説明

水素分離膜および水素分離膜モジュール

【課題】 高い水素透過性能を有するとともに、熱処理による結晶構造の変化がない熱安定性に優れた水素分離膜および水素分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】 水素分離膜は、YまたはGdの含有量をxat%、Agの含有量をyat%として、x≦15、0.1≦y≦5、かつ3x+y>36の条件を満たす範囲でYまたはGdとAgとを含有し、残部がPdおよび不可避不純物からなる合金を含むことを特徴とする。また、水素分離膜モジュールは、この水素分離膜の一方の表面に、金属多孔板が貼り付けられており、この金属多孔板の反対側の表面に、支持板が貼り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素精製装置や水素製造装置などに用いられる優れた水素透過性能を有する水素分離膜および水素分離膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含む混合ガスから水素を選択的に透過する水素分離膜は、高純度水素の製造または精製装置への適用が考えられている。現在、水素分離膜としてPdが使用されている。Pdは貴金属でありかつ戦略物質である。そのため、Pdは既に高価である上、大量の消費が見込まれれば、更に高騰する可能性がある。そこで、Pdを他の元素で代替えしてPdの使用量を低減するとともに、水素透過性能を向上することを目的に、他の元素を添加したPd合金が提案されている。
【0003】
例えば、特開平11−99323号公報には、PdにY、GdおよびLuからなる群から選択される1希土類元素とAgとを添加した3元合金であって、希土類元素の含有量をxat%、Agの含有量をyat%として、x≧3かつ36≧3x+y≧24の範囲の合金が提案されている。本公報には、上記添加元素の含有量がこの範囲内である場合は、優れた水素透過性能を発揮するものの、この範囲外、特に3x+y>36の場合は、希土類元素の含有量が多いため、金属間化合物からなる第二相が析出して二相分離状態を起こし、水素透過性能が低下することが記載されている。
【0004】
また、上記のような合金は、酸化しやすい希土類金属を含んでいるため、高温で使用すると酸化による脆化が起こり、長時間の使用における耐久性に問題があることが指摘されている。そこで、特開平11−104471号公報には、耐酸化性に優れるPdまたはPd−Ag合金で上記の合金の表面を被覆して、酸化による脆化を防止することが記載されている。
【特許文献1】特開平11−99323号公報
【特許文献2】特開平11−104471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Pdに上記の範囲の量の希土類元素とAgとを添加することにより、水素透過性能を向上させることができる。水素透過係数が高いほど水素透過性能は高く、例えば、Pd−8at%Gd合金とすることで水素透過係数を5.5×10-8mol/m・s・Pa0.5と高くすることができる。しかしながら、上記のPd合金を水素分離膜として使用するためには、圧延による薄膜化が必要であり、それには焼鈍処理を行うが、例えば800℃の高温で熱処理を施すと、加熱により結晶構造が変化し、水素透過性能が劣化するという問題がある。また、添加元素の割合が多すぎると、このような加熱により膜が脆化して、差圧によって割れやすくなる等の機械的特性も劣化するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、高い水素透過性能を有するとともに、熱処理による結晶構造の変化がない熱安定性に優れた水素分離膜および水素分離膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る水素分離膜は、YまたはGdの含有量をxat%、Agの含有量をyat%として、x≦15、0.1≦y≦5、かつ3x+y>36の条件を満たす範囲でYまたはGdとAgとを含有し、残部がPdおよび不可避不純物からなる合金を含むことを特徴とする。
【0008】
YまたはGdとAgの含有量を増大させるに従い、Pd合金の水素透過性能は向上する。しかしながら、3x+y=36の関係を超えてYまたはGdとAgとを添加すると、添加量が多くなり過ぎ、Pdが固溶できる限界を超え、Pd3YまたはPd3Gd等の金属間化合物が析出して水素透過性能が低下し、機械的特性が劣化するという問題があった。ところが、本発明によれば、3x+y>36の範囲でも、x≦15かつ0.1≦y≦5という更に限定された範囲では、驚くべきことに、このように添加量を多くしても材料が固溶体を形成し、それが熱的に安定であり、水素透過性能及び機械的特性にも優れていることがわかった。
【0009】
YまたはGdの含有量(x)は12〜14at%がより好ましく、Agの含有量(y)は0.3〜4at%がより好ましい。含有量を更にこの範囲に限定することで、より高い水素透過性能が得られるとともに、熱処理後もその性能を高く維持することができる。
【0010】
上記合金を芯材として、この少なくとも一方の表面に、表層材としてPdまたはPd−Ag合金を被覆することが好ましい。上記合金(芯材)の表面に、耐酸化性に優れた表層材を被覆して、複数層構造とすることにより、酸化を防止でき、長時間使用においても水素透過性、熱安定性、耐酸化性の全てに優れた水素分離膜を得ることができる。
【0011】
本発明は、別の態様として、水素分離膜モジュールであって、このモジュールは、上記の水素分離膜の一方の表面に、金属多孔板が貼り付けられており、この金属多孔板の反対側の表面に、支持板が貼り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、高い水素透過性能を有するとともに、熱処理による結晶構造の変化がない熱安定性に優れた水素分離膜および水素分離膜モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る水素分離膜の一実施の形態を説明する。図1は、本発明に係るPd−Ag−YまたはPd−Ag−Gd合金の組成範囲を示すグラフである。図2は、本発明に係る水素分離膜の一例を示す断面図であり、芯材の両面に表層材を被覆した場合である。図3は、本発明に係る水素分離膜の別の一例を示す断面図であり、芯材の片面に表層材を被覆した場合である。
【0014】
図2および図3に示すように、水素分離膜20は、芯材22の両面または片面に表層材24が被覆されている。芯材22としては、YまたはGdの含有量をxat%、Agの含有量をyat%として、x≦15、0.1≦y≦5、かつ3x+y>36の条件を満たす範囲でYまたはGdとAgとを含有し、残部がPdおよび不可避不純物からなる合金が用いられる。この条件を満たす範囲が、図1の斜線部分である(なお、3x+y=36の線上はこの範囲に含まれない)。
【0015】
図1に斜線部分で示された範囲の組成を有するPd合金は、YまたはGdとAgの含有量が3x+y=36の関係よりも多く添加されても、従来の知見に反して、良好な水素透過性能を示し、第二相の析出も観察されない。さらに、Pd合金を水素分離膜として使用するためには、圧延による薄膜化が必要であり、それには焼鈍処理を行う必要がある。この範囲の組成を有する合金は、例えば焼鈍処理として800℃で10時間の加熱を行っても、熱安定性に優れていることから、結晶構造が固溶体のまま変化せず、水素透過性能、機械的特性は劣化しない。
【0016】
一方、Agの含有量が0.1at%未満かつGdまたはYの含有量が10at%以上の場合は、初期には水素透過性能が十分に高くても、製作時あるいは運転中の加熱によってPd3YまたはPd3Gdが析出し、結晶構造が変化して、水素透過性能、機械的特性が劣化してしまう。
【0017】
また、YもしくはGdの含有量が15at%を超える場合は、Agの含有量にかかわらずPd3YまたはPd3Gd等の金属間化合物が第二相として析出するため、高い水素透過性能を得ることはできない。なお、YまたはGdの含有量が15at%より多い場合は、熱安定性も低く、加熱により結晶構造が変化する。
【0018】
また、Agの含有量が5at%を超える場合は、水素透過性能が低下する。
【0019】
芯材22であるPd−Ag−YまたはPd−Ag−Gd合金は、酸化しやすい希土類金属を含んでいるため、高温で使用すると酸化による脆化が起こるとともに、表面に酸化層が形成され、水素透過性能も低下するおそれがある。そこで、耐酸化性に優れるPdまたはPd−Ag合金を表層材24として用いて、これで芯材22の少なくとも一方の表面を被覆して、酸化による脆化および水素透過性能の低下を防止する。Pd−Ag合金としては、Agを0〜30at%含有するものが好ましい。なお、このように芯材22の表面を表層材24で被覆すると、膜20全体の水素透過性能は芯材のみよりも低下するが、表層材24によって酸化層の形成が防止されるので、長時間使用しても水素透過性能の低下は小さい。すなわち、長時間使用した場合の水素透過性能を比較すると、芯材のみよりも表層材24で表面を被覆した方が水素透過性能が良好となる。また、このような複数層構造の膜20の水素透過係数は、芯材22の水素透過係数が大きく関与しており、芯材22の水素透過係数が大きいほど、膜20全体の水素透過係数は大きくなる。
【0020】
このように、水素分離膜20の芯材22に、優れた水素透過性能の合金を用い、図2または図3に示すように、この芯材22の両面もしくは一方の表面を、耐酸化性に優れた表層材24で被覆することにより、高い水素透過性能を維持しつつ、耐酸化性を得ることができる。
【0021】
なお、芯材22の表面に表層材24を被覆する方法としては、芯材22の合金と表層材24の合金の各インゴットを作製し、これらインゴットを重ねて加熱することでクラッド接合した後、さらにこれを圧延する方法が好ましい。インゴットは重ねる前に予め圧延して薄膜化しておくことが好ましい。
【0022】
クラッド接合の際の加熱処理は、500〜900℃の範囲が好ましい。圧延は冷間または熱間で行うのが好ましい。また、接合後の圧延により水素分離膜20の厚さを2〜50μmにすることが好ましい。芯材22と表層材24の厚さの比は、芯材:表層材=4:1またはこれより表層材を薄くすることが好ましい。
【0023】
次に、本発明に係る水素分離膜モジュールの一実施の形態について説明する。図4は、水素分離膜モジュールの一例を模式的に示す組立図である。図4に示すように、上記により作製した水素分離膜20は、金属多孔板30上に配置される。金属多孔板30は、多数の開口を形成したもので、総合的に強度を増すべく、複数枚で用いることが多い。図4では、3枚の金属多孔板30が使用されている。
【0024】
金属多孔板30は、更に支持板40上に配置される。支持板40は、その一方の面に、水素分離膜20および金属多孔板30を通過してくる水素を集めるための溝42が形成されており、この溝42が形成されている面に金属多孔板30が設置される。そして、水素分離膜20、金属多孔板30および支持板40の周囲にシール溶接を施し、全体を一体化して水素分離膜モジュールとする。このような構成によれば、水素透過に有利な高温で、膜の表裏に高い圧力差をかけることができるため、高性能な水素分離膜モジュールとなる。また、この形状は容易に作成でき、更に安価であるという利点もある。
【実施例1】
【0025】
(Pd−Ag−Gd合金膜の作製)
Pd−3at%Ag−14at%Gd合金、Pd−0.3at%Ag−12at%Gd合金およびPd−4at%Ag−12at%Gd合金の各インゴットをアーク溶解で作製した。その後、各インゴットから厚さ1mm程度の薄膜を切り出し、これを冷間で0.5mmまで圧延して各組成の合金膜を作製した(試料番号1〜4)。
【0026】
同様に比較例として、Pd−3at%Ag−6at%Gd合金膜、Pd−3at%Ag−16at%Gd合金膜、Pd−7at%Ag−12at%Gd合金膜、Pd−12at%Gd合金膜およびPd−24at%Ag合金膜を作製した(試料番号5〜9)。
【0027】
(水素透過性能評価)
上記により得られた各合金膜について水素透過性能評価を行った。合金膜を試験セルにセットして500℃に加熱し、その片側に水素ガスを流通させる時に、反対側に透過した水素のガス流量を測定し、表裏の水素分圧、試料評価面積および試料厚さを考慮して、水素透過係数(mol/m・s・Pa0.5)を算出した。その結果を表1に示す。
【0028】
(結晶構造の熱安定性評価)
また、上記により得られた各合金膜について、結晶構造の熱安定性評価を行った。合金膜を800℃で10時間の熱処理を施した後、X線回折パターンを解析し、結晶構造の変化を調査するとともに、熱処理後の水素透過係数を上記の評価法にて算出した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、実施例である試料番号1〜3のPd−Ag−Gd合金膜は、熱処理前の水素透過係数がいずれも6.0×10-8mol/m・s・Pa0.5以上と非常に高かった。そして、800℃で10時間の熱処理を施しても、結晶構造に変化がなく、第二相は観察されなかった。また、熱処理後の水素透過係数も5.6×10-8mol/m・s・Pa0.5以上と高く維持されていた。
【0031】
一方、比較例であるPd−12at%Gd合金膜(試料番号5)は、熱処理前の水素透過係数が6.8×10-8mol/m・s・Pa0.5以上と非常に高かったものの、800℃で10時間の熱処理を施すと、結晶構造に変化があり、第二相の析出が観察された。熱処理後の水素透過係数も5.0×10-8mol/m・s・Pa0.5と著しく低下していた。
【0032】
また、比較例であるPd−3at%Ag−6at%Gd合金膜(試料番号6)とPd−7at%Ag−12at%Gd合金膜(試料番号7)は、熱処理前の水素透過係数が5.3×10-8mol/m・s・Pa0.5、5.4×10-8mol/m・s・Pa0.5と当初から低かった。800℃で10時間の熱処理を施しても、結晶構造に変化がなく、第二相は観察されなかったものの、熱処理後の水素透過係数は5.0×10-8mol/m・s・Pa0.5と低いものであった。
【0033】
さらに、比較例であるPd−3at%Ag−16at%Gd合金膜(試料番号8)は、熱処理前の水素透過係数が5.2×10-8mol/m・s・Pa0.5と当初から低かった上、800℃で10時間の熱処理を施すと、結晶構造に変化があり、第二相の析出が観察された。熱処理後の水素透過係数は4.8×10-8mol/m・s・Pa0.5と更に低下した。
【0034】
また、比較例であるPd−24at%Ag合金膜(試料番号9)は、熱処理前の水素透過係数が2.6×10-8mol/m・s・Pa0.5と著しく低かった。800℃で10時間の熱処理を施しても、結晶構造に変化がなく、第二相は観察されなかったものの、熱処理後の水素透過係数は2.4×10-8mol/m・s・Pa0.5と著しく低いものであった。
【0035】
このように、比較例である試料番号5〜9のPd合金は、熱処理後の水素透過係数が最高でも5.0×10-8mol/m・s・Pa0.5であったのに対し、実施例の試料番号1〜3のPd合金は、熱安定性に優れ、熱処理後の水素透過係数は最低でも5.6×10-8mol/m・s・Pa0.5あった。よって、実施例のPd合金は、比較例のPd合金に比べ、水素透過係数を12%以上も飛躍的に向上させることができた。
【実施例2】
【0036】
(Pd−Ag−Y合金膜の作製および評価)
実施例1と同様の手順にて、Pd−3at%Ag−14at%Y合金膜を作製し(試料番号4)、水素透過性能評価および結晶構造の熱安定性評価を行った。また、比較例として同様にPd−3at%Ag−6at%Y合金膜(試料番号10)およびPd−3at%Ag−16at%Y合金膜(試料番号11)を作製し、各評価を行った。これらの結果を表1に併記した。
【0037】
表1に示すように、添加元素としてGdに代えてYを用いても、Gdと同様の結果を示した。具体的には、実施例であるPd−3at%Ag−14at%Y合金膜(試料番号4)は、水素透過係数が熱処理前で5.7×10-8mol/m・s・Pa0.5、800℃10時間の熱処理後で5.4×10-8mol/m・s・Pa0.5あり、熱処理による結晶構造の変化はみられず、熱処理後も高い水素透過係数を維持した。
【0038】
一方、比較例であるPd−3at%Ag−6at%Y合金膜(試料番号10)は、熱処理前の水素透過係数が5.1×10-8mol/m・s・Pa0.5と当初から低く、熱処理による結晶構造の変化はなかったものの、熱処理後の水素透過係数は4.8×10-8mol/m・s・Pa0.5と低いものであった。また、比較例であるPd−3at%Ag−16at%Y合金膜(試料番号11)は、熱処理前の水素透過係数が5.4×10-8mol/m・s・Pa0.5と当初から低かった上、熱処理を施すと結晶構造に変化があり、熱処理後の水素透過係数は5.1×10-8mol/m・s・Pa0.5に低下した。
【実施例3】
【0039】
(表層材を被覆した水素分離膜の作製)
芯材として、Pd−4at%Ag−12at%Y合金およびPd−4at%Ag−12at%Gd合金の各インゴットをアーク溶解で作製し、冷間で厚さを1.8mmまで圧延して合金膜を作製した。また、表層材として、Pd−24at%Ag合金を同様に溶解し、冷間で厚さを0.2mmまで圧延して合金膜を作製した。芯材の合金膜の一方の表面に、表層材の合金膜を重ねて、これを500℃、1時間の加熱処理で接合した。そして、全厚20μmになるように冷間で圧延を行い、2層構造の水素分離膜を得た(試料番号21、22)。
【0040】
芯材の厚さを1.6mmにした点と、表層材の厚さを0.2mmにした点と、芯材の両方の表面に表層材を重ねた点を除き、上記と同様の手順で3層構造の水素分離膜を得た(試料番号23、24)。また、この積層膜の効果を比較するために、Pd−4at%Ag−12at%Y合金、Pd−4at%Ag−12at%Gd合金およびPd−24at%Ag合金を溶解し、冷間で厚さを20μmまで圧延して、1層構造の水素分離膜を得た(試料番号25〜27)。
【0041】
(水素透過性能評価)
上記の各水素分離膜について、実施例1と同様の手順により水素透過性能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0042】
(耐酸化性評価)
また、上記の各水素分離膜について耐酸化性評価を行った。0.1%の酸素を含有する窒素ガス雰囲気中で、水素分離膜を500℃、100時間にわたり加熱処理した後、180°曲げ試験を行って、脆化の有無を判定した。その結果を表2に示す。なお、表中、脆化がなかった場合は耐酸化性が良好として○印を記し、脆化が認められた場合は耐酸化性が劣るとして△印を記した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すように、1層構造であるPd−4at%Ag−12at%Y合金膜またはPd−4at%Ag−12at%Gd合金膜からなる水素分離膜(試料番号25、26)は、水素透過係数が6.0×10-8mol/m・s・Pa0.5以上あり、優れた水素透過性能を示したが、脆化が生じた。また、1層構造であるPd−24at%Ag合金膜からなる水素分離膜(試料番号27)は、脆化がなく耐酸化性に優れていたが、水素透過係数は2.6×10-8mol/m・s・Pa0.5と非常に低かった。
【0045】
一方、複数層構造である試料番号21〜24の各水素分離膜は、耐酸化性に優れたPd−24at%Ag合金膜を表層材として被覆したので、脆化の発生を防ぐことができた。また、水素分離膜の水素透過係数は、2層構造で5.2×10-8〜5.4×10-8mol/m・s・Pa0.5、3層構造で4.9×10-8〜5.1×10-8mol/m・s・Pa0.5と、表層材のみからなる1層構造の水素分離膜(試料番号27)と比べて約2倍も高かった。なお、芯材のみからなる1層構造の水素分離膜(試料番号25、26)と比べると10〜20%程度低いが、長時間使用しても表層材のために酸化層の形成が防止され、水素透過係数の低下は抑えられる。よって、長時間使用する場合は、芯材のみの試料番号25、26よりも表層材を被覆した試料番号21〜24の方が水素透過性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るPd−Ag−YまたはPd−Ag−Gd合金の組成範囲を示すグラフである。
【図2】本発明に係る水素分離膜の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る水素分離膜の別の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る水素分離膜モジュールの一例を模式的に示す組立図である。
【符号の説明】
【0047】
20 水素分離膜
22 芯材
24 表層材
30 金属多孔板
40 支持板
42 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
YまたはGdの含有量をxat%、Agの含有量をyat%として、x≦15、0.1≦y≦5、かつ3x+y>36の条件を満たす範囲でYまたはGdとAgとを含有し、残部がPdおよび不可避不純物からなる合金を含む水素分離膜。
【請求項2】
12〜14at%のYまたはGdと、0.3〜4at%のAgとを含有し、残部がPdおよび不可避不純物からなる合金を含む水素分離膜。
【請求項3】
前記Pd−Ag−YまたはPd−Ag−Gd合金を芯材として、この少なくとも一方の表面に、表層材としてPdまたはPd−Ag合金が被覆されている請求項1または2に記載の水素分離膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離膜の一方の表面に、金属多孔板が貼り付けられており、この金属多孔板の反対側の表面に、支持板が貼り付けられている水素分離膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−346608(P2006−346608A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177262(P2005−177262)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】