説明

水素を製造するための方法及びシステム並びに電力を製造するためのシステム

アンモニアボランを用いて水素を製造するための方法及びシステムをここに提供する。アンモニアボランは高い水素密度を有するが、安定で貯蔵も容易である。アンモニアボランは、過酸化水素と水の混合物のような強力酸化剤と発熱反応しうる。アンモニアボランと強力酸化剤との間の反応は自発的に起こり、熱を発生する。アンモニアボランと強力酸化剤間の発熱反応中に発生した熱を用いて未反応アンモニアボランをそれに暴露し、熱分解することができる。熱は、熱を保持できる材料を含む容器又はリアクター中で反応を実施することによって保持することができる。アンモニアボランと過酸化水素との反応及び未反応アンモニアボランの熱分解から高い重量水素収率が得られる。当該方法及びシステムを用いる水素の製造により、少なくとも約10%という高い重量水素含有量が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本願は、2008年10月31日出願の米国仮特許出願第61/110,354号“水素を製造するための方法及びシステム並びに電力を製造するためのシステム”に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明の態様は、一般的に水素を製造するため及び電力を製造するための方法及びシステムに関し、さらに詳しくは、アンモニアボランを使用する高収率、高純度の水素製造に関する。
【背景技術】
【0003】
水素は、酸素と反応してエネルギーを放出し、唯一の副産物は水であるので、重要なエネルギー源である。水素は、燃料電池又は燃焼機関などの水素消費装置中で酸素と反応してエネルギーと水を製造することができるため、しばしば“クリーン燃料”と称される非二酸化炭素系の再生可能燃料として重要性を増しつつある。その結果、水素を燃料として効果的に使用することで、石油系燃料の使用に随伴する多くの環境問題が解決される。従って、水素ガスの安全で効率的な貯蔵が、水素を使用できる多数の用途にとって不可欠である。特に、水素貯蔵の体積と重量を最小化することは、ポータブルの水素製造及び発電にとって重要である。
【0004】
現在いくつかの水素貯蔵法が存在するが、広範囲にわたる消費者用途に不適切であるか又は非実用的である。例えば、水素は極低温で液体形で貯蔵できる。しかしながら、液体貯蔵は、1リットルあたり約70グラムの水素という体積密度になるので、ポータブルの水素製造及び発電にとって十分量の水素を提供しない。さらに、水素の液化に消費されるエネルギーは、得られた水素から得られるエネルギーの約30%になる。最終的に、液体水素は、ほとんどの消費者用途にとって安全でも実用的でもない。
【0005】
水素を貯蔵する化合物も高容量水素源として可能性を示している。しかしながら、そのような化合物も、それらが貯蔵できる水素の量及びそれらの重量によって制限されうる。アンモニアボラン(HNBH)は、相当パーセントの水素(約19.6重量パーセント)を含有する低分子量固体水素貯蔵物質である。室温でアンモニアボランは白色結晶性固体で、水中でも空気中でも安定である。アンモニアボランから水素を製造する最も効率的な手段は熱分解又はサーモリシス(thermolysis)によるものであるが、このプロセスの実施を困難にするいくつかの問題がある。具体的には、アンモニアボランは85℃を超える温度で分解を始めうるが、アンモニアボランに含有されている相当量の水素を放出させるにはより高温が必要である。アンモニアボランの熱分解の総体的プロセスは発熱性であるが、反応を開始するには熱が必要となる。さらに、アンモニアボランの熱分解は、従来型燃料電池を発電中に汚染しうるボラジンのような望ましくない副産物の形成をもたらしうる競合反応を伴う。従って、アンモニアボランの効率的かつ実用的な使用を提供するために克服しなければならない多くの課題が残されている。
【0006】
アンモニアボランの熱分解に付随する課題のために、現在の研究の多くは、ナトリウムアミドボラン(NaNHBH)及び水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)のようなその誘導体にシフトしている。残念なことに、そのような誘導体は、アンモニアボランと比べて実質的に低い重量(gravimetric)水素濃度しか持たない。
【発明の概要】
【0007】
上記に鑑み、当該技術分野では、発電及びその他の用途用の水素を製造するための方法及びシステムが求められている。
一部の態様において、本発明は水素の製造に使用されうる方法を含む。該方法は、アンモニアボランを酸化剤と反応させて水素及び熱を製造することを含みうる。酸化剤は、体積比約30:70〜約90:10の過酸化水素と水の混合物を含みうる。アンモニアボランの酸化剤に対する比率は約0.4〜約1.2であろう。アンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した一定量の熱は保持され、未反応アンモニアボランの少なくとも一部を分解するのに利用され、更なる水素を製造することができる。酸化剤の量を制御すれば、85℃より高い温度に達する熱を製造することができる。
【0008】
更なる態様において、本発明は水素を製造するためのシステムを含む。該システムは、アンモニアボランと酸化剤を反応させて水素と熱を製造するように構成されたリアクターと、リアクター内に、アンモニアボランを貯蔵するため及びアンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した、未反応アンモニアボランを分解するのに足る量の熱を保持するために構成された設備(arrangement)とを含む。該設備は、セラミック材料を含むサンプル容器を含みうる。リアクターは、サンプル容器上に配置されたアパーチャを含みうる。アパーチャはアンモニアボランへの進入路(access)を提供する。
【0009】
更なる態様において、本発明は電力を製造するためのシステムを含む。該システムは、酸化剤とアンモニアボランを反応させて水素と熱を製造するためのリアクターを含む。該リアクターは、アンモニアボランを熱分解して更なる水素を製造するための熱を保持するように構成されている。該リアクターはさらに、水素を精製するための少なくとも一つの装置と、水素を電力に変換するための燃料電池のような一つの装置とを含む。
【0010】
本明細書では、本発明の態様と見なされることを特に指摘し明確に記載するために、例示的実例を使用しているが、本発明の利益は、以下の本発明の説明を添付の図面と合わせて読むと、さらに広く確認できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1Aは水素を製造するためのシステムの態様を示す簡易概略図である。
【図1B】図1Bは水素を製造するためのシステムの態様を示す簡易概略図である。
【図1C】図1Cは水素を製造するためのシステムの態様を示す簡易概略図である。
【図2】図2は、アンモニアボランと過酸化水素の反応に使用された酸化剤対燃料比の関数として得られた水素の重量パーセンテージ(wt%)を示すプロットである。
【図3】図3は、過酸化水素を酸化剤としてアンモニアボランに導入したときの水素の重量パーセンテージ(wt%)の増大を示すプロットである。
【図4】図4は、様々な比率の酸化剤とアンモニアボランを反応させることによって得られた理論的水素パーセンテージを示すプロットである。酸化剤は、水と過酸化水素の1:1の比率(50体積%の過酸化水素)及び20:7の比率(35体積%の過酸化水素)の混合物を含む。
【図5】図5は、様々な材料を含む本発明のリアクター内で実施された、一定の酸化剤対燃料比で生成した水素のパーセンテージの変動を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水素を製造するための方法及びシステム、並びに電力を製造するためのシステムを提供する。当該方法及びシステムは、水素を製造するために、アンモニアボランのような水素貯蔵化合物と酸化剤との間の反応を利用しうる。非制限的例を挙げると、酸化剤は水と過酸化水素の混合物を含みうる。アンモニアボランと過酸化水素との間の反応は発熱性であるので、制御すれば外部熱源なしにアンモニアボランを分解するための十分な熱を製造できる。アンモニアボランと過酸化水素の発熱反応を利用して、水素と、アンモニアボランを熱分解するための熱とを製造することにより、アンモニアボランは、水素の高い重量及び体積密度源として安全に効率的に利用することができる。非制限的例として、水素は、アンモニアボランとして貯蔵でき、アンモニアボランと酸化剤との反応及びアンモニアボランの熱分解によって放出されうる。一部の態様において、酸化剤は過酸化水素と水の混合物を含む溶液でありうる。これを必要に応じてアンモニアボランに導入すれば、水素と、未反応アンモニアボランの少なくとも一部の分解を開始させるための十分な熱とが製造できる。生成した水素を精製すれば、例えば燃料電池を用いる発電に適したものにすることができる。
【0013】
水素の製造法は、アンモニアボランを過酸化水素のような酸化剤と反応させることを含む。一部の態様において、アンモニアボランは、金属、金属水素化物、又はそれらの組合せと混合されていてもよい。例えば、酸化剤は過酸化水素と水の混合物を含み得、これをアンモニアボランと反応させて水素と熱を製造することができる。アンモニアボランと過酸化水素は、反応1aに従って反応し、水素を製造できる。
【0014】
4HNBH+3H→15H+2N+2B (反応1a)
水素は、反応1bに従って、アンモニアボランと水との間の反応によって製造できる。
NBH+3HO→3H+NH+HBO (反応1b)
さらに、アンモニアボランは、アルミニウム又はマグネシウムのような金属、又は金属水素化物と混合することもできる。本明細書において“金属水素化物”という用語は、金属と水素を含む任意の化合物、例えば水素化マグネシウム(MgH)、水素化リチウム(LiH)、水素化ナトリウム(NaH)、水素化カリウム(KH)及び水素化チタン(TiH)を意味し、含むものとする。更なる水素が、金属水素化物と、過酸化水素と水の混合物に由来する水との反応によって製造されうる。
【0015】
アンモニアボランと過酸化水素間の反応(反応1a)中に生成した熱を使用して、未反応アンモニアボランを熱分解することができる。未反応アンモニアボランは、反応2a〜2dに従って熱分解されうる。
【0016】
NBH→3H+BN (反応2a)
NBH→H+HNBH (反応2b)
NBH→H+HNBH (反応2c)
HNBH→H+BN (反応2d)
所望により、アンモニアボランと酸化剤との反応を容易にするために触媒を使用してもよい。本明細書において“触媒”という用語は、未反応アンモニアボランと過酸化水素のような化学反応を開始又は加速することができる物質を意味し、含むものとする。触媒は、例えば第二鉄触媒(すなわち酸化鉄(III)(Fe))、炭素担持金属触媒、貴金属触媒、酸化マンガン(MnO)、酸化ネオジム(Nd)、ルテニウム、又はそれらの組合せなどでありうる。
【0017】
アンモニアボランと酸化剤との反応プロセス中並びにアンモニアボランの熱分解によって製造された水素は、精製してアンモニアなどの反応の副産物を除去することができる。
未反応アンモニアボランの加水分解は、反応中に溶液のpHを調整することによってさらに増大されうる。非制限的例を挙げると、酸化剤が過酸化水素と水の混合物の場合、混合物のpHを調整すれば、未反応アンモニアボランの加水分解速度を制御することができる。触媒の使用又はpHの調整によって未反応アンモニアボランの加水分解を増大させると、水素収率の増大が促進できる。
【0018】
水素を製造するためのシステムは、アンモニアボランと酸化剤を反応させるためのリアクターを含む。さらに、該システムは、酸化剤をアンモニアボランに、所望の水素生産量を製造するため及び未反応アンモニアボランの熱分解を開始するのに足る熱を発生させるために十分な量で導入するための設備(arrangement)も含みうる。例えば、該リアクターは、アンモニアボランを貯蔵するためのサンプル容器と、水と過酸化水素の混合物のような酸化剤をアンモニアボランに導入するための入口とを含みうる。リアクターに導入される酸化剤の量は、所望量の水素及び熱を製造するために制御できる。アンモニアボランと過酸化水素のような酸化剤との反応、及び未反応アンモニアボランの熱分解から誘導される高重量水素収率は、既存システムに優る利益を提供する。具体的には、未反応アンモニアボランの熱分解を開始させるための熱を創出しながら水素を製造する酸化剤の使用は、クリーンで高純度の水素源を提供する。該システムは、少量のアンモニアボランを用いて水素を製造することを可能にするので、ポータブルなシステムを提供しつつ、望まざる副産物の生成も実質的に削減する。水素製造コンポーネント及び水素を電気エネルギーに変換するための燃料電池を含む発電システムも提供する。アンモニアボランの高い水素密度は、高い重量及び体積エネルギー密度を提供する。
【0019】
水素を製造するためのシステム100の態様例を、図1Aに図示された簡易概略図に示す。システム100は、リアクター102などの装置を含む。これは、未反応アンモニアボランを貯蔵するためのハウジング(図示せず)を形成又は包含しうるが、これについては以下でさらに詳細に説明する。非制限的例として、リアクター102は、ボディ104、カバー106、及び酸化剤をアンモニアボランに導入するためのアパーチャ110を含みうる。アパーチャ110は、例えば、カバー106に配置され、シリンジのような器具(図示せず)をリアクター102に挿入して酸化剤をその中に含有されているアンモニアボランに注入できるようなサイズ及び構成にされうる。非制限的例を挙げると、酸化剤は、過酸化水素、過塩素酸アンモニア、過マンガン酸アンモニウム、過酸化バリウム、臭素、塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、三フッ化塩素、クロム酸、三酸化クロム、過酸化ジベンゾイル、三酸化二窒素、フッ素、過酸化マグネシウム、過塩素酸、ピクリン酸、臭素酸カリウム、塩素酸カリウム、過酸化カリウム、硝酸プロピル、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、及びそれらの混合物などでありうる。
【0020】
リアクター102はさらに、リアクター102にガスを導入するため及びリアクター102からガスをパージするための入口112、並びにリアクター102内の圧力を軽減するための出口114を含みうる。例えば、酸化剤をリアクター102内のアンモニアボランに導入する前に、リアクター102は、ヘリウムなどの不活性ガスを入口112からリアクター102に導入することによって、また不活性ガスの少なくとも一部をバルブ114から放出することによって約1回〜約5回フラッシュ又はパージされうる。さらに、リアクター102は、アンモニアボランと酸化剤間の反応を開始する前に、所望量の不活性ガスを入口112からリアクター102に導入することによってわずかに加圧されうる。入口112は、リアクター102へのガスの導入を制御できるバルブ116を含みうる。
【0021】
リアクター102内のアンモニアボランに酸化剤が導入されると、水素及び熱が製造されうる。その熱によってリアクター102内の未反応アンモニアボランの熱分解がもたらされ、更なる水素が製造される。アンモニアボランと酸化剤間の反応によって及びアンモニアボランの熱分解によって製造された水素はリアクター102内で回収され、該水素をバルブ118を通じてリアクターから送り出すことによって必要に応じて利用されうる。反応プロセスの結果としてリアクター102に蓄積する圧力は圧力計117を用いてモニターでき、圧力放出バルブ108を用いて放出できる。システム100は、リアクター102及びその他の装置がそれらの設計限界を超過する圧力に曝されないように保護するために、所定の圧力で開くようにセットされた圧力安全逃し弁108も含みうる。
【0022】
システム100はさらに、水素ガスをリアクター102から放出する前、放出時又は放出後に精製するための装置(図示せず)も含みうる。該装置は、アンモニアボランと酸化剤の反応中に生成し、発電に悪影響を及ぼしうる副産物、例えばアンモニア又はその他の窒素含有副産物を水素から除去するために使用されうる。該装置は、ガスの精製又は分離用として当該技術分野で公知の任意の装置(device)又は設備(arrangement)でよい。非制限的例を挙げると、該装置は、膜又は吸収ガス精製システム(absorbance gas purification system)であろう。ガスから副産物を除去することによって、燃料電池及びその他の用途に使用するのに十分な純度を有する水素ストリームを得ることができる。
【0023】
リアクター102はさらに、アンモニアボランを保持又は貯蔵するために構成された、スタンド120のような設備も含みうる。この詳細は図1Bに示されている。スタンド120は、ベース124に固定されたサンプル容器122、及び所望によりそれらの間に配置されたシャフト126を含みうる。サンプル容器122は、アンモニアボランと酸化剤の反応に適した任意の材料、例えば金属から形成でき、アンモニアボランを保持するためにその中に形成された、破線で示されたキャビティ128を含みうる。非制限的例を挙げると、キャビティ128は、サンプル容器122内に、約5ミリメートル(5mm)〜約20ミリメートル(20mm)のD1の深さで入り込んでいる。キャビティ128は、反応中に生成した熱を保持することができる(すなわち低い熱伝導率を有する)材料、例えばセラミック材料から形成されるか又はそれで内張りすることができる。特別の非制限的例として、サンプル容器122はステンレススチールを含み、キャビティ128はアルミナ、ジルコニア、又はそれらの組合せで内張りされうる。
【0024】
スタンド120は、図1Cに示されているように、リアクター102内に配置されるようなサイズ及び構成にされうる。図1Cは、スタンド120をその中に有するリアクター102の部分断面図である。サンプル容器122は、アパーチャ110から導入された酸化剤がキャビティ128に貯蔵されているアンモニアボランと容易に接触できるように、アパーチャ110と一直線上に配列されうる。非制限的例として、酸化剤は、アパーチャ110からリアクター102に挿入されうるシリンジ(図示せず)によってリアクター102に導入されうる。
【0025】
非制限的例を挙げると、サンプル容器122中のアンモニアボランに導入される酸化剤は、過酸化水素又は過酸化水素と水の約3:7〜約10:0、特に約1:1の比率の混合物(すなわち“50%過酸化水素”)を含みうる。アンモニアボランは、例えば粉末材料、粒状材料又はスラリーとして供給できる。アンモニアボランと酸化剤の接触は、水素と熱を製造するためのアンモニアボランと酸化剤間の反応を開始できる。例えば、アンモニアボランを過酸化水素と水の混合物と反応させると、上に示した反応1a及び1bに従って水素が製造される。
【0026】
アンモニアボランと過酸化水素間の総体的反応(反応1a)は発熱性なので、酸化剤の導入を通じて反応を制御すると、リアクター102内の未反応アンモニアボランの熱分解を開始するのに足る量の熱を製造できる。リアクター102内での発熱は、例えば熱電対119(図1A)を用いてモニターできる。例えば、酸化剤は1:1の比率の水と過酸化水素を含む溶液であり得、リアクター102に、酸化剤対アンモニアボランの比率(すなわち“酸化剤−燃料比”)が約4/10(0.4)〜約1と2/10(1.2)、特に約6/10(0.6)〜約8/10(0.8)になるように導入されうる。アンモニアボランと酸化剤との反応によってリアクター102内部に十分な熱が生成すると、未反応アンモニアボランは、上に示した反応2a〜2dに従って熱分解し始め、更なる水素を製造できる。
【0027】
アンモニアボランの熱分解は、リアクター102内の温度が約摂氏85度(85℃)〜約摂氏150度(150℃)の間、特に約摂氏110度(110℃)に達すると起こり始めるであろう。このように、アンモニアボランと過酸化水素の発熱反応によって生じた熱は、触媒又は外部熱源の不在下で水素製造をもたらす。リアクター102内でアンモニアボランと接触する酸化剤の量は、アンモニアボランを熱分解するための所望温度に到達するように制御することができる。
【0028】
アンモニアボランの熱分解は、実質的に増大した水素収率(すなわち全質量あたりの水素の質量分率)を提供し、ひいてはリアクター102の水素製造能力を増大する。
図1Aに示されたシステム100は、固体高分子形燃料電池(PEMFC)又は固体酸化物形燃料電池(SOFC)などの一つ又は複数の燃料電池(図示せず)と統合して、エネルギーを製造するためのシステムを形成することができる。システム100を用いて製造された水素は、適切な配管を用いて燃料電池のアノードに導入できる。アノードで水素は電子を生じ、これが外部回路を通ってカソードに向かって移動し、電流を生み出す。
【0029】
以下の実施例は、本発明の態様をより詳細に示すために提供される。これらの実施例は、本発明の範囲に関して包括的又は排他的と解釈されるべきでない。
【実施例】
【0030】
実施例1
RTI International(ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パーク)又はAldrich Chemical Company,Inc.(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から市販されているアンモニアボラン粉末を約1mg〜約30mgの範囲の量でステンレススチール又はセラミック皿に量り取り、0.20Lのステンレススチール製リアクター内で約1μL〜約30μLの酸化剤と反応させた。酸化剤は、過酸化水素と水の1:1の比率の混合物(すなわち50%過酸化水素)を含んでいた。
【0031】
図1A〜1Cに示されたシステム100と類似又は同一のシステムで、約22mgのアンモニアボラン粉末を様々な量の50%過酸化水素と反応させた。反応は、50%過酸化水素の対アンモニアボラン比率、約6/10(0.6)〜約1と3/10(1.3)を用いて実施した。これにより約5wt%〜約9wt%の水素パーセンテージが提供された。
【0032】
反応中、リアクター内の温度は約100℃で、これはアンモニアボランの熱分解が起こる温度範囲内(約85℃〜約150℃)であった。ガスクロマトグラフィーを用いてリアクター内部のガスを分析し、アンモニアボランと、1:1の体積比の水と過酸化水素を含む酸化剤との間の反応から得られる水素収率(wt%)を決定した。様々な比率の酸化剤対アンモニアボランを用いて得られた水素収率を図2に示す。図2に示されているように、水素収率は、酸化剤のアンモニアボランに対する比率が増大するにつれて減少した。
【0033】
アンモニアボランを酸化剤と反応させた後、白色残渣がリアクターの内部表面上に撒き散らされていた。FTIR(フーリエ変換赤外)分光法を用いてその白色残渣を分析したところ、アンモニアボラン及びその他のボラン化合物の特徴的シグナルを示した。理論に拘束されることは望まないが、リアクター内のアンモニアボランの微細分散は、未反応アンモニアボランの一部が、アンモニアボランと過酸化水素の急激な発熱反応のために、反応中にサンプル容器から吐出されたことを示していると考えられる。
【0034】
図2に示されているように、約6/10(0.6)という酸化剤対アンモニアボランの重量比を使用すると最大の水素収率が提供される。さらに、酸化剤の量の増加は水素収率を低下させうることも示されている。理論に拘束されることは望まないが、酸化剤の量の増加は、酸化剤と反応する前にサンプルホルダーから吐出されるアンモニアボランの量を増やすと考えられる。速い反応も、未反応アンモニアボランの効率的な熱分解を妨害しうる。
【0035】
図3は、50%過酸化水素を注入後の水素製造の増大を示す。約11μLの50%過酸化水素を22mgのアンモニアボランに約ゼロ分時に手動添加した。このOF比は約6/10(0.6)となる。図3に示されているように、50%過酸化水素を添加すると、短い導入時間後、製造された水素の重量パーセンテージは劇的に増大し、50%過酸化水素が効率的にアンモニアボランと反応し、水素を放出することを示している。
【0036】
このように、反応は、触媒又は外部熱源、例えばイグナイター(igniter)の必要なしに、高い重量水素収率をもたらした。結果に基づくと、アンモニアボランと過酸化水素の反応は、オンデマンドの水素貯蔵及び製造システムの適切な候補である。反応は発熱性で、低い化学量論的比率の過酸化水素対アンモニアボラン(すなわちOF比)で約10重量パーセント(10%)の水素製造を提供する。高い重量水素収率は、アンモニアボランと過酸化水素の反応及び未反応アンモニアボランの熱分解に由来するものであろう。本明細書中に記載の、アンモニアボランと過酸化水素の反応に基づくシステムは、従来の水素製造システムに優るいくつかの利点を提供できる。例えば、システムは、アンモニアボランの熱分解を開始するためのイグナイター、化学的熱源、又は触媒を必要としないので、望まざる副産物を生成しない。さらに、当該システムは、水素化ホウ素ナトリウムと水の触媒反応に基づくシステムのような従来システム(約4wt%)に比べて、実質的に増大した水素の重量含有量を提供する。
【0037】
実施例2
アンモニアボランと、水と過酸化水素を1:1の比率(50体積%の過酸化水素)及び20:7の比率(35体積%の過酸化水素)で含む酸化剤との反応によって製造される水素の重量パーセントの理論的結果を、NASA(ワシントンDC)から入手できるコンピュータプログラムChemical Equilibrium with Applicationsを実行して得た。理論的水素重量パーセンテージは、約0.1〜約2.58の酸化剤対アンモニアボラン比(“OF比”)を用いて作成された。Chemical Equilibrium with Applicationプログラムを用いて作成された理論的水素重量パーセンテージ(wt%)を図4に示す。
【0038】
ある条件下において、アンモニアボラン、水及び過酸化水素の反応は18%を超える水素の質量分率を提供しうる。アンモニアボランの熱分解は、アンモニアボランと水及び過酸化水素との反応に比べて実質的に増大された水素収率をもたらしうる。アンモニアボランを過酸化水素のような強力酸化剤と反応させることによって生じた熱を利用してアンモニアボランの熱分解を開始及び持続させることは、実質的に増大された水素収率を提供しうる。
【0039】
実施例3
RTI International(ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パーク)又はAldrich Chemical(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から市販されている約22mgのアンモニアボラン粉末を、図1A〜1Cに示されたリアクターと類似又は同一システムのリアクターに入れた。50%過酸化水素溶液をリアクターに手動注入して、過酸化水素をアンモニアボランに導入した。
【0040】
図5は、50%過酸化水素をアンモニアボランと反応させて製造された水素の重量パーセンテージ(wt%)を示すプロットである。反応は、50%過酸化水素対アンモニアボラン比(“OF比”)約0.8を用いて実施された。3種類のサンプル容器を用いて反応を実施した。一つは、セラミックの胴部とステンレススチールの蓋を含み(図5では●で表されている)、もう一つはセラミックの胴部(又は“皿(pan)”)とセラミックの蓋を含み(図5では△で表されている)、三つ目はステンレススチールの胴部とステンレススチールの蓋を含む(図5では×で表されている)。図5に示されているように、水素収率は、セラミックの胴部とセラミックのカバーを有するリアクターでアンモニアボランと過酸化水素及び水とを反応させることによって実質的に増大した。何らかの特定の理論に拘束されることは望まないが、アンモニアボランと過酸化水素の発熱反応中に生成する熱を保持するセラミック材料の能力が、水素密度の高いアンモニアボランの熱分解を促進すると考えられる。従って、低い熱伝導率を有する材料を含むリアクター内での反応の実施が水素収率を実質的に増大し、最大の総体的システム効率を提供しうる。
【0041】
本発明は様々な変更及び代替形が可能であるが、特定の態様を例として図面中に示し、本明細書中で詳細に説明してきた。しかしながら、本発明は開示された特定の形態に制限されないことは理解されるはずである。それどころか、本発明は、当業者が考えうるあらゆる変更、変形及び代替も包含する。
【符号の説明】
【0042】
100 システム
102 リアクター
104 ボディ
106 カバー
108 圧力放出バルブ(圧力安全逃し弁)
110 アパーチャ
112 入口
114 出口(バルブ)
116 バルブ
117 圧力計
118 バルブ
119 熱電対
120 スタンド
122 サンプル容器
124 ベース
126 シャフト
128 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の製造法であって、
アンモニアボランを酸化剤と反応させて水素と熱を製造し;そして
未反応アンモニアボランを、アンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した熱に暴露して未反応アンモニアボランの少なくとも一部を分解し、更なる水素を製造することを含む方法。
【請求項2】
アンモニアボランと酸化剤との反応が、アンモニアボランの一部を、過酸化水素と水の混合物を含む酸化剤と反応させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンモニアボランの一部と、過酸化水素と水の混合物を含む酸化剤との反応が、アンモニアボランを、体積比約30:70〜約90:10の過酸化水素と水の混合物と反応させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アンモニアボランと、体積比約30:70〜約90:10の過酸化水素と水の混合物との反応が、約0.4〜約1.2の比率の過酸化水素と水の混合物対アンモニアボランを反応させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アンモニアボランを酸化剤と反応させて水素と熱を製造することが、アンモニアボランに導入される酸化剤の量を制御して約85℃より高い温度に到達させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
未反応アンモニアボランの熱への暴露が、アンモニアボランと酸化剤との反応と同時に起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
水素の製造法であって、
酸化剤をアンモニアボランと反応させて水素と熱を製造し;そして
アンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した熱を保持して、未反応アンモニアボランの少なくとも一部を熱分解し、更なる水素を製造することを含む方法。
【請求項8】
酸化剤とアンモニアボランとの反応が、水と過酸化水素の混合物をリアクター内のアンモニアボラン粉末に注入することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酸化剤とアンモニアボランとの反応が、酸化剤をリアクター内のアンモニアボランと、約85℃より高い温度に達する熱を生成するのに足る量で反応させることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
アンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した熱を保持して未反応アンモニアボランの少なくとも一部を熱分解することが、セラミックリアクター内の未反応アンモニアボランの少なくとも一部を分解することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
酸化剤とアンモニアボランとの反応によって製造された水素と、未反応アンモニアボランの少なくとも一部の熱分解によって製造された更なる水素を回収することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
水素製造を増大させるために、酸化剤をアンモニアボランと反応させる前にアンモニアボランを金属又は金属水素化物の少なくとも一つと混合することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
未反応アンモニアボランの水による加水分解による水素製造を制御するために、酸化剤とアンモニアボランとの反応中にpHを調整することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
水素を製造するためのシステムであって、
アンモニアボランと酸化剤を反応させて水素と熱を製造するように構成されたリアクターと;そして
アンモニアボランを貯蔵するため及びアンモニアボランと酸化剤との反応によって生成した、未反応アンモニアボランを分解するのに足る量の熱を保持するために構成された設備とを含むシステム。
【請求項15】
設備が、ベースに取り付けられたサンプル容器を含み、前記サンプル容器は金属及びセラミック材料の少なくとも一つを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
リアクターがさらに、酸化剤を導入するためのアパーチャを含み、前記アパーチャは設備のサンプル容器上に配置されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
酸化剤を設備内に含有されているアンモニアボランに導入するように構成された器具をさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
酸化剤が水と過酸化水素の混合物を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
発生した水素のリアクターからの流出を制御するための出口をさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
水素から副産物を除去するための装置をさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項21】
電力を製造するためのシステムであって、
酸化剤とアンモニアボランを反応させて水素と熱を製造するためのリアクターであって、前記リアクターは、アンモニアボランを熱分解して更なる水素を製造するための熱を保持するように構成されたリアクターと;そして
水素を酸素と反応させて電力を製造するための少なくとも一つの装置とを含むシステム。
【請求項22】
リアクターが、アンモニアボランを貯蔵するためのセラミック製サンプル容器と、酸化剤をアンモニアボランに導入するように構成された設備とをさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
水素を酸素と反応させて電力を製造するための少なくとも一つの装置が、ガス精製システム及び燃料電池を含む、請求項21に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−507463(P2012−507463A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534610(P2011−534610)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/061171
【国際公開番号】WO2010/051178
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(598174370)アライアント・テクシステムズ・インコーポレーテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Alliant Techsystems Inc.
【Fターム(参考)】