説明

水素吸蔵合金を利用した動力発生装置

【課題】 水素吸蔵合金を使用して、商用電力をまったく使用せず、単独システムで効率よく動力発生を可能にする。
【解決手段】 大気より20〜30℃高い50℃〜60℃の温度上昇で水素を解離し、自然冷却で水素を吸蔵する特性を組成の水素吸蔵合金と、これを封入する容器と、この容器に形成された熱吸収面及び放熱面と、太陽光を集光する集光装置と、この集光装置を介して容器の熱吸収面に照射される太陽光を調整する照射量調節装置とを設け、照射量調節装置を開放することにより、容器を加熱して水素吸蔵合金から水素を解離させ、また、照射量調節装置を閉鎖することにより容器を冷却して水素吸蔵合金に水素を吸蔵させるサイクルを繰り返し、解離される水素及び吸蔵される水素による圧力変動を利用して、ピストンあるいは金属ベローズを往復動させて動力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源がない屋外などの環境でも、自然エネルギーである太陽エネルギーを利用して動力を提供できる、水素吸蔵合金を利用した動力発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気圧を利用したアクチュエータは広く用いられているが、高圧空気を供給する空気圧源が必須なため、電源がない環境では使用できない。
この空気圧源を代替するための装置として、下記特許文献1ないし3の水素吸蔵合金アクチュエータがある。これは熱エネルギーを介した水素吸蔵合金の水素放出・吸収反応を利用し、密閉空間の水素圧を調節して、直動運動に変換する機構である。
【0003】
しかしながら、下記特許文献1〜3で提案されているアクチュエータは、熱エネルギーを供給する熱源として電熱ヒータやペルチェ素子を利用しており、いずれも電気エネルギーの消費が作動の要件となっている。
【0004】
一方、水素吸蔵合金アクチュエータは熱の供給があれば駆動が可能なため、特許文献4のように給湯器などの余熱や、特許文献5のように浴槽内の温水を用いて水素吸蔵合金から水素を放出させて、その圧力で装置の昇降動作を得る方法も発明されているが、いずれも、冷水や送風を用いて合金を冷却しており、送排水や送風ファンを駆動するために商用電力等を供給し得る環境下でなければ動力を発生し得ないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−192906公報
【特許文献2】特開昭61−253340公報
【特許文献3】特開昭61−270505公報
【特許文献4】特開平8−26700公報
【特許文献5】特開2002−143262公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、水素吸蔵合金を使用して、商用電力をまったく使用せず、単独システムで効率よく、しかも、低騒音、低振動で動力発生を可能にする動力発生装置の提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決すべく、合金を収納する容器への太陽光照射による合金の温度上昇のみで水素を放出させ、この容器への太陽光の遮断とその後の自然冷却のみで合金に水素を再吸収させるに適した平衡水素解離圧特性をもつ水素吸蔵合金組成に着目した。
こうした特性を有する組成の水素吸蔵合金を用いて、合金を収納する容器と、前記容器へ太陽光の照射、遮断をもたらす機構と、合金から放出される水素ガスにより駆動するアクチュエータとからなる、水素吸蔵合金を利用した動力発生装置の開発に成功した。
【0008】
より具体的には、本発明の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置は、次のような技術的手段を備えている。すなわち、
(1)大気より20〜30℃高い50℃〜60℃の温度で水素を解離し、自然冷却で水素を吸蔵する特性を有する組成の水素吸蔵合金と、該水素吸蔵合金を封入する容器と、該容器に形成された熱吸収面及び放熱面と、太陽光を集光する集光装置と、該集光装置を介して前記熱吸収面に照射される太陽光を調整する照射量調節装置と、前記容器内部に導管を介して接続された圧力室及び該圧力室の圧力変動に応じて往復動するピストンとからなるアクチュエータとからなり、前記ピストンが下死点に達しているときに前記照射量調節装置を開放して、前記容器の熱吸収面に太陽光を集光することにより、前記水素吸蔵合金から解離した水素を前記圧力室に導入するとともに、該ピストンが前記水素の導入により上死点に達したときに、前記照射量調節装置を閉鎖して、前記容器の放熱面から放熱させることにより、前記圧力室内の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させ、該ピストンを下降させる制御手段を備えるようにした。
【0009】
(2)上記(1)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置において、前記アクチュエータが前記ピストンに換え、金属型ベローズを備えるようにした。
【0010】
(3)上記(1)、(2)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置において、前記アクチュエータにより駆動される空気圧縮ポンプと、該空気圧縮ポンプにより圧縮された高圧空気を蓄積するタンクとをさらに備えるようにした。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置において、前記照射量調節装置はブラインド式シャッターからなり、前記制御手段が、前記ピストンあるいは金属型ベローズが上死点、下死点に達したのに連動して前記ブラインド式シャッターのスラットを開放、閉鎖するリンク機構により構成されるようにした。
【0012】
(5)上記(1)〜(3)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置において、前記照射量調節装置は、通電時に透明になる機能性液晶フィルムからなり、前記制御手段が、前記ピストンあるいは金属型ベローズが上死点、下死点に達したのに連動して太陽電池から供給される電力により、機能性液晶フィルムへ通電、遮断を切り換える制御回路により構成されるようにした。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を2つ組み合わせ、一方の太陽光照射に伴う水素解離行程と他方の太陽光遮断に伴う水素吸蔵行程を同期させるようにした。
【0014】
(7)上記(6)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置において、前記アクチュエータを共有させるとともに、該アクチュエータのピストンあるいは金属型ベローズの上下に2つ圧力室を設け、一方の圧力室と他方の圧力室を、水素吸蔵合金を封入した容器のそれぞれに接続した。
【0015】
(8)上記(1)ないし(5)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を複数組み合わせ、前記各アクチュエータのピストンあるいは金属型ベローズを、それぞれの下死点から上死点に移動する行程のみトルクを伝達する一方向クラッチを介してクランクシャフトに連結し、該クランクシャフトから動力を取り出すようにした。
【0016】
(9)上記(6)または(7)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を複数組み合わせ、前記各アクチュエータのピストンをクランクシャフトに連結し、該クランクシャフトから動力を取り出すようにした。
【発明の効果】
【0017】
上記(1)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、常温での平衡解離圧が大気圧を下回る組成の水素吸蔵合金を用いたことから、照射量調節装置を介して集光装置で集光された太陽光を容器の熱吸収面に照射することにより、容器が加熱され、それに伴い水素吸蔵合金から解離した水素をアクチュエータの圧力室に導入することにより、ピストンが上死点に向かって駆動され、出力トルクが発生する。
そして、ピストンが上死点に達したときは、照射量調節装置により太陽光が遮断され、放熱面を介して容器内部の温度が低下するのに伴い、水素吸蔵合金が水素の吸蔵を開始することから圧力室の圧力が低下し、ピストンは下死点に戻ることになる。このサイクルを利用することにより、商用電力をまったく使用しなくても、単独で効率よく動力を発生することが可能になる。
【0018】
上記(2)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、アクチュエータに、ピストンに換えて金属型ベローズを使用したから、高精度のピストン及びシリンダを使用しなくても、水素密閉性を高めることができる。
【0019】
上記(3)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、アクチュエータで発生する動力により空気圧縮ポンプを駆動し、タンク内の空気を圧縮し、高圧空気圧源として動力を供給するとともに、蓄積することが可能になる。
【0020】
上記(4)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、シンプルな機構で、ピストンが上死点、下死点に達したのに連動して、ブラインド式シャッターのスラットを開放、閉鎖することが可能になる。
【0021】
上記(5)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、小容量の太陽電池が必要になるが、機能性液晶フィルムにより、スラット駆動に伴う動力損失を低減することが可能になる。
【0022】
上記(6)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、動力発生装置を2つ組み合わせ、一方の太陽光照射に伴う水素解離行程と他方の太陽光遮断に伴う水素吸蔵行程を同期させることにより、アクチュエータの往復動サイクルを高速化することが可能になり、さらに一方の水素解離行程に伴う吸熱を、他方の水素吸蔵行程に必要な冷却に利用できるので、さらに効率を向上することが可能になる。
【0023】
上記(7)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、1つのアクチュエータのみで、アクチュエータの往復動サイクルの高速化と効率を向上することが可能になる。
【0024】
上記(8)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を複数組み合わせ、各アクチュエータのピストンが下死点から上死点に移動する行程のみトルクを伝達する一方向クラッチを介してクランクシャフトに連結したので、各動力発生装置におけるピストンや金属型ベローズの位相にかかわりなく、大出力を得ることができる。
【0025】
上記(9)の水素吸蔵合金を利用した動力発生装置によれば、複数組み合わせた動力発生装置の位相が、水素解離行程と水素吸蔵行程とに分離され、それぞれの水素解離行程と水素吸蔵行程とが同期していることから、簡単な構造でクランクシャフトから大出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】LaNi5系水素吸蔵合金に2から3種類の元素を添加することで、平衡水素解離圧が大気圧よりも低くなる2種類の例を示すPCT線図
【図2】平衡水素解離圧が大気圧よりも低い水素吸蔵合金2種類の自然冷却による有効水素移動量の25%に相当する水素量の吸収速度を示す図
【図3】平衡水素解離圧が大気圧よりも低い水素吸蔵合金2種類の温水による有効水素移動量の50%に相当する水素量の放出速度を示す図
【図4】太陽光で駆動する水素吸蔵合金アクチュエータの一実施例の概略図
【図5】太陽光で駆動する水素吸蔵合金アクチュエータを利用した空気圧縮機の一実施例の概略図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0028】
太陽光の放射による加熱で放出させた水素を自然冷却で水素吸蔵合金に再吸収させるには、常温での平衡解離圧が大気圧を下回る組成が必須である。
図1において、三角形のプロットで表示されるLaNi4.1Mn0.2Al0.2Co0.5のように、平衡解離圧がより低いほど、低水素圧下における自然冷却での水素吸収が促進されることが図2から明らかである。
【0029】
一方、図3に示されるよう四角形のプロットで明らかなように、容器への太陽光照射で得られる程度の温度上昇範囲(50℃〜60℃)では、平衡解離圧が低い合金ほど水素放出が困難となる。したがって、平衡解離圧が大気圧よりもやや低い程度の合金が本発明には適していることになる。
【0030】
太陽光の照射と遮断操作で水素の解離と吸蔵を行わせるに適した特性をもつ水素吸蔵合金の組成を検討した結果、本発明が提供する機能を実現するために適した水素吸蔵合金は、図1から3で例示したLaNi4.3Mn0.2Co0.5のように、大気温度より20〜30℃高い、50℃〜60℃の温度上昇で水素を放出し、自然冷却による水素吸収が可能である特性をもつ組成が最適であることが判明した。
【0031】
この条件を満たす水素吸蔵合金1は、図4に示されるように、特に水素に対し遮蔽性、機密性に優れ、かつ熱伝達性の高い素材で形成された容器2の内部に設置される。この容器2には、図4に示されるように、上面には熱吸収面、下面には放熱フィン5を備えた放熱面が形成されている。なお、熱吸収面は、温度吸収性のよい黒色で塗装することが好ましい。
【0032】
容器2の熱吸収面の上方には、順に、フレネルレンズなどからなる集光装置6と、複数のスラットを備え、このスラットを開閉することにより、太陽光を透過あるいは遮断する照射量調節装置として、ブラインド式シャッター7が設けられている。
【0033】
日照時、ブラインド式シャッター7のスラットを全開すると、太陽光は集光装置6で集光された後、容器2の熱吸収面に照射され、容器2の内部温度が上昇するので、水素吸蔵合金1に吸蔵された水素が解離し、連結管4を介して、アクチュエータAの圧力室10に導入される。圧力室10の内部圧力が水素の解離・放出に伴い上昇すると、ピストン14がスプリング9を伸張させながら上昇するので、ロッド15から動力を取り出すことができる。図中、3はシール用Oリング、11はシリンダ底壁、12はパッキン、13はシリンダ側壁で、ピストン14には、シリンダ側壁13と接して水素を遮断するピストンリングが設けられている。
なお、この実施例では、連結管4に補助タンク16bを接続して、万一、過大な水素圧力が発生したとき、水素を一時的に蓄えるようにして安全性を高めている。
また、スプリング9を内包するよう、シリンダ底壁11とピストン14の間を水素密閉性の高い素材で形成されたベローズで接続すれば、さらに水素密閉性を高めることができる。
【0034】
そして、ピストン14が上死点に至ると、ロッド15に連動するリンク機構16aにより、ブラインド式シャッター7のスラットを全閉にする。なお、リンク機構16aは、ロッド15上部に軸方向に設けたスリットに連結するもの、あるいは、ロッド15上部に設けたプッシュロッドに連結するもの等、種々の機構を採用することができる。
【0035】
ピストン14が上死点に到り、ブラインド式シャッター7のスラットが全閉になると、容器2の熱吸収面に照射されていた太陽光が遮断されることになり、容器2下面に設けた放熱フィン5からの大気への放熱により、水素吸蔵合金1の温度が低下し、水素の吸蔵を開始する。
したがって、アクチュエータAの圧力室10内の水素は、連結管4を介して、容器2の内部に吸引されることになり、圧力室10内部の圧力が低下することにより、伸張したスプリング3の作用によりピストン14が下降することになる。
なお、上述の太陽光照射時における容器2の温度上昇を一層効率よく行うため、ピストン14が上昇する行程で、ブラインド式シャッター7のスラットの開放や、ピストン14の上昇に連動して、可倒式の放熱フィン5により、放熱面を閉鎖したり、上昇する断熱材で放熱面を覆い、大気との熱交換を防止すると、さらに効率を向上することができる。
【0036】
こうしてピストン14が下死点に到ると、ロッド15に連動するリンク機構16aにより、今度はブラインド式シャッター7のスラットを全開にして、再び、集光装置6で集光された太陽光を容器2の熱吸収面に照射し、水素吸蔵合金に吸蔵された水素の解離を再開する。
こうして、水素解離行程、水素吸蔵行程が交互に行われ、ピストン14の往復動サイクルが繰り返されることになり、動力を発生させることが可能になる。
【0037】
このロッド15から直接動力を取り出すことも可能であるが、例えば、直線状のラックギアを設け、これにピニオンギアを組み合わせ、さらに増速ギアを介して、図示しない空気圧縮ポンプを駆動し、逆止弁を介して、高圧空気タンクに高圧空気を蓄積するようにすれば、発生した動力を高圧空気として蓄積することが可能になる。
【0038】
図5は、アクチュエータとして、ピストン14により直接空気を圧縮する実施例であり、水素吸蔵合金1から水素が解離する水素解離行程では、発生した水素によりピストン14が、空気圧縮空間17を圧縮し、逆止弁20aを介して高圧空気タンク23に圧縮空気を供給する。
一方、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する水素吸蔵行程では、空気フィルタ22、逆止弁20bを介して、空気圧縮空間17に大気を導入するようにしている。なお、この実施例では、アクチュエータとして、レシプロ式のピストン14を使用しており、前述のスプリング及び金属ベローズを用いて、圧力室10の水素密閉性を高めることができる。そして、高圧空気タンクに所定圧力の圧縮空気が蓄積されれば、動力供給が必要になったとき、排出バルブ24を介して、空気アクチュエータに供給することができる。
【0039】
なお、発明者らの実験によると、直径150mmの容器に100gの水素吸蔵合金を収納した場合、容器の表面に太陽光への暴露とその後の遮断からなる1サイクルの稼働で1MPaに圧縮した空気を1000ml蓄えることができるなど、極めて小さな装置構成で高い到達圧力の空気圧縮機が実現でき、しかもほぼ無騒音・無振動で稼働した。
これに対し、太陽電池と空気コンプレッサーの組み合わせでは、このように1MPa程度の到達圧力を得るためには、最低でも数平方メートル以上の広い面積の太陽電池モジュール、高出力モータなどが必要となる。
【0040】
なお、上記の実施例では、照射量調節装置として、ブラインド式シャッター7を使用したが、通電により電圧を印加すると、透明になる機能性液晶フィルムを使用してもよい。この場合、動力発生システムに小容量の太陽電池及び蓄電池を設け、ピストン14の上死点及び下死点にリミットスイッチなどを設けて、ピストン14が下死点に達したときに、蓄電池からの電力を機能性液晶フィルムに通電して、機能性液晶フィルムを透明にして、集光装置6からの太陽光を容器2の上面に設けた熱吸収面に照射し、上死点に達したときに、通電を遮断し、機能性液晶フィルムにより太陽光を遮断するようにすればよい。
【0041】
また、上記の実施例では、ブラインド式シャッター7のスラットをリンク機構により開閉したが、同様のリミットスイッチにより、ソレノイドアクチュエータを使用して、スラットを開閉するようにしてもよい。
【0042】
さらに、実施例で説明したアクチュエータを複数組み合わせることにより、アクチュエータの往復動サイクルを高速化したり、大出力化を実現することが可能になる。
すなわち、図4の実施例において、水素吸蔵合金1、容器2、集光装置6、照射量調節装置7及びアクチュエータAの組み合わせからなるユニットを2組設け、一方の容器をピストン14下方の水素圧力室に、他方の容器をピストン14上方の水素圧力室にそれぞれ接続し、一方の照射量調節装置を開放して、水素解離行程を行わせる場合には、他方の照射量調節装置を遮蔽して水素吸蔵行程を行わせるといったように、各組の水素解離行程と水素吸蔵行程を同期させれば、動力発生の周期を短縮することが可能になる。
【0043】
その際、アクチュエータAを共有し、そのピストン14の上下に2つの圧力室10を設け、一方の圧力室と他方の圧力室を、それぞれ一方のユニットの容器と他方のユニットの容器に連結管4を介して連結すれば、一方のユニットの水素吸蔵行程時に、容器内の水素圧力を高めることができ、さらに水素吸蔵行程における水素吸蔵合金の発熱作用、水素解離行程における水素吸蔵合金の吸熱作用を、ヒートパイプなどを利用して相互に利用するようにすれは、一層効率を高めることができる。
なお、さらに大出力が必要な場合は、ユニットは2組に限らず、4組以上の偶数組として、半数をグループ化して、一方のグループの水素解離行程と他方のグループの水素吸蔵行程を同期させるようにしてもよい。
【0044】
なお、アクチュエータAを複数組み合わせる際、水素解離行程において、各ピストンが下死点から上死点に移動するときのみトルクを伝達する一方向クラッチを介してクランクシャフトに連結し、水素吸蔵行程において、各ピストンが上死点から下上死点へは自由に移動できるようにすれば、各アクチュエータの位相の順次ずらすことにより、短い周期で大出力を得ることができる。
また、河川等、自然水を利用可能な場合は、放熱フィン5のみが自然水に浸漬されるよう、本発明の動力発生装置を河川に浮上させたフロートに設置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明による動力発生装置は、大気より20〜30℃高い50℃〜60℃の温度上昇で水素を解離し、自然冷却で水素を吸蔵する特性を有する組成の水素吸蔵合金の特性を利用することにより、外部から商用電力や、内燃機関などの動力源を必要とせず、単独で動力を発生することができるので、あらゆる環境で利用可能である。
ただし、動力発生サイクルが、水素吸蔵合金の水素解離時間及び水素吸蔵時間に影響されるため、例えば、河川や排水路などの水門の開閉、高山や砂漠など極限環境に設置されている施設における1日に数回程度の動力作業用などの目的に特に適している。またアクチュエータの水素圧をそのまま動力に用いる場合、直射日光を遮るための可動式遮光傘の開閉などにも利用できる。
【0046】
なお、動力発生サイクルをより短縮したい場合やより大出力が必要な場合は、上述したように、複数ユニットを組み合わせることにより、さらに広範囲に利用可能な動力発生システムとして設計することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 水素吸蔵合金
2 容器
4 連結管
5 放熱フィン
6 集光装置
7 ブラインド式シャッター
9 スプリング
10 圧力室
16a スラット開閉用リンク機構
16b 中間タンク
17 空気圧縮空間
20a、b 逆止弁
23 高圧空気タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気より20〜30℃高い50℃〜60℃の温度で水素を解離し、自然冷却で水素を吸蔵する特性を有する組成の水素吸蔵合金と、
該水素吸蔵合金を封入する容器と、
該容器に形成された熱吸収面及び放熱面と、
太陽光を集光する集光装置と、
該集光装置を介して前記熱吸収面に照射される太陽光を調整する照射量調節装置と、
前記容器内部に導管を介して接続された圧力室及び該圧力室の圧力変動に応じて往復動するピストンとからなるアクチュエータとからなり、
前記ピストンが下死点に達しているときに前記照射量調節装置を開放して、前記容器の熱吸収面に太陽光を集光することにより、前記水素吸蔵合金から解離した水素を前記圧力室に導入するとともに、該ピストンが前記水素の導入により上死点に達したときに、前記照射量調節装置を閉鎖して、前記容器の放熱面から放熱させることにより、前記圧力室内の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させ、該ピストンを下降させる制御手段を備えた、水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項2】
大気より20〜30℃高い50℃〜60℃の温度で水素を解離し、自然冷却で水素を吸蔵する特性を有する組成の水素吸蔵合金と、
該水素吸蔵合金を封入する容器と、
該容器に形成された熱吸収面及び放熱面と、
太陽光を集光する集光装置と、
該集光装置を介して前記熱吸収面に照射される太陽光を調整する照射量調節装置と、
前記容器内部に導管を介して接続された圧力室及び該圧力室の圧力変動に応じて往復動する金属型ベローズとからなるアクチュエータとからなり、
前記金属型ベローズが下死点に達しているときに前記照射量調節装置を開放して、前記容器の熱吸収面に太陽光を集光することにより、前記水素吸蔵合金から解離した水素を前記圧力室に導入するとともに、該金属型ベローズが前記水素の導入により上死点に達したときに、前記照射量調節装置を閉鎖して、前記容器の放熱面から放熱させることにより、前記圧力室内の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させ、該金属型ベローズを下降させる制御手段を備えた、水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項3】
前記アクチュエータにより駆動される空気圧縮ポンプと、該空気圧縮ポンプにより圧縮された高圧空気を蓄積するタンクとをさらに備えた、請求項1または2に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項4】
前記照射量調節装置はブラインド式シャッターからなり、前記制御手段が、前記ピストンあるいは金属型ベローズが上死点、下死点に達したのに連動して前記ブラインド式シャッターのスラットを開放、閉鎖するリンク機構からなる請求項1ないし3に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項5】
前記照射量調節装置は、通電時に透明になる機能性液晶フィルムからなり、前記制御手段が、前記ピストンあるいは金属型ベローズが上死点、下死点に達したのに連動して太陽電池から供給される電力により、機能性液晶フィルムへ通電、遮断を切り換える制御回路からなる請求項1ないし3に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項6】
請求項1ないし5に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を2つ組み合わせ、一方の太陽光照射に伴う水素解離行程と他方の太陽光遮断に伴う水素吸蔵行程を同期させるようにした、水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項7】
前記アクチュエータを共有させるとともに、該アクチュエータのピストンあるいは金属型ベローズの上下に2つ圧力室を設け、一方の圧力室と他方の圧力室を、水素吸蔵合金を封入した容器のそれぞれに接続した、請求項6に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項8】
請求項1ないし5に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を複数組み合わせ、前記各アクチュエータのピストンあるいは金属型ベローズを、それぞれの下死点から上死点に移動する行程のみトルクを伝達する一方向クラッチを介してクランクシャフトに連結し、該クランクシャフトから動力を取り出すようにした水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。
【請求項9】
請求項6または7に記載された水素吸蔵合金を利用した動力発生装置を複数組み合わせ、前記各アクチュエータのピストンあるいは金属型ベローズをクランクシャフトに連結し、該クランクシャフトから動力を取り出すようにした水素吸蔵合金を利用した動力発生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236842(P2011−236842A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110047(P2010−110047)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】