説明

水素ガスセンサ

【課題】水素ガスセンサの故障を検知することができ、且つ簡易な構造を有する水素ガスセンサを提供すること。
【解決手段】本発明の水素ガスセンサ100は、熱電材料部2、熱電材料部2上に設けられた一対の電極4a、4b、及び熱電材料部2上に一対の電極のうちの一方の電極4a側に偏在して設けられ、水素の発熱反応を触媒する触媒部6を有する検知部10と、一対の電極4a、4b間に発生した電圧を測定する電圧測定部20と、熱電材料部2を挟んで触媒部6の反対側に位置する絶縁部22と、絶縁部22を挟んで熱電材料部2の反対側に位置し、熱電材料部2において一対の電極のうちの一方の電極4aが設けられた側と他方の電極4bが設けられた側との間に温度差が生じるように、絶縁部22を介して熱電材料部2を加熱する加熱部30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサ、より詳しくは、熱電式水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
雰囲気中の水素を検出する水素ガスセンサとして、熱電式水素ガスセンサは、消費電力が小さく、しかも安価であることから、例えば、燃料電池等の発電システム等に効率よく適用することができると期待されている。この熱電式水素ガスセンサは、熱電素子の一部分で水素による発熱反応を生じさせ、発熱反応が生じた部分と発熱反応が生じなかった部分との温度差に基づく起電力を発生させることによって水素の検出を行うものである。
【0003】
このような熱電式水素ガスセンサとしては、例えば、被検出ガスと接触して触媒反応を起こす触媒(触媒成分)と、この反応による局所的な温度差を電圧信号に変換する熱電変換材料膜を含む構成を有するものが知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−156461号公報
【特許文献2】特開2006−201100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した構成を有する従来の熱電式水素ガスセンサでは、触媒における反応による発熱を利用して熱電変換材料膜に温度差を発生させ、これにより起電力(電圧)を生じさせることが動作原理となる。
【0006】
このような水素ガスセンサでは、熱電変換材料膜、又は熱電変換材料膜に生じた起電力を測定する回路が故障(破損又は劣化)すると、水素による発熱反応が起こったとしても、水素が検知されない可能性がある。水素ガスセンサの故障によって水素ガスが検知されない場合、検知されない水素ガスが危険な事態を引き起こす可能性がある。したがって、水素ガスセンサには故障を検出する機能が要求される。
【0007】
しかしながら、水素ガスセンサの故障を検出する機能を水素ガスセンサに付与するためには、水素の反応熱に起因して熱電変換材料膜に生じた起電力を測定する機構とは別に、故障を検出するための機構を水素ガスセンサに具備させる必要がある。そのため、水素ガスセンサの構造が従来よりも複雑になり、水素ガスセンサの製造コストが増加することが問題となる。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、水素ガスセンサの故障を検知することができ、且つ簡易な構造を有する水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、水素ガスセンサの故障によって水素ガスが検知されない事態を防止し、水素ガスセンサの安全性を向上させるためには、水素ガスセンサが正常に作動することによって初めて発信が可能となる信号(以下、場合により「故障検出信号」と記す。)を水素ガスセンサから発信させ続けて、これを常時検出し、故障検出信号が途絶えることをもって水素ガスセンサの故障を検知するような機能(以下、場合により「故障検出機能」と記す。)を水素ガスセンサに付与すればよい、という知見を得て、本発明に至った。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の水素ガスセンサは、熱電材料部、熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び熱電材料部上に一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素の発熱反応を触媒する触媒部を有する検知部と、一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、熱電材料部を挟んで触媒部の反対側に位置する絶縁部と、絶縁部を挟んで熱電材料部の反対側に位置し、熱電材料部において一対の電極のうちの一方の電極が設けられた側と他方の電極が設けられた側との間に温度差が生じるように、絶縁部を介して熱電材料部を加熱する加熱部と、を備える。
【0011】
また、上記本発明の水素ガスセンサでは、熱電材料部が加熱部によって常時加熱され、一対の電極間に発生した電圧が電圧測定部によって常時測定され、水素の発熱反応によって触媒部が加熱されていない状態で、熱電材料部において一対の電極のうちの一方の電極が設けられた側と他方の電極が設けられた側との間の温度差が一定に維持され、一定に維持された温度差によって一対の電極間に発生する電圧(熱起電力)が電圧測定部で検出される。
【0012】
上記本発明の水素ガスセンサは、触媒部において水素の発熱反応を生じさせて熱を発生させることで、熱電材料部において触媒部に接触している部分とこれ以外の部分との温度差ΔTに基づく起電力V(電圧)を発生させ、この起電力を電圧測定部で測定することによって水素ガスを検出する熱電式水素ガスセンサである。起電力Vは次式(1)で表される。
V=αΔT・・・式(1)
なお、上記式(1)中、αは比例定数(ゼーベック係数)である。
【0013】
上記本発明では、水素ガスセンサが正常に作動し、且つ水素の発熱反応が触媒部で起こっていない場合(水素が検出されない場合)、加熱部によって熱電材料部が常時加熱されているため、熱電材料部において一対の電極のうちの一方の電極が設けられた側と他方の電極が設けられた側との間の温度差が一定の値ΔTに維持される。そのため、一対の電極間に発生する電圧も一定の値V(以下、場合により「水素未検出時電圧V」と記す。)に維持される。したがって、水素ガスセンサが正常に作動し、且つ水素の発熱反応が起こっていない場合は、電圧測定部において常に電圧V=αΔTが測定される。
【0014】
また上記本発明では、水素ガスセンサが故障すると、一対の電極間に熱起電力が発生しなかったり、熱起電力が電圧測定部で測定されなかったりする。すなわち、水素ガスセンサが故障した場合、電圧測定部で電圧Vが測定されなくなる。
【0015】
以上のように、上記本発明では、一対の電極間に発生する電圧(熱起電力)を電圧測定部によって常時測定し、一対の電極間に発生する電圧が電圧Vであるか否かを常時監視することによって、水素ガスセンサの故障を検知することが可能となる。すなわち、上記本発明では、水素が検出されない状態で一対の電極間に発生する水素未検出時電圧Vが故障検出信号となる。
【0016】
また上記本発明では、水素ガスセンサが正常に作動し、且つ触媒部において水素の発熱反応が起こった場合、触媒部で発生した反応熱が、熱電材料部において触媒部に接触している部分を加熱するため、熱電材料部において触媒部が偏在して設けられた側の電極が配置された部分と、別の電極が配置された部分との間の温度差ΔTがΔTより大きくなる。その結果、水素の発熱反応が起こった時に電圧測定部において測定される電圧(水素検出時電圧V=αΔT)は、電圧Vよりも大きくなる。水素検出時電圧Vと水素未検出時電圧Vとの電圧差ΔV=V−V=α(ΔT−ΔT)から、検知部において検出された水素ガスを定量することが可能となる。
【0017】
上述のように、上記本発明では、水素ガスセンサの故障を検知するための故障検出信号(水素未検出時電圧V)と、水素ガスを検出、定量するための信号(水素検出時電圧V)とを、共に一つの電圧測定部で測定することができる。したがって、本発明では、電圧測定部とは別に、故障検出信号の発信機構及び検出機構を水素ガスセンサに具備させる必要がなく、水素ガスセンサの構造が簡易となる。
【0018】
また、上記本発明では、加熱部が絶縁部を挟んで熱電材料部の反対側に位置するため、加熱部と熱電材料部とが直に接触しない。つまり、加熱部と熱電材料部とは、絶縁部によって電気的に絶縁している。そのため、加熱部(例えば電気抵抗)における電圧降下が、熱電材料部において一対の電極間に発生する熱起電力(水素検出時電圧V)に影響することがないため、水素ガスの検出、定量を正確に行うことができる。
【0019】
さらに、上記本発明では、加熱部で加熱された熱電材料部の熱が触媒部に伝導し、触媒部も加熱される。すなわち、触媒部は加熱部によって間接的に常時加熱される。そのため、触媒部の表面に吸着等した水蒸気由来の水分等を、触媒部表面から除去することができ、水分等の付着による触媒部の活性低下を防止して、触媒部が本来有している活性に応じた検出感度を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水素ガスセンサの故障を検知することができ、且つ簡易な構造を有する水素ガスセンサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略することとする。また、図面中に示す寸法及び位置関係は図示されたものに限定されない。
【0022】
<水素ガスセンサ100>
図1〜3は、本発明の一実施形態に係る水素ガスセンサ100の構成を示す概略図である。図1は、水素ガスセンサ100を検知部10側から見た上面図であり、図2は、水素ガスセンサ100を加熱部30側から見た下面図であり、図3は、図1の水素ガスセンサ100のIII−III線における断面図である。図1〜3に示すように、本実施形態の水素ガスセンサ100は、検知部10、電圧測定部20、及び加熱部30から構成される。なお、図1では、図示の便宜上、電圧測定部20を省略している。
【0023】
図3に示すように、検知部10は、熱電材料部2と、一対の電極4a、4bと、触媒部6と、を有する。
【0024】
一対の電極4a、4bは、熱電材料部2の一面上に、互いに離間するように設けられており、具体的には、熱電材料部2の長手方向における両端の辺に沿ってそれぞれ形成されている。これらの電極4a、4bは、熱電材料部2と外部回路等との接続を行う端子としての機能を有しており、金属等の導電性を有する材料によって構成される。
【0025】
触媒部6は、熱電材料部2の電極4a、4bと同じ側の面上に、一対の電極4a、4bのうちの一方の電極4a側に偏在して設けられている。この触媒部6は、水素ガスと空気中の酸素と反応させる触媒能を有する。触媒部6としては、例えば、触媒担持体に上記触媒能を有する触媒成分を担持させた構成を有するものが挙げられる。具体的には、触媒担持体が多孔質のアルミナからなり、これに触媒成分として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等を担持させたものである。触媒成分としては、特に白金を担持させたものが好適である。白金は、水素ガスによる反応を選択的に生じさせることができ、これが表面積の大きい多孔質の触媒担持体に担持されることで、触媒部6の表面上で効率よく反応が生じるようになる。より具体的な触媒部6としては、例えば、触媒担持体であるAlに対して、触媒成分として、0.2重量%のロジウムと1.0重量%の白金とを担持させたものを用いればよい。
【0026】
触媒部6は、上述のように一方の電極4a側に偏在して設けられているが、触媒部6が形成されていない側の電極4bからはできるだけ離れていることが好ましい。触媒部6が、電極4bから離れているほど、後述するような熱電材料部2における温度差(温度勾配)を大きくすることができ、より大きな起電力が得られる。ただし、触媒部6における発熱量との兼ね合いの観点から、触媒部6における反応を効率よく生じさせ、熱電材料部6に十分な温度差を与えることを可能とするために必要となる触媒部6の面積を確保した上で、触媒部6をできるだけ電極4a側に偏在させることが好ましい。
【0027】
触媒部6は、本実施形態では、電極4aを被覆しているが、電極4aを被覆しないように形成されていてもよい。触媒部6が電極4aを被覆しないように形成されている場合、触媒部6での発熱が電極4aを介しないで熱電材料部2に直接伝わるため、後述するような熱電材料部2における温度差(温度勾配)をより大きく生じさせることができる。
【0028】
また、触媒部6は、これが設けられている側の電極4aと接していなくてもよい。なお、本実施形態のように、触媒部6を電極4aと接するように設けることで、触媒部6と電極4aとが接しない場合に比べて、触媒部6と電極4bとの距離を大きくとることができ、熱電材料部2に生じる温度差(温度勾配)をより大きくし、電極4a、4b間で大きな起電力を得ることが可能となる。なお、触媒部6を電極4aと接触させるか否かは、所望とする水素ガスセンサの特性に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
電圧測定部20は、検知部10が有している一対の電極4a、4bに接続されており、電極4a、4b間の電圧を測定することができる。この電圧測定部20としては、検出される電圧に応じた公知の電圧計を適用することができる。
【0030】
熱電材料部2は、10〜500μm程度の厚みを有し、平面形状が長方形状である板状の部材である。本実施形態では、熱電材料部2の寸法は、例えば、長さが6mm程度、幅1mm程度、厚さ100μm程度である。この熱電材料部2は、局所的な温度差が生じるとゼーベック効果によって起電力が発生する性質(熱電変換能)を有する熱電材料から構成される。熱電材料としては、こ熱電変換能を十分に有しており、しかも、ガス等による抵抗や起電力の変化が少ないものが好ましい。例えば、BiTe系、PbTe系、FeSi系、SiGe系、スカッタルダイド系、ハーフホイスラー型金属間化合物系、コバルト層状化合物、金属酸化物系等の熱電材料が挙げられる。また、アルカリ金属をドープしたNiO系等も適用可能である。
【0031】
上述の熱電材料の中でも、微細な空孔を多数有する多孔形状熱電材料を用いることが好ましい。なお、多孔形状熱電材料が有する空孔の孔径は、0.1〜20μm程度である。多孔形状熱電材料としては、例えば、CaCo、NaCoO(xは例えば0<x<1.0を満たす任意の実数)等から成る熱電材料が挙げられる。これらの中でも、多孔形状熱電材料としては、CaCoからなる多孔形状熱電材料が好ましい。CaCoからなる多孔形状熱電材料を用いることによって、緻密な熱電材料を用いる場合に比べて、触媒部6で発生した熱を、熱電材料部2において触媒部6に接触している部分から、電極4bが設けられた部分へ伝導させ難くすることが可能となる。その結果、熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側の電極4aが配置された部分と、別の電極4bが配置された部分との間の温度差が大きくなり、両電極4a、4b間に発生する熱起電力が大きくなるため、水素ガスセンサ100の感度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0032】
CaCoは、結晶異方性の大きい物質であり、その結晶粒子は、結晶軸のc軸に垂直な面方向に長い板状の形状を有する。CaCoの抵抗率は10−5Ω・m程度、熱起電力は0.12mV・K−1程度、熱伝導率は2W・m−1・K−1程度であり、特にc軸に垂直な面方向において、CaCoの抵抗率が小さく、熱起電力が大きい。CaCoからなる多孔形状熱電材料は、例えば、CaCoの結晶粒子を、その結晶軸のc軸方向に多数積層し、プレスした後、焼成することによって得ることができる。
【0033】
CaCoからなる多孔形状熱電材料から構成した熱電材料部2では、CaCoの結晶粒子の結晶軸のc軸に垂直な面方向と、一対の電極4a、4bが対向する方向とが、略平行であることが好ましい。こうすれば、CaCoは結晶軸のc軸に垂直な面方向において、熱起電力が大きくなるので、電極4a、4b間での温度差及び熱起電力が大きくなり易くなり、その結果、水素ガスセンサ100の感度を更に向上させることができる。
【0034】
水素ガスセンサ100は、熱電材料部2を挟んで触媒部6の反対側に絶縁部(絶縁基板22)を備える。熱電材料部2は、絶縁基板22上に固定されている。絶縁基板22は、酸化アルミニウム等の絶縁材から構成される。絶縁基板22の寸法は、例えば、熱電材料部2の長手方向における長さが7mm、熱電材料部2の短手方向における長さが6mm、厚さが120μmである。
【0035】
加熱部30は、絶縁基板22を挟んで熱電材料部2の反対側に位置している。加熱部30は、ヒーター24(電気抵抗)と、ヒーター24の両端に接続された電源26とから構成される。電源26によってヒーター24に電圧が印加され、ヒーター24でジュール熱が発生する。ヒーター24は、絶縁基板22を挟んで、熱電材料部2全体と重なるように配置され、均一なパターンを有する。このようなヒーター24によって熱電材料部2全体が加熱される。ヒーター24は、例えば、ZnとAgとを60:100の重量比で含有する材料から構成される。
【0036】
加熱部30で加熱された熱電材料部2の熱は、触媒部6に伝導し、触媒部6も加熱される。すなわち、加熱部30によって触媒部6が間接的に加熱される。そのため、触媒部6の表面に吸着等した水分等を、触媒部6表面から除去することができ、水分等の付着によって触媒部6の活性が低下することを防止できる。そのため、触媒部6が本来有している活性に応じた水素の検出感度を得ることが可能となる。
【0037】
<水素ガスセンサ100の動作方法>
次に、水素ガスセンサ100の作動中、触媒部6において水素の発熱反応が起こっていない状態(水素未検出状態)と、水素ガスセンサ100の作動中、触媒部6において水素の発熱反応が起こっている状態(水素検出状態)との二つの状態における水素ガスセンサ100の動作方法について説明する。なお、水素ガスセンサ100では、水素未検出状態及び水素検出状態のいずれの状態においても、熱電材料部2が加熱部30によって常時加熱されると共に、一対の電極4a、4b間に発生する電圧(熱起電力)が電圧測定部20によって常時測定される。
【0038】
(水素未検出状態)
検知部10は、一対の電極4a、4bが並ぶ方向(熱電材料部2の長手方向)において非対称な構造を有する。そのため、水素の発熱反応によって触媒部6が加熱されていない状態では、熱電材料部2において一方の電極4aが設けられた側と他方の電極4bが設けられた側との間に、ヒーター24で発生するジュール熱に起因する温度差ΔTが生じる。ここで、電源26によってヒーター24に印加される電圧、及びヒーター24で発生するジュール熱は略一定であるため、温度差ΔTも略一定に維持される。したがって、熱電材料部2の熱電変換能によって一対の電極4a、4b間に発生する熱起電力も略一定の値V(=αΔT)に維持される。したがって、水素ガスセンサ100が正常に作動し、且つ触媒部6において水素の発熱反応が起こっていない状態では、電圧測定部20において常に略一定の電圧Vが測定される。なお、温度差ΔTは、一定であることが望ましいが、後述する電圧Vの測定に支障を来たさない範囲内で変動してもよい。
【0039】
一方、熱電材料部2が破断したり、電圧測定部20と電極40a、40bとの接続不良が生じたりして、水素ガスセンサ100が故障すると、一対の電極4a、4b間に熱起電力(電圧V)が発生しなかったり、熱起電力が電圧測定部10で測定されなかったりする。すなわち、水素ガスセンサ100が故障した状態では、電圧測定部10で電圧Vが測定されなくなる。
【0040】
以上のように、一対の電極4a、4b間で電圧Vが測定される状態では、水素ガスセンサ100は正常に作動しており、電圧Vが測定されない状態では、水素ガスセンサ100故障している可能性がある。このように、水素ガスセンサ100では、電圧Vが故障検出信号として機能し、電圧Vの有無によって水素ガスセンサ100の故障の有無を判別できる。
【0041】
(水素検出状態)
検知部10において、触媒部6に水素ガスが接触すると、触媒部6上で水素ガスと空気中の酸素との反応が発生する。この反応では、水素と酸素との反応によって水が生成するとともに反応熱が発生する。この反応熱により、熱電材料部2のうち触媒部6と接している部分(電極4a側)が加熱される。一方、触媒部6が設けられていない部分(電極4b側)は、上記反応が生じても加熱され難いため、反応前の温度を維持したままとなり易い。その結果、触媒部6で水素ガスの反応が生じると、熱電材料部2において触媒部6が偏在して設けられた側(電極4a側)と、別の電極4b側との間に、ΔTより大きな温度差ΔTが生じることになる。なお、ΔTは、触媒部における水素ガスと酸素との反応による反応熱の大きさに依存する変数である。換言すれば、ΔTは、触媒部6において酸素と反応した水素ガスの量に依存する変数である。
【0042】
温度差ΔTによって熱電材料部2に生じた熱起電力は、熱電材料部2の両端に設けられた一対の電極4a、4b間に、電圧Vより大きな電圧(電圧V=αΔT)を発生させる。この電圧Vが電圧測定部20で測定される。電圧Vと電圧Vとの電圧差ΔV=V−V=α(ΔT−ΔT)に基づいて、雰囲気中の水素ガスの濃度等を定量することができる。
【0043】
なお、電圧Vが電圧Vに比べて小さいほど、電圧差ΔVが大きくなるので、水素ガスの検出、定量がし易くなる。電圧Vを電圧Vに比べて小さくするためには、例えば、ヒーター24で発生させる熱量、又は熱電材料部2に対するヒーター24の配置を適宜調整すればよい。
【0044】
本実施形態では、水素ガスセンサ100の故障を検知するための故障検出信号(電圧V)と、水素ガスを検出、定量するための信号(電圧V)とを、共に一つの電圧測定部20で測定することができる。したがって、本実施形態では、電圧測定部20とは別に、故障検出信号の発信機構及び検出機構を水素ガスセンサ100に具備させる必要がないため、水素ガスセンサ100の構造が簡易となる。
【0045】
また、本実施形態では、加熱部30が絶縁基板22を挟んで熱電材料部2の反対側に位置するため、加熱部のヒーター24と熱電材料部2とが直に接触しない。つまり、ヒーター24と熱電材料部2とは、絶縁基板22を介して電気的に絶縁している。そのため、ヒーター24における電圧降下が、熱電材料部2に発生する熱起電力に影響することがないため、水素ガスの検出、定量を正確に行うことができる。
【0046】
以上、本実施形態の水素ガスセンサ100について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0047】
例えば、図4に示すように、加熱部30のヒーター24が、絶縁基板22を挟んで、検知部10のうち一方の電極4a側(触媒部6側)に偏在して配置されていてもよい。これにより、熱電材料部2のうち一方の電極4a側が局所的に加熱され、熱電材料部2において一方の電極4aが設けられた側と他方の電極4bが設けられた側との間において温度差ΔTが生じ易くなる。また、ヒーター24で発生した熱が触媒部6に伝導し易くなり、触媒部6の表面に吸着した水分等を、触媒部6表面から除去し易くなる。そのため、触媒部6が本来有している活性に応じた水素の検出感度を得易くなる。
【0048】
さらに、上述の実施形態において、水素ガスセンサ100における熱電材料部2は板状の形状を有するものとしたが、一対の電極4a、4b及び触媒部6を表面に配置できるものであれば、板状以外の形状を有していてもよい。また、電極4a、4bや触媒部6は、全てが熱電材料部2における同一面上に設けられていたが、例えば電極4a、4bのうち一方の電極のみが他の面に設けられていてもよい。
【0049】
また、熱電材料部2が多孔形状熱電材料から構成されている場合、多孔形状熱電材料の有する空孔に触媒部6を構成する触媒成分が担持されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素ガスセンサの構成を示す概略上面図である。
【図2】図1に示す水素ガスセンサを加熱部側から見た概略下面図である。
【図3】図1に示す水素ガスセンサを図1のIII−III線に沿って切断した場合の水素ガスセンサの模式断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る水素ガスセンサを加熱部側から見た概略下面図である。
【符号の説明】
【0051】
2・・・熱電材料部、4a、4b・・・電極、6・・・触媒部、10・・・検知部、20・・・電圧測定部、22・・・絶縁基板(絶縁部)、24・・・ヒーター、26・・・電源、30・・・加熱部、100、100a・・・水素ガスセンサ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電材料部、前記熱電材料部上に設けられた一対の電極、及び前記熱電材料部上に前記一対の電極のうちの一方の電極側に偏在して設けられ、水素の発熱反応を触媒する触媒部を有する検知部と、
前記一対の電極間に発生した電圧を測定する電圧測定部と、
前記熱電材料部を挟んで前記触媒部の反対側に位置する絶縁部と、
前記絶縁部を挟んで前記熱電材料部の反対側に位置し、前記熱電材料部において前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた側と他方の電極が設けられた側との間に温度差が生じるように、前記絶縁部を介して前記熱電材料部を加熱する加熱部と、
を備える水素ガスセンサ。
【請求項2】
前記熱電材料部が前記加熱部によって常時加熱され、
前記一対の電極間に発生した電圧が前記電圧測定部によって常時測定され、
前記水素の発熱反応によって前記触媒部が加熱されていない状態で、前記熱電材料部において前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた側と他方の電極が設けられた側との間の温度差が一定に維持され、
一定に維持された前記温度差によって前記一対の電極間に発生する電圧が前記電圧測定部で検出される、請求項1に記載の水素ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229114(P2009−229114A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71815(P2008−71815)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】