし、弱めた光の条件下での別個の正式な試験は行っていない。
【0053】
上記の実験結果は、本明細書に記載の本発明の潜在的な価値を実証するものと考えられる。しかし、計算の結果は、以上説明し、こうした実験に含まれる反応を正確に特徴付けると考えられる反応機構の理論に基づくものである。しかし、反応の理論またはそれに基づく計算が誤りであることが発見されたとしても、本明細書に記載の本発明は、なお有効で、価値がある。
【0054】
以上図示し、説明した実施形態は、例示である。多くの詳細が当技術分野においてしばしば見出されるので、そうした多くの詳細は図示も説明もされない。ここに説明し、図示された詳細、部分、要素またはステップのすべてを本発明で発明したと主張するものではない。本発明の多くの特徴および利点を図面および付属の文章に記載したが、その説明は例示に過ぎず、詳細において、特に形状、サイズおよび部分の構成に関して、本発明の原理の範囲内で、添付の特許請求の範囲の用語の広い意味によって指示される最大限まで変更を加えることができる。
【0055】
上記の特定の実施例についての限定的な説明および図面は、何が本特許の侵害であるかを指摘するものではなくて、どのように本発明を使用し実施するかについての少なくとも1つの説明を提供するためのものである。本発明の限界および本特許の保護の境界は、以下の特許請求の範囲によって計測され、それにおいて定義されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】水素生成のための反応器を示す図である。
【図2】実験室での実験装置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7未満の溶液と、
前記溶液中に懸濁させた第1のコロイド状金属と、
非コロイド状金属と
を含む水素を生成する装置。
【請求項2】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が低い、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が高い、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
さらに前記溶液中に懸濁させた第2のコロイド状金属を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第2のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が高い、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
さらに前記溶液を含むための容器を含み、前記容器が前記溶液に対して不活性である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のコロイド状金属が、銀、金、白金、スズ、鉛、銅、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、ニッケルまたはカドミウムである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記非コロイド状金属が、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、スズ、鉛、ニッケルまたは銅である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
さらにエネルギー源を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記エネルギー源がヒータである、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記エネルギー源が光源である、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記エネルギー源が、前記溶液と電気的に接触しているアノードとカソードの間に印加される電位である、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
さらにアノードおよびカソードを含み、前記アノードおよびカソードが前記溶液と接触しており、電位が前記アノードとカソードの間に存在する、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
酸を含む溶液であって、前記酸が、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸または塩素酸である溶液と、
前記溶液中に懸濁させた第1のコロイド状金属と、
非コロイド状金属と
を含む水素を生成する装置。
【請求項15】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が低い、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が高い、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
さらに前記溶液中に懸濁させた第2のコロイド状金属を含む、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記第2のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が高い、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
さらに前記溶液を含むための容器を含み、前記容器が前記溶液に対して不活性である、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
さらにエネルギー源を含む、請求項14に記載の装置。
【請求項21】
第1のコロイド状金属をpH7未満の溶液中に懸濁させるステップと、
非コロイド状金属を前記懸濁液中に導入するステップと
を含む水素を生成する方法。
【請求項22】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が低い、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のコロイド状金属が前記非コロイド状金属より反応性が高い、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
さらに第2のコロイド状金属を前記溶液中に導入するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
さらにエネルギーを前記溶液に供給するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
さらに酸素ガスを生成するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
さらに前記非コロイド状金属を酸化することおよび還元することをともに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
pH7未満の溶液と、
前記溶液中に少なくとも一部分は沈められ、第1の金属1立方メートルあたり少なくとも298,000,000mの表面積を有する第1の金属と、
前記溶液中に少なくとも一部分は沈められた第2の金属と
を含む水素を生成する装置。
【請求項29】
前記第2の金属が前記第1の金属より反応性が高い、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記第2の金属が前記第1の金属より反応性が低い、請求項28に記載の装置。
【請求項31】
さらに第3の金属を含み、前記第3の金属が、第3の金属1立方メートルあたり少なくとも298,000,000mの表面積を有する、請求項28に記載の装置。
【請求項32】
pH7未満の溶液であって、前記溶液が金属のカチオンを含む溶液と、
前記溶液中に懸濁させた第1のコロイド状金属と
を含む水素を生成する装置。
【請求項33】
前記第1のコロイド状金属が前記金属カチオンより反応性が低い、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
前記第1のコロイド状金属が前記金属カチオンより反応性が高い、請求項32に記載の装置。
【請求項35】
さらに前記溶液中に懸濁させた第2のコロイド状金属を含む、請求項32に記載の装置。
【請求項36】
前記第1のコロイド状金属が前記金属カチオンより反応性が低く、前記第2のコロイド状金属が前記金属カチオンより反応性が高い、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
さらにエネルギー源を含む、請求項32に記載の装置。
【請求項38】
pH7未満の溶液と、
前記溶液中に懸濁させた第1のコロイド状金属と、
金属イオンと
を含む水素を生成する装置。
【請求項39】
前記第1のコロイド状金属が前記金属イオンより反応性が低い、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
前記第1のコロイド状金属が前記金属イオンより反応性が高い、請求項38に記載の装置。
【請求項41】
さらに前記溶液中に懸濁させた第2のコロイド状金属を含む、請求項38に記載の装置。
【請求項42】
前記第1のコロイド状金属が前記金属イオンより反応性が低く、前記第2のコロイド状金属が前記金属イオンより反応性が高い、請求項41に記載の装置。
【請求項43】
さらに前記溶液を含むための容器を含み、前記容器が前記溶液に対して不活性である、請求項38に記載の装置。
【請求項44】
前記第1のコロイド状金属が、銀、金、白金、スズ、鉛、銅、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、ニッケルまたはカドミウムである、請求項38に記載の装置。
【請求項45】
前記第2のコロイド状金属が、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウムまたはリチウムである、請求項41に記載の装置。
【請求項46】
前記金属イオンが、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、スズ、鉛、ニッケルまたは銅である、請求項38に記載の装置。
【請求項47】
さらにアノードとカソードを含み、前記アノードとカソードが前記溶液と電気的に接触しており、前記アノードとカソードの間に電位が存在する、請求項38に記載の装置。
【請求項48】
さらに固体の金属を含む、請求項38に記載の装置。
【請求項49】
さらにエネルギー源を含む、請求項38に記載の装置。
【請求項50】
a.)第1のコロイド状金属をpH7未満の溶液中に懸濁させるステップと、
b.)金属イオンを前記懸濁液中に導入するステップと
を含む水素を生成する方法。
【請求項51】
さらに前記金属イオンを還元して、固体の金属を生成するステップを含む、請求項50に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−502769(P2007−502769A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523981(P2006−523981)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026681
【国際公開番号】WO2005/018559
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506054718)
【Fターム(参考)】