説明

水素吸蔵材料およびその製造方法

【課題】常温での水素放出を十分に防止したMg含有AlH系水素吸蔵材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を有する水素吸蔵材料。AlHとMgHとを機械的に混練するメカニカルアロイングの際に、最高到達温度を50℃以下に制限する水素吸蔵材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料およびその製造方法に関し、特に、常温での水素放出を大幅に低減した水素吸蔵材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的な水素吸蔵材としては、AB(希土類系)、AB/AB(チタン系)、AB(ジルコニウム系、Laves相)等の水素吸蔵合金がある。特に、AB(希士類系)型合金は、急速に充放電可能で、且つ低コストの利点を有するため開発が進められている。
【0003】
しかし、これらの合金は、重い上、水素吸蔵量が少ない、という欠点があった。
【0004】
これに対して、近年注目されている水素吸蔵材料として、水素化アルミニウムAlHは、AB型合金に比べて半分以下の重量で1.5倍以上の水素吸蔵量を示すという優れた性質を持つ。しかし、AlHは常温で水素を放出するため、特別なタンク内に封入する必要があるという問題がある。
【0005】
一方、Mg等の第2の金属元素をAlHのAlの一部と置換することで、金属水素化物の水素の吸蔵と放出を容易にすることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1、2には、Mg(AlH)錯水素化物が開示されている。Mg(AlH)は、通常の合金製造方法、例えばAlとMgを溶解して合金化させる方法では製造できない。そのため、特許文献1、2では、AlHとMgHとを機械的な混練によって高エネルギーを付与することで合金化(メカニカルアロイング)する方法によって製造している。
【0007】
しかし、本発明者の行なった実験により、上記により得られたMg(AlH)錯水素化物は、放出温度が大幅に上昇してしまうことが判明した。
【0008】
【特許文献1】特開2002−526255号公報
【特許文献2】特開2001−519312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、常温での水素放出を十分に防止し、かつ水素放出温度が高くないMg含有AlH系水素吸蔵材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を有することを特徴とする水素吸蔵材料が提供される。
【0011】
更に、本発明によれば、上記の水素吸蔵材料を製造する方法において、AlHとMgHとを機械的に混練するメカニカルアロイングの際に、最高到達温度を50℃以下に制限することを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水素吸蔵材料は、(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を有することにより、従来のAlHでは回避できなかった常温での水素放出を有効に防止できるとともに、Mg(AlH)錯化合物に比べ水素放出温度を低くすることができる。
【0013】
本発明の水素吸蔵材料の製造方法は、メカニカルアロイングする際の最高到達温度を50℃に制限したことにより、(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を確保することができるので、得られた水素吸蔵材料は、従来の錯化合物では回避できなかった常温での水素放出を有効に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従来、AlHは常温付近でも少しづつ水素を放出してしまうため、長時間放置すると水素タンクの内圧が上昇し、水素をタンク内に保持できなくなるという課題があった。これは、AlHが実用温度・圧力域では準安定であり、分解して安定化する傾向があるためである。
【0015】
本発明の水素吸蔵材料は、AlHとほぼ同等の水素吸蔵能力を持ちながら、常温で長時間放置しても水素が抜けないという優れた特徴を有する。
【0016】
本発明の水素吸蔵材料によるこの特性を実現するためには、(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を有することが必要である。
【0017】
AlHと同じ結晶構造を安定に維持するためにはMg/(Al+Mg)が5at%以上、20at%以下であることが必要である。Mg/(Al+Mg)が5at%未満では効果が少なく、20at%を超えると、AlHと同じ結晶構造を安定に維持することができない。
【0018】
AlHと同じ結晶構造ではなく、Mg(AlH)錯水素化物であると、水素放出温度が高いという課題がある。
【0019】
本発明の水素吸蔵材料を製造する方法を説明する。
【0020】
〔1〕予め、AlHおよびMgHを合成する。
【0021】
<AlHの合成>
例えばエーテルなどの有機溶媒中で下記の反応により合成できる。
【0022】
3LiAlH+3AlCl=4AlH+3LiCl
<MgHの合成>
例えば300℃、10MPaの水素雰囲気中に金属Mgを保持することにより合成できる。
【0023】
〔2〕AlH粉末とMgH粉末とを、50℃以下の温度に維持した状態で粉砕・混練(メカニカルアロイング)する。
【0024】
その際、所期の反応を進行させるためには雰囲気を不活性ガスまたは水素ガスとする必要がある。AlHの分解を抑制する観点からは、水素ガスとすることが望ましい。
【0025】
温度を50℃以下に維持するのは、未反応のAlHがMgHと反応する前に分解してしまうのを防止するためである。メカニカルアロイングにおいては、処理中に機械的に付与されるエネルギーにより温度上昇が起きる。処理中の最高到達温度を50℃以下に抑制するには下記の手段を単独に、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
(1)試料および/または容器を冷却しながら粉砕・混練する。
【0027】
(2)粉砕・混練の前に予め試料および/または容器を冷却しておく。
【0028】
(3)粉砕・混練を間歇的に行ない、温度の急激な上昇を防止する。
【0029】
本発明の水素吸蔵材料の製造において、メカニカルアロイングを採用するのは、AlH中に格子欠陥を導入する必要があるからであり、温度を50℃以下に制限することにより、AlHの分解を防止しながら格子欠陥を導入することができる。
【実施例】
【0030】
本発明の規定範囲内の組成Al0.93Mg0.072.97{(Al100−xMg)HにおいてX=7at%}の水素吸蔵材料を、下記の条件および手順にて作製した。
【0031】
(1)AlHの合成
LiAlHとAlClを用い、ジエチルエーテル中にて下記の反応によりAlH粉末を合成した。
【0032】
3LiAlH+3AlCl=4AlH+3LiCl
(2)MgHの合成
金属Mgを300℃にて10MPaの水素と反応させることにより、MgH粉末を合成した。
【0033】
(3)メカニカルアロイング
(1) AlH粉末とMgH粉末とをArガス中で秤量し、遊星型ボールミル容器に充填した。
【0034】
(2) 遊星型ボールミル容器内に水素を充填し、下記2種類の条件で粉砕・混練を行なった。
【0035】
発明例:回転数200rpmにて、10分毎に10分休止を含む間歇運転により、20時間ボールミル処理を行った。最高到達温度は50℃であった。
【0036】
比較例:回転数200rpmにて20時間連続でボールミル処理を実施した。最高到達温度は105℃であった。
【0037】
従来例として、(Al100−xMg)HにおいてX=33at%とし、他の条件は上記と同じにして、同一の手順でMg(AlH)錯化合物のサンプルを作製した。
【0038】
得られた発明例、比較例、および従来例として水素化アルミニウムAlHおよびMg(AlH)錯化合物の4通りのサンプルについて、水素放出量の測定およびXRDによる結晶構造解析を行なった。各サンプルについて、図1に測定温度と水素放出量の関係を、図2にXRDチャートを示す。図1、2において、(1)発明例、(2)従来例AlH、(3)従来例Mg(AlH)、(4)比較例の結果である。
【0039】
水素放出特性については、発明例Al0.93Mg0.072.97は、水素放出量が合成直後(図1(1))において従来例AlH(図1(2))と同等であり、1ヵ月後においても殆ど変化が無く合成直後と同等の放出量であるが(図1(1))、AlHは1ヵ月後には殆ど水素を放出せず(図1(2))放出し尽くしてことが分かる。従来例Mg(AlH)錯化合物は、発明例に比べて合成直後の放出温度が大幅に(20〜30℃)高い(図1(3))。比較例は、以下に説明するように所期の反応が起きなかったため、水素放出特性は測定しなかった。
【0040】
結晶構造については、発明例Al0.93Mg0.072.97の結晶構造(図2(1))は、従来例AlHの結晶構造(図2(2))と同じである。表1に詳細な比較を示す。同表に示すように、発明例Al0.93Mg0.072.97の結晶格子の大きさは、a軸、c軸共にAlHよりも若干大きくなっている。
【0041】
【表1】

【0042】
従来例Mg(AlH)は、上記2者とは全く異なる結晶構造であり(図2(3)))明確に区別できる。
【0043】
比較例は、メカニカルアロイング時の最高到達温度が105℃で、本発明の規定範囲50℃以下を大幅に超えている。結晶構造は、図2(4)のXRDチャートに示すようにAlがメインピークであり、MgHも一部存在している。50℃以下が維持されなかったため、AlHがMgHと反応する前に分解してしまい、Al+MgHとなったことを示している。そのため、水素放出特性は測定しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、常温での水素放出を十分に防止したMg含有AlH系水素吸蔵材料およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、(1)本発明例Al0.93Mg0.072.97、(2)従来例AlH、(3)従来例Mg(AlH)の3通りのサンプルについて、温度と水素放出量との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、(1)本発明例Al0.93Mg0.072.97、(2)従来例AlH、(3)従来例Mg(AlH)、(4)比較例の4通りのサンプルについて、XRDチャートを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Al100−xMg)H、X=5〜20at%で表わされる組成を有し、AlHと同じ結晶構造を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵材料を製造する方法において、AlHとMgHとを機械的に混練するメカニカルアロイングの際に、最高到達温度を50℃以下に制限することを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−110740(P2010−110740A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288179(P2008−288179)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】