説明

水素ガス濃度検出器

【課題】呼気等の水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知することができる水素ガス濃度検出器を提供する。
【解決手段】被測定ガス中の炭化水素ガスを選択的に検知する炭化水素ガス検知部10と、被測定ガス中の水素ガスを検知する水素ガス検知部20と、被測定ガスに対する炭化水素ガス検知部の出力から実炭化水素ガス濃度を算出し、被測定ガスに対する水素ガス検知部の出力から仮想炭化水素ガス濃度を算出し、これらの差分炭化水素濃度を算出し、炭化水素ガス濃度を一定とし水素ガス濃度を変化させた複数のモデルガスを用いた時の差分炭化水素ガス濃度を算出し、モデルガスの水素ガス濃度に対する差分炭化水素ガス濃度の比から換算特性値を算出し、換算特性値と、被測定ガス中の前記差分炭化水素濃度とを乗じて被測定ガス中の実際の水素ガス濃度を算出する水素ガス濃度算出部5とを備えた水素ガス濃度検出器1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気等の被測定ガスに含まれる水素ガス濃度を検知する水素ガス濃度検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、呼気中のガス成分を分析して健康状態を診断する研究が進展している。例えば、腸内の嫌気性細菌の異常増殖や消化不良症候群等を診断する方法として、呼気中の水素ガス濃度をモニタすることが提案されている。そこで、このような診断に有用な装置として、酸化タングステンを水素検知材料として用いたガスセンサを携帯端末に搭載した携帯ヘルスチェック装置が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−75447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、呼気中には水素以外にもアルコール、アセトンなどの炭化水素ガスが含まれている。そのため、酸化スズや酸化タングステンを用いた酸化物半導体式の水素ガスセンサの場合、水素ガスと炭化水素ガスをともに検出してしまい、水素ガスの選択性が低いため、水素ガス濃度を高精度で検知することが難しかった。
そこで、本発明は、呼気等の水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知することができる水素ガス濃度検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の水素ガス濃度検出器は、炭化水素ガス検知電極と第1基準電極と第1固体電解質層とを有し、水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから実質的に炭化水素ガスのみを選択的に検知する炭化水素ガス検知部と、水素ガス検知電極と第2基準電極と第2固体電解質層とを有し、前記被測定ガス中の水素ガスと炭化水素ガスとを共に検知する水素ガス検知部と、炭化水素ガス濃度に対する前記炭化水素ガス検知部の出力を予め定めた第1出力特性に基づき、前記被測定ガスに対する前記炭化水素ガス検知部の実際の出力を示す第1実出力から、前記被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出し、水素ガスを含まない場合の炭化水素ガス濃度に対する前記水素ガス検知部の出力を予め定めた第2出力特性に基づき、前記被測定ガスに対する前記水素ガス検知部の実際の出力を示す第2実出力から、前記被測定ガス中の仮想炭化水素ガス濃度を算出し、前記仮想炭化水素ガス濃度と前記実炭化水素ガス濃度との差分を表す差分炭化水素濃度を算出し、前記被測定ガスとして炭化水素ガス濃度を一定とし水素ガス濃度を変化させた複数のモデルガスを用いた時の前記差分炭化水素ガス濃度をそれぞれ算出し、かつ前記モデルガスの水素ガス濃度に対する前記差分炭化水素ガス濃度の比から得られる換算特性値を算出し、前記換算特性値と、前記被測定ガス中の前記差分炭化水素濃度とを乗じることにより、前記被測定ガス中の実際の水素ガス濃度を算出する水素ガス濃度算出部とを備えたことを特徴としている。
【0006】
このように、炭化水素ガス検知部が被測定ガスから炭化水素ガスのみを選択的に検知することを利用し、被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出し、又、水素ガス検知部が被測定ガスから仮想炭化水素ガス濃度を算出する。これらの差分炭化水素濃度を算出する一方で、炭化水素ガス濃度を一定としたモデルガスに基づき水素ガス濃度に対する差分炭化水素ガス濃度の比を換算特性値として求める。そして、所望の被測定ガスでの差分炭化水素濃度に換算特性値を乗じることで、呼気等の水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知することができる。
なお、「実質的に」炭化水素ガスのみを選択的に検知するとは、所定濃度の水素ガスを導入した時の炭化水素ガス検知部の出力が0であるか、水素ガス検知部の出力と比べて1/10より小さいことを意味する。
【0007】
前記炭化水素ガス検知電極は、下地電極と、該下地電極を覆いビスマスバナジウム酸化物を主成分とする選択反応層とから構成されているか、又は前記炭化水素ガス検知電極はビスマスバナジウム酸化物を主成分とするとよい。
このようにすると、水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスから、炭化水素ガスのみを選択的に検知することができる。これは、ビスマスバナジウム酸化物により、水素ガスが燃焼するためと考えられる。このため、炭化水素ガス検知部の構成が簡易になり、炭化水素ガス濃度の測定精度も向上する。
【0008】
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層とが共通になっていてもよい。
このようにすると、共通の固体電解質層上に、炭化水素ガス検知部及び水素ガス検知部が形成され、全体として1つの検知部を構成しているため、検知部がコンパクトになり、コスト低減の他、測定の安定性にも優れる。
【0009】
前記第1基準電極と前記第2基準電極とが共通になっていてもよい。
このようにすると、炭化水素ガス検知部及び水素ガス検知部の基準電極をも共通としたので、検知部がさらにコンパクトになる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、呼気等の水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水素ガス濃度検出器の断面図を示す。
水素ガス濃度検出器1は、箱状の筐体2と、筐体2内に収容される回路基板4と、回路基板4に実装される炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20と、回路基板4に実装される制御部5とを備えている。なお、制御部5が特許請求の範囲における「水素ガス濃度算出部」に相当する。
炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20は、詳しくは後述する固体電解質層を用いた板状センサであり、炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の一端からそれぞれ突出する端子15a〜15d及び端子25a〜25dを介し、回路基板4に実装されている。そして、回路基板の上面から炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20が突出し、それぞれ炭化水素ガス及び水素ガスを検知するようになっている。又、炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の周囲が円筒状の金属網7でそれぞれ覆われ、各検知部10,20を保護している。
【0012】
筐体2上面のうち、回路基板4から炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20が突出している部分は、この突出部を囲むように円筒状に張り出す測定室2aを構成し、測定室2a上端が縮径して被測定ガス導入口2bを形成している。又、被測定ガス導入口2bと各検知部10,20との間における測定室2a内部にはガスフィルタ3が介装され、ガスフィルタ3より下側の測定室2aの側壁に排気穴2cが開口している。そして、被測定ガス導入口2bから導入された被測定ガスが炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20でそれぞれ測定に供された後、排気穴2から流出するようになっている。
【0013】
制御部5は、CPU(中央演算処理装置)、メモリ(ROM、RAM)を備え、ROM等に予め格納されたプログラムがCPUにより実行されるマイクロコンピュータである。
又、回路基板4には電源スイッチ8及び表示部(ディスプレイ)9が実装され、電源スイッチ8が筐体2上面に露出し、水素ガス濃度検出器1の電源のオンオフを行えるようになっている。さらに、筐体2上面には表示部9を露出させるための表示窓2dが開口している。
【0014】
図2は、水素ガス濃度検出器1の構成を示すブロック図である。制御部5は炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の動作を制御すると共に、炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の検知結果を受信して、後述する判定を行い、判定結果を表示部9に表示する。
又、制御部5は炭化水素ガス検知部10が有するヒータを制御するヒータ制御回路6aを制御し、炭化水素ガス検知部10を動作温度に加熱する。同様に、制御部5は水素ガス検知部20が有するヒータを制御するヒータ制御回路6bを制御し、水素ガス検知部20を動作温度に加熱する。
【0015】
図3は、炭化水素ガス検知部10の構成を示す平面図である。炭化水素ガス検知部10は、長尺平板状の第1固体電解質層13と、第1固体電解質層13の片面に併設される炭化水素ガス検知電極11及び第1基準電極12とを備えている。炭化水素ガス検知電極11及び第1基準電極12は、第1固体電解質層13の一端側に配置されている。
炭化水素ガス検知電極11から第1固体電解質層13の長手方向に沿ってリード部11aが延び、リード部11aの末端が第1固体電解質層13の他端側に位置している。リード部11aの末端には電極パッド11bが接続され、電極パッド11bから第1固体電解質層13の外部に端子15aが突出している。
同様に、第1基準電極12から第1固体電解質層13の長手方向に沿ってリード部12aが延び、リード部12aの末端が第1固体電解質層13の他端側に位置している。リード部12aの末端には電極パッド12bが接続され、電極パッド12bから第1固体電解質層13の外部に端子15bが突出している。
【0016】
一方、第1固体電解質層13の反対面には図示しない絶縁層が積層され、この絶縁層内に発熱抵抗体30が埋設され、全体としてヒータを構成している。発熱抵抗体30は、炭化水素ガス検知電極11と第1基準電極12の直下に位置する蛇行線状の発熱部31と、発熱部31から第1固体電解質層13の長手方向に沿って延びる一対のリード部32と、各リード部32の末端にそれぞれ接続された2個の電極パッド33とを有する。各電極パッド33から第1固体電解質層13の外部にそれぞれ端子15c、15dが突出している。
なお、上記した各端子15a〜15dは、それぞれ対応する電極パッドにロウ付けされている。そして、炭化水素ガス検知部10を図1の回路基板4に実装する際には、突出した各端子15a〜15dを回路基板4の対応する孔に挿入し、はんだ付け固定される。
【0017】
図4は、図3のIV−IV線に沿う断面図である。炭化水素ガス検知電極11は、下地電極11xと、下地電極11xを覆いビスマスバナジウム酸化物を主成分とする選択反応層11yとから構成されている。又、絶縁層14が第1固体電解質層13の下面に積層され、絶縁層14内部に発熱抵抗体30が埋設されている。
【0018】
下地電極11xはAuを主成分とし、第1基準電極12はPtを主成分としている。又、選択反応層11yに用いるビスマスバナジウム酸化物の組成としては特に限定されないが、例えばBiVOが挙げられる。なお、本発明において「主成分」とは、含有率が50%以上のことを指す。選択反応層11yはガスを通過させるため、多孔質体である必要があるが、ビスマスバナジウム酸化物を焼成することで多孔質体を形成することができる。又、炭化水素ガス検知電極11がビスマスバナジウム酸化物を主成分とする一層であってもよい。なお、BiVOは、酸化バナジウム(V)粉末及び酸化ビスマス(Bi)粉末を1:1(モル比)混合して得られる。
ビスマスバナジウム酸化物を含む選択反応層11yを設けると、水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスから、炭化水素ガスのみを選択的に検知することができる。これは、ビスマスバナジウム酸化物により水素ガスが燃焼するためと考えられる。
【0019】
各リード部11a、12a、32、各電極パッド11b、12b、33、発熱抵抗体30は、例えばPtやPdを主成分(合金含む)としている。各端子15a〜15dは、各種の導電線を用いることができる。
第1固体電解質層13は、例えば部分安定化ジルコニアを主成分とし、ヒータの加熱によって活性化されて酸素イオン伝導性を示す。第1固体電解質層13としては、例えばYSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、GDC(ガドニアドープドセリア)、SDC(サマリアドープドセリア)、ランタンガーレートを主成分とすることができる。
絶縁層14は、例えばアルミナ等のセラミックからなる。
【0020】
水素ガス検知部20は、炭化水素ガス検知部10の炭化水素ガス検知電極11に代えて、水素ガス検知電極を用いること以外は、炭化水素ガス検知部10と同一の構成を有するので、説明を省略する。水素ガス検知電極としては、例えば下地電極11xと同様、Auを主成分としたもの(Au合金を含む)を用いることができる。
なお、図1において、水素ガス検知部20の各端子25a〜25dは、それぞれ炭化水素ガス検知部10の各端子15a〜15dに相当する。
【0021】
本発明における炭化水素ガスとしては、アルコール、ケトン、飽和炭化水素ガス、不飽和炭化水素ガス等を例示することができる。
【0022】
次に、図5を参照して、制御部(水素ガス濃度算出部)5による水素ガス濃度の算出処理の概念を説明する。
水素ガス濃度検出器1を用い、水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスを測定すると、炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20がそれぞれ被測定ガスに反応して出力を生じる。炭化水素ガス検知部10の実出力を「第1実出力」と称し、水素ガス検知部20の実出力を「第2実出力」と称する。
本発明においては、炭化水素ガス検知部10が被測定ガスから実質的に炭化水素ガスのみを選択的に検知することに特徴があり、炭化水素ガス検知部10では被測定ガス中の正味の炭化水素ガス濃度を検知することができる。一方、水素ガス検知部20では被測定ガス中の水素ガスと炭化水素ガスとを共に検知する特性がある。しかしながら、炭化水素ガス検知部10と水素ガス検知部20とは、それぞれ炭化水素に対する感度が異なるために、単純に「第1実出力」と「第2実出力」の差分では水素ガスのみの出力を算出することはできない。
【0023】
そこで、図5に示すように、まず、第1出力特性に基づき、第1実出力から被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出する。これは、炭化水素ガス検知部10が被測定ガスから炭化水素ガスのみを選択的に検知することを利用したものであり、炭化水素ガス検知部10は被測定ガス中の水素ガスの影響を受けずに、正味の炭化水素ガス濃度に応じた出力を生じる。第1出力特性は、炭化水素ガス濃度に対する炭化水素ガス検知部10の出力の関係を予め測定等して得たものである。
次に、第2出力特性に基づき、水素ガス検知部20の第2実出力から被測定ガス中の仮想炭化水素ガス濃度を算出する。第2出力特性は、水素ガスを含まず炭化水素ガスを含むモデルガスを用意し、このモデルガス中の炭化水素ガス濃度に対する水素ガス検知部20の出力の関係を予め測定等して得たものである。従って、仮想炭化水素ガス濃度は、水素ガス検知部20による被測定ガス中の炭化水素ガス濃度(但し、水素ガス濃度が含まれている)を推定したものとなる。
【0024】
そして、(仮想炭化水素ガス濃度)−(実炭化水素ガス濃度)=(差分炭化水素濃度)を算出する。「差分炭化水素濃度」は、水素ガス検知部20による水素ガスの出力に応じた濃度を示す。
次に、炭化水素ガス濃度を一定とし水素ガス濃度を変化させた複数のモデルガスを用いて、上記した差分炭化水素ガス濃度をそれぞれの水素ガス濃度について算出し、さらにモデルガスの水素ガス濃度に対する差分炭化水素ガス濃度の比から得られる換算特性値を算出する。そして、(換算特性値)×(被測定ガス中の差分炭化水素濃度)=(被測定ガス中の実際の水素ガス濃度)を算出する。
なお、上記比から換算特性値を得るとは、具体的には、水素ガス濃度を変化させた各モデルガスを用いて得られたそれぞれの比を勘案することをいう。ここで、勘案するとは、例えば、それぞれの比を平均したり、中央値を採用したり、標準偏差を取ったり、各比を曲線にフィッティングした値を得る等の各種統計的手法が挙げられる。ただし、これらに限られず、各比の分布の特徴を表したり、各比の代表値を求めるための手法であればよい。
【0025】
以上のように、炭化水素ガス検知部10が被測定ガスから炭化水素ガスのみを選択的に検知することを利用し、被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出する。そして、被測定ガス中の水素ガス及び炭化水素ガスに起因した水素ガス検知部20による仮想炭化水素ガス濃度を算出し、これらの差分炭化水素濃度を算出する一方で、炭化水素ガス濃度を一定としたモデルガスに基づき換算特性値を求めて差分炭化水素濃度に乗じる。これにより、呼気等の水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知することができる。
なお、図5において、一例として第1実出力は20mVであり、これから実炭化水素ガス濃度が38ppmと算出される。又、第2実出力は61mVであり、これから仮想炭化水素ガス濃度が140ppmと算出される。そして、差分炭化水素濃度は102ppmであり、これに後述する換算特性値(0.8)を乗じることにより、被測定ガス中の実際の水素ガス濃度が82ppm(102×0.8)と算出される。
【0026】
換算特性値は、例えば表1のようにして実験的に求めることができる。
【0027】
【表1】

【0028】
表1において、2種類のモデルガス1,2を用意する。モデルガス1,2は炭化水素ガス濃度が一定(表1では濃度0)であり、かつ水素ガス濃度がそれぞれ50ppm,100ppmである。
そして、各モデルガス1,2についてそれぞれ差分炭化水素ガス濃度を算出し、水素ガス濃度に対する比を求めて換算特性値を得る。
(換算特性値)=(差分炭化水素ガス濃度)/(水素ガス濃度)で求めることができ、モデルガス1の換算特性値=0.82(61/50)、モデルガス1の換算特性値=0.81(124/100)となる。そして、各モデルガス1,2における換算特性値を平均化し、適宜数値を丸めて換算特性値を0.8とする。
なお、モデルガス1,2に対し、炭化水素ガス濃度が0であるにも関らず、炭化水素ガス検知部の出力がわずかに生じているが、水素ガス検知部の出力の1/10より小さく影響は少ない。
【0029】
ここで、炭化水素ガス検知電極11が、下地電極11xと、下地電極11xを覆いビスマスバナジウム酸化物を主成分とする選択反応層11yとから構成されていると、水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスから、炭化水素ガスのみを選択的に検知することができる。これは、ビスマスバナジウム酸化物により、水素ガスが燃焼するためと考えられる。このため、炭化水素ガス検知部10の構成が簡易になる。
【0030】
図6は、第1出力特性の一例を示す図である。図6においては、炭化水素(エタノール)を含み水素ガスを含まないモデルガスを用い、モデルガス中のエタノール濃度を変えたときの炭化水素ガス検知部10の出力をそれぞれ実際に測定している。そして、エタノール濃度に対する炭化水素ガス検知部10の出力の関係をプロットしている。両者の関係を多項式で近似すると、0.99以上の相関係数で、
y=0.0001091x+0.0000230x+1.8775226x (1)
となった(y:エタノール濃度(ppm)、x:炭化水素ガス検知部10の出力(起電力)(mV))。
第1出力特性は、具体的な炭化水素ガス濃度の値と、それに対する炭化水素ガス検知部10の出力の値とを、制御部5が有するROMにテーブルとして格納し、必要に応じてテーブルの値から第1実出力に対応する炭化水素ガス濃度を外挿法等によって求めても良い。又、上記式1のように、炭化水素ガス濃度に対する炭化水素ガス検知部10の出力の関係を式としてROMに格納し、第1実出力に対応する炭化水素ガス濃度を式1から求めてもよい。
【0031】
図7は、第2出力特性の一例を示す図である。図7においては、炭化水素(エタノール)を含み水素ガスを含まないモデルガスを用い、モデルガス中のエタノール濃度を変えたときの水素ガス検知部20の出力をそれぞれ実際に測定している。そして、エタノール濃度に対する水素ガス検知部20の出力の関係をプロットしている。両者の関係を多項式で近似すると、0.99以上の相関係数で、
y=0.0001501x+0.0342285x+3.8342154x (2)
となった(y:エタノール濃度(ppm)、x:水素ガス検知部20の出力(起電力)(mV))。
第2出力特性は、具体的な炭化水素ガス濃度の値と、それに対する水素ガス検知部20の出力の値とを、制御部5が有するROMにテーブルとして格納し、必要に応じてテーブルの値から炭化水素ガス濃度に対応する仮想出力を外挿法等によって求めても良い。又、上記式2のように、炭化水素ガス濃度に対する水素ガス検知部20の出力の関係を式としてROMに格納し、炭化水素ガス濃度に対応する仮想出力を式2から求めてもよい。
【0032】
次に、図8を参照して、制御部(水素ガス濃度算出部)5による水素ガス濃度の算出処理フローの一例を説明する。
まず、制御部5は、それぞれ炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20から出力される、第1実出力及び第2実出力を取得する(ステップS2)。そして、制御部5は、ROMに格納された式1(第1出力特性)を参照し、第1実出力から被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出する(ステップS4)。
次に、制御部5は、ROMに格納された式2(第2出力特性)を参照し、第2実出力から仮想炭化水素ガス濃度を算出する(ステップS6)。さらに、制御部5は、(仮想炭化水素ガス濃度)−(実炭化水素ガス濃度)=(差分炭化水素濃度)によって差分炭化水素濃度を算出する(ステップS8)。そして、制御部5は、換算特性値を参照し、換算特性値に差分炭化水素濃度を乗じて実際の水素ガス濃度を算出し(ステップS10)、処理を終了する。制御部5は、算出した水素ガス濃度の値を適宜表示部9に表示させる。
【0033】
なお、換算特性値は、図6、図7に示したのと同様にして、炭化水素ガスを含まず水素ガスを含むモデルガスを用意し、このモデルガス中の水素ガス濃度に対する差分炭化水素ガス濃度の比を予め測定等して得ることができる。又、複数のモデルガス中での複数の上記比を多項式で近似し、換算特性値を定めてもよい。
又、換算特性値を、制御部5が有するROMにテーブルとして格納し、必要に応じてテーブルの値から参照することができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態に係る水素ガス濃度検出器について、図9、図10を参照して説明する。但し、第2の実施形態に係る水素ガス濃度検出器は、炭化水素ガス検知部及び水素ガス検知部以外の構成(筐体2、回路基板4、制御部5等)は、第1の実施形態に係る水素ガス濃度検出器と同一であるので、炭化水素ガス検知部及び水素ガス検知部についてのみ説明する。
又、図9において、図3に示したものと同一の構成部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0035】
図9は、炭化水素ガス検知部101及び水素ガス検知部201の構成を示す平面図である。第2の実施形態においては、共通の第1固体電解質層13上に、炭化水素ガス検知部101及び水素ガス検知部201が形成されており、全体として1つの検知部(マルチセンサ)100を構成している。
【0036】
炭化水素ガス検知部101は、長尺平板状の第1固体電解質層13と、第1固体電解質層13の片面に併設される炭化水素ガス検知電極11及び共通基準電極42とを備えている。炭化水素ガス検知電極11及び共通基準電極42は、第1固体電解質層13の一端側のうち、長手方向に沿う上半分の位置に設けられている。又、炭化水素ガス検知電極11が第1固体電解質層13の長辺に沿う外側に位置し、共通基準電極42が内側に位置している。
炭化水素ガス検知電極11から第1固体電解質層13の長手方向に沿ってリード部11aが延び、リード部11aの末端が第1固体電解質層13の他端側に位置している。リード部11aの末端には電極パッド11bが接続され、電極パッド11bから第1固体電解質層13の外部に端子15aが突出している。
同様に、共通基準電極42から第1固体電解質層13の長手方向に沿ってリード部42aが延び、リード部42aの末端が第1固体電解質層13の他端側に位置している。リード部42aの末端には電極パッド42bが接続され、電極パッド42bから第1固体電解質層13の外部に端子45eが突出している。
なお、共通基準電極42及びリード部42aは、第1固体電解質層13の長手方向の中心線上に配置されている。
【0037】
水素ガス検知部201は、第1固体電解質層13と、第1固体電解質層13の片面に併設される水素ガス検知電極22及び共通基準電極42とを備えている。水素ガス検知電極22及び共通基準電極42は、第1固体電解質層13の一端側のうち、長手方向に沿う上半分の位置に設けられている。又、水素ガス検知電極22が第1固体電解質層13の長辺に沿う外側に位置し、共通基準電極42が内側に位置している。
なお、共通基準電極42は、特許請求の範囲における「第1基準電極」及び「第2基準電極」に相当する。
水素ガス検知電極22から第1固体電解質層13の長手方向に沿ってリード部22aが延び、リード部22aの末端が第1固体電解質層13の他端側に位置している。リード部22aの末端には電極パッド22bが接続され、電極パッド22bから第1固体電解質層13の外部に端子25bが突出している。
【0038】
水素ガス検知電極22としては、Auを主成分としたもの(Au合金を含む)を用いることができる。又、共通基準電極42はPtを主成分としている。リード部22a、42a、各電極パッド22b、42bは、例えばPtやPdを主成分(合金含む)としている。各端子25b、45eは、各種の導電線を用いることができる。
【0039】
一方、第1固体電解質層13の反対面には図示しない絶縁層が積層され、この絶縁層内に、発熱抵抗体30が埋設され、全体としてヒータを構成している。発熱抵抗体30については、図3の発熱抵抗体30と同一構成であるため、説明を省略する。
なお、上記した各端子15a、25b、15c、15d、45eは、それぞれ対応する電極パッドにロウ付けされている。そして、マルチセンサ100を図1の回路基板4に実装する際には、突出した各端子15a、25b、15c、15d、45eを回路基板4の対応する孔に挿入し、はんだ付け固定される。
【0040】
図10は、図9のX−X線に沿う断面図である。炭化水素ガス検知電極11は、下地電極11xと、下地電極11xを覆いビスマスバナジウム酸化物を主成分とする選択反応層11yとから構成され、図10の左端に位置している。共通基準電極42が図10の中心に位置し、水素ガス検知電極22が右端に位置している。
マルチセンサ100は、炭化水素ガス検知電極11と共通基準電極42の間の電圧V2を測定して炭化水素ガス濃度を検知し、水素ガス検知電極22と共通基準電極42の間の電圧V1を測定して水素ガス濃度を検知する。
【0041】
第2の実施形態に係る水素ガス濃度検出器によれば、共通の第1固体電解質層13上に、炭化水素ガス検知部101及び水素ガス検知部201が形成され、全体として1つの検知部を構成しているため、検知部がコンパクトになり、コスト低減の他、測定の安定性にも優れる。さらに、炭化水素ガス検知部101及び水素ガス検知部201の基準電極42を共通とすれば、検知部がさらにコンパクトになる。
【0042】
なお、上記実施形態では、炭化水素ガスの例として、エタノールについて第1出力特性、第2出力特性を予め得ておき、エタノールを含む被測定ガス中の水素ガス濃度を算出している。この場合、対象とする炭化水素ガスが異なっても(例えばアセトン)、アセトンについて別個に第1出力特性、第2出力特性を予め得ておかなくてもよい。これは、エタノールとアセトンの第1出力特性、第2出力特性が相似の関係にあるためであり、エタノールについての第1出力特性、第2出力特性を用いても、アセトンを含む被測定ガス中の水素ガス濃度を比較的正確に算出することができる。勿論、対象とする炭化水素ガスの種類に応じて、それぞれ別個に第1出力特性、第2出力特性を用意しておけば、測定精度が向上することはいうまでもないが、例えば、呼気中の水素ガス濃度を算出する場合、呼気中の炭化水素ガスの種類はほぼ既知であり、式1、2中の係数がエタノールと大きく異なる炭化水素ガスは少ないため、エタノールについての第1出力特性、第2出力特性を用いてもよく、測定を簡便にすることができる。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(第1出力特性及び第2出力特性)
図1〜図4に示した水素ガス濃度検出器1を用意した。この水素ガス濃度検出器1をモデルガス発生装置に接続し、モデルガス発生装置のモデルガスを被測定ガス導入口2bから導入した。モデルガスとして、相対湿度50%のベースガスに対し、炭化水素ガス(エタノール)を濃度を変えて添加し、温度25℃としたものを用いた。
炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20をヒータで650℃に保持した状態で、モデルガスを被測定ガス導入口2bから導入し、炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の出力電圧を測定した。
それぞれ炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の出力(起電力)が、図6、図7に示したとおりに得られた。図6、図7の関係から、それぞれ上記式1,2の関係式を得た。
【0046】
(被測定ガスの測定)
上記水素ガス濃度検出器1の被測定ガス導入口2bへ、モデルガスを吹き込み、上記と同様にして炭化水素ガス検知部10及び水素ガス検知部20の出力電圧を測定した。各検知部の測定を開始してから10秒後に被測定ガスを吹き込んだ。モデルガスとして、上記ベースガスに対し、炭化水素ガス(エタノール)を40ppm添加し、水素ガスを80ppm添加したものを用い、温度25℃とした。
得られた結果を上記図5を参照して説明する。第1実出力は20mVであり、図6からエタノール濃度(実炭化水素ガス濃度)は38ppmと算出された。
一方、第2実出力は61mVであり、図7からエタノール濃度(仮想炭化水素ガス濃度)は140ppmと算出された。従って、差分炭化水素濃度は102ppm(140−38)であり、これに対し、表1に示す換算特性値(0.8)を乗じることにより、被測定ガス中の実際の水素ガス濃度が82ppm (102×0.8)と算出された。これは、実際のモデルガス中の水素ガス濃度にほぼ一致し、水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから、水素ガス濃度を正確に検知できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水素ガス濃度検出器の断面図である。
【図2】水素ガス濃度検出器の構成を示すブロック図である。
【図3】炭化水素ガス検知部の構成を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】制御部(水素ガス濃度算出部)による算出処理の概念を示す図である。
【図6】第1出力特性の一例を示す図である。
【図7】第2出力特性の一例を示す図である。
【図8】制御部(水素ガス濃度算出部)による算出処理フローを示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る水素ガス濃度検出器において、炭化水素ガス検知部及び水素ガス検知部の構成を示す平面図である。
【図10】図9のX−X線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 水素ガス濃度検出器
5 水素ガス濃度算出部(制御部)
10 炭化水素ガス検知部
11 炭化水素ガス検知電極
11x 下地電極
11y 選択反応層
12 第1基準電極
13 第1固体電解質層、第2固体電解質層
20 水素ガス検知部
22 水素ガス検知電極
42 第2基準電極(共通電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガス検知電極と第1基準電極と第1固体電解質層とを有し、水素ガスと炭化水素ガスとを共に含む被測定ガスから実質的に炭化水素ガスのみを選択的に検知する炭化水素ガス検知部と、
水素ガス検知電極と第2基準電極と第2固体電解質層とを有し、前記被測定ガス中の水素ガスと炭化水素ガスとを共に検知する水素ガス検知部と、
炭化水素ガス濃度に対する前記炭化水素ガス検知部の出力を予め定めた第1出力特性に基づき、前記被測定ガスに対する前記炭化水素ガス検知部の実際の出力を示す第1実出力から、前記被測定ガス中の実炭化水素ガス濃度を算出し、
水素ガスを含まない場合の炭化水素ガス濃度に対する前記水素ガス検知部の出力を予め定めた第2出力特性に基づき、前記被測定ガスに対する前記水素ガス検知部の実際の出力を示す第2実出力から、前記被測定ガス中の仮想炭化水素ガス濃度を算出し、
前記仮想炭化水素ガス濃度と前記実炭化水素ガス濃度との差分を表す差分炭化水素濃度を算出し、
前記被測定ガスとして炭化水素ガス濃度を一定とし水素ガス濃度を変化させた複数のモデルガスを用いた時の前記差分炭化水素ガス濃度をそれぞれ算出し、かつ前記モデルガスの水素ガス濃度に対する前記差分炭化水素ガス濃度の比から得られる換算特性値を算出し、
前記換算特性値と、前記被測定ガス中の前記差分炭化水素濃度とを乗じることにより、前記被測定ガス中の実際の水素ガス濃度を算出する水素ガス濃度算出部とを備えた水素ガス濃度検出器。
【請求項2】
前記炭化水素ガス検知電極は、下地電極と、該下地電極を覆いビスマスバナジウム酸化物を主成分とする選択反応層とから構成されているか、又は前記炭化水素ガス検知電極はビスマスバナジウム酸化物を主成分とする請求項1に記載の水素ガス濃度検出器。
【請求項3】
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層とが共通になっている請求項1又は2に記載の水素ガス濃度検出器。
【請求項4】
前記第1基準電極と前記第2基準電極とが共通になっている請求項1〜3のいずれかに記載の水素ガス濃度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−122079(P2010−122079A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296240(P2008−296240)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】