説明

水素化・脱水素化反応速度の促進方法

【課題】 水素貯蔵媒体として注目されつつあるLiBH4やZn(BH4)2などのB-H結合を有するボロハイドライド系、LiNH2やMg(NH2)2などのN-H結合を有するアミド・イミド系、LiALH4やNaAlH4などのAl-H結合を有するアラネート系、など無機錯体系水素化物、およびTiH2MgH2などの金属水素化物、さらにそれら無機錯体系水素化物と金属水素化物との混合相について、共有結合とイオン結合の熱振動を外部から制御して、水素化と脱水素化の反応速度を促進すること。
【解決手段】 水素化・脱水素化反応速度の促進方法において、所定形状の無機錯体系水素化物を、水素ガス雰囲気中あるいは不活性雰囲気中で、所定の時間以上電磁波を照射する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
近年、高密度水素の安全かつコンパクトな貯蔵媒体として錯体水素化物が注目を集めている。例えば図1に示すLiBH4では、次式の反応により13.8質量%もの水素を可逆的に貯蔵(水素化・脱水素化)することができる。
【0002】
ボロハイドライド系(約14質量%の水素を貯蔵)
LiBH4 ⇔ LiH + B + 3/2H2 (1)
アミド・イミド系(約10質量%の水素を貯蔵)
LiNH2 + 2 LiH ⇔ Li2NH + LiH + H2 ⇔ Li3N + 2 H2
アラネート系(約6質量%の水素を貯蔵)
NaAlH4 ⇔ 1/3 Na3AlH6 + 2/3 Al + H2 ⇔ NaH + Al + 3/2 H2
【0003】
しかし、一般にこれらの錯体水素化物の脱水素化温度は高く(LiBH4では〜800K)、また反応速度も遅いことから、熱力学的安定性・反応速度の両面からの課題解決が必要である。我々はこれまでに、i) 適正な電気陰性度を有する陽イオンの選定、およびii) 複合化物の合成、などにより、熱力学的安定性を制御できることを報告してきた。一方、反応速度を促進させるための従来研究として、触媒添加の研究などがあるがそのメカニズムには未解明の点が多い。錯体水素化物の水素化・脱水素化反応は、(1)式のような不均化反応に起因するために、反応速度の促進のためには、水素のみならずリチウムやホウ素等の原子拡散も重要となる。
【0004】
本研究では、マイクロ波照射に伴う原子拡散の促進により、錯体水素化物の水素化・脱水素化反応の促進を狙う。そして、これまでに発想のなかったマイクロ波という外場を用いたより少ないエネルギー投入量での効率的水素貯蔵システムの構築の可能性を追求する。
【0005】
錯体水素化物およびその複合化物をφ8×1 mmに成型(必ず成型しなくても、パウダーのままでも有効です)し、0〜1.0 MPaの水素雰囲気中で0〜60minのマイクロ波照射した。得られた試料の構造および脱水素化特性の評価は、粉末X線回折測定、顕微レーザーラマン分光測定、熱重量示差熱分析、質量数分析によって行った。
【0006】
図2にマイクロ波照射したLiBH4 + 2LiNH2混合物の粉末X線回折 プロファイルを示す。10minから30minへと照射の時間を長くすると、混合物からLi3BN2H8へと構造変化した。このLi3BN2H8は、混合物を473〜573 Kに昇温した際に出現する相と一致する。
【0007】
本発明は,錯体水素化物などの水素化および脱水素化の反応速度をマイクロ波照射によって促進させるものである。多様な水素化物、中でも錯体水素化物は,燃料電池のための高密度水素の安全かつコンパクトな貯蔵媒体として注目を集めている。例を挙げると,錯体水素化物LiBH4においては,「LiBH4 ⇔ LiH + B + 3/2H2」の反応により10質量%以上もの水素を可逆的に貯蔵(水素化および脱水素化)することができる。しかしながら,一般にこれらの錯体水素化物の脱水素化温度は高く(LiBH4においては約800 K),反応速度も遅い。そのため,実用化のためには熱力学的安定性および反応速度の両面からの課題解決が必要である。錯体水素化物の水素化および脱水素化の反応は「LiBH4 ⇔ LiH + B + 3/2H2」のような不均化反応に起因する。したがって,反応速度の促進のためには,水素のみならずリチウムやホウ素等の原子拡散も重要となる。錯体水素化物の反応速度を促進させるための従来の手段としては,触媒添加により行う方法があるが,そのメカニズムには未解明の点が多い。それに対して,本発明では原子拡散の促進の手段に家庭用電子レンジからのマイクロ波を用い,錯体水素化物の水素化・脱水素化反応の促進を行っている。
【0008】
錯体水素化物などの水素化物にマイクロ波を照射することにより,水素化および脱水素化の反応速度を2〜10倍程度向上させる効果を得た。効果の検証は,以下のようにして行った。まず始めに,錯体水素化物およびその複合化物をφ8×1 mmに成型する。次に,試料を0〜1.0 MPaの水素あるいはアルゴン雰囲気中で0〜60分間マイクロ波を照射する。そして得られた試料について,粉末X線回折測定,顕微レーザーラマン分光測定,熱重量示差熱分析,質量数分析などにより構造および脱水素化特性の評価を行う。マイクロ波照射により錯体水素化物の水素化および脱水素化の反応速度を促進させる方法では,マイクロ波という外場によりエネルギーを投入するため,より少ないエネルギー投入量で反応速度を促進させることができる。したがって,反応速度の促進のみならず,効率的な水素貯蔵システムを構築することができる。
【0009】
従来技術では、一般的な錯体水素化物における反応速度は,数時間〜数日の時間スケールである。また、競合技術触となる媒添加による方法では,反応速度は,数10分〜数時間の時間スケールである。いっぽう、本発明では、10数分以下の時間スケールでの反応も可能となる。
【0010】
錯体水素化物は,燃料電池のための高密度水素の安全かつコンパクトな貯蔵媒体として注目を集めている。例を挙げると,錯体水素化物LiBH4においては,「LiBH4 ⇔ LiH + B + 3/2H2」の反応により10質量%以上もの水素を可逆的に貯蔵(水素化および脱水素化)することができる。しかしながら,一般にこれらの錯体水素化物の脱水素化温度は高く(LiBH4においては約800 K),反応速度も遅い。そのため,実用化のためには熱力学的安定性および反応速度の両面からの課題解決が必要である。本発明では,マイクロ波を照射することにより錯体水素化物の水素化および脱水素化反応の速度を促進させている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】錯体水素化物LiBH4の結晶構造。高密度の水素は[BH4]陰イオンの状態で 安定化している。
【図2】LiBH4 + 2LiNH2混合物の粉末X線回折プロファイル。(a) 0 min、(b) 10 min、(c) 20 min、(d) 30 minマイクロ波加熱後。
【図3】上:マイクロ波照射時間に対する各水素化物の温度上昇。いずれもマイクロ波照射を吸収して数分以内に温度上昇。特に無機錯体水素化物(この図ではLiBH4)は25分程度から、無機錯体水素化物と金属水素化物との混合相では10分以内に急速に発熱。下:マイクロ波照射時間に対する各水素化物の水素放出反応。いずれもマイクロ波照射を吸収して数分以内に水素放出を開始。特に無機錯体水素化物(この図ではLiBH4)は25分程度から、無機錯体水素化物と金属水素化物との混合相では10分以内に急速に水素放出。これらの反応は、マイクロ波照射によって10〜100倍程度の反応促進効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状の無機錯体系水素化物を、所定のガス雰囲気中で、所定の時間以上電磁波を照射する工程を有することを特徴とする水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項2】
所定の形状の無機錯体系水素化物と金属水素化物の混合相を、所定のガス雰囲気中で、所定の時間以上電磁波を照射する工程を有することを特徴とする水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項3】
前記無機錯体系水素化物がLiBH4であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項4】
前記無機錯体系水素化物がLiBH4やZn(BH4)2などのB−H結合を有するボロハイドライド系であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項5】
前記無機錯体系水素化物がLiNH2やMg(NH2)2などのN−H結合を有するアミド・イミド系であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項6】
前記無機錯体系水素化物がLiALH4やNaAlH4などのAl−H結合を有するアラネート系であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項7】
所定の形状のTiH2やAlH3などの金属水素化物を、所定のガス雰囲気中で、所定の時間以上電磁波を照射する工程を有することを特徴とする水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項8】
前記電磁波が周波数2.45GHzのマイクロ波であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項9】
前記ガスが、水素ガスであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項10】
前記ガスが、アルゴンガスであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。
【請求項11】
前記ガスが、ヘリウムガスであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の水素化・脱水素化反応速度の促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−76979(P2007−76979A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269790(P2005−269790)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】