説明

水素センサ

水素透過性の遷移金属からなる光反射層4が、黒色吸収状態から切換えできる遷移金属(水素化物)層3上に蒸着される。水素透過性の遷移金属からなる触媒層5が反射層4の上面に蒸着される。遷移金属としてTiおよび/またはPdを3層3,4,5全てに使用してもよい。同時スパッタリングを用いて、いかなる材料から構成されてもよい基板2上に厚さが最大100nmの遷移金属(水素化物)切換え層3を蒸着することができる。光反射層4の厚さは、切換え層3の厚さよりも大きく、10nm超(しかし、好ましくは50〜200nm)として(全くまたは)殆ど伝播がないようにする。触媒層5の厚さは約10nmである。検知器11を備えると、水素センサを製造することができる。あるいは、流体加熱器18を備えることにより、温度制御された太陽エネルギー変換器17を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と、該基板上に設けられるとともに水素の充填/非充填で光学特性が異なる活性金属層と、触媒層とを有する光スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記装置は当該技術分野において広く知られている。活性金属としては、例えばマグネシウム・遷移金属合金が用いられる。基板上にマグネシウム・ニッケル層を設け、その上にパラジウム等の触媒を設けたものにおいて、マグネシウム・ニッケル層に水素が添加されると、基板付近で水素化マグネシウム・ニッケル層に変換することが分かっている。これは、水素が触媒を通って装置に進入するが、マグネシウム・ニッケル層/基板界面で水素化物相が最初に核となることを意味する。これは試料の自己組織化層形成に繋がる。水素吸収の増大に伴なって、マグネシウム・ニッケル層全体が水素化物に変換されるまで、水素化物層が成長する。かかる層は、可変反射金属水素化物(VAREM:VAriable REflection Metal hydrides)または金属水素化物切替可能ミラーとしても知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる層は、変換に応じて、反射から黒色を経て透明までの範囲の特性を有することができる。透明および反射モードは比較的安定であり、それらの状態を維持することは容易である。しかし、基板を通って進入する光を吸収する安定な黒色状態を維持することは困難である。この状態は、温度やHガス圧等の外部パラメータに敏感に左右される。
【0004】
水素の充填または例えば酸素を用いて水素を充填しないことにより、異なる物理的外観が好ましく得られる。また、電気化学的水素化反応/脱水素化反応を利用することができる。黒色状態が得られる水素濃度は非常に臨界的である。
【0005】
特許文献1に、光スイッチ装置が開示されており、電解質層に導電する水素イオンを供給する触媒Pd層が切換えフィルムに設けられている。電解質層に導電するこの水素イオン上に水素貯蔵層が存在する。この装置を用いて、水素量およびこれにより活性層の光学的状態を積極的に制御する。
【特許文献1】US 2002/101413
【0006】
本発明は、黒色状態が容易に得られかつ他方で容易に維持できる、光スイッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、遷移金属層を含むとともに、活性金属層の厚さよりも大きな厚さを有し、かつ、水素透過性である補助層を、前記活性金属層と前記触媒層の間に設けることによって、前記目的が実現される。
本発明によれば、光学的挙動に大きな変化をもたらすのに必要とされる「自己組織化」された二重層がもはや存在しない。本発明によれば、独立して設けられるとともに、遷移金属層を含む補助層によって、自己組織化二重層が置換される。先行技術とは対照的に、金属層と触媒層の間に補助層が設けられる。
【0008】
人為的に設けられた補助層を用いることにより、安定な黒色状態がマグネシウム・遷移金属層(水素化物)から得られることが判明した。また、水素の非充填および水素の再充填後に、再現性のある結果が得られることが判明した。これは、全ての種類の用途に適した光スイッチ装置を製造する再生産可能な方法で、切換えを取得できることを意味する。
更に、より良好なコントラストを得ることができ、かつ酸化に対する保護が一層向上することが判明した。
【実施例】
【0009】
遷移金属層の厚さは全くまたは殆ど透過がないようにすべきである。
活性金属層は、水素の充填または非充填で光学特性が変化するあらゆる金属を含むことができる。遷移金属の例として、マグネシウム、または、マグネシウム基金属を挙げることができる。また、数種類の単体金属を組み合わせて用いることができ、あるいは、金属相中にある水素化イットリウム等の金属水素化物を用いることができる。活性層を用いる更なる可能性は、場合によっては遷移金属と組み合わせてもよいイットリウム、マグネシウム等を含む希土類とすることができる。別の好ましい選択肢は活性層としてのMgNiの使用である。
【0010】
本発明の好適実施形態によれば、活性層の厚さが最大で100nmである。遷移金属層または補助層の厚さは、10nm以上であり、好ましくは1μm以下である。
補助層は、相互に重なって位置するとともに、異なる遷移金属(例えば、チタン、ニッケルおよび/またはニオブ等)を含む複数層を有することができる。また、積層物が水素の拡散を可能にし、かつ任意に反射する限り、異なる構造を有する異なる層を相互に積層することも可能である。
【0011】
本発明の基板はガラス等のいかなる材料からでも構成することができる。
遷移金属層の遷移金属は、周期律表から知られているあらゆる遷移金属、より具体的にはチタンおよび/またはパラジウムを含むことができる。
同じことが、好ましくはニッケルを含むマグネシウム・遷移金属活性層の遷移金属に当てはまる。
【0012】
有利な実施の形態によれば、光スイッチ装置は受動素子からなる。これは、電圧を用いずにガス圧によって、切換えが得られるだけであることを意味する。しかし、電気分解で切り換えられる実施の形態は、主題の適用の範囲内にある。
基板上に前述の数種類の層を蒸着することにより、本発明の光スイッチ装置を製造することができる。この蒸着は、例えばマグネシウム・遷移金属層を得るために数種類の金属の同時スパッタリング等のスパッタリングを含むことができる。
前述の通り、本発明の光スイッチ装置には多くの用途がある。最も簡単なものは、黒色吸収相から反射相に切換えができるミラーとしての使用である。
【0013】
光スイッチングは、本発明の更なる実施の形態によれば水素の存在に応じて得られるので、前述のように光スイッチを有する水素センサを提供することが可能である。センサを介して、本発明の光スイッチ装置の光学特性をモニターできる。光スイッチ装置と光センサの間に間隔があって、この間を光ファイバーで埋めることが可能である。更に、単一の光センサで多数の光スイッチ装置をモニターすることが可能である。
【0014】
光学特性が可逆的または非可逆的な光スイッチ装置を具現することができる。最後の可能性の一例は、水素が存在するかも知れない環境に、物品または人が曝されていることを示すタグの使用である。かかるタグは使い捨て可能とすることができる。
【0015】
本発明は、また、太陽電池素子と水加熱器とを含むエネルギー変換組立体に用いることができる。例えば、入射光が最初に太陽電池素子に当たる屋根に、かかる組立体を配置することができる。幾つかの状況下では輻射が水加熱器に伝播しないことが望ましいであろうが、一方、別の条件では水を加熱することが望ましい。前記太陽電池素子と水加熱器の間に本発明の光スイッチ装置を設置して、これらの異なる条件を切り換えることができる。
【0016】
図面に示す実施の形態を参照して本発明を更に説明する。
図1において、本発明の光スイッチ装置の一例が全体的に1で引用される。いかなる材料であってもよい基板2が存在する。しかし、好ましくは光学装置で通例のガラスが用いられる。ガラスの上面には、活性層としてMgNi層等の30nmのマグネシウム・遷移金属層が設けられている。この活性層3の上面には、本発明の補助層4が配置されている。これはチタン層またはパラジウム層等の遷移金属層からなる。その厚さは、10nm以上であり、より好ましくは50〜200nmの範囲にある。補助層の上面には、例えば厚さが約10nmのパラジウム層からなる触媒層5が設けられている。
【0017】
前記光スイッチ装置1に水素が添加されると、MgNi層がMgNiHに転換されるであろう。この材料の光学特性はMgNiとは完全に異なる。
本発明によれば、層3,4を含む人為的な二重層が合成されている。MgNiHは透明であり、一方、例えば層4に用いられる水素化されたチタンは反射性を保持している。
【0018】
試験の期間に、エネルギー範囲1.25〜3eVにおける層構造を通じて観測された反射は、水素化前の凡そ60%から、全体が水素化された層3における1.9〜2eVで約5%になることが明らかになった。これは反射比が12である。室温での前記水素化は、Ar中の5%Hを用いると、層4の厚さに応じて標準的な10秒で達成される。0.3%Hの感度を観測した。
【0019】
図2には、水素センサにおける本発明の光スイッチ装置の使用が示されている。本発明の光スイッチ装置は6で示され、光ファイバー7,9を介して(二股コネクタ8を使用して)検知器11に接続している。10は光源(例えば、ランプまたはレーザー)であり、切換え可能なミラー6に光を供給する。光スイッチ装置がある部屋にほんの少量の水素が存在すると、光スイッチ装置の反射特性に驚くほどの変化が直ちに生じ、検知器11により容易に検知される。同じ部屋または異なる領域の光スイッチ装置に接続する多数の光ファイバーに、検知器11を接続することができる。
【0020】
図3には本発明の更なる応用が示されている。概略的に図示された屋根15上に、エネルギー変換組立体17が設けられている。これは、太陽電池素子13と、本発明の光スイッチ14と、加熱チューブ19を有する水加熱器等の流体加熱器18とを含む。状況に応じて、矢印16で示される入射光が加熱器18に届くかまたは届かないことが望ましい。前述の通り光スイッチ装置14を制御することによって、これを阻止することができる。光スイッチングが黒色の状態にあると、熱を吸収して加熱器18に伝播するであろう。反射モードにあれば、熱を吸収することなく太陽電池素子13に跳ね返すであろう。太陽電池素子を用いなくても、専ら水加熱器の温度制御に本発明を利用することができる。
【0021】
以上、本発明の光電池スイッチ装置の幾らかの応用について論じてきた。しかし、当然のことながら、地球上および宇宙の双方で更なる応用が可能である。一例として、衛星の外面での使用が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による光スイッチ装置の層構造を模式的に示す。
【図2】光スイッチ装置を水素センサとして用いた模式図である。
【図3】エネルギー変換組立体における使用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(2)と、該基板上に設けられるとともに水素の充填/非充填で光学特性が異なる活性金属層(3)と、触媒層(5)とを有する光スイッチ装置(1)において、
前記活性金属層と前記触媒層の間に、遷移金属層を含むとともに、前記活性金属層の厚さよりも大きな厚さを有し、かつ、水素透過性である補助層(4)を設けたことを特徴とする光スイッチ装置。
【請求項2】
前記補助金属層が遷移金属基材層である請求項1に記載された光スイッチ装置。
【請求項3】
前記活性金属層が希土類基材層である請求項1に記載された光スイッチ装置。
【請求項4】
前記活性金属層がMg基材層である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項5】
黒色の切換え状態を含む請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項6】
前記活性金属層の厚さが最大で100nmである請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項7】
前記基板がガラスを含む請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項8】
前記触媒金属層の金属が、チタンおよび/またはパラジウムおよび/または銀を含む請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項9】
前記遷移金属層の厚さが10nm〜2μmである請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項10】
活性遷移金属層の遷移金属が、ニッケル、チタン、パラジウムを含む請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された光スイッチ装置。
【請求項11】
基板を用意し、その後、厚さ100nm未満の活性金属層、遷移金属層を含むとともに、厚さ10nmを超える補助層、および、触媒層を蒸着することを含む、光スイッチ装置の製造方法。
【請求項12】
前記蒸着工程の少なくとも1つが(同時)スパッタリングを含む請求項11に記載された方法。
【請求項13】
基板(2)と、該基板上に設けられるとともに水素の充填/非充填で光学特性が異なる活性金属層(3)と、触媒層(5)とを有する光スイッチ装置を含むミラーにおいて、
遷移金属層を含むとともに、前記活性金属層の厚さよりも大きな厚さを有し、かつ、水素透過性である補助層(4)を、前記活性金属層と前記触媒層の間に設けたことを特徴とするミラー。
【請求項14】
基板(2)と、該基板上に設けられるとともに水素の充填/非充填で光学特性が異なる活性金属層(3)と、触媒層(5)とを有する光スイッチ装置を含む水素センサにおいて、
遷移金属層を含むとともに、前記活性金属層の厚さよりも大きな厚さを有し、かつ、水素透過性である補助層(4)を、前記活性金属層と前記触媒層の間に設けたことを特徴とする水素センサ。
【請求項15】
前記光スイッチ装置の状態をモニターする光センサ(11)を含む請求項14に記載された水素センサ。
【請求項16】
前記光スイッチ装置(6)と前記光センサ(11)の間に光ファイバー(7,9)が連結する請求項15に記載された水素センサ。
【請求項17】
流体加熱器(18)と、該流体加熱器の前に入射する光(16)の方向に、基板(2)、該基板上に設けられるとともに水素の充填/非充填で光学特性が異なる活性金属層(3)、および触媒層(5)を有する光スイッチ装置(14)とを含むエネルギー変換組立体において、
遷移金属層を含むとともに、前記活性金属層の厚さよりも大きな厚さを有し、かつ、水素透過性である補助層(4)を、前記活性金属層と前記触媒層の間に設けたことを特徴とするエネルギー変換組立体。
【請求項18】
太陽電池素子(13)を含み、入射光(16)の方向の使用位置で流体加熱器(18)が前記太陽電池素子の裏側にあり、前記スイッチ装置(14)が前記太陽電池素子と前記流体加熱器の間に配置される請求項17に記載されたエネルギー変換組立品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−516204(P2009−516204A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537618(P2008−537618)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050268
【国際公開番号】WO2007/049965
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508129274)アドバンスト ケミカル テクノロジーズ フォー サステイナビリティ (1)
【Fターム(参考)】